特許第6030132号(P6030132)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6030132エナメル樹脂絶縁積層体並びにそれを用いた絶縁ワイヤ及び電気・電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030132
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】エナメル樹脂絶縁積層体並びにそれを用いた絶縁ワイヤ及び電気・電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20161114BHJP
   H01B 17/60 20060101ALI20161114BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20161114BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   H01B7/02 A
   H01B7/02 G
   H01B17/60 K
   H01B3/30 F
   H01B3/30 E
   H01B3/30 D
   B32B5/18
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-525221(P2014-525221)
(86)(22)【出願日】2014年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2014052574
(87)【国際公開番号】WO2014123123
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2015年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-22742(P2013-22742)
(32)【優先日】2013年2月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509216094
【氏名又は名称】古河マグネットワイヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】武藤 大介
(72)【発明者】
【氏名】大矢 真
(72)【発明者】
【氏名】冨澤 恵一
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/133333(WO,A1)
【文献】 特開2008−226772(JP,A)
【文献】 特公昭36−021623(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/30
B32B 5/18
H01B 7/02
H01B 17/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡を含む発泡領域と、該発泡領域の少なくとも一方の表面に気泡を含まない無発泡領域を有し、平板状又は筒状に成形されたエナメル樹脂絶縁積層体であって、
前記発泡領域は、気泡を含まない無気泡層が、該無気泡層の両表面側に独立気泡からなる気泡層を有して構成され、
前記無気泡層の厚さが、前記独立気泡間の隔壁の厚さより大きく、かつ前記発泡領域の厚さの5〜60%であり、
前記発泡領域の少なくとも前記気泡層が、熱硬化性樹脂で形成されているエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項2】
前記エナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率が、200℃において3.0以下である請求項1に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項3】
前記エナメル樹脂絶縁積層体の厚さが、40μm以上であり、少なくとも一方の前記無発泡領域の厚さが10μm以上である請求項1又は2に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項4】
前記独立気泡の厚さ方向の最大気泡径が20μm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項5】
前記エナメル樹脂絶縁積層体が、25℃における引張弾性率が1GPa以上の樹脂で形成された表層を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項6】
前記表層が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む請求項5に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項7】
前記発泡領域が、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含む請求項1〜のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項8】
前記無発泡領域が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリイミドヒダントイン変性ポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含む請求項1〜のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項9】
アルミナ、シリカ及びチタニアから選択される少なくとも1種の粒子を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
【請求項10】
導体と、該導体又は該導体上に形成された被覆の外周に絶縁被覆としての請求項1〜9のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体とを有する耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
【請求項11】
前記無発泡領域が外周表面側に配置されている請求項10に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤを有する電気・電子機器
【請求項13】
請求項10又は11に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤを有するモーター。
【請求項14】
請求項10又は11に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤを有するトランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル樹脂絶縁積層体並びにそれを用いた絶縁ワイヤ及び電気・電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電気・電子機器、具体的には、高周波プリント基板や、インバータ関連機器、例えば高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気機器コイル等では、各種性能、例えば、耐熱性、機械的特性、化学的特性、電気的特性、信頼性等を従来のものより一段と向上させることが要求されるようになってきている。このような電気・電子機器にはマグネットワイヤとして主にエナメル線である絶縁ワイヤが用いられている。絶縁ワイヤに用いる高分子絶縁材料には、高い絶縁性と共に、低誘電率と高耐熱性が求められる。
特に、宇宙用電気・電子機器、航空機用電気・電子機器、原子力用電気・電子機器、エネルギー用電気・電子機器、自動車用電気・電子機器用のマグネットワイヤとして用いられるエナメル線等の絶縁ワイヤには、絶縁性に関する要求特性として高い部分放電開始電圧に加えて高温下における優れた絶縁性能と、耐熱性に関する要求特性の1つとして高温下における優れた耐熱老化特性とが要求されている。
【0003】
ところで、インバータは、効率的な可変速制御装置として、多くの電気・電子機器に取り付けられるようになってきている。しかし、インバータは数kHz〜数十kHzでスイッチングが行われ、それらのパルス毎にサージ電圧が発生する。インバータサージはその伝搬系内でインピーダンスの不連続点、例えば接続する配線の始端、終端等において反射が発生し、その結果、最大でインバータ出力電圧の2倍の電圧が印加される現象である。特に、IGBT等の高速スイッチング素子により発生する出力パルスは電圧峻度が高く、それにより接続ケーブルが短くてもサージ電圧が高く、更にその接続ケーブルによる電圧減衰も小さく、その結果、インバータ出力電圧の2倍近い電圧が発生する。
このように、インバータ関連機器ではそのインバータ出力電圧の2倍近い電圧がかかることから、それら電気・電子機器コイルを構成する材料の一つであるエナメル(絶縁電線又は絶縁ワイヤともいう)には、インバータサージ劣化を最小限にすることが、要求されるようになってきている。
【0004】
一般に、部分放電劣化とは、電気絶縁材料の部分放電(微小な空隙状欠陥等がある部分の放電)で発生した荷電粒子の衝突による分子鎖切断劣化、スパッタリング劣化、局部温度上昇による熱溶融若しくは熱分解劣化、又は、放電で発生したオゾンによる化学的劣化等が複雑に起こる現象を言う。実際に部分放電劣化した電気絶縁材料は、その厚みの減少が見られる。
【0005】
絶縁ワイヤのインバータサージ劣化も一般の部分放電劣化と同様なメカニズムで進行するものと考えられている。すなわち、エナメル線のインバータサージ劣化は、インバータで発生した波高値の高いサージ電圧により絶縁ワイヤに部分放電が起こり、その部分放電により絶縁ワイヤの塗膜が劣化を引き起こす現象、つまり高周波部分放電劣化である。
【0006】
最近の電気・電子機器では、数百ボルトオーダーのサージ電圧に耐えうるような絶縁ワイヤが求められるようになってきた。すなわち、絶縁ワイヤは部分放電開始電圧がそれ以上であることが必要ということになる。ここで、部分放電開始電圧とは、市販の部分放電試験器と呼ばれる装置で測定する値である。測定温度、用いる交流電圧の周波数、測定感度等は必要に応じて変更し得るが、上記の値は、25℃、50Hz、10pCにて測定して、部分放電が発生した電圧である。
部分放電開始電圧を測定する際は、マグネットワイヤとして用いられる場合における最も過酷な状況を想定し、密着する二本の絶縁ワイヤの間について観測できるような試料形状を作製する方法が用いられる。例えば、断面円形の絶縁ワイヤについては、二本の絶縁ワイヤを螺旋状にねじることで線接触させ、二本の間に電圧をかける。また、断面形状が方形の絶縁ワイヤについては、二本の絶縁ワイヤの長辺である面同士を面接触させ、二本の間に電圧をかけるという方法である。
【0007】
上述の部分放電による、絶縁ワイヤの絶縁層(エナメル層ともいう)の劣化を防ぐため、部分放電を発生させない、すなわち部分放電開始電圧が高い絶縁ワイヤを得るには、エナメル層に比誘電率が低い樹脂を用いる方法、エナメル層の厚さを増す方法が考えられる。
実際に、エナメル樹脂の比誘電率を下げる試みがなされている(特許文献1及び2)。しかしながら、特許文献1及び2に記載された樹脂又は絶縁層の比誘電率は3〜4にとどまり、これらの樹脂又は絶縁層を用いて絶縁ワイヤの部分放電開始電圧を1kV(実効値)以上にするには、経験上、絶縁層の厚さを100μm以上にする必要があり、部分放電開始電圧の点でさらに改善の余地がある。
【0008】
また、エナメル層を厚くするためには、製造工程において焼き付け炉を通す回数が多くなり、導体である銅表面の酸化銅からなる被膜の厚さが成長し、それに起因して導体とエナメル層との接着力が低下する。例えば、厚さ100μmのエナメル層を得る場合、焼き付け炉を通す回数は20回を超える。このような回数で焼き付け炉を通すと、導体とエナメル層との接着力が極端に低下することがわかってきた。
一方、焼き付け炉を通す回数を増やさないために1回の焼き付けで塗布できる厚さを厚くする方法もあるが、この方法では、ワニスの溶媒が蒸発しきれずにエナメル層の中に気泡として残るという欠点があった。
【0009】
また、絶縁被膜の厚さを厚くするために、比誘電率の低い熱可塑性樹脂をエナメル線の外側に被覆樹脂を設ける試みがなされている(特許文献3及び4)。しかしながら、特許文献3で用いる、絶縁層を形成する合成樹脂の比誘電率は上記と同程度であり、特許文献3に記載の合成樹脂で絶縁ワイヤの絶縁層を形成しても、部分放電開始電圧、並びに高温下における絶縁性能及び耐熱老化性の点で、十分に満足できるものではない。
【0010】
この問題に対し、気泡を有する熱硬化性樹脂を絶縁被膜に適用する試みがなされている(特許文献5〜8)。しかしながら、これらの熱硬化性樹脂を絶縁皮膜に用いても、部分放電開始電圧、絶縁破壊特性、耐熱性のいずれかの点で、さらに改善する余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4473916号公報
【特許文献2】特開2012−234625号公報
【特許文献3】特公平7−031944号公報
【特許文献4】特開2005−203334号公報
【特許文献5】特公昭36−21623号公報
【特許文献6】特開2009−212034号公報
【特許文献7】特開2012−113836号公報
【特許文献8】特開2012−224714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高い部分放電開始電圧及び絶縁破壊特性を発揮し、かつ優れた耐熱老化特性をも有する耐インバータサージ絶縁ワイヤ(単に、絶縁ワイヤともいう)及び電気・電子機器、並びに、この絶縁ワイヤに好適に用いられる、誘電率の小さいエナメル樹脂絶縁積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、絶縁層として気泡を含ませたエナメル樹脂絶縁積層体を設けた絶縁ワイヤにおいて、エナメル樹脂絶縁積層体を、熱硬化性樹脂で形成された気泡層を有する発泡領域の少なくとも一表面に無発泡領域を積層すると共に、発泡領域に含まれる無気泡層の厚さを特定の範囲に設定することによって、エナメル樹脂絶縁積層体を低誘電率化して部分放電開始電圧、絶縁破壊電圧及び耐熱老化性のいずれをも改善できることを見出した。本発明は、この知見に基づきなされたものである。
【0014】
すなわち、上記課題は以下の手段により解決された。
(1)気泡を含む発泡領域と、該発泡領域の少なくとも一方の表面に気泡を含まない無発泡領域を有し、平板状又は筒状に成形されたエナメル樹脂絶縁積層体であって、前記発泡領域は、気泡を含まない無気泡層が該無気泡層の両表面側に独立気泡からなる気泡層を有して構成され、前記無気泡層の厚さが前記独立気泡間の隔壁の厚さより大きく、かつ前記発泡領域の厚さの5〜60%であり、前記発泡領域の少なくとも前記気泡層が熱硬化性樹脂で形成されているエナメル樹脂絶縁積層体。
(2)前記エナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率が、200℃において3.0以下である(1)に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
(3)前記エナメル樹脂絶縁積層体の厚さが40μm以上であり、少なくとも一方の前記無発泡領域の厚さが10μm以上である(1)又は(2)に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
(4)前記独立気泡の厚さ方向の最大気泡径が20μm以下である(1)〜(3)のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
(5)前記エナメル樹脂絶縁積層体が、25℃における引張弾性率が1GPa以上の樹脂で形成された表層を有する(1)〜(4)のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
(6)前記表層が、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む(5)に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
)前記発泡領域が、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含む(1)〜()のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
)前記無発泡領域が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂及びポリイミドヒダントイン変性ポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含む(1)〜()のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
(9)アルミナ、シリカ及びチタニアから選択される少なくとも1種の粒子を含有する(1)〜(8)のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体。
(10)導体と、該導体又は該導体上に形成された被覆の外周に絶縁被覆としての(1)〜(9)のいずれか1項に記載のエナメル樹脂絶縁積層体とを有する耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
(11)前記無発泡領域が外周表面側に配置されている(10)に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤ。
(12)(10)又は(11)に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤを有する電気・電子機器。
(13)(10)又は(11)に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤを有するモーター。
(14)(10)又は(11)に記載の耐インバータサージ絶縁ワイヤを有するトランス。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体(以後、「成形物」ということがある)は、誘電率が小さく、絶縁ワイヤの絶縁層として用いられると、部分放電開始電圧、絶縁破壊特性及び耐熱老化特性の向上に大きく貢献できる。
また、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体を絶縁層として備えた本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤ及び電気・電子機器は、部分放電開始電圧と絶縁破壊電圧が高く、優れた耐熱老化特性を有する。
【0016】
本発明の上記及び他の特徴並びに利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は本発明のエナメル樹脂絶縁積層体の一実施態様を示した断面図である。
図2図2は本発明のエナメル樹脂絶縁積層体の別の実施態様を示した断面図である。
図3図3は本発明のエナメル樹脂絶縁積層体における発泡領域を詳しく示した断面模式図である。
図4図4は本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤの実施態様を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、発泡領域と、発泡領域の少なくとも一方の表面に無発泡領域とを有する平板状又は筒状の成形物であり、下記条件(1)〜(3)を満たす。好ましくは下記条件(4)〜(11)のうち少なくとも1つをさらに満たす。
このような構成を有する本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、空隙率の増大を抑えながら誘電率を小さくでき、絶縁特性に優れており、耐熱性にも優れる。したがって、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、絶縁性を有し、絶縁ワイヤの絶縁層として好適に用いられる。
【0019】
(1)発泡領域は、気泡を含まない無気泡層が、該無気泡層の両表面側に独立気泡からなる気泡層を有して構成されていること
(2)無気泡層の厚さが、独立気泡間の隔壁の厚さより大きく、かつ発泡領域の厚さの5〜60%であること
(3)発泡領域の少なくとも気泡層が熱硬化性樹脂で形成されていること
【0020】
(4)エナメル樹脂絶縁積層体の200℃における比誘電率が3.0以下であること
(5)エナメル樹脂絶縁積層体の厚さが40μm以上であり、少なくとも一方の無発泡領域の一方の厚さが10μm以上であること
(6)独立気泡の厚さ方向の最大気泡径が20μm以下であること
(7)エナメル樹脂絶縁積層体が、25℃における引張弾性率が1GPa以上の樹脂で形成された表層を有していること
(8)発泡領域が、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含んでいること
(9)無発泡領域が、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステル樹脂から選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂を含んでいること
(10)前記表層がポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステルイミド樹脂から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含んでいること
(11)エナメル樹脂絶縁積層体がアルミナ、シリカ及びチタニアから選択される少なくとも1種の粒子を含有していること
【0021】
上述のように、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、発泡領域と無発泡領域とを有する平板状又は筒状の成形物であり、それ以外の構造及び形状等は特に限定されない。例えば、エナメル樹脂絶縁積層体は、平板状又は筒状(管状ともいう)であれば、エナメル樹脂絶縁積層体の軸線に垂直な断面形状は、特に制限がなく、矩形、円形、楕円形等が挙げられる。また、無発泡領域は、発泡領域の両表面に配置されていてもよい。
【0022】
以下、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体について、図面を参照して説明する。
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体の好適な実施態様の例が図1及び図2に示されているが、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体はこれらの実施態様に限定されない。
【0023】
具体的には、図1(a)に断面図を示した本発明のエナメル樹脂絶縁積層体の一実施態様であるエナメル樹脂絶縁積層体3Aは、平板状に成形されており、発泡領域1と、発泡領域1の一方の表面に積層された無発泡領域2とを有してなる。
図1(b)に断面図を示した本発明のエナメル樹脂絶縁積層体の別の実施態様であるエナメル樹脂絶縁積層体3Bは、平板状に成形されており、発泡領域1と、発泡領域1の両方の表面に積層された無発泡領域2とを有してなる。2つの無発泡領域2のうち一方は、図1(b)に示されるように、他方よりも厚さが厚く形成されている。
【0024】
図2(a)に断面図を示した本発明のエナメル樹脂絶縁積層体のまた別の実施態様であるエナメル樹脂絶縁積層体3Cは、断面形状が円形の筒状に成形されており、発泡領域1と、発泡領域1の外表面(外周面ともいう)に同軸に積層された無発泡領域2とを有してなる。
図2(b)に断面図を示した本発明のエナメル樹脂絶縁積層体のさらにまた別の実施態様であるエナメル樹脂絶縁積層体3Eは、発泡領域1の内表面にも無発泡領域2を有し、発泡領域1の外表面に積層された無発泡領域2の外周面に表層8を有していること以外は図2(a)に示されるエナメル樹脂絶縁積層体3Cと同様である。
図2(c)に断面図を示した本発明のエナメル樹脂絶縁積層体のまた別の実施態様であるエナメル樹脂絶縁積層体3Dは、断面形状が矩形の筒状に成形されていること以外は図2(a)に示されるエナメル樹脂絶縁積層体3Cと同様である。なお、エナメル樹脂絶縁積層体の「角」は面取りを設けてある。
図2(d)に断面図を示した本発明のエナメル樹脂絶縁積層体のまた別の実施態様であるエナメル樹脂絶縁積層体3Fは、発泡領域1の内表面にも無発泡領域2を有し、発泡領域1の外表面に積層された無発泡領域2の外周面に表層8を有していること以外は図2(c)に示されるエナメル樹脂絶縁積層体3Dと同様である。
【0025】
以上の各図において同符号は同じものを意味し、説明を繰り返さない。
【0026】
(発泡領域)
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体を形成する発泡領域1は、気泡を含んでおり、厚さが後述する無発泡領域2よりも厚く、所謂「基層」として機能する。発泡領域は平板状又は筒状になっている。
【0027】
本発明において、図3に示されるように、発泡領域1は、平板状又は筒状の両表面側に、気泡を含まない無気泡層7が、該無気泡層7の両表面側に独立気泡からなる気泡層6を有して構成されている。発泡領域1は、その両表面側に位置する2つの最も外方の気泡層からなる領域である。気泡層6と、この気泡層6に挟まれた無気泡層7とを有することもある。
本発明において、発泡領域1は、発泡領域1の両表面側に独立気泡4を有する気泡層6を有し、この気泡層6に挟まれた無気泡層7を有している。このように、発泡領域1は、2つの気泡層6と1つの無気泡層7とが積層された3層構造を有していれば、それ以外の構成は特に限定されない。例えば、気泡層6は、発泡領域1の両表面側に配置される2つの気泡層(表面側気泡層ともいう)6に加えて、これらの間に配置される少なくとも1層の気泡層(内部気泡層ともいう)を有していてもよい。また、無気泡層7は、積層方向に隣接する2つの気泡層6の間に介装されるものであれば、複数有していてもよい。すなわち、本発明の発泡領域は、2つの表面気泡層の間に無気泡層が配置された3層構造であってもよく、また、2つの表面気泡層の間に、無気泡層と内部気泡層とが交互に積層されたn層構造(nは、奇数を表し、好ましくは5〜21である。)であってもよい。例えば、図3(a)及び図3(b)には、5層構造の発泡領域が示されている。
なお、発明において、無気泡層に着目すると、発泡領域1は、気泡を含まない無気泡層が該無気泡層の両表面側に気泡層を有して構成されているということもできる。
【0028】
加えて、発泡領域1に含まれる無気泡層7の厚さ(複数の無気泡層7を有する場合は合計厚さ)が独立気泡間の隔壁5の厚さより大きく、かつ発泡領域1の厚さの5〜60%になっている。無気泡層7がこのような厚さを有していると、発泡領域1に占める気泡4の容積率(以後、空隙率)の増大を抑えながら、効果的に比誘電率を小さくすることができる。その結果、エナメル樹脂絶縁積層体の絶縁特性、引張強度等の機械特性を向上させることができる。
【0029】
すなわち、本発明における発泡領域は、1層以上の無気泡層と2層以上の気泡層を有し、これら各層の厚さの比率が上述の範囲に設定されている。具体的には、発泡領域の厚さをT、発泡領域に存在するすべての無気泡層の厚さの合計をtとすれば、t/Tの値が0.05〜0.60に設定されている。無気泡層の厚さは、発泡領域の厚さに対して25〜50%、すなわち上述の厚さの比t/Tが0.25〜0.50であるのが、絶縁特性及び機械特性をさらに改善できる点で、特に好ましい。
【0030】
発泡領域1を構成する気泡層6は、発泡領域1の両表面側、すなわち表面層として設けられ、気泡を有している。
気泡層6に含まれる気泡は、隔壁で隔てられ、発泡領域1の表面に開口する表面開口気泡に連通していない独立気泡4であり、表面開口気泡に連通していなければ、近傍に存在する気泡に連通していてもよい。なお、本発明において、気泡層6は、独立気泡4に加えて、表面開口気泡に連通する連通気泡を有していてもよく、その割合は、好ましくは、50%以下である。この連通気泡の存在割合は次のようにして求める。すなわち、気泡層6の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、表面開口気泡に連通する連通気泡数と独立気泡数を計数し、両者の合計で連通気泡数を除した百分率で表す。
【0031】
このように、気泡層6は、気泡、特に独立気泡4の集合と、骨格としての隔壁5とからなり、気泡層6の厚さ方向には1つ以上の独立気泡4があるものとする。例えば、図3(a)及び(b)に示される気泡層6は厚さ方向に1つの独立気泡4を有しており、図3(c)及び(d)に示される気泡層6は厚さ方向に2つの独立気泡4を有しており、図3(e)に示される気泡層6は厚さ方向に複数、具体的には5つの独立気泡4を有している。
【0032】
独立気泡4は、断面が矩形状でもよいし、楕円形状、円形状でも良い。誘電率低減の点で、横扁平の楕円形状であるのが好ましい。独立気泡4は、エナメル樹脂絶縁積層体の絶縁特性、特に気泡内における部分放電発生の点で、気泡層6の厚さ方向の最大気泡径が20μm以下であることが好ましく、10μm以下がさらに好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。独立気泡4の最大気泡径は、特に規定されないが、実際的には、1nm以上である。独立気泡4の最大気泡径は、気泡層6の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、任意に選択した10個の独立気泡4の最大気泡径を測定し、測定値の算術平均値を算出して、求められる。
【0033】
気泡層6の隔壁は、複数の独立気泡4の間に存在し、所謂骨格として気泡層6を形成している。この隔壁の厚さは、気泡層6の形状を保持できれば特に限定されないが、比誘電率低減の点で、1μm以下が好ましく、100nm以下がさらに好ましい。下限は特に規定されないが、実際的には1nm以上である。隔壁の厚さは、気泡層6の断面を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率3000倍以上で観察して調べることができる。本発明では、任意に選んだ10カ所の隔壁5の厚さの平均値を、隔壁5の厚さとする。なお、隔壁5の厚さは、気泡の形状及び分散状態等によっても一義的に決定できるように、最近接している2つの独立気泡4の最小距離とする。例えば、図3に示される気泡層6において、隔壁5の厚さは、気泡層6の平面に沿って隣接する2つ独立気泡4間の最小距離、すなわち2つの独立気泡4の中心を結ぶ直線上の距離であり、気泡層6の平面に交差する方向に隣接する独立気泡4間の最小距離ではない。
【0034】
気泡層6それぞれの厚さは、上述の条件(2)を満たす限り、限定されるものではないが、実際的には、200μm以下であり、発泡の均一性の点で50μm以下が好ましい。このうち、絶縁ワイヤへの適用においては、10μm以下が好ましく、5μm以下が特に好ましい。厚さの下限は、特に規定されないが、実際的には1μmである。気泡層6の厚さは、発泡領域1の断面を走査電子顕微鏡(SEM)を用いて倍率1000倍以上で観察して調べることができる。なお、気泡層6の厚さを測定する際の気泡層6の境界は、図3に示されるように独立気泡4が平面的に分散している場合は、各独立気泡4の頂点を結ぶ線とする。一方、独立気泡が厚さ方向にランダムに分散している場合は、厚さ方向に垂直な方向において最も外側(上側)に位置する独立気泡及び最も内側(下側〕に位置する独立気泡の、厚さ方向に垂直な方向における頂点を通り、厚さ方向に垂直な線を気泡層の境界とする。
複数の気泡層6が存在する場合は、気泡層6の合計厚さは、上述の条件(2)を満たす限り、限定されるものではないが、絶縁ワイヤの比誘電率及び機械特性の確保の点で、好ましくは10〜200μmであり、より好ましくは20〜100μmである。
【0035】
無気泡層7は、エナメル樹脂絶縁積層体が平板状であれば気泡層6の間に同一平面状に連続して存在し、エナメル樹脂絶縁積層体が筒状であれば気泡層6の間に長手方向(軸線方向)に連続して存在する層であって、独立気泡4を隔てる隔壁5より厚さが大きいものと定義する。無発泡層7が隔壁5より薄い場合は、実際的には無発泡層7と隔壁5の識別ができない上、前述の比誘電率の低減効果が発現しないことがある。
【0036】
この無気泡層7は、図3に示されるように、気泡を実質的に含有しない、所謂中実層である。ここで、「実質的に含有しない」とは、気泡をまったく含有しないだけでなく、発泡領域の特性に影響しない程度に気泡を含有している場合をも包含する。例えば、無発泡層6の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した観察面において、1個/cm以下であれば、気泡を含有していてもよい。
【0037】
無気泡層7それぞれの厚さは、前述の通り発泡領域1の厚さとの関係で決定されるが、誘電率低減の点で、10μm以下であるのが好ましく、5μm以下であるのがさらに好ましい。無気泡層7の厚さの下限は、特に規定されないが、実際的には100nmである。無気泡層7の厚さは、発泡領域1の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で倍率1000倍以上で観察して調べることができる。なお、無気泡層7の厚さを測定する際の無気泡層7の境界は気泡層6の境界と同様である。
複数の無気泡層7が存在する場合は、無気泡層7の合計厚さは、上述の条件(2)を満たす限り、限定されるものではないが、絶縁ワイヤの比誘電率及び機械特性の確保の点で、好ましくは0.1〜200μmであり、より好ましくは1〜100μmである。
【0038】
このように気泡層6と無気泡層7とが積層されてなる発泡領域1は、無気泡層7の存在によって空隙率が抑えられており、所望の比誘電率となるように適宜に設定される。本発明において、発泡領域1のエナメル樹脂絶縁積層体全体に占める空隙率は、比誘電率の低減効果の点で、10%以上が好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。一方、空隙率は、機械的強度の点で、70%以下が好ましく、60%以下がさらに好ましく、50%以下が特に好ましい。発泡領域1の空隙率は、エナメル樹脂絶縁積層体の密度d及びエナメル樹脂絶縁積層体を形成する樹脂の密度doから、{1−(d/do)}×100[%]にて、算出できる。本発明では、それぞれの密度を水中置換法により測定した値を用いる。
【0039】
このような構成を有する発泡領域1は、少なくとも気泡層6、好ましくは気泡層6及び無気泡層7が熱硬化性樹脂で形成される。熱硬化性樹脂で形成されると、機械的強度が優れるから気泡がつぶれ難いという効果が得られる。この熱硬化性樹脂はガラス転移点が150℃以上であるのが好ましい。熱硬化性樹脂はガラス転移点が150℃以上であると、耐熱性が高く、高温下で発泡領域1が軟化しにくく、気泡が潰れずに比誘電率が上昇しにくくなる。熱硬化性樹脂のガラス転移点は、比誘電率の点で、200℃以上が好ましく、230℃以上がより好ましく、250℃以上が特に好ましい。なお、熱硬化性樹脂が複数のガラス転移点を有する場合は最も低温のものをガラス転移点とする。
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリアミドイミド又はポリイミドが好適に挙げられる。比誘電率及び耐熱性の点で、ポリイミドが特に好ましい。市販の熱硬化性樹脂として、例えば、ポリアミドイミド樹脂(PAI)ワニス(日立化成製、商品名:HI−406)、ポリイミド樹脂(PI)ワニス(ユニチカ製、商品名:Uイミド)等が使用できる。熱硬化性樹脂は、これらを1種独で使用してもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0040】
無気泡層7は、上述の熱硬化性樹脂で形成するのが好ましいが、耐熱性を満たした上で、低比誘電率や機械強度を向上した異なる樹脂で形成されても良い。具体的には、低比誘電率や機械強度を向上したポリアミドイミドやポリイミドの変性材料を用いることができる。これによりエナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率をより低減することができ、又はエナメル樹脂絶縁積層体の引張特性や磨耗性等の機械的強度を向上できる。なお、このような、低比誘電率や機械強度を向上した樹脂は150℃以上のガラス転移点を有しているのが好ましい。
【0041】
上述の熱硬化性樹脂及び低比誘電率や機械強度を向上した樹脂は、耐熱性及び絶縁性に大きく影響しない程度で、各種添加剤を加えても良い。例えば、上述の熱硬化性樹脂以外の樹脂、後述する、耐部分放電性を発現する微粒子等が挙げられる。
【0042】
発泡領域1は、上述の熱硬化性樹脂を特定の数種の溶剤に溶かしたワニスを、適切な基材(絶縁ワイヤを直接製造する場合は導体)上に、適宜複数回塗布、焼付して形成することができる。樹脂ワニスを塗布する方法は、常法でよく、発泡領域1を平板状に形成するには、コンマコート方式、リップコート方式、カーテンコート方式等が挙げられる。これらの樹脂ワニスが塗布された基材は常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼付条件はその使用される炉の形状等に左右されるが、およそ5mの熱風循環式横型エナメル焼付け炉であれば、300〜500℃にて通過時間を10〜180秒に設定することにより達成することができる。
一方、発泡領域1を筒状に成形するには、例えば、導体の断面形状と相似形のワニス塗布用ダイスを用いる方法、導体の断面形状が四角形であるならば井桁状に形成された「ユニバーサルダイス」と呼ばれるダイスを用いる方法が挙げられる。これらの樹脂ワニスが塗布された基材は常法にて焼付炉で焼き付けされる。具体的な焼付条件はその使用される炉の形状等に左右されるが、およそ5mの自然対流式の竪型炉であれば、400〜600℃にて通過時間を10〜90秒に設定することにより達成することができる。
【0043】
このように塗布焼付けによって、気泡層6と無気泡層7とを有する多層構造の発泡領域を形成するには、まず、上述のワニスを改良して気泡の大きさや独立気泡を隔てる隔壁の厚さなどを制御可能な発泡ワニスを調製し、この発泡ワニスを基材に塗布した後、焼き付けて400〜600℃にて通過時間を10〜90秒の条件にて発泡させて気泡層6を形成する。次いで、形成された気泡層6上に無気泡層7形成用のワニスを塗布、焼き付けて、又は、後述するように発泡ワニスを塗布、焼き付けて、無気泡層7を形成し、以降、同様にして、気泡層6及び無気泡層7を所定数形成する。
なお、発泡領域は、上述のようにして、複数の気泡層6及び無気泡層7を予め作製した後にこれらを積層してもよい。
【0044】
特に、発泡ワニスを用いて気泡を含まない無気泡層7を効率的に作製する方法としては、ワニス塗布時のワニス温度を下げる方法があり、理由については良くわかっていないが、おそらくこの現象は加熱による蒸発を部分的に抑制することによる気泡の成長阻害によるものと考えている。また、焼付け炉の風速を押さえるなど蒸発効率を抑える手法を用いることで適宜調節可能である。例えば、ワニス温度を15℃まで下げると、また風速を 5m/秒まで抑えると、発泡ワニスを用いても無気泡層7を効率的に作製できる。
【0045】
気泡層6を形成する方法として、熱硬化性樹脂と、特定の有機溶剤及び少なくとも1種類の高沸点溶剤を含む2種類以上、好ましくは3種以上の溶剤とを混合した発泡ワニスを基材の周囲に塗布、焼き付けることにより得る方法が挙げられる。発泡ワニスの塗布は基材上に、直接、塗布しても、間に別の樹脂層を介在させて行ってもよい。
【0046】
気泡層6に使用される発泡ワニスの特定の有機溶剤は熱硬化性樹脂を溶解させる溶媒として作用する。この有機溶剤としては熱硬化性樹脂の反応を阻害しない限りは特に制限はなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素等の尿素系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−カプロラクトン等のラクトン系溶媒、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルセロソルブアセテート、エチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム系溶媒、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒、スルホラン等のスルホン系溶媒等が挙げられる。これらのうちでは高溶解性、高反応促進性等の点でアミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましく、加熱による架橋反応を阻害しやすい水素原子をもたない等の点で、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルエチレンウレア、N,N−ジメチルプロピレンウレア、テトラメチル尿素がより好ましく、N−メチル−2−ピロリドンが特に好ましい。この有機溶剤の沸点は、好ましくは160℃〜250℃、より好ましくは165℃〜210℃のものである。
【0047】
気泡形成用に使用可能な高沸点溶剤は、沸点が好ましくは180℃〜300℃、より好ましくは210℃〜260℃のものである。具体的には、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等を用いることができる。気泡径のばらつきが小さい点においてトリエチレングリコールジメチルエーテルがより好ましい。これら以外にも、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が使用できる。
【0048】
高沸点溶剤は、1種であってもよいが、気泡が広温度範囲で発生する効果が得られる点で、少なくとも2種を組み合わせて用いるのが好ましい。高沸点溶媒の少なくとも2種の好ましい組み合わせは、テトラエチレングリコールジメチルエーテルとジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテル、より好ましくはジエチレングリコールジブチルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルとテトラエチレングリコールジメチルエーテルの組を含むものである。
【0049】
気泡形成用の高沸点溶媒は熱硬化性樹脂を溶解させる特定の有機溶媒よりも高沸点であるのが好ましく、1種類で発泡ワニスに添加される場合には熱硬化性樹脂の特定の有機溶媒より10℃以上高いことが好ましい。また、1種類で使用した場合には高沸点溶媒は気泡核剤と発泡剤の両方の役割を有することがわかっている。一方、2種類以上の高沸点溶媒を使用した場合には、最も高い沸点のものが発泡剤、中間の沸点を持つ気泡形成用の高沸点溶媒が気泡核剤として作用する。最も沸点の高い溶媒は特定の有機溶剤より20℃以上高いことが好ましく、30〜60℃高いのがより好ましい。中間の沸点を持つ高沸点溶媒は、発泡剤として作用する高沸点溶媒と特定の有機溶剤の中間に沸点があればよく、発泡剤の沸点と10℃以上の沸点差を持っていることが好ましい。中間の沸点を持つ高沸点溶媒は発泡剤として作用する高沸点溶媒より熱硬化性の溶解度が高い場合、発泡ワニス焼き付け後に均一な気泡を形成させることができる。2種類以上の高沸点溶媒を使用する場合に、中間の沸点を持つ高沸点溶媒に対する最も高い沸点を持つ高沸点溶媒との使用比率は、たとえば、質量比で99/1〜1/99であるのが好ましく、気泡の生成のしやすさの点において10/1〜1/10であることがより好ましい。
【0050】
(無発泡領域)
次に、図1を参照して無発泡領域を詳細に説明する。本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、前述した発泡領域1と、この発泡領域1の少なくとも一方の表面に無発泡領域2を有する。無発泡領域2は、用途、要求特性に応じて、発泡領域1の両表面に配置されてもよい。
この無発泡領域2は、気泡を実質的に含有しない領域、所謂中実領域であり、発泡領域1の外方に配置される点で上述の無気泡層7と相違する。ここで、「実質的に含有しない」とは、気泡をまったく含有しないだけでなく、エナメル樹脂絶縁積層体の特性に影響しない程度に気泡を含有している場合をも包含する。例えば、無発泡領域2の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した観察面において、1個/cm以下であれば、気泡を含有していてもよい。
この無発泡領域2は、単層であっても複層であってもよく、例えば、厚さ、生産性等に応じて適宜の層数が選択される。
【0051】
無発泡領域2は、エナメル樹脂絶縁積層体の表面層として備えられていてもよく、また、無発泡領域2の表面に表層を備えていてもよい。表層8としては、25℃における引張弾性率が1GPa以上の樹脂で形成された所謂中実層が好ましい。エナメル樹脂絶縁積層体がこのような表層8を有していると、エナメル樹脂絶縁積層体の引張強度及び耐摩耗性等の機械特性が向上する。表層の厚さは、特に限定されないが、引張強度及び耐摩耗性の点で、5μm以上であるのが好ましく、10〜40μmであるのがさらに好ましい。
引張弾性率は、動的粘弾性測定(DMS)により、測定できる。具体的には、引張モード、周波数10Hz、歪み量1/1000、測定温度は昇温速度5℃/分で変えながら測定する。測定時の制御モード、周波数、歪み量、測定温度等は必要に応じて変えられるものである。
【0052】
無発泡領域2は、機械特性と耐熱性の点で、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミドヒダントイン変性ポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂で形成するのが好ましく、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂がより好ましく、耐熱性及び低誘電率の点でポリイミド樹脂が特に好ましい。
【0053】
無発泡領域2は、上述の熱硬化性樹脂で形成されるのが好ましいが、下記引張弾性率を満たし、耐熱性を著しく損なわないのであれば、熱可塑性樹脂、又は、上述の熱硬化性樹脂との混合物で、形成されてもよい。このような熱可塑性樹脂としては、具体的には、下記に記す樹脂の中から下記引張弾性率及び耐熱性を満たすものが好適である。熱可塑性樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(変性ポリエーテルエーテルケトンを含む。)、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニルサルホン等が挙げられる。これらの中でも、耐薬品性に優れる点においてフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド等が好ましい。このうち、引張弾性率が高く機械特性に優れる点で、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンサルファイドが特に好ましい。
【0054】
市販の熱可塑性樹脂として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)(ソルベイスペシャリティポリマーズ社製、商品名:キータスパイアKT−820)、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂(modified−PEEK、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製、商品名:アバスパイアAV−650)、熱可塑性ポリイミド樹脂(熱可塑性PI、三井化学社製、商品名:オーラムPL450C)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS、DIC社製、商品名:FZ−2100)等が挙げられる。
【0055】
一方、表層を形成する熱可塑性樹脂としては、上記した中でも、耐溶剤性に優れる、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミド樹脂等が好ましい。このうち、耐熱性と機械特性が優れ、誘電率が低い、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、変性ポリエーテルエーテルケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が特に好ましい。
【0056】
無発泡領域に用いる樹脂は、高温下における機械特性の維持の点で、25〜250℃における引張弾性率が100MPa以上であることが好ましく、上記した中からこの条件を満たす樹脂が適宜に選択される。引張弾性率の測定は上述の通りである。
【0057】
無発泡領域2又は表面層8を熱可塑性樹脂、又は、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物で形成する場合、熱可塑性樹脂が結晶性の熱可塑性樹脂であるときには、ガラス転移温度付近の弾性率の低下を抑制し、高温下の機械特性を発揮できる点で、熱可塑性樹脂で形成される無発泡領域の結晶化度を高くすることが好ましい。具体的には、結晶化度は50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがさらに好ましく、80%以上であるのが特に好ましい。ここでの結晶化度は、示差走査熱量分析(DSC)を用いて測定できる値で、結晶性樹脂が規則正しく配列している程度を示す。具体的には、無発泡領域を適量採取し、例えば5℃/minの速度で昇温させ、300℃を超える領域で見られる融解に起因する熱量(融解熱量)と150℃周辺で見られる結晶化に起因する熱量(結晶化熱量)とを算出し、融解熱量に対する、融解熱量から結晶化熱量を差し引いた熱量の差分を、結晶化度とする。計算式を以下に示す。
式: 皮膜結晶化度(%)=[(融解熱量−結晶化熱量)/(融解熱量)]×100
【0058】
無発泡領域2は、上述の熱硬化性樹脂、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との混合物、又は、熱可塑性樹脂で形成され、表層は無発泡領域2と同一の材料で形成されてもよく、また互いに異なる樹脂で形成されてもよい。
また、無発泡領域2及び表層8を形成する樹脂は、耐熱性や絶縁性を影響しない範囲で、他の樹脂やエラストマー、各種添加剤等をブレンドしたものでもよい。例えば、添加剤として、表面のすべり性を向上させるワックスや潤滑剤、後述する、耐部分放電性を発現する微粒子等が挙げられる。
【0059】
無発泡領域2は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を用いて、発泡領域1の外周に、樹脂ワニスを塗布焼き付けて、又は、樹脂を押出成形で形成しても良いし、テープ状のものを巻き付けて形成することができる。
押出成形時の条件、例えば、押出温度条件は、用いる熱可塑性樹脂に応じて適宜に設定される。好ましい押出温度の一例を挙げると、具体的には、押出被覆に適した溶融粘度にするために融点よりも約40〜60℃高い温度で押出温度を設定する。このように、押出成形によって無発泡領域2を形成すると、製造工程にて無発泡領域2を形成する際にエナメル樹脂絶縁積層体を焼き付け炉に通す必要がないため、発泡領域を形成する樹脂の熱劣化や、導体の酸化に起因する導体とエナメル樹脂絶縁積層体の密着力の低下を抑制できるという利点がある。
【0060】
上述の発泡領域と無発泡領域とを有する本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、例えば、耐部分放電性を向上させる目的で、耐部分放電性を発現する微粒子を含有しても良い。このような微粒子として、アルミナ、シリカ、チタニアの微粒子が挙げられ、これらから選択される少なくとも1種の微粒子が好ましく、チタニアが特に好ましい。微粒子の含有量は、耐部分放電性を発揮する点で、エナメル樹脂絶縁積層体の全質量中、10質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましい。一方、微粒子の含有量が多くなりすぎると、エナメル樹脂絶縁積層体が脆くなり可とう性が低下するため、50%以下にするのが好ましい。
【0061】
微粒子の一次粒径は、同様に可とう性の点で、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下が特に好ましい。下限は限定されるものではないが、実際的には1nmである。
【0062】
この微粒子は、エナメル樹脂絶縁積層体の全体、すなわち発泡領域及び無発泡領域に、同じ又は異なる含有量で含有されてもよく、エナメル樹脂絶縁積層体一部、すなわち発泡領域又は無発泡領域に、含有されてもよい。エナメル樹脂絶縁積層体一部に微粒子を含有させる場合は、高い耐部分放電性を効果的に発揮する点で、外方の無発泡領域、特に絶縁ワイヤとしたときに外表面に配置される無発泡領域に含有させるのがより好ましい。
【0063】
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、部分放電開始電圧の点で、エナメル樹脂絶縁積層体の全体の厚さ、すなわち発泡領域と無発泡領域を合わせた合計の厚さが、40μm以上であるのが好ましく、60μm以上であるのがさらに好ましく、80μm以上であるのが特に好ましい。こうすることで、前述の比誘電率との相乗効果で、部分放電開始電圧を高くできる。なお、厚さの上限は、限定されるものではないが、実際的には1mmである。
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体において、絶縁破壊特性及び引張強度や耐摩耗性等の機械特性の点で、無発泡領域(複数の無発泡領域を有する場合は、少なくとも一つの無発泡領域)の厚さは、2μm以上であればよく、10μm以上が好ましく、15μm以上がさらに好ましく、20μm以上が特に好ましい。無発泡層の厚さが厚くなると、エナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率が増大するため、無発泡領域の厚さは、エナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率(3.0以下)によって制限される。故に、厳密にはエナメル樹脂絶縁積層体の空隙率によって制限されるのであるが、無発泡領域の厚さは、実際的には、50μm以下が好ましく、エナメル樹脂絶縁積層体の全体の厚さを基準にすると、エナメル樹脂絶縁積層体の全体の厚さの70%以下が好ましく、50%以下がさらに好ましく、20〜40%が特に好ましい。
【0064】
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、絶縁ワイヤの絶縁層として用いられたときに部分放電開始電圧、絶縁破壊電圧及び耐熱老化性のいずれをも改善できる点で、200℃における比誘電率が3.0以下であるのが好ましく、2.7以下がさらに好ましく、2.5以下が特に好ましい。比誘電率の下限は、特に限定されないが、実際的には1.5である。
比誘電率が3.0以下を維持する温度は、230℃までが好ましく、250℃までが特に好ましい。こうすることで、例えば絶縁ワイヤに適用したときに、部分放電開始電圧を高くできる上に、より高温下で使用することができる。
【0065】
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率は、発泡領域と無発泡領域を合わせた全体の実効的な比誘電率であり、絶縁ワイヤの静電容量と導体及び絶縁ワイヤの外径から算出される値をいう。
【0066】
絶縁ワイヤの静電容量から比誘電率を算出する方法を説明する。絶縁ワイヤの静電容量は、市販のLCRメータなどを用いて測定できる。本発明では、日置電機社製LCRハイテスタ(型式3532−50)を用いる。測定温度、周波数については、必要に応じて変更するものであるが、本発明においては、特に記載のない限り、200±1℃、100Hzにおいて測定した値を意味する。200℃に設定した恒温槽に絶縁ワイヤを入れて温度が一定になった時点で測定する。この方法において、比誘電率は下記式1によって算出できる。
【0067】
式1 : εr=Cp・Log(b/a)/(2πε
式1において、εrはエナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率、Cpは単位長さ当りの静電容量[pF/m]、aは導体の外径、bは絶縁ワイヤの外径、εは真空の誘電率(8.855×10−12[F/m])を、それぞれ、表す。
なお、絶縁ワイヤの断面が円形ではない場合、例えば、矩形である場合には、絶縁層の静電容量Cpが平坦部の静電容量Cfとコーナー部の静電容量Ceの合成(Cp=Cf+Ce)であることを利用して算出できる。具体的には、導体の直線部の長辺と短辺の長さをL1、L2、導体コーナーの曲率半径R、絶縁層の厚さTとすると、平坦部の静電容量Cf及びコーナー部の静電容量Ceは下記式で表される。これら式と、実測した絶縁ワイヤの静電容量及び絶縁層の静電容量Cp(Cf+Ce)とからεrを算出できる。
Cf=(εr/ε)×2×(L1+L2)/T
Ce=(εr/ε)×2πε/Log{(R+T)/R}
【0068】
また、下記式2(A.S.Windelerの式)を用いて発泡体の比誘電率を求めることができる。この計算値は、均一に気泡が分布する発泡体の比誘電率と良く一致する。
【数1】
【0069】
上記式2において、εrはエナメル樹脂絶縁積層体(絶縁ワイヤの絶縁層)の比誘電率、ε1は樹脂の比誘電率、ε2は空気の比誘電率(=1)及びFは空気の体積率[%]である。
ここで、空気の体積率とは、エナメル樹脂絶縁積層体全体に占める空隙の占める体積の割合を意味し、エナメル樹脂絶縁積層体の密度d及びエナメル樹脂絶縁積層体を形成する樹脂の密度doから、F={1−(d/do)}×100[%]にて算出できる。本発明では、それぞれの密度を水中置換法により測定した値を用いる。
【0070】
また、エナメル樹脂絶縁積層体や通常の発泡体をモデル化し、電界解析を用いて比誘電率を算出方法することもできる。電界解析には市販の電磁界計算ソフトウェア(例えば、ELECTRO)が利用できる。本発明では、平行平板電極間に挟まれた空気とエナメル樹脂絶縁積層体の積層絶縁物を考え、空気層の電界を高速表面電荷法による電界解析で求める。具体的には、電極間の電圧V、空気層の電界E、空気層の厚さd、エナメル樹脂絶縁積層体の厚さTとした場合、エナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率εrは下記式3で求めることができる。本発明では、V=1000[V]、d=5[μm]として求める。
式3 : εr=T/{(V/E)−d}
【0071】
このようにして求めた比誘電率は、同様の構造のエナメル樹脂絶縁積層体を皮膜とする絶縁ワイヤの、静電容量から求めた比誘電率とよく一致する。
【0072】
(絶縁ワイヤ)
本発明の絶縁ワイヤは、導体と、該導体又は該導体上に形成された被覆の外周に絶縁被覆として本発明のエナメル樹脂絶縁積層体とを有している。好ましくは、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体が、無発泡領域が絶縁被覆の外周表面となるように、導体の外周に設けられている。
このような構成を有する本発明の絶縁ワイヤは、部分放電開始電圧と絶縁破壊電圧が高く、優れた耐熱老化特性を発揮する。したがって、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、低比誘電率と絶縁性と耐熱性とを要する絶縁材として好適であり、特に、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体を絶縁被覆として備えた本発明の絶縁ワイヤは、耐熱巻線用として好適であり、後述するように、種々の用途に用いられる。
【0073】
上述のように、本発明の絶縁ワイヤは、導体と本発明のエナメル樹脂絶縁積層体とを有しており、それ以外の構造及び形状等は特に限定されない。例えば、本発明の絶縁ワイヤは、導体と本発明のエナメル樹脂絶縁積層体との間に接着層等を有していてもよい。
【0074】
以下、本発明の絶縁ワイヤについて、図面を参照して説明する。本発明の絶縁ワイヤの好適な実施態様の例が図4に示されているが、本発明の絶縁ワイヤはこれらの実施態様に限定されない。
具体的には、図4(a)に断面図を示した本発明の絶縁ワイヤの一実施態様である絶縁ワイヤは、軸線に垂直な断面形状が円形の導体9と絶縁被膜としてエナメル樹脂絶縁積層体3Cとを有してなる。
図4(b)に断面図を示した本発明の絶縁ワイヤの別の実施態様である絶縁ワイヤは、表面層8を有していること以外は図4(a)に示される絶縁ワイヤと同様である。
図4(c)に断面図を示した本発明の絶縁ワイヤのまた別の実施態様である絶縁ワイヤは、軸線に垂直な断面形状が矩形の導体9と絶縁被膜としてエナメル樹脂絶縁積層体3Dとを有してなる。
図4(d)に断面図を示した本発明の絶縁ワイヤのさらにまた別の実施態様である絶縁ワイヤは、表面層8をを有していること以外は図4(c)に示される絶縁ワイヤと同様である。
以上の各図において同符号は同じものを意味し、説明を繰り返さない。
【0075】
本発明の絶縁ワイヤに用いる導体1としては、従来、絶縁ワイヤで用いられているものを使用することができ、好ましくは、酸素含有量が30ppm以下の低酸素銅、さらに好ましくは20ppm以下の低酸素銅又は無酸素銅の導体である。酸素含有量が30ppm以下であれば、導体を溶接するために熱で溶融させた場合、溶接部分に含有酸素に起因するボイドの発生がなく、溶接部分の電気抵抗が悪化することを防止するとともに溶接部分の強度を保持することができる。
導体は、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体との断面形状が同一であるのが好ましく、図4に示されるように、その横断面がエナメル樹脂絶縁積層体の断面形状に合わせて、円形、矩形状等の所望の形状のものを使用できる。導体の断面形状は、断面積が大きくなる形状が好ましく、ステータースロットに対する占有率の点で円形以外の形状を有するものがさらに好ましく、特に、図4に示されるように平角形状のものが好ましい。更には、角部からの部分放電を抑制するという点において4隅に面取り(半径r)を設けた形状であることが望ましい。
【0076】
本発明の絶縁ワイヤは、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体の無発泡領域が絶縁被覆の外周表面になるように本発明のエナメル樹脂絶縁積層体を絶縁被膜として有していることが好ましい。そのようなものは、絶縁被覆の表面の平滑性が良いのですべり性に優れ、さらに耐摩耗性など耐傷性にも優れる。さらに、本発明の絶縁ワイヤは、導体との密着の点で、導体と接触する内周表面にも無発泡領域が設けられている本発明のエナメル樹脂絶縁積層体、例えば、エナメル樹脂絶縁積層体3B、3E又は3Fを絶縁被膜として有していることが好ましい。
【0077】
このような構成を有する本発明の絶縁ワイヤは、部分放電開始電圧が高く、高温下の絶縁性能及び耐熱老化特性にも優れるから、後述するように、耐電圧性や耐熱性を必要とする分野の絶縁ワイヤ、例えば、HV(ハイブリッドカー)やEV(電気自動車)の駆動モーター用の巻線等として、利用可能である。したがって、本発明の絶縁ワイヤは、モーターやトランス等に用いられて高性能の電気・電子機器を提供できる。具体的には、本発明の絶縁ワイヤを用いたモーターは、ステータースロットと、ステータースロットに巻回された本発明の絶縁ワイヤとを有している。
本発明の絶縁ワイヤは、予め成形した本発明のエナメル樹脂絶縁積層体に導体を挿入して製造することができ、また導体の外周面に、上述した方法で、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体を成形して、製造することもできる。
【実施例】
【0078】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。すなわち、本発明は、上記の実施態様及び下記実施例に限定されることはなく、本発明の技術的事項の範囲内において、種々の変更が可能である。
【0079】
(気泡形成用PAIワニス(A))
2LセパラブルフラスコにPAIワニス(HI−406(商品名)、日立化成社製、樹脂成分33質量%溶液)を入れ、この溶液に気泡形成剤としてジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)およびトリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)を添加して、気泡形成用PAIワニス(A)を得た。
(気泡形成用PAIワニス(B))
2LセパラブルフラスコにPAIワニス(HI−406(商品名)、日立化成社製、樹脂成分33質量%溶液)を入れ、この溶液に気泡形成剤として、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)およびジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点256℃)を添加し、さらにジメチルスルホキシドを加えて希釈することによって、気泡形成用PAIワニス(B)を得た。
(気泡形成用PAIワニス(C))
2LセパラブルフラスコにPAIワニス(HI−406(商品名)、日立化成社製、樹脂成分33質量%溶液)を入れ、この溶液に気泡形成剤としてジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点162℃)およびトリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)を添加し、さらにNMPを加えて希釈することによって、気泡形成用PAIワニス(C)を得た。
(気泡形成用PAIワニス(D))
2LセパラブルフラスコにPAIワニス(HI−406(商品名)、日立化成社製、樹脂成分33質量%溶液)を入れ、この溶液に気泡形成剤としてトリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)を添加し、さらにジメチルスルホキシドを加えて希釈することによって、気泡形成用PAIワニス(D)を得た。
(無気泡層7および無発泡領域2形成用のPAIワニス(E))
2LセパラブルフラスコにPAIワニス(HI−406(商品名)、日立化成社製、樹脂成分33質量%溶液)を入れ、さらにNMPを添加して樹脂成分16質量%溶液の無発泡層7および無発泡領域形成用のワニス(E)を得た。
【0080】
(実施例1)
実施例1では、2層の気泡層6と1層の無気泡層7とを有する図3(d)に示される発泡領域1と無発泡領域2とからなるエナメル樹脂絶縁積層体を有する図4(a)に示される絶縁ワイヤを製造した。
具体的には、気泡形成用PAIワニス(A)を直径1mmの銅線(導体)9の外周に塗布し、炉温520℃、20秒で1回焼付けを行い、導体上に気泡層6を形成した。形成された気泡層6の外周にPAIワニス(HI−406(商品名)、日立化成社製、樹脂成分33質量%溶液)を塗布し、20秒で2回焼付けをして無気泡層7を形成し、無気泡層7の外周に気泡形成用PAIワニス(A)を塗布し、20秒で1回焼付けて、発泡領域1を形成した。さらに、発泡領域1の外周にPAIワニス(E)を塗布し、20秒で1回焼付けをして外周の無発泡領域2を形成して、銅線9の外周面にエナメル樹脂成形体物を形成し、実施例1の絶縁ワイヤを得た。
【0081】
(実施例2)
気泡形成用PAIワニス(A)に代えて気泡形成用PAIワニス(C)を炉温500℃で焼付けた以外は実施例1と同様にして図4(a)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0082】
(実施例3)
気泡形成用PAIワニス(A)の焼付け回数を3回、及び、PAIワニス(E)の焼付け回数を2回実施して図3(b)に示される発泡領域1と無発泡領域2とからなるエナメル樹脂絶縁積層体を形成したこと以外は実施例1と同様にして図4(a)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0083】
(実施例4)
気泡形成用PAIワニス(A)を炉温530℃、20秒で1回焼き付けた後、その外周にPAIワニス(E)を20秒で4回焼き付けて1層の無気泡層7を形成した。これを3回繰り返すことによって3層の気泡層を有するエナメル樹脂絶縁積層体を形成したこと以外は実施例1と同様にして図4(a)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0084】
(実施例5)
気泡形成用PAIワニス(A)を炉温540℃、20秒で1回焼き付けた後、その外周にPAIワニス(E)を20秒で2回焼き付けて1層の無気泡層7を形成した。これを6回繰り返すことによって6層の気泡層を有するエナメル樹脂絶縁積層体を形成したこと以外は実施例1と同様にして図4(a)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0085】
(実施例6)
気泡形成用PAIワニス(B)を炉温510℃、30秒で1回焼き付けた後、その外周にPAIワニス(E)を30秒で1回焼き付けて1層の無気泡層7を形成した。これを9回繰り返すことによって、9層の気泡層を有するエナメル樹脂絶縁積層体を形成したこと以外は実施例1と同様にして図4(a)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0086】
(実施例7)
実施例6で製造した絶縁ワイヤの外周に、PAIワニス(E)を30秒で4回焼き付けて表層8を形成し、9層の気泡層6を有するエナメル樹脂絶縁積層体及び厚さ10μmのPAIの表層8を有する図4(b)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0087】
(実施例8)
実施例6で製造した絶縁ワイヤの外周に、PIワニス(Uイミド(商品名)、ユニチカ株式会社製、樹脂成分25質量%のNMP溶液)を30秒で4回焼き付けて表層8を形成し、9層の気泡層6を有するエナメル樹脂絶縁積層体及び厚さ22μmのPIの表層8を有する図4(b)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0088】
(実施例9)
実施例6で製造した絶縁ワイヤの外周に、熱可塑性ポリイミド樹脂(熱可塑PI、商品名:オーラムPL450C、三井化学社製)を押出成形にて形成した。押出条件は表1に従った。これにより、9層の気泡層6を有するエナメル樹脂絶縁積層体及び厚さ22μmのPIの表層8を有する図4(b)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0089】
(実施例10)
実施例6で製造した絶縁ワイヤの外周に、NMPに溶解させたポリエーテルイミド(PEI)(商品名:ultem、SABIC社製)をエナメル用のダイスを用いて塗布、炉温510℃、30秒で焼付けを行うことにより厚さ5μmの接着層を形成し、その外周に、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK、商品名:キータスパイアKT−820、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製)を押出成形にて形成した。押出条件は表1に従った。これにより、9層の気泡層6を有するエナメル樹脂絶縁積層体及び厚さ35μmのPEEKの表層8を有する図4(b)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0090】
(実施例11)
実施例6で製造した絶縁ワイヤの外周に、NMPに溶解させたポリフェニルサルフォン(PPSU、商品名:レーデルR、ソルベイアドバンストポリマーズ社製)をエナメル用のダイスを用いて塗布、炉温510℃で30秒で焼付けを行うことにより厚さ5μmの接着層を形成し、さらにその外周に、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS、商品名:FZ−2100、DIC製)を押出成形にて形成した。押出条件は表1に従った。これにより、9層の気泡層6を有するエナメル樹脂絶縁積層体及び厚さ36μmのPPSの表層8を有する図4(b)に示される絶縁ワイヤを製造した。
【0091】
(実施例12)
気泡形成用PAIワニス(B)を炉温510℃、30秒で1回焼き付けた後、その外周にPAIワニス(E)を30秒で1回焼き付けて1層の無気泡層7を形成した。これを8回繰り返し、さらに外層に気泡形成用PAIワニス(B)を1回焼き付けて発泡領域を形成し、発泡領域を形成した絶縁ワイヤの外周に、1次粒径15nmのチタニア(テイカ社製;HXMT−100ZA)を30質量%含有したPAIワニス(HI−406(商品名)、日立化成社製、樹脂成分33質量%溶液)を6回塗布焼き付けて無発泡領域2を形成し、さらにその外周にPAIワニス(HI−406(商品名)、日立化成社製、樹脂成分33質量%溶液)を6回塗布焼き付けることにより表層8を形成し、9層の気泡層6、厚さ18μmのチタニア含有無気泡層及び厚さ15μmのPAIの表層8を有する絶縁ワイヤを製造した。
【0092】
(実施例13)
平板状のエナメル樹脂絶縁積層体を以下のようにして作製した。実施例2で使用したワニスを、20μmの銅箔(古河電工社製開発品)を幅500mmのガラス板に固定したものに、塗布した。これを高温恒温器(STPH−202;エスペック社製)で500℃に加熱した。加熱の時間はサンプル投入後500℃設定において500℃に達してから高温恒温器で30秒とし、気泡層を焼き付けた。その後、気泡層上に濃度16%に希釈したHI−406を塗布し、同様にして焼付けを実施し、無発泡層を形成した。更に同様にして発泡領域における気泡層の形成を行い、発泡領域1を形成した。この表面に濃度20%に希釈したHI−406を塗布・焼付けて、無発泡領域を形成し、実施例13のエナメル樹脂絶縁積層体3Aを得た。
【0093】
(比較例1)
気泡形成用PAIワニス(A)を直径1mmの銅線9の外周に塗布し、炉温510℃で焼付けることによって、無気泡層7がなく、1層の気泡層6を有する比較例1の絶縁ワイヤを製造した。
(比較例2)
気泡形成用PAIワニス(B)を直径1mmの銅線9の外周に塗布し、炉温500℃で焼付けることによって、無気泡層7がなく、1層の気泡層6を有する比較例2の絶縁ワイヤを製造した。
【0094】
(比較例3)
気泡形成用PAIワニス(D)を直径1mmの銅線9の外周に塗布し、炉温505℃で焼付けることによって、無気泡層7がなく、1層の気泡層6を有する比較例3の絶縁ワイヤを製造した。
(比較例4)
気泡を形成しないポリアミドイミドワニスにはHI−406を用いた。この樹脂1000gに溶剤としてNMPを用いて30%溶液とした。PAIワニスを直径1mmの銅線9の外周に塗布し、炉温520℃で30秒焼付けを行った。これを15回繰り返すことによって、膜厚40μmのPAIからなる無発泡領域のみを有する比較例4の絶縁ワイヤを製造した。
【0095】
(押出温度条件)
実施例9〜11における押出温度条件を表1に示す。
表1において、C1、C2、C3は押出機のシリンダー部分における温度制御を分けて行っている3ゾーンを材料投入側から順に示したものである。また、Hは押出機のシリンダーの後ろにあるヘッドを示す。また、Dはヘッドの先にあるダイを示す。
【0096】
【表1】
【0097】
このようにして製造した各絶縁ワイヤにおいて、厚さの比t/T、独立気泡4の最大気泡径、隔壁の厚さ、気泡層6それぞれの厚さ、無発泡層7それぞれの厚さ、エナメル樹脂絶縁積層体の合計厚さ及び空隙率、無発泡領域2の厚さ、結晶化度を、それぞれ上述の方法で測定した、その結果を表2に示す。
【0098】
(比誘電率)
各絶縁ワイヤに形成したエナメル樹脂絶縁積層体の200℃における比誘電率を、上述の「絶縁ワイヤの静電容量から比誘電率を算出する方法(式1)」で算出した結果を表2に示す。なお、比誘電率は電界解析(式3)を用いて算出した値とほぼ一致した。また、上述のA.S.Windelerの式2を用いた比誘電率の計算値も表2に併記する。
【0099】
【表2】
【0100】
(部分放電開始電圧(PDIV))
部分放電開始電圧の測定には、部分放電試験機(商品名:菊水電子工業社製 KPD2050)を用いた。実施例及び比較例で製造した各絶縁ワイヤ2本を撚り合わせたツイストペア片を用い、導体間に50Hz正弦波の交流電圧を加えながら、50V/秒の割合で一様な速さで連続的に昇圧していき、10pCの部分放電が発生した時点の電圧(実効値)を読み取った。測定温度は25±5℃とした。測定値が1.0kV(波高値は1414Vp)以上を特に優れると判断して「◎」、0.7kV(波高値は990kVp)以上を優れると判断して「○」、0.7kV未満を「×」で表した。評価が「○」以上であれば、部分放電が発生しにくく絶縁ワイヤの部分劣化を防止できる。結果を表3に示す。
【0101】
(絶縁破壊電圧)
絶縁破壊電圧は、実施例及び比較例で製造した各絶縁ワイヤ2本を撚り合わせたツイストペア片を用い、導体間に50Hz正弦波の交流電圧を加えながら、500V/秒の割合で一様な速さで連続的に昇圧していき、検出感度を5mAとして、これ以上の電流が流れたときの印加電圧を実効値で読み取り絶縁破壊電圧とした。測定温度は25±5℃とした。前記絶縁破壊電圧を絶縁ワイヤに形成したエナメル樹脂絶縁積層体の合計厚さで除して求めた絶縁破壊強さ(単位厚さあたりの耐電圧値)を評価に用い、80kV/mm以上を特に優れると判断して「◎」、50kV/mm以上を優れると判断して「○」、30kV/mm以上を「△」、30kV/mm未満を「×」で表した。評価が「△」以上であれば、絶縁破壊しにくく、高い絶縁破壊特性を発揮する。結果を表3に示す。
【0102】
(耐熱老化特性(200℃×500時間、及び230℃×500時間))
実施例及び比較例で製造した各絶縁ワイヤの熱老化特性を次のようにして評価した。各絶縁ワイヤ2本を撚り合わせたツイストペア片を、200℃又は230℃に設定した高温槽へ投入し、500時間静置した後、0.5〜1.4kV(実効値)の電圧を1秒間印加した。電圧の大きさは絶縁ワイヤに形成したエナメル樹脂絶縁積層体の合計厚さによって変え、おおよそ15kV/mmになるよう調整した。230℃にて絶縁破壊しなかった場合を特に優れると判断して「◎」、200℃において絶縁破壊しなかった場合を優れると判断して「○」、いずれでも絶縁破壊した場合を「×」で表した。評価が「○」以上であれば、耐熱老化特性に優れる。結果を表3に示す。
【0103】
(耐部分放電性)
実施例及び比較例で製造した各絶縁ワイヤの耐部分放電性を次のようにして評価した。各絶縁ワイヤ2本を撚り合わせたツイストペア片に、1.6kVp(波高値)、10kHzの交流正弦波電圧を印加した。試験温度は25℃±10℃とした。絶縁破壊に至るまでの時間が10時間を超えるものを特に優れると判断して「◎」、2時間を超え、10時間未満であるものを優れると判断して「○」、2時間未満を「△」と表した。評価が「○」以上であれば、耐部分放電性に優れる。結果を表3に示す。
【0104】
実施例13で製造したエナメル樹脂絶縁積層体3Aの評価については、絶縁ワイヤの場合にツイストペア片を用いたものを模擬して行った。エナメル樹脂絶縁積層体3Aから幅10mm×長さ100mmに切り取った平板サンプルについて皮膜が形成された側を外側になるように直径1mmの真鍮製の円柱に巻きつけ、長さ100mmの円柱状試験片を作製した。この円柱状試験片2つを平行に接するように並べて、前記特性評価と同様に、評価を行った。
【0105】
(総合評価)
総合評価は、上述の各試験の評価において、いずれも「◎」又は「○」である場合を特に優れるとして総合評価「◎」、「△」を含む場合を総合評価「○」、「×」を含む場合を総合評価「×」で表した。結果を表3に示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3に示されるように、エナメル樹脂絶縁積層体における無気泡層7の厚さが、隔壁の厚さよりも大きく、発泡領域1の厚さの5〜60%であると、空隙率の増大を伴わず比誘電率を低くすることができ、PDIV、絶縁破壊強さに優れていた。さらに、発泡領域1の気泡層6が熱硬化性樹脂(PAI)で形成されているために耐熱性にも優れていた。
さらに、表層8の厚さが10μm以上であると、絶縁破壊強さが特に優れ、これらが発泡領域と同様の熱硬化性樹脂あるいは耐熱性の高い熱可塑性樹脂であるために耐熱性も損なわれない。さらに、チタニアを含有した層を付与することで、耐部分放電性も飛躍的に向上した。
具体的には、実施例1〜5と比較例1〜3の比較により、本発明の実施例においては、空隙率の増大を伴わず比誘電率を低くすることに成功していることがわかる。A.S.Windelerの式2による比誘電率の計算値と比較した場合でも10〜15%小さく、その効果が顕著である。その結果、絶縁ワイヤのPDIV、絶縁破壊強さが優れていた。
また、実施例7〜11は、表層8の厚さが10μm以上であるため、絶縁破壊強さが特に優れていた。とりわけ、誘電率の低い熱可塑PI、PEEK、PPSで表層を形成することで、エナメル樹脂絶縁積層体の比誘電率の上昇が抑えられ、その結果、絶縁ワイヤのPDIVが特に優れるものになった。このうち、熱可塑PIおよびPEEKは、エナメル樹脂に匹敵する耐熱性を有するから、エナメル樹脂絶縁積層体の耐熱性も特に優れるものになった。なお、実施例2以外は独立気泡の最大気泡径が20μm以下であるため、絶縁破壊強さが実施例2よりも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のエナメル樹脂絶縁積層体は、誘電率が低く、耐熱性や絶縁性に優れるから、電線の被覆材や高周波プリント基盤等に好適である。特に、本発明のエナメル樹脂絶縁積層体を導体上に絶縁被覆した本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、部分放電開始電圧が高く、高温下の絶縁性能及び耐熱老化特性にも優れるから、例えば、自動車をはじめ、各種電気・電子機器等、具体的には、インバータ関連機器、高速スイッチング素子、インバータモーター、変圧器等の電気・電子機器コイルや宇宙用電気・電子機器、航空機用電気・電子機器、原子力用電気・電子機器、エネルギー用電気・電子機器、自動車用電気・電子機器等の耐電圧性や耐熱性を必要とする分野の絶縁ワイヤとして利用可能である。特にHVやEVの駆動モーター用の巻線として好適である。
本発明の耐インバータサージ絶縁ワイヤは、モーターやトランス等に用いられて高性能の電気・電子機器を提供できる。
【0109】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0110】
本願は、2013年2月7日に日本国で特許出願された特願2013−022742に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0111】
1 発泡領域
2 無気泡領域
3A〜3F 発泡体
4 独立気泡
5 隔壁
6 気泡層
7 無発泡層
8 表層
9 導体
図1
図2
図3
図4