(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属フィルターは、複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の開口形状は、円、楕円、角丸長方形、長方形及び正方形からなる群より選択される1種以上の形状である、請求項1又は2に記載の金属フィルターの製造方法。
【背景技術】
【0002】
癌は世界各国で死因の上位を占め、わが国においては年間30万人以上が癌によって死亡しており、その早期発見および治療が望まれている。癌による人の死亡は、癌の転移再発によるものがほとんどである。癌の転移再発は、癌細胞が原発巣から血管またはリンパ管を経由して、別臓器組織の血管壁に定着、浸潤して微小転移巣を形成することで起こる。このような血管やリンパ管を通じての人の体内を循環する癌細胞は、血中循環癌細胞(Circulating Tumor Cell、以下、場合により「CTC」という。)と呼ばれている。
【0003】
血液には赤血球や白血球および血小板等の血球成分が多く含まれ、その個数は血液1mL中に3.5〜9×10
9個ともいわれている。その中でCTCは僅か数個程度しか存在しない。血球成分の中からCTCを効率的に検出するためには血球成分を分離する必要があり、観察および測定が非常に困難であった。
【0004】
CTC等の癌細胞は、血液中の血球細胞、例えば赤血球や白血球、あるいは血小板等に比べてサイズが一回り大きい。したがって、理論的には、機械的濾過法を適用してこれらの血球成分を除去し、癌細胞を濃縮することが可能である。白血球の中にはCTCと同じ程度のサイズを有する細胞が存在し、サイズの違いだけではCTCのみを高精度で区別できない場合がある。しかしながら、白血球は癌細胞よりも変形能が大きいため、吸引や加圧などによる外部の力により、自分より小さな孔を通過することができ、CTCと分離することが可能となる。機械的濾過法を行うためのフィルターとして、金属フィルターを使用することが考えられる。
【0005】
金属フィルターの製造方法としては、フォトリソグラフィーを用いた電気鋳造(電鋳)めっきの方法が知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、導電性を有する基板上に第1の感光性樹脂層を形成し、メッシュパターンが形成された第1のフォトマスクを上記第1の感光性樹脂層上に重ねて露光し、現像処理をおこなって不要部分を除去し、該除去部分に上記基板を一方の電極として電鋳により、厚さが上記第1の感光性樹脂層を越えないように第1のメッキ層を形成し、該第1のメッキ層及び上記第1の感光樹脂層の表面にスパッタリング法によって導電性の薄膜を形成し、該薄膜の表面に第2の感光性樹脂層を形成し、印刷パターンが形成された第2のフォトマスクを上記第2の感光性樹脂層上に重ねて露光し、現像処理をおこなって不要部分を除去し、該除去部分に上記薄膜を一方の電極として電鋳により、厚さが上記第2の感光性樹脂層を越えないように第2のメッキ層を形成した後に上記基板を剥離し、かつ上記第1の感光性樹脂層、上記第2の感光性樹脂層、及び上記薄膜の露出部分を除去して成ることを特徴とするメタルマスクの製造方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、平板からなるベースの表面上にフォトレジストを剥離可能にラミネート又は塗布する工程と、フォトレジストの上にパターンフィルムを重ね、ベースに対し垂直に直進する光でフォトレジストを露光する工程と、パターンフィルムを剥がして、フォトレジストを電鋳母型側に転写する工程と、現像、乾燥処理してパターンレジスト膜を電鋳母型の上に形成する工程と、電鋳母型のパターンレジスト膜で覆われていない表面に電着金属を形成する工程と、電着金属を電鋳母型から剥離する工程とからなるメタルマスクの製造方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1や2の製造方法では、メタルマスクとなる電鋳めっき層の基板からの剥離を人手作業(手剥がし)によって行っている。このため、メタルマスクにシワ・折れ・キズ・カール等のダメージが発生する場合があった。
【0010】
したがって、特許文献1や2の製造方法で金属フィルターを製造した場合、金属フィルターにシワ・折れ・キズ・カール等のダメージが発生し、金属フィルターの貫通孔が変形し、貫通孔のサイズにばらつき(拡大、縮小)が生じる場合があった。貫通孔のサイズにばらつきが生じると、癌細胞の分離精度が低下することが想定される。
【0011】
そこで、本発明は、シワ・折れ・キズ・カール等のダメージや、微細な貫通孔の変形が発生しない金属フィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、金属フィルターの製造方法であって、銅基板上に感光性樹脂組成物を積層して感光性樹脂組成物層を形成する積層工程と、感光性樹脂組成物層の所定部分に活性光線を照射し、露光された部分を光硬化させて感光性樹脂組成物の硬化物を形成する露光工程と、感光性樹脂組成物層のうち感光性樹脂組成物の硬化物以外の部分を現像により除去し、銅基板上に感光性樹脂組成物の硬化物からなるレジストパターンを形成する現像工程と、レジストパターンが形成された銅基板を金属めっきしてめっき層を形成するめっき工程と、銅基板を化学的溶解によって除去して、めっき層及び感光性樹脂組成物の硬化物からなる構造物を得る溶解工程と、構造物から感光性樹脂組成物の硬化物を除去して、めっき層を得る剥離工程と、を含み、めっき層が金属フィルターである、金属フィルターの製造方法を提供する。
【0013】
上記本発明の製造方法によれば、銅基板を化学的溶解によって除去することにより、人手作業(手剥がし)によらずに金属フィルターとなるめっき層を回収することができる。このため、シワ・折れ・キズ・カール等のダメージや、微細な貫通孔の変形を生じることなく、金属フィルターを製造することができる。上記本発明の製造方法により製造された金属フィルターは、貫通孔のサイズにばらつきが少ないため、高い分離精度で癌細胞を分離・濃縮することができる。
【0014】
基板と感光性樹脂組成物(フォトレジスト)の密着力が十分でない場合、レジストパターンの密着面積を大きくする必要があり、微細な貫通孔を有する金属フィルターを製造することが困難となる場合がある。微細な貫通孔を形成するためには、貫通孔のサイズに相当する小さな密着面積のレジストパターンを形成することが必要である。
【0015】
上記本発明の製造方法では、基板として銅基板を使用する。銅は、フォトレジストとの密着力に優れていることから、感光性樹脂組成物との十分な密着力を得ることができる。このため、銅基板を使用する上記本発明の製造方法によれば、微細な貫通孔を有する金属フィルターを製造することができる。
【0016】
上記金属フィルターは、複数の貫通孔を有し、貫通孔の開口形状は、円、楕円、角丸長方形、長方形及び正方形からなる群より選択される1種以上の形状であることが好ましい。さらに、貫通孔の開口形状は、長方形又は角丸長方形の形状を含み、長方形又は角丸長方形の短辺の長さは5〜15μmであることが好ましい。ここで、角丸長方形とは、2つの等しい長さの長辺と2つの半円形からなる形状であり、
図3(B)に示す形状である。角丸長方形の短辺の長さとは、
図3(B)のaで示される長さである。また、金属フィルターの厚さは、3〜50μmであることが好ましい。
【0017】
このような開口形状及びサイズであることにより、癌細胞が貫通孔に目詰まりしにくく、癌細胞の濃縮効率を更に向上させることができる。
【0018】
上記のめっき層の厚さは、上記の感光性樹脂組成物層の厚さ(感光性樹脂組成物の硬化物の厚さ)よりも薄いことが好ましい。これにより、金属フィルターの貫通孔を確実に形成することができる。めっき層の厚さが感光性樹脂組成物層の厚さよりも厚くなってしまうと、めっき層が感光性樹脂組成物の硬化物の厚さよりも厚い部分で連結してしまい、貫通孔が形成されない場合がある。
【0019】
上記銅基板は、ピーラブル銅箔であることが好ましい。ピーラブル銅箔を使用することによって銅の量を削減し、銅基板の除去に要する化学的溶解剤の量及び時間を削減し、生産性を向上させることができる。
【0020】
上記金属フィルターは、癌細胞濃縮用金属フィルターであることが好ましい。上記金属フィルターは、癌細胞の濃縮に特に適した構造を有している。すなわち、本発明はまた、上記の製造方法により製造される金属フィルターの癌細胞濃縮のための使用を提供する。
【0021】
上記癌細胞濃縮用金属フィルターは、血液中に循環する癌細胞の濃縮用金属フィルターであることが好ましい。上記金属フィルターは、血液中に循環する癌細胞と血球成分とを分離し、癌細胞を濃縮するのに特に適した構造を有している。すなわち、本発明はまた、上記の製造方法により製造される金属フィルターの血液中に循環する癌細胞の濃縮のための使用を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、シワ・折れ・キズ・カール等のダメージや、微細な貫通孔の変形が発生しない金属フィルターの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、場合により図面を参照しながら好適な実施形態を説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は理解を容易にするため一部を誇張して描いており、寸法比率は説明のものとは必ずしも一致しない。
【0025】
実施形態に係る金属フィルターの製造方法は、銅基板上に感光性樹脂組成物を積層して感光性樹脂組成物層を形成する積層工程と、感光性樹脂組成物層の所定部分に活性光線を照射し、露光された部分を光硬化させて感光性樹脂組成物の硬化物を形成する露光工程と、感光性樹脂組成物層のうち感光性樹脂組成物の硬化物以外の部分を現像により除去し、銅基板上に感光性樹脂組成物の硬化物からなるレジストパターンを形成する現像工程と、レジストパターンが形成された銅基板を金属めっきしてめっき層を形成するめっき工程と、銅基板を化学的溶解によって除去して、めっき層及び前記感光性樹脂組成物の硬化物からなる構造物を得る溶解工程と、構造物から感光性樹脂組成物の硬化物を除去して、めっき層を得る剥離工程と、を含み、めっき層が金属フィルターである。
【0026】
図1(A)〜(H)は、本発明の製造方法の一実施形態を説明する工程図である。本実施形態では、銅基板としてピーラブル銅箔を使用する。
【0027】
図1(A)は、キャリア層1及び銅箔層2からなるピーラブル銅箔を示す。
図1(B)に示す積層工程において、銅箔層2に感光性樹脂組成物を積層し、感光性樹脂組成物層3を形成する。続いて、
図1(C)に示す露光工程において、フォトマスク4を通して感光性樹脂組成物層3に活性光線(UV光)を照射し、露光された部分を光硬化させて感光性樹脂組成物の硬化物3aを形成する。続いて、
図1(D)に示す現像工程において、感光性樹脂組成物層3のうち感光性樹脂組成物の硬化物3a以外の部分を除去し、感光性樹脂組成物の硬化物3aからなるレジストパターンを形成する。続いて、
図1(E)に示すめっき工程において、感光性樹脂組成物の硬化物3aからなるレジストパターンが形成された銅箔層2上にめっき層5を形成する。続いて、
図1(F)に示すように、ピーラブル銅箔の銅箔層2とキャリア層1とを剥離する。続いて、
図1(G)に示す溶解工程において、銅箔層2を化学的溶解により除去する。この結果、感光性樹脂組成物の硬化物3a及びめっき層5が残る。続いて、
図1(H)に示す剥離工程において、感光性樹脂組成物の硬化物3aからなるレジストパターンを除去し、めっき層5からなる金属フィルターを回収する。金属フィルターには貫通孔6が形成されている。
【0028】
図2(A)〜(G)は、本発明の製造方法の一実施形態を説明する工程図である。本実施形態では、上記実施形態のピーラブル銅箔の代わりに銅基板2’を使用する。本実施形態の製造方法は、
図1(F)に示す、ピーラブル銅箔の銅箔層2とキャリア層1とを剥離する工程が存在しない点以外は上記実施形態と同様である。但し、銅基板2’は上記実施形態の銅箔層2よりも厚いため、溶解工程において銅基板2’を化学的溶解により除去する工程において、上記実施形態よりも多くの化学的溶解剤と時間が必要になる。
【0029】
続いて、実施形態に係る金属フィルターの製造方法の各工程をより詳細に説明する。
【0030】
(積層工程)
まず、積層工程について説明する。銅基板としては、銅又は表面に銅を有するものであれば特に制限はないが、例えば、厚さ1〜100μmの銅箔、銅箔テープ、ピーラブル銅箔等が挙げられる。作業性の観点からは、ピーラブル銅箔が好ましい。ピーラブル銅箔とは、極薄銅箔とキャリア層の少なくとも2層からなる銅箔である。
【0031】
感光性樹脂組成物としては、ネガ型及びポジ型のいずれも使用可能であるが、ネガ型感光性樹脂組成物が好ましい。ネガ型感光性樹脂組成物は、少なくとも、バインダー樹脂、不飽和結合を有する光重合性化合物、光重合開始剤を含むものであることが好ましい。なお、ポジ型の感光性樹脂組成物を使用する場合には、感光性樹脂組成物層のうち、活性光線の照射により露光された部分の現像液に対する溶解性が増大するため、現像工程において、露光された部分が除去されることになる。以下、ネガ型感光性樹脂組成物を使用した場合について説明する。
【0032】
製造される金属フィルターの厚さは、感光性樹脂組成物層の厚さ以下となる。このため、目的とする金属フィルターの厚さに適した膜厚の感光性樹脂組成物層を形成する必要がある。例えば、15μm以下の厚さの金属フィルターを製造する場合には膜厚15μmの感光性樹脂組成物を使用することが好ましい。また、15μmを超え25μm以下の厚さの金属フィルターを製造する場合には膜厚25μmの感光性樹脂組成物を使用することが好ましい。また、貫通孔の孔径が小さくなるほど膜厚の薄い感光性樹脂組成物を使用することが好ましい。
【0033】
感光性樹脂組成物の銅基板上への積層は、例えば、支持フィルム、感光性樹脂組成物及び保護フィルムからなるシート状の感光性エレメントの保護フィルムを除去した後、感光性エレメントの感光性樹脂組成物層を加熱しながら銅基板に圧着することにより行われる。これにより、銅基板と感光性樹脂組成物層と支持フィルムとからなり、これらが順に積層された積層体が得られる。
【0034】
この積層作業は、密着性及び追従性の見地から、減圧下で行うことが好ましい。圧着の際の感光性樹脂組成物層及び/又は銅基板に対する加熱温度、圧力等の条件に特に制限はないが、70〜130℃の温度で行うことが好ましく、100〜1000kPa程度の圧力で圧着することが好ましい。なお、感光性樹脂組成物層の圧着において、積層性を向上させるために、銅基板を予熱処理してもよい。
【0035】
(露光工程)
続いて、露光工程について説明する。銅基板上の感光性樹脂組成物層の所定部分に活性光線を照射し、露光された部分を光硬化させて感光性樹脂組成物の硬化物を形成する。この際、感光性樹脂組成物層上に存在する支持フィルムが活性光線に対して透過性を有する場合には、支持フィルムを通して活性光線を照射することができるが、支持フィルムが活性光線に対して遮光性を有する場合には、支持フィルムを除去した後に感光性樹脂組成物層に活性光線を照射する。
【0036】
露光方法としては、アートワークと呼ばれるネガ又はポジマスクパターンを通して活性光線を画像上に照射する方法(マスク露光法)が挙げられる。また、LDI(Laser Direct Imaging)露光法やDLP(Digital Light Processing)露光法等の直接描画露光法により活性光線を画像状に照射する方法を採用してもよい。
【0037】
活性光線の光源としては、公知の光源を用いることができ、例えば、カーボンアーク灯、水銀蒸気アーク灯、高圧水銀灯、キセノンランプ、アルゴンレーザ等のガスレーザ、YAGレーザ等の固体レーザ、半導体レーザ等の紫外線、可視光等を有効に放射するものが用いられる。
【0038】
活性光線の波長(露光波長)としては、350〜410nmの範囲内とすることが好ましく、390〜410nmの範囲内とすることがより好ましい。
【0039】
(現像工程)
続いて、現像工程について説明する。感光性樹脂組成物層のうち、感光性樹脂組成物の硬化物以外の部分を銅基板上から除去することにより、銅基板上に、感光性樹脂組成物の硬化物からなるレジストパターンを形成する。感光性樹脂組成物層上に支持フィルムが存在している場合には、支持フィルムを除去してから、上記感光性樹脂組成物の硬化物以外の部分の除去(現像)を行う。現像方法には、ウェット現像とドライ現像とがあるが、ウェット現像が広く用いられている。
【0040】
ウェット現像による場合、感光性樹脂組成物に対応した現像液を用いて、公知の現像方法により現像する。現像方法としては、ディップ方式、バトル方式、スプレー方式、ブラッシング、スラッピング、スクラッピング、揺動浸漬等を用いた方法が挙げられ、解像性向上の観点からは、高圧スプレー方式が最も適している。これらは、2種以上の方法を組み合わせて現像を行ってもよい。
【0041】
現像液としては、アルカリ性水溶液、水系現像液、有機溶剤系現像液等が挙げられる。アルカリ性水溶液は、現像液として用いられる場合、安全且つ安定であり、操作性が良好である。アルカリ性水溶液の塩基としては、リチウム、ナトリウム又はカリウムの水酸化物等のアルカリ金属水酸化物;リチウム、ナトリウム、カリウム若しくはアンモニウムの炭酸塩又は重炭酸塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩;ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等のアルカリ金属ピロリン酸塩等が用いられる。
【0042】
アルカリ性水溶液としては、0.1〜5質量%炭酸ナトリウムの希薄溶液、0.1〜5質量%炭酸カリウムの希薄溶液、0.1〜5質量%水酸化ナトリウムの希薄溶液、0.1〜5質量%四ホウ酸ナトリウムの希薄溶液等が好ましい。アルカリ性水溶液のpHは9〜11の範囲とすることが好ましく、その温度は、感光性樹脂組成物層のアルカリ現像性に合わせて調節される。アルカリ性水溶液中には、表面活性剤、消泡剤、現像を促進させるための少量の有機溶剤等を混入させてもよい。
【0043】
感光性樹脂組成物の硬化物以外の部分を現像により除去し、銅基板上に感光性樹脂組成物の硬化物からなるレジストパターンを形成した後、必要に応じて60〜250℃程度の加熱又は0.2〜10J/cm
2程度の露光を行うことにより、レジストパターンを更に硬化してもよい。
【0044】
(めっき工程)
続いて、めっき工程について説明する。現像工程の後、銅基板上にめっきを行い、めっき層を形成する。めっきの方法としては、例えば、はんだめっき、ニッケルめっき、金めっきなどが挙げられる。このめっき層が最終的に金属フィルターとなる。
【0045】
金属フィルターの材質としては金、銀等の貴金属、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム等の卑金属、及びこれらの金属の合金が例示できるがこれらに限定するものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。これらの中でも、腐食等の発生を防止し、加工性・コスト面にも優れることから、ニッケル及びニッケルを主成分とする金属を用いることが好ましい。ここで主成分とは、材料のうち50重量%以上を占める成分をいう。
【0046】
(溶解工程)
続いて、溶解工程について説明する。めっき層を形成した後、銅基板を化学的に溶解して除去する。これにより、人手作業(手剥がし)によらずに金属フィルターとなるめっき層及び感光性樹脂組成物の硬化物からなる構造物を回収することができる。このため、シワ・折れ・キズ・カール等のダメージや、微細な貫通孔の変形を生じることなく、金属フィルターを製造することができる。銅基板を溶解する化学的溶解剤としては、メックブライトSF−5420B(商品名、メック株式会社製)、銅選択エッチング液−CSS(日本化学産業株式会社)等を使用することができる。
【0047】
(剥離工程)
続いて、剥離工程について説明する。溶解工程の後、レジストパターンは、例えば、現像に用いたアルカリ性水溶液より更に強アルカリ性の水溶液により剥離する。この強アルカリ性の水溶液としては、例えば、1〜10質量%水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を用いることが好ましく、1〜5質量%水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液を用いることがより好ましい。レジストパターン(感光性樹脂組成物の硬化物)を剥離することにより、めっき層のみを回収することができる。このめっき層が金属フィルターである。
【0048】
レジストパターンの剥離方式としては、浸漬方式、スプレー方式、超音波を用いる方式等が挙げられ、これらは単独で用いても併用してもよい。
【0049】
(金属フィルター)
続いて、金属フィルターの形状について説明する。金属フィルターの貫通孔の開口形状として円、楕円、角丸長方形、長方形、正方形、多角形等が例示できる。効率良く癌細胞を捕獲できる観点からは、円、長方形又は角丸長方形が好ましい。また、金属フィルターの目詰まり防止の観点からは、長方形又は角丸長方形が特に好ましい。
【0050】
貫通孔の孔径は、捕獲対象とする癌細胞のサイズに応じて設定する。本明細書において、開口形状が楕円、長方形、多角形等の円以外の形状における孔径とは、それぞれの貫通孔を通過できる球の直径の最大値を意味する。貫通孔の孔径は、例えば開口形状が長方形の場合、その長方形の短辺の長さとなり、開口形状が多角形の場合、その多角形の内接円の直径となる。開口形状が長方形や角丸長方形の場合、捕獲対象とする成分が貫通孔に捕獲された状態であっても、開口部において開口形状の長辺方向に隙間ができる。この隙間を通して液体が通過可能である為、フィルターの目詰まりを防止することができる。
【0051】
金属フィルターの貫通孔の平均開口率は0.1〜50%が好ましく、0.5〜40%がより好ましく、1〜30%が更に好ましく、1〜10%が最も好ましい。ここで、開口率とは、フィルター上の所定の領域において、当該領域の面積に対する貫通孔が占める面積をいう。平均開口率とは、フィルター全体の面積に対する貫通孔が占める面積をいう。平均開口率が0.1〜50%であれば、フィルターの強度を十分に確保でき、加工も容易である。また、フィルターの目詰まりの発生も防止でき、フィルターの濃縮性能を確保することができる。
【0052】
金属フィルターの厚さは3〜50μmであることが好ましく、5〜40μmであることがより好ましく、5〜30μmであることが特に好ましい。フィルターの膜厚が3〜50μmであれば、フィルターの強度が確保され、取り扱い性も良好である。また、フィルターの生産性も良好であり、必要以上の材料消費によりコスト的に不利になることもなく、微細加工も容易である。
【0053】
図3(A)は、本発明の製造方法により製造することのできる金属フィルターの一実施形態を示す概略図である。金属フィルター100は、複数の貫通孔10が形成された基板(めっき層)20からなる。貫通孔10の開口形状は角丸長方形である。貫通孔10の配置は、
図1(A)のような整列配置でもよく、列毎に配置がずれた千鳥配置でもよく、任意に配置されたランダム配置であってもよい。
【0054】
図3(B)は、上記実施形態の金属フィルターの貫通孔10の上面図である。貫通孔10の開口形状は、角丸長方形であり、短辺がa、長辺がbである長方形の短辺に隣接して、半径がcである2つの半円形が結合した形状である。一実施形態において、a、b、cはそれぞれ8、22及び4μmである。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0056】
(実施例1)
感光性エレメント(PHOTEC RD−1225:厚さ25μm、日立化成工業株式会社製)を250mm角の基板(MCL−E679F t0.5×250×250 N3DB:(MCL−E679F t0.5×250×250 18D)の表面にピーラブル銅箔t18μmを貼り合わせた基板、日立化成工業株式会社製)の銅箔層上に圧着し、感光性樹脂組成物層を形成した。圧着は、ロール温度90℃、圧力0.3MPa、コンベア速度2.0m/分の条件で行った。
【0057】
次に、ガラス製のフォトマスクを上記の感光性樹脂組成物層の上に静置した。フォトマスクは、光の透過部の形状が角丸長方形であり、この角丸長方形が、長軸及び短軸方向にいずれも60μmのピッチで同一の方向を向いて整列した形状であった。また、角丸長方形のサイズは、
図3(B)におけるaが8μm、bが22μm、cが4μmであった。続いて、80kPa以下の真空下において、上記のフォトマスクの上側から紫外線照射装置によって露光量30mJ/cm
2の紫外線を照射した。
【0058】
次に、1.0%炭酸ナトリウム水溶液で現像を行い、銅基板上に感光性樹脂組成物の硬化物からなるレジストパターンを形成した。このレジストパターンが形成された銅基板を、pHを4.5に調整したニッケルめっき液に浸し、温度55℃で約20分間めっきを行った。ニッケルめっき液の組成を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
次に、ニッケルめっき層が形成された銅箔層を、ピーラブル銅箔のキャリアから剥離した。続いて、ニッケルめっき層が形成された銅箔層を、化学的溶解剤(メックブライトSF−5420B、メック株式会社製)に浸して40℃で約120分間攪拌し、銅箔層を溶解除去することにより、めっき層及び感光性樹脂組成物の硬化物からなる構造物を回収した。
【0061】
最後に、回収した構造物をレジスト剥離液(P3 Poleve、Henkel製)に浸し、60℃で約40分間超音波処理することにより、感光性樹脂組成物の硬化物を除去した。
【0062】
以上の操作により、シワ・折れ・キズ・カール等のダメージがなく、十分な精度の貫通孔を有する、実施例1の金属フィルターを作製した。
【0063】
(実施例2)
フォトマスクの光の透過部の形状を、
図3(B)におけるaが5μm、bが15μm、cが2.5μmの角丸長方形に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2の金属フィルターを作製した。
【0064】
(実施例3)
フォトマスクの光の透過部の形状をφ5μmの円に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例3の金属フィルターを作製した。
【0065】
(実施例4)
ニッケルめっきの時間を約3分間に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例4の金属フィルターを作製した。金属フィルターの膜厚を膜厚測定器(デジマチックインジケータID−C112C、株式会社Mitutoyo製)の測定子と台座でフィルターを挟むようにして測定した結果、3μmであった。
【0066】
(比較例1)
銅基板をステンレス板(SUS304、仕上げ3/4H、厚さ100μm、日新製鋼株式会社製)に変更し、基板からのフィルターの剥離を薬液による化学的溶解除去の代わりに手で剥がした以外は実施例1と同様にして、比較例1の金属フィルターを作製した。
【0067】
この結果、シワ・折れ・キズ等のダメージが生じ、貫通孔の変形等によるサイズばらつき(拡大、縮小)が発生した。特に、カールの発生が酷く、フィルターとしては使用できないレベルだった。
【0068】
また、比較例1の金属フィルターは、レジストパターン形成後に、感光性樹脂組成物の硬化物とステンレス板との密着不足によるレジスト倒れ、脱落が発生した。これが原因となり、貫通孔の変形や配列崩れが発生した。
【0069】
(実験例1)
生理食塩水にガラスビーズ(高精度ユニビーズSPM−16:粒径16±2μm、チタンバリウム系ガラス、株式会社ユニオン製)を混合し、実施例1の金属フィルターによる濾過試験を実施した。ガラスビーズは、癌細胞の代わりとして使用した。
【0070】
フィルターホルダー(Swinnex13、MILLIPORE製)に実施例1の金属フィルターをセットし、生理食塩水とガラスビーズとの混合液をシリンジで注入して濾過した。濾過後の金属フィルターの表面を光学顕微鏡で確認した結果、粒径約16μmのガラスビーズは短辺8μmの孔を通過することはなく、孔を塞ぐような状態でフィルター表面に残っていた。表2に、この時のガラスビーズの投入数に対する補足数をカウントした結果を示す。実施例1の金属フィルターは、ガラスビーズの十分な捕捉能力を有することが確認された。この結果から、癌細胞を用いた場合にも、十分な捕捉能力が示されることが予測される。
【0071】
【表2】