(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のガス電子増倍器は、絶縁層が樹脂材料から構成されており、電子がガス分子に衝突して増倍される際に複数の貫通孔内が高温となることで、絶縁層が変形するといった問題があった。このように、絶縁層が変形すると複数の貫通孔に位置ずれが生じ、電子を検出する際に分解能の低下を招いてしまう。
一方、特許文献2のガス電子増倍器は、絶縁層が無機材料から構成されているため高温による複数の貫通孔の位置ずれといった問題は生じないが、ドリルなどを用いて絶縁層に複数の貫通孔を形成するため、複数の貫通孔の直径とピッチを共に小さく形成することが困難であり、これが分解能を向上させる際の大きな障害となっていた。すなわち、複数の貫通孔の直径のみを小さく形成しても、複数の貫通孔のピッチが大きければそれぞれの貫通孔で増倍された電子が離れた位置で検出されるため、分解能を向上させることは困難となる。また、複数の貫通孔のピッチのみを小さく形成しても、複数の貫通孔の直径が大きければ貫通孔を透過するガスの透過速度が小さくなるためガスの拡散を招く。このガスの拡散に応じて複数の貫通孔内で増倍される電子の広がりは大きくなるため、分解能を向上させることが困難となる。
【0006】
そこで、本発明は、分解能を向上することができるガス電子増倍器およびガス電子増倍装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、アルミニウムの陽極酸化膜からなる絶縁層における複数の貫通孔が、所定の直径と所定のピッチを有し、且つ、ガス電子増倍器の開口面積率が所定値以上であることにより、分解能を向上することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の構成のガス電子増倍器およびガス電子増倍装置を提供する。
【0008】
(1) ガス雰囲気下において電場を発生させて電子の増倍を行うガス電子増倍器であって、
アルミニウムの陽極酸化膜からなり、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する絶縁層と、
絶縁層を挟持し、複数の貫通孔内に電場を発生させる一対の電極層と
を備え、
複数の貫通孔は、直径が20nm〜400nmで且つピッチが40nm〜500nmであり、
開口面積率が30%以上であるガス電子増倍器。
【0009】
(2) 絶縁層は、1〜1000μmの厚さを有する(1)に記載のガス電子増倍器。
【0010】
(3) 透気度が1000sec以下である(1)または(2)に記載のガス電子増倍器。
【0011】
(4) 複数の貫通孔を有する1または2以上のガス電子増倍器と、
ガス電子増倍器に対向して配置され、ガス電子増倍器で増倍された電子を検出する検出部を有し、
ガス電子増倍器が、(1)〜(3)のいずれかに記載のガス電子増倍器であるガス電子増倍装置。
【0012】
(5) 複数のガス電子増倍器が、検出部に対して順次平行に配置される(4)に記載のガス電子増倍装置。
【0013】
(6) 検出部は、複数のセンサを有し、複数のセンサはそれぞれ複数の貫通孔の直下に対応して配置される(4)または(5)に記載のガス電子倍増装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分解能を向上することができるガス電子増倍器およびガス電子増倍装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のガス電子増倍器およびガス電子増倍装置を詳細に説明する。
本発明のガス電子増倍器は、ガス雰囲気下において電場を発生させて電子の増倍を行うガス電子増倍器であって、アルミニウムの陽極酸化膜からなり、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔を有する絶縁層と、絶縁層を挟持し、複数の貫通孔内に電場を発生させる一対の電極層とを備え、複数の貫通孔は、直径が20nm〜400nmで且つピッチが40nm〜500nmであり、開口面積率が30%以上であるガス電子増倍器である。
次に、本発明のガス電子増倍器について、
図1を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明のガス電子増倍器の好適な実施形態の一例を示す簡略図であり、
図1(A)は正面図、
図1(B)は
図1(A)の切断面線Ib−Ibからみた断面図である。
本発明のガス電子増倍器1は、平板形状を有する絶縁層2と、絶縁層2の両面に接合された一対の電極層3とを備えている。
絶縁層2は、厚さ方向Zに貫通する複数の貫通孔4を有する。また、一対の電極層3は、それぞれ複数の貫通孔4に対応する複数の開口部5を有する。すなわち、絶縁層2の複数の貫通孔4と一対の電極層3の複数の開口部5は、電極層3の一方の面3aから電極層3の他方の面3bまで連通する複数の連通孔6を形成している。
【0018】
本発明においては、上記ガス電子増倍器1は、開口面積率が30%以上の開口面積率を有する。ガス電子増倍器1の開口面積率を30%以上とすることで、それぞれの貫通孔4内をガスがスムーズに透過することができ、複数の貫通孔4を透過するガスの透過効率を高く保つことができる。
【0019】
本発明においては、上記ガス電子増倍器1は、1000sec以下の透気度を有するのが好ましい。ガス電子増倍器1の透気度が1000sec以下であると、複数の貫通孔4を透過するガスの透過効率を高く保つことができる。
ここで、透気度は、後述する王研式透気度試験機(EYO−6、旭精工株式会社製)を用いて測定したもので、所定の範囲に含まれる複数の貫通孔4に一定の圧力でガスを透過させた際に、ガスが貫通孔4を透過するのに要した時間を示す。
【0020】
[絶縁層]
上記絶縁層は、アルミニウムの陽極酸化膜からなる構造体である。
本発明においては、上記絶縁層を陽極酸化膜から構成することにより、高温に曝された場合でも複数の貫通孔の位置を高精度に維持することができる。絶縁層の熱膨張率は、10ppm・℃
-1以下に保つことが好ましい。
【0021】
本発明においては、上記絶縁層に形成された複数の貫通孔は、直径(
図1においては符号7で表される部分)が20nm〜400nmで且つピッチ(
図1においては符号8で表される部分)が40nm〜500nmである。なお、複数の貫通孔の直径は、30nm〜300nmが好ましく、40nm〜200nmがさらに好ましい。また、複数の貫通孔のピッチは、50nm〜400nmが好ましく、70nm〜300nmがさらに好ましい。ここで、上記の直径の値は複数の貫通孔の直径の平均値を示し、上記のピッチの値は複数の貫通孔のピッチの平均値を示している。
【0022】
複数の貫通孔の直径が20nm以上であると、ガスをスムーズに透過させることができる。また、複数の貫通孔の直径が400nm以下であると、一定の圧力でガスを供給した際に、それぞれの貫通孔を透過するガスの透過速度が大きくなる。これにより、ガスの拡散を防いで貫通孔内で増倍される電子の広がりを抑制することができ、電子検出の分解能を向上することができる。
また、複数の貫通孔のピッチが上記の範囲内であると、それぞれの貫通孔で増倍された電子は、ガス電子増倍器に到達した電子線の到達情報(位置情報など)を忠実に反映するように検出部で検出されることになる。従来は、貫通孔のピッチが大きいために、複数の貫通孔の直下に検出部の複数のセンサを高密度に配置しても解像度を向上することはできず、検出部のセンサは貫通孔にあわせて大きなピッチで配置されていた。本発明においては、上述のように貫通孔のピッチを小さくすることで可能な限り近接する位置で電子の検出を行うことが可能となり、検出部の複数のセンサを高密度に配置して分解能を向上させることが出来る。
【0023】
ここで、複数の貫通孔の直径が上記範囲を満たしても複数の貫通孔のピッチが上記範囲を満たさなければ、電子の検出位置の間隔が大きくなるため、分解能を向上することはできない。一方、複数の貫通孔のピッチが上記範囲を満たしても複数の貫通孔の直径が上記範囲を満たさなければ、所定の貫通孔から放出される電子が隣接する貫通孔から放出される電子の検出位置にも広がるように放出されるため、分解能を向上することはできない。
このため、本発明においては、複数の貫通孔の直径およびピッチが、ともに上記範囲を満たすように形成されており、これにより分解能を向上することができる。
【0024】
なお、上述した複数の貫通孔の直径とピッチの値は、それぞれ倍率10万倍で取得した絶縁層のSEM画像を解析して平均値を求めたものである。
具体的には、複数の貫通孔の直径の値は、絶縁層のSEM画像について視野内に存在する全ての貫通孔の直径を算出し、その全ての貫通孔の直径について平均値を求めたものである。なお、一視野内に存在する複数の貫通孔が50個に満たない場合には、複数の視野を撮影し、少なくとも50個の貫通孔について直径を算出して平均値を求めるようにした。
また、複数の貫通孔のピッチ(Pp)は、絶縁層のSEM画像について視野内に存在する貫通孔の数(Np)および視野の面積(Sr)を算出し、理想配列であることを仮定して、下記式(i)に基づいて求めた。なお、貫通孔の直径の平均値を求める場合と同様に、一視野内に存在する貫通孔が50個に満たない場合には、複数の視野を撮影し、少なくとも50個の貫通孔についてピッチを算出して平均値を求めるようにした。
Pp=0.77×Sr/Np (i)
【0025】
本発明においては、上記絶縁層の厚み(
図1においては符号9で表される部分)は、1〜1000μmであるのが好ましく、5〜500μmであるのがより好ましく、10〜300μmであるのが更に好ましい。絶縁層の厚みが1μm以上であると後述する一対の電極間の絶縁性が確実に担保されて高電圧をかけた場合でも電流がリークすることを抑制でき、絶縁層の厚みが1000μm以下であるとそれぞれの貫通孔内をガスがスムーズに透過することができ、複数の貫通孔を透過するガスの透過効率を高く保つことができる。
【0026】
絶縁層は、例えば、アルミニウム基材を陽極酸化し、陽極酸化により生じた細孔を貫通化することにより製造することができる。なお、アルミニウムの陽極酸化膜の素材であるアルミナの電気抵抗率は、10
14Ω・cm程度である。
このような、陽極酸化処理については、従来公知の方法を用いることができるが、複数の貫通孔の規則性を高くする観点から、自己規則化法や定電圧処理を用いるのが好ましい。ここで、陽極酸化処理の自己規則化法や定電圧処理については、特開2008−270158号公報の[0056]〜[0108]段落および[
図3]に記載された各処理と同様の処理を施すことができる。
また、貫通化処理については、例えば、特開2008−270158号公報の[0110]〜[0121]段落ならびに[
図3]および[
図4]に記載された各方法と同様の方法が挙げられる。
【0027】
[一対の電極層]
上記一対の電極層は、ガス雰囲気下において一対の電極層の間に電圧が印加されることで上記絶縁層の複数の貫通孔内に電場を形成するもので、この電場により電子雪崩増幅を引き起こして複数の貫通孔内の電子を増幅させる。
上記一対の電極層は、電導性材料から構成されていれば特に限定されず、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)等が好適に例示される。中でも、電気伝導性および操作性の観点から、銅を用いるのが好ましい。
【0028】
[ガス電子増倍装置]
以下に、本発明のガス電子増倍装置について詳細に説明する。
本発明のガス電子増倍装置は、複数の貫通孔を有する1または2以上のガス電子増倍器と、ガス電子増倍器に対向して配置され、ガス電子増倍器で増倍された電子を検出する検出部を有し、ガス電子増倍器が、上述した本発明のガス電子増倍器である装置となっている。
【0029】
図2は、本発明のガス電子増倍装置10の好適な実施態様の一例を示す模式的な断面図である。
本発明のガス電子増倍装置10は、チャンバ11と、チャンバ11の一部に配置される光電変換部12と、チャンバ11内において光電変換部12と対向して配置される検出部13と、チャンバ11内において光電変換部12と検出部13の間に配置されるガス電子増倍器14とを有する。
【0030】
[チャンバ]
上記チャンバは、内部に検出用ガスが所定のガス圧で充填されている。
検出用ガスとしては、例えば、希ガスに少量のクエンチャーガスを混合したものを用いることができる。ここで、希ガスには、アルゴン、ヘリウム、ネオンおよびキセノンなどを利用することができる。また、クエンチャーガスには、二酸化炭素、メタン、エタンおよびイソブタンなどを利用することができる。
【0031】
[光電変換部]
上記光電変換部は、チャンバの外側に配置された一方の面で放射線Lを受光し、その放射線Lを光電変換して、チャンバの内部に配置された他方の面から電子Eをチャンバ内に放出するものである。
光電変換部は、例えば、ヨウ化セシウムおよびテルル化セシウムなどから構成することができる。
【0032】
[ガス電子増倍器]
上記ガス電子増倍器は、上述したように、陽極酸化膜からなり、厚さ方向に貫通する複数の貫通孔(
図2においては符号4で表される部分)を有する絶縁層(
図2においては符号2で表される部分)と、絶縁層を挟んで配置され、複数の貫通孔内に電場を発生させる一対の電極層(
図2においては符号3で表される部分)とを備えており、複数の貫通孔は、20nm〜400nmで且つピッチが40nm〜500nmであり、ガス電子増倍器の開口面積率が30%以上である。
【0033】
ガス電子増倍器は、光電変換部に対向して配置され、光電変換部から放出された電子の増倍を行う。
具体的には、光電変換部から放出された電子がガス電子増倍器に到達すると、電極層の開口部を介して絶縁層の貫通孔内に進入する。この時、貫通孔内には、一対の電極層に電圧が印加されることにより、高電場が生じており、貫通孔内に進入した電子が高電場で加速されて貫通孔内のガスを連鎖的に電離し、電子雪崩により電子が増倍される。
ここで、複数の貫通孔は、20nm〜400nmの直径で絶縁層に形成されており、上述したように、貫通孔内で増倍される電子の広がりを抑制することができる。さらに、複数の貫通孔は、40nm〜500nmのピッチで絶縁層に形成されており、それぞれの貫通孔で増倍された電子を互いに近接した位置から放出することができる。すなわち、それぞれの貫通孔で増倍された電子は、互いに近接した位置から小さな広がりで、検出部に向かって放出されることになる。
【0034】
なお、複数のガス電子増倍器は、後述する検出部に対して順次平行に配置されるのが好ましい。すなわち、複数のガス電子増倍器は、検出部および光電変換部に対して平行に且つ光電変換部から検出部に向かって(検出部に対して垂直方向に)一列に並べて配置される。これにより、光電変換部から放出された電子を複数のガス電子増倍器で段階的に増倍することができ、電子の増倍効率を向上することができる。
一般的に、複数のガス電子増倍器を用いて電子を増倍する場合には、電子がガス電子増倍器で増倍される毎に全体的な電子の広がりが大きくなる。本発明のガス電子増倍器では、それぞれのガス電子増倍器が互いに近接した位置から小さな広がりで電子を放出するため、全体的な電子の広がりを大きく抑制することができ、これにより分解能を大きく向上させることができる。
【0035】
[検出部]
検出部は、ガス電子増倍器の下流側に配置され、ガス電子増倍器で増倍された電子を検出するものである。
検出部としては、例えばピクセル型検出器などを用いることができる。
【0036】
検出部は、複数のセンサを有し、複数のセンサはそれぞれガス電子増倍器の複数の貫通孔の直下に対応して配置することが好ましい。すなわち、複数のセンサは、複数の貫通孔と1対1で対応し、それぞれ対応する貫通孔の直下に配置される。これにより、複数の貫通孔から放出された電子(対応しない他の貫通孔から放出された電子)を検出することによるノイズを抑制し、分解能を向上させることができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0038】
(実施例1)
(A)鏡面仕上げ処理(電解研磨処理)
高純度アルミニウム基板(住友軽金属株式会社製、純度99.99質量%、厚さ0.4mm)を10cm四方の面積で陽極酸化処理できるようカットし、以下組成の電解研磨液を用い、電圧25V、液温度65℃、液流速3.0m/minの条件で電解研磨処理を施した。
陰極はカーボン電極とし、電源は、GP0110−30R(株式会社高砂製作所社製)を用いた。また、電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(アズワン株式会社製)を用いて計測した。
【0039】
(電解研磨液組成)
・85質量%リン酸(和光純薬工業株式会社製試薬) 660mL
・純水 160mL
・硫酸 150mL
・エチレングリコール 30mL
【0040】
(B)陽極酸化処理工程
次いで、電解研磨処理後のアルミニウム基板に、特開2007−204802号公報に記載の手順にしたがって自己規則化法による陽極酸化処理を施した。
電解研磨処理後のアルミニウム基板に、0.1mol/リン酸の電解液で、電圧195V、液温度0℃、液流速3.0m/minの条件で、5時間のプレ陽極酸化処理を施した。
その後、プレ陽極酸化処理後のアルミニウム基板を、0.2mol/L無水クロム酸、0.6mol/Lリン酸の混合水溶液(液温:50℃)に12時間浸漬させる脱膜処理を施した。
その後、0.1mol/リン酸の電解液で、電圧195V、液温度4℃、液流速3.0m/minの条件で、10時間の再陽極酸化処理を施し、膜厚80μmの酸化膜を得た。
これにより、陽極酸化膜には、150nmの直径で且つ200nmのピッチで複数の細孔が形成される。
なお、プレ陽極酸化処理および再陽極酸化処理は、いずれも陰極はステンレス電極とし、電源はGP0110−30R(株式会社高砂製作所社製)を用いた。また、冷却装置にはNeoCool BD36(ヤマト科学株式会社製)、かくはん加温装置にはペアスターラー PS−100(EYELA東京理化器械株式会社製)を用いた。更に、電解液の流速は渦式フローモニターFLM22−10PCW(アズワン株式会社製)を用いて計測した。
【0041】
(C)貫通化処理工程
次いで、20質量%塩化水銀水溶液(昇汞)に20℃、3時間浸漬させることによりアルミニウム基板を溶解し、更に、5質量%リン酸に30℃、30分間浸漬させることにより陽極酸化膜の底部を除去し、複数の貫通孔を有する陽極酸化膜からなる構造体(絶縁層)を作製した。
【0042】
(D)加熱処理
次いで、上記で得られた構造体に、温度400℃で1時間の加熱処理を施した。
【0043】
(E)電極層形成処理
次いで、上記加熱処理後の陽極酸化膜の両面に、銅をスパッタリングして電極層を形成し、ガス電子増倍器を作製した。スパッタリングの際は、貫通孔内への銅の回り込み(侵入)を抑制するために、酸化膜はステージに対して傾斜して設置し、回転させながら成膜した。積層した銅の厚さは、SEMで観察した結果0.3μmであった。これにより、貫通孔内部への銅の回り込みを1μm以内に抑制することができた。
【0044】
(実施例2)
陽極酸化処理工程と電極層形成処理工程を以下に示す方法で行った以外は、実施例1と同様の方法により、ガス電子増倍器を作製した。
[陽極酸化処理工程]
電解研磨処理後のアルミニウム基板に、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で、5時間のプレ陽極酸化処理を施した。
その後、プレ陽極酸化処理後のアルミニウム基板を、0.2mol/L無水クロム酸、0.6mol/Lリン酸の混合水溶液(液温:50℃)に12時間浸漬させる脱膜処理を施した。
その後、0.50mol/Lシュウ酸の電解液で、電圧40V、液温度15℃、液流速3.0m/minの条件で、10時間の再陽極酸化処理を施し、膜厚80μmの酸化膜を得た。
これにより、陽極酸化膜には、60nmの直径で且つ100nmのピッチで複数の細孔が形成される。
[電極層形成処理]
加熱処理後の陽極酸化膜の貫通孔内部に樹脂溶液を充填して乾燥させた。樹脂はポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いた。
その後、陽極酸化膜の表面を研磨して表面に残存固化した樹脂層を取り除き、陽極酸化膜を露出させた後、活性化処理を行うことで陽極酸化膜に選択的にPdを析出させた。さらに、このPdを還元核として無電解銅めっき液を用いてメッシュ状の銅層を設けた。
最後に貫通孔内に残っていた樹脂を溶剤で溶解除去してガス電子増倍器を作製した。
【0045】
(比較例1)
カプトン基板に70000nmの直径で且つ100000nm(100μm)のピッチで複数の貫通孔を形成することにより絶縁層を得た。続いて、絶縁層の両面に銅からなる一対の電極層を接着してガス電子増倍器を作製した。
【0046】
(比較例2)
ガラス基板に30000nmの直径で且つ50000nmのピッチで複数の貫通孔をBosch法により形成することにより絶縁層を得た。続いて、絶縁層の両面に、銅をスパッタリングすると共に銅をめっきして電極層を形成し、ガス電子増倍器を作製した。
【0047】
(比較例3)
陽極酸化膜に150nmの直径で且つ800nmのピッチで複数の貫通孔が形成された絶縁層(Whatman社製)の両面に、銅をスパッタリングすると共に銅をめっきして電極層を形成し、ガス電子増倍器を作製した。
【0048】
上記の実施例1および2、比較例1〜3について、貫通孔の直径、貫通孔のピッチおよび開口面積率を測定した。
貫通孔の直径およびピッチは、FE−SEM画像を解析して上記の方法により平均値を求めた。この結果を下記第1表に示す。
開口面積率は、上記で観察したSEM像を画像解析して算出した。この結果を下記第1表に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
(評価方法)
絶縁層の絶縁抵抗は、超絶縁計(SM8220、日置電気株式会社製)を用いて、ガス電子増倍器に10Vの電圧を付加して測定した。この結果を下記第2表に示す。
【0051】
絶縁層の絶縁性評価は、湿度85%、温度85℃の環境下において、ガス電子増倍器に20Vの電圧を印加して120時間の抵抗の変化を測定し、抵抗の変化率が、最大抵抗値の1%以内である場合をA、最大抵抗値の1%より大きく且つ5%より小さい場合をB、最大抵抗値の5%以上である場合をCとして評価した。この結果を下記第2表に示す。
【0052】
絶縁層の熱膨張率は、熱膨張測定装置(Thermodilatometer)を用いて、窒素雰囲気下で昇温速度を5℃/minとして、温度の上昇に伴う絶縁層の膨張率を測定した。この結果を下記第2表に示す。
【0053】
貫通孔の位置精度評価は、電子顕微鏡(SEM)を用いて、ガス電子増倍器を設置したステージの温度を20℃から25℃へ変化させた時の貫通孔の移動距離を測定し、貫通孔の移動距離が、5μm以下である場合をA、5μmより大きく且つ10μm以下である場合をB、10μmより大きく50μm以下である場合をCとして評価した。この結果を下記第2表に示す。
【0054】
貫通孔の透気度は、王研式透気度試験機(EYO−6、旭精工株式会社製)を用いて行った。ゴム(下部)/金属(上部)のリング状パッキンに0.25MPaの負荷をかけてガス電子増倍器を固定し、0.2MPaの調圧空気を負荷して空気がガス電子増倍器の貫通孔を透過するのに必要な時間を計測した。この結果を下記第2表に示す。
【0055】
個々の貫通孔のガス透過速度は、前室に一定圧になるようArガスを封入した際に、ガス電子増倍器を通して所定時間に複数の貫通孔から流出するガス量を測定し、各貫通孔あたりのガス透過速度を算出した。この結果を下記第2表に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
第2表に示す結果から、絶縁層を陽極酸化膜で構成した実施例1および2は、10
8Ω以上の絶縁抵抗を有しており、絶縁性評価では従来からガス電子増倍器として用いられているカプトンで絶縁層を構成した比較例1と同等の評価であった。このことから、陽極酸化膜から構成された絶縁層をガス電子増倍器に用いた際に、充分な絶縁性を有することがわかった。
また、絶縁層を陽極酸化膜で構成した実施例1および2は、絶縁層をカプトンで構成した比較例1と比較して、絶縁層の熱膨張率が大きく低下すると共に貫通孔の位置精度評価が高く、高温下において貫通孔の位置ずれが生じにくく、分解能の低下を抑制できることがわかった。
【0058】
また、絶縁層の貫通孔の直径が400nm以下で形成された実施例1および2は、絶縁層の貫通孔の直径が30000nm以上で形成された比較例1および2と比較して、ガス透過速度が大きく上昇しており、貫通孔内で増倍される電子の広がりを抑制して、分解能の低下を抑制できることが示唆された。
特に、絶縁層の貫通孔の直径が60nmで形成された実施例2は、絶縁層の貫通孔の直径が150nmで形成された実施例1と比較して、ガス透過速度が上昇しており、貫通孔の直径が小さくなるほどガス透過速度が上昇し、貫通孔内で増倍される電子の広がりが抑制されることが示唆された。
【0059】
また、絶縁層の貫通孔の開口面積率が30%以上で形成された実施例1および2は、絶縁層の貫通孔の開口面積率が30%未満で形成された比較例3と比較して、透気度が1000sec以下まで低下しており、それぞれの貫通孔内をガスがスムーズに透過することができ、電子の増倍が阻害されないことが示唆された。