【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーン・サスティナブルケミカルプロセス基盤技術開発/廃棄物、副生成物を削減できる革新的プロセス及び化学品の開発/「革新的酸化プロセス基盤技術開発」」に係わる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
過酢酸7〜20重量%、過酸化水素3〜20重量%、酢酸10〜50重量%、硫酸水素塩0.1〜10重量%、及び残分として水20〜55重量%を含有する過酸組成物。
過酸化水素水の過酸化水素純分として10〜25重量部、酢酸水溶液の酢酸純分として15〜60重量部、及び硫酸水素塩0.1〜10重量部を、硫酸を用いずに混合することにより得られる請求項1記載の過酸組成物。
過酸化水素水の過酸化水素純分として10〜25重量部、酢酸水溶液の酢酸純分として15〜60重量部、及び硫酸水素塩0.1〜10重量部を、硫酸を用いずに混合する工程を含む請求項1記載の過酸組成物の製造方法。
過酸組成物中の過酸化水素及び過酢酸の総モル数とアセチルフェニル化合物のモル数との比が1:1〜5:1であり、過酸組成物中の硫酸水素塩のモル数とアセチルフェニル化合物のモル数との比が1:1〜0.01:1であることを特徴とする請求項6記載のアセトキシフェニル化合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に使用する過酸化水素水は、特に限定されるものではないが、20重量%以上の過酸化水素水が好ましく、取扱いや安全面を考えると実用的には20〜60重量%が使用できる。本発明に使用する過酸化水素水は、市販されている濃度、例えば30重量%、50重量%、60重量%のままで使用することもできるが、希釈、濃縮を行い、適宜濃度調整し使用することもできる。
【0024】
本発明に使用する酢酸は、氷酢酸又は90重量%以上の酢酸水溶液が使用できる。酢酸水溶液としては、水含有量の少ないものを利用した方が、酸化反応に有効な濃度の過酢酸を生成させることができる。
【0025】
本発明では、市販品の過酸化水素水と過酢酸の混合物を用いることができる。例えば、日本パーオキサイド株式会社製のオキシペール100(オキシペールは登録商標;10重量%過酢酸と15重量%過酸化水素を含む)、三菱ガス化学株式会社製ダイヤパワー(登録商標;6重量%過酢酸、8重量%過酸化水素を含む)を用いることができる。さらに、適量の酢酸や過酸化水素水を適宜添加したものを利用することもできる。
【0026】
また、本発明の過酸組成物中の過酸化水素および過酢酸の安定性を高めるために、従来知られている安定化剤を使用することができる。例えばピロリン酸、ピロリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、エチレンジアミン四酢酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸、ロダンカリ、ポリアミノカルボン酸、ピコリン酸、ジピコリン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)5ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)7ナトリウム等が挙げられる。安定化剤の添加量は、本発明の過酸組成物に対して濃度が0.01〜1.5重量%となる量が好ましい。安定化剤は、本発明の過酸組成物の調整前に、予め、酢酸もしくは過酸化水素水に添加して使用してもよいし、本発明の過酸組成物の調整後に添加してもよい。
【0027】
本発明に使用する硫酸水素塩は、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素カリウム、これらの水和物(例えば硫酸水素ナトリウム水和物、硫酸水素リチウム水和物、硫酸水素カリウム水和物)が挙げられる。これらの硫酸水素塩のうち、硫酸水素ナトリウム水和物または硫酸水素カリウムが好ましい。各種硫酸水素塩は、市販品を用いることができる。
【0028】
次に、本発明の過酸組成物の調製について説明する。上記記載の酢酸もしくは酢酸水溶液と過酸化水素水と硫酸水素塩とを混合することで過酸組成物を調製することができる。混合の順序は何ら限定されない。例えば、酢酸と過酸化水素とのモル比4:1〜0.2:1の混合液に、硫酸水素塩を添加して調製することができる。好ましくは、酢酸と過酸化水素とのモル比3:1〜0.5:1の範囲である。上記に調製した酢酸と過酸化水素水の混合液中に添加する硫酸水素塩量は、生成する過酸組成物に対して濃度が0.1〜10重量%となる量が好ましい。硫酸水素塩の濃度が0.5重量%以上となる過酢酸組成物ではアセチルフェニル化合物の酸化反応に対して効果的であり、硫酸水素塩の濃度10重量%以下であると生産性が悪化しにくく好ましい。
【0029】
また、本発明の過酸組成物は、硫酸を含まないものが好ましい。硫酸を含有すると反応の進行とともに黒色の着色成分が生成し、収率が低下する他、着色成分を除去するために精製工程を必要とする等の問題を有する。これは、硫酸自体が系中に存在する場合は、本発明のように硫酸水素塩を使用する場合と比べて、より酸化反応により生成するアセトキシフェニル化合物の加水分解が促進されやすい。さらに、副生したフェノール体が硫酸により酸化された黒色成分(キノン骨格の化合物となったのち、重合化したと推定)の生成量が増えるからと考えられる。
【0030】
前記過酸組成物の調製において、混合は室温で行ってもよいが、反応時間の短縮のため30℃から70℃程度に加熱する方法が有効である。50重量%を超える過酸化水素濃度の場合は、特に加熱の必要はないが一般的に室温から60℃の範囲での加熱が好ましい。70℃以内で実施することで過酢酸の分解を抑制でき効果的に過酢酸組成物を調製できる。
【0031】
基質が存在しない条件下では、過酸組成物の組成比は、過酢酸7〜20重量%、過酸化水素3〜20重量%、酢酸10〜50重量%、硫酸水素塩0.1〜10重量%、および残分として水20〜55重量%である。また、前記過酸組成物の重量比は、過酸化水素水の過酸化水素純分として10〜25重量部、酢酸水溶液の酢酸純分として15〜60重量部、および硫酸水素塩0.1〜10重量部である。
【0032】
本発明のアセトキシフェニル化合物の製造方法に於いて、基質となるアセチルフェニル化合物の一形態は、一般式(1)で表される化合物である。
【0033】
【化5】
一般式(1)で表される化合物は、2−アセチルフルオレン誘導体であり、この具体例としては、以下の化合物(1−1)〜(1−3)が挙げられる。
【0034】
【化6】
上記一般式(1)で表される化合物を基質として用いて、本発明の製造方法により得られるアセトキシフェニル化合物は、一般式(3)で表される化合物である。
【0035】
【化7】
式中R
1及びR
2はそれぞれ水素、フッ素、塩素、臭素又は炭素数1〜20のアルキルであり、R
3は水素、フッ素、塩素、臭素、炭素数1〜20のアルキル、アセチル又はアセトキシである。
【0036】
また、一般式(3)で表される化合物の具体例としては、一般式(3−1)〜(3−3)で表される化合物が挙げられる。
【0037】
【化8】
式中R
1及びR
2はそれぞれ水素、フッ素、塩素、臭素又は炭素数1〜20のアルキルであり、R
3は水素、フッ素、塩素、臭素、炭素数1〜20のアルキル、アセチル又はアセトキシである。
【0038】
R
1及びR
2で示される炭素数1〜20のアルキルは、直鎖状、分枝状或いは環状でもよい。好ましくは炭素数1〜9であり、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、へプチル、オクチル、ノニルが挙げられる。
【0039】
R
1及びR
2のより好ましい具体例としては、水素またはメチル等が挙げられる。
また、R
3の好ましい例としては、水素、臭素、アセチル又はアセトキシが挙げられる。
【0040】
前記アセチルフェニル化合物(1−1)〜(1−3)は、従来報告されている方法で合成することができる。例えば2,7−ジアセチルフルオレン(式(1−1)において、R
1、R
2=H)(Mol.Cryst.Liq.Cryst.,1997 Vol 303, pp305−311)、例えば2,7−ジアセチル−9−メチル−フルオレン(式(1−1)において、R
1=CH
3、R
2=H)(特開2003−238491号公報)、例えば9−メチル−2−アセチルフルオレン(式(1−2)において、R
1=CH
3、R
2=H、R
3=H)、9−ブロモ−2−アセチルフルオレン(式(1−2)において、R
1=Br、R
2=H、R
3=H)、2−アセチル−7−アセトキシフルオレン((1−3)において、R
3=OCOCH
3)、7−ブロモ−2−アセチルフルオレン(式(1−3)において、R
3=Br)(Mol.Cryst.Liq.Cryst.,1987 Vol 150b, pp361−378)、例えば2−アセチルフルオレン(式(1−3)において、R
3=H)(特開2003−238491号公報)、例えば2−アセチル−7−ペンチルフルオレン(式(1−3)において、R
3=C
5H
11)(Mol.Cryst.Liq.Cryst.,1985 Vol 129, pp17−35)、例えば9,9−ジエチル−2,7−ジアセチルフルオレン(式(1−1)において、R
1=C
2H
5、R
2=C
2H
5)(The Ohio Journal of Science 70(6) 371(1970)pp371−378)を参酌できる。
【0041】
本発明のアセトキシフェニル化合物の製造方法に於いて、基質となるアセチルフェニル化合物の一形態は、一般式(2)で表される化合物である。
【0042】
【化9】
一般式(2)で表される化合物は、4−アセチルフェニル誘導体であり、この具体例としては、以下のような化合物(2−1)〜(2−4)が挙げられる。
【0043】
【化10】
式中、R
4'は水素、炭素数1〜20のアルキル、ハロゲン、−C≡N、アセチルまたはアセトキシであり、このアルキル中の少なくとも1つの−CH
2−は−O−または−SO
2−で置き換えられてもよく、また少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
【0044】
上記一般式(2)で表される化合物を基質として用いて、本発明の製造方法により得られるアセトキシフェニル化合物は、一般式(4)で表される化合物である。
【0045】
【化11】
また、一般式(4)で表される化合物の具体例としては、一般式(4−1)〜(4−4)で表される化合物が挙げられる。
【0046】
【化12】
式中、R
4'は水素、炭素数1〜20のアルキル、ハロゲン、−C≡N、アセチルまたはアセトキシであり、このアルキル中の少なくとも1つの−CH
2−は−O−または−SO
2−で置き換えられてもよく、また少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
【0047】
また、一般式(2)及び(4)に於いて、R
4及びR
4’で示される炭素数1〜20のアルキルは、一般式(1)及び(3)に於けるR
1及びR
2で示される炭素数1〜20のアルキルと同様のものが挙げられる。
【0048】
R
4及びR
4’で示されるアルキル中の−CH
2−が−O−で置き換えられた場合としては、炭素数1〜19のアルコキシ、炭素数1〜19のアルキルオキシアルキル等が挙げられ、R
4及びR
4’で示されるアルキル中の−CH
2−が−SO
2−で置き換えられた場合としては、炭素数1〜19のアルキルスルホニル、炭素数1〜19のアルキルスルホニルアルキル等が挙げられる。
【0049】
R
4及びR
4’で示されるアルキル中の少なくとも1つの水素がハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素)で置き換えられた場合としては、例えば3-ブロモプロピル、3-クロロプロピル、4-ブロモブチル、4−クロロブチル等が挙げられる。
【0050】
R
4及びR
4’で示されるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
また、A
1〜A
3で示される環中の少なくとも1つ以上の水素がハロゲン(例えばフッ素、塩素、臭素等)で置き換えられた場合としては、例えば、2’,4’−ジフルオロビフェニル、4’−ブロモ−2’−フルオロビフェニル、4’−ヨードビフェニル、3,3’−ジフルオロ−4−メトキシ−p−ターフェニル等が挙げられる。
【0051】
A
1〜A
3の好ましい具体例としては、例えば1,4−シクロヘキシレン、1,4−フェニレン、1,4−2−フルオロフェニレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイルが挙げられる。
【0052】
Z
1〜Z
3での好ましい例としては、例えば単結合、−(CH
2)
2−等が挙げられる。
また、k、l及びnの合計は、通常1以上の整数であり、好ましくは1又は2である。
4−アセチルフェニル誘導体(2−1)〜(2−4)は、従来報告されている方法で合成することができる。例えば4−アセチル−4”−カルボキシル−p−ターフェニルエチルエステル(US5,417,885号明細書)、例えば3−フルオロ−4−アルキルオキシ−4’−アセチルビフェニル、3,3’−ジフルオロ−4−アルキルオキシ−4”−アセチル−p−ターフェニル(特開平3−197438号公報)、例えば4−(4−ペンチルシクロへキシル)アセトフェノン(式(2−1)において、R
4’=n−ペンチル基)(特開昭60−19986号公報)、例えば4−(4−n−ペンチルシクロヘキシル)−4’−アセチルビフェニル(式(2−2)において、R
4’=4−n−ペンチルシクロヘキシル基)(特開昭56−12322号公報)、例えば4−(2,4−ジフルオロフェニル)アセトフェノン(式(2−2)において、水素がフッ素に置き換え)(特開昭51−34135号公報)、例えば4−アセチル−4’’−エトキシカルボニル−p−ターフェニル(式(2−3)において、R
4’=CO
2C
2H
5)(特開平7−25829号公報)、例えば6−(4−アセチルフェニル)−2−プロピル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン(式(2−4)において、R
4’=C
3H
7)(特開昭56−9223号公報)をそれぞれ合成する方法が報告されている。
【0053】
酸化反応に使用する反応溶媒としては、例えば芳香族炭化水素またはハロゲン系溶媒が挙げられ、中でも芳香族炭化水素系溶媒が好ましい。芳香族炭化水素系溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼンが好ましい。芳香族炭化水素系の溶媒に溶解性が低い基質に対しては、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム)を併用してもよい。有機溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、アセチルフェニル化合物に対して、重量で2〜30倍程度使用される。
【0054】
アセチルフェニル化合物からアセトキシフェニル化合物の製造は、以下の方法で行うことができる。即ち、(1)過酢酸、過酸化水素水、酢酸、硫酸水素塩および水を含有する過酸組成物を一旦調製した後、アセチルフェニル化合物の反応溶液と該過酸組成物とを反応させる方法が挙げられる。特に消防法の危険物に該当しない35重量%以下の過酸化水素水を使用したアセトキシフェニル化合物を製造する方法は簡便で、危険性リスクを低減できる製造法として有用である。
【0055】
(1)の方法は、過酸組成物からなる水相と基質溶液からなる有機相との2相系で進行するため、反応を十分に進行させるため水相と有機相とが十分分散できるような攪拌が有効である。
【0056】
以下に、本発明に係わる方法(1)の詳細を説明する。酸化反応は、常圧でも加圧下でも行うことができるが、通常、反応操作の容易性から常圧での反応が好ましい。本発明で行う酸化反応においては、可燃性物質である芳香族系炭化水素系溶媒を使用するため、引火、爆発の危険性があり有機溶媒が爆発範囲に入らないように、窒素、ヘリウムやアルゴンガスなどの不活性ガス置換下で行い、不活性ガスを反応器に供給しながらの実施が必要である。特に、反応温度が80℃以上に達した場合、反応系中に存在する過酢酸、過酸化水素の分解による酸素が発生するため、仮に着火源が存在しても引火や爆発が起こらないように安全対策として気相部の限界酸素濃度未満になるように不活性ガスをフィードする方法が有効である。
【0057】
反応器中の酸素濃度を低くするため、予め不活性ガスで置換する方法が好ましい。不活性ガスの置換方法としては、例えば、特開2006−231270号公報に記載されている不活性ガス導入配管を反応器上部に接続し、パージ管からパージする方法、反応器上部に接続した不活性導入配管を反応容器の気相部の内部まで挿入し、パージ管からパージする方法、反応容器上部に接続した不活性ガス導入配管を反応容器の液相部の内部まで挿入し、液相内部に不活性ガスを吹き込み、パージ管からパージする方法が挙げられる。
【0058】
アセチルフェニル化合物の酸化反応温度は、40℃〜100℃の範囲がよく、好ましくは50℃〜80℃である。100℃以下とすることで、過酢酸および過酸化水素自身の分解を抑制でき、コスト面でも安全面でも望ましい。反応温度を40℃以上とすることで、実用的な反応速度を達成することができる。
【0059】
本発明に使用するアセチルフェニル化合物は室温で固体の化合物が多いため、有機溶媒を用いた溶液としての取り扱いが好ましい。特に本発明に係わる二官能のアセチルフェニル化合物の酸化反応では、一官能のアセチルフェニル化合物に比べ反応熱量が多いため、反応効率や反応装置による除熱能力を考える必要がある。このような観点から、本発明では各種原料を複数分割して仕込む方法やフィードポンプや滴下ロートなどを用いて連続仕込みする方法が望ましい。本発明では、回分式タンク型反応器、タンク型反応器を直列に連結した連続反応装置、マイクロフロー反応器、および上記反応器を組み合わせた反応系式を使用することができる。
【0060】
本発明では、方法(1)の基質を含まない反応器内で、酢酸、過酸化水素水及び硫酸水素塩から、本発明の過酸組成物を一旦調製した後、アセチルフェニル化合物の有機溶液と過酢酸組成物を反応させる方法を説明する。
【0061】
一官能性のアセチルフェニル化合物(即ち、一般式(1)と(3)に於けるR
3及び一般式(2)と(4)に於けるR
4がアセチル以外である場合)の反応においては、過酸組成物中の過酸化水素及び過酢酸の総モル数とアセチルフェニル化合物のモル数との比が1:1〜5:1となる仕込み条件で行うことができる。特に好ましくは、過酸組成物中の過酸化水素及び過酢酸の総モル数と一官能性のアセチルフェニル化合物のモル数との比が1.25:1〜2.5:1である。二官能性のジアセチルフェニル化合物に対しては、過酸組成物の過酸化水素と過酢酸とが1モル当量以下の場合は、分子内の1つのみ酸化されたモノアセトキシ化合物が主に生成し、ジアセトキシフェニル化合物を選択的に得ることが困難となるため、過酸組成物中の過酸化水素と過酢酸との総モル数と2官能性のジアセチルフェニル化合物のモル数との比が2:1〜10:1の仕込み条件で行うことが好ましく、特に、過酸組成物中の過酸化水素と過酢酸との総モル数と2官能性のジアセチルフェニル化合物のモル数との比が2.5:1〜5.0:1である。過酸組成物中の過酸化水素と過酢酸との総モル数をこの範囲で使用することでコスト的にも安全上も有利に合成できる。
【0062】
過酸組成物を用いた一官能性のアセチルフェニル化合物の反応においては、過酸組成物中の硫酸水素塩のモル数とアセチルフェニル化合物のモル数との比を1:1〜0.01:1で行うことができる。この範囲で使用することで、コスト的にも安全上も有利に合成できる。
【0063】
本発明に使用する芳香族炭化水素系の溶媒は、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼンが好ましい。芳香族炭化水素系の溶媒に溶解性が低い基質に対しては、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム)を適宜添加して使用することができる。有機溶媒使用量は、特に限定されるものではないが、通常、アセチルフェニル化合物に対して、重量で2〜30倍程度使用される。
【0064】
反応終了後に攪拌を止めることで、過酸化水素、酢酸、過酢酸、硫酸水素塩を含有する水相と生成物であるアセトキシフェニル化合物を含有する芳香族炭化水素相との2相に分離することができる。水相は、通常の分液操作により回収することができる。回収された水相は、硫酸水素塩と未反応の過酸化水素、残存過酢酸および酢酸を含むため、回収した水相に過酸化水素水、酢酸を追加補充することで、酸化剤として再利用することができる。追加する過酸化水素水および酢酸は、初回の反応時の仕込み量に準じた量を用い、反応時間を適宜調整することで収率よく製造することができる。
【0065】
分液操作で得られた有機相は過酸化水素水、過酢酸、酢酸、微量の過酸化ジアセチルが溶解しているため、中和水洗および環元剤処理を行うことが好ましい。中和水洗、還元剤処理は、有機相に対して中和剤水溶液および環元剤水溶液を加えて攪拌することで行われる。
【0066】
中和水洗では、アセトキシフェニル化合物の加水分解による収率低下を避けるため、中和剤としては弱塩基性塩の水溶液(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)か、またはpHを8〜10程度に調整した苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)水溶液を使用することができる。
【0067】
中和剤の使用量は、酸化反応で使用した酢酸に対して約0.05〜2モル当量、好ましくは0.1〜1モル当量である。処理温度は、通常0℃〜60℃、好ましくは5℃〜室温であり、処理時間は、数分から数時間、好ましくは10分から1時間である。
【0068】
環元剤処理に使用する環元剤としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムであり、これらの水溶液として使用することができる。還元剤処理をすることで、有機相中に含まれている過酢酸および微量の過酸化ジアセチルを分解することができる。亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の水溶液は、1〜10重量%の濃度で使用される。これら水溶液の使用量は、酸化反応で使用した酢酸に対して約0.05〜2モル当量、好ましくは0.1〜1モル当量である。処理温度は、通常0℃〜60℃、好ましくは5℃〜室温である。処理時間は、数分から数時間、好ましくは10分から1時間である。
【0069】
水洗処理および還元処理して得られた有機相は、減圧下、反応溶媒を留去して、アセトキシフェニル化合物を含む粗生成物を得ることができる。粗生成物中には、主生成物のアセトキシフェニル化合物以外の未反応の基質や二官能性のアセチルフェニル化合物の場合ではモノアセトキシ体が含まれる。粗生成物は、通常有機化合物の精製で行われる手法、例えば、カラムクロマトグラフィー、再結晶、晶析、ろ過、乾燥を用いて、高純度のアセトキシフェニル化合物を得ることができる。具体的には、アセトキシフェニル化合物(3)又は(4)は、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン等の炭化水素系の溶媒、例えばジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、例えば酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶媒、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒等の有機溶媒を用いて、クロマトグラフィーや再結晶により精製することができる。
【0070】
クロマトグラフィーでは、従来公知のシリカ、シリカゲル、アルミナ、フロリジルなどの吸着剤を使用することができる。吸着剤は、平均粒径3〜80μm、好ましくは5〜10μmである。本発明で使用される吸着剤は、金属イオンの含有が少ない高純度のシリカゲルが好ましい。
【0071】
通常、電子材料用途に使用する場合は、微量な不純物を除去するため、上記の精製法を組み合わせるか、同じ精製を繰り返して、より高純度のアセトキシフェニル化合物を得ることができる。
【実施例】
【0072】
プロトン核磁気共鳴スペクトルは、VARIAN社製VARIAN NMR SYSTEM(500MHz)を用い、テトラメチルシランを内部標準として測定した。
ガスクロマトグラフィーは株式会社島津製作所 GC−2014ATF/SPLモデル(FID検出器)を用いた。一般財団法人化学物質評価研究機構製の「G−100(40m)」を使用し、カラム温度は95℃とした。
【0073】
過酢酸組成物と反応終了後の水層の過酢酸および過酸化水素の分析は、チオ硫酸ナトリウムを用いた分別滴定法(特開平6−130051号公報)により実施した。
酸素濃度計は、株式会社オートマチックシステムリサーチ製のFOM−1000/WPH−110を使用した。
【0074】
35重量%の過酸化水素水は和光純薬株式会社から、50重量%の過酸化水素水はシグマアルドリッチ株式会社からそれぞれ購入した。蒸留水は和光純薬株式会社から購入した。過酸化水素水の濃度調整には、蒸留水を使用した。シリカゲルは、和光純薬株式会社からクロマトグラフィー用シリカゲルを購入した。
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
(実施例1) 過酢酸組成物の調製(30重量%過酸化水素と酢酸から調製)
スターラーバー(攪拌子)を入れた100mlのナスフラスコに硫酸水素ナトリウム一水和物(0.55g;4.0mmol)、酢酸(4.80g;80.0mmol)を入れて、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水(4.54g;40.0mmol)を加えてマグネチックスターラーで室温1時間撹拌した。その後、油浴中で60℃3時間撹拌して、過酢酸組成物9.8gを得た。得られた過酢酸組成物の過酢酸および過酸化水素の滴定は、1Mヨウ化カリウム、0.1Nチオ硫酸ナトリム標準溶液、硫酸、5重量%モリブデン酸水溶液を用いて行い、下記式により算出し各成分の濃度を求めた。
【0076】
(組成物のモル数;過酸化水素;21.8mmol、酢酸;61.8mmol、過酢酸;18.2mmol、硫酸水素塩;4.0mmol)
過酢酸重量%=0.38×f×A/S
過酸化水素重量%=0.17×f×B/S
f:0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準液のファクター
S:試料採取量(g)
A:1Mヨウ化カリウム溶液を加え、遊離したヨードを0.1Nチオ硫酸ナトリウ
ム標準液の滴定した量(ml)
B:硫酸、1Mヨウ化カリウム溶液、モリブデンサンアンモニウム溶液、でんぷん
溶液を加え0.1Nチオ硫酸ナトリウム標準液で滴定した量(ml)
過酢酸濃度は、14.0重量%(18.2mmol)、過酸化水素濃度は、8.3重量%(21.8mmol)であった。硫酸水素塩濃度は水和物中の水を含まない硫酸水素塩の重量から、酢酸濃度は仕込み酢酸から過酢酸に転化したモル数を引いて算出したところ、硫酸水素塩濃度4.9重量%、酢酸37.9重量%であった。
【0077】
(実施例2)
実施例1と同じ装置を用いて、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.55g;4.0mmol)、酢酸(1.20g;20.0mmol)を入れて撹拌後、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水(4.54g;40.0mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。その後、油浴中で60℃、6時間撹拌し、過酢酸組成物6.3gを得た。過酢酸と過酸化水素の濃度測定、硫酸水素塩と酢酸濃度の算出は、実施例1と同様の方法で実施した。過酢酸濃度は7.6重量%(6.0mmol)、過酸化水素濃度は18.5重量%(34.0mmol)であった。硫酸水素塩の濃度は7.6重量%、酢酸濃度は13.3重量%であった。
(組成物のモル数;過酸化水素;34.0mmol、酢酸;14.0mmol、過酢酸;6.0mmol、硫酸水素塩;4.0mmol)。
【0078】
(実施例3)
実施例1と同じ装置を用いて、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.55g;4.0mmol)、酢酸(7.21g;120mmol)を入れて撹拌後、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水(4.54g;40.0mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。その後、油浴中で60℃3時間撹拌し、過酢酸組成物12.3gを得た。過酢酸と過酸化水素の濃度測定、硫酸水素塩と酢酸濃度の算出は、実施例1と同様の方法で実施した。過酢酸濃度は、14.1重量%(22.8mmol)、過酸化水素濃度は、4.7重量%(17.2mmol)であった。硫酸水素塩濃度は3.9重量%、酢酸濃度は47.5重量%であった。
(組成物のモル数;過酸化水素;17.2mmol、酢酸;97.2mmol、過酢酸;22.8mmol、硫酸水素塩;4.0mmol)。
【0079】
(実施例4) 過酢酸組成物の調製(50重量%過酸化水素と酢酸から調製)
実施例1と同じ装置を用いて、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.55g;4.0mmol)、酢酸(4.80g;80.0mmol)を入れて撹拌後、50重量%の過酸化水素水(2.72g;40.0mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。その後、油浴中で60℃3時間撹拌し、過酢酸組成物8.0gを得た。過酢酸と過酸化水素の濃度測定、硫酸水素塩と酢酸濃度の算出は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0080】
過酢酸濃度は、18.8重量%(20.0mmol)、過酸化水素濃度は、8.4重量%(20.0mml)であった。硫酸水素塩の濃度は、6.0重量%、酢酸濃度は、44.6重量%であった。
(組成物のモル数;過酸化水素;20.0mmol、酢酸;60.0mmol、過酢酸;20.0mmol、硫酸水素塩;4.0mmol)
【0081】
(実施例5)
実施例1と同じ装置を用いて、硫酸水素ナトリウム一水和物(69mg;0.5mmol)、酢酸(4.80g;80.0mmol)を入れて撹拌後、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水(4.54g;40.0mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。その後、油浴中で60℃、6時間撹拌し、過酢酸組成物9.4gを得た。過酢酸と過酸化水素の濃度測定、硫酸水素塩と酢酸濃度の算出は、実施例1と同様の方法で実施した。
【0082】
過酢酸濃度は、11.5重量%(14.2mmol)、過酸化水素濃度は、9.3重量%(25.8mml)であった。硫酸水素塩の濃度は、0.6重量%、酢酸濃度は、42.0重量%であった。
(組成物のモル数;過酸化水素;25.8mmol、酢酸;65.8mmol、過酢酸;14.2mmol、硫酸水素塩;0.5mmol)
【0083】
(実施例6)
実施例1と同じ装置を用いて、硫酸水素ナトリウム一水和物(1.10g;8.0mmol)、酢酸(4.80g;80.0mmol)を入れて撹拌後、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水(4.54g;40.0mmol)を加えて室温で1時間撹拌した。その後、油浴中で60℃3時間撹拌し、過酢酸組成物10.4gを得た。
【0084】
過酢酸と過酸化水素の濃度測定、硫酸水素塩と酢酸濃度の算出は、実施例1と同様の方法で実施した。
過酢酸濃度は、13.2重量%(18.2mmol)、過酸化水素濃度は、7.1重量%(21.8mml)であった。硫酸水素塩の濃度は、9.2重量%、酢酸濃度は、35.5重量%であった。
(組成物のモル数;過酸化水素;21.8mmol、酢酸;61.8mmol、過酢酸;18.2mmol、硫酸水素塩;8.0mmol)
【0085】
(実施例7) 2,7−ジアセチルオキシ−9−メチルフルオレン(3−1a−1)の合成(実施例1の過酸組成物を用いる方法)
還流冷却管、温度計、滴下ロートを取り付け、スターラーバー(攪拌子)を入れた50mlの四つ口フラスコに2,7−ジアセチル−9−メチルフルオレン(1−1a)(1.04g;3.9mmol)、トルエン(10ml)を加えた。反応フラスコを油浴に浸し、60℃まで昇温した。温度が安定した後、酢酸2.34g(39.0mmol)、硫酸水素ナトリウム一水和物0.27g(2.0mmol)、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水2.21g(19.5mmol)を実施例1と同様の方法で調整した過酢酸組成物の溶液を30分かけて滴下した。反応液を60℃の油浴中で20時間撹拌した後、室温まで冷却し、トルエン(10ml)を加えた。分液ロートを用いて有機層と水層を分離した後、有機層を10%亜硫酸ナトリウム水溶液(5ml×2)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(5ml×2)で洗浄した。有機層は、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下、濃縮を行った。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(容量比で、酢酸エチル:ヘプタン=1:10→3:7)で処理してジアセトキシ体の2,7−ジオキシアセチル−9−メチルフルオレン(3−1a−1)を0.93g(3.1mmol収率80%)、モノアセトキシ体(3−1a−2)(0.10g;0.4mmol)を収率10%で得た。
【0086】
ジアセトキシ体(3−1a−1)
1H−NMR(CDCl
3) δ(ppm) : 1.50(d, 3H), 2.33(s, 6H), 3.94(q, 1H), 7.07(dd, 2H), 7.22(d, 2H), 7.68(d, 2H).
モノアセトキシ体(3−1a−2):
1H−NMR(CDCl
3) δ(ppm) : 1.55(d, 3H), 2.34(s, 3H), 2.66(s, 3H), 4.00(q, 1H), 7.12(dd, 1H), 7.18(dd, 1H), 7.76(d, 1H), 7.79(d, 1H), 7.98(d, 1H), 8.09(br, 1H).
【0087】
【化13】
【0088】
(実施例8) 2,7−ジアセチルオキシ−9−メチルフルオレン(3−1a−1)の合成(実施例2の過酸組成物を用いる方法)
実施例7と同じ反応装置を使用し、2,7−ジアセチル−9−メチルフルオレン(1−1a)(1.04g;3.9mmol)、トルエン(10ml)を加えた。反応フラスコを油浴に浸し、60℃まで昇温した。温度が安定した後、酢酸(0.58g;9.7mmol)、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.27g;2.0mmol)、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水(2.21g;19.5mmol)を実施例2と同様の方法で調整した過酢酸組成物の溶液を30分かけて滴下した。実施例5と同様な操作により、温度60℃で、42時間反応を行い、精製処理を行った。ジアセトキシ体(3−1a−1)を(0.85g;2.9mmol)収率73%、モノアセトキシ体(3−1a−2)を(0.16g;0.6mmol)収率15%で得た。
【0089】
(実施例9) 2,7−ジアセチルオキシ−9−メチルフルオレン(3−1a−1)の合成(実施例4の過酸組成物を用いる方法)
実施例7と同じ反応装置を使用し、2,7−ジアセチル−9−メチルフルオレン(1−1a)(1.04g;3.9mmol)、トルエン(10ml)を加えた。反応フラスコを油浴に浸し、60℃まで昇温した。温度が安定した後、酢酸(2.34g;39.0mmol)、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.27g;2.0mmol)、50重量%の過酸化水素水(1.33g;19.5mmol)を実施例4と同様の方法で調整した過酢酸組成物の溶液を30分かけて滴下した。実施例5と同様な操作により、温度60℃で、17時間反応を行い、精製処理を行った。ジアセトキシ体(3−1a−1)を(0.99g;3.3mmol)収率85%、モノアセトキシ体(3−1a−2)を(0.05g;0.2mmol)収率5%で得た。
【0090】
(実施例10) 2,7−ジアセチルオキシ−9−メチルフルオレン(3−1a−1)の合成(実施例5の過酸組成物を用いる方法)
実施例7と同じ反応装置を使用し、2,7−ジアセチル−9−メチルフルオレン(1−1a)(1.04g;3.9mmol)、トルエン(10ml)を加えた。反応フラスコを油浴に浸し、60℃まで昇温した。温度が安定した後、酢酸(2.34g;39.0mmol)、硫酸水素ナトリウム一水和物(35mg;0.25mmol)、30重量%過酸化水素水(2.21g;19.5mmol)を実施例4と同様の方法で調整した過酢酸組成物の溶液を30分かけて滴下した。実施例7と同様な操作により、温度60℃で、30時間反応を行い、精製処理を行った。ジアセトキシ体(3−1a−1)を(0.91g;3.1mmol)収率78%、モノアセトキシ体(3−1a−2)を(0.17g;0.6mmol)収率15%で得た。
【0091】
(実施例11) 2,7−ジアセチルオキシ−9−メチルフルオレン(3−1a−1)の合成(市販の過酢酸溶液(10%過酢酸、過酸化水素17%含有)を用いた方法)
実施例7と同じ反応装置を用いて、反応フラスコに2,7−ジアセチル−9−メチルフルオレン(1−1a)(1.04g;3.9mmol)、硫酸水素ナトリウム一水和物(0.28g;2.0mmol)、トルエン(10ml)を加えた。反応フラスコを油浴に浸し、60℃まで昇温した。同温度を維持し、攪拌しながらオキシペール100(3.12g)(10重量%過酢酸水溶液;過酸化水素17重量%含有;過酢酸4.1mmol、過酸化水素15.5mmolに相当)に酢酸(1.87g;31.2mmol)を加えた溶液を滴下した。反応液を60℃の油浴中で30時間撹拌した後、室温まで冷却し、トルエン(10ml)を加えた。有機層を分取後、10重量%亜硫酸ナトリウム水溶液(5ml×2)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(5ml×2)で洗浄し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(容量比で、酢酸エチル:ヘプタン=1:10→3:7)処理してジアセトキシ体(3−1a−1)、モノアセトキシ体(3−1a−2)をそれぞれ79%、8%の単離収率で取得した。
【0092】
(比較例1) 過酢酸組成物の調製(30重量%過酸化水素水と酢酸から調製)
スターラーバー(攪拌子)を入れた100mlのナスフラスコに硫酸水素ナトリウム一水和物(280mg;2.0mmol)、酢酸(0.24g;4.0mmol)を入れて、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水(2.28g;20.1mmol)を加えて室温1時間マグネチックスターラーで撹拌した。その後、油浴中で60℃、3時間撹拌して、過酢酸組成物2.8gを得た。
【0093】
過酢酸と過酸化水素の濃度測定、硫酸水素塩と酢酸濃度の算出は、実施例1と同様の方法で実施した。過酢酸濃度は3.9重量%(1.5mmol)、過酸化水素濃度は22.5重量%(18.5mmol)であった。硫酸水素塩の濃度は8.6量%、酢酸濃度は5.4重量%であった。
(組成物のモル数;過酸化水素;18.5mmol、酢酸;2.5mmol、過酢酸;1.5mmol、硫酸水素塩;2.0mmol)。
【0094】
実施例7の反応装置を使用し、フラスコに2,7−ジアセチル−9−メチルフルオレン(1−1a)(1.04g;3.9mmol)、トルエン(10ml)を加えた後、フラスコを油浴に浸し、60℃まで昇温した。温度が安定した後、酢酸(0.24g;4.0mmol)、硫酸水素ナトリウム一水和物(280mg;2.0mmol)、35重量%の濃度を30重量%に調整した過酸化水素水(2.28g;20.0mmol)を上記と同様の方法で調整した過酢酸組成物の溶液を30分かけて滴下した。反応液を60℃の油浴中で50時間撹拌した後、室温まで冷却し、トルエン(10ml)を加えた。分液ロートを用いて有機層と水層を分離した後、有機層を10%亜硫酸ナトリウム水溶液(5ml×2)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(5ml×2)で洗浄した。有機層は、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下、濃縮を行った。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(容量比で、酢酸エチル:ヘプタン=1:10→3:7)処理してジアセトキシ体(3−1a−1)を0.41g(1.4mmol;収率35%)、モノアセトキシ体(3−1a−2)を0.45g(1.6mmol;収率41%)で得た。
【0095】
(比較例2) 市販の過酢酸溶液(10%過酢酸、過酸化水素17%含有)を使用する方法
実施例7と同じ反応装置を用いて、2,7−ジアセチル−9−メチルフルオレン(1−1a)(1.04g;3.9mmol)、トルエン(10ml)を加えた。反応フラスコを油浴に浸し、60℃まで昇温した。同温度を維持しながらオキシペール100(10%過酢酸水溶液;過酸化水素17%含有)(3.12g;過酢酸;4.1mmol、過酸化水素;15.5mmol)を滴下した。反応液を60℃の油浴中で30時間撹拌した。反応後処理、精製法は、比較例1と同様に行った。ジアセトキシ体(3−1a−1)、モノアセトキシ体(3−1a−2)をそれぞれ51%、10%の単離収率で取得した。
【0096】
実施例に示した方法に準じて、2−アセチルフルオレン誘導体(1−1)〜(1−3)、4−アセチルフェニル誘導体(2−1)〜(2−4)から、対応する2−アセトキシフルオレン誘導体(3−1)〜(3−3)、4−アセトキシフェニル誘導体(4−1)〜(4−4)を容易に合成できる。
【0097】
【化14】
【0098】
【化15】
(式中、R
1〜R
3およびR
4'は前記に同じ。)