【実施例】
【0057】
本発明について、実施例および図面に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。なお、以下の実施例における、フォトクロミック材料の解析、フォトクロミック現象の発現、および、吸光度の測定は次のようにして評価した。
【0058】
(フォトクロミック材料の構造解析)
厚さ5mmのフォトクロミック材料に、粉末X線回折装置(リガク社製)を用いて、データベースとの比較により、フォトクロミック材料の結晶構造を特定した。
【0059】
(フォトクロミック現象の発現)
得られたフォトクロミック材料に、ブラックライトを用いて所定の紫外線を照射することで着色し、着色したフォトクロミック材料に、所定の可視光を照射することで脱色させた。
【0060】
(繰り返し応答特性)
可視・紫外分光光度計(日本分光社製)を用いて、着色プロセスとして、得られたフォトクロミック材料に、254nmの紫外線を照射し、脱色プロセスとして、着色したフォトクロミック材料に、400nmの可視光を照射し、さらに着色プロセスと脱色プロセスを繰り返し、吸光度の測定を行った。
【0061】
[実施例1]
炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、酸化スズ(SnO
2)および酸化ユウロピウム(Eu
2O
3)を化学組成 Sr
1.995Eu
0.005SnO
4−δ(δは、アニオン空孔量を示す。アニオン空孔量は、理論的にはカチオン空孔(Srカチオン空孔)量と同一である)と一致するよう秤量し、少量のエタノールを用いて上記原料を混合した。混合物を乾燥させた後、空気中下にて800℃で1時間に亘って仮焼成した。仮焼成した混合物を再度粉砕し、混合した。錠剤機を用いて粉末状の混合物をペレット状に成形した。この成形物を空気中にて1100℃で5時間に亘って焼成し、フォトクロミック材料である、Eu
3+を含有したSr
2SnO
4を得た。
【0062】
[実施例2]
成形物の焼成温度を1100℃から1200℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、フォトクロミック材料である、Eu
3+を含有したSr
2SnO
4を得た。
【0063】
[実施例3]
成形物の焼成温度を1100℃から1300℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、フォトクロミック材料である、Eu
3+を含有したSr
2SnO
4を得た。
【0064】
[実施例4]
成形物の焼成温度を1100℃から1400℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、フォトクロミック材料である、Eu
3+を含有したSr
2SnO
4を得た。
【0065】
[実施例5]
成形物の焼成温度を1100℃から1500℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、フォトクロミック材料である、Eu
3+を含有したSr
2SnO
4を得た。
【0066】
[実施例6]
成形物の焼成温度を1100℃から1600℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、フォトクロミック材料である、Eu
3+を含有したSr
2SnO
4を得た。
【0067】
<実施例1〜6に係るフォトクロミック材料の評価>
(フォトクロミック材料の構造解析)
得られたフォトクロミック材料に対し、粉末X線回折装置を用いて解析を行った。
図2は、実施例1〜6に係るフォトクロミック材料のX線強度を示すグラフである。
図2において、1100dとは、1100℃を示している。1200d〜1600dについても同様である。
【0068】
この粉末X線回析の結果と、データベースとの比較によって、実施例1〜6に係るフォトクロミック材料は、斜方相(Pbnb;a=5.735Å、b=12.587Å、c=5.728Å)の単相であることが確認された。上記酸化物結晶は、ルデルスデン−ポッパー型ペロブスカイト構造の1つである層状ペロブスカイト構造を有する。上記構造において、希土類イオンは、一般式:M
x+1N
xO
3x+1の元素Mの部位であるSrのカチオン空孔に含有(置換)されている。
【0069】
(フォトクロミック現象の発現)
実施例6にて製造したフォトクロミック材料について、フォトクロミック現象を確認した。結果を
図3に示す。
図3は、上記フォトクロミック材料の紫外線照射前後の吸収スペクトルを示すグラフである。まず、フォトクロミック材料に254nmの紫外光を照射した。その後、フォトクロミック材料の吸収スペクトルを確認したところ、照射前には確認されなかった600nm付近をピークとした強い吸収バンドが生じ、このフォトクロミック材料は、紫色へと変化した。
【0070】
次に、この紫色に変化したフォトクロミック材料に400nmの可視光を照射した。照射した後、直ちに600nm付近をピークとした強い吸収バンドは消失し、400nmの可視光が照射されたフォトクロミック材料は、着色前の白色のペレットサンプルに戻り、好適にフォトクロミック現象の発現が確認された。
【0071】
(繰り返し応答特性)
実施例6にて製造したフォトクロミック材料について、繰り返し応答特性を測定した。上記フォトクロミック材料に、254nmの光を照射し、着色させた。また、着色したフォトクロミック材料に400nmの光を照射し、脱色させた。この着色および脱色のプロセスを10回繰り返した。
図4は、繰り返し応答特性の結果を示すグラフである。
【0072】
図4より、着色および脱色のプロセスを10回繰り返しても、フォトクロミック材料の吸光度に変化は見られなかった。これより、当該フォトクロミック材料が優れた繰り返し応答性を有することが確認された。
【0073】
次に、実施例1〜6にて製造した各フォトクロミック材料(Eu
3+を含有したSr
2SnO
4)の着色濃度と焼成温度との関係を確認した。
図5は、各サンプルの吸収スペクトル示すグラフである。同図では、温度の単位をケルビン(K)で示しており、1373Kが1100℃に、1473Kが1200℃に、1573Kが1300℃に、1673Kが1400℃に、1773Kが1500℃に、1873Kが1600℃に対応する。
【0074】
図5から、焼成温度が上昇するにつれて、600nmの吸収スペクトルのピークが上昇していることがわかる。また、紫色の着色濃度も大きくなっていることがわかる。さらに、1100℃で焼成したSr
2SnO
4:Eu
3+の吸収スペクトルはあまり変化していないことから、焼成温度は1200℃以上が好ましいことがわかる。
【0075】
[実施例7]
焼成温度を1600℃とし、フォトクロミック材料(Eu
3+を含有したSr
2SnO
4)中におけるEuの含有量が0.1mol%となるように、各原料を秤量したこと以外は、実施例1と同様にしてフォトクロミック材料を得た。また、上記Euの含有量を、0.5mol%、1mol%、2mol%および3mol%に変更し、同様に、複数のフォトクロミック材料を得た。
【0076】
得られた各フォトクロミック材料の拡散反射スペクトルを測定した。その結果を
図6に示す。
図6より、Euの含有量が、0.5mol%であるフォトクロミック材料が600nmでの反射スペクトルが低いことがわかる。これは、Euの含有量が0.5mol%であるフォトクロミック材料では、600nmでの吸収スペクトルが大きいことを示し、Euの含有量が0.5mol%である場合、最適なフォトクロミック材料を調製できることがわかる。
【0077】
(フォトクロミック現象の原理)
図7および
図8を用いて以下に、実施例に係るフォトクロミック材料のフォトクロミック現象のメカニズムについて説明する。
【0078】
図7は、紫外線照射時の吸収ピーク値(600nm)の照射波長依存性を示したグラフであり、ユウロピウムイオンを含有した試料および無添加の試料の紫外線照射前の吸収スペクトルを示している。
図7は、紫外線照射前のEu無添加Sr
2SnO
4(点線)とEu添加試料Sr
2SnO
4(実線)の吸収スペクトルの比較した図であり、紫外線照射時の吸収ピーク(600nm)の照射波長依存性(黒丸+線)も併せて示している。
【0079】
図7より、ユウロピウムイオンが添加された試料のみにおいて、母体のバンドキャップ(4.5eV)よりも低エネルギー側、すなわち長波長側から着色が起きており、バンドキャップエネルギー内の光吸収が確認される。それゆえ、紫外線照射時の着色プロセスは、ユウロピウムイオンすなわち酸化物結晶に添加された希土類イオンとその最近接イオンである酸素イオンとの間に生じる電荷移動に起因していると考えられる。
【0080】
フォトクロミック現象は、
図8に示すように、a:色中心形成プロセス、b:着色プロセスおよびc:脱色プロセスの3つのプロセスから構成されている。以下Sr
2SnO
4:Eu
3+を例として用いる。
【0081】
(a:色中心形成プロセス)
紫外線照射により、Eu
3+イオンの最近接イオンである酸素イオンから電子がEu
3+イオンに移動し、ユウロピウムイオンの価数が3価から2価に還元される。このプロセスにて生じた正孔は、価電子帯を通してストロンチウム空孔に捕獲される。3価から2価に還元されたユウロピウムイオンが一種の色中心となる。
【0082】
(b:着色プロセス)
フォトクロミック現象の着色は、2価のユウロピウムイオンの基底状態である4f状態と励起状態である5d状態との間のエネルギー遷移によって生じるものと考えられる。この電子遷移は、パリティ許容遷移であるため強い吸収が観測される。ただし通常2価のユウロピウムは励起状態から基底状態に遷移する際、フォトンを放出して可視領域の発光を示すが、この場合、熱もしくはエネルギー回遊によって無輻射的に基底状態に戻っており、これが着色の原因だと考えられる。
【0083】
(c:脱色プロセス)
着色状態に可視光を照射することにより、ストロンチウム空孔に捕獲されていた正孔が価電子帯へ放出され2価のユウロピウムイオンと再結合することにより、ユウロピウムの価数が2価から3価へと酸化され元の状態へ戻る。
【0084】
上述したプロセスにおいて、ストロンチウム空孔が正孔の捕獲準位として働くと考えられる。実際、リートベルト解析にて各焼成温度試料のストロンチウム空孔濃度を調べ、その結果を
図9に示す。
図9より、焼成温度が高いほどストロンチウムの席占有率が減少すること、すなわち、高い温度で焼成すると高濃度のストロンチウム空孔(欠陥)が形成されることがわかる。
図9から、高い温度で焼成した本発明のフォトクロミック材料は、正孔を捕獲する役目を果たすストロンチウム空孔濃度が上昇するため、着色濃度が高いことがわかる。
【0085】
したがって、高い温度で焼成する方法だけでなく、フォトクロミック材料を製造する際に、金属イオン(一般式中のM:ストロンチウムなどの金属イオン)の量を理論値よりも少なくして、故意にカチオン空孔を形成された試料でもカチオン空孔を形成させる方法によって、フォトクロミック現象を向上させることができる(例えば、Eu
3+を含有したSr
2−xSnO
4−x:0<x<0.04)。
【0086】
[実施例8]
実施例1において、焼成温度を1500℃に変更し、酸化ユウロピウムを、酸化エルビウム、酸化ホルミウム、酸化ツリウム、または、酸化ガドリニウムに変更して、着色の異なるフォトクロミック材料を製造した。
【0087】
また、実施例1において、焼成温度を1500℃に変更し、炭酸ストロンチウムを炭酸バリウムに変更して、紫色でなく水色に着色したフォトクロミック材料を製造した。得られた各フォトクロミック材料を着色した際の各色を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
また、各フォトクロミック材料のフォトクロミズムの様子と、吸収スペクトルを
図10のグラフに示す。このように、本発明に係るフォトクロミック材料では、希土類イオンと母体となるルデルスデン−ポッパー型ペロブスカイト構造を有する酸化物結晶との組合せを変えることにより様々な着色(吸光スペクトル)を有するフォトクロミック材料を得ることができる。
【0090】
以上より、本発明の希土類イオンが含有したルデルスデン−ポッパー型ペロブスカイト構造を有する酸化物結晶から成るフォトクロミック材料は、直ちに脱色せず、着色状態の耐久性を備えており、ピンク色以外の種々の色彩を発現することができ、非常に有望な材料であるといえる。
【0091】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。