(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029118
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】リチウム複合遷移金属化合物製造用の新規な前駆物質、複合遷移金属化合物、リチウム−遷移金属複合酸化物を生産する方法、及び、リチウム二次バッテリーを生産する方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20161114BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20161114BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20161114BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-191907(P2014-191907)
(22)【出願日】2014年9月19日
(62)【分割の表示】特願2011-502856(P2011-502856)の分割
【原出願日】2009年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-38029(P2015-38029A)
(43)【公開日】2015年2月26日
【審査請求日】2014年9月22日
(31)【優先権主張番号】10-2008-0031083
(32)【優先日】2008年4月3日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シン、ホ、スク
(72)【発明者】
【氏名】チャン、スン、キュン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ホン‐キュ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、スン、テ
(72)【発明者】
【氏名】パク、シンヤン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヤンスン
【審査官】
壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/019986(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/024424(WO,A2)
【文献】
特表2008−521196(JP,A)
【文献】
特開2008−084871(JP,A)
【文献】
特開2005−289700(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/092073(WO,A1)
【文献】
特許第5655218(JP,B2)
【文献】
特開平10−228905(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/095381(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
H01M4/00−4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属前駆物質であって、下記式2により表され、空間群がP−3mである、複合遷移金属化合物を含んでなり、
リチウム−遷移金属複合酸化物の製造に使用される、遷移金属前駆物質。
NibMncCo1−(b+c+d)M'd(OH1−x)2 (2)
[上記式中、
0.3≦b≦0.9、
0.1≦c≦0.6、
0≦d≦0.1、
b+c+d≦1
0.47<x<0.5であり、
M'が、Al、Mg、Cr、Ti、Siおよびそれらのいずれかの組合せからなる群から選択されてなるものである。]
【請求項2】
上記式1中、前記Mの酸化数が、前記リチウム−遷移金属複合酸化物中の遷移金属の酸化数より小さいものである、
請求項1に記載の遷移金属前駆物質。
【請求項3】
上記式1中、前記Mの酸化数が+2より大きく、+3より小さい、
請求項2に記載の遷移金属前駆物質。
【請求項4】
前記複合遷移金属化合物の含有量が、前記遷移金属前駆物質の総重量に対して30重量%以上である、
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の遷移金属前駆物質。
【請求項5】
前記複合遷移金属化合物の含有量が、前記遷移金属前駆物質の総重量に対して50重量%以上である、
請求項4に記載の遷移金属前駆物質。
【請求項6】
下記式(2)により表され、かつ、
式2中、b、c、d、x及びM'が、請求項1に規定されるものである、
複合遷移金属化合物。
NibMncCo1−(b+c+d)M'd(OH1−x)2 (2)
【請求項7】
請求項1から請求項5までの何れか一項に記載の遷移金属前駆物質及びリチウム含有材料を用いて、リチウム−遷移金属複合酸化物を作製する段階を有する、
リチウム−遷移金属複合酸化物を生産する方法。
【請求項8】
請求項1から請求項5までの何れか一項に記載の遷移金属前駆物質及びリチウム含有材料を用いて、リチウム−遷移金属複合酸化物を作製する段階と、
前記リチウム−遷移金属複合酸化物をカソード活性材料として含むカソードを作製する段階と、
前記カソードを備えるリチウム二次バッテリーを提供する段階と、
を有する、
リチウム二次バッテリーを生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、リチウム複合遷移金属酸化物製造用の新規な前駆物質に関する。より詳しく
は、本発明は、リチウム遷移金属酸化物の製造に使用する、特定の複合遷移金属化合物を
含む遷移金属前駆物質に関する。
【0002】
可動装置の技術的開発及び需要増加により、エネルギー供給源として二次バッテリーの
需要が急速に増加している。特に、エネルギー密度及び電圧が高く、サイクル寿命が長く
、自己放電速度が低いリチウム二次バッテリーが市販され、広く使用されている。
【0003】
リチウム二次バッテリー用のカソード活性材料としては、リチウム含有酸化コバルト(
LiCoO
2)が大量に使用されている。さらに、リチウム含有マンガン酸化物、例えば
層状結晶構造を有するLiMnO
2及びスピネル結晶構造を有するLiMn
2O
4、及び
リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、の使用も考えられている。
【0004】
上記のカソード活性材料の中で、LiCoO
2は、優れた一般的特性、例えば優れたサ
イクル特性、のために現在広く使用されているが、不利な問題、例えば安全性が低いこと
、原料としてのコバルトの資源が有限であるために高価であること、等があるのが難点で
ある。リチウムマンガン酸化物、例えばLiMnO
2及びLiMn
2O
4、は、資源的に
豊富な材料であり、環境的に好ましいマンガンを使用しているのが有利であり、従って、
LiCoO
2を置き換えることができるカソード活性材料として大きな関心を集めている
。しかし、これらのリチウムマンガン酸化物には、容量が低く、サイクル特性が劣るなど
の欠点がある。
【0005】
一方、リチウム/ニッケル系酸化物、例えばLiNiO
2、コバルト系酸化物と比較し
て安価であり、4.25Vに充電しても高い放電容量を示す。ドーピングされたLiNiO
2
の可逆的容量は、約200 mAh/gであり、これは、LiCoO
2の容量(約153 mAh/g)を超え
ている。従って、LiNiO
2の幾分低い平均放電電圧及び容積密度にも関わらず、カソ
ード活性材料としてLiNiO
2を含む市販バッテリーは、改良されたエネルギー密度を
示す。このため、そのようなニッケル系カソード活性材料を使用して高容量バッテリーを
開発するための実現可能性に多くの集中的な研究がなされている。しかし、LiNiO
2
系カソード活性材料には、十分には解決されていない幾つかの弱点、例えば高い製造コス
ト、製造されたバッテリー中のガス発生による膨潤、乏しい化学的安定性、高いpH、等が
あるのが、依然として難点である。
【0006】
多くの先行技術は、LiNiO
2系カソード活性材料の特性及びLiNiO
2製造方法
の改良に焦点を合わせている。例えば、ニッケルの一部を別の遷移金属元素、例えばCo
、Mn、等で置き換えたリチウム遷移金属複合酸化物が提案されている。
【0007】
Ni、Co及びMnの二種類以上を含むリチウム遷移金属活性材料は、簡単な固体状態
反応により容易に合成することができない。この分野では、共沈、等により製造された遷
移金属前駆物質を、そのようなリチウム遷移金属活性材料を製造するための前駆物質とし
て使用する技術が公知である。
【0008】
この種の遷移金属前駆物質は、粒子径の制御または球形化(spheronization)、等による
粒子形状の最適化により、タップ密度の低下を阻止し、所望の性能を発揮することを意図
するリチウム遷移金属酸化物を製造するために研究されている。
【0009】
上記のように様々な試みがなされているにも関わらず、この分野では、十分な性能を有
するリチウム遷移金属酸化物及びそれを製造するための遷移金属前駆物質の開発が依然と
して強く求められている。
【発明の概要】
【0010】
従って、本発明は、上記の問題及び他の未解決の技術的問題を解決するためになされた
ものである。
【0011】
上記の問題を解決するための、様々な広範囲で集中的な研究及び実験の結果、本発明者
らは、リチウム-遷移金属複合酸化物中の遷移金属の酸化数に近い酸化数を有する複合遷
移金属化合物を含む新規な前駆物質を開発し、このようにして開発した前駆物質を使用し
てリチウム-遷移金属複合酸化物を製造した場合に、リチウム二次バッテリーが優れた性
能を発揮できることを立証した。本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実験例1で得た結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、例1のニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質のX線回折ピークを、理論的結晶構造を有する従来の前駆物質M(OH)
2及びMOOH材料の回折ピークと比較した、実験例2の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実験例2で得たX線回折ピーク間の比較結果を示すグラフである。
【0013】
本発明の一態様により、上記の、及び他の目的は、リチウム二次バッテリー用の電極活
性材料であるリチウム-遷移金属複合酸化物の製造に使用する遷移金属前駆物質として、
下記の式1により表される複合遷移金属化合物を含んでなる遷移金属前駆物質を提供する
ことにより、達成することができる。
M(OH
1−x)
2 (1)
式中、Mは、Ni、Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、B、Cr及び元素の周期律表
における2周期の遷移金属からなる群から選択された二種類以上であり、0<x<0.5であ
る。
【0014】
すなわち、本発明の遷移金属前駆物質は、+2より大きい遷移金属の酸化数、好ましく
はリチウム-遷移金属複合酸化物の遷移金属酸化数に対応する+3に近い遷移金属の酸化数
を有する新規な複合遷移金属化合物を含む。
【0015】
リチウム-遷移金属複合酸化物を、そのような遷移金属前駆物質を使用して製造する場
合、酸化数を変えるための酸化または還元工程を簡素化し、優れた工程効率を得ることが
できる。さらに、このように製造されたリチウム-遷移金属複合酸化物は、カソード活性
材料として優れた性能を発揮するのみならず、反応副生成物、例えばLi
2CO
3または
LiOH・H
2O、の生成が著しく少なく、従って、好ましくない副生成物によるスラリ
ーのゲル化、製造したバッテリーの高温性能低下、高温における膨潤、等の問題に対する
解決策を得ることができる。
【0016】
共沈方法によりリチウム-遷移金属複合酸化物を製造するための遷移金属前駆物質とし
て、M(OH)
2及びMOOHのような材料が従来技術で提案されている。
【0017】
M(OH)
2は、遷移金属(M)の酸化数が+2であり、従って、上記の問題が難点である
。MOOHは、リチウム-遷移金属複合酸化物における遷移金属酸化物の酸化数と等しい
+3の酸化数を有し、従って、これは理想的な材料である。残念ながら、MOOHを合成
することは実質的に非常に困難である。
【0018】
以下、リチウム-遷移金属複合酸化物の合成をより詳細に説明する。
【0019】
例えば、M(OH)
2(M=Co、Ni、Mn)の形態にある複合遷移金属水酸化物を、C
o、Ni及びMnを含むリチウム-遷移金属複合酸化物を製造するための前駆物質として
使用する場合、複合遷移金属水酸化物中の遷移金属は、酸化数が+2である。上記の複合
遷移金属水酸化物を使用してリチウム-遷移金属複合酸化物を製造するのが望ましい場合
、リチウム-遷移金属複合酸化物(LiMO
2)中の複合遷移金属の平均酸化数は+3である
ので、酸化数を変化させるための酸化工程が必要である。しかし、リチウム-遷移金属複
合酸化物を大量生産規模で製造する場合、高温にある炉中の酸化雰囲気を制御することは
、廃ガス、等が存在するために、容易ではない。さらに、酸化されない前駆物質は反応副
生成物として作用し、電極活性材料に悪影響を及ぼすことがある。
【0020】
一方、それぞれの遷移金属成分の構造的特性及びそれらの水溶液中における安定性のた
めに、Co、Ni及びMnを含む複合遷移金属水酸化物から、遷移金属酸化数が+3であ
るMOOH(M=Co、Ni、Mn)の形態にある複合遷移金属水酸化物を製造することは
困難である。特に、Co、Ni及びMnの各水酸化物の個別合成では、遷移金属酸化数+
2を有するNi(OH)
2、Co(OH)
2及びMn(OH)
2(空間群 P-3m)及び遷移金属酸化
数+3を有するMn(OOH) (空間群 PBNM、P121/Cl、PNMA、PNNM、B121/D1)の形態にあ
る個々の金属水酸化物を合成することは可能である。しかし、Co、Ni及びMnの二種
類以上の遷移金属を含むMOOHの形態にある単一相を合成することは非常に困難である
。これは、Co、Ni及びMnの沈殿条件及び元素構造が互いに異なっており、従って、
同じ条件(共沈条件)下で複合前駆物質を合成するのが困難なためである。
【0021】
このために、本発明者らは、上記の問題の理解に基づいて、様々な実験を行った。その
結果、我々は、リチウム-遷移金属複合酸化物の遷移金属酸化数に近い遷移金属酸化数を
有する新規な複合遷移金属化合物を開発した。
【0022】
すなわち、本発明者らは、M(OH
1−x)
2の開発に成功したが、この化合物は、+2
の酸化状態を有するM(OH)
2より高い遷移金属酸化状態を有し、+3の酸化状態を有す
るが、実際の合成が非常に困難であるMOOH以外の新規な化合物であり、特に実質的な
大量生産が可能であり、リチウム-遷移金属複合酸化物の合成に優れた性能を示すことが
できる。
【0023】
ここで使用する句「複合遷移金属化合物は、リチウム-遷移金属複合酸化物における遷
移金属の酸化数に近い酸化数を有する」は、この複合遷移金属化合物の遷移金属の酸化数
が、上記の化合物を含む前駆物質から製造されたリチウム-遷移金属複合酸化物の遷移金
属の酸化数より小さいか、またはそれに近いことを意味する。従って、リチウム-遷移金
属複合酸化物の遷移金属(例えば式LiMO
2の記号M)の酸化数が+3である場合、複合
遷移金属酸化物の遷移金属酸化数は、例えば+2より大きく、+3より小さい値を有するこ
とができる。
【0024】
測定誤差の範囲内で、複合遷移金属化合物の遷移金属酸化数が+3であっても、これは
、この複合遷移金属化合物が、少なくとも従来公知の結晶構造からは異なった結晶構造を
有する材料であることを意味する。例えば、下記の実験例2の実験結果に示されるように
、本発明の複合遷移金属化合物は、MOOH及びM(OH)
2に関して従来公知の結晶構造
からは異なったピークを示す。つまり、本発明の複合遷移金属酸化物は、複合遷移金属酸
化物における値xが0.5に非常に近くても、またはxが、少なくとも測定誤差の範囲内で
、0.5の値を有していても、これまで知られていない新規な結晶構造を有する。
【0025】
好ましい一実施態様では、xは、0.2≦x<0.5の値、より好ましくは0.3≦x<0.5の値
を有することができる。
【0026】
式1では、Mが、上記の元素から選択された二種類以上元素から構成される。
【0027】
好ましい一実施態様では、Mは、Ni、Co及びMnからなる群から選択された一種以
上の遷移金属を含むので、遷移金属の少なくとも一種の特性をリチウム-遷移金属複合酸
化物中に表すことができる様式で、形成することができる。特に好ましくは、Mは、Ni
、Co及びMnからなる群から選択された二種類の遷移金属またはそれらの全てを含むこ
とができる。
【0028】
MがNi、Co及び/またはMnを含む化合物の好ましい例として、式2により表される複合遷移金属化合物を挙げることができる。
Ni
bMn
cCo
1−(b+c+d)M'
d(OH
1−x)
2 (2)
式中、0.3≦b≦0.9、0.1≦c≦0.6、0≦d≦0.1、b+c+d≦1及び0<x<0.5であり、M'は、Al、Mg、Cr、Ti、Siおよびそれらのいずれかの組合せからなる群から選択される。
【0029】
すなわち、式1の複合遷移金属化合物は、式2の、Ni、Co及びMnを含み、Ni、
Co及びMnの一部が、Al、Mg、Cr、Ti及びSiからなる群から選択された一種
以上の元素で置き換えられている複合遷移金属化合物でよい。
【0030】
複合遷移金属化合物は、Ni含有量が高いので、好ましくは、特に、高容量リチウム二
次バッテリーに使用するカソード活性材料の製造に使用することができる。
【0031】
本発明の遷移金属前駆物質は、少なくとも式1の複合遷移金属化合物を含む。好ましい
一実施態様では、遷移金属前駆物質は、複合遷移金属化合物を、30重量%以上、より好ま
しくは50重量%以上の含有量で含むように形成することができる。複合遷移金属化合物に
加えて、本発明の前駆物質を構成する残りの材料は、例えば酸化状態+2を有する複合遷
移金属水酸化物を含めて、様々に変えることができる。
【0032】
下記の例及び実験例から確認できるように、そのような遷移金属前駆物質により、式1
の複合遷移金属化合物を含まない遷移金属前駆物質と比較して、優れた特性を有するリチ
ウム-遷移金属複合酸化物が得られる。
【0033】
さらに、本発明は、以下に説明するように、それ自体がこの分野では新規な材料である
式1の複合遷移金属化合物を提供する。
【0034】
そのような複合遷移金属化合物を含む遷移金属前駆物質を使用することにより、リチウ
ム-遷移金属複合酸化物の製造方法における、酸化数を変えるための酸化及び還元工程を
簡素化することができ、酸化または還元雰囲気を制御する工程が簡単で、好都合になるの
で、有利である。さらに、得られるリチウム-遷移金属複合酸化物は、そのような複合遷
移金属化合物を使用しない場合と比較して、カソード活性材料として優れた性能を発揮す
ることができる。さらに、リチウム遷移金属酸化物の製造中に発生する反応副生成物(例
えばLi
2CO
3、LiOH・H
2O、等)が大幅に低減されるので、バッテリー製造の
際にこれらの副生成物により引き起こされる問題、例えばスラリーのゲル化、バッテリー
の高温性能劣化、高温における膨潤、等、を解決することができる。
【0035】
以下、本発明による遷移金属前駆物質の製造を説明する。
【0036】
遷移金属前駆物質は、遷移金属含有塩及び塩基性材料を使用する共沈方法により製造す
ることができる。
【0037】
共沈方法は、沈殿反応を使用して水溶液中に二種類以上の遷移金属元素を同時に沈殿さ
せる方法である。具体的な例では、二種類以上の遷移金属を含む複合遷移金属化合物は、
遷移金属含有塩を、遷移金属の含有量を考慮し、所望のモル比で混合することにより水溶
液を調製し、この水溶液に強塩基(例えば水酸化ナトリウム、等)及び所望により添加剤(
例えばアンモニア供給源、等)を加え、続いて溶液のpHを塩基性領域に維持しながら、所
望の生成物を共沈させることにより、製造することができる。温度、pH、反応時間、スラ
リー濃度、イオン濃度、等を適切に調整することにより、所望の平均粒子径、粒子径分布
、及び粒子密度を制御することができる。反応pHは、9〜13、好ましくは10〜12でよい。
適切であれば、反応を多工程で行うことができる。
【0038】
遷移金属含有塩は、焼結工程を行うことにより容易に分解し、揮発し得る陰イオンを有
するのが好ましく、従って、硫酸塩または硝酸塩でよい。硫酸塩及び硝酸塩の例には、硫
酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、硝酸ニッケル、硝酸コバルト、及び硝酸マン
ガンが挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0039】
塩基性材料の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化リチウムが挙げ
られるが、これらに限定するものではない。水酸化ナトリウムが好ましい。
【0040】
好ましい一実施態様では、共沈工程の際に遷移金属と錯体を形成することができる添加
剤及び/またはアルカリ炭酸塩をさらに添加することができる。本発明で使用できる添加
剤の例には、アンモニウムイオン供給源、エチレンジアミン化合物、クエン酸化合物、等
が挙げられる。アンモニウムイオン供給源の例には、水性アンモニア、硫酸アンモニウム
水溶液、硝酸アンモニウム水溶液、等が挙げられる。アルカリ炭酸塩は、炭酸アンモニウ
ム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸リチウムからなる群から選択することができ
る。これらの材料は、単独で、またはそれらの組合せで使用することができる。
【0041】
添加剤及びアルカリ炭酸塩の添加量は、遷移金属含有塩の量、pH、等を考慮して適切に
決定することができる。
【0042】
反応条件に応じて、式1の複合遷移金属化合物だけを含む遷移金属前駆物質を調製する
か、または他の複合遷移金属化合物を同時に含む遷移金属前駆物質を調製することもでき
る。そのような遷移金属前駆物質合成の詳細は、下記の例を参照するとよい。
【0043】
本発明の別の態様により、上記の遷移金属前駆物質から製造されたリチウム-遷移金属
複合酸化物を提供する。特に、リチウム二次バッテリー用のカソード活性材料であるリチ
ウム-遷移金属複合酸化物は、遷移金属前駆物質及びリチウム含有材料を焼結させること
により、製造することができる。
【0044】
得られたリチウム-遷移金属複合酸化物は、好ましくはリチウム二次バッテリー用の電
極活性材料として使用することができる。リチウム-遷移金属複合酸化物は、単独で、あ
るいは他の公知のリチウム二次バッテリー用電極活性材料との混合物で、使用することが
できる。
【0045】
本発明者らが確認したところでは、上記の遷移金属前駆物質を使用して製造したリチウ
ム-遷移金属複合酸化物は、リチウム副生成物、例えば炭酸リチウム(Li
2CO
3)また
は水酸化リチウム(LiOH)、の含有量が非常に低い。従って、このリチウム-遷移金属
複合酸化物をリチウム二次バッテリーの電極活性材料として使用した場合、優れた高温安
定性(例えば優れた焼結及び貯蔵安定性、及びガス発生の低減)、高容量、及び優れたサイ
クル特性を包含する様々な利点が得られる。
【0046】
リチウム含有材料には、特に制限は無く、例えば水酸化リチウム、炭酸リチウム、及び
酸化リチウムを包含することができる。炭酸リチウム(Li
2CO
3)または水酸化リチウ
ム(LiOH)が好ましい。
【0047】
さらに、リチウム遷移金属酸化物は、二種類以上の遷移金属を含む化合物である。リチ
ウム遷移金属酸化物の例には、層状化合物、例えば一種以上の遷移金属で置換されたリチ
ウムコバルト酸化物(LiCoO
2)及びリチウムニッケル酸化物(LiNiO
2)、一種以
上の遷移金属で置換されたリチウムマンガン酸化物、式LiNi
1−yM
yO
2(M=C
o、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、B、Cr、Zn、Gaまたはそれらの組合せ、及び
0.01≦y≦0.7)のリチウム化されたニッケル酸化物、及び式Li
1+zNi
bMn
cCo
1−(b+c+d)M
dO
(2−e)N
e(-0.5≦z≦0.5、0.3≦b≦0.9、0.1≦c≦0.
6、0≦d≦0.1、0≦e≦0.05及びb+c+d<1、M=Al、Mg、Cr、Ti、Siま
たはY、及びN=F、PまたはCl)により表されるリチウムニッケル-コバルト-マンガ
ン複合酸化物、例えばLi
1+zNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2及びLi
1+zN
i
0.4Mn
0.4Co
0.2O
2が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0048】
特に好ましくは、リチウム-遷移金属複合酸化物は、Co、Ni及びMnの全てを含む
リチウム-遷移金属複合酸化物である。
【0049】
リチウム-遷移金属複合酸化物を製造するための遷移金属前駆物質及びリチウム含有材
料の反応条件は、この分野で公知であり、その詳細な説明はここでは省略する。
【0050】
さらに、本発明は、カソード活性材料として上記のリチウム-遷移金属複合酸化物を含
んでなるカソード及びそのカソードを備えてなるリチウム二次バッテリーを提供する。
【0051】
カソードは、例えば、本発明のカソード活性材料、導電性材料及び結合剤の混合物をカ
ソード集電装置に塗布し、続いて乾燥させることにより、製造する。必要であれば、上記
の混合物に充填材をさらに加えることができる。
【0052】
カソード集電装置は、一般的に厚さが約3〜500μmになるように製造する。カソード集
電装置が、製造するバッテリーで化学的変化を引き起こさずに高い導電性を有する限り、
カソード集電装置には特に制限は無い。カソード集電装置用材料の例としては、ステンレ
ス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結させた炭素、及び炭素、ニッケル、チタン
または銀で表面処理したアルミニウムまたはステンレス鋼を挙げることができる。集電装
置は、カソード活性材料に対する密着性を強化するために、その表面上に細かい凹凸を有
するように加工することができる。さらに、集電装置は、フィルム、シート、ホイル、ネ
ット、多孔質構造、フォーム及び不織布を包含する様々な形態で製造することができる。
【0053】
導電性材料は、典型的には、カソード活性材料を包含する混合物の総重量に対して1〜2
0重量%の量で加える。導電性材料には、それが好適な導電率を有し、製造されたバッテ
リー中で化学反応を引き起こさない限り、特に制限は無い。導電性材料の例としては、グ
ラファイト、例えば天然または人造グラファイト、カーボンブラック、例えばカーボンブ
ラック、アセチレンブラック、Ketjenブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラッ
ク、ランプブラック及びサーマルブラック、導電性繊維、例えば炭素繊維及び金属繊維、
金属粉末、例えばフッ化炭素粉末、アルミニウム粉末及びニッケル粉末、導電性ホイスカ
ー、例えば酸化亜鉛及びチタン酸カリウム、導電性金属酸化物、例えば酸化チタン、及び
ポリフェニレン誘導体を包含する導電性材料を挙げることができる。
【0054】
結合剤は、電極活性材料と導電性材料の結合、及び電極活性材料と集電装置の結合を支
援する成分である。結合剤は、典型的にはカソード活性材料を包含する混合物の総重量に
対して1〜20重量%の量で添加する。結合剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリ
ビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース
、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポ
リプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチ
レンブタジエンゴム、フッ素ゴム及び各種の共重合体を挙げることができる。
【0055】
充填材は、カソードの膨脹を抑制するために、所望により使用する成分である。充填材
には、製造されたバッテリー中で化学変化を引き起こさず、繊維状材料である限り、特に
制限は無い。充填材の例としては、オレフィン重合体、例えばポリエチレン及びポリプロ
ピレン、及び繊維状材料、例えばガラス繊維及び炭素繊維、を使用できる。
【0056】
リチウム二次バッテリーは、一般的にカソード、アノード、セパレータ、及びリチウム
塩含有非水性電解質から構成される。本発明によるリチウム二次バッテリーの他の成分を
以下に説明する。
【0057】
アノードは、アノード材料をアノード集電装置に塗布し、続いて乾燥させることにより
、製造される。必要であれば、上記のような他の成分をさらに包含することができる。
【0058】
本発明で使用できるアノード材料の例には、炭素、例えばグラファイト化しない炭素及
びグラファイト系炭素、金属複合酸化物、例えばLi
xFe
2O
3(0≦x≦1)、Li
x
WO
2(0≦x≦1)及びSn
xMe
1−xMe’
yO
z(Me=Mn、Fe、Pbまたは
Ge、Me’=Al、B、P、Si、周期律表のI族、II族及びIII族元素、またはハロ
ゲン、0<x≦1、1≦y≦3、及び1≦z≦8)、リチウム金属、リチウム合金、ケイ素系合
金、スズ系合金、金属酸化物、例えばSnO、SnO
2、PbO、PbO
2、Pb
2O
3
、Pb
3O
4、Sb
2O
3、Sb
2O
4、Sb
2O
5、GeO、GeO
2、Bi
2O
3、
Bi
2O
4、及びBi
2O
5、導電性重合体、例えばポリアセチレン、及びLi-Co-N
i系材料が挙げられる。
【0059】
アノード集電装置は、一般的に厚さが約3〜500μmになるように製造する。アノード集
電装置用の材料には、それが、製造されるバッテリー中で化学的変化を引き起こさずに、
好適な導電性を有する限り、特に制限は無い。アノード集電装置用の材料の例としては、
銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼結させた炭素、炭素、ニッケル
、チタンまたは銀で表面処理した銅またはステンレス鋼、及びアルミニウム−カドミウム
合金を挙げることができる。カソード集電装置と同様に、アノード集電装置も、アノード
活性材料に対する密着性を強化するために、処理して表面上に微小の凹凸を持たせること
ができる。さらに、アノード集電装置は、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質構
造、フォーム及び不織布を包含する様々な形態で使用することができる。
【0060】
カソードとアノードとの間には、セパレータを配置する。セパレータとしては、高いイ
オン透過性及び機械的強度を有する絶縁性の薄いフィルムを使用する。セパレータは、典
型的には細孔直径が0.01〜10μm、厚さが5〜300μmである。セパレータとしては、耐薬品
性及び疎水性を有するオレフィン重合体、例えばポリプロピレン及び/またはガラス繊維
またはポリエチレンから製造されたシートまたは不織布を使用する。固体の電解質、例え
ば重合体、を電解質として使用する場合、その固体電解質は、セパレータ及び電解質の両
方として作用することができる。
【0061】
リチウム含有非水性電解質は、非水性電解質及びリチウムから構成される。非水性電解
質としては、非水性電解質溶液、有機固体電解質または無機固体電解質を使用できる。
【0062】
本発明で使用できる非水性電解質溶液の例には、例えば、非プロトン性有機溶剤、例え
ばN-メチル-2-ピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレン
カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマ−ブチロラクトン
、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロキシFranc、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメ
チルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソ
ラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、
トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチ
ル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、
エーテル、プロピオン酸メチル及びプロピオン酸エチル、等を挙げることができる。
【0063】
本発明で使用する有機固体電解質の例には、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシ
ド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステル重合体、ポリ攪拌リシン、ポ
リエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、及びイオン系解
離基を含む重合体が挙げられる。
【0064】
本発明で使用する無機固体電解質の例には、リチウムの窒化物、ハロゲン化物及び硫酸
塩、例えばLi
3N、LiI、Li
5NI
2、Li
3N−LiI−LiOH、LiSiO
4、LiSiO
4−LiI−LiOH、Li
2SiS
3、Li
4SiO
4、Li
4SiO
4−LiI−LiOH及びLi
3PO
4−Li
2S−SiS
2が挙げられる。
【0065】
リチウム塩は、非水性電解質に容易に溶解する材料であり、例えばLiCl、LiBr
、LiI、LiClO
4、LiBF
4、LiB
10Cl
10、LiPF
6、LiCF
3S
O
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiAlCl
4、CH
3SO
3
Li、CF
3SO
3Li、(CF
3SO
2)
2NLi、塩化ホウ素酸リチウム、低級脂肪族
カルボン酸リチウム、リチウムテトラフェニルボレート及びイミドを包含することができ
る。
【0066】
さらに、充電/放電特性及び難燃性を改良するために、例えばピリジン、トリエチルホ
スファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(gly
me)、ヘキサホスホリックトリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノン-イミン染料
、N-置換されたオキサゾリジノン、N,N-置換されたイミダゾリジン、エチレングリコール
ジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミ
ニウム、等を非水性電解質に加えることができる。必要であれば、不燃性を付与するため
に、非水性電解質は、ハロゲン含有溶剤、例えば四塩化炭素及び三フッ化エチレン、をさ
らに包含することができる。さらに、高温貯蔵特性を改良するために、非水性電解質は、
二酸化炭素ガスをさらに包含することができる。
【0067】
諸例
ここで、下記の例を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。これらの例は、本発
明を説明するためにのみ記載するのであって、本発明の範囲及び精神を制限するものでは
ない。
【0068】
[例1]
3 Lの湿式反応器タンクに蒸留水2 Lを満たし、速度1 L/分の窒素ガスで連続的に掃気し
、溶解した酸素を除去した。サーモスタットを使用し、タンク中の蒸留水を温度45〜50℃
に維持した。さらに、タンクの外側に設置したモーターに接続したインペラを使用し、タ
ンク中の蒸留水を1000〜1200 rpmの速度で攪拌した。
【0069】
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを0.55:0.2:0.25のモル比で混合し、1
.5 M遷移金属水溶液を調製した。さらに、3 M水酸化ナトリウム水溶液も調製した。計量
ポンプを使用し、遷移金属水溶液を、速度0.18 L/hrで連続的に湿式反応器タンクにポン
プ輸送した。水酸化ナトリウム水溶液を、制御装置により変速様式でポンプ輸送し、タン
ク中の蒸留水をpH11.0〜11.5に維持した。30%アンモニア溶液を添加剤として反応器に0.
035〜0.04 L/hrの速度で連続的にポンプ輸送した。
【0070】
遷移金属水溶液、水酸化ナトリウム水溶液及びアンモニア溶液の流量は、湿式反応器タ
ンク中における溶液の平均滞留時間が約5〜6時間になるように調節した。反応器中の反応
が定常状態に達した後、一定時間をかけ、密度がより高い複合遷移金属前駆物質を合成し
た。
【0071】
定常状態に達した後、遷移金属水溶液の遷移金属イオン、水酸化ナトリウムの水酸化物
イオン、及びアンモニア溶液のアンモニアイオン間の20時間連続反応により調製したニッ
ケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質を、タンクの側方上部に設置したオーバー
フローパイプを通して連続的に得た。
【0072】
得られた複合遷移金属前駆物質を蒸留水で数回洗浄し、120℃定温乾燥炉中で24時間乾
燥させ、ニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質を得た。
【0073】
[例2]
湿式反応器タンクの内部温度を温度40〜45℃に維持した以外は、例1と同様にして遷移
金属前駆物質を調製した。
【0074】
[例3]
アンモニア溶液を湿式反応器タンクに0.03〜0.035 L/hrの速度で加えた以外は、例1と
同様にして遷移金属前駆物質を調製した。
【0075】
[例4]
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを含む遷移金属水溶液の濃度を2 Mに変
え、水酸化ナトリウム水溶液の濃度を4 Mに変えた以外は、例1と同様にして遷移金属前駆
物質を調製した。
【0076】
[例5]
アンモニア溶液を湿式反応器タンクに0.03〜0.035 L/hrの速度で加え、湿式反応器タン
クの内部温度を温度40〜45℃に維持した以外は、例1と同様にして遷移金属前駆物質を調
製した。
【0077】
[例6]
ポンプ輸送を、変速様式で、湿式反応器タンク中の蒸留水のpHが10.5〜11.0に維持され
るように行った以外は、例1と同様にして遷移金属前駆物質を調製した。
【0078】
[例7]
湿式反応器タンクの内部温度を温度40〜45℃に維持し、ポンプ輸送を、変速様式で、湿
式反応器タンク中の蒸留水のpHが10.5〜11.0に維持されるように行った以外は、例1と同
様にして遷移金属前駆物質を調製した。
【0079】
[比較例1]
3 Lの湿式反応器タンクに蒸留水2 Lを満たし、速度1 L/分の窒素ガスで連続的に掃気し
、溶解した酸素を除去した。サーモスタットを使用し、タンク中の蒸留水を温度45〜50℃
に維持した。さらに、タンクの外側に設置したモーターに接続したインペラを使用し、タ
ンク中の蒸留水を1000〜1200 rpmの速度で攪拌した。
【0080】
硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンを0.55:0.2:0.25のモル比で混合し、2
.0 M遷移金属水溶液を調製した。さらに、4 M水酸化ナトリウム水溶液も調製した。計量
ポンプを使用し、遷移金属水溶液を、速度0.18 L/hrで連続的に湿式反応器タンクにポン
プ輸送した。水酸化ナトリウム水溶液を、制御装置により変速様式でポンプ輸送し、タン
ク中の蒸留水をpH10.0〜10.5に維持した。30%アンモニア溶液を添加剤として反応器に0.
01〜0.015 L/hrの速度で連続的にポンプ輸送し、複合遷移金属前駆物質の合成を行った。
【0081】
[実験例1]
中性子回折実験を、例1で調製したニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質
に行った。
【0082】
中性子回折測定は、室温で、Daejeon、韓国のKorea Atomic Energy Research Institut
e (KAERI)に設置された、32 He-3 Multi-detector system及びGe (331) monochromatorを
備えたHANARO HRPD装置を使用して行った。データは、2θ=10〜150°でΔ(2θ)=0.05°
の段階で3時間、波長1.8334Åで集めた。試料の量は10〜15 gであった。
【0083】
X線及び中性子回折データの組合せリートベルト解析は、TOPASプログラム(解析パラメ
ータ:スケールファクター、バックグラウンド、単位セルパラメータ、原子座標、熱的パ
ラメータ、H1に対する占有)を使用して行った。
【0084】
得られた結果を
図1及び下記の表1に示す。
【0086】
図1及び表1の結果から分かるように、例1で調製したニッケル-コバルト-マンガン複
合遷移金属前駆物質は、この分野で従来知られていない新規な構造を有するM(OH
1−
x)
2である。
【0087】
[実験例2]
X線回折実験を、例1〜7及び比較例1で調製したニッケル-コバルト-マンガン複合遷移
金属前駆物質に対してそれぞれ行った。
【0088】
X線回折(XRD)データは、CuX線管及びLynxeye検出器を備えたBragg-Brentano回折計
(Bruker-AXS D4 Endeavor)を使用し、15°≦2θ≦75°、段階Δ(2θ)=0.025°、室温で2
時間行った。
【0089】
X線及び中性子回折データの組合せリートベルト解析は、TOPASプログラム(解析パラメ
ータ:スケールファクター、バックグラウンド、単位セルパラメータ、原子座標、熱的パ
ラメータ、H1に対する占有)を使用して行った。
【0090】
得られた結果を
図2及び3及び下記の表2にそれぞれ示す。
図2は、例1のニッケル-コバル
ト-マンガン複合遷移金属前駆物質のX線回折ピークと、従来の理論的結晶構造を有する
従来の前駆物質M(OH)
2及びMOOHのX線回折ピークとの間の比較結果を示す。下記
の表2は、
図3のX線ピークに関する解析結果を示す。
【0092】
先ず、
図2から、例1で調製したニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質は、
この分野で従来知られていない新規な構造を有する材料である。特に、例1の遷移金属前
駆物質は、従来公知の遷移金属前駆物質M(OH)
2からのみならず、MOOHからも明ら
かに異なった構造を有する。さらに、xが、本発明に規定する範囲内で0.5に非常に近い
値を有するか、またはxが実験測定の誤差範囲内で実質的に0.5の値を有する場合、すな
わち、複合遷移金属前駆物質の遷移金属酸化数が+3の値を有していても、本発明による
ニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質は、MOOHから全く異なった新規な
材料であると考えられる。
【0093】
図3及び表2に示すように、例1は、M(OH
1−x)
2のピークだけを示すのに対し、例2
〜7は、ピーク比に関して、50%以上のM(OH
1−x)
2の積分強度比を示している。こ
れらの結果から、例1のニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質は、M(OH
1
−x)
2だけを有するのに対し、例2〜7のニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆
物質では、M(OH
1−x)
2とM(OH)
2が共存していることが分かる。他方、比較例1
のニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質は、M(OH)
2だけを有することが
分かる。
【0094】
さらに、例1のピーク位置およびM(OH)
2のピーク位置の比較計算から、例6の前駆
物質は、x≦0.35のM(OH
1−x)
2に精製できる。
【0095】
[例8〜14及び比較例2]
例1〜7及び比較例1で調製したニッケル-コバルト-マンガン複合遷移金属前駆物質を、
Li
2CO
3と1:1(w/w)の比で混合した。各混合物を昇温速度5℃/分で加熱し、920℃で
10時間焼結させ、Li[Ni
0.55Co
0.2Mn
0.25]O
2のカソード活性材料粉
末を調製した。
【0096】
このようにして製造したカソード活性材料粉末、導電性材料(Denkaブラック)及び結合
剤(KF1100)を95:2.5:2.5の比で混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、厚さ20
μmのアルミニウム(Al)ホイルに一様に塗布した。スラリー被覆したAlホイルを130℃
で乾燥させ、リチウム二次バッテリー用のカソードを調製した。
【0097】
このようにして製造したリチウム二次バッテリーカソード、対電極(アノード)としてリ
チウム金属ホイル、セパレータとしてポリエチレンフィルム(Celgard、厚さ20μm)、及び
液体電解質として、1 MLiPF
6を、エチレンカーボネート、ジメチレンカーボネート
及びジエチルカーボネートの1:2:1混合物に入れた溶液を使用し、2016個のコイン電池
を製造した。
【0098】
[実験例3]
例8〜14及び比較例2で調製したコイン電池におけるカソード活性材料の電気的特性を、
電気化学的分析装置(Toyo System, Toscat 3100U)を使用し、電圧範囲3.0〜4.25Vで評価
した。
【0101】
表3の結果から分かるように、本発明の遷移金属前駆物質を使用して製造したリチウム-
遷移金属複合酸化物をカソード活性材料として含む例8〜14のリチウム二次バッテリーは
、同じ組成でも、M(OH)
2前駆物質を使用して製造した比較例2のリチウム二次バッテ
リーと比較して、優れた性能を示す。
【0102】
[実験例4]
Li副生成物値を、例8〜14及び比較例2で調製したリチウム-遷移金属複合酸化物のpH
滴定により、確認した。
【0103】
具体的には、各リチウム-遷移金属複合酸化物10 gを蒸留水100 mLと5分間混合し、リチ
ウム-遷移金属複合酸化物を濾別した。得られた溶液を0.1 N HCl溶液で滴定し、リチ
ウム副生成物の値を測定した。滴定は、pH5まで行った。
【0106】
表4の結果から、本発明の遷移金属前駆物質を使用して製造したリチウム-遷移金属複合
酸化物(例8〜14)は、M(OH)
2前駆物質を使用して製造した比較例2のリチウム-遷移金
属複合酸化物と比較して、Li副生成物が大幅に減少していることが分かる。
【0107】
本発明の好ましい実施態様を例示のために開示したが、当業者には明らかなように、請
求項に記載する本発明の範囲及び精神から離れることなく、様々な修正、追加、及び置き
換えが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0108】
上記の説明から明らかなように、本発明によるリチウム-遷移金属複合酸化物を製造するための新規な遷移金属前駆物質は、リチウム-遷移金属複合酸化物中の遷移金属の酸化数に近い遷移金属の酸化数を有する。従って、そのような前駆物質を使用してリチウム-遷移金属複合酸化物を製造した場合、酸化数を変化させるための酸化または還元工程が簡素化され、より高い工程効率が得られる。さらに、このようにして製造したリチウム-遷移金属複合酸化物は、カソード活性材料として優れた性能を示すだけではなく、反応副生成物、例えばLi
2CO
3またはLiOH・H
2O、の発生が著しく低減され、反応副生成物によるスラリーのゲル化、バッテリーの高温性能低下、高温における膨潤、等の問題に対する解決策が得られる。
[項目1]
遷移金属前駆物質であって、下記式1により表される、複合遷移金属化合物を含んでなり、リチウム−遷移金属複合酸化物の製造に使用される、遷移金属前駆物質。
M(OH1−x)2 (1)
[上記式中、
Mが、Ni、Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、B、Cr及び元素の周期律表における2周期の遷移金属からなる群から選択された二種類以上のものであり、
0<x<0.5である]
[項目2]
上記式1中、上記Mの酸化数が、上記リチウム−遷移金属複合酸化物中の遷移金属の酸化数に近似するものである、
項目1に記載の遷移金属前駆物質。
[項目3]
上記式1中、上記Mの酸化数が+3に近似する、
項目2に記載の遷移金属前駆物質。
[項目4]
上記式1中、上記xが、0.2≦x<0.5の値を有する、
項目1に記載の遷移金属前駆物質。
[項目5]
上記式1中、上記xが、0.3≦x<0.5の値を有する、
項目1に記載の遷移金属前駆物質。
[項目6]
上記Mが、Ni、Co及びMnからなる群から選択された一種以上の遷移金属を含んでなる、
項目1に記載の遷移金属前駆物質。
[項目7]
上記Mが、Ni、Co及びMnからなる群から選択された二種類の遷移金属またはそれらの全てを含む、
項目6に記載の遷移金属前駆物質。
[項目8]
上記複合遷移金属化合物が、下記式2により表される、
項目1に記載の遷移金属前駆物質。
NibMncCo1−(b+c+d)M'd(OH1−x)2 (2)
[上記式中、
0.3≦b≦0.9、
0.1≦c≦0.6、
0≦d≦0.1、
b+c+d≦1
0<x<0.5であり、
M'が、Al、Mg、Cr、Ti、Siおよびそれらのいずれかの組合せからなる群から選択されてなるものである]
[項目9]
上記複合遷移金属化合物の含有量が、上記遷移金属前駆物質の総重量に対して30重量%以上である、
項目1に記載の遷移金属前駆物質。
[項目10]
上記複合遷移金属化合物の含有量が、上記遷移金属前駆物質の総重量に対して50重量%以上である、
項目9に記載の遷移金属前駆物質。
[項目11]
下記式(1)により表され、かつ、
式1中、Mおよびxが、項目1に規定されるものである、
複合遷移金属化合物。
M(OH1−x)2 (1)
[項目12]
項目1に記載の遷移金属前駆物質を使用して製造される、
リチウム−遷移金属複合酸化物。
[項目13]
項目12に記載のリチウム−遷移金属複合酸化物をカソード活性材料として備えてなる、
リチウム二次バッテリー。