(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
a)基材担体層の上に、表面のメソ多孔性セラミック酸化物層を有する多孔性の基材を、熱分解によって炭素膜に変換することができる少なくとも1種の有機ポリマーの溶液で被覆する工程、
b)多孔性の基材上のポリマー被覆物を、溶媒を除去することによって乾燥させる工程、
c)ガスの分離に適切な炭素膜を形成するために、多孔性の基材上のポリマー被覆物を熱分解させる工程、
を含み、
工程a)で使用される表面のメソ多孔性セラミック酸化物層は、孔径が2〜9nmの範囲であり、及び
工程a)から工程c)までの各工程、又は工程a)から工程c)までのシーケンスは、複数回行うことができ、及び工程c)での熱分解が、多孔性の基材の焼き付け温度よりも高い温度で行われ、
焼かれていない状態の、表面のメソ多孔性セラミック酸化物層が、少なくとも1種の有機ポリマーの溶液で被覆され、及び工程c)での熱分解が、500〜900℃の範囲の温度で行われ、
前記少なくとも1種の有機ポリマーが、脂肪族ジオール、芳香族ジカルボン酸、及びエチレン性不飽和ジカルボン酸の繰り返し単位を有するエチレン性不飽和のポリエステルであることを特徴とする、ガスの分離に適切な炭素膜を製造するための方法。
【背景技術】
【0002】
ガス分離のために炭素膜を使用することは公知である。ここで、グラファイトの所定の層面間隔(これは、3.35Åで、ガス分子よりも小さい大きさの範囲に位置する)が使用される。
【0003】
有機材料の熱分解によって合成された炭素は、準結晶炭素(parakristalline carbon)と称される。この理由は、これは、多かれ少なかれ、理想的な結晶構造からの偏差を示すからである。これは周期的な範囲を少し有し、しかし拡散したX線反射(レントゲン反射)を示し、及び従って、X線(レントゲン)アモルファスと称される。ガラス状のミクロ孔性の炭素は、1.2〜1.6g/cm
3で、2.2g/cm
3の結晶性グラファイトよりも小さい密度を有し、及び狭い孔径−分布を有している。開口した多孔率が高い割合であるために、この炭素は、吸着剤として極めて適している。
【0004】
アモルファス又はミクロ結晶炭素フィルムは、高い化学的不活性を有している。これらはsp
2−及びsp
3−結合から構成され、及び従ってグラファイトとダイアモンドの間に位置する特性を有している。グラファイトに類似する構造は、乱層的に無秩序な層シーケンスから構成され、そして、大きく変形し、及び無方向(disorientated)のグラファイト層によってミクロ結晶が結合している。
【0005】
上述したX線アモルファスカーボン中の正確な結合状態について、種々の理論が提出されている。RobertsonとO’Reillyは、一つのモデルを提案しており、このモデルでは、アモルファスカーボンが、sp
3−結合を介して相互に架橋したsp
2−結合集団で構成されている。これに対してCote及びLiuは、ある理論を主張しており、この理論では、アモルファスカーボンが、3次元的に架橋したsp
2−結合だけで構成されている。実験は、分散して架橋したsp
2−結合の推定を売ら付けている。Lossyらによると、アモルファスの、及びナノ結晶の炭素中では、sp
2−及びsp
3−結合タイプの混合が存在している。これらの集団(クラスター)が十分に大きくなれば、ナノ結晶のグラファイト−及びダイヤモンド構造を発生させることができる。
【0006】
ナノ孔性の炭素原子を膜材料として使用する場合、高い浸透性と高い選択性を同時に得ることができる。炭素膜におけるガス浸透(ガス透過)は、ポリマー膜よりも単純(簡素)である。この理由は、ガスは炭素中に溶解しないからである。炭素膜には2種類有る:分子篩の炭素膜(分子篩炭素膜MSCM)及び吸着選択性炭素膜(吸着選択性炭素膜ASCM)。MSCMは、(より大きい分子の種類を寸法で除外することによって)種々の分子径を有するガス混合物の分離を許容する。
【0007】
これに対して、ASCMは、類似する分子径のガス混合物の分離、又はより小さい分子からより大きい分子を分離することを許容する。
【0008】
吸着性及び非吸着性のガスの透過特性は、種々の機構に基づいている。非吸着性の透過(浸透)が、理想的にはガス拡散として理解することできる一方で、吸着性のガスの透過は、表面拡散プロセスで決定される。吸着性及び非吸着性のガスの混合物では、非吸着性の成分の透過は、吸着されるガス分子によって妨げられる。非吸着性のガスは、膜を通った拡散のために、最初にポテンシャルバリアを克服しなければならない。実際には、ガス拡散と表面拡散は常に同時に発生する。分離は、膜の低圧側で、ある成分の選択的吸着と表面拡散によって機能する(この低圧側で最終的に脱着が生じる)。
【0009】
合成工程、例えばか焼及び軽度の活性化工程に依存して、MSCMの孔径は、2.8〜5.2Åの範囲に存在する。ASCMの孔径は、5〜7Åで僅かに大きい。
【0010】
炭素の更なる重要な長所は、熱化学的な処理によって、孔径を目標に従って調整することの可能性を有していることである。この調整は、同じ出発材料から、異なる透過性、及び分離特性を有する膜を製造することを可能にする。炭素膜は、酸、アルカリ、及び有機溶媒に対して、化学的に高い抵抗性を有している。ナノ孔性の炭素膜は、ポリマー膜と比較して、非酸化性の条件下に900℃までの高い温度で使用することができる。
【0011】
炭素の短所は、酸化媒体及び水蒸気に対して限られた抵抗性(安定性)を有していることである。更に、炭素膜は、ポリマー膜よりももろく、及び吸着されるガス、例えば塩素ガスによって阻害(閉塞)される。吸着されたガス分子は、≧200℃の温度で、再度除去される。従って、好ましい工程温度は、これらの範囲に位置するべきである。
【0012】
ガラス状炭素の第1の代表例は、「セルロース炭素」であり、これは、規定された温度処理で、セルロースを炭素に熱分解変換して得られる。
【0013】
セルロースファイバーから熱分解によってカーボンファイバー膜を製造する方法が、例えば特許文献1(EP−A−0671202)に記載されている。
【0014】
特許文献2(WO00/62885)には、ガス分離に適切な炭素膜を形成するためにポリマーフェノール性樹脂を使用する方法が記載されている。ここでフェノール樹脂はメタノールに溶解されている。
【0015】
特許文献3(WO01/97956)には、選択されたポリマーを多孔性の基材上で熱分解することによってナノ孔性の炭素膜を製造する方法が記載されている。好ましいポリマーとして、ポリフルフリルアルコール、ポリビニルクロリド、及びポリアクリルニトリルが挙げられる。これらは、添加剤、好ましくは二酸化チタン、二酸化ケイ素ゼオライト、又はポリエチレングリコールと混合され、そして基材上に施される。次に熱分解が行われる。
【0016】
特許文献4(EP−A−2045001)には、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、又はエポキシド樹脂、ならびにポリエチレン及びセルロースに基づく樹脂を使用し、有機溶媒中に溶解させ、フィルムを形成し、及び樹脂を熱分解することによって、炭素膜を製造する方法が記載されている。
【0017】
更に、特許文献4(EP−A−2045001)には、多孔性基材、その上に続く多孔性セラミック層、及び炭素層から構成される炭素膜の構成が記載されており、ここでは、TiO
2−ゾルから製造され、及び孔径が0.3〜10nmである最後の中間層が炭素膜上に施されている。更に、膜は75℃でのパーベーパレイションによって、水とエタノールを分離するためにのみ試験されている。これらの試験は、より高い温度でのガス分離のための適正を許容していない。
【0018】
熱分解工程の前に、ポリマー膜は、しばしが物理的、又は化学的な前処理を受ける。物理的な前処理については、例えば、空洞状のファイバーの伸長を意味すると理解される。化学的な処理方法については、例えば、炭化触媒、例えば鉱酸での処理、又は(狭い孔径分布を得ることを目的とした)化学物質、例えばジメチルホルムアルデヒドでの処理が挙げられる。更なる前処理方法としては、酸化雰囲気、例えば空気での、高温における処理が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に従い、有機ポリマーの熱分解が、多孔性の基材の焼き付け温度よりも高い温度で行われる場合、特に有利な炭素膜が得られることが見出された。
【0028】
多孔性の基材の焼き付け温度として、最上部の基材層の焼き付け温度が採用される(最上部の基材層の上に、少なくとも1種の有機ポリマーが施される)。ここで「焼き付け温度」については、基材のこの最上部の層が、後の炭素膜にも存在する形態(状態)に変換される温度であると理解される。
【0029】
無機膜は通常、非対称的な構造を有している。有機ポリマーに基づく分離活性の膜層を実際に塗布する前に、粗い孔の担体上に、孔径の小さい中間層が施される。このようにしてのみ、非常に薄く及び従って透過性の高い膜層が製造できる。ここで、個々の中間層は個別の加熱工程で焼かれ、ここで、被覆物から被覆物へと温度は低くなる。(応力の形成をもたらし、そして欠陥になる)下側の層の収縮と孔径の変化を回避するためにこのことが必要である。
【0030】
これに対して、炭素膜の熱分解温度を、基材層の焼き付け温度よりも高くすると、優れた分離特性を有する炭素膜を得ることができることがわかった。
【0031】
好ましくは、多孔性基材は、表面のメソ孔の、セラミック酸化物層を、その下側に位置する基材担体層の上に有し、ここで 表面のメソ孔の、セラミック酸化物層は、所定の焼き付け温度を有しており、この焼き付け温度は、(従って)有機ポリマーの熱分解温度未満である。
【0032】
好ましくは、これらの表面のメソ多孔性の、セラミック酸化物層は、平均孔径を2〜10nmの範囲に有する。
【0033】
好ましくは、表面のメソ多孔性の、セラミック酸化物層は、ゾル−ゲル−技術で製造される。対応するゾル−ゲル−法はこの技術分野の当業者にとって公知である。
【0034】
ここで基材担体層は、適切な任意の材料から選ぶことができる。好ましくは、これは多孔性材料、多孔性セラミック、多孔性ガラス、又は多孔性複合体から選ばれる。
【0035】
ここで表面のメソ多孔性の、セラミック酸化物層は、好ましくは、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、SiO
2、又はこれらの混合物から構成される。
【0036】
特に好ましくは、表面のメソ多孔性の、セラミック酸化物層は、γ−Al
2O
3のセラミック酸化物層である。
【0037】
表面のメソ多孔性の、セラミック酸化物層が、焼かれていない状態で、少なくとも1種の有機ポリマーで被覆されていることが、特に有利である。次に行われる熱分解で、表面のメソ多孔性の、セラミック酸化物層が、(初めて)焼き付けされる(焼かれる)。
【0038】
ここで熱分解は、好ましくは、500〜900℃の範囲の温度で行われる。
【0039】
本発明に従う炭素膜の製造方法ついて、その機械的、及び熱的に高い安定性のために、セラミックの担体を使用することが特に好ましい。最上部の、最も狭い孔性の中間層が、メソ多孔性酸化物層である。IUPAC−定義に従い、メソ多孔性の層の孔径は、2〜50nmである。特に好ましくは、最上層、表面のメソ多孔性の、セラミック酸化物層は、平均孔径が2〜10nmの範囲である。
【0040】
この中間層の上に、前段階(前駆体)として、ポリマー溶液が施される。ポリマーは、乾燥され、場合により、軽く昇温された温度で架橋され、そして次に加熱ないしは熱分解で炭素膜に変換(熱分解)される。熱分解は、600〜800℃の範囲の温度で行われることが特に好ましい。
【0041】
炭素膜を製造するためにメソ多孔性の酸化物層を使用する場合、メソ多孔性の酸化物層の焼き付け温度よりも高い温度で熱分解が行われると、膜の分離特性が改良されることが、本発明に従い見出された。熱分解の前に、メソ多孔性の酸化物層の焼き付けが全くなされていない場合、最良の結果が得られた。
【0042】
多孔性の基材の更なる特性を以下に詳細に説明する。
【0043】
本発明に従い、(熱分解によって、炭素膜に変換されることができる)適切な任意の有機ポリマーを、溶液として使用することができる。この技術分野の当業者にとって、適切なポリマーは公知である。これは例えば、冒頭に示した文献に示されている。
【0044】
好ましくは、この少なくとも1種の有機ポリマーは、セルロース、ポリマー性フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリフルフリルアルコール、ポリビニルクロリド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、エチレン性不飽和のポリエステル及びこれらの混合物から選ばれる。
【0045】
特に好ましくは、本発明に従い、エチレン性不飽和のポリエステル又はその混合物が使用される。本発明の一実施の形態に従えば、有機ポリマーは、エチレン性不飽和のポリエステルとは異なる。
【0046】
エチレン性不飽和ポリエステルとして、適切な任意のエチレン性不飽和ポリエステルを使用することができる。好ましくは、エチレン性不飽和ポリエステルは、繰り返し単位、脂肪族ジオール、芳香族ジカルボン酸、及びエチレン性不飽和ジカルボン酸を有する。ここで本発明に従い使用されるエチレン性不飽和ポリエステルは、脂肪族ジオール、芳香族ジカルボン酸無水物、及びエチレン性不飽和ジカルボン酸無水物から出発して製造することができる。
【0047】
脂肪族ジオールは、好ましくはC
2−12−アルカンジオール、特に好ましくはC
2−6−アルカンジオール、特にC
2−4−アルカンジオールである。ここで、これらは、ヒドロキシル基が末端に位置する、又は末端に位置しない、直鎖状、又は枝分かれしたアルカンジオールであっても良い。好ましくは、(ヒドロキシル基が末端に位置する、又は末端に位置しない)直鎖状脂肪族アルカンジオールが使用される。特に好ましくは、アルカンジオールとして1,2−プロパンジオールが使用される。
【0048】
エチレン性不飽和ジカルボン酸は、好ましくは、マレイン酸である。これは特に、エチレン性不飽和ポリエステルを製造するために、無水マレイン酸の状態で使用される。
芳香族ジカルボン酸は、適切な任意の芳香族ジカルボン酸から選ぶことができる。これは例えば、フタル酸、イソフタル酸、又はテレフタル酸であっても良い。好ましくは、芳香族ジカルボン酸は、フタル酸である(これは不飽和ポリエステルを製造するために、無水フタル酸のとして使用される)。
【0049】
エチレン性不飽和ポリエステル中に、ジオール及びジカルボン酸が当量で存在することができる。好ましくは、僅かにジオール−過剰で処理し、これにより、得られるポリエステルが、カルボン酸末端基よりもアルコール末端基を多く含むようにする。ジカルボン酸に対するジオールの過剰量は、1〜20質量%(重量%)、好ましくは2〜10質量%、特に3〜7質量%であることができる。
【0050】
芳香族ジカルボン酸、及びエチレン性不飽和ジカルボン酸は、適切な任意のモル割合で使用することができる。好ましくは、芳香族ジカルボン酸及びエチレン性不飽和ジカルボン酸は、モル割合0.1:1〜1:0.1、特に好ましくは0.1:1〜1:0.3、特に0.09〜1〜1:09で使用される。特に好ましくは、芳香族ジカルボン酸及びエチレン性不飽和ジカルボン酸が当量で処理される。
【0051】
上述したモノマーから、エチレン性不飽和ポリエステルが、通常の条件下で製造され、ここで、エチレン性不飽和ジカルボン酸のエチレン性不飽和基が(広範囲で)保持されているべきである。エチレン性不飽和ポリエステルを製造するために、例えば公知の方法を挙げることができる。
【0052】
本発明に従い使用することが好ましい、エチレン性不飽和ポリエステルは、分子量が100〜2000g/モル、特に好ましくは200〜600g/モルの範囲である。ポリエステルの粘度は、好ましくは4〜200mPa、特に好ましくは10〜40mPasである。
【0053】
エチレン性不飽和ポリエステルの溶液は、好ましくは追加的に、架橋するエチレン性不飽和モノマー(架橋性エチレン性不飽和モノマー)、及び架橋開始剤としての遊離基形成剤(free-radical former)を含む。ここで架橋するエチレン性モノマー(架橋性エチレン性モノマー)は、好ましくはスチレン、又はα−メチルスチレンである。遊離基形成剤として、全てのラジカル重合開始剤(free-radical polymerization initiator)を使用することができる。例えば、ジベンゾールペルオキシドを遊離形成剤として使用することができる。エチレン性不飽和ポリエステルの溶液を、多孔性の基材上に施す際、ポリエステルは好ましくは、未だ架橋されておらず、又はせいぜい部分的に架橋され、所定の流動性が維持されている。
【0054】
溶媒として、ポリエステルのために適切な全ての溶媒が対象になり、好ましくはスチレン(スチロール)、α−メチルスチレン、及びアセトンである。
【0055】
本発明の一実地の形態に従えば、架橋されるエチレン性不飽和モノマーが溶媒として使用され、すなわち、エチレン性不飽和モノマーの使用で、更なる溶媒が使用不要になる。同様に本発明の一実施の形態に従えば、エチレン性不飽和のポリエステルの粘度の適切な設定において、溶媒の添加が不必要になる。これは特に、エチレン性不飽和のポリエステルが環境温度(22℃)で流動性である場合に該当する。
【0056】
特に好ましくは、エチレン性不飽和ポリエステルは、架橋されるエチレン性不飽和モノマーと一緒に、更なる溶媒又は希釈剤を使用することなく、工程a)での被覆に使用される。
【0057】
この場合、(エチレン性不飽和ポリエステル及びエチレン性不飽和モノマーの混合物における)架橋されるエチレン性不飽和モノマーの割合は、好ましくは0.1〜5質量%(重量%)、特に好ましくは0.2〜2質量%、又は好ましくは20〜90質量%、特に好ましくは40〜80質量%である。
【0058】
通常、有機ポリマーのための溶媒として、有機溶媒、好ましくはスチレン、α−メチルスチレン及び/又はアセトンが使用される。
【0059】
溶液中の有機ポリマーの濃度は、好ましくは20〜95質量%、又は10〜80質量%、特に好ましくは40〜70質量%、又は20〜60質量%である。
【0060】
多孔性の基材は、任意の適切な被覆方法によって、ポリマーの溶液、好ましくエチレン性不飽和ポリエステルの溶液で被覆される。溶液は、浸漬、スプレー、含浸等で施すことができる。好ましくは、浸漬被覆が、エチレン性不飽和のポリエステルの溶液を施す(被覆する)ために使用される。エチレン性不飽和ポリエステルの被覆は、更にインク−被覆、及び超音波堆積(Ultrasonic Deposition、UD)で行うことができる。対応する方法は、例えばEP−A−2045001及びWO01/97956に記載されている。
【0061】
ポリマー、例えばエチレン性不飽和のポリエステルの溶液で多孔性の基材を被覆した後、多孔性の基材上のポリエステル被覆物が、乾燥される。ここで、場合により存在する溶媒が除去される。架橋するエチレン性不飽和のモノマーを一緒に使用する場合、このモノマーの過剰量が同様に、乾燥で除去される。乾燥は、好ましくは0〜70℃の範囲の温度、特に好ましくは17〜30℃の温度、特に環境温度(22℃)で、0.1〜50時間、好ましくは2〜24時間の期間にわたり行われる。
【0062】
工程c)で熱分解を行う前に、乾燥b)の後で、又は乾燥の一部として、軽く昇温した温度での硬化を行うことができる。好ましくは、20〜150℃の範囲、又は50〜250℃の、特に好ましくは60〜100℃の範囲の温度で、1〜100時間、好ましくは6〜24時間、又は4.5〜20時間、特に6〜12時間の期間、硬化される。硬化において、ポリマー、例えばエチレン性不飽和ポリエステルが架橋される。架橋は溶解を防止し、そして従って(グラファイトのエネルギー的に好適な状態での)ポリマー、例えば架橋したポリエステルの構造変換を防止する。
【0063】
熱分解の前に、ポリマー膜を、物理的又は化学的な前処理に処理することもできる。化学的な前処理について、例えば、孔径分布を狭くするこを目的とした、炭化触媒、例えば鉱酸を使用した処理、化学物質、例えばジメチルフォルムアミドを使用した処理を挙げることができる。添加剤、例えばポリエチレングリコール、ルイス酸、及びイオン性塩は、冒頭の引用文献、特にEP−A−0671202に記載されている。このような前処理は、本発明に従い行うこともできるが、しかしながらしばしば必要とはされない。この理由は、本発明に従い使用されるポリエステルを使用することによって、適切な孔径構造が得られるからである。更なる適切な孔形成剤は、SO
3NH(C
2H
5)
3、トリエチルアンモニウムニトレート、及び(−C(CF
3)
2−)ヘキサフルオロイソプロピリデン−基である。孔形成剤の種類と量を介して、膜の透過性が制御される。
【0064】
熱分解の時には、本発明に従い使用されるポリマー、好ましくはポリエステルは、好ましくは、熱分解の低温範囲で既に架橋されているか、又は硬化されている。架橋の前に、好ましくは、全ての溶媒がポリマー被覆物から除去される。この理由は、これらは加熱時に、泡の形成及び欠陥の形成をポリマー層にもたらすからである。架橋の程度、及び架橋の温度は、後の膜の透過性(浸透性)及び選択性に影響を与え得る。
【0065】
工程c)で炭素膜を形成するために、ポリマー−好ましくはポリエステル被覆物の熱分解が、多孔性の基材の上で、好ましくは不活性ガス下で、500〜900℃の温度範囲、特に好ましくは650〜750℃の温度範囲で行われる。ここで熱分解は、好ましくは0.1〜24時間、好ましくは0.5〜17時間、特に好ましくは1〜10時間、特に1〜2時間、行われる。
【0066】
事情によっては、熱分解が酸素を少量含むガスの存在下に行われることが有意義である。しかしながら本発明に従い、熱分解は好ましくは、不活性ガス、例えば窒素−、及び/又はアルゴン雰囲気下に行われる。
【0067】
熱分解によって、高い多孔性の炭素が生じ、その孔径は、前駆体の種類と形態(モーホロジー)及び熱分解条件に依存して変化することができる。制御された熱処理によって、炭素膜の孔径を設定(調整)することができる。熱分解条件は、得られる炭素膜の分離特性に影響を与える。ここで加熱速度、熱分解温度、及び熱分解期間は、調整可能な量である。熱エネルギーの供給によって、ポリマー中の結合が破壊される。ポリマーの分解によって、(一連の)ガス状の副生成物が形成され、これにより相当量(多量)の質量損失が発生する。
【0068】
熱分解の後、得られた炭素膜は、必要であり及び所望する場合には、更なる処理工程に処理することができる。例えば膜は、100℃〜500℃の温度での空気中での熱処理によって、活性化することができる。二酸化炭素流中での活性化も、本発明に従い可能である。しかしながら好ましくは、本発明に従い、工程c)の後でこのような更なる処理(副処理)は行われることがなく、そして熱処理で得られた炭素膜が、ガス分離にとって直接的に適切である。
【0069】
本発明に従い製造される炭素膜は、好ましくは、平均孔径が0.1〜0.7nmの範囲、特に好ましくは0.25〜0.45nmの範囲、特に0.3〜0.4nmの範囲である。これらの膜は、好ましくは、膜の孔径に侵入することができる(比較的)小さな動力学的ガス直径を有する分子のみを通過させる。ここで、これらのものは特に、水素、水、アンンモニア、及びヘリウムである。これらのガスの分離のメカニズムは、分離されるガスの異なる(種々の)吸着−及び輸送特性によるものではなく、形状選択的分離(分子篩)によるものである。これらの場合、透過するガスの流れは、駆動力によって直線的に増加することが保証される。
【0070】
特に好ましくは、以下の分離が、本発明に従い得られる炭素膜によって、(場合により、平衡をシフトするための化学的な反応と組合せて)行われる:
(例えば、脱水素化における)C
1から高い側の炭化水素からの水素の分離。
【0071】
本発明に従えば、目標とする使用温度は、200〜500℃の範囲である。
【0072】
本発明に従う炭素膜は、好ましくは、非対称的(asymmetric)な膜の状態で製造される。多孔性の基材(担体)の選択は、炭素との化学的反応性及び適合性、機械的安定性に依存し、及び経済的な要素、例えば費用、及び有用性にも依存する。多孔性基材として、上述したように、多孔性材料、例えば多孔性金属、多孔性セラミック、多孔性ガラス、又はこれらの多孔性複合体が適切である。
【0073】
特に好ましくは、多孔性の基材は、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、SiO
2、又はこれらの混合物のメソ多孔性セラミック酸化物層を有する(これは、ポリマー、好ましくはエチレン性不飽和ポリエステルの溶液で被覆される)。
【0074】
特に好ましくは、メソ多孔性、セラミック性酸化物層は、γ−Al
2O
3で形成される。
【0075】
ここで、メソ多孔性のセラミック酸化物層は、所定の焼き付け温度を有し、該焼き付け温度は工程c)における熱分解温度よりも低い温度である。好ましくは、このメソ多孔性セラミック酸化物層は、焼かれていない状態で、ポリマー好ましくはエチレン性不飽和のポリエステルの溶液で被覆され、ここで、メソ多孔性のセラミック酸化物層の焼き付け(焼くこと)が、熱分解と同時に行われる。このことで、得られる炭素膜の特に有利な特性スペクトルをもたらすことができる。
【0076】
担体材料として鋼を使用する場合、規格化された、制御性が良好な及び再現性のある製品を得るという長所が得られる。しかしながら鋼を使用する場合、層複合体から(高い透過性と選択性を相互に結合させる)多孔性の担体を製造することができない。
【0077】
従って、セラミック性の多孔性の担体上の炭素膜が好ましい。これらは、好ましくは、より微細になった層厚さ及び孔径を有する複合体から構成される。基材の表面の欠陥は、炭素膜中に欠陥、例えばピンホールを発生させ得るもので、このような欠陥は、膜の分子篩特性を損失させるので、多孔性担体を、中間層で被覆して、担体の表面状態(表面トポグラフィー)及び欠陥構造を低減させることが有利である。
【0078】
本発明に従う、好ましい膜の基本的な構成は、EP−A−2045001に記載されている。特に同文献の
図1に及び記載の対応する説明に示されている。
【0079】
好ましい、粗い孔のAl
2O
3−担体の上に、より小さな孔の層の後に、(γ−Al
2O
3で作られ、平均孔径が、好ましくは2〜10nm、特に好ましくは3〜7nm、特に好ましくは4〜6nmの)メソ孔のセラミックの酸化物層が配置される。このメソ多孔性のセラミック性の酸化物層の層厚さは、好ましくは0.1〜10μm、特に好ましくは0.5〜5μm、特に1〜2μm、特に1〜1.5μmである。
【0080】
これにより、炭素膜に対して、多孔性基材断面の孔径を低減することができ、多孔性基材における圧力損失を回避することができ、同時に炭素膜中に適切な孔径を設定することができる。膜のこれらの設計によって、それぞれの分離作業について、膜を通る高い物質流動性が保証される。
【0081】
以下に実施例を使用して、本発明をより詳細に説明する。
【0082】
実施例
実施例1
ジオールと少なくとも1種の不飽和カルボン酸を反応させて、不飽和ポリエステルを形成し、次にオレフィンを加えることによって、前駆体溶液を製造した。特定の場合では、250mlの2クビフラスコ中に、19.98gの1,2−プロパンジオール(0.25モル+5%過剰;VWR)、12.26gの無水マレイン酸(0.125モル;VWR)、及び18.52gの無水フタル酸(0.125モル;VWR)を計量導入した。次に(予定よりも早い重合−又は架橋の進行を回避するために)0.01gのヒドロキノン(VWR)を重合抑制剤として加えた。窒素下に、計量導入した材料を、オイル槽を使用して反応温度200℃に加熱した。鎖構造の形成をチェックするために、規則的な間隔で、KOH−溶液を使用した滴定で、酸価を測定した。約50の酸価で、140℃に迅速に冷却することによって反応を中断させた。次に滴下漏斗を使用して、強く攪拌させながら1分以内に50gのスチレン(スチロール)を架橋剤として加えた。加えたスチレンは、事前に50℃に加熱した。ポリエステル−スチレン−混合物の早期の重合を回避するために、不飽和ポリエステル樹脂溶液を水槽中で、室温に冷却した。この後、ポリエステル−スチレン−混合物中に、1%のジベンゾイルペルオキシド(VWR)を遊離基形成剤として加え、そして次に5分間、室温で攪拌した。
【0083】
膜のための担体として、長さが105mm、内径が7mm、及び外径が10mmのα−Al
2O
3のシングルチャンネルチューブ(単路管)を使用したが、これは、小さくなった孔径を有する中間層を内側に有していた。最上の中間層として、ベーマイト−ゾルを使用し、これを室温で乾燥させ、及び300℃、500℃及び650℃でか焼した。
【0084】
これらを浸漬被覆法で、透明で粘性の軽く黄色味がかった前駆体溶液で被覆した。このために、溶液がチューブ内に満たされ、そして1分間の滞留時間の後、再びポンプを使用して除去した。サンプルを空気中で24時間乾燥させ、そして次に乾燥キャビネット内で、80℃の温度で12時間硬化させ、そして(m/A中で)室温に冷却した。ポリマーを架橋させて熱硬化性樹脂を得た後、層を以下の手順で炭素に熱分解した:
1.窒素中で、室温から380℃へと、0.5K/分で昇温
2.窒素中、380℃で、1時間の保持時間、
3.窒素中、380℃から500℃へと、0.6K/分で昇温
4.窒素中、500℃で10分間、保持
5.窒素からアルゴンへと雰囲気を変換
6.アルゴン中、500℃から最終的な熱分解温度へと1K/分で昇温
7.アルゴン中、最終的な熱分解温度での1時間の保持時間
8.アルゴン中、最終的な熱分解温度から500℃へと5K/分で冷却
9.アルゴンから窒素へと雰囲気を変換
10.窒素中、500℃から室温へと5K/分で冷却
【0085】
ポリエステルの組成、架橋剤の割合、及び最終的な熱分解温度を、以下の結果の表に示した。ここで最上部の中間層(topmost interlayer)は、孔径が5〜9nm、及び厚さが1〜2μmのγ−Al
2O
3−層に変換された。
【0086】
実施例2
ベーマイト−ゾルを、浸漬被覆法を使用して、小さくなる孔径を有する複数の層の複合体から構成される、チューブ状の非対称のセラミック担体の内側に施した。担体は、7mmの内径、10mmの外径、及び105mmの長さを有していた。被覆の後、試料を空気中で室温で乾燥させ、そして300℃、500℃、及び800℃でか焼させた。乾燥およびか焼させたベーマイト層を、浸漬被覆法を使用して前駆体で被覆した。このために、フェノール樹種溶液で膜チューブ内を満たし、そして1分間の滞留時間の後、再度排出した。溶液の製造のために、2種のフェノール樹脂粉を使用した:
【0088】
最初に7.5gのフェノール樹脂粉を22.5gのメタノール(MERCK)に溶解されることによって、溶液の製造を行った。この後で、20gの1−メチル−2−ピロリドン(≧99.5%、MERK)を更なる溶媒として加えた。被覆の後、溶媒を完全に除去するために、ポリマーフィルムを空気中で室温で24時間、乾燥させた。乾燥の後、ポリマーを乾燥キャビネット内で、150℃で3時間にわたり熱硬化性樹脂へと架橋させ、そして室温へと冷却した。この後に、次の手順を使用して炭素に熱分解した:
1.窒素中で、0.5K/分で、室温から380℃へと昇温
2.窒素中、380℃で、1時間の保持時間
3.窒素中で、0.6K/分で、380℃から500℃へと昇温
4.窒素中、500℃で10分間の保持時間
5.窒素からアルゴンへと雰囲気を変換
6.アルゴン中で、500℃から最終的な熱分解温度へと1K/分で昇温
7.アルゴン中、最終的な熱分解温度での1時間の保持時間
8.アルゴン中、最終的な熱分解温度から500℃へと5K/分で冷却
9.アルゴンから窒素へと雰囲気を変換
10.窒素中、500℃から室温へと5K/分で冷却
【0089】
使用したフェノール樹脂のタイプ及び最終的な熱分解温度を、以下の結果の表1に示した。熱分解工程では、最終的に、焼かれていない、セラミックの担体膜が、0.5〜1K/分の加熱速度で、600〜900℃(特に800℃)で、不活性雰囲気(窒素及び/又はアルゴン)下に、炭素に変換された。
【0090】
実施例1及び2で製造された炭素膜の分離特性を特徴付けるために、ガス測定装置を使用して、個別の−及び混合ガス測定を、150℃の温度で行った。
【0091】
個々のガスの透過測定(浸透測定)を、昇圧法を使用して行った。ここで、透過性は、所定の時間にわたる直線的な圧力上昇から求められる。
【0092】
ガス混合物測定は、80体積%の水素、及び20体積%のプロパンで構成されたH
2/C
3H
8−混合物を使用し、1.5バールの膜透過圧(供給圧=2.5バール、透過=1.0バール、絶対圧)で行った。ここで、全体の流速を、ガスバブルカンウンターを使用して測定し、及び透過性を、供給−、及び透過圧を使用し、供給物の(供給、保持(retentate)、及び透過の)組成から、H
2及びプロパンについて計算した。透過性は、膜のm
2、時間、及び圧力当たりの流量を示し、ここで圧力として、対応するガスの部分圧差(駆動力)を使用した。ここで、透過選択性は、得られた両方の透過性の割合から求めた。
【0094】
PES=ポリエステル PH(タイプ)=フェノール樹脂 Ma=無水マレイン酸
Pa=無水フタル酸 *Nm
3=stpでのm
2
【0095】
実施例3
前駆体溶液の製造(ポリエステル:25モル% 無水マレイン酸、25モル%無水フタル酸、及び50モル%1,2−プロパンジオール;溶液:50質量%PES及び50質量%スチレン)、被覆のために使用される担体(最上の中間層:500℃でか焼したベーマイトゾル)、前駆体溶液を使用した被覆、乾燥(空気中、室温で24時間)、架橋(空気中、80℃で12時間)、最終的な熱分解(Ar中、650℃で1時間)を、実施例1に詳細に記載したように行った。
【0096】
炭素膜の分離特性を調査するために、150〜450℃の温度範囲、及び1〜10バールの絶対圧範囲の供給圧力で、混合ガスの測定を試験装置上で行った。測定は、約50体積%の水素、及び50体積%のプロパンから構成されるH
2/C
3H
8−混合ガスを使用して行った。ここで透過圧は、約1バール絶対圧であった。ガスメーターを使用した保持(retentate)−及び透過−全体流量の測定、及びオンラインガスクロマトグラフィーを使用した、供給、保持及び透過のガス組成の測定が行われた。更に、圧力と温度を記録した。個々の流量の計算(次元=Nm
3/h/m
2;Nm=標準立法メートル)を、合計流量と、透過物の組成から行った。透過性(浸透性)(駆動力で標準化された流量、次元=Nm
3/h/m
2/バール、駆動力=供給/保持及び透過の間の分圧差)は、供給/保持及び透過の組成、及び付随する圧力を使用して求められる。透過選択性は、求められた両方の透過性から得られる。
【0097】
表2には、種々の条件下における、膜について測定した、及び計算したデーターを示す。
I:300℃における、供給−/保持圧力の、2.6〜10.2バール絶対圧の範囲での変化
II:7.1バール絶対圧の供給−/保持圧力での、200〜350℃の範囲における温度の変化
【0098】
結果は、300℃の一定温度では、透過膜の圧力(TPM=供給圧力及び保持圧力の相加平均から透過圧力を引いたもの)を増加させたところ、水素透過性が9.9から5.9Nm
3/h/m
2/バールに、及び透過選択性が930から400に減少した。
【0099】
7.1バールの絶対圧の一定の供給−/保持圧力で温度を上昇させた場合、流量及び透過性だけでなく、水素のプロパンに対する選択性も増加した。