(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年の科学技術の発展に伴い、電気をエネルギー源や信号源とする機器は、増加の一途を辿っている。そして、それらの機器には、導線が用いられている。導線に用いられる材料としては、銅、銀等の導電率の高い金属が用いられ、コスト等を考慮して銅を使用した銅合金材料等が多く用いられている。
【0003】
また、機器に対する多機能、高速、小型化の要求から、機器内部の導線等にも小型化、細径化が求められている。しかし、導線は、細径化されることにより抵抗が上昇するため、より導電率が高い材料を導線に用いる必要がある。そのため、導線の導電率を高めるために不純物を低減させた銅合金材料等の開発がされている。
【0004】
一方、導線等に用いられる銅合金材料の性質を変化させるために銅合金材料の熱処理が広く行われているが、昨今の製造エネルギーのコスト低減の観点から、より低温での熱処理によって性質が変化する銅合金材料が求められている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、電解銅(Cu99.996質量%)にTiを4〜28質量ppm添加した銅合金材料は、Tiを添加しないものに比べて低温での熱処理で軟化するという結果が示されている。同文献では、低温での熱処理で銅合金材料が軟化する原因は、Tiが不可避不純物である硫黄と化合して硫化物を形成することにより、銅合金材料中の固溶硫黄が減少するためであるとされている。
【0006】
また、特許文献1には、2〜12質量ppmの硫黄と、2〜30質量ppmの酸素と、4〜55質量ppmのTiを含み、残部が銅である導電率が98%IACS以上の希薄銅合金線であって、Tiを添加することで、銅中の不可避不純物である硫黄を析出させることにより、希薄銅合金線の軟化温度を130〜148℃に低下させた希薄銅合金線が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態の要約]
本実施の形態の銅合金材料は、添加元素と、残部が銅と不可避不純物からなる銅合金材料において、Tiである添加元素Mが添加され、添加元素M及び酸素の原子数比が0.33≦M/O≦1.5の範囲のものである。
【0015】
[第1の実施の形態]
本実施の形態の銅合金材料は、本実施の形態の銅合金材料は、Ti、Zr、Ca、Mg、B、Cr、Nb及びVから1つ以上選択された添加元素Mを含み、残部がCu及び不可避的不純物からなる。なお、不可避不純物とは、製造工程において不可避的に混入するものをいう。
【0016】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、銅合金材料の軟化温度を低下させるためには、添加元素M、酸素及び不可避不純物の濃度範囲だけではなく、添加元素Mと酸素との原子数比の範囲について規定する必要があることを見出した。
【0017】
すなわち、Tiである添加元素Mを添加した場合には、銅合金材料中に存在する酸素が添加元素Mとの原子数比で0.33≦Ti/O≦1.5の範囲であるとき、銅合金材料の半軟化温度が140℃未満になる。
【0018】
さらに、添加元素Mと酸素との原子数比が0.5≦M/O≦1の範囲であるとき、銅合金材料の半軟化温度が130℃未満になる。なお、酸素と添加物元素Mとの酸化物は、添加元素MがTi及びZrの場合、MO
2が形成され、添加元素MがCa及びMgの場合、MOが形成され、添加元素MがB及びCrの場合、M
2O
3が形成され、添加元素MがNb及びVの場合、M
2O
5が形成される。また、Ti以外の添加元素Mを考慮すると、酸化物M
xO
yの原子数比を0.17≦[Mx/Oy]≦0.75の範囲とするのが好ましい。
【0019】
この銅合金材料は、98%IACS(International Annealed Copper Standard : 万国標準軟銅1.7241×10
−8Ωmを100%とした導電率)以上の導電率を有する。
【0020】
(添加元素M)
銅合金材料に添加されるTi、Zr、Ca、Mg、B、Cr、Nb及びVから選択された1つ以上の添加元素Mは、不可避不純物である硫黄と化合して硫化物を形成して銅合金材料から硫黄を析出させる。なお、Ti、Zr、Ca、Mg、B、Cr、Nb及びVを添加元素Mとして用いるのは、これらの元素が硫黄等の元素と化合する活性な元素だからである。
【0021】
添加元素Mが硫黄を析出させることにより、銅合金材料中の硫黄が減少し、銅合金材料の銅の純度が高まることで、銅合金材料の軟化温度が低下する。なお、銅合金材料には、銅合金材料の特性に影響を与えない他の元素や不純物が含まれてもよい。
【0022】
(溶銅の酸素濃度)
銅合金材料の原料である溶銅に酸素が多く含まれていると、溶銅中の酸素と溶銅加熱ガスに含まれる水素とが反応して水蒸気が発生し、溶銅が凝固するときにその水蒸気が溶銅表面又は溶銅中で水蒸気爆発を起こす。この水蒸気爆発により、銅合金材料にブローホール等が発生して銅合金材料の表面品質が劣化する。
【0023】
添加元素Mを添加する前の溶銅の酸素濃度の上限を50質量ppm以下に定めることにより、溶銅中の酸素と溶銅加熱ガスに含まれる水素との反応を抑制できる。これにより、水蒸気の発生が抑制できるので、銅合金材料の表面品質が向上する。さらに、添加元素Mを添加する前の溶銅の酸素濃度を20質量ppm以下にすることにより、表面品質が向上した銅合金材料を安定して製造することができる。
【0024】
一方、添加元素Mを添加する前の溶銅の酸素濃度を2質量ppm未満にすることは、連続鋳造装置の大幅な改造が必要となることから困難である。
【0025】
(溶銅の硫黄濃度)
添加元素Mを添加する前の溶銅の硫黄濃度は、少ない方が望ましい。銅合金材料の原料となる一般的な電気銅は、硫酸銅溶液中にて電気精製して製造するために銅合金材料への硫黄の混入を避けられない。
【0026】
しかし、一般的な電気銅の硫黄濃度は、12質量ppmを超えることはなく、添加元素Mを添加することで、銅合金材料から硫黄を析出することが可能である。
【0027】
(銅合金材料の製造方法)
次に、銅合金材料の一例である銅線の製造方法の一例について説明する。
【0028】
まず、添加元素Mが添加される前の酸素濃度が2〜50質量ppm、好ましくは5〜20質量ppmの溶銅を準備する。次に、準備した溶銅にTiである添加元素Mを添加する。
【0029】
次に、添加元素Mが添加された溶銅をSCR連続鋳造圧延法(South Continuous Rod System)により連続鋳造して得られた鋳造品に熱間圧延を施すことで、加工度が90%(直径30mm)〜99.8%(直径5mm)の銅線を製造する。なお、熱間圧延により圧延された銅線は、鋳造品を高温で圧延することで、加工度が高くなっても硬化が生じない。
【0030】
(銅合金材料の製造条件)
次に、銅合金材料を製造する条件ついて、加工度99.3%(直径8mm)、導電率が98%IACS以上の銅線を製造する場合を一例として説明する。
【0031】
溶鉱炉内で溶解される溶銅の温度は、1100〜1320℃の範囲であることが好ましい。溶銅の温度が高いと、溶銅中にブローホールが多くなることで、銅合金材料の表面品質が劣化するとともに、銅合金材料の粒子サイズが大きくなる傾向にあるため、溶銅の温度を1320℃以下にしている。一方、溶銅の温度が低いと、溶銅が固まりやすく銅合金材料の製造が安定しないが、エネルギーコストの観点から溶銅の温度は、できるだけ低いほうが好ましいので、溶銅の温度を1100℃以上としている。
【0032】
また、連続鋳造された鋳造品を熱間圧延する温度は、最初の圧延ロールの温度が750〜880℃の範囲、最後の圧延ロールの温度が550〜750℃の範囲である事が好ましい。
【0033】
溶銅の温度を1100〜1320℃の範囲に設定し、圧延ロールの温度を上記温度に設定して鋳造品を熱間圧延することにより、銅合金材料中の硫黄の固溶限を小さくすることができる。
【0034】
また、溶銅は、溶鉱炉で溶解することで、銅酸化物の混入及び粒子サイズの肥大化により銅合金材料の品質を劣化させる。そのため、溶銅を還元ガス(例えば、一酸化炭素)雰囲気下で、溶銅の硫黄濃度、Ti濃度、酸素濃度を制御しながら鋳造するのが好ましい。
【0035】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)添加元素Mと酸素との原子数比を0.33≦M/O≦1.5の範囲にすることで、銅合金材料の軟化温度を140℃未満にするとともに、銅合金材料の導電率を98%IACS以上にすることができる。
(2)添加元素Mと酸素との原子数比を0.5≦M/O≦1の範囲にすることで、銅合金材料の軟化温度を130℃未満にすることができる。
(3)酸素濃度が2〜50質量ppmの溶銅を用いて銅合金材料を製造することにより、銅合金材料の表面品質を向上させることができる。
(4)銅合金材料の軟化温度を下げることにより、銅合金材料の加工が容易になる。また、銅合金材料を製造するエネルギーコストを低減することができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例を
図1及び表1を参照して説明する。
図1は、Ti/O原子数比と銅合金材料の半軟化温度との関係を示す特性図である。また、表1にTi/O原子数比、半軟化温度、導電率、チタン(Ti)濃度、酸素(O)濃度、硫黄(S)濃度の関係及びそれぞれの試料の判定を示す。
【0037】
ここで、Ti/O原子数比が0.5である銅合金材料を実施例1、Ti/O原子数比が0.93である銅合金材料を実施例2、Ti/O原子数比が0.042である銅合金材料を比較例1、Ti/O原子数比が2.08である銅合金材料を比較例2とする。
【0038】
銅合金材料のTi/O原子数比、半軟化温度、導電率、Ti濃度、O濃度及びS濃度を測定する試料は、それぞれの銅合金材料を用いて直径8mmの銅線を作製し、それを冷間伸線によって直径2.6mmに伸ばした銅線(加工率89.4%)を用いた。
【0039】
銅合金材料の導電率の測定は、上記銅線を70cmに切断したものを用いて行った。すなわち、電流端子間距離を60cm、電圧端子間距離を50cmに設定した4端子法を適用して、それぞれの銅線に4Aの電流を流して室温にて測定した。
【0040】
銅合金材料の半軟化温度の測定は、次のように行った。すなわち、室温での引張強度の値、及びそれぞれの銅線を100〜400℃の温度で1時間の焼鈍した後の引張強度の値を測定した。そして、室温での引張強度と焼鈍した後の引張強度との中間の引張強度の値を有する銅線の熱処理温度を求め、求めた熱処理温度を半軟化温度とした。
【0041】
Ti濃度及びTi/O原子数比は、ICP発光分析器により測定した。銅合金材料のO濃度及びS濃度は、赤外線発光分析器(Leco:登録商標)により測定した。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、Ti/Oの原子数比を0.5にすることにより、半軟化温度が125℃、導電率が101.8%IACSになることが確認できた。ここで、半軟化温度が140度未満であり、かつ導電率が98%IACSを超える特性を有する試料を○と判定し、それ以外の試料を×と判定している。実施例1の銅合金材料は、半軟化温度が130℃未満であり、かつ導電率が98%IACSを超える特性を有するため、判定を○としている。なお、実施例1のTi濃度は、12質量ppm、O濃度は、8質量ppm、S濃度は、4質量ppmである。
【0043】
(実施例2)
実施例2では、Ti/Oの原子数比を0.93にすることにより、半軟化温度が126.2℃、導電率が101.5%になることが確認できた。実施例2の銅合金材料は、半軟化温度が130℃未満であり、かつ導電率が98%IACSを超える特性を有するため、判定を○としている。なお、実施例2のTi濃度は、25質量ppm、O濃度は、9質量ppm、S濃度は、3質量ppmである。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、Ti/Oの原子数比を0.042にすることにより、銅合金材料の半軟化温度が173.8℃、導電率が102.0%になることが確認できた。比較例1の銅合金材料は、導電率が98%IACSを超えるが、半軟化温度が140℃を超える特性であるため、判定を×としている。なお、比較例1のTi濃度は、1質量ppm、O濃度は、8質量ppm、S濃度は、4質量ppmである。
【0045】
(比較例2)
比較例2では、Ti/Oの原子数比を2.08にすることにより、銅合金材料の半軟化温度が150.0℃、導電率が97.5%になることが確認できた。比較例1の銅合金材料は、導電率が98%IACS未満であり、半軟化温度が140℃を越える特性であるため、判定を×としている。なお、比較例2のTi濃度は、50質量ppm、O濃度は、8質量ppm、S濃度は、3質量ppmである。
【表1】
【0046】
図1から、Ti/O原子数比が0.33〜1.5の範囲では、銅合金材料の半軟化温度が140℃未満になることが確認できた。なお、
図1には、表1に示されていない銅合金材料についても図示している。
【0047】
さらに、Ti/O原子数比が0.5〜1の範囲では、銅合金材料の半軟化温度が130℃未満になることが確認された。また、表1から、Ti/O原子数比が0.5〜1の範囲の銅合金材料は、導電率が98%IACS以上であることが確認できた。
【0048】
[変形例]
なお、本発明の実施の形態は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内で種々に変形、実施が可能である。例えば、銅合金材料は、低温で軟質化する銅線だけではなく、銅箔、銅板、銅棒等の他の形状にすることができる。
【0049】
また、銅合金材料を複数本撚り合わせた撚線としてもよい。
【0050】
また、銅合金材料を用いた銅線、又は銅合金材料を用いた撚線の外周に絶縁層を設けた電力用ケーブル又は信号用ケーブルとしてもよい。
【0051】
中心導体を銅合金材料により形成し、その外周に絶縁層及び編組線を設けた同軸ケーブルとしてもよい。
【0052】
また、上記実施の形態では、銅合金材料がSCR連続鋳造圧延装置により製造されるものとして説明したが、銅合金材料は、双ロール式連続鋳造圧延装置及びプロペルチ式連続鋳造圧延装置等の鋳造と圧延が一体化した装置で製造してもよい。