(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、アニオン性官能基を担持する砥粒と、アルカリ化合物と、水と、を含み、pHが7.0以上である、研磨用組成物である。このような構成とすることにより、アルカリpHにおける保存安定性の向上とスループットの向上を両立が可能となる。
【0012】
本発明の研磨用組成物を用いることによりアルカリpHにおける高い保存安定性を維持したまま研磨速度が向上する詳細な理由は不明であるが、砥粒表面のアニオン性官能基とアルカリ化合物の親和性が高いため、砥粒表面の有効アルカリ濃度が高くなる。その結果、研磨作用(エッチング)に寄与するアルカリが、効率良く研磨対象物表面に供され、研磨速度が向上すると考えられる。加えて、修飾で付加された砥粒表面のマイナスチャージ部位が、アルカリ化合物および塩と優先的に反応または吸着するため、砥粒自体への影響を低減し、その結果として、アルカリ化合物および塩を通常より高濃度に添加しても砥粒の凝集は発生しないと考えられる。なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0013】
[研磨対象物]
まず、本発明に係る研磨対象物としての基板は特に限定されず、本発明の研磨用組成物は、シリコンウェーハ基板およびハードディスク基板のCMPに使用することが出来る。一方で、本発明に研磨用組成物は、半導体デバイスにおける金属配線層、バリア層、および層間絶縁膜層、必要に応じ低誘電率材料を含む基板や貴金属を含む材料を含む基板のCMPに使用することが出来る。
【0014】
金属配線層に含まれる金属は特に限定されず、例えば、銅、銅合金、銅の酸化物、銅合金の酸化物、タングステン、タングステン合金、銀、金等の、金属が主成分の物質が挙げられ、銅、銅合金、銅の酸化物、銅合金の酸化物等の銅が主成分である金属配線層が好ましい。金属配線層として公知のスパッタ法、メッキ法により前記物質を成膜した膜を使用できる。
【0015】
バリア層は絶縁膜中への金属配線層の拡散防止、および絶縁膜と金属配線層との密着性向上のために形成される。バリア層に用いられる導体は、タングステン、窒化タングステン、タングステン合金、その他のタングステン化合物、チタン、窒化チタン、チタン合金、その他のチタン化合物、タンタル、窒化タンタル、タンタル合金、その他のタンタル化合物、貴金属から選ばれる1種以上を含むのが好ましい。バリア層は、1種からなる単層であっても、2種以上の積層膜であっても良い。
【0016】
層間絶縁膜としては、ケイ素材料被膜や有機ポリマ膜が挙げられる。ケイ素材料被膜としては、二酸化ケイ素、フルオロシリケートグラス、オルガノシリケートグラス、シリコンオキシナイトライド、水素化シルセスキオキサン等のシリカ系被膜や、シリコンカーバイド及びシリコンナイトライドが挙げられる。また、有機ポリマ膜としては、全芳香族系低誘電率層間絶縁膜が挙げられる。特に、オルガノシリケートグラスが好ましい。これらの膜は、CVD法、スピンコート法、ディップコート法、またはスプレー法によって成膜される。
【0017】
層間絶縁膜と同時にポリシリコンを研磨する工程にも使用することが出来る。
低誘電率材料としては、具体的には、比誘電率が3.5から2.0程度の通常Low−kと略称されるものが挙げられ、例えば、炭化酸化シリコン(SiOC)(例えば、アプライドマテリアル社製のブラックダイヤモンド(登録商標)など)、フッ素含有シリコン酸化物(SiOF)、有機ポリマーなどが挙げられる。
【0018】
また、貴金属を含む材料としては、バリア層やキャパシタ電極材料が挙げられ、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。これら貴金属は、合金または貴金属化合物の形態で貴金属を含む層に含まれていてもよい。
【0019】
これらの研磨対象物の中でも、好ましくは、二酸化ケイ素、フルオロシリケートグラス、オルガノシリケートグラス、シリコンオキシナイトライド、水素化シルセスキオキサン、シリコンカーバイド及びシリコンナイトライド等のケイ素含有材料や、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等の貴金属を含む基板である。これらの研磨対象物であれば、本発明の効果をより効率的に得ることができる。
【0020】
次に、本発明の研磨用組成物の構成について、詳細に説明する。
[砥粒]
研磨用組成物中に含まれる砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる。
【0021】
使用される砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該砥粒は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0022】
これら砥粒の中でも、シリカが好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0023】
砥粒は、その表面をアニオン修飾されている。本発明における“アニオン修飾”とは、砥粒が直接または間接的にアニオン性の官能基を担持することをいう。アニオン性の官能基の種類に特に制限はないが、具体例としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、アルミン酸が挙げられる。また、アニオン性の官能基を担持させる方法も特に制限はないが、具体例としては、例えば、末端にアニオン性官能基を有するシランカップリング剤と砥粒を反応させる方法が挙げられる。
【0024】
なかでも、特に好ましいのは、有機酸を固定化したコロイダルシリカである。研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、例えばコロイダルシリカの表面に有機酸の官能基が化学的に結合することにより行われている。コロイダルシリカと有機酸を単に共存させただけではコロイダルシリカへの有機酸の固定化は果たされない。有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid−functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246−247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。あるいは、カルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、え”Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2−Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228−229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2−ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0025】
砥粒の平均一次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、砥粒の平均一次粒子径の上限は、500nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、70nm以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度は向上し、また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に段差や研磨傷等の欠陥が生じるのをより抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0026】
研磨用組成物中の砥粒の含有量の下限は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましく、3質量%以上であることが最も好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒の含有量の上限は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物の研磨速度が向上し、また、研磨用組成物のコストを抑えることができ、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に段差や研磨傷等の欠陥が生じるのをより抑えることができる。
【0027】
研磨用組成物中の砥粒は、pH7.0以上のアルカリ領域においてゼータ電位が−20mV以下であることが好ましく、−30mV以下であることがより好ましく、−40mV以下であることが最も好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物中の砥粒の分散安定性が向上する。
【0028】
研磨用組成物中の砥粒の表面のゼータ電位と研磨対象物としての基板の表面のゼータ電位との積の下限は、1000mVであることが好ましく、2000であることがより好ましい。研磨用組成物中の砥粒の表面のゼータ電位と研磨対象物としての基板の表面のゼータ電位との積の上限は、3000mVであることが好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物中の砥粒の分散安定性が向上するとともに、基板表面と砥粒表面の間に生じる静電反発力のため基板への砥粒の吸着が制御し易くなる。その結果、従来技術と比較して高濃度での砥粒およびその他の添加剤(アルカリ化合物や無機塩等)の添加が可能になり、研磨速度の安定と向上が可能となる。
【0029】
[アルカリ化合物]
研磨用組成物に含まれるアルカリ化合物は、腐食、エッチングおよび酸化等の化学的作用によって研磨対象物表面の研磨を促進する役割を担う。
【0030】
使用可能なアルカリ化合物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機アルカリ化合物;アンモニア;水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム等のアンモニウム塩;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン等のアミンが挙げられる。アルカリ化合物は、アミン臭が弱いことから、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、及びN−メチルピペラジンが好ましく、アミン臭が弱いうえにキレート剤の作用を阻害もしないことから、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、及びN−メチルピペラジンがより好ましい。該アルカリ化合物は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0031】
アルカリ化合物が、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン又はトリエチレンテトラミンである場合、研磨用組成物中のアルカリ化合物の含有量の上限は、好ましくは6重量%、より好ましくは5重量%、最も好ましくは4重量%である。また、アルカリ化合物が例えば無水ピペラジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン又はN−メチルピペラジンである場合、研磨用組成物中のアルカリ化合物の含有量の上限は、好ましくは10重量%、より好ましくは9重量%、最も好ましくは8重量%である。アルカリ化合物が例えばピペラジン六水和物である場合、研磨用組成物中のアルカリ化合物の含有量の上限は、好ましくは20重量%、より好ましくは18重量%、最も好ましくは16重量%である。
【0032】
アルカリ化合物が、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン又はトリエチレンテトラミンである場合、研磨用組成物中のアルカリ化合物の含有量の下限は、好ましくは0.01重量%、より好ましくは0.5重量%、最も好ましくは1重量%である。アルカリ化合物が例えば無水ピペラジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン又はN−メチルピペラジンである場合、研磨用組成物中のアルカリ化合物の含有量の下限は、好ましくは0.01重量%、より好ましくは1重量%、最も好ましくは3重量%である。アルカリ化合物が例えばピペラジン六水和物である場合、研磨用組成物中のアルカリ化合物の含有量の下限は、好ましくは0.01重量%、より好ましくは2重量%、最も好ましくは5重量%である。このような範囲であれば、研磨対象物の研磨速度が向上し、また、研磨用組成物のコストを抑えることができ、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面荒れや研磨傷等の欠陥が生じるのをより抑えることができる。
【0033】
[研磨用組成物のpH]
本発明の研磨用組成物のpHは、7.0以上である。これは、本発明のアニオン修飾砥粒とアルカリ化合物の組合せにおける研磨対象物に対する研磨促進効果を最大限に発揮させるためである。該pHは、好ましくは8.0以上、より好ましくは8.5以上、さらに好ましくは9.0以上である。
【0034】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整するのにpH調整剤を使用してもよい。使用するpH調整剤は酸およびアルカリのいずれであってもよく、また無機および有機の化合物のいずれであってもよい。なお、pH調節剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。また、他の添加剤(アルカリ化合物など)として、pH調整機能を有するもの(例えば、各種のアルカリなど)を用いる場合には、当該添加剤をpH調整剤の少なくとも一部として利用してもよい。
【0035】
[水]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散または溶解するための分散媒または溶媒として水を含む。他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水が好ましい。
【0036】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、研磨促進剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、酸化剤、還元剤、水溶性高分子、界面活性剤、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、好ましい他の成分である、研磨促進剤、金
属防食剤および酸化剤について説明する。
【0037】
[研磨促進剤]
本形態に係る研磨用組成物は、任意の成分として、研磨促進剤を含んでもよい。研磨促進剤は、研磨対象物の表面に錯形成して結合し、不溶性の脆性膜を研磨対象物の表面に形成することによって研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度を向上させる働きをする。研磨促進剤の具体例としては、カルボン酸化合物、リン含有化合物、スルホン酸化合物などが挙げられる。
【0038】
カルボン酸化合物の具体例としては、酢酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、グルコン酸、サリチル酸、イソニコチン酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、カプロン酸、2−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、2−エチルブタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、3,3−ジメチルブタン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸などの飽和モノカルボン酸や、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸などの多価カルボン酸や、これらのカルボン酸の塩が挙げられる。中でも飽和モノカルボン酸が好ましい。飽和モノカルボン酸の炭素数は2〜6であることが好ましく、より好ましくは2〜4である。炭素数が2〜6の飽和モノカルボン酸の具体例としては、酢酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸、グリコール酸、グルコン酸、サリチル酸、イソニコチン酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、カプロン酸、2−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,3−ジメチルブタン酸、2−エチルブタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、3,3−ジメチルブタン酸が挙げられる。これらの炭素数が2〜6の飽和モノカルボン酸は、研磨対象物との間で特に容易に錯形成する。二種類以上のカルボン酸化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
リン含有化合物は、炭素−リン結合を有する有機リン化合物であってもよいし、無機リン化合物であってもよい。有機リン化合物の具体例としては、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスフィンスルフィド、ジホスファンなどの3価の有機リン化合物や、ホスホニウム塩、ホスホン酸、ホスフィン酸、及びこれらの塩や誘導体などが挙げられる。中でもホスホン酸又はホスフィン酸が好ましい。ホスホン酸の具体例としては、2−アミノエチルホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン−1,1,−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸、フェニルホスホン酸が挙げられる。これらのホスホン酸及びホスフィン酸は、研磨対象物との間で特に容易に錯形成する。二種類以上の有機リン化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
無機リン化合物の具体例としては、オルトリン酸、次リン酸、ペルオキソ一リン酸、ペルオキソ二リン酸、ポリリン酸(二リン酸、三リン酸、四リン酸)、メタリン酸、ジアミドリン酸、アミドリン酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサクロロリン酸、フェニルリン酸、リン灰石、ホスホモリブデン酸、ホスホタングステン酸、ジホスホモリブデン酸、ジホスホタングステン酸、ウルトラリン酸、三臭化リン、五臭化リン、二臭化窒化リン、三塩化リン、五塩化リン、四塩化二リン、二塩化フッ化リン、二塩化三フッ化リン、二塩化窒化リン、四塩化三酸化リン、テトラクロロリン酸、三シアン化リン、三フッ化リン、五フッ化リン、四フッ化二リン、三ヨウ化リン、四ヨウ化二リン、窒化リン、酸化リン(一酸化リン、二酸化リン、三酸化二リン、五酸化二リン、六酸化四リン、十酸化四リン)、臭化ホスホリル、塩化ホスホリル、フッ化ホスホリル、窒化ホスホリル、ジホスホリルテトラアミド、硫化リン(五硫化二リン、三硫化四リン、五硫化四リン、七硫化四リン)、臭化チオホスホリル、塩化チオホスホリル、水素化リン、トリス(イソシアン酸)リン、トリス(イソシアン酸)ホスホリル、トリス(イソチオシアン酸)リン、トリス(イソチオシアン酸)ホスホリル、セレン化リン、三セレン化二リン、三セレン化四リン、五セレン化二リン、フッ化チオホスホリル、ヨウ化チオホスホリル、ホスホリルアミド、窒化チオホスホリル、チオホスホリルアミド、イソチオシアン酸ホスホリル、リン、リン化物(リン化亜鉛、リン化アルミニウム、リン化イットリウム、リン化イリジウム、リン化カリウム、リン化ガリウム、リン化カルシウム、リン化オスミウム、リン化カドミウム、リン化金、リン化インジウム、リン化ウラン、リン化クロム、リン化ケイ素、リン化銀、リン化ゲルマニウム、リン化コバルト、リン化ジルコニウム、リン化水銀、リン化スカンジウム、リン化スズ、リン化タリウム、リン化タングステン、リン化タンタル、リン化チタン、リン化鉄、リン化銅、リン化トリウム、リン化ナトリウム、リン化ニオブ、リン化ニッケル、リン化ネプツウム、リン化白金、リン化バナジウム、リン化ハフニウム、リン化パラジウム、リン化バリウム、リン化プルトニウム、リン化ベリリウム、リン化ホウ素、リン化マグネシウム、リン化マンガン、リン化モリブデン、リン化ランタン、リン化リチウム、リン化ルテニウム、リン化レニウム、リン化ロジウム)、及びこれらの塩などが挙げられる。中でもオルトリン酸、次リン酸、ペルオキソ一リン酸、ペルオキソ二リン酸、ポリリン酸(二リン酸、三リン酸、四リン酸)、メタリン酸、ジアミドリン酸、アミドリン酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサクロロリン酸、フェニルリン酸が好ましく、特に好ましくはオルトリン酸又はフェニルリン酸である。これらの無機リン化合物は、研磨対象物との間で特に容易に錯形成する。二種類以上の無機リン化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
スルホン酸化合物の具体例としては、硫酸、アルキル硫酸、アリル硫酸、タウリン、イセチオン酸、ベンゼンスルホン酸、及びこれらの塩などが挙げられる。中でもベンゼンスルホン酸が好ましい。ベンゼンスルホン酸は、研磨対象物との間で特に容易に錯形成する。二種類以上のスルホン酸化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
研磨促進剤の好ましい形態として、錯化剤が挙げられる。研磨用組成物中に錯化剤を加えた場合には、上述した研磨促進剤の機能に加えて、錯化剤が有するエッチング作用により、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上するという有利な効果がある。なお、以下の具体例の中には、上記で既に研磨促進剤として挙げた化合物群と重複するものも記載されているが、そのような化合物が研磨用組成物に含まれる場合、当該化合物は錯化剤として含まれているものとする。
【0043】
錯化剤としては、例えば、無機酸、有機酸、アミノ酸、ニトリル化合物およびキレート剤などが用いられうる。無機酸の具体例としては、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、リン酸などが挙げられる。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2−メチル酪酸、n−ヘキサン酸、3,3−ジメチル酪酸、2−エチル酪酸、4−メチルペンタン酸、n−ヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、n−オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸などが挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸などの有機硫酸も使用可能である。無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩などの塩を用いてもよい。アミノ酸の具体例としては、グリシン、α−アラニン、β−アラニン、N−メチルグリシン、N,N−ジメチルグリシン、2−アミノ酪酸、ノルバリン、バリン、ロイシン、ノルロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、オルニチン、リシン、タウリン、セリン、トレオニン、ホモセリン、チロシン、ビシン、トリシン、3,5−ジヨード−チロシン、β−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−アラニン、チロキシン、4−ヒドロキシ−プロリン、システイン、メチオニン、エチオニン、ランチオニン、シスタチオニン、シスチン、システイン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、S−(カルボキシメチル)−システイン、4−アミノ酪酸、アスパラギン、グルタミン、アザセリン、アルギニン、カナバニン、シトルリン、δ−ヒドロキシ−リシン、クレアチン、ヒスチジン、1−メチル−ヒスチジン、3−メチル−ヒスチジン、トリプトファンなどが挙げられる。中でもグリシン、アラニン、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、イセチオン酸またはそれらの塩が好ましい。
【0044】
ニトリル化合物の具体例としては、例えば、アセトニトリル、アミノアセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル等が挙げられる。
【0045】
キレート剤の具体例としては、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、エチレンジアミン四酢酸、N,N,N−トリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンスルホン酸、トランスシクロヘキサンジアミン四酢酸、1,2−ジアミノプロパン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミンオルトヒドロキシフェニル酢酸、エチレンジアミンジ琥珀酸(SS体)、N−(2−カルボキシラートエチル)−L−アスパラギン酸、β−アラニンジ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸、1,2−ジヒドロキシベンゼン−4,6−ジスルホン酸等が挙げられる。
【0046】
研磨促進剤の好ましい形態として、無機塩が挙げられる。研磨用組成物中に無機塩を加えた場合には、上述した研磨促進剤や錯化剤の機能に加えて、研磨用組成物の電気伝導度を上げることができ、その結果として研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上するという有利な効果がある。なお、以下の具体例の中には、上記で既に研磨促進剤や錯化剤として挙げた化合物群と重複するものも記載されているが、そのような化合物が研磨用組成物に含まれる場合、当該化合物は無機塩として含まれているものとする。
【0047】
無機塩としては、例えば、アルカリ金属の無機塩およびアンモニウム塩である。前記アルカリ金属の無機塩は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等が挙げられる。前記アンモニウム塩は、水酸化アンモニム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム及び塩化テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。
【0048】
本形態に係る研磨用組成物が研磨促進剤を含む場合、当該研磨用組成物における当該研磨促進剤の含有量の下限は、組成物の全量100質量%に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。研磨促進剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。一方、本形態に係る研磨用組成物が研磨促進剤を含む場合、当該研磨用組成物における当該研磨促進剤の含有量の上限は、組成物の全量100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。研磨促進剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができる。
【0049】
本形態に係る研磨用組成物が研磨促進剤を含む場合の好ましい形態として、錯化剤を含む場合、当該研磨用組成物における当該錯化剤の含有量の下限は、組成物の全量100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上である。錯化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。一方、錯化剤の添加によって研磨対象物が容易に過剰なエッチングを受けるという虞を低減させる(過剰なエッチングを防ぐ)という観点から、当該研磨用組成物における当該錯化剤の含有量の上限は、組成物の全量100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。
【0050】
また、本形態に係る研磨用組成物が研磨促進剤を含む場合の好ましい形態として、無機塩を含む場合、当該研磨用組成物における当該無機塩の含有量の下限は、組成物の全量100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上である。無機塩の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。一方、無機塩の過剰添加によって砥粒の凝集が発生する虞を低減させるという観点から、当該研磨用組成物における当該無機塩の含有量の上限は、組成物の全量100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下である。
【0051】
[金属防食剤〕
本形態に係る研磨用組成物は、任意の成分として、金属防食剤を含んでもよい。研磨対象物が金属配線層、バリア層および層間絶縁膜層等を含む半導体デバイス基板の場合、研磨用組成物中に金属防食剤を加えることにより、研磨用組成物を用いた研磨で配線の脇に凹みが生じるのをより抑えることができる。また、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にディッシングが生じるのをより抑えることができる。
【0052】
使用可能な金属防食剤は、特に制限されないが、好ましくは複素環式化合物または界面活性剤である。複素環式化合物中の複素環の員数は特に限定されない。また、複素環式化合物は、単環化合物であってもよいし、縮合環を有する多環化合物であってもよい。該金属防食剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。また、該金属防食剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0053】
金属防食剤として使用可能な複素環化合物の具体例としては、例えば、ピロール化合物、ピラゾール化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ピリジン化合物、ピラジン化合物、ピリダジン化合物、ピリンジン化合物、インドリジン化合物、インドール化合物、イソインドール化合物、インダゾール化合物、プリン化合物、キノリジン化合物、キノリン化合物、イソキノリン化合物、ナフチリジン化合物、フタラジン化合物、キノキサリン化合物、キナゾリン化合物、シンノリン化合物、ブテリジン化合物、チアゾール化合物、イソチアゾール化合物、オキサゾール化合物、イソオキサゾール化合物、フラザン化合物等の含窒素複素環化合物が挙げられる。
【0054】
さらに具体的な例を挙げると、ピラゾール化合物の例としては、例えば、1H−ピラゾール、4−ニトロ−3−ピラゾールカルボン酸、3,5−ピラゾールカルボン酸、3−アミノ−5−フェニルピラゾール、5−アミノ−3−フェニルピラゾール、3,4,5−トリブロモピラゾール、3−アミノピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3,5−ジメチル−1−ヒドロキシメチルピラゾール、3−メチルピラゾール、1−メチルピラゾール、3−アミノ−5−メチルピラゾール、4−アミノ−ピラゾロ[3,4−d]ピリミジン、アロプリノール、4−クロロ−1H−ピラゾロ[3,4−D]ピリミジン、3,4−ジヒドロキシ−6−メチルピラゾロ(3,4−B)−ピリジン、6−メチル−1H−ピラゾロ[3,4−b]ピリジン−3−アミン等が挙げられる。
【0055】
イミダゾール化合物の例としては、例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルピラゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6−ジメチルベンゾイミダゾール、2−アミノベンゾイミダゾール、2−クロロベンゾイミダゾール、2−メチルベンゾイミダゾール、2−(1−ヒドロキシエチル)ベンズイミダゾール、2−ヒドロキシベンズイミダゾール、2−フェニルベンズイミダゾール、2,5−ジメチルベンズイミダゾール、5−メチルベンゾイミダゾール、5−ニトロベンズイミダゾール、1H−プリン等が挙げられる。
【0056】
トリアゾール化合物の例としては、例えば、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、1−メチル−1,2,4−トリアゾール、メチル−1H−1,2,4−トリアゾール−3−カルボキシレート、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸、1,2,4−トリアゾール−3−カルボン酸メチル、1H−1,2,4−トリアゾール−3−チオール、3,5−ジアミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール−5−チオール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−ベンジル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチル−4H−1,2,4−トリアゾール、3−ニトロ−1,2,4−トリアゾール、3−ブロモ−5−ニトロ−1,2,4−トリアゾール、4−(1,2,4−トリアゾール−1−イル)フェノール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジプロピル−4H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジメチル−4H−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−3,5−ジペプチル−4H−1,2,4−トリアゾール、5−メチル−1,2,4−トリアゾール−3,4−ジアミン、1H−ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−アミノベンゾトリアゾール、1−カルボキシベンゾトリアゾール、5−クロロ−1H−ベンゾトリアゾール、5−ニトロ−1H−ベンゾトリアゾール、5−カルボキシ−1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、5,6−ジメチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−(1’,2’−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−5−メチルベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−4−メチルベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0057】
テトラゾール化合物の例としては、例えば、1H−テトラゾール、5−メチルテトラゾール、5−アミノテトラゾール、および5−フェニルテトラゾール等が挙げられる。
【0058】
インダゾール化合物の例としては、例えば、1H−インダゾール、5−アミノ−1H−インダゾール、5−ニトロ−1H−インダゾール、5−ヒドロキシ−1H−インダゾール、6−アミノ−1H−インダゾール、6−ニトロ−1H−インダゾール、6−ヒドロキシ−1H−インダゾール、3−カルボキシ−5−メチル−1H−インダゾール等が挙げられる。
【0059】
インドール化合物の例としては、例えば1H−インドール、1−メチル−1H−インドール、2−メチル−1H−インドール、3−メチル−1H−インドール、4−メチル−1H−インドール、5−メチル−1H−インドール、6−メチル−1H−インドール、7−メチル−1H−インドール、4−アミノ−1H−インドール、5−アミノ−1H−インドール、6−アミノ−1H−インドール、7−アミノ−1H−インドール、4−ヒドロキシ−1H−インドール、5−ヒドロキシ−1H−インドール、6−ヒドロキシ−1H−インドール、7−ヒドロキシ−1H−インドール、4−メトキシ−1H−インドール、5−メトキシ−1H−インドール、6−メトキシ−1H−インドール、7−メトキシ−1H−インドール、4−クロロ−1H−インドール、5−クロロ−1H−インドール、6−クロロ−1H−インドール、7−クロロ−1H−インドール、4−カルボキシ−1H−インドール、5−カルボキシ−1H−インドール、6−カルボキシ−1H−インドール、7−カルボキシ−1H−インドール、4−ニトロ−1H−インドール、5−ニトロ−1H−インドール、6−ニトロ−1H−インドール、7−ニトロ−1H−インドール、4−ニトリル−1H−インドール、5−ニトリル−1H−インドール、6−ニトリル−1H−インドール、7−ニトリル−1H−インドール、2,5−ジメチル−1H−インドール、1,2−ジメチル−1H−インドール、1,3−ジメチル−1H−インドール、2,3−ジメチル−1H−インドール、5−アミノ−2,3−ジメチル−1H−インドール、7−エチル−1H−インドール、5−(アミノメチル)インドール、2−メチル−5−アミノ−1H−インドール、3−ヒドロキシメチル−1H−インドール、6−イソプロピル−1H−インドール、5−クロロ−2−メチル−1H−インドール等が挙げられる。
【0060】
これらの中でも好ましい複素環化合物はトリアゾール化合物であり、特に、1H−ベンゾトリアゾール、5−メチル−1H−ベンゾトリアゾール、5,6−ジメチル−1H−ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−5−メチルベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アミノメチル]−4−メチルベンゾトリアゾール、1,2,3−トリアゾール、および1,2,4−トリアゾールが好ましい。これらの複素環化合物は、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いため、研磨対象物表面により強固な保護膜を形成することができる。このことは、本発明の研磨用組成物を用いて研磨した後の、研磨対象物の表面の平坦性を向上させる上で有利である。
【0061】
また、金属防食剤として使用される界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0062】
陰イオン性界面活性剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、アルキルエーテル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、およびこれらの塩等が挙げられる。
【0063】
陽イオン性界面活性剤の例としては、例えば、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
【0064】
両性界面活性剤の例としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0065】
非イオン性界面活性剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0066】
これらの中でも好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、およびポリオキシエチレンアルキルエーテルである。これらの界面活性剤は、研磨対象物表面への化学的または物理的吸着力が高いため、研磨対象物表面により強固な保護膜を形成することができる。このことは、本発明の研磨用組成物を用いて研磨した後の、研磨対象物の表面の平坦性を向上させる上で有利である。
【0067】
研磨用組成物中の金属防食剤の含有量の下限は、0.001g/L以上であることが好ましく、0.005g/L以上であることがより好ましく、0.01g/L以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の金属防食剤の含有量の上限は、10g/L以下であることが好ましく、5g/L以下であることがより好ましく、1g/L以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面の平坦性が向上し、また、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。
【0068】
[酸化剤]
本形態に係る研磨用組成物は、任意の成分として、酸化剤を含んでもよい。本明細書において酸化剤とは、研磨対象物に含まれる金属に対して酸化剤として機能することができる化合物を意味する。したがって、酸化剤は、かような機能を発揮するのに十分な酸化還元電位を有するものであるか否かという基準に従って選定されうる。このため、酸化剤の外延は必ずしも一義的に明確に定まるものではないが、一例として、例えば、過酸化水素、硝酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、過ヨウ素酸、過硫酸塩、酸化水素及びその付加物、例えば尿素過酸化水素及びカーボネート、有機過酸化物、例えばベンゾイル、過酢酸、及びジ−t−ブチル、スルフェイト(SO5)、スルフェイト(S5O8)、並びに過酸化ナトリウムを含む。過ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、次ヨウ素酸、ヨウ素酸、過臭素酸、亜臭素酸、次臭素酸、臭素酸、過塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過ほう酸、及びそれぞれの塩などが挙げられる。
【0069】
本形態に係る研磨用組成物が酸化剤を含む場合、当該研磨用組成物における当該酸化剤の含有量の下限は、組成物の全量100質量%に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.3質量%以上である。酸化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物に対する研磨速度が向上する傾向にある。一方、本形態に係る研磨用組成物が酸化剤を含む場合、当該研磨用組成物における当該酸化剤の含有量の上限は、組成物の全量100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。また、酸化剤による研磨対象物の過剰な酸化を防ぐことができるという有利な効果も得られる。
【0070】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、アニオン修飾砥粒、アルカリ化合物、および必要に応じて他の成分を、水中で攪拌混合することにより得ることができる。
【0071】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10〜40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0072】
[研磨方法および基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、基板の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、基板を本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む基板の製造方法を提供する。
【0073】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0074】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0075】
研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転速度は、10〜500rpmが好ましく、研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5〜10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0076】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、基板が得られる。
【0077】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0078】
表2に示すような、砥粒(表2中の「砥粒」の欄)、アルカリ化合物(表2中の「アルカリ化合物」の欄)、および必要に応じてその他の添加剤(表2中の「化合物」の欄)を水中で攪拌混合し(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)、実施例1〜13および比較例1〜13の研磨用組成物を調製した。この際、表面修飾によって砥粒に担持されている官能基の種類を、表2中の「修飾の種類」の欄に記載する。また、修飾する砥粒としては、コロイダルシリカを用いた。組成物のpHは、アルカリ化合物としての水酸化カリウム(KOH)または水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を加えて調整し、pHメータにより確認した。なお、表2中の「修飾の種類」の欄において「−」と表記されているものは、表面修飾されていないことを示す。また、砥粒とアルカリ化合物以外に添加剤を加えた場合、表2中の「化合物」の欄に物質名を記載し、加えなかった場合は「−」と表記した。
【0079】
(基板に対する研磨速度の測定)
上記で得られた実施例1〜13および比較例1〜13の研磨用組成物を用い、研磨対象物としての各基板に対する研磨速度を測定した。研磨速度は、直流4探針法を原理とするシート抵抗測定器を用いて測定される研磨前後のウェハの厚みの差を、研磨時間で除することにより求めた。なお、基板は各材料(表2中の「研磨対象物」の欄)のブランケットウェーハを用い、「シリコン」はシリコンウェーハを、「TEOS」はTEOSブランケットウェーハを、「SiN」はSiNブランケットウェーハを、「Poly−Si」はポリシリコンブランケットウェーハを、「Ru」はルテニウムブランケットウェーハを示す。研磨条件は表1のとおりである。
【0081】
(基板および砥粒のゼータ電位の測定)
得られた実施例1〜20および比較例1〜20の研磨用組成物に使用した砥粒およびそれを用いて研磨した基板のゼータ電位は、研磨前の砥粒および基板に対して、電気泳動光散乱法を原理とする測定装置を用いて測定した。測定にて得られた結果は、表2中の「電位」の欄に示す。
【0082】
このようにして得られた、基板に対する研磨速度およびゼータ電位の測定結果を下記の表2に示す。なお、表2中の「研磨速度」の欄において「−」と表記しているものは、研磨用組成物中の砥粒が凝集またはゲル化して、研磨速度の測定が出来なかったことを示す。
【0084】
次いで、上記実施例2および比較例5の研磨用組成物の電気伝導度を調整し、各研磨用組成物の保存安定性を確認した。電気伝導度の調整は、無機塩として硝酸カリウム(KNO
3)を添加して調整し、電気伝導率計を用いて確認した。安定性については、電気伝導度を調整した各研磨用組成物を23度で静置して一定時間毎に目視で確認し、研磨用組成物が液状を維持している場合を“−”、研磨用組成物中の砥粒が凝集またはゲル化した場合を“+”とした(表3中の「安定性」の欄)。
【0085】
このようにして得られた、各研磨用組成物の安定性の結果を下記の表3に示す。
【0087】
表2に示す結果から、実施例1〜13に係る研磨用組成物を用いると、本発明の条件を満たさない比較例1〜13の研磨用組成物に比べて、様々な種類の研磨対象物に対する研磨速度が格段に向上することがわかる。また、実施例14〜20のように研磨用組成物に無機塩を多く含む場合においても、同量の無機塩を含む比較例14〜20の研磨用組成物と比べ、本発明の条件を満たす研磨用組成物は、安定性において顕著に優れた効果を奏することが認められた。