(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、樹脂フィルム上に金属膜を被覆して得られる多種類のフレキシブル配線基板が用いられ、このフレキシブル配線基板には、樹脂フィルムの両面に金属膜を成膜した金属膜付樹脂フィルムが用いられている。また、金属膜付樹脂フィルムは折り曲げて使用されることがあるため、樹脂フィルムに対する金属膜の密着力が高いことが必要となり、更に、配線パターンの繊細化、高密度化に伴い、金属膜にピンホールが存在すると断線の原因になり易いためピンホールが無いことも求められている。
【0003】
そして、この種の金属膜付樹脂フィルムの製造方法として、従来、金属箔を接着剤により樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングしかつ乾燥させて製造する方法、および、樹脂フィルムに真空成膜法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等)若しくは湿式めっき法により金属膜を成膜して製造する方法等が知られている。
【0004】
また、真空成膜法若しくは湿式めっき法を用いる三番目の製造方法として、成膜速度は遅いが密着力に優れる金属膜を形成できるスパッタリング法を用いて金属膜付樹脂フィルムを製造する方法が特許文献1に開示され、また、成膜速度は遅いが密着力に優れる金属膜を形成できるスパッタリング法を用いて薄膜の金属ベース層をまず成膜し、次いで成膜速度の速い湿式めっき法を用い上記金属ベース層上に厚膜の金属膜
(すなわち、金属めっき層)を形成して金属膜付樹脂フィルム
(すなわち、金属めっき層付樹脂フィルム)を効率よく製造する方法が特許文献2に開示されている。尚、特許文献1には、金属膜の密着力を更に高めるため、2種類のスパッタリングターゲットを用いた方法も開示されている。すなわち、モネルメタル等をスパッタリングターゲットとして薄膜の金属シード層をまず成膜し、次いで銅等をスパッタリングターゲットとして上記金属シード層上に厚膜の金属膜を成膜する方法が提案されている。
【0005】
そして、成膜速度の速い湿式めっき法と成膜速度の遅いスパッタリング法を併用する特許文献2の製造方法は、スパッタリング法のみを用いる特許文献1の方法と比較して効率に優れるため、特許文献2に記載された製造方法が広く利用されている。
【0006】
また、スパッタリング法により長尺状樹脂フィルム(長尺体)の両面に効率的に金属膜を成膜する装置としてはスパッタリングウェブコータが広く用いられ、特許文献4や特許文献5にスパッタリングウェブコータの一例が開示されている。
【0007】
ところで、スパッタリングウェブコータを用いて長尺状樹脂フィルム(長尺体)両面に金属膜を成膜した場合、成膜直後の金属膜は表面活性が高い状態にある。このため、両面に金属膜が成膜された直後における長尺状樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取った場合、金属膜同士が貼り付いてしまうブロッキングと称される現象が発生することがあり、長尺状樹脂フィルムの一方の面に成膜された金属膜が剥がれて他方の面に貼り付いたり、フィルム皺を生じさせたりすることがあった。尚、ブロッキング現象のメカニズムを考察すると、金属膜が成膜された長尺状樹脂フィルム(長尺体)を大気圧下で巻き取るならば、長尺状樹脂フィルムの金属膜同士間に気体が巻き込まれるため上記ブロッキング現象は起こり難くなる。しかし、稼働中のスパッタリングウェブコータ内部においては減圧雰囲気下にあり、長尺状樹脂フィルムの金属膜同士間に巻き込まれる気体が存在しないため、上記ブロッキング現象が起こってしまう。
【0008】
この問題を解決する方法として、特許文献3では、成膜直後における金属膜の表面に真空ポンプ油等の有機物液体を塗布する方法を提案している。しかし、特許文献3で提案された方法は、真空ポンプ油等の有機物液体を除去しなければならない問題と、減圧雰囲気下のスパッタリングウェブコータ内で有機物液体を取り扱う必要があるため、スパッタリングウェブコータにおけるメンテナンスの頻度が増えてしまう問題が存在した。
【0009】
また、特許文献4では、成膜直後における金属膜の表面にイオンビーム照射処理あるいはプラズマ処理を施して酸化膜を形成し、上記ブロッキングを防止する方法を提案している。しかし、特許文献4で提案された方法は、イオンビーム等を照射した際の金属膜のスパッタリング作用に起因して成膜装置内が汚染されることがあり、その分、メンテナンスの頻度が増える可能性が懸念される。
【0010】
また、特許文献5では、長尺状樹脂フィルム(長尺体)の両面にスパッタリングウェブコータを用いて金属膜を成膜し、かつ、金属膜表面にスパッタリングウェブコータにより連続して金属酸化物薄膜を成膜してブロッキングを防止する方法を提案している。しかし、特許文献5で提案された方法においては、金属膜表面にスパッタリングウェブコータにより連続して金属酸化物薄膜を成膜する際、金属酸化物薄膜の膜厚が薄過ぎるとピンホールの存在等によりブロッキングの発生が懸念され、反対に膜厚が厚過ぎると金属酸化物薄膜のエッチング処理(両面に金属膜が成膜された長尺状樹脂フィルムを金属ベース層付樹脂フィルムとして適用する場合、湿式めっき法により金属ベース層上に厚膜の金属膜を形成する前に金属酸化物薄膜を除去する必要がある)を煩雑にする悪影響が懸念される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、両面に金属膜が成膜された直後における
長尺状樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取った際、金属膜同士が貼り付いてしまうブロッキング現象が起こり難い両面成膜方
法を提供し、合わせて上記両面成膜方法を用いた金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明者は、スパッタリングウェブコータを用いて金属膜表面に金属酸化物薄膜を連続的に成膜する特許文献5の方法に代えて、非特許文献1に記載された原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法の採用を試みた。すなわち、ALD法は、分子層(原子層)を構成する元素が含まれる原料ガスを真空装置内に交互に導入し、被成膜体の最表面に吸着された分子と次に導入される原料ガスとの反応により分子層を形成する方法(これをボトムアップ成膜と呼ぶ場合がある)で、スパッタリングウェブコータを用いるスパッタリング法に較べて成膜速度は遅いが、スパッタリング法のようにターゲットからはじき出された微粒子やクラスターを被成膜体上に被着させて積み重ねる手法でないため、ピンホールがない極薄の皮膜を形成することができ、しかも被成膜体表面の凹凸に影響されずに微細な隙間へも極薄の皮膜を形成することができる。
【0015】
そこで、本発明者は、長尺状樹脂フィルム等長尺体の両面に金属膜を成膜した後、上記ALD法を用いて極薄(数原子層以下)でかつピンホールがない金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜を成膜したところブロッキングが低減されることを見出すに至った。
【0016】
尚、金属膜表面に極薄(数原子層以下)でかつピンホールのない金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜が形成された長尺状樹脂フィルム(長尺体)を上述の金属ベース層付樹脂フィルムとして適用(すなわち、成膜速度の遅いスパッタリング法と成膜速度の速い湿式めっき法を併用する特許文献2に記載の方法を採用)した場合、わずかなエッチング処理により極薄(数原子層以下)でかつピンホールのない金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜を除去できるため、上記湿式めっき工程に悪影響を与えない利点も有する。
【0017】
本発明はこのような技術的発見により完成されたものである。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、
減圧雰囲気下においてロール・ツー・ロールで搬送される
長尺状樹脂フィルムの両面に金属膜を成膜する
両面成膜方法であって、成膜された各金属膜上に湿式めっき法による金属めっき層を形成して金属めっき層付樹脂フィルムが製造される上記金属膜の両面成膜方法において、
長尺状樹脂フィルムの搬送路上に設けられたキャンロールとスパッタカソードを有する第一スパッタリング手段により上記
長尺状樹脂フィルムの一方の面に金属膜を成膜する第一成膜工程と、
第一スパッタリング手段の下流側搬送路上に設けられたキャンロールとスパッタカソードを有する第二スパッタリング手段により上記
長尺状樹脂フィルムの他方の面に金属膜を成膜する第二成膜工程と、
第二スパッタリング手段の下流側搬送路上において上記
長尺状樹脂フィルムの少なくとも一方の金属膜上に原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜を成膜する第三成膜工程と、
金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜が成膜された
長尺状樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取る巻き取り工程、
を具備し、かつ、上記第一成膜工程、第二成膜工程および第三成膜工程を連続して行なう
と共に、
第三成膜工程のALD法で成膜される金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜は、湿式めっき法による金属めっき層が形成される前段階において除去されることを特徴とするものである。
【0019】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の両面成膜方法において、
上記第三成膜工程
のALD法で成膜される金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜が、Ti、Zn、Ce、Ni、Sn、Si、Al、Cuから選ばれる少なくとも1種の金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜であることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の両面成膜方法において、
上記
長尺状樹脂フィルムが、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレンフィルムから選ばれる1種で構成されることを特徴とする。
【0021】
更に、請求項
4に係る発明は、
両面成膜方法により長尺状樹脂フィルムの両面に成膜される上記金属膜が金属シード層とこの金属シード層上に形成される金属ベース層とで構成され
、湿式めっき法による金属めっき層が形成される前段階の金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法において、
上記金属シード層がNi合金で構成され、上記金属ベース層がCuまたはCu合金で構成されると共に、上記金属シード層と金属ベース層を請求項1〜3のいずれかに記載の両面成膜方法により成膜することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1〜3に係る両面成膜方法、および、上記両面成膜方法を用いた請求項
4に係る金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法は、
長尺状樹脂フィルムの搬送路上に設けられたキャンロールとスパッタカソードを有する第一スパッタリング手段により上記
長尺状樹脂フィルムの一方の面に金属膜を成膜する第一成膜工程と、
第一スパッタリング手段の下流側搬送路上に設けられたキャンロールとスパッタカソードを有する第二スパッタリング手段により上記
長尺状樹脂フィルムの他方の面に金属膜を成膜する第二成膜工程と、
第二スパッタリング手段の下流側搬送路上において上記
長尺状樹脂フィルムの少なくとも一方の金属膜上に原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜を成膜する第三成膜工程と、
金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜が成膜された
長尺状樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取る巻き取り工程、
を具備し、かつ、上記第一成膜工程、第二成膜工程および第三成膜工程を連続して行なう
と共に、
第三成膜工程のALD法で成膜される金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜は、湿式めっき法による金属めっき層が形成される前段階において除去されることを特徴としている。
【0023】
そして、上記第三成膜工程において、金属膜が両面に成膜された
長尺状樹脂フィルムの少なくとも一方の金属膜上にピンホールのない金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜を形成しているため、上述したブロッキング現象を確実に防止でき、しかも、ALD法により成膜された金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜は、わずかなエッチング処理にて除去可能な極薄(数原子層以下)の皮膜であるため、両面に金属膜が成膜された
長尺状樹脂フィルムを金属ベース層付樹脂フィルムとして適用した場合に湿式めっき工程に悪影響を与えない効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
(1)金属ベース層付き樹脂フィルム
フレキシブル配線基板に適用される金属膜付樹脂フィルムを製造する場合、上述したように、成膜速度の速い湿式めっき法と成膜速度の遅いスパッタリング法を併用する特許文献2に記載の方法が広く利用されている。
【0029】
そして、成膜速度の速い湿式めっき法にて厚膜の金属膜を形成する前段階の金属膜付樹脂フィルム(すなわち、長尺状樹脂フィルムとその両面にスパッタリング法により成膜された金属膜とで構成される前駆体としての金属膜付樹脂フィルム)が、特許文献2に記載された方法で用いられる金属ベース層付き樹脂フィルムである。
【0030】
(1-1)従来技術に係る金属ベース層付樹脂フィルム
従来技術に係る金属ベース層付樹脂フィルム(金属ベース層を構成する金属膜が両面に成膜された
長尺状樹脂フィルム)は、
図3に示すように、長尺状の樹脂フィルム1と、この両面にスパッタリング法により成膜された金属シード層2と、この金属シード層2上にスパッタリング法により成膜された金属ベース層3とで構成されている。
【0031】
そして、
図3に示された金属ベース層付樹脂フィルムの金属ベース層3上に湿式めっき法により厚膜の金属膜
(すなわち、金属めっき層)を形成して、フレキシブル配線基板に適用される金属膜付樹脂フィルム
(すなわち、金属めっき層付樹脂フィルム)が得られる。
【0032】
尚、スパッタリング法にて長尺状の樹脂フィルム1両面に、金属シード層2と金属ベース層3とを連続して成膜した直後においては、金属ベース層3等金属膜の表面活性が高い状態にあるため、金属ベース層3等が成膜された長尺状の樹脂フィルム1を巻き取りロールに巻き取った場合、上述したように金属膜同士が貼り付いてしまうブロッキング現象が発生し、樹脂フィルム1の一方の面に成膜された金属膜が剥がれて他方の面に貼り付いたり、フィルム皺を生じさせたりする問題が存在する。
【0033】
(1-2)本発明に係る金属ベース層付樹脂フィルム
本発明に係る金属ベース層付樹脂フィルム(金属ベース層を構成する金属膜が両面に成膜された
長尺状樹脂フィルム)は、
図4に示すように、長尺状の樹脂フィルム11と、樹脂フィルム11の両面にスパッタリング法により成膜された金属シード層12と、金属シード層12上にスパッタリング法により成膜された金属ベース層13と、金属ベース層13上に原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により成膜された金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜から成るブロッキング防止層14とで構成されている。
【0034】
そして、湿式めっき法により厚膜の金属膜
(すなわち、金属めっき層)を形成する際、
図4に示すブロッキング防止層14がエッチングにより除去され、
図5に示すように、スパッタリング法により成膜された金属ベース層13上に湿式めっき法により金属層
(金属めっき層)18が成膜されて、フレキシブル配線基板に適用される金属膜付樹脂フィルム
(すなわち、金属めっき層付樹脂フィルム)が得られる。
【0035】
尚、ALD法により成膜された金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜から成るブロッキング防止層14は、わずかなエッチング処理にて除去可能な極薄(数原子層以下)の皮膜であることから、湿式めっき工程に悪影響を与えない利点を有する。
【0036】
また、上記金属層18が形成される前の前駆体、すなわち、長尺状の樹脂フィルム11と、樹脂フィルム11の両面にスパッタリング法により成膜された金属シード層12と、金属シード層12上にスパッタリング法により成膜された金属ベース層13と、金属ベース層13上にALD法により成膜された金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜から成るブロッキング防止層14とで構成される前駆体が、上述したように本発明に係る金属ベース層付樹脂フィルムである。
【0037】
また、本発明で適用できる長尺状樹脂フィルム(長尺体)として、例えば、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム等のフッ素系樹脂フィルムが挙げられ、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
【0038】
(2)両面成膜方法
本発明に係る両面成膜方法は、減圧雰囲気下においてロール・ツー・ロールで搬送される長尺状樹脂フィルム(長尺体)の両面に金属膜を成膜する方法で、
長尺状樹脂フィルムの搬送路上に設けられたキャンロールとスパッタカソードを有する第一スパッタリング手段により上記
長尺状樹脂フィルムの一方の面に金属膜を成膜する第一成膜工程と、
第一スパッタリング手段の下流側搬送路上に設けられたキャンロールとスパッタカソードを有する第二スパッタリング手段により上記
長尺状樹脂フィルムの他方の面に金属膜を成膜する第二成膜工程と、
第二スパッタリング手段の下流側搬送路上において上記
長尺状樹脂フィルムの少なくとも一方の金属膜上に原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜を成膜する第三成膜工程と、
金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜が成膜された
長尺状樹脂フィルムを巻き取りロールに巻き取る巻き取り工程、
を具備し、かつ、上記第一成膜工程、第二成膜工程および第三成膜工程を連続して行なう
と共に、
第三成膜工程のALD法で成膜される金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜は、湿式めっき法による金属めっき層が形成される前段階において除去されることを特徴とする。
【0039】
尚、上記ブロッキング防止層14は、ALD法により成膜された極薄(数原子層以下)でかつピンホールのない金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜で構成されている。
【0040】
(2-1)ALD法
原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法は、上述したように分子層(原子層)を構成する元素が含まれる原料ガスを真空装置内に交互に導入し、真空装置内に配置された被成膜体の最表面に吸着された分子と、次に導入される原料ガスとの反応により単原子(単分子)層ずつ堆積させる方法で、堆積する層の膜厚を原子層レベルで制御できる方法である。
【0041】
そして、ALD法は、被成膜体側から単原子(単分子)層ずつ堆積しながら成膜が始まる方法のため、長尺状樹脂フィルム(長尺体)両面に成膜された金属膜に対してピンホールのない金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜から成るブロッキング防止層を形成することが可能である。
【0042】
このALD法は、上述した真空成膜法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等)において、金属クラスターが被成膜体上に飛来し、被成膜体表面に付着かつ上記クラスターが結合して膜を形成していくため、潜在的に該クラスター間にピンホールを作ってしまう可能性を有する真空成膜法と大きく異なっている。また、直進性が高いスパッタリング法や真空蒸着法では成膜が困難な凹凸を有する被成膜体面上にもALD法では均一な成膜が可能である。
【0043】
そして、両面に金属膜が成膜された長尺状樹脂フィルム(長尺体)を金属ベース層付樹脂フィルムに用いた場合、後工程である湿式めっき工程に大きな影響を与えないわずかなエッチング処理で除去可能な極薄(数原子層以下)の金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜(ブロッキング防止層)をピンホールが無い状態で形成できる方法はALD法以外に存在しない。更に、ALD法においては原料がガスであるため、スパッタリング法や真空蒸着法で多発するスプラッシュ(膜原料が固まりのまま被成膜体に飛来すること)の発生もない。従って、スプラッシュが成膜中の金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜に付着し、それが脱落してピンホールになるような現象もない。また、ALD法で用いられる真空装置においては、PVD法やCVD法で用いられる真空装置に必要であった高価な電源ユニット等が不要なため従来の成膜方法と比較して成膜コストの低減も図れる。
【0044】
次に、ALD法では、分子層を構成する元素のそれぞれが含まれる第1反応ガス(原料ガス)と第2反応ガス(原料ガス)を、真空装置(減圧室)内に交互に導入する下記に示すA〜I工程で1サイクルを構成し、このサイクル数により膜厚の調整が行なわれる。
【0045】
A.真空装置に第1反応ガス(原料ガス)を導入
B.被成膜体の最表面に第1反応ガスが化学吸着
C.被成膜体の最表面が第1反応ガスで飽和
D.真空装置から過剰な第1反応ガスおよび副生成物を排気
E.真空装置に第2反応ガス(原料ガス)を導入
F.被成膜体の最表面に吸着していた第1反応ガスと第2反応ガスが反応
G.被成膜体の最表面が第2反応ガスで飽和
I.真空装置から過剰な第2反応ガスおよび副生成物を排気
【0046】
そして、ALD法では、SiO
2、Al
2O
3、ZrO
2、HfO
2、Ta
2O
5、TiO
2等の酸化物膜、AlN、TaN、TiN、TaSiN、TiSiN等の窒化物膜、Cu、Ru、Ir、Ni、Pt等の金属膜、CaF
2、SrF
2、MgF
2等のフッ化物膜、GaAs、InP、GaP等の化合物膜の成膜が可能である。
【0047】
例えば、ALD法でもっとも多く成膜が行われているAl
2O
3の単原子(単分子)層を形成する場合、下記(i)〜(iv)の4工程で1サイクルが完成する。
【0048】
(i)第1反応ガスである水分子を導入して被成膜体の最表面にOH基を吸着させる。
(1層目以降の反応)
2H
2O+:O−Al(CH
3)
2 → :Al−O−Al(OH)
2+2CH
4
(ii)過剰水分子をパージ排気する。
(iii)Al
2O
3膜の第2反応ガス(原料ガス)であるTMA[Trimethyl Aluminum:Al(CH
3)
3]ガスを導入する。TMA分子がOH基と反応してCH
4ガスが発生する。
(1層目の反応)
Al(CH
3)
3+:O−H → :O−Al(CH
3)
2+CH
4
(1層目以降の反応)
Al(CH
3)
3+:Al−O−H → :Al−O−Al(CH
3)
2+CH
4
(iv)過剰なTMAガスとCH
4ガスをパージ排気する。
【0049】
この4工程で約0.1nmのAl
2O
3膜が形成されるので、要求する膜厚に到達するまで上記4工程を繰り返して膜厚を増加させる。
【0050】
ALD法においては反応を促進させるため、被成膜体を100〜300℃に加熱等の処理を施すことが好ましい。
【0051】
本発明に係る金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法において、ブロッキング防止層を構成する金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜を成膜する第1反応ガスと第2反応ガスの組み合わせ例について表1に示す。
【0052】
【表1】
(注)
「Me」: Methyl
「Et」: Ethyl
「OMe」: Methoxy
「OEt」: Ethoxy
「acac」: Acetylaceto-nato
「thd」: 2, 2, 6, 6-Tetramethyl-3, 5-heptanedionate
「apo」: 2-Amino-Pent-2-en-4-onate
「dmg」:Dimethyl-glyoximato
「hFac」: 1, 1, 1, 5, 5-HexaFluoro-acetylacetonto
【0053】
(3)従来技術に係る両面成膜装置(スパッタリングウェブコータ)
従来技術に係る両面成膜装置(スパッタリングウェブコータ)は、
図1に示すように、長尺状樹脂フィルム(長尺体)Fを巻き出す巻き出しロール20と長尺状樹脂フィルムFを巻き取る巻き取りロール36が真空装置(減圧室)内に設けられ、かつ、これ等巻き出しロール20と巻き取りロール36間の搬送路上には長尺状樹脂フィルムFの一方の面に金属膜(金属シード層と金属ベース層)を成膜するための第一スパッタリングウェブコータと、長尺状樹脂フィルムFの他方の面に金属膜(金属シード層と金属ベース層)を成膜するための第二スパッタリングウェブコータが設けられている。
【0054】
また、上記第一スパッタリングウェブコータは、水冷温調されたキャンロール24とこの外周面に沿って配置された4台のマグネトロンスパッタカソード40、41、42、43とで構成され、上記第二スパッタリングウェブコータは、水冷温調されたキャンロール32とこの外周面に沿って配置された4台のマグネトロンスパッタカソード44、45、46、47とで構成されている。
【0055】
また、上記巻き出しロール20と巻き取りロール36間には、ロール・ツー・ロールの搬送手段を構成する複数のフリーロール21、22、23,25、26、27、28、29、31、33、34、35が長尺状樹脂フィルムFの搬送方向に亘ってそれぞれ設けられている。
【0056】
また、上記巻き出しロール20と巻き取りロール36はパウダークラッチ等により張力バランスが保たれており、水冷温調されたキャンロール24、32の回転により長尺状樹脂フィルムFが搬送される。尚、上記巻き出しロール20と巻き取りロール36間には、駆動部を持たない上述のフリーロール21、22、23,25、26、27、28、29、31、33、34、35が設けられているが、張力によりキャンロール24、32の外周面に長尺状樹脂フィルムFを密着させる制御方法を採る場合には、上記フリーロール22、26、29、34に張力センサが取り付けられることもある。また、周速度差制御によりキャンロール24、32の外周面に長尺状樹脂フィルムFを密着させる方法を採る場合にはフリーロール23、25、31、33が駆動ロールとなることもある。
【0057】
また、第一スパッタリングウェブコータおよび第二スパッタリングウェブコータを用いて金属膜の成膜を行う前段の位置に、アルゴンガス、酸素ガス等を導入したプラズマ処理あるいはイオンビーム処理を行なう表面処理ユニット(図示せず)を配置することも可能である。表面処理ユニットを配置することにより、長尺状樹脂フィルムFの両面をクリーニングおよび活性化させることができる。
【0058】
上記巻き出しロール20から巻き出された長尺状樹脂フィルムFは、水冷温調されたキャンロールと4台のマグネトロンスパッタカソードをそれぞれ有する第一スパッタリングウェブコータと第二スパッタリングウェブコータの成膜領域に搬送される。そして、第一スパッタリングウェブコータの成膜領域で、金属シード層形成用と金属ベース層形成用の金属ターゲットが取り付けられた4台のマグネトロンスパッタカソード40、41、42、43(例えば、マグネトロンスパッタカソード40が金属シード層形成用、マグネトロンスパッタカソード41、42、43が金属ベース層形成用)を用いて水冷温調されたキャンロール24の外周面上に巻き付けられた長尺状樹脂フィルムFの一方の面(第1成膜面と称する)に金属シード層と金属ベース層から成る金属膜が成膜され、更に、金属シード層形成用と金属ベース層形成用の金属ターゲットが取り付けられた4台のマグネトロンスパッタカソード44、45、46、47(例えば、マグネトロンスパッタカソード44が金属シード層形成用、マグネトロンスパッタカソード45、46、47が金属ベース層形成用)を用いて水冷温調されたキャンロール32の外周面上に巻き付けられた長尺状樹脂フィルムFの他方の面(第2成膜面と称する)に金属シード層と金属ベース層から成る金属膜が成膜される。
【0059】
尚、上記金属ベース層のスパッタリング成膜には板状のターゲットを使用することが好ましいが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。このため、ノジュール(異物の成長)の発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することもできる。
【0060】
ところで、上記両面成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて、長尺状樹脂フィルムFの第1成膜面と第2成膜面に金属膜(金属シード層と金属ベース層)が成膜された長尺状樹脂フィルムFを上記巻き取りロール36に巻き取ってしまい、次工程の湿式めっきで成膜後の長尺状樹脂フィルム(金属ベース層付耐熱性樹脂フィルム)Fを巻き出そうとしたときに、ブロッキングによりフィルム同士が張り付いてしまい、無理に引き剥がそうとすると金属ベース層あるいは金属シードと金属ベース層が剥離してしまうことがあり、従来技術に係る両面成膜装置(スパッタリングウェブコータ)は改善の余地を有していた。
【0061】
(4)
本発明で用いられる両面成膜装置
第一スパッタリング手段により長尺状樹脂フィルム(長尺体)の一方の面(第1成膜面)に金属膜(金属シード層と金属ベース層)を成膜し、第二スパッタリング手段により長尺状樹脂フィルムの他方の面(第2成膜面)に金属膜(金属シード層と金属ベース層)を成膜すると共に、長尺状樹脂フィルムの少なくとも一方の金属膜(金属シード層と金属ベース層)上に原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法により金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜から成るブロッキング防止層を形成する本発明
で用いられる両面成膜装置(金属ベース層付樹脂フィルムの製造装置)は、第一減圧室と隔壁を介し上記第一減圧室に隣接して設けられた第二減圧室を具備し、上記第一減圧室内には、長尺状樹脂フィルムを巻き出す巻き出しロールと、この巻き出しロールから巻き出された長尺状樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有しかつ上記長尺状樹脂フィルムの一方の面(第1成膜面)に金属膜(金属シード層と金属ベース層)を成膜する第一スパッタリングウェブコータと、この第一スパッタリングウェブコータにより上記金属膜が成膜された長尺状樹脂フィルムが巻き付けられるキャンロールとスパッタカソードを有しかつ上記長尺状樹脂フィルムの他方の面(第2成膜面)に金属膜(金属シード層と金属ベース層)を成膜する第二スパッタリングウェブコータが設けられ、かつ、上記第二減圧室内には、隔壁の開口部を介し搬入されてくる長尺状樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1プラズマ反応室と第2反応ガスを導入する第2プラズマ反応室が交互に少なくとも1組以上配置された金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜(ブロッキング防止層)の成膜手段と、上記金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜(ブロッキング防止層)が成膜された長尺状樹脂フィルムを巻き取る巻き取りロールが設けられていると共に、ロール・ツー・ロールの搬送手段を構成する複数のロール群が長尺状樹脂フィルムの搬送方向に亘り上記第一減圧室と第二減圧室にそれぞれ設けられていることを特徴としている。
【0062】
ここで、ALD法は、本来、静止した被成膜体に対し反応ガスを入れ換えながら成膜を行う方法である。そこで、連続搬送される長尺状樹脂フィルム(長尺体)にALD法による金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜(ブロッキング防止層)の成膜を行うため、本発明
で用いられる両面成膜装置においては、上述した第二減圧室内に長尺状樹脂フィルムの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室を交互に少なくとも1組以上配置する構成を採っている。そして、本発明
で用いられる両面成膜装置においては、第1反応ガスを導入する第1反応室と第2反応ガスを導入する第2反応室が交互に少なくとも1組以上配置されている第一減圧室の領域を長尺状樹脂フィルム(長尺体)が通過することにより、上述したALD法の各反応を各反応室で行いながら金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜(ブロッキング防止層)が形成される。
【0063】
また、本発明
で用いられる両面成膜装置において、ALD法による金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜(ブロッキング防止層)の成膜が行なわれる第二減圧室と、スパッタリング法による金属膜(金属シード層と金属ベース層)の成膜が行なわれる第一減圧室とでは成膜に適したガス圧が異なるため、各減圧室を上記隔壁で区画し、差動排気によりそれぞれの成膜に適したガス圧を保つ必要がある。また、ALD法においては、反応を促進させるため上述したように被成膜体に対し加熱等の処理を施すことが望ましい。
【0064】
(5)金属ベース層付樹脂フィルムの製造装置
本発明に係る両面成膜方法を適用した金属ベース層付樹脂フィルムの製造方法に利用される金属ベース層付樹脂フィルムの製造装置は、
図2に示すように、第一減圧室90と、隔壁92を介し第一減圧室90に隣接して設けられた第二減圧室91を具備しており、上記隔壁92にはスリットロールを組み込んだ開口部65が設けられている。
【0065】
まず、上記第一減圧室90には、長尺状樹脂フィルム(長尺体)Fを巻き出す巻き出しロール50と、巻き出された長尺状樹脂フィルムFの一方の面(第1成膜面)に金属膜(金属シード層と金属ベース層)を成膜する第一スパッタリングウェブコータと、長尺状樹脂フィルムFの他方の面に金属膜(金属シード層と金属ベース層)を成膜する第二スパッタリングウェブコータが設けられている。また、上記第一スパッタリングウェブコータは、水冷温調されたキャンロール54とこの外周面に沿って配置された4台のマグネトロンスパッタカソード70、71、72、73とで構成され、上記第二スパッタリングウェブコータは、水冷温調されたキャンロール61とこの外周面に沿って配置された4台のマグネトロンスパッタカソード74、75、76、77とで構成されている。
【0066】
他方、上記第二減圧室91には、隔壁92の開口部65を介し搬入される長尺状樹脂フィルムFの搬送方向に亘り第1反応ガスを導入する第1反応室80、82と第2反応ガスを導入する第2反応室81、83が交互に2組配置されて成るALD法による金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜の成膜手段と、上記金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜(ブロッキング防止層)が成膜された長尺状樹脂フィルムFを巻き取る巻き取りロール66がそれぞれ設けられている。
【0067】
また、スパッタリング法による金属膜(金属シード層と金属ベース層)の成膜が行なわれる第一減圧室90と、ALD法によるブロッキング防止層の成膜が行なわれる第二減圧室91とでは成膜に適したガス圧が異なるため、スリットロールが組み込まれた開口部65を有する上記隔壁80により各領域が区画されて差動排気されている。
【0068】
また、第一減圧室90内の巻き出しロール50と第二減圧室91内の巻き取りロール66間には、ロール・ツー・ロールの搬送手段を構成する複数のフリーロール51、52、53,55、56、57、58、59、60、62、63、64、67、68が長尺状樹脂フィルムFの搬送方向に亘ってそれぞれ設けられている。
【0069】
そして、長尺樹脂フィルムFは、第一減圧室90内の上記巻き出しロール50から巻き出されて第二減圧室91内の巻き取りロール66により巻き取られる。また、巻き出しロール50と巻き取りロール66はパウダークラッチ等により張力バランスが保たれており、水冷温調されたキャンロール54、61の回転により長尺樹脂フィルムFが搬送される。また、上記巻き出しロール50と巻き取りロール66間には、駆動部を持たない上述のフリーロール51、52、53,55、56、57、58、59、60、62、63、64、67、68が設けられているが、張力によりキャンロール54、61の外周面に長尺樹脂フィルムFを密着させる制御方法を採る場合には、上記フリーロール52、56、59、63に張力センサが取り付けられることもある。また、周速度差制御によりキャンロール54、61の外周面に長尺樹脂フィルムF密着させる方法を採る場合にはフリーロール53、55、60、62が駆動ロールとなることもある。
【0070】
また、第一スパッタリングウェブコータおよび第二スパッタリングウェブコータを用いて金属膜の成膜を行う前段の位置に、アルゴンガス、酸素ガス等を導入したプラズマ処理あるいはイオンビーム処理を行なう表面処理ユニット(図示せず)を配置することも可能である。表面処理ユニットを配置することにより、長尺状樹脂フィルムFの両面をクリーニングおよび活性化させることができる。
【0071】
上記第一減圧室90内の巻き出しロール50から巻き出された長尺樹脂フィルムFは、水冷温調されたキャンロールと4台のマグネトロンスパッタカソードをそれぞれ有する第一スパッタリングウェブコータと第二スパッタリングウェブコータの成膜領域に搬送される。そして、第一スパッタリングウェブコータの成膜領域で、金属シード層形成用と金属ベース層形成用の金属ターゲットが取り付けられた4台のマグネトロンスパッタカソード70、71、72、73(例えば、マグネトロンスパッタカソード70が金属シード層形成用、マグネトロンスパッタカソード71、72、73が金属ベース層形成用)を用いて水冷温調されたキャンロール54の外周面上に巻き付けられた長尺状樹脂フィルムFの一方の面(第1成膜面)に金属シード層と金属ベース層から成る金属膜が成膜され、更に、金属シード層形成用と金属ベース層形成用の金属ターゲットが取り付けられた4台のマグネトロンスパッタカソード74、75、76、77(例えば、マグネトロンスパッタカソード74が金属シード層形成用、マグネトロンスパッタカソード75、76、77が金属ベース層形成用)を用いて水冷温調されたキャンロール61の外周面上に巻き付けられた長尺状樹脂フィルムFの他方の面(第2成膜面)に金属シード層と金属ベース層から成る金属膜が成膜された後、第一減圧室90から上記隔壁92の開口部65を通って第二減圧室91内に搬入される。
【0072】
そして、金属シード層と金属ベース層から成る金属膜が成膜された長尺樹脂フィルムFは、第二減圧室91内の第1反応ガスが導入された第1反応室80、第2反応ガスが導入された第2反応室81、第1反応ガスが導入された第1反応室82、第2反応ガスが導入された第2反応室82を通過することで、上述したALD法による反応が起こって2原子(分子)層のブロッキング防止層(金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜)が両面に成膜される。尚、ブロッキング防止層の原子層を増やしたい場合は、第1反応ガスが導入された第1反応室と第2反応ガスが導入された第2反応室を増設すればよい。金属シード層と金属ベース層から成る各金属膜上にブロッキング防止層がそれぞれ成膜された長尺樹脂フィルムFは、第二減圧室91内の巻き取りロール66に巻き取られて本発明に係る金属ベース層付樹脂フィルムが得られる。
【0073】
上記金属ベース層付樹脂フィルムの製造装置により製造された金属ベース層付樹脂フィルムは、巻き取りロール66に巻き取られる際に上記ブロッキング防止層が介在して金属膜同士が接触しないためブロッキング現象が低減され、金属ベース層が接触した側の金属ベース層に張り付いて剥離してしまうことがない。
【0074】
また、得られた金属ベース層付樹脂フィルムの金属ベース層上に湿式めっき法を用いて膜厚の金属層を形成する際、電気めっき処理のみで行う場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合がある。湿式めっき処理は常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0075】
そして、上記ブロッキング防止層(金属酸化物膜若しくは金属窒化物膜)は極薄(数原子層以下)の皮膜であることから、湿式めっき前のエッチング処理により容易に除去することが可能である。
【0076】
尚、乾式(スパッタリング法)・湿式めっき法による金属
層(金属ベース層と金属
めっき層)の合計厚さは厚くとも18μm以下にすることが好ましい。
【0077】
(6)金属
めっき層付樹脂フィルムの用途
このようにして得られた金属
めっき層付樹脂フィルムを用い、この金属
めっき層付樹脂フィルムの少なくとも片面に配線パターンを個別に形成する。また、所定の位置に層間接続のためのヴィアホールを形成して各種用途に用いることもできる。具体的に説明すると、
(a)高密度配線パターンをフレキシブルシートの少なくとも片面に個別に形成して利用する。
(b)配線層が形成されたフレキシブルシートに該配線層とフレキシブルシートとを貫通するヴィアホールを形成して利用する。
(c)場合によっては、該ヴィアホール内に導電性物質を充填してホール内を導電化して利用する。
【0078】
そして、上記配線パターンの形成方法としては、フォトエッチング等の従来公知の方法が利用でき、例えば、金属
めっき層付樹脂フィルムを準備し、該金属
めっき層上にスクリーン印刷あるいはドライフィルムをラミネートして感光性レジスト膜を形成した後、露光現像してパターニングする。次いで、塩化第2鉄溶液等のエッチング液で該金属
めっき層と金属膜(金属シード層と金属ベース層)を選択的にエッチング除去した後、上記レジスト膜を除去して所定の配線パターンを形成する。両面をパターン加工してフレキシブルシートの両面に配線パターンを形成することが好ましい。全ての配線パターンを幾つかの配線領域に分割するかどうかは、配線パターンの配線密度の分布等による。例えば、配線パターンを、配線幅と配線間隔がそれぞれ50μm以下の高密度配線領域とその他の配線領域に分け、プリント基板との熱膨張差や取扱い上の都合等を考慮して分割する配線基板のサイズを10〜65mm程度に設定して適宜分割すればよい。
【0079】
また、上記ヴィアホールの形成方法としては、従来公知の方法が利用でき、例えば、レーザー加工等により、配線パターンの所定の位置に該配線パターンとフレキシブルシートを貫通するヴィアホールを形成する。ヴィアホールの直径は、ホール内の導電化に支障を来たさない範囲内で小さくすることが好ましく、通常100μm以下、好ましくは50μm以下にする。ヴィアホール内には、めっき、蒸着、スパッタリング等により銅等の導電性金属を充填あるいは所定の開孔パターンを持つマスクを使用して導電性ペーストを圧入、乾燥し、ホール内を導電化して層間の電気的接続を行う。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0081】
[実施例1]
図2に示す両面成膜装置(金属ベース層付樹脂フィルムの製造装置)を用い、長尺状樹脂フィルム(長尺体)Fには、幅500mm、長さ1000m、厚さ25μmの東レデュポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用した。
【0082】
また、ALD法により成膜するブロッキング防止層は、2原子層ともAl
2O
3とし、第1反応室80、81には、第1反応ガスの水分子を10sccm/min導入し、第2反応室82、83には、第2反応ガスのTMA[Trimethyl Aluminum:Al(CH
3)
3]ガスを50mg/min導入した。各反応室80、81、82、83は、温度を200℃に設定し、反応ガスを連続的に第二減圧室91の正面から導入しながら、第二減圧室91の背面に向かってそれぞれ独立したドライポンプで排気した。
【0083】
また、金属膜(金属シード層と金属ベース層)の金属シード層はNi−Cr合金膜とし、各マグネトロンスパッタリングカソード70、74にはNi−Cr合金から成るマグネトロンスパッタリングターゲットを用い、かつ、上記金属ベース層はCu膜とし、各マグネトロンスパッタリングカソード71、72、73、75、76、77にはCuから成るマグネトロンスパッタリングターゲットを用い、各マグネトロンスパッタリングカソードにはアルゴンガスを300sccmで導入し、各カソード電力10kWで成膜を行った。また、巻き出しロール50と巻き取りロール66の張力は80Nとした。
【0084】
そして、第一減圧室90の巻き出しロール50に耐熱性ポリイミドフィルム(長尺体)Fをセットし、かつ、キャンロール54、キャンロール61を経由させ、更に、第二減圧室91の各反応室80〜83を経由させて、上記耐熱性ポリイミドフィルム(長尺体)Fの先端部を第二減圧室91の巻き取りロール66に取り付けた。尚、使用する耐熱性ポリイミドフィルム(長尺体)Fは事前に真空乾燥処理がなされている。
【0085】
また、スパッタリング法の成膜を行なう第一減圧室90とALD法の成膜を行なう第二減圧室91のそれぞれについて、大型ドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、スパッタリング法の成膜を行なう上記第一減圧室90はターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて5×10
-3Paまで排気した。また、各キャンロール54、61における水冷温調の設定値は20℃とした。
【0086】
そして、上記耐熱性ポリイミドフィルム(長尺体)Fの搬送速度を2m/分にした後、第一減圧室90の各マグネトロンスパッタカソード70〜77にアルゴンガスを導入しかつ各マグネトロンスパッタカソードに電力を印加すると共に、第二減圧室91の各反応室80、81、82、83にも反応ガスを導入して成膜処理を開始した。
【0087】
そして、上記耐熱性ポリイミドフィルムFの長さ990m分が通過して時点で、各マグネトロンスパッタカソードへの電力を停止し、かつ、それぞれのガス導入も停止した。
【0088】
最後に、耐熱性ポリイミドフィルムFの搬送を停止し、かつ、各ポンプを停止してから第一減圧室90と第二減圧室91をベント(大気開放)し、巻き出しロール50の耐熱性ポリイミドフィルムFの終端部を外し、全ての耐熱性ポリイミドフィルムFを巻き取りロール66に巻き取ってから取り外した。
【0089】
そして、製造された金属ベース層付樹脂フィルムを「フィルム巻き替え」にセットし、搬送速度10m/minで巻き替えを行ったところブロッキング現象は観察されず、更に、サンプリングしたシートを顕微鏡で観察しても、金属膜(金属シード層と金属ベース層)同士が貼り付いて一部剥離されている箇所はなかった。
【0090】
更に、製造された金属ベース層付樹脂フィルムの一部を切り出し、第1成膜面(耐熱性ポリイミドフィルムFの一方の面に形成された金属シード層と金属ベース層)、および、第2成膜面(耐熱性ポリイミドフィルムFの他方の面に形成された金属シード層と金属ベース層)を部分的にエッチングし、第1成膜面と第2成膜面に形成された金属膜(金属シード層と金属ベース層)の膜厚を蛍光X線膜厚計によりそれぞれ測定した結果、第1成膜面と第2成膜面とも金属シード層が約30nm、金属ベース層が約100nmであった。
【0091】
その後、製造された金属ベース層付樹脂フィルムの金属ベース層表面を酸で洗浄し、ALD法によるブロッキング防止層(Al2O3)を除去した後、硫酸銅水溶液による電解めっき法によりCu全体の膜厚が8μmになるまで金属
めっき層を成膜して実施例1に係る金属膜付樹脂フィルム
(すなわち、金属めっき層付樹脂フィルム)を得た。
【0092】
得られた金属膜付樹脂フィルムをサンプリングし、顕微鏡により表面凹凸の観察を行なったところ、ブロッキングに起因する凹凸は見つからなかった。
【0093】
尚、実施例1ではAl
2O
3によりブロッキング防止層を形成しているが、Al
2O
3以外の金属酸化物膜(Ti、Zn、Ce、Ni、Sn、Si、Cuから選ばれる金属酸化物膜)あるいは金属窒化物膜(Ti、Zn、Ce、Ni、Sn、Si、Al、Cuから選ばれる金属窒化物膜)を採用することも可能である。
【0094】
[比較例1]
図1に示した従来技術に係る両面成膜装置を用い、長尺状樹脂フィルム(長尺体)Fには、実施例1と同様、幅500mm、長さ1000m、厚さ25μmの東レデュポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用した。
【0095】
また、実施例1と同様、金属膜(金属シード層と金属ベース層)の金属シード層はNi−Cr合金膜とし、各マグネトロンスパッタリングカソード40、44にはNi−Cr合金から成るマグネトロンスパッタリングターゲットを用い、かつ、上記金属ベース層はCu膜とし、各マグネトロンスパッタリングカソード41、42、43、45、46、47にはCuから成るマグネトロンスパッタリングターゲットを用い、各マグネトロンスパッタリングカソードにはアルゴンガスを300sccmで導入し、各カソード電力10kWで成膜を行った。また、巻き出しロール20と巻き取りロール36の張力は80Nとした。
【0096】
そして、巻き出しロール20に耐熱性ポリイミドフィルムFをセットし、かつ、キャンロール24、キャンロール32を経由させて、上記耐熱性ポリイミドフィルムFの先端部を巻き取りロール36に取り付けた。尚、使用する耐熱性ポリイミドフィルムFは事前に真空乾燥処理がなされている。
【0097】
また、キャンロール24とキャンロール32が設置された減圧室(スパッタリングによる成膜を行なう減圧室)を大型ドライポンプにより5Paまで排気し、更に、ターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて5×10
-3Paまで排気した。また、各キャンロール24、32における水冷温調の設定値は20℃とした。
【0098】
そして、上記耐熱性ポリイミドフィルムFの搬送速度を2m/分にした後、各マグネトロンスパッタカソード40〜47にアルゴンガスを導入し、各マグネトロンスパッタカソードに電力を印加してスパッタリングによる成膜処理を開始した。
【0099】
そして、上記耐熱性ポリイミドフィルムFの長さ990m分が通過して時点で、各マグネトロンスパッタカソードへの電力を停止し、かつ、それぞれのガス導入も停止した。
【0100】
最後に、耐熱性ポリイミドフィルムFの搬送を停止し、かつ、各ポンプを停止してからキャンロール24とキャンロール32が設置された減圧室をベント(大気開放)し、巻き出しロール20の耐熱性ポリイミドフィルムFの終端部を外し、全ての耐熱性ポリイミドフィルムFを巻き取りロール36に巻き取ってから取り外した。
【0101】
そして、製造された金属ベース層付樹脂フィルムを「フィルム巻き替え」にセットし、搬送速度10m/minで巻き替えを行ったところ、貼り付いた金属膜同士がパチパチと音を発しながら剥がれるブロッキング現象が観察され、更に、サンプリングしたシートを顕微鏡で観察したところ、金属膜(金属シード層と金属ベース層)同士が貼り付いて一部剥離されている箇所が無数にあった。
【0102】
更に、製造された金属ベース層付樹脂フィルムの一部を切り出し、第1成膜面(耐熱性ポリイミドフィルムFの一方の面に形成された金属シード層と金属ベース層)、および、第2成膜面(耐熱性ポリイミドフィルムFの他方の面に形成された金属シード層と金属ベース層)を部分的にエッチングし、第1成膜面と第2成膜面に形成された金属膜(金属シード層と金属ベース層)の膜厚を蛍光X線膜厚計によりそれぞれ測定した結果、第1成膜面と第2成膜面とも金属シード層が約30nm、金属ベース層が約100nmであった。
【0103】
その後、製造された金属ベース層付樹脂フィルムの金属ベース層上に、硫酸銅水溶液による電解めっき法によりCu全体の膜厚が8μmになるまで金属
めっき層を成膜して比較例1に係る金属膜付樹脂フィルム
(すなわち、金属めっき層付樹脂フィルム)を得た。
【0104】
得られた金属膜付樹脂フィルムをサンプリングし、顕微鏡により表面凹凸の観察を行ってみたところ、ブロッキングに起因する凹凸が多数見つかった。