(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部分には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
以下に複数の実施の形態を説明するが、その説明の前に、鍛造組織の予測を実施するためのシステムの構成を説明する。
図11は、鍛造組織の予測を実施するためのコンピュータのシステム構成を示すブロック図である。同図において、コンピュータは、計算機1100、記憶装置1101、入力装置1102、および表示装置1103を具備している。
【0019】
記憶装置1101には、計算機1100で実行されるべきプログラムが格納されている。計算機1100は、記憶装置1101からプログラムを読み込み、プログラムに従って後で
図1等を用いて説明する処理を実行する。計算機1100は、処理を実行する際に、記憶装置1101との間でデータの受け渡しを行う。記憶装置1101には、予めデータベースが格納されており、計算機1100は、適時、記憶装置1101にアクセスして、データベースからデータの取り込み等を行う。表示装置1103は、計算機1100での処理結果等を表示する。また、入力装置1102は、計算機1100に設計データを入力したり、計算機1100での処理結果を表示装置1103で表示させる等の指示を入力するために、使われる。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に係わる鍛造組織の予測を行うためのフローチャート図である。同図に示した各工程(以下の説明では、工程をステップとも称する)は、プログラムに従って計算機1100(
図11)により実施される。以下で述べる実施の形態では、熱間鍛造に供される金属材料(以下、素材とも称する場合がある)として、ニッケル基合金であるインコネル(R)718(インコネルはSpecial Metals Corporationの登録商標)相当合金を用いる場合を例にして説明する。同図において、破線で示した10は入力工程であり、20は演算工程であり、30はデータ処理工程である。
【0021】
入力工程10は、ステップ101から104を含んでおり、特に制限されないが、本実施の形態においては、ステップ101、102、103、104の順に実施される。各ステップ101から104での入力は、特に制限されないが、本実施の形態では、
図11に示した入力装置1102等によって行われる。
【0022】
まず、ステップ101においては、これから測定するモデルの形状を作成するために、モデルの形状を表す項目を入力する。モデルの形状を表す項目としては、鍛造に用いられる金型と、鍛造前の素材の形状等が、設計データとして入力される(図では、ステップ101をモデル形状作成(金型・素材)と記載)。
【0023】
次に、ステップ102において、鍛造に用いられる素材の材料モデルを入力する。入力する項目としては、(1)熱間の応力によるひずみ曲線、(2)再結晶モデル、粒成長モデル、(3)ポアソン比、ヤング率、熱伝導率、比熱、熱膨張率といった機械的特性、等がある。なお、図では、ステップ102は、材料モデル(応力―ひずみ曲線、再結晶モデル、粒成長モデル)入力と記載している。
【0024】
ステップ103においては、鍛造の際の条件(以下、鍛造条件)、素材と鍛造の際に用いられる工具等との間の境界に関する境界条件が入力される。ここで、上記鍛造条件とは、鍛造前の加熱工程における温度および加熱時間と、加熱工程の後で、加熱炉からプレスまでに搬送されるまでの時間と、プレスによるプレス工程での圧下量、圧下速度等である。一方、上記境界条件とは、素材と工具との間の熱伝達係数と、素材と大気との間の熱伝達係数と、素材と工具との間の摩擦係数等である。なお、図では、ステップ103は、鍛造条件(搬送時間・金型ストローク)入力と記載している。
【0025】
ステップ104では、鍛造前の素材の結晶組織に関する情報が、初期組織の情報として入力される。初期組織の情報としては、鍛造前の素材の平均粒度が入力される(図では、ステップ104を初期結晶粒度入力と記載)。
【0026】
ここで、上記した再結晶モデルおよび粒成長モデルについて、それぞれの作成方法を述べておく。
【0027】
再結晶モデルとしては、ある臨界ひずみを超え、変形中に発生する動的再結晶(以下、DRXと称する)と、同じく臨界ひずみを超え、変形後に発生する準動的再結晶(以下、MRXと称する)の予測モデルを用いる。この時の予測モデルは、例えばMRXの場合、式(1)、式(2)、式(3)で表現される。なお、再結晶モデルには、上記したDRXとMRX以外に、ある臨界ひずみを下回ったときに、変形後に発生する静的再結晶(以下、SRXと称する)の予測モデルがある。
【0031】
上記Xは、素材の再結晶率を表し、上記t
0.5は再結晶率が50%に達する時の時間を表し、上記dは再結晶粒径を表す。また、式(1)、(2)および(3)において、a
1、h
1、n
1、m
1、Q
1、a
2、h
2、n
2、m
2、Q
2のそれぞれは、素材により定まる定数であり、材料定数である。また、Rはガス乗数であり、Tは温度であり、tは時間であり、εはひずみであり、Εはひずみ速度を示している。
【0032】
図2には、上記再結晶モデルを構築するためのヒートパターンの一例が示されている。同図において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示している。特に制限されないが、熱処理等によって結晶組織を所定の粒度にした円柱の圧縮試験片が用意される。用意した圧縮試験片を、高周波加熱または誘導加熱によって、室温から
図2に示されている圧縮温度T
cまで加熱する。加熱された圧縮試験片を、圧縮温度T
cで一定時間保持して、圧縮試験片の内部が均一な温度状態になる様にし、その後でプレス加工で圧縮(
図2では圧縮と記載)する。圧縮後、予め設定した時間t
q1だけ保持し、その後で冷却する。冷却後に、圧縮試験片内の組織を電子後方散乱回析法(EBSD:Electron Back Scattering Diffraction method、以下EBSD法と称する)によって、回析し、再結晶率X、再結晶粒径dを求める。上記時間t
q1を、式(1)内の保持時間tとし、EBSD法で求めた再結晶率Xを式(1)の再結晶率Xとして用いて、再結晶率が50%に到達する時間t
0.5を求める。圧縮温度T
c、および圧縮の際の圧下量および圧下速度を、予め設定した複数の値に変更しながら、上記した試験を複数回実施し、それぞれで得られた時間t
0.5と、種々のε、Ε、d
0、Tとから、式(2)を用いて、a
1、h
1、n
1、m
1、Q
1を求める。また、EBSD法で求めた再結晶粒径dと、種々のε、Ε、d
0、Tとを用いて、式(3)から、a
2、h
2、n
2、m
2、Q
2、を求める。
【0033】
上記したステップ102で用いる粒成長モデルは、再結晶が完了した後の粒成長の予測モデルである。この予測モデルは、式(4)で表される。
【0035】
ここで、d
0は粒成長前の粒径を示し、d
ggは粒成長後の粒径を示す。また、a
gg、Q
gg、mのそれぞれは、素材に固有な定数であり、材料定数である。また、式(4)におけるRはガス乗数、Tは温度、tは時間、Cは定数である。
【0036】
図3には、上記粒成長モデルを構築するためのヒートパターンの一例が示されている。同図においても、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示す。まず、熱処理によって結晶組織を所定の粒度にした複数の円柱の圧縮試験片が用意される。用意された複数の圧縮試験片のそれぞれを、高周波または誘導加熱によって、室温から熱処理温度T
hまで加熱する。加熱後、圧縮試験片の内部が均一になる様に、等温で保持する。複数の圧縮試験片の内の1個の圧縮試験片は、前観察のために用いられる。前観察のための圧縮試験片は、等温で保持された後で、冷却される。冷却された前観察のための圧縮試験片は、EBSD法によって回析される。この回析で得られた平均粒径は、粒成長前の粒径d
0とされる。すなわち、前観察用の圧縮試験片から、粒成長前の粒径を求める。複数の圧縮試験片の内、他の圧縮試験片は、観察用に用いられる。観察用の圧縮試験片は、前観察用の圧縮試験片とは異なり、等温で保持された後、予め設定された時間t
q2だけ、等温でさらに保持される。時間t
q2だけ保持された後、冷却される。冷却された観察用の圧縮試験片は、EBSD法によって、組織の回析を行う。この回析により得られた平均粒径を粒成長後の粒径D
ggとする。
【0037】
熱処理温度T
hおよび保持時間t
q2のそれぞれを、予め設定した複数の値に変えながら、上記した試験を複数回実施する。この複数回の試験により得られた平均粒径D
ggおよび試験のために設定した熱処理温度T
hおよび保持時間t
q2から、式(4)を用いて、a
gg、Q
gg、m、Cを求める。この場合、保持時間t
q2は、式(4)のパラメータtに該当し、熱処理温度T
hが、式(4)のパラメータTに該当する。以上の様にして、再結晶モデルおよび粒成長モデルの各パラメータが求められる。
【0038】
入力工程10で入力された各種データに基づいて、演算工程20で、素材の温度と変形(ひずみ、ひずみ速度)を計算する。演算工程20内のステップ105においては、特に、加熱炉からプレスまで素材が搬送される工程、鍛造工程、鍛造後の冷却工程(例えば、大気による冷却)における、素材の温度と変形を、有限要素法により計算する(図では、ステップ105を加熱・鍛造・冷却解析と記載)。温度については、時間的な変化を温度履歴として計算により求める。
【0039】
データ処理工程30では、演算工程20において計算で求められた温度履歴、ひずみ、ひずみ速度、入力工程10で入力した再結晶モデルおよび粒成長モデル、および入力工程10で入力した初期結晶の平均粒度を用いて、素材の結晶組織が粗粒組織あるいは混粒組織であるかを判定し、粗粒あるいは混粒を明示する。また、データ処理工程30は、粗粒あるいは混粒でない場合には、平均粒径を算出して、平均粒度を明示する。次に、データ処理工程30に含まれるステップ106から112について、説明する。
【0040】
ステップ106においては、入力工程10で入力されたデータに従って、再結晶モデルを用いて、再結晶率Xおよび再結晶粒径dを算出する。算出された再結晶率Xおよび再結晶粒径dは、再結晶に関するデータベースとして、記憶装置1101に格納される。次に、ステップ107において、時間に従って進行するところの再結晶が完了したか否かの判定を行う。具体的には、予め再結晶率の閾値X
cを設定しておく。設定した再結晶率の閾値X
cに、ステップ106で計算し、再結晶に関するデータベースに登録してあったところの再結晶率Xが到達しているか否かで、再結晶が完了したか否かの判定を行う。すなわち、ステップ107において、再結晶に関するデータベースをアクセスし、データベースに格納されている再結晶率Xを用いて、再結晶の進行が判定される。このため、ステップ107は、再結晶の進行を判定する判定工程と見なすことができる。
【0041】
ステップ106の計算により得た再結晶率Xが、予め設定した閾値X
cを超えていた場合には、再結晶完了と判定する。再結晶が完了していた場合、次にステップ108が実施される。
【0042】
ステップ108は、結晶組織が粗大化しているか否かを判定する粗大化判定工程である。このステップ108の詳細が、
図4に示されている。すなわち、
図4は、粗大化の有無を判定する処理を示すフローチャート図である。
図4において、ステップ1001は、ステップ106の後に実施されるステップであって、粗大化判定の閾値Δdを設定するステップである。粗大化判定の閾値Δdは、本実施の形態においては、初期粒度番号に対する粒度番号の変化分として設定される。初期粒度番号については、後で説明するが、再結晶により形成された組織の粒度番号が、この初期粒度番号から粗大化判定の閾値Δd分を超えた場合、再結晶された結晶組織は粗大化したと判定する。
【0043】
例えば、ステップ1001において、粗大化判定の閾値Δdを0.5に設定し、初期粒度番号が9の結晶組織の場合であって、再結晶によって粒度番号が8.5に変化すると、粗大化があったと判定する。この様に、絶対値を粗大化判定の閾値とするのではなく、差分を粗大化判定の閾値Δdとすることにより、対象とする素材の初期粒径を考慮しなくても良くすることが可能である。
【0044】
ステップ1001の次に、ステップ1002が実施される。ステップ1002においては、ステップ105において計算により求めていた素材の温度履歴の内、鍛造およびその後の冷却工程での温度履歴を取得する。次に、ステップ1003において、予め作成しておいた実験データベースとステップ1002で取得した温度履歴とを比較し、ステップ1001で設定した粗大化判定の閾値Δdを超えているか否かの判定を行い、結晶組織の粗大化の有無を判定する。
【0045】
次に、上記した実験データベースについて、説明する。
図5は、実験データベースを作成するために、圧縮試験片に加えられるヒートパターンの一例を示す温度波形図である。同図において、横軸は時間を示し、縦軸は温度を示している。圧縮試験片は、複数用意され、特に制限されないが実験データベースを作成する前に、前処理を行っておく。この前処理では、それぞれの圧縮試験片は、第二相粒子(以下、δ相とも称する場合がある)が析出される様に、加熱される。
【0046】
複数の圧縮試験片の内の1個は、前観察用の圧縮試験片とされ、残りの圧縮試験片は、観察用の圧縮試験片とされる。前観察用の圧縮試験片は、上記した前処理と同じ温度T
phまで加熱される(この実施の形態では、室温から上昇させられる)。加熱された後、圧縮試験片の内部における温度が均一になるまで、等温で保持される。その後、設定した第二相粒子の固溶温度域(加熱温度)T
ohまで加熱し、冷却する。冷却後、この前観察用の圧縮試験片の組織をEBSD法で回析し、平均粒径を求め、粒度番号を算出する。ここで算出した粒度番号を、この加熱温度T
ohにおいて、粗大化を判定する際の初期粒度番号とする。また、この様に、前観察用の圧縮試験片を、前処理温度から加熱温度まで加熱することにより、前処理温度から加熱温度までの間で析出されるδ相の量も反映した初期粒度番号を求めることができ、粗大化判定の精度を上げることが可能となる。
【0047】
一方、観察用の圧縮試験片は、まず、前観察用の圧縮試験片と同様に、前処理温度T
phまで加熱し、前観察用の圧縮試験片と同じ時間だけ等温で保持する。その後で、観察用の圧縮試験片については、設定した第二相粒子の固溶温度域(加熱温度)T
ohまで、加熱する。加熱後、等温で、設定した時間t
q3だけ保持する。時間t
q3が経過したところで、観察用の圧縮試験片を冷却し、EBSD法を用いて回析する。回析により、結晶組織の平均粒径を求め、粒度番号を算出する。次に、保持時間t
q3を変更しながら、上記実験を繰り返して実施する。これにより、設定した1個の加熱温度T
ohにおいて、複数の互いに異なる保持時間と、各保持時間に対応した粒度番号が得られる。
【0048】
上記した実験を、予め設定した複数の加熱温度T
ohにおいても、実施する。この場合、加熱温度は互いに異なる。これにより、複数の加熱温度のそれぞれにおいて、複数の互いに異なる保持時間と、各保持時間に対応した粒度番号が得られる。この場合、前観察用の圧縮試験片も、加熱温度ごとに用意され、加熱温度に対応した初期粒度番号を求める。
【0049】
図10には、上記した実験の結果の一例が参考値として示されている。
図10には、2個の観察用の圧縮試験片1、2について、加熱温度T
ohと、保持時間t
q3と、粒度番号が示されている。
図10には、加熱温度は同じ値で、保持時間を変えた例が示されている。
【0050】
ステップ1001において予め設定した粗大化判定の閾値Δdと、上記した実験により求めたデータ(初期粒度番号、加熱温度、保持時間、粒度番号)とによって、加熱温度ごとに結晶組織の粗大化開始までの時間を求めることができる。すなわち、粗大化開始までの時間は、例えば、そのときの加熱温度における初期粒度番号が9であり、粗大化判定の閾値Δdが0.5であるとすると、加熱温度を変えずに、粒度番号が8.5に到達するときの保持時間に相当する。加熱温度を変更しないことを例としたが、粗大化開始までの時間は、加熱温度の値によって異なり、加熱温度が高温化すると、これに応じて短くなる。この様にして、各加熱温度(第二相粒子の固溶温度域)と、それぞれの加熱温度における粗大化開始までの時間を求め、実験データベースを作成し、記憶装置1101に格納する。
【0051】
実験データベースは、粗大化の判定に用いるため、粗大化に関するデータベースと見なすことができる。粗大化に関するデータベースを用いた粗大化の判定を
図9で説明する。
図9には、粗大化に関するデータベースから得られる加熱温度(第二相粒子の固溶温度域)と粗大化開始までの時間との関係が示されている。同図において、横軸は保持時間(粗大化開始まので時間)、縦軸は保持温度(加熱温度)である。加熱温度が、T
0の場合、保持時間が時刻t
c0を超えると、粒度番号が、初期粒度番号と粗大化判定の閾値Δdを超えるため、粗大化が開始すると判定する。一方、加熱温度が、T
1の場合には、保持時間が時刻t
c1を超えると、粒度番号が、そのときの初期粒度番号と粗大化判定の閾値Δdを超えるため、粗大化が開始すると判定する。言い換えるならば、鍛造工程およびその後の冷却工程において、温度がT
0となっている期間が、時間t
c0以上有れば、粗大化が開始しており、温度がT
1となっている期間が、時間t
c1以上有れば、粗大化が開始していることになる。なお、粗大化開始までの時間を経過した時刻では、粗大化が生じているため、
図9では、×印が付されている。
【0052】
粗大化の判定、後で説明する混粒の判定、および後で説明する平均粒度の算出は、鍛造される鍛造品内の領域(部位)毎に行われる。粗大化の判定を例にして、判定が、鍛造品の領域ごとに実施されることを次に説明する。
図7には、ステップ101で入力したモデルが示されている。
図7において、金型は、上型1と下型2とを有する。上型1と下型2との間に、鍛造される素材3が設置され、素材3は、上型1と下型2との間でプレスされる。
図8には、鍛造が終了し、鍛造された鍛造品4が金型から取り出された状態が示されている。鍛造された鍛造品4において、互いに異なる位置(領域)にある部位p1、p2およびp3について、粗大化しているか否かの判定が行われる。もちろん、
図8に示した鍛造品は一例であり、判定する部位も一例である。また、計算機1100で処理されるモデルであり、
図7および
図8に示した状態は、実際に鍛造された鍛造品の状態を示しているものではない。
【0053】
図4に示したステップ1003においては、各部位p1、p2およびp3のそれぞれについて、ステップ1002で取得した鍛造およびその後の冷却工程における温度履歴と、上記実験により作成した粗大化に関するデータベースとを比較し、各部位において粗大化が発生しているか否かの判定を行う。
図6には、ステップ1002で取得した温度履歴の一例が示されている。ステップ1002で取得する温度履歴は、素材の任意の場所における温度履歴を取得することができる。説明を容易にするために、
図8において、p1として示されている部位の温度履歴を取得し、この部位p1における温度履歴が、
図6に示されているものとして説明する。
図6において、横軸は鍛造開始からの時間、縦軸は温度を示しており、部位p1における温度の履歴が波形40として示されている。
【0054】
鍛造中の温度は、加工発熱によって上昇し、その後低下する。そのため、温度履歴を示す波形40は、
図6に示されている様に、ピークを有する。波形40がピークとなる温度を上回るところの温度をT
1とし、ピークを下回るところの温度をT
0とする。この温度T
1とT
0を、温度履歴より取得する。次に、温度履歴から、ピークが温度T
0を上回っている時間t
ohを取得する。一方、実験により作成した粗大化に関するデータベースから、上記した温度T
0に該当する加熱温度を見出し、見出した加熱温度における粗大化開始までの時間t
c0、すなわち、保持時間を求める。また、実験により作成したデータベースから、上記した温度T
1に該当する加熱温度を見出し、見出した加熱温度における粗大化開始までの時間t
c1を求める(
図9)。
【0055】
粗大化開始までの時間は、上記した様に、特定した(見出した)加熱温度において、粒度番号と初期粒度番号との差が、粗大化判定の閾値Δdを超えたときの、保持時間(粗大化開始までの時間)として、データベースから取得することができる。この様にして、取得したデータによって、ステップ1003は、粗大化の有無を判定する。すなわち、保持温度がT
0のときに、時刻t
oh>時刻t
c0であれば、粗大化があり、保持温度がT
1のときに、時刻t
oh<時刻t
c1であれば、粗大化なしと判定する。
【0056】
ステップ1003において、粗大化していると判定した場合には、粗粒である旨の明示を行う。一方、ステップ1003で、粗大化なしと判定した場合には、次にステップ112を実行する。なお、
図1においては、ステップ108の次にステップ110が実行される様に示されているが、このステップ110は、ステップ108の判定に従って、粗大化判定工程の後に実行されるステップが選択されることを明示するために記載したものである。
【0057】
ステップ112では、ステップ102で入力した粒成長モデルを用いて、粒成長を計算し、式(4)に従って、粒成長後の粒径d
ggを求め、求めた粒径から平均値を算出し、平均粒度として出力する。
【0058】
一方、上記したステップ107において、再結晶が完了していないと判定された場合は、ステップ107の次にステップ109が実施される。ステップ109においては、ステップ106において計算した再結晶率Xの値を用いて、規格(JIS規格あるいはASTM規格)によって設定されている混粒組織の定義に従って、組織の均一性を判定する。
【0059】
例えば、JIS規格では、混粒は、「1視野内において、最大頻度を有する粒径番号の粒からおおむね3以上異なった粒度番号の粒が偏在し、これらの粒が約20%以上の面積を占める状態」と定義されている。ステップ106において、動的再結晶(DRX)モデル、準動的再結晶(MRX)モデルおよび静的再結晶(SRX)モデルを用いて、再結晶率と再結晶粒径を計算する。ここで、DRXモデルを用いて求めた再結晶率と再結晶粒径を、X
drx、d
drxとし、MRXモデルを用いて求めた再結晶率と再結晶粒径を、X
mrx、d
mrxとし、SRXモデルを用いて求めた再結晶率と再結晶粒径を、X
srx、d
srxとする。計算結果から、各再結晶(DRX、MRX、SRX)の頻度および未再結晶粒の頻度を計算する。このとき、未再結晶粒の面積率は、1−(X
drx+X
mrx+X
srx)で求まり、未再結晶粒の粒径は、鍛造前の粒径を用いて、未再結晶の頻度を計算する。例えば、得られた粒径(d
drx、d
mrx、d
srx、および鍛造前の粒径)から粒度番号を求め、粒度番号の粒の偏在を確認し、得られた頻度から粒の占有率を求めて、上記したJIS規格の定義と照合する。これにより、組織が混粒となっているか否かの判定を行う。
【0060】
すなわち、ステップ109では、各モデルの式で用いる変数(温度、ひずみ、ひずみ速度)を、有限要素法による計算で求めた温度、ひずみ、ひずみ速度のそれぞれの履歴から取得する。取得した値を用いて、再結晶に関するデータベースから、再結晶粒の平均粒径と再結晶粒の単位面積あたりの割合(各再結晶モデルの頻度に基づく)を求める。さらに、初期の結晶組織の情報から、未再結晶粒の粒径を求め、ステップ109においては、これらの求めた情報(再結晶粒の平均粒径、再結晶粒の単位面積あたりの割合、未再結晶粒の粒径)から、均一性の条件、例えば上記したJIS規格で規定されている混粒の条件に合致するか否かの判定を行う。例えば、上記したJIS規格で規定されている混粒の条件に合致しないことを、均一性の条件とした場合、ステップ109において、均一性の条件を満たしていないと判定したとき、結晶組織は混粒組織であると判定する。
【0061】
JIS規格を、均一性の条件として用いる例を説明したが、これに限定されるものではない。均一性の条件を設定するステップが、入力工程10に設けられる。この条件設定ステップ(図示しない)で、例示した様なJIS規格を均一性の条件とする様に設定しても良いし、他の条件を均一性の条件として設定しても良い。
【0062】
上記したステップ109と、均一性の条件を設定するステップは、組織の均一性を判定する工程であるため、均一性判定工程と見なすことができる。ステップ109による組織の均一性の判定結果が、不均一である場合には、混粒組織であるとして、混粒である旨の明示を行う。一方、ステップ109において、均一であると判定した場合には、混粒組織ではないと判定する。混粒組織ではないと判定された場合には、特に制限されないが、本実施の形態においては、上記したステップ108が次に実施される。この場合には、結晶組織の粗大化はないので、粒成長計算のステップ112が実施される。すなわち、混粒組織でない場合には、上記したステップ112で、粒成長の計算が行われ、粒成長後の粒径d
ggが求められ、粒径の平均値が算出され、平均粒度として出力される。
【0063】
なお、
図1には、ステップ109の次にステップ111が実行される様に示されているが、ステップ111は、ステップ109の判定結果に従って、次に実行されるステップが選択されることを明示するために記載したステップである。
【0064】
上記した処理は、先に粗大化の判定を例にして説明した様に、
図8に示した鍛造品4の任意の部位に対して実行される。例えば、部位p1、p2およびp3のそれぞれの部位に対して、上記した処理が実行される。その結果として、例えば、
図8に示されている様に、部位p1については粗粒と明示され、部位p4については混粒と明示され、部位p2は、粗粒でも混粒でもないため、平均粒度が明示される。
【0065】
なお、本実施の形態では、ステップ111で、混粒でないと判定した場合は、ステップ108が実行される様にしている。しかしながら、平均粒度を計算するステップを新たに設け、ステップ111で混粒でないと判定した後は、この新たなステップで平均粒度を求める様にしても良い。
【0066】
次に、混粒、粗粒、平均粒度の明示について、一例を説明する。
図12は、表示装置1103に表示される表示画面を示す図である。
図12の(A)と
図12の(B)は、一つの表示画面に、同時に表示される。
図12の(B)は、平均粒度番号のスケールを示しており、線間の間隔が上から下に向かって広くなっている。平均粒度番号は、線間の間隔により明示される。この例では、線間の間隔が広くなるのに従って、平均粒度番号が5から15へと変わっていることを示している。
図8に示した鍛造品4の形が、
図12の(A)に示されている様に、鍛造品4と同じ形で表示画面に表示される。鍛造品4に対応するモデルは、複数の領域(部位)に分けられ、それぞれの領域に対して、
図1に示した処理が実行され、それぞれの領域毎に、混粒か粗粒かの判定が行われ、混粒でも粗粒でもない場合には、平均粒度が算出される。
【0067】
図1に示した処理を実行した結果、例えば、モデルの左上側と左下側が混粒であり、左中央が粗粒であると判定された場合、
図12の(A)の表示画面の様にして、混粒、粗粒、平均粒度が明示される。すなわち、表示画面上で、左上側の領域と左下側の領域に、「混粒」が明示され、左中央の領域に、「粗粒」が明示される。また、平均粒度は、
図12の(B)に示したスケールに従って、間隔が変化する線で明示されている。
図12の(A)の例では、右から左に向かって、平均粒度が小さくなっていることが明示されている。
【0068】
図12では、線の間隔で平均粒度の変化を示したが、色の変化あるいは濃淡で、平均粒度の変化を示しても良い。明示の方法は、計算機1100によって実行されるプログラムにより変更することができるので、
図12に示した明示の方法は、一例であり、種々の明示方法をとり得る。
【0069】
この実施の形態によれば、熱間鍛造後の鍛造組織において、混粒、粗粒、および混粒・粗粒でない場合には平均粒度を明示することが可能となり、熱間鍛造後の結晶組織を高精度に予測することが可能となる。
【0070】
また、例えば、熱間鍛造に用いられる金属材料を複数の領域とし、各領域(部位)のそれぞれに対して前述した予測を行うことにより、熱間鍛造後の金属材料における各領域ごとに、粗粒、混粒、平均粒度を明示することが可能となる。
【0071】
さらに、粗大化の判定は、第二相粒子の固溶温度域と固溶温度域における粗大化開始までの時間を示すデータベースと、数値解析により得た温度履歴を用いて行う。これにより、温度に依存して変化する第二相粒子の量を考慮して、熱間鍛造後の結晶組織を予測することが可能となり、更に高精度の予測が可能となる。
【0072】
表示画面に、粗粒、混粒、平均粒度が明示されるため、視覚的に鍛造組織の構造を把握することが可能となる。
【0073】
(実施の形態2)
この実施の形態においては、
図1に示したステップ102が変更される。すなわち、ステップ102において入力される粒成長モデルが変更される。本実施の形態においては、粒成長を3個の領域に分けて、表現する。3個の領域とは、領域(1):第二相粒子(δ相)が析出している領域、領域(2):δ相が完全に固溶して、素材内に存在していない領域、領域(3):δ相が析出している領域(1)とδ相が固溶している領域(3)との間の遷移領域である。ここで、領域(1)は、低温での領域であり、領域(2)は、高温での領域である。
【0074】
δ相が析出している領域(1)とδ相が固溶している領域(3)のそれぞれにおける粒成長は、例えば式(4)として示した粒成長モデルで表現することができる。遷移領域である領域(3)については、その粒成長モデルを式(5)で表す。
【0076】
ここで、D
ggは、粒成長後の粒径、D
gg(HT)は、高温「領域(2)」での粒成長モデルにより求められる粒成長後の粒径、D
gg(LT)は、低温「領域(1)」での粒成長モデルにより求められる粒成長後の粒径を表している。また、T
rdは、遷移率を表している。
【0077】
遷移率T
rdは、δ相の消失を温度、時間、ひずみの関数で表現したX
d_phと、素材が加熱温度以上に滞在した時間tovの関数として表現する。δ相の消失分率X
d_phは、式(6)で表すことができる。また、加熱温度以上に滞在した加熱時間tovと遷移率T
rdとの関係は、式(7)で表すことができる。
【0079】
ここで、Tは温度、Rはガス乗数、tは時間、A、E1、βは、パラメータである。
【0081】
実施の形態1で述べたのと同様に、ステップ101からステップ107まで、計算機1100により、順次ステップが、実行される。ただ、ステップ102において入力される粒成長モデルとして、式(5)に示した粒成長モデルが入力される。これにより、ステップ107において、再結晶が完了されたと判定された場合、式(5)に示した粒成長モデルに基づいて、粒成長の計算が実行される。
【0082】
次に、上記の粒成長モデルで計算により求めた粒成長後の組織の粒度番号と、鍛造前の
素材の粒度番号との差が、予め設定した粗大化判定の閾値Δdを超えているか否かの判定を行う。超えていた場合には、粗大化があったと判定し、粗粒を明示する。一方、閾値Δdを下回っている場合には、粗大化がなかったと判定し、粒成長後の平均粒度を出力する。上記した粗大化判定の閾値Δdは、この実施の形態においても、ステップ1001において、設定される。しかしながら、この実施の形態における粗大化判定の閾値Δdは、初期粒度番号ではなく、鍛造前の粒度番号を基準とし、鍛造後の粒度番号との差を、粗大化判定の閾値とする。
【0083】
一方、ステップ107において、再結晶が完了していないと判定された場合には、実施の形態1と同様に、ステップ109および111を実施する。ステップ109において、混粒と判定した場合には、混粒である旨の明示を行う。混粒でないと判定された場合には、上記した式(5)によって、粒成長後の粒径を求め、さらに平均粒度を求めて、出力する。
【0084】
本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、鍛造品の各領域の状態(混粒、粗粒)を把握するために、その鍛造品に対応するモデルの各領域に対して、上記したステップを実行する。鍛造品の各領域の内、上記したステップを実行する領域が、上記した3個の領域のいずれに該当する場合であっても、素材中に存在する第二相粒子(δ相)の量を考慮した粗大化の判定が可能となる。
【0085】
この実施の形態によれば、粒成長モデルに、第二相粒子の量による影響が反映されるため、粗大化の判定にかかる手間を低減することが可能となる。
【0086】
以上本発明者によってなされた発明を、前記実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせる様にしても良い。この組み合わせを行う場合には、例えば、粗大化の判定を、先ず実施の形態2を用いて行い、詳細な判定が必要になったときに、実施の形態1に示した粗大化の判定を行う様にすれば良い。また、粗大化に関するデータベースは、上記した実験により求めたデータ(初期粒度番号、加熱温度、保持時間、粒度番号)を用いて作成する様にしても良い。