特許第6030265号(P6030265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6030265
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】研削盤
(51)【国際特許分類】
   B24B 7/04 20060101AFI20161114BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B24B7/04 B
   H01L21/304 631
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-141175(P2016-141175)
(22)【出願日】2016年7月19日
(62)【分割の表示】特願2015-194473(P2015-194473)の分割
【原出願日】2015年9月30日
【審査請求日】2016年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-73434(P2015-73434)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100060575
【弁理士】
【氏名又は名称】林 孝吉
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】金澤 雅喜
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健二
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−210074(JP,A)
【文献】 特開2003−071710(JP,A)
【文献】 特開2004−322215(JP,A)
【文献】 特開2013−128070(JP,A)
【文献】 特開2012−223863(JP,A)
【文献】 特開2015−054373(JP,A)
【文献】 特開2001−191237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B5/00−7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェハを研削する砥石を下端に取り付けて回転可能なスピンドルと、前記スピンドルをコラムに対して鉛直下方向に送るスピンドル送り機構と、を備え、前記スピンドルを鉛直下方向に送りながら前記砥石でウェハを加工する研削盤であって、
前記スピンドル送り機構と前記コラムとの間に定圧シリンダが介装され、
前記スピンドル送り機構が前記定圧シリンダに吊設され、
前記スピンドル送り機構が前記砥石を前記ウェハに切り込ませて該砥石に作用する摩擦力が所定値より高い場合に、前記定圧シリンダは、前記スピンドル及び前記スピンドル送り機構を鉛直方向に上昇させることを特徴とする研削盤。
【請求項2】
前記砥石が前記ウェハを研削する加工点を挟み込むように前記スピンドルの外周に配置されて前記スピンドルをコラムに対して摺動可能に支持する少なくとも3つのリニアガイドをさらに備え、
前記スピンドルの重心は、平面視で前記リニアガイドにより形成される多角形内に配置されていることを特徴とする請求項1記載の研削盤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハの裏面を研削する研削盤に関し、特に、脆いウェハにダメージを与えることなく研削可能な研削盤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、シリコンウェハ等の半導体ウェハ(以下、「ウェハ」という)を薄膜に形成するために、ウェハの裏面を研削する裏面研削が行われている。
【0003】
ウェハの裏面研削を行う研削盤として、図6(a)に示すように、コラム41と、コラム41にボールネジ42を介して片持ち支持されたスピンドル43と、スピンドル43の下端に取り付けられた砥石44と、を備え、スピンドル43を回転させながら、ボールネジ42でスピンドル43を下降させ、砥石44でチャック45に載置されたウェハWを研削する研削盤40が知られている(例えば、特開2003−007661号公報)。
【0004】
このような研削盤40では、図6(b)に示すように、スピンドル43は、研削時の反力で姿勢が傾くことがあり、ウェハWを所望の断面形状に加工できなかったり、ウェハWの裏面にいわゆるアヤ目が形成されてウェハWにダメージを与えてしまう虞があった。
【0005】
このような研削時のスピンドルの傾きを抑制するものとして、特許文献1では、研削部材を保持する研削機構を水平方向に滑動させるガイドと、研削機構を半導体基板に定速で移動させて半導体基板を研削する定速移動機構と、定速移動機構による研削後に半導体基板と研削機構とが定圧で押圧されるように研削機構を半導体基板に移動させる定圧移動機構と、を備えた半導体基板研削機が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、研削ホイールがリニアガイドを介して鉛直方向に摺動可能に設けられ、研削ホイールが所望の研削量に応じて下降して、ウェハの裏面をインフィード研削する研削盤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−272323号公報
【特許文献2】特許第5582916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したような特許文献1記載の半導体基板研削機や特許文献2記載の研削盤では、ガイドが砥石をウェハに接近させる際にガイドに生じる摺動抵抗に起因して、砥石はいわゆる溜め送りで移動するため、ウェハを微小な研削量で切り込むことが難しかった。そして、砥石(砥粒)の切り込み深さがウェハの臨界切り込み深さ(Dc値)より大きい場合には、図7に示すように、ウェハの研削時にウェハに欠けやひび割れが生じる脆性モード研削となる虞があった。
【0009】
例えば、引用文献1に示す構成では、研削機構を水平方向に送るガイドは研削機構がウェハを研削する加工点の下方に設置されているため、加工時の加工抵抗によっては、研削機構とガイドとの間でモーメントが生じ、微小ではあるが研削機構とウェハとが平行ではなくなる虞があった。
【0010】
また、特許文献2に示す構成では、定速で砥石を送りながら加工する場合、砥粒先端の切れ味は逐次変化する一方で、その砥石を一定の切込みを絶えず与え続けてしまうと、一つ一つの砥粒がクラックを発生する限界以上の切り込みをウェハに与えてしまうことがある。その結果、実際の砥粒先端でウェハ表面に微小な欠けやひび割れ、クラック等が生じる虞があった。
【0011】
また、図6(a)、(b)に示したような従来の研削盤の場合、砥石を支持する点が加工する作用点と離れ、片持ち式である場合が多い。こうした場合、仮に砥石の先端の砥粒の切れ味に応じて一定圧力で押圧したとしても、片持ち式であるために、砥石の片方が持ち上がって、砥石の姿勢そのものがウェハに対して平行ではなくなる。その結果、局所的な部分に過剰な力がかかって、砥粒先端がウェハに大きく切り込む箇所が発生し、クラックが生じてしまう問題があった。したがって、ウェハに切り込みを与えるときは、砥石の姿勢を安定に保ちながら、砥粒の切れ味や集中度なども考慮して、一つの砥粒が所定の破壊限界以上の切込みを与えないように、砥石全体を注意して送らなければならない。
【0012】
そこで、脆性モード研削を抑制してウェハを安定して研削するという解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は、この課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、ウェハを研削する砥石を下端に取り付けて回転可能なスピンドルと、前記スピンドルをコラムに対して鉛直下方向に送るスピンドル送り機構と、を備え、前記スピンドルを鉛直下方向に送りながら前記砥石でウェハを加工する研削盤であって、前記スピンドル送り機構と前記コラムとの間に定圧シリンダが介装され、前記スピンドル送り機構が前記定圧シリンダに吊設され、前記スピンドル送り機構が前記砥石を前記ウェハに切り込ませて該砥石に作用する摩擦力が所定値より高い場合に、前記定圧シリンダは、前記スピンドル及び前記スピンドル送り機構を鉛直方向に上昇させる研削盤を提供する。
【0014】
この構成によれば、砥石が所望の研削量より深く切り込もうとして、砥石に作用する摩擦力が過大となる場合に、定圧シリンダが、スピンドルとスピンドル送り機構とを一時的に上昇させることにより、砥石とウェハとが過度に接触しない、いわゆるスピンドルがフローティングした状態でウェハが延性モード研削されるため、ウェハにダメージを与えることなく安定して研削することができる。
【0015】
また、鉛直方向に砥石が送られることにより、砥石とスピンドルとが重力方向に沿って下降してウェハに力がかかる。仮に砥石の先端の切れ味が変化したとしても、重力を含む一定の圧力でウェハを押圧しているため、その切れ味に応じた切込みをウェハに与えることになる。これにより、従来のような定速で砥石を送るものと比較して、砥石の切れ味に応じて所定の圧力で砥石を送りながら切込みをウェハに与えることができ、安定した切込みが与えられ、クラックの発生を抑制することができる。また、実際のウェハが加工によって除去される速度に応じて、自動的に砥石が送られていくため、加工中も安定して一定切込みの加工を継続することができる。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記砥石が前記ウェハを研削する加工点を挟み込むように前記スピンドルの外周に配置されて前記スピンドルをコラムに対して摺動可能に支持する少なくとも3つのリニアガイドをさらに備え、前記スピンドルの重心は、平面視で前記リニアガイドにより形成される多角形内に配置されている研削盤を提供する。
【0017】
この構成によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、少なくとも3つのリニアガイドが、加工点を挟み込むように配設されていることにより、砥石がウェハから加工に伴う反力を受けた場合であっても、その反力によって砥石が傾くことはなく、鉛直上方向に押し戻されるだけで、砥石の姿勢は常にウェハと平行であり、水平状態を保つことができる。これにより、砥石の一部で加工応力が過剰になることを抑制しながら、絶えず一定の切込みを与え続けることができる。
【0018】
また、スピンドルの重心はリニアガイドが形成する多角形内に配置されることにより、砥石に作用する摩擦力が過大となり、定圧シリンダがスピンドルとスピンドル送り機構を上昇させる場合に、スピンドルの周囲に配置されたリニアガイドがスピンドルの姿勢を規制して、スピンドルが研削盤に対してヨーイング、チッピング又はローリングすることを規制するため、スピンドルがフローティングした状態での延性モード研削を安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、砥石が所望の研削量より深く切り込もうとして、砥石に作用する摩擦力が過大となる場合には、定圧シリンダが、スピンドル及びスピンドル送り機構を一時的に上昇させることにより、スピンドルがフローティングした状態でウェハが延性モード研削されるため、ウェハにダメージを与えることなく安定して研削することができる。さらに、重力による自然な重さによって一定の圧力を与えているため、砥粒先端の切れ味に対応して常に一定圧力がウェハ表面に与えられ、一定の切り込み深さを保ちながら、ウェハにとってクラック発生するような致命的にならない切込み量を維持しながら、延性モードで研削することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施例に係る研削盤を示す斜視図。
図2図1に示すメインユニットの平面図。
図3図1に示すメインユニットの側面図。
図4】メインユニットの上部を示す斜視図。
図5】延性モード研削の様子を示す模式図。
図6】従来の研削盤を示す模式図であり、(a)は、研削前の様子を示す図であり、(b)は、研削中の様子を示す図である。
図7】脆性モード研削の様子を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る研削盤は、脆性モード研削を抑制してウェハを安定して研削するという目的を達成するために、ウェハを研削する砥石を下端に取り付けて回転可能なスピンドルと、前記スピンドルをコラムに対して鉛直下方向に送るスピンドル送り機構と、を備え、前記スピンドルを鉛直下方向に送りながら前記砥石でウェハを加工する研削盤であって、スピンドル送り機構とコラムとの間に定圧シリンダが介装され、スピンドル送り機構が定圧シリンダに吊設され、スピンドル送り機構が砥石をウェハに切り込ませて砥石に作用する摩擦力が所定値より高い場合に、定圧シリンダは、スピンドル及びスピンドル送り機構を鉛直方向に上昇させることにより実現する。
【0022】
本発明に係る研削盤は、砥石がウェハの臨界切り込み深さ以上の切り込み量で研削することなく、スピンドルがウェハに過度に接触しないフローティング状態でウェハを延性モード研削するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても構わない。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の一実施例に係る研削盤1について説明する。なお、以下の実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0024】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0025】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0026】
なお、本実施例において、「上」、「下」の語は、鉛直方向における上方、下方に対応するものとする。
【0027】
図1は、定圧シリンダを省略した研削盤1の基本的構成を示す斜視図である。図2は、図1に示すメインユニット2の平面図である。図3は、メインユニット2の側面図である。図4は、メインユニット2の上部を示す斜視図である。
【0028】
研削盤1は、ウェハWを裏面研削して薄膜に形成する。研削盤1を用いて研削加工が施されるウェハWは、シリコンウェハ、シリコンカーバイドウェハ等の高硬度・高脆性を示すものが好適であるが、これらに限定されるものではない。研削盤1は、砥石21を備えるメインユニット2と、メインユニット2の下方に配置された搬送ユニット3と、を備えている。
【0029】
メインユニット2は、アーチ状のコラム22と、砥石21が取り付けられたスピンドル23と、スピンドル23を鉛直方向Vに摺動可能に支持する3つのリニアガイド24と、スピンドル23を鉛直方向Vに昇降させるスピンドル送り機構25と、を備えている。
【0030】
搬送ユニット3は、ウェハWを吸着保持可能なチャック31と、チャック31を載置するスライダ32と、を備えている。チャック31は、図示しない真空源に接続されており、ウェハWをチャック31の表面に真空吸着可能である。また、チャック31は、図示しないモータによってチャック31の中心を通る鉛直軸回りに回動可能である。スライダ32は、図示しないスライダ駆動機構によってレール33上を摺動可能であり、これにより、チャック31とスライド32とは、ウェハ搬送方向D1に一体になってスライドするようになっている。このようにして、チャック31上に真空吸着されたウェハWは、研削加工前に、スライダ32によって砥石21の下方まで搬入され、研削加工後に、砥石21の下方からメインユニット2の後方まで搬出される。
【0031】
研削盤1の動作は、図示しない制御ユニットによって制御される。制御ユニットは、研削盤1を構成する構成要素をそれぞれ制御するものである。制御ユニットは、例えば、CPU、メモリ等により構成される。なお、制御ユニットの機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作することにより実現されても良い。
【0032】
次に、メインユニット2の具体的構成について説明する。スピンドル23は、コラム22の前面22aに鉛直方向Vに亘って凹設された溝22b内に収容されている。スピンドル23は、砥石21を下端に取り付けたサドル23aと、サドル23a内に設けられて砥石21を回転させるモータ23bと、を備えている。
【0033】
リニアガイド24は、コラム22の前方に配置された2つの前方リニアガイド24aと、溝22bに配置された1つの後方リニアガイド24bと、で構成される。前方リニアガイド24aと後方リニアガイド24bとは、鉛直方向Vに沿って互いに平行に設けられている。前方リニアガイド24aには、サドル23aが直接取り付けられている。また、後方リニアガイド24bには、後述するナット25aを介して、サドル23aが取り付けられている。これにより、前方リニアガイド24aと後方リニアガイド24bとは、サドル23aの案内レールとして機能する。
【0034】
前方リニアガイド24aは、溝22bの縁部に配置されている。後方リニアガイド24bは、溝22bの底部に配置されている。前方リニアガイド24aと後方リニアガイド24bとは、図3に示すように、平面視でスピンドル23の重心Gが前方リニアガイド24a及び後方リニアガイド24bで形成される三角形T内に配置されるように、互いに離間して配置されている。
【0035】
スピンドル送り機構25は、サドル23aと後方リニアガイド24bとを連結するナット25aと、ナット25aを昇降させるボールネジ25bと、ボールネジ25bを回転させるモータ25cと、を備えている。モータ25cが駆動してボールネジ25bが正回転し、ナット25aが鉛直方向Vと平行なボールネジ25bの送り込み方向D2に下降することにより、サドル23aが下降する。送り込み方向D2は、砥石21がウェハWを加工する加工点Pを通って鉛直方向Vに平行な直線上にある。換言すると、ボールネジ25bの回転軸Oと砥石21の加工点Pとは、鉛直方向Vにおいて同一直線上に配置されている。
【0036】
メインユニット2には、ウェハWの厚みを計測する図示しないインプロセスゲージが設けられている。インプロセスゲージが計測したウェハWの厚みが所望の値に達すると、モータ25cが駆動してボールネジ25bが逆回転し、ナット25aに連結されたサドル23aが上昇することで、ウェハWと砥石21とが離間する。
【0037】
メインユニット2には、定圧シリンダ26が設けられている。定圧シリンダ26は、スピンドル送り機構25のナット25aを挟んで水平方向Hの両側に1つずつ設けられており、コラム22とナット25aとの間に介装されている。定圧シリンダ26は、図示しないシリンダ、ピストン、ピストンロッド、コンプレッサ等から成る公知の構成を採用したエアシリンダである。定圧シリンダ26の駆動圧は、砥石21がウェハWの臨界切り込み深さ(Dc値)だけ切り込んだ際に砥石21に作用する摩擦力に対応した値以下に設定される。Dc値は、ウェハWの材料毎に異なり、例えば、シリコンウェハで0.09μm、シリコンカーバイドウェハで0.15μmである。
【0038】
定圧シリンダ26は、スピンドル23及びスピンドル送り機構25を溝22b内で吊設している。具体的には、定圧シリンダ26のピストンロッドの下端がナット25aに連結されており、研削加工時に砥石21に作用する摩擦力がピストンロッドに伝わると、定圧シリンダ26のシリンダ内に充填された圧縮空気を押し戻すようにピストンを上昇させる。したがって、砥石21が所望の研削量(例えば、Dc値)より深く切り込もうとして、砥石21に作用する摩擦力が過大となる場合には、スピンドル23及びスピンドル送り機構25が一時的に上昇する。これにより、砥石21がDc値以上に切り込むことが抑制される。また、定圧シリンダ26がスピンドル送り機構25を挟んで水平方向Hの両側に設けられることにより、スピンドル送り機構25が上昇する際にスピンドル送り機構25が水平方向Hに傾くことが規制される。したがって、図5に示すように、砥石21の砥粒が研削加工中にウェハWに過剰に接触しない、いわゆるフローティングした状態でウェハWを延性モード研削することができる。
【0039】
研削盤1を用いてSiC基板を延性モード研削する際の具体的な加工条件の一例としては、#8000の砥石21を用意し、スピンドル23の回転速度を2000rpm、チャック31の回転速度を300rpm、研削時の荷重を20kg、スピンドル送り機構25の送り速度を0.4μm/sに設定することが考えられる。これにより、SiC基板を延性モード研削することができる。
【0040】
このようにして、上述した研削盤1は、砥石21が所望の研削量より深く切り込もうとして、砥石21に作用する摩擦力が過大となる場合には、定圧シリンダ26が、スピンドル送り機構25を一時的に上昇させて加工点Pでの圧力集中を抑制することにより、スピンドル23がフローティングした状態でウェハWを延性モード研削するため、ウェハWにダメージを与えることなく安定して研削することができる。
【0041】
また、定圧シリンダ26がスピンドル送り機構25を挟んで設けられることにより、スピンドル送り機構25が水平方向Hへの移動を規制されるため、スピンドル23がフローティングした状態での延性モード研削をさらに安定して行うことができる。
【0042】
また、送り込み方向D2が鉛直方向Vに沿って平行で砥石21の加工点Pを通る直線上に配置されていることにより、スピンドル23をフローティングさせた状態でウェハWの研削を行う際に、砥石23がウェハWに接触する際の反力を抑えるようにスピンドル送り機構25がスピンドル23を送り出すため、スピンドル23がフローティングした状態での延性モード研削をさらに安定して行うことができる。また、スピンドル23が鉛直方向Vに沿って自重のみでウェハWを押圧しながら研削するため、従来のような水平方向に砥石を送って研削する研削盤と比較して、摺動抵抗が少なく微小な切り込み深さで研削することができる。
【0043】
さらに、スピンドル23の重心Gが、平面視でリニアガイド24が形成する三角形T内に配置されることにより、スピンドル23の周囲に配置されたリニアガイド24がスピンドル23の姿勢を規制するため、フローティングした状態での延性モード研削を安定して行うことができる。
【0044】
なお、スピンドル及びスピンドル送り機構を一時的に上昇させる機構は、上述したものに限定されるものではなく、砥石に作用する過剰な摩擦力を逃がすようにスピンドルを上昇可能なものであれば如何なる構成であっても構わない。
【0045】
リニアガイドの具体的構成は、スピンドルの昇降を鉛直方向に規制可能なものであればよく、上述したような、平面視でスピンドルの重心がリニアガイドにより形成される多角形内に配置されるようにスピンドルを支持するものに限定されず、例えば、2つのリニアガイドでスピンドルを支持し、かつ、平面視でスピンドルの重心が2つのリニアガイドにより形成される直線上に配置されるものであっても構わない。
【0046】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0047】
1 ・・・ 研削盤
2 ・・・ メインユニット
21・・・ 砥石
22・・・ コラム
22a・・・(コラムの)前面
22b・・・溝
23・・・ スピンドル
23a・・・サドル
23b・・・(スピンドルの)モータ
24・・・ リニアガイド
24a・・・前方リニアガイド
24b・・・後方リニアガイド
25・・・ スピンドル送り機構
25a・・・ ナット
25b・・・ ボールネジ
25c・・・ (スピンドル送り機構の)モータ
26・・・ 定圧シリンダ
3 ・・・ 搬送ユニット
31・・・ チャック
32・・・ スライダ
33・・・ レール
W ・・・ ウェハ
D1・・・ ウェハ搬送方向
D2・・・ 送り込み方向
V ・・・ 鉛直方向
H ・・・ 水平方向
O ・・・ ボールネジの回転軸
P ・・・ 砥石の加工点
G ・・・ スピンドルの重心
T ・・・ リニアガイドが形成する三角形
【要約】
【課題】脆性モード研削を抑制してウェハを安定して研削する研削盤を提供する。
【解決手段】研削盤1は、砥石21を下端に取り付けて回転可能なスピンドル23と、スピンドル23をコラム22に対して摺動可能に支持するリニアガイド24と、スピンドル23を鉛直方向Vに送るスピンドル送り機構25と、スピンドル送り機構25とコラム22との間に介装されてスピンドル送り機構25を吊設する定圧シリンダ26と、を備えている。スピンドル送り機構25が砥石21をウェハWに切り込ませて砥石21に作用する摩擦力が所定値より高い場合に、定圧シリンダ26がスピンドル23及びスピンドル送り機構25を鉛直方向Vに上昇させる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7