【実施例】
【0154】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0155】
(実施例1)
以下の方法で、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。
【0156】
(マイエナイト化合物の合成)
まず、酸化カルシウム(CaO):酸化アルミニウム(Al
2O
3)のモル比換算で12:7となるように、炭酸カルシウム(CaCO
3、関東化学社製、特級)粉末313.5gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末186.5gとを混合した。次に、この混合粉末を、大気中、300℃/時間の昇温速度で1350℃まで加熱し、1350℃に6時間保持した。その後、これを300℃/時間の冷却速度で降温し、約362gの白色塊体を得た。
【0157】
次に、アルミナ製スタンプミルにより、この白色塊体を大きさが約5mmの破片になるよう粉砕した後、さらに、アルミナ製自動乳鉢で粗粉砕し、白色粒子A1を得た。レーザ回折散乱法(SALD−2100、島津製作所社製)により、得られた白色粒子A1の粒度を測定したところ、平均粒径は、20μmであった。
【0158】
次に、白色粒子A1を300gと、直径5mmのジルコニアボール3kgと、粉砕溶媒としての工業用ELグレードのイソプロピルアルコール800mlとを、7リットルのジルコニア製容器に入れ、容器にジルコニア製の蓋を載せてから、回転速度72rpmで、16時間、ボールミル粉砕処理を実施した。
【0159】
処理後、得られたスラリーを用いて吸引ろ過を行い、粉砕溶媒を除去した。また、残りの物質を80℃のオーブンに入れ、10時間乾燥させた。これにより、白色粉末B1を得た。X線回折分析の結果、得られた粉末B1は、C12A7構造であることが確認された。また、前述のレーザ回折散乱法により得られた粉末B1の平均粒径は、1.5μmであることがわかった。
【0160】
(マイエナイト化合物の成形体の作製)
前述の方法で得られた粉末B1(7g)を、長さ40mm×幅20mm×高さ30mmの金型に敷き詰めた。この金型に対して、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。さらに、180MPaの圧力で等方静水圧プレス処理し、縦約38mm×横約19mm×高さ約6mmの寸法の成形体C1を得た。
【0161】
(導電性マイエナイト化合物の製造)
次に、成形体C1を高温で熱処理し、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を製造した。
【0162】
図4には、成形体C1の熱処理に使用した組立体を示す。
図4に示すように、この組立体300は、カーボン製の蓋335付きの第1のカーボン容器330と、カーボン製の蓋355付きの第2のカーボン容器350とを備える。
【0163】
第1のカーボン容器330は、外径60mm×内径50mm×高さ60mmの略円筒状の形状を有し、第2のカーボン容器350は、外径80mm×内径70mm×高さ75mmの略円筒状の形状を有する。
【0164】
この組立体300は、以下のように構成した。まず、前述の成形体C1を市販のカッターで、長さ8mm×幅6mm×厚さ6mmの直方体形状に切断し、被処理体370とした。
【0165】
次に、この被処理体370を、市販のアルミニウム箔(三菱アルミニウム社製、厚さ10μm)で被覆した。なお、アルミニウム箔は、成形体C1の各面に対して、2重となるように設置した。従って、成形体C1の各面におけるアルミニウム箔の総厚さは、それぞれ、20μmである。
【0166】
次に、第1のカーボン容器330内に第1のカーボン板380を配置し、この第1のカーボン板380上に、前述の被処理体370を配置した。また、被処理体370の上部に、第2のカーボン板390を配置した。第1および第2のカーボン板380、390は、いずれも、直径48mm×厚さ5mmの円板状の形状を有する。
【0167】
なお、第1のカーボン板380は、アルミニウム箔により、第1のカーボン容器330が損傷される危険性を抑制する目的で設置した。また、第2のカーボン板390は、熱処理中にアルミニウム箔から生じるアルミニウム蒸気が、第1のカーボン容器330の外に漏れることを抑制するため配置した。
【0168】
次に、第1のカーボン容器330の上部にカーボン製の蓋335を配置した。さらにこの第1のカーボン容器330を、第2のカーボン容器350内に配置した。また、第2のカーボン容器350の上部に、カーボン製の蓋355を配置した。
【0169】
ここで、第2のカーボン容器350とカーボン製の蓋355は、熱処理中に、アルミニウム蒸気が電気炉内の発熱体や断熱材に付着することを防止するために配置した。
【0170】
次に、このようにして組み立てられた組立体300全体を、雰囲気調整可能な電気炉内に設置した。また、ロータリーポンプとメカニカルブースターポンプを用いて、電気炉内を真空引きした。これにより、電気炉内の圧力は、約20Paまで減圧された。
【0171】
次に、組立体300を加熱し、熱処理を実施した。熱処理は、300℃/時間の昇温速度で組立体300を1300℃まで加熱し、この温度に6時間保持した後、300℃/時間の降温速度で、組立体300を室温まで冷却させることにより実施した。
【0172】
この熱処理後に、表面が薄白色の黒色物質D1が得られた。なおアルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質D1の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが観察された。このアルミニウム化合物は、黒色物質D1とカーボン板380およびカーボン板390に固着しておらず、黒色物質D1は容易に採取できた。黒色物質D1の相対密度は、97.6%であった。
【0173】
(評価)
次に、黒色物質D1から電子密度測定用サンプルを採取した。サンプルは、アルミナ製自動乳鉢を用いて黒色物質D1の粗粉砕を行い、得られた粗粉のうち、黒色物質D1の中央部分に相当する部分から採取した。
【0174】
得られたサンプルは、焦げ茶色を呈していた。X線回折分析の結果、このサンプルは、C12A7構造だけを有することがわかった。また、得られた粉末の光拡散反射スペクトルのピーク位置から求められた電子密度は、1.6×10
21cm
−3であった。
【0175】
このことから、黒色物質D1は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0176】
(実施例2)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例2では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1340℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0177】
(実施例3)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例3では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1360℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0178】
(実施例4)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例4では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1250℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0179】
(実施例5)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例5では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1200℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0180】
(実施例6)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例6では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1150℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0181】
(実施例7)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例7では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理時間を12時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0182】
(実施例8)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例8では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理時間を24時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0183】
(実施例9)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例9では、成形体の寸法は、55mm×55mm×6mmとした。また、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、成形体の表面全体ではなく、上面および底面(55mm×55mmの面)にのみ、アルミニウム箔を配置した。なお、上面および底面の何れの面にも、アルミニウム箔は、4枚重ねて配置した。従って、アルミニウム箔の総厚さは、それぞれ、40μmである。また、熱処理時間を12時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0184】
(実施例10)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例10では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理時間を2時間とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0185】
(実施例11)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例11では、成形体の寸法を、35mm×35mm×22mmとした。また、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理時間を12時間とし、熱処理温度を1320℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0186】
(実施例12)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例12では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、圧力を60Paとした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0187】
(実施例13)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例13では、マイエナイト化合物の成形体として、電子密度が5.0×10
19cm
−3の導電性マイエナイト化合物の粉末を使用した。
【0188】
この導電性マイエナイト化合物の粉末は、以下のようにして調製した。カーボン製の蓋付容器の中に、実施例1における成形体C1を設置した。雰囲気は窒素とし、300℃/時間の昇温速度で1300℃まで加熱し、1300℃で6時間保持した。その後、これを300℃/時間の冷却速度で降温し、黒色塊体を得た。
【0189】
この黒色塊体を、実施例1における、(マイエナイト化合物の合成)と同じ粉砕方法で粉砕し、電子密度が5.0×10
19cm
−3の導電性マイエナイト化合物の粉末を得た。得られた粉末は、深緑色を呈しており、C12A7構造であることが確認された。平均粒径は1.4μmであった。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0190】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0191】
(実施例14)
前述の実施例1と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例14では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、アルミニウム箔を、被処理体の底面(縦8mm×横6mmの面)にのみ設置した。なお、アルミニウム箔の寸法は、縦10mm×横8mmとし、アルミニウム箔は、被処理体の底面と接した際に、被処理体の底面の各辺から少しずつ突出するように配置した。また、アルミニウム箔は、同じ寸法のものを4枚重ねて使用した。従って、アルミニウム箔の総厚さは、40μmである。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0192】
(実施例15)
前述の実施例14と同様の方法により、導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例15では、被処理体の底面(縦8mm×横6mmの面)に設置されるアルミニウム箔の枚数を1枚とした。従って、アルミニウム箔の総厚さも、10μmである。その他の条件は、実施例14の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0193】
(実施例16)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例16では、被処理体として、非導電性マイエナイト化合物の焼結体を使用した。
【0194】
非導電性マイエナイト化合物の焼結体は、以下のようにして作製した。前述の実施例1における(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程を経て得られた成形体C1を、アルミナ板上に配置し、大気下で、1100℃まで加熱した。昇温速度は、300℃/時間とした。次に、これを1100℃で2時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。これにより、焼結体(以下、「焼結体E16」称する)が得られた。焼結体E16の開気孔率は、31%であった。
【0195】
このようにして得られた焼結体E16を、長さ8mm×幅6mm×厚さ6mmの直方体状に加工し、これを被処理体として使用した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0196】
(実施例17)
前述の実施例16と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例17では、非導電性マイエナイト化合物の焼結体は、以下のようにして作製した。
【0197】
前述の実施例1における(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程を経て得られた成形体C1を、アルミナ板上に配置し、大気下で、1300℃まで加熱した。昇温速度は、300℃/時間とした。次に、これを1300℃で6時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。これにより、焼結体(以下、「焼結体E17」称する)が得られた。焼結体E17の開気孔率は、ほぼ0%であった。
【0198】
このようにして得られた焼結体E17を、長さ8mm×幅6mm×厚さ6mmの直方体状に加工し、これを被処理体として使用した。その他の条件は、実施例16の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0199】
(実施例18)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、この実施例18では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、カーボンがない環境下で行った。すなわち、第2のカーボン容器350、カーボン製の蓋355、第1のカーボン容器330、カーボン製の蓋335、第1のカーボン板380、および第2のカーボン板390を全てアルミナ製にした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0200】
(実施例19)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、被処理体として、仮焼粉の成形体を使用した。仮焼粉の成形体は、以下のようにして作製した。
【0201】
(仮焼粉の合成)
まず、酸化カルシウム(CaO):酸化アルミニウム(Al
2O
3)のモル比換算で12:7となるように、炭酸カルシウム(CaCO
3、関東化学社製、特級)粉末313.5gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末186.5gとを混合した。次に、この混合粉末を、大気中、300℃/時間の昇温速度で1000℃まで加熱し、1000℃に6時間保持した。その後、これを300℃/時間の冷却速度で降温した。
これにより、約362gの白色粉末が得られた。この白色粉末は、自動乳鉢で容易に解砕できた。
【0202】
(仮焼粉の成形体の作製)
白色粉末を7gに、工業用ELグレードのイソプロピルアルコール(IPA)0.7gを添加し、自動乳鉢で混合した。次に、この混合物を、長さ40mm×幅20mm×高さ30mmの金型に敷き詰めた。この金型に対して、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。さらに、180MPaの圧力で等方静水圧プレス処理を実施した。
【0203】
これにより、縦約38mm×横約19mm×高さ約6mmの寸法の成形体C19が得られた。なお、IPAは、成形体のバインダーとして機能している。成形体C19は、市販のカッターで、長さ19mm×幅8mm×厚さ6mmの直方体形状に切断して、被処理体として使用した。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質が得られた。
【0204】
実施例2〜19において、アルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが確認された。このアルミニウム化合物は、黒色物質とカーボン板380およびカーボン板390に固着しておらず、黒色物質は容易に採取できた。
【0205】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、実施例2〜19で得られた黒色物質は、C12A7構造のみを有することがわかった。実施例2〜19における黒色物質の相対密度、電子密度を表1に示す。
【0206】
以上のことから、実施例2〜19で得られた黒色物質は、高電子密度のマイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0207】
(比較例1)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例1では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1050℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0208】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が薄白色の黒色物質D51が得られた。黒色物質D51の相対密度は、90.9%であった。
【0209】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質D51は、C12A7構造以外の異相を多く含んでおり、黒色物質D51は、マイエナイト化合物の焼結体ではないことがわかった。
【0210】
(比較例2)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例2では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1470℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0211】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、表面が黒色の黒色物質D52が得られた。黒色物質D52は、著しく変形していた。また、黒色物質D52は、発泡部分が多く、相対密度を測定することは困難であった。
【0212】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質D52は、C12A7構造以外の異相を含んでおり、黒色物質D52は、マイエナイト化合物の焼結体ではないことがわかった。
【0213】
(比較例3)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、この比較例3では、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、成形体C1をアルミニウム箔で被覆しなかった。その代わり、アルミニウム蒸気源として、アルミニウム粉末を使用した。
【0214】
より具体的には、前述の
図4に示した組立体300において、第1のカーボン容器330内に、アルミニウム粉末を充填したアルミナ容器を配置した。また、アルミニウム粉末上に、直接、成形体C1を配置した。第1のカーボン380および第2のカーボン板390は、使用しなかった。また、熱処理温度を1250℃とした。その他の条件は、実施例1の場合と同様である。
【0215】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、黒色物質D53が得られた。黒色物質D53は、アルミニウム粉末が溶融して形成されたアルミニウムに半分沈んだ状態であり、容易に回収することはできなかった。黒色物質D53を採取するには、アルミナ容器を割らなければならず、さらに溶融したアルミニウムを除去するのは困難であった。その上採取後の黒色物質には亀裂がみられた。
【0216】
黒色物質D53の表面を、電動ノコギリ、セラミックス製リューター、および紙やすりを用いて丁寧に除去してから、黒色物質D53の相対密度と電子密度を調べた。黒色物質D53の相対密度は、91.4%であった。
【0217】
さらに、実施例1と同様の方法により、この黒色物質D53を粉砕して得た粉末のX線回折の結果、黒色物質D53は、C12A7構造のみを有することがわかった。黒色物質D53の電子密度は、1.4×10
21cm
−3であり、電気伝導率は、15S/cmであった。このことから、黒色物質D53は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物であることが確認された。
【0218】
しかしながら、比較例3では、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を回収するのに、多大な労力が必要であった。従って、この方法は、工業的な生産には適さない製造方法であると考えられる。
【0219】
以下の表1には、実施例1〜19および比較例1〜3における被処理体の種類、被処理体の熱処理温度、熱処理時間、アルミニウム薄膜の設置面、および真空度、ならびに得られた黒色物質の相対密度、および電子密度をまとめて示した。
【0220】
【表1】
(実施例21)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、実施例1の(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程において、粉末B1の代わりに、フッ素成分を含む混合粉末を使用して成形体を調製し、最終的に、フッ素を含む導電性マイエナイト化合物を製造した。
【0221】
(成形体の調製方法)
まず、実施例1の(マイエナイト化合物の合成)の欄に記載した方法で得られた粉末B1の38.72gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末0.73gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.55gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F21を得た。
【0222】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F21のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、化学式
(12−x)CaO・7Al
2O
3・xCaF
2 (3)式
で表され、特にx=0.32となる。
【0223】
次に、この混合粉末F21の7gを、長さ40mm×幅20mm×高さ30mmの金型に敷き詰めた。また、金型に対して、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。さらに、180MPaの圧力で等方静水圧プレス処理した。これにより、縦約38mm×横約19mm×高さ約6mmの寸法の成形体C21が形成された。
【0224】
次に、成形体C21を市販のカッターで、長さ19mm×幅8mm×厚さ6mmの直方体形状に切断し、被処理体として使用した。また、被処理体の全面に、実施例1と同様の方法でアルミニウム箔を配置した。
【0225】
これにより、黒色物質D21が得られた。アルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質D21の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが確認された。このアルミニウム化合物は、黒色物質D21とカーボン板380およびカーボン板390に固着しておらず、黒色物質D21は容易に採取できた。
【0226】
黒色物質D21の相対密度は、97.3%であった。
【0227】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質D21は、C12A7構造のみを有することがわかった。また、黒色物質D21の電子密度は、1.2×10
21cm
−3であった。
【0228】
次に、黒色物質D21の格子定数を測定した結果、黒色物質D21の格子定数は、1.1976nmであった。フッ素を含まない黒色物質D1の格子定数は、1.1987nmであったため、黒色物質D21の格子定数は、黒色物質D1の格子定数よりも小さいことがわかった。このことから、マイエナイト化合物はフッ素を含有していると考えられる。
【0229】
次に、黒色物質D21を破断し、エネルギー分散型X線分析(EDX)により、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F21の混合比に近いことがわかった。
【0230】
このように、黒色物質D21は、フッ素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0231】
(実施例22)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、被処理体の熱処理温度を1340℃とした。その他の条件は、実施例21の場合と同様である。
これにより、黒色物質が得られた。
【0232】
(実施例23)
前述の実施例22と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、被処理体の熱処理時の保持時間を2時間とした。
これにより、黒色物質が得られた。
【0233】
(実施例24)
前述の実施例22と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、被処理体の熱処理時の保持時間を12時間とした。
これにより、黒色物質が得られた。
【0234】
(実施例25)
前述の実施例22と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、成形体用の粉末として、電子密度が5.0×10
19cm
−3の導電性マイエナイト化合物の粉末を使用した。
【0235】
この導電性マイエナイト化合物の粉末は、以下のようにして調製した。カーボン製の蓋付容器の中に、実施例21における成形体C21を設置し、熱処理を実施した。熱処理雰囲気は窒素とした。また、熱処理は、300℃/時間の昇温速度で、成形体C21を1300℃まで加熱し、1300℃で6時間保持することにより実施した。その後、成形体C21を300℃/時間の冷却速度で降温し、黒色塊体を得た。
【0236】
次に、得られた黒色塊体を粉砕して、平均粒径が1.4μmの粉末を得た。この際には、実施例1の(マイエナイト化合物の合成)の欄において示した方法と同様の粉砕方法(すなわちアルミナ製スタンプミルによる粗粉砕、およびその後のジルコニアボールを用いたボールミル粉砕処理)を実施した。なお、分析の結果、得られた粉末は、C12A7構造を有し、電子密度は、5.0×10
19cm
−3であった。
【0237】
この導電性マイエナイト化合物の粉末を使用して成形体を作製した以外は、実施例22の場合と同様の製造条件で、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。
これにより、黒色物質が得られた。
【0238】
(実施例26)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、被処理体の熱処理温度を1100℃とした。
これにより、黒色物質が得られた。
【0239】
(実施例27)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、被処理体の熱処理温度を1380℃とした。
これにより、黒色物質が得られた。
【0240】
(実施例28)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程において、粉末B1の38.11gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末1.07gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.82gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F28を得た。
【0241】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F28のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(3)で表され、特にx=0.48となる。この混合粉末F28を実施例21における混合粉末F21の代わりに用いたほかは実施例21と同様にして、被処理体を得て使用した。なお、この被処理体の熱処理温度は、1420℃とした。
これにより、黒色物質が得られた。
【0242】
(実施例29)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程において、粉末B1の39.78gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末0.12gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.09gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F29を得た。
【0243】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F29のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(3)で表され、特にx=0.06となる。この混合粉末F29を実施例21における混合粉末F21の代わりに用いたほかは実施例21と同様にして、被処理体を得て使用した。
これにより、黒色物質D29が得られた。黒色物質D29の相対密度は、97.8%であった。
【0244】
実施例29の場合も、アルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質D29の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが確認された。このアルミニウム化合物は、黒色物質D29とカーボン板380およびカーボン板390に固着しておらず、黒色物質D29は容易に採取できた。
【0245】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質D29は、C12A7構造のみを有することがわかった。また、黒色物質D29の電子密度は、1.1×10
21cm
−3であった。
【0246】
次に、黒色物質D29を破断し、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F29の混合比に近いことがわかった。
【0247】
このように、黒色物質D29は、フッ素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0248】
(実施例30)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程において、粉末B1の39.51gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末0.28gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.21gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F30を得た。
【0249】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F30のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(3)で表され、特にx=0.12となる。この混合粉末F30を実施例21における混合粉末F21の代わりに用いたほかは実施例21と同様にして、被処理体を得て使用した。
これにより、黒色物質D30が得られた。
【0250】
(実施例31)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程において、粉末B1の39.17gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末0.47gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.36gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F31を得た。
【0251】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F31のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(3)で表され、特にx=0.21となる。この混合粉末F31を実施例21における混合粉末F21の代わりに用いたほかは実施例21と同様にして、被処理体を得て使用した。
これにより、黒色物質D31が得られた。
【0252】
(実施例32)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程において、粉末B1の38.11gに、フッ化カルシウム(CaF
2、関東化学社製、特級)粉末1.07gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.82gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F32を得た。
【0253】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F32のCa/Al/Fの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(3)で表され、特にx=0.48となる。この混合粉末F32を実施例21における混合粉末F21の代わりに用いたほかは実施例21と同様にして、被処理体を得て使用した。
これにより、黒色物質D32が得られた。
【0254】
実施例22〜32において、アルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが確認された。このアルミニウム化合物は、黒色物質とカーボン板380およびカーボン板390に固着しておらず、黒色物質は容易に採取できた。
【0255】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、22〜32で得られた黒色物質は、C12A7構造のみを有することがわかった。黒色物質の相対密度、電子密度を表2に示す。
【0256】
実施例22〜32で得られた黒色物質の格子定数を測定したところ、黒色物質の格子定数は、実施例1における黒色物質D1の値より小さかった。マイエナイト化合物にフッ素が含有していると考えられる。なお、格子定数は、実施例1の黒色物質D1は1.1987nm、実施例29の黒色物質D29は1.1985nm、実施例30の黒色物質D30は1.1981nm、実施例31の黒色物質D31は1.1978nm、実施例32の黒色物質D32は1.1969nmであった。
【0257】
実施例22〜32で得られた黒色物質を破断し、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、原料として用いた混合粉末の混合比に近いことがわかった。
以上のことから、実施例22〜32で得られた黒色物質は、フッ素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0258】
図5には、前述の実施例1、実施例21、および実施例29〜32において製造された黒色物質の格子定数の測定結果と、被処理体に含まれるフッ素量((3)式のxの値)の関係を示す。
【0259】
この
図5から、被処理体中のフッ素量の増加とともに、格子定数が直線的に小さくなる傾向にあることがわかる。実施例21、および実施例29〜32において、製造された高電子密度の導電性マイエナイト化合物のケージ中に、フッ素イオンが導入されていると考えられる。すなわち、被処理体に含まれるフッ素量が多いほど、より多くのフッ素イオンがマイエナイト化合物のケージ中に導入されると言える。
【0260】
(実施例33)
前述の実施例22と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(導電性マイエナイト化合物の作製)の工程において、被処理として、長さ113mm×幅113mm×厚さ6mmの板状の成形体C33を用いた。さらに、被処理体の熱処理には、
図4に示した組立体300の代わりに、別の組立体を使用した。
【0261】
成形体C33は、以下のようにして作製した。あらかじめ実施例21における混合粉末21とビヒクルを、重量比で10:1.5の割合で自動乳鉢で混合させた造粒粉を作製した。このときビヒクルとは、ポリビニルブチラール(BM−S、積水化学社製)を有機溶剤に固形分で10重量%溶かした液体である。有機溶剤は、トルエンとイソプロピルアルコールとブタノールを重量比で、6:3:1の割合で混合したものである。ポリビニルブチラールは成形体の保型性を高める、バインダーの役割を果たす。
【0262】
前記造粒粉125gを、長さ125mm×幅125mm×高さ50mmの金型に敷き詰めて、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。得られた成形体の溶剤分を揮発させるため、80℃のオーブンで1時間乾燥させた。さらに等方静水圧プレス(CIP)を180MPaのプレス圧で1分間保持して、成形体C33を得た。これを被処理体として使用した。
【0263】
図6には、被処理体570(成形体C33)の熱処理に使用した組立体500の構成を概略的に示す。組立体500は、アルミナ製の蓋535付きのアルミナ容器530と、カーボン製の蓋555付きのカーボン容器550と、を備える。
【0264】
アルミナ容器530は、長さ150mm×幅150mm×高さ50mmの略直方体状の形状を有し、カーボン容器550は、外径250mm×内径220mm×高さ140mmの略円筒状の形状を有する。
【0265】
組立体500は、以下のように構成した。まず、長さ100mm×幅100mm×厚さ10μmの市販のアルミニウム箔(三菱アルミニウム社製)を複数準備した。このアルミニウム箔を、被処理体570(成形体C33)の長さ113mm×幅113mmの2つの表面のそれぞれに、4枚積層した。被処理体570の両表面におけるアルミニウム箔の総厚さは、それぞれ40μmである。
【0266】
次に、アルミナ容器530の底面に、第1のアルミナ板582を配置し、この第1のアルミナ板582上に、前述の被処理体570を配置した。次に、被処理体570の上部に、第2のアルミナ板584を配置した。第1および第2のアルミナ板582および584は、いずれも長さ100mm×幅100mm×厚さ1mmの板状の形状を有する。
【0267】
さらに、第2のアルミナ板584の上に、カーボン板586を設置した。カーボン板586は、長さ100mm×幅100mm×厚さ10mmの板状の形状を有する。
【0268】
なお、カーボン板586は、熱処理中にアルミニウム箔から生じるアルミニウム蒸気が、アルミナ容器530の外に漏れることを抑制するため配置した。
【0269】
次に、このようにして組み立てられた組立体500全体を、雰囲気調整可能な電気炉内に設置した。また、ロータリーポンプとメカニカルブースターポンプを用いて、電気炉内を真空引きした。これにより、電気炉内の圧力は、約20Paまで減圧された。
【0270】
このような組立体500を用いて、被処理体の熱処理を実施した。
【0271】
これにより、前述の(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程後に、黒色物質D33が得られた。黒色物質D33は、長さ100mm×幅100mm×厚さ5mmの板状であった。アルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質D33の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが確認された。このアルミニウム化合物は、黒色物質D33、第1のアルミナ板582および第2のアルミナ板584に固着しておらず、黒色物質D33は容易に採取できた。
【0272】
黒色物質D33の均質性を確認するため、中央部と端部からサンプルを採取し、分析を行った。なお、中央部のサンプルは、黒色物質D33の中央近傍の領域から採取し、端部のサンプルは、端部から10mm以内の領域から採取した。
相対密度は、中央部のサンプルでは、97.6%、端部のサンプルでは、97.8%であった。
【0273】
両サンプルのX線回折の結果、何れのサンプルもC12A7構造のみを有することがわかった。また、中央部のサンプルの電子密度は、1.1×10
21cm
−3であり、端部のサンプルの電子密度は、1.1×10
21cm
−3であった。
【0274】
次に、黒色物質D33の格子定数を測定した結果、黒色物質D33の格子定数は、フッ素を含まない黒色物質D1の格子定数よりも小さいことがわかった。このことから、マイエナイト化合物はフッ素を含有していると考えられる。
これは、マイエナイト化合物にフッ素が含有していることを示唆する結果である。
【0275】
次に、黒色物質D33を破断し、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F21の混合比に近いことがわかった。
このように、黒色物質D33は、フッ素を含む電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0276】
(実施例34)
前述の実施例30と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、被処理体として、フッ素を含むマイエナイト化合物の焼結体を使用した。
【0277】
なお、フッ素を含むマイエナイト化合物の焼結体は、以下のようにして作製した。混合粉末F27に対して、前述の実施例21の(成形体の調製方法)に示した工程と同様の操作を行い、成形体C34を調製した。
【0278】
次に、成形体C34をアルミナ板上に配置し、大気下で1380℃まで加熱した。昇温速度は、300℃/時間とした。次に、成形体C34を1380℃で2時間保持した後、300℃/時間の降温速度で室温まで冷却した。これを被処理体として用いた。
【0279】
これにより、黒色物質D34が得られた。黒色物質D34の相対密度は、95.2%であった。
【0280】
実施例34の場合も、アルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質D34の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが確認された。このアルミニウム化合物は、黒色物質D34とカーボン板380およびカーボン板390に固着しておらず、黒色物質D34は容易に採取できた。
【0281】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質D34は、C12A7構造のみを有することがわかった。また、黒色物質D34の電子密度は、1.1×10
21cm
−3であった。
【0282】
次に、黒色物質D34の格子定数を測定した結果、黒色物質D34の格子定数は、黒色物質D1のものよりも小さくなった。このことから、マイエナイト化合物にフッ素が含有していると考えられる。
【0283】
次に、黒色物質D34を破断し、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出されたフッ素の割合は、混合粉末F28の混合比に近いことがわかった。
【0284】
このように、黒色物質D34は、フッ素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0285】
(実施例39)
前述の実施例1と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(マイエナイト化合物の成形体の作製)の工程において、粉末B1の代わりに、塩素成分を含む混合粉末を使用して成形体を調製し、最終的に、塩素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物を製造した。
【0286】
(成形体の調製方法)
まず、実施例1の(マイエナイト化合物の合成)の欄に記載した方法で得られた粉末B1の39.39gに、塩化カルシウム(CaCl
2、関東化学社製、特級)粉末0.39gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.21gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F39を得た。
【0287】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F39のCa/Al/Clの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、化学式
(12−x)CaO・7Al
2O
3・xCaCl
2 (4)式
で表され、特にx=0.12となる。
【0288】
次に、この混合粉末F39の7gを、長さ40mm×幅20mm×高さ30mmの金型に敷き詰めた。また、金型に対して、10MPaのプレス圧で1分間の一軸プレスを行った。さらに、180MPaの圧力で等方静水圧プレス処理した。これにより、縦約38mm×横約19mm×高さ約6mmの寸法の成形体C39が形成された。
【0289】
次に、成形体C39を市販のカッターで、長さ19mm×幅8mm×厚さ6mmの直方体形状に切断し、被処理体として使用した。また、被処理体の全面に、実施例1と同様の方法でアルミニウム箔を配置した。また、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程における被処理体の熱処理温度は、1340℃とした。
【0290】
これにより、黒色物質D39が得られた。
【0291】
アルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質D39の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが確認された。このアルミニウム化合物は、黒色物質D39とカーボン板380およびカーボン板390に固着しておらず、黒色物質D39は容易に採取できた。
【0292】
黒色物質D39の相対密度は、98.8%であった。
【0293】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質D39は、C12A7構造のみを有することがわかった。また、黒色物質D39の電子密度は、1.1×10
21cm
−3であった。
【0294】
次に、黒色物質D39の格子定数を測定した結果、黒色物質D39の格子定数は、黒色物質D1のものよりも小さくなった。このことから、マイエナイト化合物に塩素が含有していると考えられる。
【0295】
次に、黒色物質D39を破断し、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出された塩素の割合は、混合粉末F39の混合比に近いことがわかった。
このように、黒色物質D39は、塩素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0296】
(実施例40)
前述の実施例39と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物を作製した。ただし、(成形体の調製方法)の工程において、粉末B1の38.43gに、塩化カルシウム(CaCl
2、関東化学社製、特級)粉末1.03gと、酸化アルミニウム(α−Al
2O
3、関東化学社製、特級)粉末0.55gとを添加し、これらを十分に混合して、混合粉末F40を得た。
【0297】
最終的に製造されるマイエナイト化合物においても、この混合粉末F40のCa/Al/Clの組成比が維持されると仮定した場合、製造されるマイエナイト化合物は、上述の化学式(4)で表され、特にx=0.32となる。この混合粉末F40を実施例39における混合粉末F39の代わりに用いたほかは実施例39と同様にして、被処理体を得て使用した。
【0298】
これにより、黒色物質D40が得られた。アルミニウム箔は、原形を留めておらず、黒色物質D40の周囲には、アルミニウム化合物が残留していることが確認された。このアルミニウム化合物は、黒色物質D40とカーボン板380およびカーボン板390に固着しておらず、黒色物質D40は容易に採取できた。
【0299】
黒色物質D40の相対密度は、91.2%であった。
【0300】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質D40は、C12A7構造のみを有することがわかった。また、黒色物質D40の電子密度は、1.1×10
21cm
−3であった。
【0301】
次に、黒色物質D40の格子定数を測定した結果、黒色物質D40の格子定数は、黒色物質D1のものよりも小さくなった。このことから、マイエナイト化合物に塩素が含有していると考えられる。
【0302】
次に、黒色物質D40を破断し、破断面の組成分析を行った。分析結果から、検出された塩素の割合は、混合粉末F40の混合比に近いことがわかった。
このように、黒色物質D40は、塩素を含む高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体であることが確認された。
【0303】
(比較例4)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1050℃とした。
【0304】
これにより、表面が薄白色の黒色物質D61が得られた。黒色物質D61の相対密度は、91.0%であった。
【0305】
実施例1と同様の方法により回収されたサンプルのX線回折の結果、黒色物質D61は、C12A7構造のみを有することがわかった。しかし、黒色物質D61の電子密度は、7.2×10
19cm
−3であり、電子密度はあまり高くないことがわかった。
以上のことから、黒色物質D61は、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の焼結体ではないことが確認された。
【0306】
(比較例5)
前述の実施例21と同様の方法により、高電子密度の導電性マイエナイト化合物の作製を試みた。ただし、(導電性マイエナイト化合物の製造)の工程において、熱処理温度を1460℃とした。
これにより、黒色物質D62が得られた。しかし、黒色物質D62は、著しく変形しており、回収は困難であった。
【0307】
以下の表2には、実施例21〜34、39、40および比較例4〜5における被処理体の種類、ハロゲン添加量、被処理体の熱処理温度、熱処理時間、アルミニウム薄膜の設置面、真空度、得られた黒色物質の結晶構造、相対密度、および電子密度をまとめて示した。
【0308】
【表2】