【文献】
Golap KALITA, et al.,Femtosecond laser induced micropatterning of graphene film ,Materials Letters,2011年 6月15日,Vol.65, No.11,p.1569-1572
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. S. Novoselov et al. ,"Electric Field Effect in Atomically Thin Carbon Films", SCIENCE, vol.306, pp.666-669, 2004.
【非特許文献2】A. J. van Bommel et al. ,"LEED AND AUGER ELECTRON OBSERVATOPNS OF THE SiC(0001) SURFACE",Surface Science, VOL.48, PP463-472, 1975.
【非特許文献3】A. Reina ET AL. ,"Large Area, Few-Layer Graphene Films on Arbitrary Substrates by Chemical Vapor Deposition", Nano Letters, vol.9, no.1, pp.30-35,2009.
【非特許文献4】X. Li et al. ,"Large-Area Synthesis of High-Quality and Uniform Graphene Films on Copper Foils",SCIENCE, vol.324,pp.1312-1314,2009.
【非特許文献5】F. Maeda and H. Hibino , "Thin Graphitic Structure Formation on Various Substrates by Gas-Source Molecular Beam Epitaxy Using Cracked Ethanol", Japanese Journal of Applied Physics, vol.49, 04DH13, 2010.
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0017】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について
図1Aを用いて説明する。
図1Aは、本発明の実施の形態1におけるグラフェンの加工方法を説明するフローチャートである。この加工方法は、ステップS101で、基板の上にグラフェンを形成する(グラフェン形成工程)。例えば、グラファイトの剥離法によって任意の基板の上にグラフェンが形成可能である(非特許文献1参照)。また、シリコンカーバイト(SiC)基板を用い、この表面を熱分解することで、SiC基板の表面に単層および多層のグラフェンが形成できる(非特許文献2参照)。
【0018】
また、化学気相成長法によって形成したグラフェンを、所望とする基板の上に転写するようにしてもよい(非特許文献3,4参照)。また、分子線エピタキシ法によってグラフェンを形成することもできる(非特許文献5参照)。形成するグラフェンは、単一層であってもよく、多層であってもよい。また、他の技術でグラフェンを形成してもよい。
【0019】
次いで、ステップS102で、グラフェンの所望の加工箇所にパルスレーザーを照射して所望の箇所のグラフェンを除去する(加工工程)。レーザー光源には、例えばリソグラフィー技術の光源として用いられているKrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーを用いればよい。このような光源および光学系を用いた場合、結像限界は、レーザーを光源とするリソグラフィー技術と同程度である。
【0020】
上述した実施の形態1によれば、マスクパターンとして用いるレジストなどの他の物質を形成し、またこれを除去する
工程を必要とせず、グラフェンによる所望とする微細なパターンを形成することができる。パルスレーザーの照射位置を制御することにより、グラフェンの微細構造を直接描画することを可能にする。照射部位のグラフェンを除去することによって、非照射部位に残るグラフェンの微細パターンを得ることが可能となる。
【0021】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について
図1Bを用いて説明する。
図1Bは、本発明の実施の形態2におけるグラフェンの加工方法を説明するフローチャートである。この加工方法は、ステップS111で、基板の上にグラフェンを形成する(グラフェン形成工程)。グラフェンの形成は、前述した実施の形態1と同様である。次いで、ステップS112で、グラフェンの加工箇所に水(純水)を供給し、グラフェンの加工箇所が水で覆われた状態とする。
【0022】
以上のようにすることで、グラフェンの加工箇所が水で覆われた状態とし、ステップS113で、グラフェンの所望の加工箇所にパルスレーザーを照射して所望の箇所のグラフェンを除去する(加工工程)。レーザーの照射については、前述した実施の形態1と同様である。なお、供給する水は、脱気しておくとよい。
【0023】
レーザー照射によるグラフェンの加工では、所望とする部分のグラフェンのみを除去し、隣接する他の領域のグラフェンには損傷を与えないことが重要となる。同様に、グラフェンが形成されている基板材料や、加工領域周辺の構造に対しても、損傷を与えないことが重要となる。これに対し、上述したように、加工箇所に水を供給して水で覆われた状態とし、レーザーを照射することで、レーザー照射による加工が実現可能なプロセスマージンを拡大し、より安定的な加工を実現する。また、水で覆われた状態とすることで、加工領域周辺に対する加工くずの付着を抑制することが可能となる。
【0024】
また、用いる水を脱気しておくことで、レーザー照射時に水中で生じる気泡の膨張にともなうグラフェンの剥離や気泡の光学散乱により生じるレーザー照射損傷を抑制することが可能となる。この結果、高い精度で微細加工したグラフェンが得られるようになる。また、水で覆われた状態とすることで、雰囲気には酸素ガスがない状態とすることができる。炭素は酸素と反応しやすい物質であるため、レーザー加工の条件によっては、酸素ガスの存在により正確な加工が阻害される場合がある。このような場合、加工箇所の雰囲気には、酸素ガスがない状態とすることで、より正確なグラフェンの微細加工が可能となる。
【0025】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について
図1Cを用いて説明する。
図1Cは、本発明の実施の形態1におけるグラフェンの加工方法を説明するフローチャートである。この加工方法は、ステップS121で、基板の上にグラフェンを形成する(グラフェン形成工程)。グラフェンの形成は、前述した実施の形態1と同様である。次いで、ステップS122で、グラフェンの加工箇所に所望とするガスを供給してこのガスの雰囲気とする。
【0026】
以上のようにすることで、グラフェンの加工箇所を所望とするガスの雰囲気とし、ステップS123で、グラフェンの所望の加工箇所に、前述した実施の形態1と同様にパルスレーザーを照射して所望の箇所のグラフェンを除去する(加工工程)。例えば、Ar、N
2などの不活性ガス、酸素、オゾンなどの酸化性ガス、H
2、Cl
2などの反応性ガスを用いればよい。種々のガスを利用することで、パルスレーザーの照射と組み合わせて様々な加工状態を得ることができる。
【0027】
例えば、前述したように、レーザー加工の条件によっては、酸素ガスの存在により正確な加工が阻害される場合は、不活性ガスの雰囲気とし、加工箇所の雰囲気には、酸素ガスがない状態とすることで、より正確なグラフェンの微細加工が可能となる。
【0028】
[加工装置]
次に、グラフェンの加工方法を実施するための加工装置について
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の実施の形態における加工装置の構成を示す構成図である。この加工装置は、まず、ステージ201,パルスレーザー光源202,エネルギー制御部203,ビーム形状制御部204,全反射ミラー205,半反射ミラー206,集光レンズ207を備える。
【0029】
また、この加工装置は、照明部208,撮像部209,表示部210,半反射ミラー211,全反射ミラー212,液供給部(液体供給手段)221,廃液受け容器222,ガス供給部223,処理室225,および制御部231を備える。
【0030】
ステージ201は、加工対象のグラフェンが形成された基板251を載置し、例えば、基板251の平面方向(xy方向)に移動可能とされている。
【0031】
パルスレーザー光源202は、例えば、波長248nmのレーザーを出力するKrFエキシマレーザー光源であり、また、出射するパルスレーザーのパルス幅は55nsである。パルスレーザー光源202より出力されたレーザーは、エネルギー制御部203でエネルギーを制御され、次に、ビーム形状制御部204によりビーム形状が制御される。また、ビーム形状が制御されたレーザーは、全反射ミラー205,半反射ミラー206を反射し、集光レンズ207により集光され、基板251の上の所望の箇所に照射(投影)される。
【0032】
また、基板251のレーザーが照射される加工箇所は、照明部208による照明光により照明され、この状態が撮像部209で撮像され、表示部210に利用者視認可能に表示される。照明部208による照明光は、半反射ミラー211で反射され、半反射ミラー206を透過し、集光レンズ207で集光されて加工箇所を照明する。また、加工箇所の像は、集光レンズ207,半反射ミラー206,半反射ミラー211を透過し、全反射ミラー212を反射して撮像部209で撮像される。
【0033】
撮像部209は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサー(不図示)を備え、受光面に結像した像を光電変換して電子画像とする。撮像部209によって得られた加工部の電子画像が、表示部210に表示される。このような観察系を用い、ステージ201に載置された基板251のグラフェンの画像を観察し、得られる画像の結像状態を用い、ステージ201の高さを調整し、照射されるレーザーの結像位置を調整する。また、ステージ201をxy方向の所望の箇所に移動させることで、グラフェンの所望とする加工箇所にレーザーを照射させることができる。ステージ201,パルスレーザー光源202,エネルギー制御部203,ビーム形状制御部204,および反射ミラーなどの光学系によりレーザー照射手段が構成されている。
【0034】
液供給部221は、ステージ201の上に載置された基板251の表面に純水を供給する。基板251の上に供給された純水は、廃液受け容器222に回収される。液供給部221により純水が供給されている間は、基板251上のグラフェンの加工箇所は、純水で覆われた状態が継続される。また、液供給部221により、水溶液、メタノール、エタノール等のアルコール類をはじめとする任意の有機溶剤、さらにはこれらの混合溶媒を供給してもよい。また、供給する液体における溶存ガスの影響による気泡の影響を抑制するために、液供給部221に導入される液体の脱気を行う脱気装置を設けるようにしてもよい。
【0035】
ガス供給部223は、ステージ201の上に載置された基板251の表面に、所望とするガスを供給する。例えば、Ar、N
2などの不活性ガス、酸素、オゾンなどの酸化性ガス、H
2、Cl
2などの反応性ガスが供給できる。また、これらのガスの混合ガスが供給できる。
【0036】
ステージ201,パルスレーザー光源202,エネルギー制御部203,ビーム形状制御部204,液供給部221,およびガス供給部223の上述した動作は、制御部231により制御されている。
【0037】
上述した加工装置により、パルスレーザーとの同期およびパルスレーザーの縮小投影ビーム形状により、基板251上の所望の位置のグラフェンを除去することが可能であり、グラフェンの任意の形状(パターン)を得ることができる。
【0038】
以下、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0039】
[実施例1]
はじめに、実施例1について説明する。実施例1では、パルスレーザーによる大気雰囲気下でのグラフェンの加工について説明する。
【0040】
まず、グラフェンを作製する。SiCの3インチ系のウエハ(Cree社製)を平面視で10mm角に切断したSiC基板を用意する。次いで、このSiC基板を、ピラニア溶液とフッ酸で洗浄する。ピラニア溶液は、濃硫酸(H
2SO
4)と過酸化水素(H
2O
2)水溶液とを混合した強酸および強酸化性の洗浄液である。引き続いて、13332PaのArガス雰囲気中にした赤外加熱炉により、1820℃・5分間の加熱条件で加熱し、SiC基板の表面に1層グラフェンを形成して加工用の試料とした。
【0041】
次に、上述したようにグラフェンを形成したSiC基板を、
図2を用いて説明した加工装置のステージ201に載置し、大気雰囲気とした。この状態で、100Hzの繰り返し周波数のKrFエキシマレーザーをパルスレーザー光源202より出力し、ビーム形状制御部204により40μm×320μmの長方形状にビーム形状を成形し、所望の箇所のグラフェン(試料)に照射して加工した。
【0042】
上述したパルスレーザーの照射による試料の加工状態を光学顕微鏡により観察した。
図3は、光学顕微鏡による実施例1の試料の加工状態の観察結果を示す写真である。上述した加工実験では、パルスレーザー光源202より出力したパルスレーザーを、エネルギー制御部203により、照射エネルギー密度を1.9〜3.7J/cm
2の範囲で変化させた。また、パルスレーザーの繰り返しパルス数は、1〜100回の範囲で変化させた。各条件について、以下の表1に示す。
【0044】
図3に示すように、まず、レーザー照射部位の形状に一致した像が観察された。また、照射条件によって、黒い堆積物が得られた領域(例えば照射条件5、15〜18)、色調の変化が見られた領域(例えば照射条件19〜26)、変化がほとんど見られなかった領域(例えば照射条件27〜42)が観察された。
【0045】
次に、適切な条件を選択することによってグラフェンが加工できることを確認するために、さらに照射領域の境界においてラマンスペクトルの測定を行った。
図4は、照射条件26(照射エネルギー密度2.7J/cm
2、繰り返しパルス数100回)の領域の境界を、測定に用いたラマンスペクトル測定装置の撮像部で撮像した結果得られた像の写真(a)と、ラマンスペクトルの2Dバンドの強度を示した写真(b)である。
図4の(b)は、測定装置で撮像された像内の一部の領域で、ラマンスペクトル(励起波長532nm)を測定し、測定により得られるスペクトル中に現れるグラフェン由来のピーク(2Dバンド、ラマンシフト2700cm
-1付近に対応する領域の鋭いピーク)の強度を示している。
【0046】
図4の(a)に示すように、測定装置で撮像された像からレーザー照射部位と非照射部位とは、明らかにコントラストが異なることが観察される。また、
図4の(b)に示すように、レーザー照射側では、グラフェン由来のピーク強度がノイズレベルでしか得られなかったのに対し、非照射側では一定のピーク強度が一様に得られた。このことから、レーザー照射側ではグラフェンが除去されたことが明らかになり、実施例1におけるグラフェン加工方法の優位性を示すことができた。
【0047】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。実施例
2では、パルスレーザーによる水中におけるグラフェンの加工について説明する。
【0048】
まず、グラフェンを作製する。SiCの3インチ系のウエハ(Cree社製)を平面視で10mm角に切断したSiC基板を用意する。次いで、このSiC基板を、ピラニア溶液とフッ酸で洗浄する。ピラニア溶液は、濃硫酸(H
2SO
4)と過酸化水素(H
2O
2)水溶液とを混合した強酸および強酸化性の洗浄液である。引き続いて、13332PaのArガス雰囲気中にした赤外加熱炉により、1820℃・5分間の加熱条件で加熱し、SiC基板の表面に1層グラフェンを形成して加工用の試料とした。
【0049】
次に、上述したようにグラフェンを形成したSiC基板を、
図2を用いて説明した加工装置のステージ201に載置し、液供給部221を動作させ、加工領域が純水で覆われた状態とした。この状態で、100Hzの繰り返し周波数のKrFエキシマレーザーをパルスレーザー光源202より出力し、ビーム形状制御部204により40μm×320μmの長方形状にビーム形状を成形し、所望の箇所のグラフェン(試料)に照射して加工した。
【0050】
実施例2では、上述したように加工領域を純水中とした状態で、設定した加工箇所に、照射エネルギー密度3.3J/cm
2、繰り返しパルス数10回の条件でパルスレーザーの照射を行った。また、このレーザー照射の後、試料を乾燥させた。この試料について、ラマンスペクトルの測定および大気中でラマンスペクトル測定装置の撮像部により観察した結果を、
図5に示す。
図5は、実施例2における試料の加工箇所の境界を測定装置の撮像部で撮像した結果得られた像の写真(a)と、測定したラマンスペクトルの2Dバンドの強度を示した写真(b)である。
図5の(b)は、撮像された像内の一部の領域で、ラマンスペクトル(励起波長532nm)を測定し、測定により得られるスペクトル中に現れるグラフェン由来のピーク(2Dバンド、ラマンシフト2700cm
-1付近に対応する領域の鋭いピーク)の強度を示している。
【0051】
図5の(a)に示すように、測定装置で撮像された像からレーザー照射部位と非照射部位とは、明らかにコントラストが異なることが観察される。また、
図5の(b)に示すように、レーザー照射側では、グラフェン由来のピーク強度がノイズレベルでしか得られなかったのに対し、非照射側では一定のピーク強度が一様に得られた。この結果は、実施例1と同様であり、このことから、レーザー照射側ではグラフェンが除去されたことが明らかになり、実施例2における液体環境下でも、グラフェンが加工できることが確認された。
【0052】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。実施例3では、各種雰囲気下でのグラフェンのレーザー照射条件と加工状態を制御した結果について説明する。レーザー照射条件により、表2に示すようにグラフェンの加工状態に変化が生じる。表2は、設定した各照射エネルギー密度と照射回数で純水中および大気中でグラフェンを加工した後の状態を評価したものである。グラフェンは、前述した実施例1,実施例2と同様に作製した。
【表2】
【0053】
表2において、「○」はグラフェンが良好に加工が施された状態を示し、「×」はレーザー照射による損傷が生じた状態を示し、「−」は、加工が生じなかった状態を示している。表2に示すように、大気中および水中の両条件において、グラフェンのレーザー加工が可能な照射条件があることが分かる。また、純水中のレーザー照射では、グラフェンの加工が可能な領域が広く、より安定的にグラフェンの加工が可能なことが分かる。
【0054】
図6は、大気中および純水中でレーザー加工したグラフェン試料を、原子間力顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡像である。
図6の(a)は、大気中でレーザー照射した加工の場合を示し、
図6の(b)は、純水中でレーザー照射した加工の場合を示している。いずれの試料も、レーザー非照射側ではグラフェンが残存しており、表面はグラフェンで覆われた平坦な凹凸像が得られた。また、いずれの試料もレーザー照射側ではグラフェンが除去され、やや凹凸のある表面が観察された。これらの観察結果から、グラフェンのレーザー加工の優位性がさらに確認された。
【0055】
ところで、
図6の(a)に示すように、大気中でレーザー加工した試料においては、レーザー非照射部位に、加工で生じたと考えられる飛沫が観察された。この飛沫は、
図6の(b)に示すように、純水中でレーザー照射した試料のレーザー非照射部位では観察されなかった。このように、液中におけるレーザー加工では、加工領域周辺の加工くず付着を抑制でき、洗浄工程などの後工程を省くことが可能である。
【0056】
[実施例4]
次に、実施例4について説明する。実施例4では、パルスレーザーの照射により純水雰囲気でグラフェンを加工するときの、溶存している空気の影響について説明する。純水に対してレーザーを照射した場合、レーザー照射領域の水が蒸発して気泡が発生・膨張することが知られている。この気泡の寿命は、数μs〜数十μsであり膨張の後で、収縮・消滅する。消滅する際には周囲が負圧となるため水中に溶存している酸素,窒素,二酸化炭素などのガスがキャビテーションバブルとして生じる。このキャビテーションバブルの消滅時間は、数百μs〜数msである。ガスの溶存濃度が高い状態の水を用いてグラフェンの加工を施すと、パルスレーザーを照射する毎にキャビテーションバブルが生成されることになる。
【0057】
脱気処理をしていない純水を用い、実施例2に示す方法によりグラフェンの加工を行った結果を
図7に示す。
図7は、脱気処理をしていない純水を用いたレーザー照射により加工したグラフェン表面を光学顕微鏡により観察した結果を示す顕微鏡像である。この実験では、繰り返し周波数は100Hz、照射エネルギー密度は1J/cm
2、照射回数は10パルスとした。
図7に示すように、キャビテーションバブルによる光学散乱の影響で、半径100〜1000μmの円形のパターンが生じた。このように、脱気していない水を用いた場合、レーザー照射によりキャビテーションバブルが発生し、加工対象としていないグラフェン表面が部分的に加工され損傷が生じていることが分かる。
【0058】
ここで、純水におけるガス溶存濃度と気泡の消滅時間との関係を
図8に示す。
図8に示すように、脱気処理を施さない溶存濃度7mg/Lでは、気泡の消滅時間は数百μs〜数msである。また、溶存濃度0.5mg/Lでは、気泡の消滅時間は数十μs〜数百μsである。また、溶存濃度0.1mg/Lでは、気泡の消滅時間は、水蒸気バブルの消滅時間と同等の数十μsとなることが分かる。
【0059】
レーザー照射を行った結果、溶存濃度7mg/Lでは、繰り返し周波数100Hzにおいても気泡の光学散乱により損傷が生じることが確認された。また、溶存濃度0.5mg/Lでは繰り返し周波数100Hzでは損傷が生じず、1000Hzで損傷が観測された。さらに0.1mg/Lでは、1000Hzまでのレーザー照射において気泡の光学散乱による損傷が生じないことが確認されている。
【0060】
これらの結果から明らかなように、水に覆われたグラフェンに対してレーザー照射して加工を行う場合、用いる水は脱気していることが望ましい。例えば、
図2を用いて説明した加工装置に、脱気装置を組み合わせればよい。また、用いる水の溶存濃度は0.5mg/L以下、より望ましくは0.1mg/L以下とする方が、より高繰り返し照射が可能となり処理速度向上が達成される。
【0061】
上述した条件を満たす純水を用い、
図2を用いて説明した加工装置で、液供給部221を動作させ、加工対象のグラフェン上に上記純水を供給した状態で、パルスレーザーを照射して加工した結果について説明する。このようにして加工したグラフェンを、撮像部209で撮像した結果得られた像の写真を
図9に示す。
図9に示すように、加工領域では、
図7で見られたキャビテーションによる円形状のパターンは観測されない。この結果より、脱気した水を用いることで、液中でのパルスレーザー照射によるグラフェン加工が良好に行えることが示された。
【0062】
以上に説明したように、本発明では、パルスレーザーの照射によりグラフェンを加工するようにしたので、損傷など与えることなく、グラフェンが微細加工できるようになる。本発明によれば、レジストなどのマスク層を用いた方法では不可避であった、グラフェン表面への異物質の塗布・剥離による汚染が回避できる。
【0063】
グラフェン表面の汚染はグラフェンの電導特性に大きな影響を与え、グラフェンデバイス動作に不安定をもたらるため、この回避は、グラフェンを利用したデバイスの安定動作に非常に重要となる。本発明によれば、グラフェン表面が清浄に保たれた状態でグラフェン微細加工が可能になり、グラフェンを利用したデバイスの安定動作を可能とする。