特許第6029242号(P6029242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029242クロストリジウム・ディフィシル増殖阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029242
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】クロストリジウム・ディフィシル増殖阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20161114BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   A61K35/74 A
   A61P31/04
   A61K31/19
   A61K31/192
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-507369(P2013-507369)
(86)(22)【出願日】2012年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2012056628
(87)【国際公開番号】WO2012132913
(87)【国際公開日】20121004
【審査請求日】2015年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-72462(P2011-72462)
(32)【優先日】2011年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-8115
【微生物の受託番号】ATCC  9614T
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】利光 孝之
(72)【発明者】
【氏名】池上 秀二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕之
【審査官】 渡邊 倫子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0170617(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/098447(WO,A1)
【文献】 特開2010−280582(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/094850(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオン酸菌及び/又はその発酵物を有効成分として含む、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害剤であって、
前記プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)(FERM BP−8115)またはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)である、剤。
【請求項2】
請求項に記載の剤を含んでなる、抗生物質もしくは抗菌薬との併用剤。
【請求項3】
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害剤の製造における、有効量のプロピオン酸菌及び/又はその発酵物の使用であって、
前記プロピオン酸菌が、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)(FERM BP−8115)またはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)であることを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害剤、並びに、クロストリジウム・ディフィシル増殖阻害作用を有するプレバイオティクス組成物及びこれを含んでなる飲食品組成物並びにクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は抗菌薬が誘因となる下痢症あるいは腸炎の主要な原因菌であり、偽膜性大腸炎の原因菌としてよく知られている。クロストリジウム・ディフィシル感染症の症状は、軽度の下痢症状から、腸閉塞等死に至るような重篤な病態まで幅が広いことを特徴とする。さらに、本感染症は再発することが多く治療が困難で、院内感染の原因菌としても重要で、病院入院症例や老人ホームの入居者における院内集団発生が頻繁に報告されている。こうした場合の臨床現場においては薬剤による治療が困難であるため、特に簡便に用いることができる飲食品やプレバイオティクスによる症状緩和、感染症抑制やその予防が強く求められている。
【0003】
これまでも、様々なクロストリジウム・ディフィシル感染症に対する対応策が検討されている。例えば、特許文献1にはフラクトオリゴ糖からなる未消化性オリゴ糖の治療有効量を投与することでクロストリジウム・ディフィシルによる哺乳動物の感染症を抑制する方法が開示されている。また特許文献2にはホップ抽出物等を飲食品もしくは飲料に添加して又は投与してクロストリジウム・ディフィシルの増殖を抑制し、さらにはこれにより誘起される疾病の治療又は予防を行う事を開示している。さらに、特許文献3は、クロストリジウム・ディフィシル等による院内感染性の感染症の増加にともない、これらの疾患に対する新規抗菌化合物として、クロストリジウム・ディフィシル増殖阻害効果を有するツリシンCDというバクテリオシンについて開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5688777号明細書
【特許文献2】特開平11−221064号公報
【特許文献3】特表2011−505126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献に開示の技術においては、有用なビフィズス菌の増殖を促進しつつ、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の増殖を阻害するようなプレバイオティクス及びプレバイオティクス由来成分については開示されておらず、またこれについて報告した例はこれまで知られていなかった。
【0006】
したがって、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の増殖を抑制し、またこれによる症状緩和、さらにはこれによる感染症抑制やその予防が、より簡便な方法でかつ高い効果で達成しうる技術の開発が引き続き望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記従来の問題点に鑑み鋭意研究を進めたところ、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)、特にET−3株やATCC9614T株等の培養上清がクロストリジウム・ディフィシルの増殖を抑制しうることを見出した。また、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株やATCC9614T株等が高産生する1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)および/または有機酸がクロストリジウム・ディフィシルの増殖を顕著に阻害することを見出した。
【0008】
したがって、本発明はビフィズス菌、乳酸菌等の有用細菌に対して影響を及ぼすことなくクロストリジウム・ディフィシルの増殖を顕著に抑制するプレバイオティクス組成物及びこれを含んでなる飲食品組成物、並びにクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害方法を提供する。
【0009】
本発明の好ましい態様は、プロピオン酸菌及び/又はその発酵物を有効成分として含む、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害剤である。
また、本発明の一態様は、プロピオン酸菌及び/又はその発酵物を含んでなるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害作用を有するプレバイオティクス組成物である。
【0010】
上記増殖阻害剤またはプレバイオティクス組成物における前記プロピオン酸菌としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)またはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)であることが好ましい。
【0011】
本発明の好ましい態様は、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)および/または有機酸を有効成分として含む、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害剤である。
また本発明の別の態様は、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)および/または有機酸を含んでなるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害作用を有するプレバイオティクス組成物である。
【0012】
上記増殖阻害剤またはプレバイオティクス組成物における前記1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)またはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)の発酵物より得られるもの、あるいは、合成DHNAであることが好ましい。DHNAは、当業者であれば公知の手法によって適宜合成することが可能である。そして前記の有機酸は、酢酸、蟻酸、プロピオン酸などが挙げられ、特に好ましくはプロピオン酸である。
【0013】
本発明のさらに別の態様は、有効量のプロピオン酸菌及び/又はその発酵物を含んでなるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害作用を有する飲食品組成物である。
【0014】
上記飲食品組成物における前記プロピオン酸菌としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)またはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)であることが好ましい。
【0015】
また本発明のさらに別の態様は、有効量の1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)および/または有機酸を含んでなるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害作用を有する飲食品組成物である。
【0016】
上記飲食品組成物における前記1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)またはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)の発酵物より得られるものであることが好ましい。
【0017】
本発明のさらに別の態様は、有効量のプロピオン酸菌及び/又はその発酵物を含んでなるプレバイオティクス組成物を摂取又は投与することを特徴とするクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害方法である。
【0018】
上記クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害方法における前記プロピオン酸菌としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)またはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)であることが好ましい。
【0019】
また本発明のさらに別の態様は、有効量の1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)および/または有機酸を含んでなるプレバイオティクス組成物を摂取又は投与することを特徴とするクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害方法である。投与対象としては、例えば、ヒトあるいは非ヒト哺乳動物等が挙げられる。また本発明の上記増殖阻害方法には、例えば、インビボ、インビトロ、エクスビボの方法が含まれる。
【0020】
上記クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害方法における前記1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)またはプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)の発酵物より得られるものであることが好ましい。
【0021】
また、本発明のクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害剤は、後述のように、ビフィズス菌、乳酸菌等の有用細菌に対して影響を及ぼすことなくクロストリジウム・ディフィシルの増殖を顕著に抑制する効果を有する。したがって、本発明の増殖阻害剤の利用態様としては、例えば、ビフィズス菌、乳酸菌等の有用細菌の増殖に影響を及ぼす作用を有する抗生物質や抗菌薬と併用して用いる態様が挙げられる。即ち、本発明の増殖阻害剤は、抗生物質や抗菌薬との併用剤として有用である。
【0022】
本発明の増殖阻害剤と併用される抗生物質としては、例えば、リンコマイシン系抗生物質、β−ラクタム系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、クロラムフェニコール系抗生物質、ペプチド系抗生物質、ホスホマイシンなどが挙げられ、本発明の抗菌薬としては、例えば、サルファ剤、抗結核薬、キノロン系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、抗ウィルス薬、抗真菌薬などが挙げられる。これらの抗生物質や抗菌薬は、クロストリジウム・ディフィシルの増殖を引き起こす恐れがあるため、クロストリジウム・ディフィシルの増殖を抑制する目的で併用する。また、メトロニダゾール(metronidazole)やバンコマイシン(vancomycin)、フィダキソマイシン(Fidaxomicin)といったクロストリジウム・ディフィシルに有効な抗生物質の作用を補完する形で本発明のクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害剤を併用することも本発明の範囲に含まれる。
【0023】
また本発明は、プロピオン酸菌及び/又はその発酵物の、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害剤の製造のための使用に関する。
さらに本発明は、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)及び/又は有機酸の、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害剤の製造のための使用に関する。
【0024】
また本発明は、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害に用いるためのプロピオン酸菌及び/又はその発酵物に関する。
さらに本発明は、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害に用いるための1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明のプレバイオティクス組成物は腸内の有用な細菌であるビフィズス菌の増殖を促進し、また乳酸菌の増殖には影響を及ぼさない。そのため、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株及びATCC9614T株並びにDHNA等を含む本発明のプレバイオティクス組成物はビフィズス菌等の増殖を促進する一方、極めて有害な細菌であるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の増殖を抑制することができる。したがって本発明は、非常に有用なクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害作用を有するプレバイオティクス組成物及びこれを含んでなる飲食品組成物並びにクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のプレバイオティクス組成物のクロストリジウム・ディフィシルの増殖阻害活性を示すグラフ図である。
図2】本発明のプレバイオティクス組成物のクロストリジウム・ディフィシルの増殖阻害活性を示すグラフ図である。
図3】本発明のプレバイオティクス組成物がビフィズス菌(Bifidobacterium longum OLB6001株)の増殖に及ぼす影響を示すグラフ図である。
図4】本発明のプレバイオティクス組成物が乳酸菌(L.bulgaricus)の増殖に及ぼす影響を示すグラフ図である。
図5】本発明のプレバイオティクス組成物が乳酸菌(S.thermophilus OLS3059株)の増殖に及ぼす影響を示すグラフ図である。
図6】本発明のプロピオン酸がクロストリジウム・ディフィシルの増殖に及ぼす影響を示すグラフ図である。
図7】受託番号FERM BP−8115(プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株)の受託証の写しである。
図8】受託番号FERM BP−8115(プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株)の生存に関する証明書の写しである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0028】
プロピオン酸菌は、古くからエメンタールチーズ等のスターターとして利用されており、その安全性は確認されている。本発明によるクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害剤またはプレバイオティクス組成物に含まれるプロピオン酸菌の例としては、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3(Propionibacterium freudenreichii ET−3)、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ IFO 12424(Propionibacterium freudenreichii IFO 12424)、Propionibacterium jensenii、Propionibacterium acidipropionici等プロピオニバクテリウム属に属する微生物が挙げられる。この中でも特に、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3株、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T株が好ましい。
これらの菌体については単独または複数のものを組み合わせて使用しても良い。
【0029】
本発明によるクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害剤またはプレバイオティクス組成物で用いられるプロピオン酸菌及び/またはその発酵物としては、前記プロピオニバクテリウム属微生物を常法に従って培養することによって得られる。得られた発酵物それ自体、及び/又はその処理物を、本発明に係る増殖阻害剤またはプレバイオティクス組成物として使用できる。処理物は例えば、菌体を含む発酵物、発酵物を濾過あるいは除菌して得た濾液、所定の溶媒により抽出した抽出物、エバポレーター等により発酵物・その濾液・抽出物・上清液を濃縮した濃縮物、これらの乾燥物(凍結乾燥、他)等の処理工程を経たものを用いることができる。
【0030】
好ましいプロピオン酸菌及び/またはその発酵物の添加量としては、発酵物の濃縮度等によって異なる。例えば、国際公開パンフレット第WO2005/033323号明細書の実施例1に記載の方法で製造したプロピオン酸菌の発酵物をDHNA濃度100μg/mlとなるまで濃縮したものの場合、本発明の増殖阻害剤またはプレバイオティクス組成物に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜5重量%である。
【0031】
本発明によるクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害剤またはプレバイオティクス組成物に含まれる1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸(DHNA)としては、化学合成または生合成によるもののいずれでも用いることができるが、好ましくは生合成によるものである。本発明においては特に、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)ET−3株やプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T(Propionibacterium freudenreichii ATCC9614T)、が高産生するDHNAを用いることが好ましい。たとえば、プロピオニバクテリウム属微生物を常法に従って培養することによって得られる発酵物それ自体、及び/又はその処理物をDHNAとして使用できる。処理物は例えば、菌体を含む発酵物、発酵物を濾過あるいは除菌して得た濾液、所定の溶媒により抽出した抽出物等の粗製物、またそれらの精製物、エバポレーター等による発酵物・その濾液・抽出物・上清液を濃縮した濃縮物、これらの乾燥物(凍結乾燥、他)等の処理工程を経たものを用いることができる。DHNAの濃度としては、用途等に応じて適宜調整することができるが、1〜250μg/ml、好ましくは1〜5μg/mlである。
【0032】
本発明はプレバイオティクス組成物を含有する飲食品組成物も提供する。
【0033】
本発明のプレバイオティクス組成物を含有する飲食品組成物は、具体的には、飲食品組成物、例えば、牛乳、清涼飲料、発酵乳(ヨーグルト、ヨーグルト飲料)、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、幼児用粉乳等食品、授乳婦用粉乳等食品、栄養食品等に本発明のプレバイオティクス組成物を添加し、これを摂取してもよい。また、その性状についても、通常用いられる飲食品の状態、例えば、固体状(粉末、顆粒状その他)、ペースト状、液状ないし懸濁状、流動食状、ゼリー状、タブレット状、顆粒状、カプセル状等、通常流通し得るあらゆる飲食品形状をとることができる。この中でも、簡便に摂取しうる点、吸収性の点等から、本発明の飲食品組成物は飲料の形態で提供することが好ましい。
【0034】
その他の成分についても特に限定されないが、本発明のプレバイオティクス組成物を飲食品組成物に含ませて用いる場合には、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これら加水分解物;バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分等が挙げられる。糖質としては一般の糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維等が挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂等が挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸等が挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、リン、カリウム、マグネシウム、塩素、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、クロム、モリブデン、バナジウム、乳清ミネラル等が挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸等が挙げられる。これらの成分は、単独でも2種以上を組み合わせても使用することができ、合成品及び/またはこれらを多く含む飲食品を用いてもよい。
【0035】
上記飲食品組成物は、本発明のプレバイオティクス組成物と上記必要成分の適宜量とを混合し、常法に従って製造することができる。
【0036】
本発明の飲食品組成物におけるプレバイオティクス組成物の含有量は、その目的、用途等に応じて任意に定めることができる。本発明はこれに限定されないがその含有量としては、全量に対して通常、5重量%以上、より好ましくは10重量%以上である。これを摂取または投与することで簡便にクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)増殖阻害を行うことができ、ひいては症状緩和、感染症抑制やその予防ができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「%」表示は特に明記する場合を除き重量%を示すものとする。
【0038】
[実施例1]
・本発明のプレバイオティクス組成物であるプロピオン酸菌培養上清の調製
プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3株(平成13年8月9日付で、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6(郵便番号305−8566))にFERM BP−8115として寄託されている)、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T株(プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ基準株、American Type Culture Collection(ATCC)より購入)、市販のエメンタールチーズより分離したプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ株(No.32−1)を30℃嫌気条件下で48時間賦活及び前培養した後、さらに30℃嫌気条件下で72時間培養した。培養物を遠心分離し(遠心分離条件:8000rpm、4℃、10分)、培養上清を回収し、フィルター滅菌し、得られた培養上清を本発明のプレバイオティクス組成物として−80℃で保存した。
【0039】
・クロストリジウム・ディフィシルの培養
クロストリジウム・ディフィシルJCM1296T株(クロストリジウム・ディフィシル基準株)は理研バイオリソースセンターより購入し、添付のマニュアルに従って復元した。
【0040】
・阻害試験
上記において調整したクロストリジウム・ディフィシルを予め嫌気状態に保ったBHI培地に1%接種した。これに本発明のプレバイオティクス組成物又はDHNAを添加し、37℃嫌気条件下で24時間培養した。培養液をよく攪拌した後、OD650を測定した(島津分光光度計BioSpec1600、(株)島津製作所製)。結果をグラフ図として図1に示す。なお得られたデータについては、Tukey−Kramer法による多重比較検定を行い、各群n=3、*p<0.05、**p<0.01とした。なお、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ATCC9614T及びプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ ET−3についてはcontrol群に対してp<0.01とした。
【0041】
[結果]
本発明のプレバイオティクス組成物を5%添加した系において、24時間培養後のOD650が有意に低下したことから、本発明のプレバイオティクス組成物が効果的にクロストリジウム・ディフィシルの増殖阻害をすることがわかった。
【0042】
[実施例2]
・本発明のプレバイオティクス組成物に含むDHNAの調製
DHNA(Sigma−Aldrich製)100mgを0.5mlのDMSOに溶解し、1MのDMSO溶液を作成した。BHI培地で10倍希釈し100mMとした後、フィルター滅菌した。同時にDMSOをBHI培地で10倍希釈した溶液も作成し、フィルター滅菌した。その後の希釈は全て10倍希釈DMSO溶液で行い、全濃度のDHNA溶液にDMSOが10%含まれるようにした。これらのDHNA溶液を本発明のプレバイオティクス組成物として菌培養液に0.1%添加するため、DMSOの最終濃度はいずれも0.01%とした。
【0043】
・阻害試験
実施例1において用いたクロストリジウム・ディフィシルに対する本発明のプレバイオティクス組成物の増殖阻害効果について実施例1と同様の阻害試験を行った。具体的には各試料に対してDHNA含有の本発明のプレバイオティクス組成物をそれぞれの濃度で添加した(1μM、10μM、20μM、50μM)。得られた結果を図2のグラフに示す。なお、Tukey−Kramer法による多重比較検定を行い、各群n=3、*p<0.05とした。なお、10μM〜50μMについてはDMSO群に対して**p<0.01とした。
【0044】
図2に示すように10μM以上のDHNAの添加により、クロストリジウム・ディフィシルの増殖が顕著に阻害されることが示された。
【0045】
[実施例3]
・ビフィズス菌及び乳酸菌培養上清の調整
B.longum OLB6001株(FERM P−13610)及び「明治ブルガリアヨーグルト」(商品名:明治乳業社製)より分離したL.bulgaricusは37℃嫌気条件下で18時間培養した。S.thermophilus OLS3059株(FERM P−15487)は30℃嫌気条件下で30時間培養した。培養物を遠心分離し(遠心分離条件:8000rpm、4℃、10分)、培養上清を回収し、フィルター滅菌して、得られた培養上清を比較組成物として−80℃で保存した(乳酸菌は実施例4において使用)。
【0046】
・本発明のプレバイオティクス組成物がビフィズス菌の増殖に及ぼす影響
Bifidobacterium longum OLB6001株を実施例2において用いたDHNAもしくは0.01%DMSOを(対照)添加し、37℃嫌気条件下で12時間培養した。培養液をよく攪拌した後、OD650を測定した(島津分光光度計BioSpec1600、(株)島津製作所製)。結果をグラフ図として図3に示す。なお、Tukey−Kramer法による多重比較検定を行い、各群n=3、*p<0.05とした。なお、10μM〜50μMについてはDMSO群に対して**p<0.01とした。
【0047】
[結果]
本発明のDHNAを含有するプレバイオティクス組成物の添加によりOLB6001株の増殖が有意に促進されることがわかった。即ち、本発明のプレバイオティクス組成物は有用細菌に対して影響を及ぼさずむしろ増殖促進効果があることが示された。したがって、クロストリジウム・ディフィシルの増殖阻害を行う際には有用細菌についてその増殖に影響を及ぼさない(むしろ増殖促進効果がある)ことがわかった。
【0048】
[実施例4]
・本発明のプレバイオティクス組成物が乳酸菌の増殖に及ぼす影響
本発明のDHNAを含有するプレバイオティクス組成物(DHNA濃度:1μM〜50μM)の、実施例3で用いたL.bulgaricus及びS.thermophilus OLS3059株に対する影響を調べるため、実施例3と同様の試験を行い、結果を図4及び図5に示す。実施例3と同様に、本発明のDHNAを含有するプレバイオティクス組成物の添加によりL.bulgaricus及びS.thermophilus OLS3059株の増殖に対して影響を及ぼさないことがわかった。したがって、クロストリジウム・ディフィシルの増殖阻害する際には有用細菌についてその増殖に影響を及ぼさないことがわかった。
[実施例5]
・本発明のプロピオン酸がクロストリジウム・ディフィシルの増殖に及ぼす影響
24時間培養してOD650が1.2まで増殖したクロストリジウム・ディフィシル(C.difficile JCM1296株)培養液を培地に1%添加すると同時に、各種有機酸を終濃度100μMとなるように添加し、24時間後のOD650値を測定した。結果をグラフ図として図6に示す。
図6に示すようにプロピオン酸の添加により、クロストリジウム・ディフィシルの増殖が阻害されることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によるクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害剤またはプレバイオティクス組成物は腸内の有用細菌であるビフィズス菌や乳酸菌の増殖には影響を及ぼさないあるいは増殖に対して有効である一方、極めて有害な細菌であるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の増殖を抑制することができる。そのため、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株及びATCC9614T株並びにDHNA等を含む本発明のプレバイオティクス組成物に基づき、非常に有用なクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害作用を有するプレバイオティクス組成物及びこれを含んでなる飲食品組成物並びにクロストリジウム・ディフィシル増殖阻害方法を提供することが可能であり、産業上の利用可能性は非常に高い。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8