(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ダイヤモンド様カーボン膜を形成する工程は、ターゲットと、前記基材との間に配置され、前記水素を含むガスのイオン化を促進させる補助磁極を有する装置を用いて行い、
前記基材における平均電力密度の絶対値が28mW/cm2よりも大きい条件において行うことを特徴とする請求項7に記載のインプラントの製造方法。
前記ダイヤモンド様カーボン膜の表面における炭素−水素結合の炭素−炭素結合に対する比は、予め評価された被験者の骨代謝バランスに応じて決定することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のインプラントの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態のインプラントは、基材と、その表面に形成されたダイヤモンド様カーボン(DLC)膜とを備えている。本実施形態において、基材とは、歯科用等のインプラントの母材であり、インプラントの形状に加工された材料である。また、最終的なインプラントの形状に加工される前の材料も含まれる。基材は、金属、樹脂又はセラミックス等とすることができる。また、これらの複合体であってもよい。特に、チタン又はチタン合金等は強度等の点から好ましい。本実施形態において、DLC膜とは、sp
2炭素−炭素結合sp
2炭素−水素結合及びsp
3炭素−炭素結合、sp
3炭素−水素結合を含むアモルファス膜である。
【0026】
まず、本願発明者らが見出したDLC膜の特性について説明する。インプラントと骨細胞との親和性は、破骨細胞の誘導抑制と、骨芽細胞への分化の促進との2つの観点から評価する必要がある。破骨前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制できたとしても、前駆骨芽細胞から骨芽細胞への分化が促進されず、骨芽細胞の増殖が阻害されたりすると、インプラントのオッセオインテグレーションは促進されない。従って、インプラントと骨細胞との親和性を向上させるためには、破骨細胞への分化を抑制できると共に、骨芽細胞への分化を促進できるDLC膜によりインプラントをコーティングすることが好ましい。
【0027】
DLC膜の製造方法として、化学気相堆積(CVD)法、レーザーアブレーション法及びスパッタリング法等の種々の方法が知られている。一般にCVD法においては、炭化水素が原料として用いられる。炭化水素を原料としてDLC膜を成膜すると、原料中の水素が膜中に取り込まれるため、DLC膜はsp
2炭素−水素結合及びsp
3炭素−水素結合を多く含む。一方、スパッタリング法等においては、グラファイト等の原料を用いてDLC膜を成膜することができる。グラファイトを原料としたスパッタリング法により、ほとんど水素原子を含まないDLC膜を形成することができる。
【0028】
通常のDLC膜はsp
2炭素−水素結合及びsp
3炭素−水素結合、sp
2炭素−炭素結合及びsp
3炭素−炭素結合により構成される。成膜途中において製造条件を変更しない限り、これらの結合の存在比率は、DLC膜の内部においては一定になっていると考えられる。しかし、DLC膜の最表面においては、未反応の炭素のダングリングボンドが雰囲気の影響を受けて反応するため、バルクの組成とは異なる化学構造を示すと考えられる。
【0029】
積極的な不純物の添加を行わない限り、DLC膜に含まれる主な元素は炭素及び水素である。DLC膜に含まれる水素の量は、DLC膜の製造方法及び製造条件により大きく変化する。しかし、DLC膜に含まれる水素を分析することは容易ではなく、一般には膜全体としての水素濃度が求められているにすぎない。しかし、DLC膜の生体適合機能は生体と接触する最表面の影響が大きいことは容易に予測される。このため、DLC膜の生体適合性を評価するためには、全体としての水素濃度ではなく、表面における水素の結合状態を検討する必要がある。
【0030】
本願発明者らはX線光電子分光(XPS)法とカーブフィッティングとを用いることにより、DLC膜の表面における水素の結合状態を明らかにした。さらに、DLC膜の表面における炭素−水素結合と炭素−炭素結合との比が、骨細胞との親和性に影響を与えることを明らかにした。
【0031】
本願発明者らの知見によれば、DLC膜の表面における炭素−水素結合(C−H)の炭素−炭素結合(C−C)に対する比([C−H]/[C−C])を大きくすることが、骨細胞との親和性を向上させるために重要である。具体的には、[C−H]/[C−C]を0.6以上とすることが好ましく0.8以上とすることがより好ましく、0.9以上とすることがさらに好ましい。また、3.0以下とすることが好ましく、2.5以下とすることがより好ましく、2.2以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
さらに、sp
2炭素−水素結合(sp
2C−H)のsp
2炭素−炭素結合(sp
2C−C)に対する比sp
2[C−H]/sp
2[C−C]を0.6以上とすることが好ましく、0.7以上とすることがより好ましく、0.8以上とすることがさらに好ましい。また、3.0以下とすることが好ましく、2.0以下とすることがより好ましく、1.5以下とすることがさらに好ましい。
【0033】
sp
3炭素−水素結合(sp
3C−H)のsp
3炭素−炭素結合(sp
3C−C)に対する割合sp
3[C−H]/sp
3[C−C]は0.6以上とすることが好ましく、0.8以上とすることがより好ましく、0.9以上とすることがさらに好ましい。また、7.0以下とすることが好ましく、6.5以下とすることがより好ましく、6.0以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
なお、[C−H]、sp
2[C−H]、sp
3[C−H]、[C−C]、sp
2[C−C]及びsp
3[C−C]は、実施例において詳細に述べるXPS法とカーブフィッティングとを用いた方法により測定することができる。
【0035】
本実施形態においてDLC膜の表面とは、DLC膜の最表面だけでなく、最表面を含む生体に大きな影響を及ぼす範囲であり、具体的には最表面から1.5nm程度の深さまでの領域をいう。
【0036】
DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]を大きくすることにより骨細胞との親和性が向上する理由は以下のように推測される。DLC膜を成膜する場合、DLC膜の最表面において炭素原子は未結合手(ダングリングボンド)を有する状態となっていると考えられる。成膜終了後に最表面のダングリングボンドは、2重結合を形成したり、空気中の酸素原子等と反応したりして終端されると考えられるが、DLC膜の表面に反応性のサイトが生じてしまうと考えられる。一方、成膜時に水素を積極的に添加した場合には、DLC膜の表面におけるダングリングボンドが水素により終端され、より不活性な表面を有するDLC膜が形成できると考えられる。DLC膜の表面をより不活性とすることにより、DLC膜の表面と骨細胞との相互作用が小さくなり、DLC膜と骨細胞との親和性がより向上すると考えられる。
【0037】
DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]を大きくする方法として、炭化水素ガスを原料として用いた化学気相堆積法(CVD法)によりDLC膜を成膜する方法が考えられる。この際に、メタン等の炭素原子に対する水素原子の比率が高い原料を用いれば[C−H]/[C−C]をより大きくできると予想される。しかし、基本的には原料の種類によりDLC膜に含まれる水素の含有量が決まるため、水素の含有量を細かく制御することは困難である。また、通常は少なくとも20%程度の水素を含有するDLC膜が形成される。水素の含有量が非常に高くなると、DLC膜の硬度が低下するという問題が生じる。
【0038】
水素を含むDLC膜を形成する方法として、スパッタガスとして希ガスと炭化水素との混合ガスを用いるスパッタリング法も知られている。この方法において、DLC膜に水素を導入するためには炭化水素ガスを十分にイオン化する必要がある。しかし、炭化水素ガスを効率良くイオン化しようとしてターゲット電力を増大させるとターゲットが過熱状態となる。このため、希ガス粒子がターゲット表面において反跳しやすくなり、堆積中のDLC膜がスパッタされる。DLC膜がスパッタされる際に、軽い水素原子の方がはじき出され易いため、DLC膜への水素の導入を効率良く行うことが困難である。
【0039】
本願発明者らは、誘導結合プラズマ(ICP)支援アンバランスドマグネトロンスパッタリング法を用いることにより、効率良くDLC膜の表面に水素原子を導入でき、水素原子の導入量の制御も容易にできることを見出した。ICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタリング法は、スパッタリング法による成膜装置としても、プラズマCVDによる成膜装置としても機能する成膜装置を用い、スパッタリング法による成膜とプラズマCVDによる成膜とを同時に行う。具体的には、ICPアンテナが内蔵されたスパッタ装置を用い、固体グラファイトをターゲットとしてスパッタリング法による成膜を行う。この際に、チャンバ内にはアルゴンと炭化水素との混合ガス等を導入し、ICPアンテナにより炭化水素のプラズマを発生させる。ワーク側に適切なバイアスを印加することにより、プラズマCVD法による成膜をスパッタリング法による成膜と同時に行うことができる。スパッタリング法による成膜の比率とCVD法による成膜の比率とを制御することにより、DLC膜における[C−H]/[C−C]を容易に制御することができる。また、スパッタリング法とCVD法とでは、sp
3[C−C]とsp
2[C−C]との構成比率が異なるDLC膜が形成される。このため、ICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタリング法を用いることにより、DLC膜におけるsp
3とsp
2との構成比を制御することができる。従って、[C−H]/[C−C]だけでなく、sp
3[C−H]/sp
3[C−C]及びsp
2[C−H]/sp
2[C−C]も容易に制御することができる。
【0040】
スパッタリングガスには希ガスと水素を含むガスとの混合ガスを用いることができる。希ガスにはアルゴンを用いることが一般的であるが、クリプトン及びキセノン等の他の希ガスを用いてもよい。
【0041】
水素を含むガスには炭化水素又は水素を用いればよい。水素を用いた場合には、スパッタリングガスから炭素は供給されないが、ターゲットから炭素イオンが供給されるため問題ない。スパッタリングガスに含まれる水素原子の量を変化させることにより、DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]の値を制御することができる。スパッタリングガスに含まれる水素原子の量を多くするほど、DLC膜に導入される水素原子の量が増加し、[C−H]/[C−C]の値を大きくすることができる。
【0042】
従って、水素を含むガスの希ガスに対する比率を変化させることにより、DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]の値を制御することができる。水素を含むガスの比率が高いほど、DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]の値が大きくなる。
【0043】
DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]の値を十分に大きくするためには、希ガスと水素を含むガスとの混合比は、分圧比は、9:1以上とすることが好ましく、7:1以上とすることがより好ましく、5:5以上とすることがさらに好ましい。また、スパッタリング法による成膜を十分に行うためには、希ガスと水素を含むガスとの分圧比比は、5:5以下とすることが好ましく、7:3以下とすることがより好ましく、9:1以下とすることがさらに好ましい。
【0044】
また、水素を含むガスの種類を変えることによってもDLC膜の表面における[C−H]/[C−C]の値を制御することができる。水素原子の炭素原子に対する構成比が高い炭化水素を用いた方が、DLC膜に導入される水素原子の量が増加し、DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]を大きくしやすい。
【0045】
本実施形態の成膜方法に用いる炭化水素は、特に限定されないが沸点が低い方が好ましい。具体的にはメタン(CH
4)、エタン(C
2H
6)、プロパン(C
3H
8)、ブタン(C
4H
10)、ペンタン(C
5H
12)、ヘキサン(C
6H
14)、ヘプタン(C
7H
16)、オクタン(C
8H
18)、ノナン(C
9H
20)、デカン(C
10H
22)などのC
nH
n+2の化学式で表記できるアルカン、エチレン(C
2H
4)、プロピレン(C
3H
6)、ブテン(C
4H
8)、ペンテン(C
5H
10)、ヘキセン(C
6H
12)、C
nH
2n(n≧2)の化学式で表記できるアルケン、アセチレン(C
2H
2)、プロピン(C
3H
4)などのC
nH
2n(n≧2)化学式で表記できるアルキン、及びベンゼン(C
6H
6)、トルエン(C
6H
5CH
3)、ジメチルベンゼン(C
6H
4C
2H
6)、トリメチルベンゼン(C
6H
3C
3H
9)等の芳香族炭化水素が好ましい。また、複数の2重結合、複数の3重結合及び複数のベンゼン環を含んでもよく、これらを組み合わせた炭化水素を用いてもよい。これらの炭化水素は単独で用いてもよく、複数を混合して用いてもよい。なお、炭化水素は常温、常圧において気体である必要はなく、チャンバ内においてガス化してプラズマを発生させることができればよい。
【0046】
また、ICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタリング法を用いてDLC膜を成膜する場合に基板電圧を変化させることにより、基板表面に衝突する荷電粒子の衝突エネルギーを変化させ、炭素−水素結合の乖離を調整することにより、DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]の値を変化させることができる。
【0047】
ICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタリング法を用いてDLC膜を成膜する場合には、希ガスの原子がDLC膜に含まれる。このため、CVD法等により形成されたDLC膜とは区別される。これは、ターゲットにおいて反跳した希ガス粒子が膜中に混入するためである。DLC膜に希ガス原子が導入されることにより、相対的に炭素の濃度が低下するため、活性なダングリングボンドを持つ炭素の存在比を下げることができる。このため、DLC膜の表面がより不活性となり、破骨細胞への分化をより効果的に抑制できる。従って、DLC膜に含まれる希ガス原子の濃度は、0.5原子%以上であることが好ましく、1原子%以上であることがより好ましく、2原子%以上であることがさらに好ましい。DLC膜における希ガス原子の濃度は、実施例において詳細に説明するXPS法により求めることができる。
【0048】
DLC膜の成膜にはどのような装置を用いてもよいが、例えば、
図1に示すようなICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタ装置を用いることができる。
図1に示すように、チャンバ221の下部に磁石を内蔵したターゲット台211が設けられ、ターゲット台211の上にターゲット207が配置されている。チャンバ221の上方には、電気的に浮いた(フローティング)状態であり、バイアス電圧を印加できるワークホルダ210が設けられ、ワークホルダ210にはワーク208が保持されている。ターゲット台211の内部にはターゲット207の中心部と対応する位置に中心磁石201が配置され、ターゲット207の周囲と対応する位置には外周磁石202が等間隔で配設されている。中心磁石201はS極をターゲット207側にして配置されており、外周磁石202はN極をターゲット207側にして配置されている。
【0049】
チャンバ221の外壁の外側には、4つの外周磁石のそれぞれに対応して4つの第1外部磁石203及び4つの第2外部磁石204が重なるように配設されている。第1外部磁石203及び第2外部磁石204は、それぞれN極を中心磁石201側にして配置されている。第1外部磁石203及び第2外部磁石204はそれぞれ補助磁極として機能する。
【0050】
チャンバ221の内部には、ICPアンテナとして機能するコイル205が設けられている。コイル205は、スパイラル状に巻かれ、一端がマッチング回路212を介して高周波電源213と接続されている。
図1においては、コイル205の他端はフリーでどこにも接続されてないが、アース又は高周波電源と接続されていてもよい。
【0051】
ターゲット台211には、ローパスフィルター214を介してスパッタ電源215が接続されている。ワークホルダ210には、ローパスフィルター216を介してバイアス電源218が接続されている。
【0052】
スパッタ電源215により適切なターゲット電力を供給することにより、固体グラファイトであるターゲット207から炭素粒子を放出させ、ワーク208の表面に堆積させることができる。また、コイル205に高周波電源213により適切な電力を供給して、チャンバ内に希ガスと共に供給された炭化水素をイオン化することができる。ワーク208に適切なバイアスを印加することにより、イオン化した炭化水素をワーク208の表面に堆積させることができる。さらに、補助磁極となる第2外部磁石204をターゲット207とワーク208との間に設けることにより、ワーク208の方向に向かう強力な磁場を形成し、磁場方向に沿って電子が捕捉され、電子の捕捉に伴いプラズマ密度を高めることができる。これにより、炭化水素のイオン化を促進できるだけでなく、磁場に沿ってイオンを効率的にワーク208の表面に入射させることが可能となる。
【0053】
スパッタリングによってターゲット207から得られる炭素粒子のイオン化率は低く、ICPアンテナであるコイル205を用いた誘導結合プラズマによる炭化水素ガスのイオン化率は高い。ワーク208の表面へのイオンの入射は、ワーク側の平均電力密度により評価することができる。ワーク側の平均電力密度の絶対値が大きい方が、イオンが効率的に入射しており、ターゲット207から得られる炭素粒子よりも、炭化水素から得られるイオンが相対的に膜中に堆積する比率が大きくなっていることを示し、結果として炭化水素原料由来の炭素−水素結合をより多く含むDLC膜を得ることができる。このため、ワーク側の平均電力密度の絶対値は28mW/cm
2よりも大きいことが好ましく、30mW/cm
2以上であることがより好ましい。
【0054】
但し、スパッタリング法による成膜と同時に、炭化水素又は水素ガスのプラズマを発生させ、イオン化した炭化水素又は水素をワークの表面に供給することができればどのような装置を用いてもよい。例えば、チャンバ内にプラズマを発生させるコイルを設けるのではなく、チャンバ外において発生させた炭化水素又は水素ガスのプラズマを供給する構成としてもよい。また、イオンを効率良くワークの表面に入射させることができれば、磁石の配置は変更することができる。基本的には、ターゲットとワークとの間に補助磁極となる磁石が設けられていればよい。また、場合によっては磁場の発生機能を省略することもできる。
【0055】
DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]を所定の値にすることができれば、DLC膜全体としての水素濃度はどのような値であってもよい。但し、一般的にDLC膜の表面におけるC−H結合を増加するためには、DLC膜全体としての水素濃度を高くすることが好ましい。従って、DLC膜全体としての水素濃度は1.1原子%(at%)よりも高くすることが好ましく、5原子%以上とすることがより好ましく、10原子%以上とすることがさらに好ましい。また、40原子%以下とすることが好ましく30原子%以下とすることがより好ましく、20原子%以下とすることがさらに好ましい。なお、DLC膜全体としての水素濃度は、実施例において詳細に述べる高分解弾性反跳粒子検出法(High Resolution-Elastic Recoil Detection Analysis、HR−ERDA)により測定することができる。なお、原子%とは物質全体の原子数を100とした場合におけるある元素の原子数を表す。
【0056】
DLC膜の膜厚は、ある程度厚い方がよく、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましい。但し、膜厚が厚くなると形成が困難となるため、10μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
【0057】
また、DLC膜は被覆対象の表面に直接形成することができるが、被覆対象とDLC膜とをより強固に密着させるために、被覆対象とDLC膜との間に中間層を設けてもよい。
よい。
【0058】
中間層の材質としては、被覆対象の種類に応じて種々のものを用いることができるが、珪素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、タングステン(W)、又はアルミニウム(Al)からなるアモルファス膜等を用いることができる。また、これらの元素と炭素(C)及び窒素(N)の少なくとも一方とを混合したアモルファス膜等を用いることもできる。その厚さは特に限定されないが、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がより好ましい。また、1μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましい。中間層は、例えば、スパッタ法、CVD法、プラズマCVD法、溶射法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、又は真空蒸着法等を用いて形成すればよい。また、湿式クロムメッキを用いてもよい。
【0059】
DLC膜は、炭素と水素以外の元素を含んでいてもよい。例えば、シリコン(Si)又はフッ素(F)等が添加されていてもよい。また、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)等が含まれていてもよい。チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)等が添加されていてもよい。一方、DLC膜の表面における水素の結合状態をより容易に制御するために、炭素及び水素以外の元素を含まない構成としてもよい。なお、炭素及び水素以外の元素を含まない構成とは炭素及び水素以外の元素を積極的に添加していないことを意味し、スパッタリングガスに由来する原子及び製造過程において生じる痕跡量程度の不純物が混入している構成を含む。
【0060】
本実施形態のインプラントは、体内に埋め込むどのようなインプラントであってもよく、人工歯根、義歯、歯冠修復物、人工骨又は人工関節等とすることができる。DLC膜を形成するインプラントの基材は特に限定されず、金属、樹脂又はセラミックス等とすることができる。また、これらの複合体であってもよい。特に、チタン又はチタン合金等は強度等の点から好ましい。
【0061】
DLC膜は、基材の骨と接触する面に形成されていればよい。また、骨と接触する面以外の部分にもDLC膜が形成されていてもよい。
【0062】
ICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタリング法を用いることにより、DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]の値を自由に変化させることができ、骨細胞との親和性が異なるDLC膜を容易に得ることができる。このため、インプラントと骨細胞との親和性を、インプラントの対象者の骨代謝バランスに応じて最適化することが容易にできる。例えば、予めインプラント対象者の骨代謝マーカー等を測定して、インプラント対象者の骨代謝のバランスを評価する。骨吸収マーカーの値が高い場合には[C−H]/[C−C]の値が大きく、破骨細胞への分化がより生じにくいDLC膜を形成したインプラントを用いることにより骨吸収がより生じにくい状態とすることができる。一方、骨吸収マーカーの値が低い場合には、[C−H]/[C−C]の値を少し小さくして、骨代謝がより活発となるようにすることができる。
【0063】
本実施形態のインプラントは、骨芽細胞への分化促進を、従来以上の一定レベルに保持しつつ、破骨細胞への分化を制御することができる。また、破骨細胞への分化の抑制レベルを自由に制御することができる。このため、インプラントによって生じる骨代謝を容易に制御することができる。さらに、インプラントの対象者に応じた骨細胞との親和性を有するインプラントを容易に実現することができる。従って、インプラントの成功率を大幅に向上させることができると考えられる。
【0064】
本実施形態においては、アモルファス状態の膜であるDLC膜をインプラントの表面に形成する例について説明した。しかし、sp
2炭素−炭素結合及びsp
3炭素−炭素結合の少なくとも一方と、sp
2炭素−水素結合及びsp
3炭素−水素結合の少なくとも一方とを有する膜であれば同様の効果が得られる。従って、ダイヤモンド膜のような結晶状態の膜であってもよい。
【実施例】
【0065】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の改良及び設計の変更を行ってよい。
【0066】
≪DLC膜組成の評価方法≫
−表面組成−
DLC膜の表面における組成はX線光電子分光(XPS)測定により評価した。XPS測定には日本電子社製JPS−9010を用いた。XPS測定の条件は、試料に対する検出角度を90度とし、X線源にはAlを用い、X線照射エネルギーを100Wとした。1回の測定時間は0.2msとし、1つの試料について32回測定を行った。炭素中を進む光電子の非弾性平均自由工程を考慮すると、最表面から9nm程度の深さまでの領域について測定されると考えられる。さらに、光電子は表面から深くなるにつれて脱出しにくくなり、光電子の検出は表面から深くなるほど減衰する。従って、今回測定された情報の約50%は最表面からおよそ1.5nmの深さまでの最表層の情報で占められていると考えられる。
【0067】
XPS測定により得られた炭素1s(C1s)ピークを、炭素同士がsp
3結合したsp
3C−C及び炭素同士がsp
2結合したsp
2C−C、炭素と水素とがsp
3結合したsp
3C−H及び炭素と水素とがsp
2結合したsp
2C−Hの4つの成分にカーブフィッティングにより分解した。sp
3C−Cの結合エネルギーは283.8eV、sp
2C−Cの結合エネルギーは284.3eV、sp
3C−Hの結合エネルギーは284.8eV、sp
2C−Hの結合エネルギーは285.3eVとした。カーブフィッティングにより得られた各ピークの面積をsp
3C−Cのピークの面積とsp
2C−Cのピークの面積とsp
3C−Hのピークの面積とsp
2C−Hのピークの面積との総和により割った値を、各成分の組成比とした。sp
3C−Cの組成比(sp
3[C−C])とsp
2C−Cの組成比(sp
2[C−C])との和をC−Cの組成比([C−C])とし、sp
3C−Hの組成比(sp
3[C−H])とsp
2C−Hの組成比(sp
2[C−H])との和をC−Hの組成比([C−H])とした。
【0068】
C−Hの組成比をC−Cの組成比で割った値を、DLC膜の表面における炭素−水素結合の炭素−炭素結合に対する比([C−H]/[C−C])とした。同様に、sp
2C−Hの組成比をsp
2C−Cの組成比で割った値を、sp
2[C−H]/sp
2[C−C]とし、sp
3C−Hの組成比をsp
3C−Cの組成比で割った値を、sp
3[C−H]/sp
3[C−C]とした。
【0069】
−アルゴンの濃度−
DLC膜に含まれるアルゴンの濃度は、DLC膜の組成の解析と同様にX線光電子分光(XPS)測定により評価した。XPS測定には日本電子社製JPS−9010を用いた。XPS測定の条件は、試料に対する検出角度を90度とし、X線源にはAlを用い、X線照射エネルギーを100Wとした。1回の測定時間は0.2msとし、1つの試料について32回測定を行った。炭素中を進む光電子の非弾性平均自由工程を考慮すると、表面から9nmまでの範囲について測定されると考えられる。さらに、光電子は表面から深くなるにつれて脱出しにくくなり、光電子の検出は表面から深くなるほど減衰する。従って、今回測定された情報の50%は表面からおよそ1.5nmまでの最表層の情報で占められていると考えられる。アルゴン以外の希ガス原子についても同様にして測定することができる。
【0070】
−水素濃度−
DLC膜に含まれる水素の濃度は、高分解弾性反跳粒子検出法(High Resolution-Elastic Recoil Detection Analysis、HR-ERDA)により測定した。測定には神戸製鋼所製の高分解能RBS分析装置HRBS500を用いた。試料面の法線に対して70度の角度でN
2+イオンを試料に照射し、偏光磁場型エネルギー分析器により反跳された水素イオンを検出した。入射イオンは1原子核あたりのエネルギーを240KeVとした。水素イオンの散乱角は30度とした。イオンの照射量はビーム経路にて振り子を振動させ、振り子に照射された電流量を測定することにより求めた。試料電流は約2nAであり、照射量は約0.3μCであった。
【0071】
得られたデータに対して水素ピークにおける高エネルギー側のエッジの中点を基準として横軸のチャネルを反跳イオンのエネルギーに変換する処理及びシステムのバックグラウンドを差し引く処理を行った。処理後のデータについてシミュレーションフィッテングを行い、表面から12nmまでの範囲について水素のデプスプロファイルを求めた。さらに、DLC膜に含まれる全原子に対する水素原子の割合(at%)に換算した。この際に試料の構成元素は炭素と水素のみであると仮定した。デプスプロファイルの横軸をnm単位に換算する際には、DLC膜の密度はグラファイトの密度(2.25g/cm
3)であるとした。定量値は、スパッタリング法により形成した既知濃度のDLC膜を測定することにより校正した。また、最表面に炭化水素からなる汚染層の存在を仮定した。汚染層の密度はパラフィンの密度(0.89g/cm
3)とした。
【0072】
≪骨細胞との親和性の評価≫
−骨細胞の分化−
直径20mmのウェル内においてDLCコーティング試料及びコントロールのチタン基材とマウス骨芽細胞様細胞株MC3T3−E1細胞(以下、MC3T3−E1細胞という。)とを接触させて培養した。細胞は1ウェル当たり5×10
4個播種した。培養培地には10%ウシ胎仔血清(FBS)、L−グルタミン、混合抗生物質(Invitrogen社製)及び50μg/mlのアスコルビン酸を含有したα変法イーグル培地(α−MEM)を用いた。培養温度は37℃とし、5%二酸化炭素雰囲気で培養した。
【0073】
細胞を7日間培養した後、骨分化マーカー遺伝子であるALP(アルカリ性ホスファターゼ)の発現について評価した。具体的には、培養したMC3T3−E1細胞からTRIzol試薬(Invitrogen社製)を用いてRNAを抽出した後、ReverTra Ace reverse transcriptase(東洋紡社製)を用いてcDNAを作成した。作成したcDNAを、定量RT−PCR(Real-time Quantitative Reverse Transcriptase-Polymerase Chain Reaction)法により評価した。得られた値は、コントロールのチタン基材におけるALP発現量を1として規格化した。
【0074】
−骨破壊細胞の分化−
ウェル内においてDLCコーティング試料及びコントロールのチタン基材と破骨前駆細胞とを破骨細胞分化誘導因子(Receptor Activator of NF-kB Ligand:RANKL)の存在下において接触させ、37℃で細胞培養した。破骨前駆細胞は、RANKLの存在により破骨細胞へと分化することが確立されているセルラインRAW264.7細胞(TIB−71, ATCC)を用いた。細胞は1ウェル当たり5×10
3個播種した。
【0075】
分化関連遺伝子であるカテプシンK(cathepsin K)の発現を定量RT−PCR法を用いて定量することにより、破骨細胞への分化を評価した。得られた値は、コントロールのチタン基材におけるカテプシンKの発現量を1として規格化した。
【0076】
≪DLC膜の形成≫
<DLC膜1>
図1に示すICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタ装置を用いてDLC膜を形成した。ワークホルダ210に保持したワーク208に1kVのバイアス電圧を印加した。ワーク208は、純Ti(JIS 4種)からなるディスクとした。ターゲット207にはグラファイトを用い、スパッタリングガスにはアルゴン(Ar)及びメタン(CH
4)の混合ガスを用いた。Arとメタンとの分圧比は、9:1とし、チャンバ内の圧力は0.5Paとした。スパッタ電源215には直流パルス電源を用い、パルス周波数を200kHzとした。コイル205をICPアンテナとして用い、高周波出力を20Wとし誘導結合プラズマ放電を行った。放電時間は5分間とした。
【0077】
ワーク側に到達した粒子のエネルギーの指標となるワーク側の平均電力密度の絶対値は36.6mW/cm
2となった。電力密度は、電流測定手段により得られた電流値と、ワークホルダ210に印加したバイアス電圧及びワークホルダ210の表面積により求めた。成膜は60分間行った。
【0078】
得られたDLC膜の水素濃度は27原子%であり、アルゴン濃度は2.7原子%であった。sp
2[C−C]は0.26、sp
3[C−C]は0.05、sp
2[C−H]は0.39、sp
3[C−H]は0.30であった。従って[C−C]は0.31であり、[C−H]は0.69であり、[C−H]/[C−C]は2.2となった。sp
2[C−H]/sp
2[C−C]は、1.5となり、sp
3[C−H]/sp
3[C−C]は、5.8となった。
【0079】
<DLC膜2>
DLC膜を形成する際のスパッタリングガスをアルゴン及びエチレン(C
2H
4)の混合ガスとして「実施例1」と同様にしてDLC膜を形成した。ワーク側に到達した粒子のエネルギーの指標となるワーク側の平均電力密度の絶対値は32.5mW/cm
2となった。
【0080】
得られたDLC膜の水素濃度は14.2原子%であり、アルゴン濃度は4.0原子%であった。sp
2[C−C]は0.38、sp
3[C−C]は0.14、sp
2[C−H]は0.38、sp
3[C−H]は0.14であった。従って[C−C]は0.52であり、[C−H]は0.48であり、[C−H]/[C−C]は0.92となった。sp
2[C−H]/sp
2[C−C]は、0.89となり、sp
3[C−H]/sp
3[C−C]は、1.0となった。
【0081】
<DLC膜3>
DLC膜を形成する際のスパッタリングガスをアルゴン及びアセチレン(C
2H
2)として「実施例1」と同様にしてDLC膜を形成した。ワーク側に到達した粒子のエネルギーの指標となるワーク側の平均電力密度の絶対値は29.7mW/cm
2となった。
【0082】
得られたDLC膜の水素濃度は14.2原子%であり、アルゴン濃度は4.8原子%であった。sp
2[C−C]は0.36、sp
3[C−C]は0.15、sp
2[C−H]は0.35、sp
3[C−H]は0.14であった。従って[C−C]は0.51であり、[C−H]は0.49であり、[C−H]/[C−C]は0.96となった。sp
2[C−H]/sp
2[C−C]は、0.97となり、sp
3[C−H]/sp
3[C−C]は、0.93となった。
【0083】
<DLC膜4>
DLC膜を形成する際のスパッタリングガスをアルゴンとして「実施例1」と同様にしてDLC膜を形成した。ワーク側に到達した粒子のエネルギーの指標となるワーク側の平均電力密度の絶対値は26.1mW/cm
2となった。
【0084】
得られたDLC膜の水素濃度は14.2原子%であり、アルゴン濃度は6.1原子%であった。sp
2[C−C]は0.37、sp
3[C−C]は0.22、sp
2[C−H]は0.22、sp
3[C−H]は0.13であった。従って[C−C]は0.59であり、[C−H]は0.35であり、[C−H]/[C−C]は0.59となった。sp
2[C−H]/sp
2[C−C]は、0.59となり、sp
3[C−H]/sp
3[C−C]は、0.59となった。
【0085】
<DLC膜5>
DLC膜を形成する際のスパッタ電源のパルス周波数を350kHzとして「DLC膜4」と同様にしてDLC膜を形成した。ワーク側に到達した粒子のエネルギーの指標となるワーク側の平均電力密度の絶対値は28.7mW/cm
2となった。
【0086】
得られたDLC膜の水素濃度は14.2原子%であり、アルゴン濃度は5.5原子%であった。sp
2[C−C]は0.38、sp
3[C−C]は0.34、sp
2[C−H]は0.17、sp
3[C−H]は0.06であった。従って[C−C]は0.72であり、[C−H]は0.23であり、[C−H]/[C−C]は0.32となった。sp
2[C−H]/sp
2[C−C]は、0.45となり、sp
3[C−H]/sp
3[C−C]は、0.18となった。
【0087】
<DLC膜6>
スパッタリング法に代えて、原料ガスにベンゼン(C
6H
6)を用いたプラズマCVD法によりDLC膜を形成した。DLC膜を形成する際の条件は、ガス圧を10
-3Torr(約0.13Pa)とし、C
6H
6を30ml/minの速度で連続的に導入しながら放電を行うことによりC
6H
6をイオン化し、イオン化蒸着を約10分間行い、DLC膜を基材の表面に形成した。
【0088】
得られたDLC膜の水素濃度は19.3原子%であり、アルゴンは検出されなかった。sp
2[C−C]は0.27、sp
3[C−C]は0.05、sp
2[C−H]は0.39、sp
3[C−H]は0.29であった。従って[C−C]は0.32であり、[C−H]は0.68であり、[C−H]/[C−C]は2.1となった。sp
2[C−H]/sp
2[C−C]は、1.4となり、sp
3[C−H]/sp
3[C−C]は、5.8となった。
【0089】
表1に得られた各DLC膜の特性をまとめて示す。ICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタ法により成膜した場合には、スパッタリングガスを希ガスであるアルゴンと、炭化水素との混合ガスとすることにより、DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]の値を大きくすることができる。また、ICP支援アンバランスドマグネトロンスパッタ法の場合には、スパッタリングガスに含まれるアルゴン原子を含むDLC膜が得られている。
【0090】
【表1】
【0091】
(実施例1)
DLC膜1を形成した基材について、破骨細胞への分化及び骨芽細胞への分化を評価した。骨芽細胞への分化の指標であるALPの発現量は、DLC膜を形成していないコントロールの基材に対して2.00倍であった。破骨細胞への分化の指標であるカテプシンKの発現量はコントロールに対して0.25倍であった。
【0092】
(実施例2)
DLC膜2を形成した基材について、実施例1と同様にして破骨細胞への分化及び骨芽細胞への分化を評価した。ALPの発現量はコントロールに対して1.58倍であった。カテプシンKの発現量はコントロールに対して0.48倍であった。
【0093】
(実施例3)
DLC膜3を形成した基材について、実施例1と同様にして破骨細胞への分化及び骨芽細胞への分化を評価した。ALPの発現量はコントロールに対して1.52倍であった。カテプシンKの発現量はコントロールに対して0.54倍であった。
【0094】
(比較例1)
DLC膜4を形成した基材について、実施例1と同様にして破骨細胞への分化及び骨芽細胞への分化を評価した。ALPの発現量はコントロールに対して1.88倍であった。カテプシンKの発現量はコントロールに対して0.69倍であった。
【0095】
(比較例2)
DLC膜5を形成した基材について、実施例1と同様にして破骨細胞への分化及び骨芽細胞への分化を評価した。ALPの発現量はコントロールに対して1.58倍であった。カテプシンKの発現量はコントロールに対して0.70倍であった。
【0096】
表1には各実施例及び比較例のカテプシンK及びALPの発現比をまとめて示す。
【0097】
【表2】
【0098】
図2及び
図3はMC3T3−E1細胞の分化特性を示している。
図2において縦軸はカテプシンKのmRNA発現量を示し、コントロールのチタン基材の発現量を1とした。値が大きいほどカテプシンKが発現していることを示している。
図3において縦軸はALPのmRNA発現量を示し、コントロールのチタン基材の発現量を1とした。値が大きいほどALPが発現していることを示している。DLC膜の炭素−水素結合に対する炭素−炭素結合の比([C−H]/[C−C])が大きくなるほど、カテプシンKの発現量が小さくなり、破骨細胞の分化を抑制していることが明らかである。特に、[C−H]/[C−C]が0.59よりも大きくなるとカテプシンKの発現量は大きく低下している。また、いずれもALPの発現はコントロールのチタンを上回り、骨芽細胞の分化を促進できる。
【0099】
以上の結果から、DLC膜の表面における[C−H]/[C−C]を大きくすることにより、破骨細胞への分化を抑制すると共に、骨芽細胞への分化を促進するインプラント材料が実現できる。また、インプラントの対象者の骨代謝バランスに応じてDLC膜の表面における[C−H]/[C−C]を制御することにより、個々のインプラントの対象者に適したインプラントとすることが可能となる。