(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
≪1.本発明の概要≫
本発明に係る溶媒抽出方法は、高分子凝集剤を含有する硫酸水溶液と有機抽出剤とを混合させて、その硫酸水溶液に含まれる金属イオンを有機抽出剤中に抽出する金属の溶媒抽出方法である。具体的に、本発明に係る溶媒抽出方法は、金属イオンを含む硫酸水溶液に活性炭を接触させた後に、その硫酸水溶液と有機抽出剤とを混合させる。つまり、溶媒抽出処理の対象溶液である硫酸水溶液に対して活性炭を用いた処理を前処理として行うことを特徴としている。
【0016】
このような方法によれば、溶媒抽出対象となる溶液中のTOC濃度(全炭素濃度)を低減させることができ、溶媒抽出時におけるクラッドの発生を効果的に防ぐことができる。そして、このことにより、クラッドに取り込まれてしまうことによる抽出剤のロスや抽出される有価金属の回収ロスを抑制することができる。
【0017】
ここで一例として、
図1に、スカンジウムを含有する溶液(以下、「スカンジウム含有溶液」ともいう)から、イオン交換工程、溶媒抽出工程を経て、スカンジウムを酸化スカンジウムとして回収するスカンジウム回収プロセスのフロー図を示す。本発明に係る溶媒抽出方法は、例えば、
図1に示すプロセスにおける溶媒抽出工程における処理に適用することができる。
【0018】
以下では、
図1に示すプロセスを一例として挙げて、本発明に係る溶媒抽出方法についての具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)を説明する。なお、
図1に示すプロセスでは、スカンジウム含有溶液から溶媒抽出処理を経てスカンジウムを回収する流れを示しているが、抽出する金属としてはスカンジウムに限られず、当然にその他の金属であってもよい。
【0019】
≪2.スカンジウム回収プロセスにおける実施形態≫
図1に示すスカンジウム回収プロセスでは、スカンジウム含有溶液として、ニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸により浸出して、得られた浸出液に対して中和処理、硫化処理を経て得られた硫化後液(金属としてスカンジウムを含有する硫酸水溶液)を用い、この溶液からスカンジウムを回収する。
【0020】
具体的に、このスカンジウム回収プロセスは、ニッケル酸化鉱の湿式製錬工程S1と、イオン交換工程S2と、溶媒抽出工程S3と、焙焼工程S4とを有している。以下、各工程について順に説明する。
【0021】
<ニッケル酸化鉱の湿式製錬工程>
ニッケル酸化鉱の湿式製錬工程S1では、ニッケル酸化鉱に対して浸出処理を施し、得られた浸出液に対して中和処理、硫化処理を経て硫化後液を得る。具体的には、
図1に示すように、ニッケル酸化鉱の湿式製錬工程S1は、ニッケル酸化鉱を高温高圧下で硫酸により浸出して浸出スラリーを得る浸出工程S11と、浸出スラリーから浸出液と浸出残渣とに固液分離する固液分離工程S12と、浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程S13と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S14とを有する。
【0022】
(1)浸出工程
浸出工程S11は、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)等を用いて、ニッケル酸化鉱のスラリーに硫酸を添加するとともに高圧蒸気と高圧空気を供給して、240℃〜260℃の温度下で攪拌処理を施し、ニッケルやスカンジウムを含有する浸出液とヘマタイトを含む浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる工程である。ニッケル酸化鉱としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。これらのニッケル酸化鉱には、スカンジウムが含まれている。
【0023】
(2)固液分離工程
固液分離工程S12では、浸出工程S11にて生成した浸出スラリーを多段洗浄し、ニッケルやスカンジウムを含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とを分離する。固液分離工程S12では、浸出スラリーを洗浄液と混合させた後、シックナー等の固液分離装置を用いて固液分離処理を施す。具体的には、先ず、スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。
【0024】
ここで、固液分離工程S12における固液分離処理では、スラリー中に高分子凝集剤を添加して、浸出残渣の沈降を促進させる。高分子凝集剤としては、特に限定されないが、アクリル酸をはじめとするアニオン性のカルボン酸系やスルホン酸系のもの、アクリルアミドをはじめとするノニオン性のもの、ジメチルアミノエチルメタアクリレートをはじめとするカチオン性メタアクリル酸エステル系やアクリル酸エステル系のものが用いられ、市販品として容易に入手できる。
【0025】
(3)中和工程
中和工程S13は、浸出液に中和剤を添加してpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る工程である。この中和工程S13における中和処理により、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分が中和澱物となる。
【0026】
なお、この中和工程S13においても、中和澱物と中和後液とからなるスラリーに対して高分子凝集剤等を添加して固液分離処理を施し、次の硫化工程S14における処理に供される中和後液を回収する。
【0027】
(4)硫化工程
硫化工程S14は、得られた中和後液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加してニッケル硫化物と、硫化後液とを得る工程である。この硫化工程S14における硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となって回収され、スカンジウム等は硫化後液に残留することになる。したがって、このニッケル酸化鉱の湿式製錬プロセスにおける硫化処理により、ニッケルとスカンジウムとを効果的に分離することができる。
【0028】
なお、硫化処理にて得られたニッケル硫化物のスラリーをシックナー等の沈降分離装置を用いて分離処理し、ニッケル硫化物をシックナーの底部より分離回収する一方で、水溶液成分である硫化後液はオーバーフローさせて回収する。この硫化工程S14における固液分離の処理においても、スラリー中に高分子凝集剤等を添加して硫化物の沈降を促進させるようにすることができる。
【0029】
本実施の形態に係るスカンジウムの回収プロセスでは、例えば、このようなニッケル酸化鉱の湿式製錬工程を経て得られる、硫酸酸性溶液である硫化後液を回収して、その硫化後液に対して後述するイオン交換処理及び溶媒抽出処理を施すことによって、スカンジウムを回収する。
【0030】
<イオン交換工程>
イオン交換工程S2では、上述したようにニッケル酸化鉱の湿式製錬工程S1により得られた硫化後液(スカンジウムを含有する硫酸溶液)に対してイオン交換処理を施すことによって、不純物であるアルミニウムやクロム等を除去して溶液中のスカンジウムを濃縮させる。これにより、高純度のスカンジウムをより効率的に回収することができる。イオン交換工程S2における処理としては、特に限定されないが、キレート樹脂を使用したイオン交換処理が挙げられる。
【0031】
図1に示すイオン交換工程S2は、キレート樹脂を使用したイオン交換処理を行うものである。つまり、得られた硫化後液をキレート樹脂に接触させることによってその硫化後液中のスカンジウムをキレート樹脂に吸着させ、スカンジウム(Sc)溶離液を得るというものである。より具体的に、イオン交換工程S2は、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる吸着工程S21と、そのキレート樹脂に硫酸を接触させてキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S22と、アルミニウム除去工程S22を経たキレート樹脂に硫酸を接触させてスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程S23と、スカンジウム溶離工程S23を経たキレート樹脂に硫酸を接触させて吸着工程S21にてキレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程S24とを有する。なお、イオン交換工程S2の態様としては、これに限定されるものではない。
【0032】
(1)吸着工程
吸着工程S21では、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる。キレート樹脂としては、例えば、イミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いることができる。
【0033】
(2)アルミニウム除去工程
アルミニウム除去工程S22では、スカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去する。なお、アルミニウムを除去する際、pHを1以上2.5以下の範囲に維持することが好ましい。
【0034】
(3)スカンジウム溶離工程
スカンジウム溶離工程S23では、アルミニウム除去工程S22を経たキレート樹脂に0.3N以上3N未満の硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得る。スカンジウム溶離液を得るに際して、溶離液に用いる硫酸の規定度を0.3N以上3N未満の範囲に維持することが好ましく、0.5N以上2N未満の範囲に維持することがより好ましい。
【0035】
(4)クロム除去工程
クロム除去工程S24では、スカンジウム溶離工程S23を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したクロムを除去する。クロムを除去する際に、溶離液に用いる硫酸の規定度が3Nを下回ると、クロムが適切にキレート樹脂から除去されないため、好ましくない。
【0036】
このようなイオン交換工程S2における処理により、溶液中からアルミニウムやクロム等の不純物が除去されて、スカンジウムが濃縮されたスカンジウム溶離液を得ることができる。なお、得られたスカンジウム溶離液に対して再び同様のイオン交換処理を繰り返すことで、スカンジウム溶離液の濃度を高めることができる。
【0037】
<溶媒抽出工程>
溶媒抽出工程S3では、イオン交換工程S2における処理を経て得られたスカンジウム溶離液(スカンジウムや微量の不純物を含有する硫酸水溶液)を抽出剤に接触させ、スカンジウム溶離液に微量含まれる不純物を抽出液中に抽出し、得られた抽出液に逆抽出剤を加えることで不純物を含む逆抽出物を得てスカンジウムから分離する。このように、溶媒抽出処理を行うことで、スカンジウム溶離液に含まれるスカンジウムの純度をよりいっそう高めることができる。
【0038】
ここで、上述したように、例えばニッケル酸化鉱の湿式製錬工程S1においては、各工程にて得られたスラリーに対して固液分離処理を施すに際し、そのスラリーに高分子凝集剤を添加して、固形分の沈降を促進させるようにしている。しかしながら、そのような高分子凝集剤を添加する固液分離処理を経て得られた溶液は、その溶液中に凝集剤に由来する有機物が溶け込んだ状態となっており、溶液中のTOC濃度が高い。このようなTOC濃度の高い溶液に対して溶媒抽出処理を施した場合、そのTOCの影響により、溶媒抽出時には、有機相、水相の他に第3相となるクラッドが発生してしまう(
図3の点線丸囲みX部を参照)。溶媒抽出時におけるクラッドの発生は、抽出する有価金属成分のロスや有機溶媒等の薬剤コストを高め、また操作性を悪化させる原因になる。
【0039】
そこで、本実施の形態では、この溶媒抽出工程S3において、溶液(高分子凝集剤を含有する硫酸溶液)と、抽出剤を含有する有機溶媒(有機抽出剤)とを混合させる抽出処理(溶媒抽出処理)に先立ち、その溶液を活性炭に接触させる活性炭処理を施す。
【0040】
すなわち、本実施の形態において、溶媒抽出工程S3は、イオン交換工程S2を経てスカンジウムが濃縮された溶液(高分子凝集剤を含有する硫酸溶液)を活性炭に接触させ活性炭処理を施す前処理工程S31と、活性炭処理後の溶液と有機抽出剤とを混合して不純物を抽出した抽出後有機溶媒とスカンジウムを含有した抽残液とに分離する抽出工程S32と、抽出後有機溶媒に酸性溶液を混合して抽出剤に抽出されたスカンジウムを抽出後有機溶媒から分離して洗浄後有機溶媒を得るスクラビング工程S33と、洗浄後有機溶媒に逆抽出始液を混合して洗浄後有機溶媒から不純物元素を逆抽出して逆抽出物を得る逆抽出工程S34とを有する。
【0041】
(1)前処理工程(活性炭処理工程)
前処理工程S31では、イオン交換工程S2を経てスカンジウムが濃縮された溶液を活性炭に接触させることによって活性炭処理を施す。
【0042】
処理対象となるスカンジウム濃縮液は、上述したように、例えばニッケル酸化鉱の湿式製錬工程S1を経て得られた溶液に由来するものであり、その湿式製錬工程S1の固液分離処理にて使用した高分子凝集剤を含んでいる。高分子凝集剤は、溶液中に溶け込んでおり、その凝集剤に由来する有機物に基づき溶液中のTOC濃度は高い状態となっている。
【0043】
このような高分子凝集剤に由来する高TOC濃度の溶液に対して、活性炭を接触させる活性炭処理を施すことによって、その溶液中に炭素成分を分解し、TOC濃度を効果的に低減させることができる。
【0044】
活性炭の種類としては、特に限定されるものではなく、例えば、ヤシ殻、石炭、コークス、ピッチ等の原料を炭化・活性化し、粉砕処理等によって所望の形状(平均粒径、比表面積、細孔容積等)に調製したものを用いることができる。その中でも、ヤシ殻を原料としたヤシ殻活性炭を好ましく用いることができる。
【0045】
また、活性炭の形状、具体的には、活性炭の平均粒径、比表面積、細孔容積等については、特に限定されず、例えば、平均粒径としては0.1〜50μm程度、比表面積としてはBET値で300〜2000m
2/g程度、細孔容積として0.1ml/g以上程度のものを用いることができる。
【0046】
活性炭処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、ヤシ殻活性炭等の活性炭を所定のカラムに詰め込み、そのカラムに溶媒抽出処理対象である溶液(高分子凝集剤を含有する硫酸溶液)を通液させることによって行うことができる。このようにして溶液を活性炭に接触させることによって、簡易な操作で、溶液中のTOC濃度を低減させることができる。
【0047】
活性炭処理の処理時間等の条件は、特に限定されないが、溶液中のTOC濃度が0.04g/l以下に低減されるまで行うことが好ましく、0.03g/l以下に低減されるまで行うことがより好ましい。このように、活性炭処理によってTOC濃度が0.04g/l以下にまで低減された溶液とすることで、次の抽出工程S32における溶媒抽出時にクラッドが発生することをより効果的に防ぐことができる。
【0048】
(2)抽出工程
抽出工程S32では、前処理工程S31にて活性炭と接触させて活性炭処理を行った溶液と、抽出剤を含む有機溶媒(有機抽出剤)とを混合させて抽出処理を施す。より具体的には、活性炭処理後のスカンジウムを含有した溶液と抽出剤を含む有機溶媒とを混合して、スカンジウム以外の不純物元素を選択的に抽出し、不純物元素を含有する抽出後有機溶媒と、スカンジウムの純度を高めた抽残液とを得る。
【0049】
抽出剤としては、様々な種類が知られており特に限定されないが、抽出対象溶液に含まれる金属との選択性の観点から適宜決定することが好ましく、例えば、アミン系抽出剤を用いることができる。本実施の形態のように、スカンジウムを回収するに際しては、アミン系抽出剤を用いて溶媒抽出処理を行うことで、より効率的に且つ効果的に不純物を抽出してスカンジウムと分離することができる。ここで、アミン系抽出剤は、スカンジウムとの選択性が低く、また抽出時に中和剤が不要である等の特徴を有するものであり、例えば、1級アミンであるPrimeneJM−T、2級アミンであるLA−1、3級アミンであるTNOA(Tri−n−octylamine)、TIOA(Tri−i−octylamine)等の商品名で知られるアミン系抽出剤を用いることができる。
【0050】
なお、抽出時は、例えば炭化水素系の有機溶媒等で抽出剤を希釈して使用することが好ましい。具体的に、アミン系抽出剤を用いた場合、有機溶媒中のアミン系抽出剤の濃度としては、特に限定されないが、抽出時及び後述する逆抽出時における相分離性等を考慮すると、1体積%以上10体積%以下程度であることが好ましく、特に5体積%程度であることがより好ましい。
【0051】
本実施の形態においては、上述したように、この溶媒抽出処理に先立ち、溶液を活性炭に接触させる前処理を行っていることにより、溶液中のTOC濃度が効果的に低減している。このことにより、溶媒抽出時においても、そのTOCに由来するクラッドの発生を防止することができる。特に、抽出処理における抽出剤としてアミン系抽出剤を用いた場合には、発生したクラッドによる悪影響が生じやすいが、このように抽出処理に先立ち前処理を行うことによって、抽出残液中に含有されることになる対象金属(例えばスカンジウム)のロスや、抽出剤等の薬剤コストの上昇を抑えることができる。また、クラッドの発生に起因する配管の詰まり等の発生も防ぐことができ、良好な操作性でもって所望とする抽出処理を行うことができる。
【0052】
(3)スクラビング(洗浄)工程
必須の態様ではないが、不純物を抽出させた有機溶媒中にスカンジウムが僅かに共存する場合には、抽出液を逆抽出する前に、その有機溶媒(有機相)に対してスクラビング(洗浄)処理を施し、スカンジウムを水相に分離させて抽出剤から回収することが好ましい(スクラビング工程S33)。
【0053】
スクラビングに用いる溶液(洗浄溶液)には、塩酸溶液、硫酸溶液、硝酸溶液等の酸性溶液を使用することができる。塩酸溶液を用いる場合は2.0mol/L以上9.0mol/L以下の濃度範囲が好ましく、硫酸溶液を用いる場合は3.5mol/L以上9.0mol/L以下の濃度範囲が好ましく、硝酸溶液を用いる場合は2.0mol/L以上5.0mol/L以下の濃度範囲が好ましい。
【0054】
(4)逆抽出工程
逆抽出工程S34では、不純物元素を抽出した有機溶媒からその不純物元素を逆抽出する。この逆抽出工程S34では、有機溶媒に、水又は低濃度の酸溶液を逆抽出溶液(逆抽出始液)として用いて混合することで抽出時における反応とは逆の反応を進行させて不純物元素を逆抽出し、その不純物元素を含む逆抽出後液(逆抽出物)を得る。
【0055】
逆抽出始液としては、水であってもよいが、有機相との相分離が不良となる可能性がある。そのため、逆抽出始液として低濃度の酸溶液を用いることが好ましい。酸溶液としては、3.5mol/L未満程度の濃度の硫酸溶液を用いる。
【0056】
なお、逆抽出工程S34における逆抽出処理後に回収した抽出剤は、抽出工程S32における溶媒抽出処理の抽出剤として繰り返して使用することができる。
【0057】
<焙焼工程>
焙焼工程S4では、溶媒抽出工程S3を経て得られたスカンジウムを含有する抽残液を用いて、スカンジウムをシュウ酸塩(シュウ酸スカンジウム)とし、それを焙焼することで酸化スカンジウムとしてスカンジウムを回収する。このようにスカンジウムをシュウ酸塩とすることによって、濾過性等のハンドリング性を向上させることができ、スカンジウムを効率的に回収することができる。なお、スカンジウムの回収方法としては、このような処理に限定されない。
【0058】
図1に示すように、焙焼工程S4は、スカンジウムをシュウ酸塩の沈殿物(シュウ酸スカンジウム)とするシュウ酸化工程S41と、得られたシュウ酸スカンジウムを焙焼して酸化スカンジウムとする焙焼工程S42とを有する。
【0059】
(1)シュウ酸化工程
シュウ酸化工程S41では、溶媒抽出工程S3を経て得られた溶液にシュウ酸溶液を添加してスカンジウムのシュウ酸塩を晶析させる。
【0060】
シュウ酸塩を晶析させるに際しては、溶液のpHを0以上0.5以下とすることが好ましい。pHが低すぎると、スカンジウムシュウ酸塩の溶解度が増加してスカンジウム回収率が低下し、一方で、pHが高すぎると、溶解液中に含まれる不純物が沈殿しスカンジウム純度を下げてしまうため好ましくない。また、シュウ酸溶液の添加量は、スカンジウムをシュウ酸塩として析出させるのに必要な当量の1.05倍以上1.2倍以下であることが好ましい。
【0061】
なお、このようにして晶析させたシュウ酸スカンジウムは、濾過・洗浄処理を施すことで回収することができる。
【0062】
(2)焙焼工程
焙焼工程S42では、シュウ酸化処理により得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を焙焼することで酸化スカンジウムとする。焙焼処理は、得られたシュウ酸スカンジウムの結晶を水で洗浄し、乾燥させた後に焙焼する処理である。この焙焼処理を経ることで、スカンジウムを酸化スカンジウムとして回収することができる。
【0063】
焙焼処理の条件としては、特に限定されないが、例えば管状炉に入れて約900℃で2時間程度加熱すればよい。なお、工業的には、ロータリーキルン等の連続炉を用いることによって、乾燥と焙焼とを同じ装置で行うことができるため好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を示して本発明についてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0065】
[実施例1]
ニッケル酸化鉱のスラリーをオートクレーブに装入し、硫酸を添加して浸出処理を施し、得られた浸出液に対して中和処理、硫化処理を施して、ニッケル硫化物とスカンジウムを含有する硫化後液を得た。さらに、硫化後液に対して公知のイオン交換処理、濃縮処理を経ることによってスカンジウム濃縮液を得た。
【0066】
次に、市販のヤシ殻活性炭80mlをカラムに詰め込み、得られたスカンジウム濃縮液800mlをそのカラムに通液した。なお、通液速度はSV7〜SV10の範囲とし、BV10、すなわち800mlまで通液した。そして、カラムの排出口からBV1(80ml)毎にサンプリングを行い、各サンプル(10サンプル)についてTOC濃度等の分析を行った。下記表1に、各サンプルの分析値を示す。
【0067】
次に、それぞれの通液後液30mlに対して、アミン系抽出剤(Primene JM-T:5体積%、シェルゾールA150:95体積%)を7.5ml加えて混合させて溶媒抽出処理を施した。
【0068】
処理後、市販の理化学用シェーカーにて5分間振とうさせ、その後、静置させてクラッドの有無について目視で確認した。表1に、各サンプルについての溶媒抽出後のクラッドの発生評価を示す。その評価において、『○』はクラッドの発生が認められなかったことを示し、『△』は少量のクラッドの発生が認められたことを示す(なお、後述する比較例では、クラッドの発生が認められた(『×』))。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、有機抽出剤に接触させる溶媒抽出処理に先立ち、スカンジウム濃縮液(硫酸水溶液)に活性炭を接触させることにより、クラッドの発生を抑えることができることが分かった。また、TOC濃度が0.04g/lを超えると、少量のクラッドの発生が認められたことから、TOC濃度が0.04g/l以下となるまで活性炭による処理を行うことが好ましいことが分かった。なお、
図2は、実施例1における結果を示すグラフであり、BVに対するTOC濃度の推移を示すグラフ図である。
【0071】
[比較例1]
実施例1と同様にして得られたスカンジウム濃縮液80mlに対し、アミン系抽出剤(Primene JM−T:5体積%、シェルゾールA150:95体積%)を20ml加えて混合させて溶媒抽出処理を行った。すなわち、比較例1では、実施例1のように溶媒抽出処理に先立って活性炭を詰め込んだカラムに通液させる処理を行わなかった。
【0072】
処理後、市販の理化学用シェーカーにて5分間振とうさせ、その後、静置させてクラッドの有無について目視で確認した。その結果、多くのクラッドの発生が認められた。
図3は、比較例1におけるクラッドが発生した様子を示す写真図である。
【0073】
そして、このような操作を4回繰返した際の、溶媒抽出の前後での抽出剤についてサンプリングし、窒素(N)濃度を分析して抽出剤のロス率を算出した。下記表2に、抽出前のN濃度と4回の抽出後のN濃度、さらに抽出剤のロス率の結果を示す。
【0074】
【表2】