特許第6031376号(P6031376)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6031376セレン含有排水の処理システムおよびセレン含有排水の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6031376
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】セレン含有排水の処理システムおよびセレン含有排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20161114BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20161114BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C02F1/58 H
   C02F1/58 Q
   C02F1/70 Z
   C02F1/72 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-28903(P2013-28903)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-155912(P2014-155912A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(72)【発明者】
【氏名】市原 和仁
(72)【発明者】
【氏名】小木 聡
(72)【発明者】
【氏名】武井 昇
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−072940(JP,A)
【文献】 特開平10−151470(JP,A)
【文献】 特開2002−126758(JP,A)
【文献】 特開平08−224585(JP,A)
【文献】 特開平09−155368(JP,A)
【文献】 特開平09−187778(JP,A)
【文献】 特開平06−079286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58 − 1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン含有排水からのセレンの除去を阻害するCOD成分を除去するCOD成分除去手段と、前記COD成分の除去後に前記セレン含有排水に含まれる前記セレンのうちの被還元性セレンを鉄により還元し、この還元に際し酸化された前記鉄のスラッジとともに前記セレン含有排水に含まれる前記セレンを沈殿させて除去するセレン除去手段とを備え、
前記COD成分除去手段では、前記セレン含有排水を酸性で加熱して前記COD成分を酸化する加熱酸化工程が行われ、
前記セレン除去手段で生じた前記スラッジの一部を、前記COD成分除去手段において、前記セレン含有排水に投入することにより前記鉄を前記セレン除去手段と前記COD成分除去手段との間で循環させることを特徴とするセレン含有排水の処理システム。
【請求項2】
前記COD成分除去手段では、前記加熱酸化工程後に、前記セレン含有排水に過酸化水素と硫酸鉄を加えて前記COD成分を酸化するCOD成分除去工程行われ、前記スラッジは、前記加熱酸化工程で前記セレン含有排水に投入されることを特徴とする請求項1に記載のセレン含有排水の処理システム。
【請求項3】
前記セレン含有排水から前記COD成分を除去する前に、前記セレン含有排水に含まれて、前記セレンの除去を阻害する硫酸イオンを除去する硫酸除去手段を備え、
前記硫酸除去手段では、前記セレン含有排水にカルシウムイオンを投入し、前記硫酸イオンを硫酸カルシウムである石膏として沈殿させて除去し、
前記COD成分除去手段は、前記COD成分であるジチオン酸イオンを酸化することにより硫酸イオンとし、この硫酸イオンを前記硫酸除去手段で投入されて前記セレン含有排水に含まれる前記カルシウムイオンにより前記石膏として沈殿させて除去することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセレン含有排水の処理システム。
【請求項4】
セレン含有排水からのセレンの除去を阻害するCOD成分を除去するCOD成分除去工程と、前記COD成分の除去後に前記セレン含有排水に含まれる前記セレンのうちの被還元性セレンを鉄により還元し、この還元に際し酸化された前記鉄のスラッジとともに前記セレン含有排水に含まれる前記セレンを沈殿させて除去するセレン除去工程とを備え、
前記COD成分除去工程では、前記セレン含有排水を酸性で加熱して前記COD成分を酸化する加熱酸化工程が行われ、
前記セレン除去工程で生じた前記スラッジの一部を、前記COD成分除去工程において、前記セレン含有排水に投入することにより前記鉄を前記セレン除去工程と前記COD成分除去工程との間で循環させることを特徴とするセレン含有排水の処理方法。
【請求項5】
前記COD成分除去工程では、前記加熱酸化工程後に、前記セレン含有排水に過酸化水素と硫酸鉄を加えて前記COD成分を酸化するCOD成分除去本工程とが行われ、前記スラッジは、前記加熱酸化工程で前記セレン含有排水に投入されることを特徴とする請求項4に記載のセレン含有排水の処理方法。
【請求項6】
前記セレン含有排水から前記COD成分を除去する前に、前記セレン含有排水に含まれて、前記セレンの除去を阻害する硫酸イオンを除去する硫酸除去工程が行われ、
前記硫酸除去工程では、前記セレン含有排水にカルシウムイオンを投入し、前記硫酸イオンを硫酸カルシウムである石膏として沈殿させて除去し、
前記COD成分除去工程は、前記COD成分であるジチオン酸イオンを酸化することにより硫酸イオンとし、この硫酸イオンを前記硫酸除去工程で投入されて前記セレン含有排水に含まれる前記カルシウムイオンにより前記石膏として沈殿させて除去することを特徴とする請求項4または請求項5に記載のセレン含有排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレンが含まれる排水、特に、セレン濃度が高い排水からセレンを除去するセレン含有排水の処理システムおよびセレン含有排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、人体にとって必須元素であり、微量であれば問題ないが、必要レベルに比較してある程度多くなると毒性を示す。したがって、セレンは、水質汚濁、土壌汚染等に係る環境基準指定項目となっている。
例えば、エコセメント生成工程において処理される石炭灰は一般に塩素を含んでいるため、エコセメント原料として混合する前に水洗する必要がある。その際排出される洗浄排水には、塩素の他にセレンが含まれる場合がある。
【0003】
また、石炭ガス化複合発電(IGCC)の石炭ガス化工程等から発生する排ガスを洗浄したときに排出される洗浄排水にも、セレンが含まれることがある。また、排煙脱硫で生じる排水にもセレンが含まれる場合がある。これら排水は、例えば、所定の排水基準を満たすまで浄化された後に、河川等に放流される。
【0004】
所定の排水基準を超えるセレンを含む排水においては、排水処理に際し、セレンを除去する必要がある。例えば、セレン濃度が0.1mg/L以下となるまでセレンが除去される。セレンを含む排水中において、セレンは、例えば、主に4価の亜セレン酸イオン(SeO2−)または、6価のセレン酸イオン(Se02−)として存在している。
【0005】
セレン含有排水からセレンを除去する方法としては、例えば、セレンを含む排水に鉄を接触させることによって、排水中のセレンを除去する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
例えば、接触還元材としての繊維状の鉄を用い、排水を繊維状の鉄に接触させるとともに、空気を噴出させ、鉄の酸化により6価セレンを4価セレンに還元させるとともに、4価のセレンを鉄スラッジ(主に水酸化鉄)とともに沈殿させることが提案されている。4価セレンは、6価セレンに比較して、沈殿し易く、元々4価のセレンと、6価から4価に還元されたセレンが鉄スラッジに付着した状態で沈殿する。
【0007】
上述の排水中には、セレン除去を阻害する阻害物質としてChemical Oxygen Demand成分(以下、単に「COD成分」という。)が含まれている。なお、ここでのCOD成分とは、有機物を指しているのではなく、酸化可能な成分であり、例えば、水中の亜硫酸イオン(SO2−)、チオ硫酸イオン(S2−)、ジチオン酸イオン(S2−)等である。排水中のこれら阻害物質濃度が高いと、セレン除去率が低下する。
したがって、上述の特許文献2では、セレン除去工程の前に、セレンの除去を阻害する阻害物質の除去が行われる。
【0008】
なお、特許文献3には、排水中に硫黄酸化物等が含まれていると、接触還元材としての鉄の消費量が多くなるとともに、鉄スラッジの量が多くなってしまうことが記載されており、セレン除去処理において、鉄の供給と、鉄スラッジの処理が問題になることが記載されている。この場合にも、セレン除去工程の前に硫黄酸化物等を除去することにより、鉄の消費量および鉄スラッジの発生量の低減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−47790号公報
【特許文献2】特開2011−72940号公報
【特許文献3】特許第4812987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、排水中に含まれるセレン濃度が高くなれば、硫黄酸化物を前処理で除去しても、鉄の消費量と鉄スラッジの排出量が増加することになる。例えば、非鉄金属排水にセレン濃度が高いものが知られている。この場合には、鉄の消費量の増加によるコストの増大と、大量に発生する鉄スラッジの処理にコストがかかることになる。
また、セレンを高濃度に含む非鉄金属排水には、硫酸イオン(SO2−)や上述のCOD成分としてのジチオン酸イオンの濃度が高い排水がある。硫酸イオンやジチオン酸は、セレンの除去を阻害する阻害物質であり、セレン除去の前に、硫酸イオンや、ジチオン酸イオン等のCOD成分の除去が必要である。
例えば、特許文献2では、阻害物質の除去、すなわち、硫酸イオンとCOD成分の除去として、凝集沈殿処理を行い、その後に酸化剤(例えば、オゾン、過酸化水素、過マンガン酸カリウム)により残ったCOD成分として例えば亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、ジチオン酸イオン等を酸化処理することが記載されている。
ここで、例えば、排水中のジチオン酸イオンの含有率が高い場合に、酸化処理によるジチオン酸イオンの除去が不十分になる虞がある。すなわち、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、ジチオン酸イオン等の阻害物質は、難分解性であり、除去するためには、上述のように強い酸化剤の存在下で酸化する必要があるが、それでも十分に除去(酸化)できない虞がある。
この場合に、酸化分解処理に際し、触媒等を用いることが考えられるが、コストの増加を招くことになる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものであり、セレン濃度が高いとともにセレンの除去に際し、事前に除去すべきセレン除去の阻害物質濃度が高い場合に、セレン除去に用いられる鉄分の有効利用を図ることによりコストを低減することが可能なセレン含有排水の処理システムおよびセレン含有排水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明のセレン含有排水の処理システムは、セレン含有排水からのセレンの除去を阻害するCOD成分を除去するCOD成分除去手段と、前記COD成分の除去後に前記セレン含有排水に含まれる前記セレンのうちの被還元性セレンを鉄により還元し、この還元に際し酸化された前記鉄のスラッジとともに前記セレン含有排水に含まれる前記セレンを沈殿させて除去するセレン除去手段とを備え、
前記COD成分除去手段では、前記セレン含有排水を酸性で加熱して前記COD成分を酸化する加熱酸化工程が行われ、
前記セレン除去手段で生じた前記スラッジの一部を、前記COD成分除去手段において、前記セレン含有排水に投入することにより前記鉄を前記セレン除去手段と前記COD成分除去手段との間で循環させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のセレン含有排水の処理方法は、セレン含有排水からのセレンの除去を阻害するCOD成分を除去するCOD成分除去工程と、前記COD成分の除去後に前記セレン含有排水に含まれる前記セレンのうちの被還元性セレンを鉄により還元し、この還元に際し酸化された前記鉄のスラッジとともに前記セレン含有排水に含まれる前記セレンを沈殿させて除去するセレン除去工程とを備え、
前記COD成分除去工程では、前記セレン含有排水を酸性で加熱して前記COD成分を酸化する加熱酸化工程が行われ、
前記セレン除去工程で生じた前記スラッジの一部を、前記COD成分除去工程において、前記セレン含有排水に投入することにより前記鉄を前記セレン除去工程と前記COD成分除去工程との間で循環させることを特徴とする。
【0014】
これらのような構成によれば、被還元性のセレンの還元に用いられるとともに、還元されたセレンおよび元々還元された状態のセレンの沈殿に用いられる鉄を循環させることによって、鉄がセレンの沈殿に再利用されることになり、鉄の消費量を削減することができ、排水からのセレンの除去において、セレン含有排水に投入すべき鉄にかかるコストの低減を図ることができる。
また、発生するスラッジの量が減少することから、沈殿してスラッジとなった鉄の処分にかかる熱エネルギーの低減を図り、コストを低減することができる。
【0015】
なお、排水に溶解しているセレンは、上述のように主に6価と4価のセレンであり、6価のセレンは、被還元性セレンとして鉄を用いて4価に還元することができる。この還元に際し、鉄が酸化されて2価および3価の鉄イオンになるが、略中性からアルカリ性において鉄が水酸化鉄として沈殿する際に4価のセレンが鉄とともにスラッジとして共沈する。なお、4価のセレンは沈殿し易いが6価のセレンは沈殿し難い。
【0016】
また、鉄スラッジを処分する際に、減容化するのに、例えば、キルン等で燃焼する場合がある。この場合に使用される熱エネルギーにコストがかかることになるが、発生する鉄スラッジを減らすことにより、鉄スラッジの処分にかかる熱エネルギーを抑えてコストの低減を図ることができる。
【0017】
本発明の前記セレン含有排水の処理システム(処理方法)において、前記COD成分除去手段(工程)では、前記加熱酸化工程後に、前記セレン含有排水に過酸化水素と硫酸鉄を加えて前記COD成分を酸化するCOD成分除去(本)工程行われ、前記スラッジは、前記加熱酸化工程で前記セレン含有排水に投入されることが好ましい。
【0018】
これらのような構成によれば、COD成分の除去工程が、加熱酸化工程と、COD成分除去(本)工程とに分けられるので、前処理の非加熱酸化工程で、COD成分の一部を酸化し、COD成分除去(本)工程に送られるCOD成分濃度を低減し、COD成分除去(本)工程における負荷を低減し、処理の効率化を図ることができる。
【0019】
この際に、上述のようにCOD成分除去手段(COD成分除去工程)でセレン含有排水に投入されるスラッジが、酸性で加熱されているセレン含有排水に投入されることになる。これにより、例えば、スラッジにおいて水酸化物となっている鉄が酸性下で加熱された排水に溶解することになり、再利用可能な状態となる。
たとえば、上述のように加熱酸化工程で溶解した鉄イオンにより、COD成分除去(本)工程で投入される硫酸鉄の量を低減することが可能になる。なお、硫酸鉄は、過酸化水素からヒドロキシラジカルを発生させる触媒として機能する。
【0020】
本発明の前記セレン含有排水の処理システム(処理方法)において、前記セレン含有排水から前記COD成分を除去する前に、前記セレン含有排水に含まれて、前記セレンの除去を阻害する硫酸イオンを除去する硫酸除去手段を備え(硫酸除去工程が行われ)、
前記硫酸除去手段(硫酸除去工 程)では、前記セレン含有排水にカルシウムイオンを投入し、前記硫酸イオンを硫酸カルシウムである石膏として沈殿させて除去し、
前記COD成分除去手段は、前記COD成分であるジチオン酸イオンを酸化することにより硫酸イオンとし、この硫酸イオンを前記硫酸除去手段で投入されて前記セレン含有排水に含まれる前記カルシウムイオンにより前記石膏として沈殿させて除去することが好ましい。
【0021】
これらのような構成によれば、セレンの除去の阻害物質となる硫酸イオンを除去できるとともに、同じく阻害物質となるCOD成分としてのジチオン酸イオンを硫酸イオンに酸化した際に、硫酸イオン除去で使用されたカルシウムイオンを用いて除去することができる。これにより、セレンの除去を阻害する硫酸イオンおよびジチオン酸イオンを除去して、セレンの除去を効率化することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、セレン含有排水からのセレンの除去に際し、還元性に乏しいセレンを還元するとともに、セレンを沈殿させるために使用される鉄の消費量を低減してコストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態におけるセレン含有排水の処理システムを用いたセレン含有排水の処理方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
この実施の形態のセレン含有排水の処理システムは、排水から主に硫酸イオンを除去する硫酸除去手段1と、排水から主にジチオン酸イオン(S2-)を除去するCOD成分除去手段2と、排水からセレンを除去するセレン除去手段3とを備える。
【0025】
この実施の形態で処理されるセレン含有排水(例えば、上述の非鉄金属排水)は、比較的高濃度の4価セレン、6価セレンを含むものである。これらセレンは、上述のように例えば亜セレン酸イオン(SeO2−)または、セレン酸イオン(Se02−)として排水中に溶解している。
【0026】
このセレン含有排水には、例えば、4価セレンと6価セレンとを合わせて20mg/L以上含まれ、例えば、40〜70mg/L程度含まれている可能性がある。
また、このセレン含有排水には、硫酸イオンも多く含まれ、例えば、10000〜70000mg/L程度含まれている。また、セレン含有排水には、ジチオン酸イオンが80〜250mg/L程度含まれている。
【0027】
上述のように、このセレン含有排水では、硫酸イオン濃度が高く、この硫酸イオンは、セレンの除去を阻害する阻害物質となるので、硫酸イオンを除去する必要がある。
硫酸除去手段1には、硫酸イオンに塩化カルシウムを投入して石膏として除去するための除去槽1aと石膏を固液分離するための沈殿槽1b(固液分離装置)とを備える。
硫酸除去手段1における硫酸除去工程では、例えば、除去槽1aにおいて、セレン含有排水に、塩化カルシウム(CaCl)と水酸化ナトリウム(NaOH)が投入され、難溶性の石膏(CaSO・2HO)が生成し、残存した水酸化ナトリウムは塩酸で中和され、石膏は析出して沈殿することになる。
【0028】
除去槽1aで石膏が析出するセレン含有排水は、例えば、沈殿槽1b等の固液分離手段に送られ、硫酸イオンが石膏として除去される。なお、添加されるアルカリは、水酸化ナトリウムに限定されるものではなく、水酸化カルシウム(消石灰)や、その他のアルカリ性の水酸化物であってもよい。
【0029】
また、セレン含有排水への塩化カルシウムの投入量は、例えば、2000〜70000mg/Lであり、より好ましくは、5000〜15000g/Lである。また、セレン含有排水への水酸化ナトリウム(水酸化カルシウム)の投入量は、例えば、150〜4000mg/L(250〜8000mg/L)であり、より好ましくは、3000〜4000g/L(5500〜7500g/L)である。
【0030】
また、硫酸除去工程におけるセレン含有排水の温度は、常温であれば良く(例えば20〜40℃)、セレン含有排水のpHは、10〜12であることが好ましい。また、処理後の硫酸イオン濃度は、例えば、10000mg/L以下となっていることが好ましい。
【0031】
硫酸除去工程では、上述のように塩化カルシウムおよび水酸化ナトリウムのセレン含有排水への投入と、これにより生じる石膏の固液分離が行われることになる。なお、塩化カルシウムの投入量は、飽和量を超えるものであり、石膏を固液分離した後の液体側は、塩化カルシウムが飽和濃度となっている。
【0032】
COD成分除去手段2におけるCOD成分(ジチオン酸)除去工程は、前処理としての加熱酸分解工程(加熱酸化工程)と、本処理としてのジチオン酸除去本工程とからなっている。また、COD成分除去手段2は、例えば、加熱酸分解工程を行うための加熱槽2aと、ジチオン酸除去本工程を行うための酸化槽2bと、固液分離のための沈殿槽2cを備える。
【0033】
加熱酸分解工程では、加熱槽2aに上述のように石膏が固液分離されたセレン含有排水が流入され、このセレン含有排水に塩酸(HCl)と、セレン除去手段3において後述のように固液分離されたスラッジ(主に水酸化鉄スラッジ)の一部が投入されるとともに加熱される。これにより、ジチオン酸を含むCOD成分の加熱酸分解が行われる。この際には、主に4価の硫黄を6価に酸化し、例えば、ジチオン酸イオンの一部を硫酸イオンとする。また、水酸化鉄(Fe(OH)、Fe(OH))を含む鉄スラッジがHClの投入により溶解する。
【0034】
COD成分除去手段2における加熱酸分解工程は、ジチオン酸イオンの一部を酸化して硫酸イオンとし、本処理であるジチオン酸除去本工程側に流入するジチオン酸イオンの濃度を低下させて、本処理であるジチオン酸除去本工程での負荷を低減するとともに、鉄スラッジを溶解させるためのものである。
また、セレン含有排水中に硫酸イオンと、鉄イオンが生じることから、セレン含有排水中に硫酸鉄(FeSO)を加えた状態になる。
【0035】
加熱酸分解工程における塩酸の投入量は、例えば、25〜400mg/Lであり、より好ましくは、50〜200mg/Lである。また、加熱酸分解工程におけるスラッジの投入量は、例えば、125〜2000g/Lであり、より好ましくは、500〜1000g/Lである。
また、加熱酸分解工程におけるセレン含有排水の温度は、50〜80℃であることが好ましく、セレン含有排水のpHは、1〜3であることが好ましい。また、処理後のジチオン酸イオン濃度は、例えば、50mg/L以下となっていることが好ましい。
【0036】
ジチオン酸除去本工程においては、ジチオン酸イオンの多くを酸化して硫酸イオンとするために酸化剤として過酸化水素水を投入する。また、過酸化水素水からヒドロキシラジカルを生じるための触媒として、硫酸鉄(FeSO)を投入することにより、ヒドロキシラジカルが生じ、過酸化水素だけを投入した場合に比較してジチオン酸イオンの硫酸イオンへの酸化が促進される。したがって、高濃度のジチオン酸イオンが存在しても、ジチオン酸イオンの酸化が不十分になるのを防止し、ジチオン酸イオン濃度の低下を図ることができる。
【0037】
また、上述のように、加熱酸分解工程において、鉄スラッジを投入することにより、鉄が投入された状態となっており、硫酸鉄の投入量を削減することが可能になる。
このCOD成分除去手段における加熱酸分解工程と、ジチオン酸除去本工程とにより、セレン含有排水中の硫酸イオン濃度が高まることになるが、硫酸除去工程で投入された塩化カルシウムがセレン含有排水中に飽和濃度で含まれており、生成した硫酸イオンは、カルシウムイオンと反応して石膏となる。この石膏は、沈殿槽2c(固液分離装置)で沈殿して固液分離される。また、沈殿槽2cでは、投入された鉄スラッジのうちの溶解しなかった鉄スラッジが固液分離される。
【0038】
また、この際に6価のセレンに比較して沈殿し易い4価のセレンの大部分が、鉄スラッジに付着して鉄スラッジとともに沈殿する。なお、この段階で6価のセレンは、還元されておらず、セレン除去工程側に流出することになる。なお、固液分離は、次のセレン除去工程でも行われるが、セレン除去工程において、SS(Suspended Solid)の存在が阻害要因となるので、セレン除去工程の前に固液分離することが好ましい。
【0039】
また、COD成分除去手段2の加熱酸分解工程で投入された鉄スラッジには、後述のセレン除去工程で鉄スラッジとともに沈殿した4価のセレンが含まれる。また、セレン含有排水には、上述のように元々4価のセレンが含まれる。これら4価のセレンは、COD成分除去手段2の加熱酸分解処理およびジチオン酸除去本工程において、ほとんど酸化されず、その多くが鉄スラッジとともに沈殿して分離される。また、沈殿分離されなかった4価のセレンは、次のセレン除去工程において、鉄スラッジとともに沈殿する。なお、ここで、4価のセレンが6価に酸化されてしまうと、後述のセレン除去工程において、鉄を用いて還元すべき6価のセレンが増加し、鉄の消費量が増加してしまい、鉄スラッジの増加を招くため、4価のセレンが6価に酸化されるのは好ましくない。
【0040】
ジチオン酸除去本工程における過酸化水素の投入量は、例えば、50〜1000mg/Lであり、より好ましくは、200〜400mg/Lである。また、ジチオン酸除去本工程における硫酸鉄の投入量は、例えば、100〜1200mg/Lであり、より好ましくは、500〜900mg/Lである。
また、ジチオン酸除去本工程におけるセレン含有排水の温度は、50〜80℃であることが好ましいく、セレン含有排水のpHは、2〜4であることが好ましい。また、処理後のジチオン酸イオン濃度は、例えば、20mg/L以下となっていることが好ましい。
【0041】
セレン除去を行うセレン除去手段3には、セレンを除去する除去槽3aと、セレン除去に際し生じる4価セレンを含む鉄スラッジを固液分離する沈殿槽3b(固液分離装置)とを備える。
セレン除去工程では、水中で、表面積の大きな繊維状の鉄と、空気中の酸素と、6価のセレンとが存在する状態で、鉄が2価の鉄イオンとなって水に溶解するとともにさらに酸化されて3価の鉄イオンとなり、Fe(OH)等となって析出する。
【0042】
それに対して、6価のセレンは、上述のように酸化する鉄によって還元されることになる。すなわち、6価のセレンから沈殿し易い4価のセレンに還元され、水酸化鉄とともに沈殿することになる。なお、繊維状の鉄の表面に水酸化鉄と、4価のセレンが付着した状態となるが繊維状の鉄に空気を噴出することにより、鉄表面の水酸化鉄等の付着物が剥離されて鉄スラッジとなる。また、これにより酸化されていない鉄の表面が露出し、セレンの還元が進行することになる。
【0043】
除去槽3aにおいては、繊維状の鉄が保持されている部分があり、この部分にセレン含有排水が撹拌装置等により循環する。また、除去槽3aでは、基本的に連続処理が行われるが、セレン含有排水が繊維状の鉄の部分を流れて通過してしまうのではなく、循環しながら滞留し、滞留したセレン含有排水が除去槽3aから排出される。
【0044】
セレン除去工程における繊維状の鉄の体積当たりの表面積は、100〜200m/mであることが好ましい。また、セレン除去工程におけるセレン含有排水の温度は、40〜60℃であることが好ましく、セレン含有排水のpHは、4〜6であることが好ましい。また、セレン除去工程におけるセレン含有排水の除去槽3aの滞留時間は、例えば、10〜50時間であることが好ましい。また、接触還元材としての繊維状の鉄が配置された除去槽3a中の接触反応帯域のセレン含有排水の平均通過速度が、0.1〜1.0m/secとなっていることが好ましい。
【0045】
セレン除去工程で発生したスラッジ(鉄スラッジ)の一部は、上述のように、COD成分除去手段2の加熱酸分解工程に送られて、セレン含有排水に投入されることになる。したがって、セレン除去工程で分離されたスラッジの鉄は、COD成分除去工程と、セレン除去工程で循環することになる。
【0046】
このようなセレン含有排水の処理システムにおけるセレン含有排水の処理方法にあっては、セレン含有排水に含まれるセレンの濃度が高く、6価セレンから4価セレンへの還元に必要とする鉄の量が多くなっても、セレン除去工程で生じた鉄スラッジを、セレン除去工程より前のCOD成分除去手段2でセレン含有排水に投入すること、すなわち、鉄スラッジの一部をセレン除去工程とのその前のCOD成分除去手段2との間で循環させるようにすることにより、鉄の消費量および鉄スラッジの発生量を低減することができる。
【0047】
ここで、セレン含有排水に溶解した鉄イオンは、COD成分除去手段2からセレン除去工程に戻ることになり、4価セレンの沈殿に寄与し、セレン除去工程における繊維状の鉄の消費量を低減することになる。
【0048】
また、セレン含有排水のジチオン酸濃度、すなわち、COD成分濃度が高いことに対応して、COD成分除去手段2における過酸化水素によるジチオン酸の酸化に際し、2価の硫酸鉄を触媒として過酸化水素からヒドロキシラジカルを発生させる場合に、鉄スラッジを投入することにより、硫酸鉄の投入量を削減することができる。これによっても、鉄の使用量の削減を図ることができる。
【0049】
また、COD成分除去手段においては、ジチオン酸を酸化させるCOD成分除去本工程の前にセレン含有排水に塩酸を投入するとともに加熱する加熱酸分解工程を設け、この加熱酸分解工程において、主に水酸化鉄からなる鉄スラッジを投入することにより、鉄スラッジのセレン含有排水への溶解量を増加させることができる。すなわち、2価および3価の水酸化鉄を塩酸溶液により溶解することができる。
【0050】
また、加熱酸分解工程において、ジチオン酸イオンの一部が酸化されて硫酸イオンとなることにより、ジチオン酸除去本工程における負荷を低減して、ジチオン酸の酸化を促進するとともに、さらに硫酸鉄の使用量の削減を図ることができる。ここで、セレン含有排水の処理システムの運転コストにおいて大きなウエイトを占める鉄の消費量を低減することで、運転コストの低減を図ることができる。また、鉄の消費量を低減して鉄スラッジの発生量を低減することにより、発生した鉄スラッジの処分に必要とされる熱エネルギーの低減を図ることができ、これによってもセレン含有排水の運転コストの低減を図ることができる。
【0051】
また、COD成分除去手段2では、ジチオン酸イオンの硫黄を5価から6価に酸化するので、セレン含有排水中の4価のセレンや、循環させられる鉄スラッジに含まれる4価のセレンが酸化させられる虞があるが、COD成分除去手段2において、4価のセレンの多くは酸化されることなく4価のままとなっている。
【0052】
したがって、COD成分除去手段2に4価のセレンを含む鉄スラッジを投入しても、4価のセレンが6価に酸化されることにより、6価のセレンを4価に還元するために必要とされる鉄の消費量が増加してしまうようなことがない。したがって、鉄スラッジを循環させることで確実に鉄の消費量の低減を図ることができる。
【実施例】
【0053】
以下に本発明の実施例を説明する。
以下に、比較例と実施例の実験条件を説明する。なお、比較例と実施例の違いは、上述の鉄スラッジを循環させるか否かの違いであり、それ以外の実験条件は同じになるように設定した。また、比較例と実施例とにおいて、それぞれ上述の硫酸除去、ジチオン酸除去、セレン除去を行った
【0054】
以下に、比較例と実施例とで共通する実験条件を説明する。
この実験例のセレン含有排水には、6価セレンが37mg/L含まれ、4価セレンが20mg/L含まれている。また、硫酸イオンが61400mg/L含まれ、ジチオン酸イオンが92mg/L含まれている。
また、セレン含有排水の処理量を毎時5リットルとした。
硫酸除去工程における操作条件としてセレン含有排水の温度が35℃で、pHが12.4とされた。また、セレン含有排水のへの塩化カルシウムの投入量を69.3g/Lとし、アルカリとしての水酸化カルシウムの投入量を2.14g/Lとした。
この硫酸除去工程により、上述のセレン含有排水中の硫酸イオン濃度が、61400mg/Lから100mg/Lに減少した。
【0055】
COD成分除去手段2の加熱酸分解工程では、このように硫酸イオンが除去されたセレン含有排水を処理する。加熱酸分解工程における操作条件としてセレン含有排水の温度が60℃で、pHが3とされた。また、セレン含有排水のへの塩酸の投入量を、35wt%の塩酸溶液として毎時0.10g/Lとした。
この加熱酸分解工程により、上述のセレン含有排水中のジチオン酸イオン濃度が、92mg/Lから53mg/Lに減少した。
【0056】
COD成分除去工程のジチオン酸除去本工程では、操作条件としてセレン含有排水の温度が30℃で、pHを3とした。また、セレン含有排水のへの過酸化水素の投入量を64mg/Lとし、硫酸鉄の投入量を硫酸鉄中の鉄として52mg/Lとした。
このCOD成分除去手段2により、上述のセレン含有排水中のジチオン酸イオン濃度が、53mg/Lから18mg/Lに減少した。
【0057】
セレン除去工程のジチオン酸除去本工程では、操作条件としてセレン含有排水の温度が30℃で、pHが3とされた。また、使用した接触還元材としての繊維状の鉄の体積当たりの表面積を101m/mとした。セレン除去工程におけるセレン含有排水の除去槽3aの滞留時間を5時間とした。また、接触還元材の接触反応帯域のセレン含有排水の平均通過速度を0.3m/secとした。
【0058】
このような実験条件において、比較例では、セレン除去工程でスラッジを全量排出し、実施例では、セレン除去工程で排出されたスラッジの半分を循環させるようにCOD成分除去手段2の加熱酸分解工程でセレン含有排水に投入する。すなわち、実施例においては、セレン除去工程で分離されて排出されるスラッジの量と、分離されて加熱酸分解工程に送られるスラッジの量とを1対1とした。
【0059】
また、比較例と、実施例とにおいて、セレン除去工程後の排水中のセレン濃度が1mg/L以下となるようにした。このような実験条件において、実施例におけるスラッジの排出量が80mg/hrとなった。また、比較例におけるスラッジの排出量が200mg/hrとなった。
【0060】
すなわち、スラッジを循環させることにより、排出させるスラッジの量を半分以下にすることが可能になった。この場合に、スラッジの排出量が減少していることから、接触還元材としての繊維状の鉄の消費量も減少することになる。これにより鉄の投入にかかるコストの低減を図ることができるとともに、スラッジの処理に必要な熱エネルギーを低減させてコストの低減を図ることができる。なお、上述の比較例と実施例とでは、COD成分除去工程における硫酸鉄の添加量を同じにしているが、鉄スラッジが投入される実施例における硫酸鉄の添加量を比較例より少なくすることができ、これによっても鉄スラッジの発生量を減少させることができる。
【0061】
なお、各槽における工程では、連続処理が行われることになる。また、固液分離を沈殿槽による沈殿以外の周知の固液分離方法で行ってもよい。また、セレン含有排水に含まれる阻害物質は、硫酸イオンと、ジチオン酸イオンに限られるものではなく、例えば、その他の硫黄酸化物イオンであってもよい。また、COD成分除去手段2、すなわち、主に5価の硫黄酸化物イオンを除去する工程を、必ずしも加熱酸分解工程と、ジチオン酸除去本工程との二つの工程に分けなくてもよいが、鉄スラッジを循環するに際し、鉄スラッジを溶解させるためには、加熱酸分解工程を有することが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
1 硫酸除去手段
2 COD(ジチオン酸)除去手段(COD成分除去手段)
3 セレン除去手段
図1