特許第6032417号(P6032417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6032417活性エネルギー線硬化性組成物、積層体及び積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032417
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性組成物、積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20161121BHJP
   C08K 5/5435 20060101ALI20161121BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20161121BHJP
   C08G 77/04 20060101ALI20161121BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20161121BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20161121BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20161121BHJP
   C09D 133/06 20060101ALI20161121BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C08L83/06
   C08K5/5435
   C08L33/06
   C08G77/04
   C08J7/04 KCER
   C08J7/04CFH
   C09D183/06
   C09D7/12
   C09D133/06
   B32B27/30 A
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-527129(P2012-527129)
(86)(22)【出願日】2012年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2012062181
(87)【国際公開番号】WO2012153848
(87)【国際公開日】20121115
【審査請求日】2015年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-106139(P2011-106139)
(32)【優先日】2011年5月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】野村 美菜
(72)【発明者】
【氏名】竹内 浩史
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−285502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09D
B05D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(D)成分を含有する活性エネルギー線硬化性組成物。
(A)式(1)で示されるオルガノアルコキシシランを含むシラン系単量体の加水分解・縮合物で、質量平均分子量が2,000以下のシロキサン系オリゴマー
1aSi(OR24-a (1)
(R1は炭素数1〜10の有機基を示す。R2は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。aは1〜3の整数を示す。)
(B)式(2)で示されるエポキシ基含有アルコキシシラン
34bSi(OR53-b (2)
(R3はエポキシ基を含有する有機基を示す。R4は炭素数1〜10の有機基を示す。R5は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。bは0〜2の整数を示す。)
(C)質量平均分子量30,000以上のポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂
(D)活性エネルギー線感応性酸発生剤
【請求項2】
(D)活性エネルギー線感応性酸発生剤が熱によっても酸を発生するものである請求項1に記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項3】
活性エネルギー線硬化性組成物が溶剤を更に含有する請求項2に記載の活性エネルギー線硬化性組成物。
【請求項4】
下記(A)〜(D)成分を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を、硬化してなる硬化被膜であり、A)シロキサン系重合体を最内層に比べて相対的に多く含有する表層、及び硬化被膜の基材表面に接する面を形成する(C)質量平均分子量30,000以上のポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂を表層に比べて相対的に多く含有する最内層を有する硬化被膜。
(A)式(1)で示されるオルガノアルコキシシランを含むシラン系単量体の加水分解・縮合物で、質量平均分子量が2,000以下のシロキサン系オリゴマー
1aSi(OR24-a (1)
(R1は炭素数1〜10の有機基を示す。R2は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。aは1〜3の整数を示す。)
(B)式(2)で示されるエポキシ基含有アルコキシシラン
34bSi(OR53-b (2)
(R3はエポキシ基を含有する有機基を示す。R4は炭素数1〜10の有機基を示す。R5は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。bは0〜2の整数を示す。)
(C)質量平均分子量30,000以上のポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂
(D)活性エネルギー線感応性酸発生剤
【請求項5】
請求項3に記載の活性エネルギー線硬化性組成物を、基材表面に塗布して塗布膜を形成した後に、活性エネルギー線感応性酸発生剤が熱により酸を発生する温度以上の温度で、塗布膜中の溶剤を揮発させ、次いで活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性組成物の硬化被膜を形成させる積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性エネルギー線硬化性組成物、前記硬化性組成物を硬化して得られる積層体及び前記積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明ガラスの代替として、耐破砕性及び軽量性に優れる、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の透明プラスチック材料が広く使用されるようになってきた。更に、最近では、自動車用グレージング材、道路標識、道路遮音壁等の壁材やテラスの屋根材といった屋外用途においても上記の透明プラスチック材料の使用の要望が高くなっている。
このような状況において、特許文献1及び2では、外観及び基材との密着性に優れ、屋外用途でも使用できる高耐擦傷性を有する保護被膜を短時間で形成できる、特定のシリケートを加水分解・縮合して得られるシロキサン化合物、活性エネルギー線感応性カチオン重合開始剤、エポキシ化合物及びアクリル重合体を含有する活性エネルギー線硬化性コーティング用組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2005/085373号公報
【特許文献2】特開2010−270202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、硬化被膜のクラック発生を抑制し、硬化被膜と基材との密着性を良好なものとする場合には、硬化被膜の耐擦傷性の低下を生じさせ易いという問題がある。また、硬化被膜と基材との初期密着性は良好であっても、屋外暴露後の耐候密着性については十分とはいえない。
本発明の目的は、良好な外観を有し、耐擦傷性、耐クラック性及び耐候密着性に優れた硬化被膜を短時間で形成することが可能な活性エネルギー線硬化性組成物及びその硬化被膜が基材表面に積層された積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の要旨は、下記(A)〜(D)成分を含有する活性エネルギー線硬化性組成物である。
(A)式(1)で示されるオルガノアルコキシシラン(以下、「オルガノアルコキシシラン(1)」という)を含むシラン系単量体(以下、「シラン系単量体(1´)」という)の加水分解・縮合物で、質量平均分子量(Mw)が2,000以下のシロキサン系オリゴマー(以下、「(A)成分」という)
1aSi(OR24-a (1)
(R1は炭素数1〜10の有機基を示す。R2は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。aは1〜3の整数を示す。)
(B)式(2)で示されるエポキシ基含有アルコキシシラン(以下、「(B)成分」という)
34bSi(OR53-b (2)
(R3はエポキシ基を含有する有機基を示す。R4は炭素数1〜10の有機基を示す。R5は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。bは0〜2の整数を示す。)
(C)質量平均分子量30,000以上の有機系重合体(以下、「(C)成分」という)
(D)活性エネルギー線感応性酸発生剤(以下、「(D)成分」という)
【0006】
また、本発明の第2の要旨は、上記活性エネルギー線硬化性組成物を、基材上に塗布して得られる硬化被膜であり、該硬化被膜が、シロキサン系重合体を最内層に比べて相対的に多く含有する表層、及び硬化被膜の基材表面に接する面を形成する(C)有機系重合体を表層に比べて相対的に多く含有する最内層を有する硬化被膜である。
更に、本発明の第3の要旨は、上記硬化性組成物を基材表面に塗布して塗布膜を形成した後に、上記(D)成分が熱により酸を発生する温度以上の温度で、塗布膜中の溶剤を揮発させ、次いで活性エネルギー線を照射して硬化被膜を形成させる積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、良好な外観を有し、耐擦傷性、耐クラック性及び耐候密着性に優れた硬化被膜を短時間で形成できることから、高度の耐候性(耐クラック性及び耐候密着性)及び耐擦傷性が要求される自動車用グレージング材、道路標識、道路遮音壁等の壁材やテラスの屋根材といった屋外用途に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の硬化被膜の実施形態(実施例5)を示す断面写真である。
図2】本発明の硬化被膜の実施形態(実施例7)を示す断面写真である。
図3】本発明の硬化被膜の実施形態(実施例8)を示す断面写真である。
図4】本発明以外の硬化被膜の実施形態(比較例1)を示す断面写真である。
図5】本発明以外の硬化被膜の実施形態(比較例2)を示す断面写真である。
図6】本発明以外の硬化被膜の実施形態(比較例6)を示す断面写真である。
図7】本発明の硬化被膜の実施形態(実施例5)の被膜表面の赤外線吸収スペクトルである。
図8】本発明の硬化被膜の実施形態(実施例7)の被膜表面の赤外線吸収スペクトルである。
図9】本発明以外の硬化被膜の実施形態(比較例1)の被膜表面の赤外線吸収スペクトルである。
図10】本発明以外の硬化被膜の実施形態(比較例2)の被膜表面の赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔(A)成分〕
(A)成分は、式(1)で示されるオルガノアルコキシシランを含むシラン系単量体の加水分解・縮合物で、質量平均分子量が2,000以下のシロキサン系オリゴマーである。
1aSi(OR24-a (1)
(R1は炭素数1〜10の有機基を示す。R2は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。aは1〜3の整数を示す。)
【0010】
〔オルガノアルコキシシラン(1)〕
本発明で使用されるオルガノアルコキシシラン(1)は式(1)で示される化合物である。式中R1は炭素数1〜10の有機基を示す。炭素数1〜6の有機基がより好ましい。R1の炭素数が前記範囲内であれば硬化被膜の有機性が比較的低くなり、被膜の硬度が高くなる傾向にある。前記有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アリール基、グリシジル基が挙げられる。より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基、スチリル基、アリル基、アセチル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、フェニル基、グリシジル基、グリシドキシプロピル基等が挙げられる。これらの基は、塩素、臭素、ヨウ素に代表されるハロゲン、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、アミノ基基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基により置換されていてもよい。置換基数は好ましくは1〜3、より好ましくは1である。
2は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。加水分解・縮合の反応が速い点で、炭素数1〜2のアルキル基がより好ましい。R2の炭素数が前記範囲であれば加水分解しやすいため、オリゴマーが合成しやすく、且つ被膜の硬化度が高くなる傾向にある。
【0011】
オルガノアルコキシシラン(1)の具体例としては、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン及びトリエチルエトキシシランが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。これらの中で、本発明の硬化被膜に良好な耐擦傷性を付与できる点で、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン及びジメチルジメトキシシランが好ましい。
【0012】
本発明の(A)成分のシロキサン系オリゴマーには、オルガノアルコキシシラン(1)に加えてオルガノアルコキシシラン(1)以外のオルガノアルコキシシラン又はそのオリゴマーやアルキルシリケートから選択されるシラン系単量体(1´)を含んでいてもよい。
【0013】
アルキルシリケートの具体例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、イソブチルシリケート、n−ブチルシリケート及びこれらのオリゴマーが挙げられる。
アルキルシリケートのオリゴマーとしては、例えば、式(3)で示される化合物が挙げられる。これらの中で、加水分解・縮合の反応が速い点で、R6〜R9の総てがメチル基であるメチルシリケート及びR6〜R9の総てがエチル基であるエチルシリケートが好ましい。式(3)において、nが1〜7の整数で示される化合物が好ましい。n=1〜7であれば硬化後の架橋密度が高いことから発生するクラックを抑制できる傾向にある。
これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0014】
(3)
【0015】
(式中、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ同一でも異なっていても良く、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜10の整数である。)
【0016】
尚、本発明において、「加水分解・縮合」とは、加水分解の後に縮合させることをいい、「加水分解・縮合物」とは、加水分解・縮合で得られるものをいう。
【0017】
本発明で使用される(A)成分は、オルガノアルコキシシラン(1)の加水分解・縮合物であり、Mwが2,000以下、好ましくは300〜1,500、更に好ましくは300〜1,000のものである。
(A)成分のMwが2,000以下であれば、硬化被膜の初期ヘイズを低くすることができ、また、基材との密着性が良好となる。
尚、本発明において、(A)成分のMwはゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で測定して得られるポリスチレン換算における値をいう。
【0018】
オルガノアルコキシシラン(1)及びシラン系単量体(1´)の加水分解の方法としては、例えば、オルガノアルコキシシラン及びシラン系単量体(1´)をアルコールに溶解し、更に水(単量体1モルに対して水1〜100モル)を加えて撹拌する方法や、オルガノアルコキシシラン(1)とシラン系単量体(1´)をアルコールに溶解し、更に水(単量体1モルに対して水1〜100モル)及び塩酸、酢酸等の酸を加えて混合液を酸性(pH2〜5)として攪拌する方法が挙げられる。
本発明においては、上記の加水分解に際して発生するアルコールは系外に留去することができる。
オルガノアルコキシシラン(1)及びシラン系単量体(1´)の加水分解に続く縮合の方法としては、例えば、加水分解された混合液をそのまま放置する方法が挙げられる。縮合の際、加水分解された混合液のpHを中性付近(例えばpH6〜7)に制御することにより、縮合の進行を速めることができる。縮合に際して発生する水は系外に留去することができる。
また、加水分解に続けて縮合させる方法としては、オルガノアルコキシシラン(1)及びシラン系単量体(1´)をアルコールに溶解し、更に水(単量体1モルに対して水1〜100モル)を加えた混合液を撹拌しながら加熱(例えば30〜100℃)する方法が挙げられる。
【0019】
〔(B)成分〕
本発明で使用される(B)成分は式(2)で示される化合物である。
34bSi(OR5)3-b (2)
式中、R3はエポキシ基を有する有機基を示し、R4は炭素数1〜10の有機基を示す。また、R5は炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示し、bは0〜2の整数を示す。
3の「エポキシ基を有する有機基」としては、エポキシ基を有する、炭素数1〜10の、アルキル基、アルケニル基が挙げられ、これらの基は、直鎖、分岐鎖、環状基のいずれであってもよい。エポキシ基は、3,4−エポキシシクロヘキシルのように環状基の環上に位置していてもよく、また、3−グリシドキシプロピル基のように、置換基としてグリシジル基を有していてもよい。
4の「炭素数1〜10の有機基」としては、炭素数1〜10の、アルキル基又はアルコキシ基が挙げられる。
【0020】
(B)成分の具体例としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0021】
(B)成分としては、本発明の硬化被膜から形成される積層体の表面を形成する面の耐擦傷性を良好とする点で、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
本発明においては、必要に応じて、(B)成分として、式(2)以外のエポキシ基含有オルガノシランを含有することができる。
【0022】
本発明においては、(A)成分中の有機性と(A)成分中のシラノールによる極性、更には後述する溶剤を使用する場合の溶剤の極性に応じて、(B)成分としてアルコキシ基の一部又は全部を加水分解して極性を調整したものを使用することができる。(B)成分としてアルコキシ基の一部を加水分解して極性を調整したものを使用することによって、得られる硬化被膜と基材との密着性を良好とすることができる。
【0023】
〔(C)成分〕
本発明で使用される(C)成分は、質量平均分子量30,000以上の有機系重合体である。
(C)のMwとしては、30,000〜2,000,000が好ましく、100,000〜1,000,000がより好ましい。Mwが30,000以上で、基材への密着性が向上する傾向にある。また、Mwが2,000,000以下で、硬化被膜の透明性が良好となる傾向にある。
尚、本発明において、(C)成分のMwはゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で測定して得られるポリスチレン換算における値をいう。
【0024】
本発明で使用される有機系重合体は、特に限定されないが、透明性の観点から、透明性の良好な樹脂が好ましく、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0025】
(C)成分としては、溶剤への溶解性、透明性、溶融温度のコントロール等のための分子設計の容易さの点で、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂が好ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂を得るために使用される単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ラウリル、(メタ)アクリル酸n−ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0026】
本発明においては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂を得るために使用される単量体としては、必要に応じて上記単量体と共重合可能な単量体を併用することができる。上記単量体と共重合可能な単量体としては例えば、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ソルビン酸等のカルボキシル基含有ビニル単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ブチルマレイミド等のマレイミド誘導体、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロ−ル、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、ダイアセトンアクリレ−ト、ダイアセトンメタクリレ−ト、アセトニルアクリレート、アクリルオキシアルキルプロペナール、メタクリルオキシアルキルプロペナール等のアルデヒド基又はケト基に基づくカルボニル基を有するビニル単量体、メタクリルアミド、アクリルアミド、クロトンアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアミド基含有ビニル単量体、アリルグリシジルエーテル、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有ビニル単量体、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルエチルジメトキシシラン、β−アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、β−アクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、β−メタクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロイルオキシエチルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ−n−ブトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルエチルトリメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、イソプロペニルトリメトキシシラン、イソプロペニルメチルジメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、5−ヘキセニルトリメトキシシラン、9−デセニルトリメトキシシラン等のケイ素含有不飽和単量体、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル単量体、ブタジエン等のオレフィン系単量体等が挙げられる。また、必要に応じて、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート等の架橋剤を使用することができる。
【0027】
(C)成分として使用されるポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂の中では、硬化膜が相分離しやすい点で側鎖に反応性官能基を持たない、もしくは相分離を阻害しない程度に反応性官能基の含有量の少ないポリマーが好ましい。中でも透明性及びガラス転移温度並びに硬化被膜の硬度及び基材への密着性の点で、ポリメタクリル酸メチルが好ましい。
【0028】
ここで「反応性官能基」とは、シラノール又はアルコキシシランと反応性を有する官能基を意味する。
本発明において、「シラノール」とは(A)成分及び(B)成分のアルキルシリケートから選ばれる少なくとも1種が加水分解されて生成される化合物を示す。式(3)で表されるアルキルシリケートが存在する場合には、「シラノール」は更に式(3)で表されるアルキルシリケートが加水分解されて生成される化合物を含む。「アルコキシシラン」とは(A)成分及び(B)成分から選ばれる少なくとも1種が加水分解されずに残っている化合物を意味する。式(3)で表されるアルキルシリケートが存在する場合には、「アルコキシシラン」は更に式(3)で表されるアルキルシリケートが加水分解されずに残っている化合物を含む。「シラノール又はアルコキシシランと反応性を有する官能基」としては、例えば、シラノール基、アルコキシシリル基、水酸基、アミノ基及びエポキシ基が挙げられる。
【0029】
上記の反応性官能基を有する有機系重合体の例としては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体の単量体単位を含有する(メタ)アクリル系樹脂、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有単量体の単量体単位を含有する(メタ)アクリル系樹脂及び2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体の単量体単位を含有する(メタ)アクリル系樹脂が挙げられる。
また、上記の(メタ)アクリル系樹脂以外の重合体としては、例えば、ポリエステルポリオール、エポキシ樹脂及びポリビニルアルコールが挙げられる。
(C)成分中にシラノール又はアルコキシシランと反応性のある官能基を持つ有機系重合体を用いた場合、無機層と有機層の分離が不完全となったり、相溶して均一となったりして、有機層がプラスチック基材側に密着性のある有機重合体が配向しなくなる。
【0030】
尚、本発明において、「(メタ)アクリル酸」及び「(メタ)アクリレート」はそれぞれ「アクリル酸」又は「メタクリル酸」及び「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
【0031】
(C)成分としては、溶剤への溶解性、透明性、溶融温度のコントロール等のための分子設計の容易さの点で、ポリアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
ポリアルキル(メタ)アクリレートを得るために使用される単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0032】
〔(D)成分〕
本発明で使用される(D)成分は可視光線、紫外線、熱線、電子線等の活性エネルギー線の照射により酸を発生して(A)成分及び(B)成分に重縮合反応を起こさせる化合物である。
(D)成分としては、短時間で硬化被膜を形成できる点で、可視光線及び紫外線照射により酸を発生するものが好ましい。
また、(D)成分としては、溶剤を揮発させる加熱工程で硬化度を上げるため、可視光線及び紫外線と共に熱によっても酸を発生するものが好ましい。
【0033】
(D)成分としては、例えば、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、セレニウム塩、オキソニウム塩及びアンモニウム塩が挙げられる。
(D)成分の具体例としては、イルガキュア250(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、商品名)、アデカオプトマーSP−150及びアデカオプトマーSP−170((株)ADEKA製、商品名)、サイラキュアUVI−6970、サイラキュアUVI−6974、サイラキュアUVI−6990及びサイラキュアUVI−6950(米国ユニオンカーバイド社製、商品名)、DAICATII(ダイセル化学工業(株)製、商品名)、UVAC1591(ダイセル・ユーシービー(株)製、商品名)並びにCI−2734、CI−2855、CI−2823及びCI−2758(日本曹達(株)製、商品名)が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0034】
また、(D)成分のうち、熱によっても酸を発生するものとしては、例えば、サンエイドSI−60L、サンエイドSI−80L、サンエイドSI−100L及びサンエイドSI−150L(三新化学工業(株)製、商品名)が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0035】
本発明においては、目的に応じて(D)成分として光にのみ感応性を有する光感応性酸発生剤を使用し、熱にのみ反応性を有する熱感応性酸発生剤を併用することもできる。
【0036】
(D)成分又は熱感応性酸発生剤が酸を発生する温度の測定方法としては、例えば、(D)成分又は熱感応性酸発生剤を添加したエポキシ樹脂の示差走査熱量測定(DSC)により推測する方法が挙げられる。
【0037】
〔硬化性組成物〕
本発明の硬化性組成物は(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を含有する。
上記組成物中の(A)成分と(B)成分の配合量としては、(A)成分の固形分100質量部に対して(B)成分の固形分3〜200質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましい。(B)成分の固形分が3質量部以上で、硬化被膜の耐候性が良好となる傾向がある。また、(B)成分の固形分が200質量部以下で、硬化被膜の硬度の低下及び硬化被膜の基材への密着性の低下を抑制できる傾向にある。
尚、(A)成分又は(B)成分の固形分とは、(A)成分又は(B)成分の縮合が完結したときの(A)成分又は(B)成分に基づく縮合後の構造の理論量をいう。
【0038】
(C)成分の配合量としては、(A)成分及び(B)成分の固形分の合計量100質量部に対して3〜50質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。(C)成分の配合量が3質量部以上で、硬化被膜の基材への密着性が良好となる傾向にある。また、(C)成分の配合量が50質量部以下で、硬化被膜の耐擦傷性が良好となる傾向にある。
【0039】
(D)成分の配合量としては、シロキサン系オリゴマー(A)及びエポキシ基含有アルコキシシラン(B)の固形分の合計100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜8質量部がより好ましい。(D)成分の配合量が0.01質量部以上で、活性エネルギー線の照射により、組成物の硬化性が良好となる傾向にある。また、(D)成分の配合量が10質量部以下で、低着色で被膜物性の低下の少ない硬化被膜が得られる傾向にある。
【0040】
本発明においては、上記硬化性組成物の固形分濃度調整、分散安定性向上、塗布性向上、基材への密着性向上等を目的として、当該硬化性組成物中に溶剤を含有することができる。
また、硬化性組成物中には、必要に応じて、無機微粒子、染料、顔料、顔料分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤等の各種添加剤を配合することができる。
【0041】
〔溶剤〕
上記硬化性組成物中に含有される溶剤としては、例えば、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、セロソルブ及び芳香族化合物が挙げられる。
【0042】
溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ベンジルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−ブトキシエタノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、アニソール、フェネトール、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、グリセリンエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセテート、2−エチルブチルアセテート、2−エチルヘキシルアセテート、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、γ−ブチロラクトン、2−メトキシエチルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、2−ブトキシエチルアセテート、2−フェノキシエチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ベンゼン、トルエン及びキシレンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用できる。
【0043】
上記硬化性組成物中の溶剤の含有量としては、(A)〜(D)成分の合計100質量部に対して10〜1,000質量部が好ましい。溶剤の含有量が10質量部以上で、硬化性組成物の保存安定性が良好となり、硬化性組成物の粘度が高くなり過ぎず、良好な塗膜が得られる傾向にある。また、溶剤の含有量が1,000質量部以下で、硬化性組成物の固形分が低くなりすぎて塗膜が薄くなるという問題が生じ難くなり、硬化被膜の耐擦傷性を良好とすることができる傾向にある。
【0044】
本発明においては、上記硬化性組成物を後述する基材の表面に塗布して塗布膜を形成した後に硬化させることにより、基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得ることができる。
【0045】
〔基材〕
本発明で使用される基材としては、例えば、プラスチック、金属、紙、木質材及び無機質材が挙げられる。これらの中で、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、メタクリル酸メチルとスチレンの共重合体等のプラスチック基材が好適である。
本発明においては、必要に応じて、表面にプライマー層を形成した基材を使用することができる。
プライマー層としては、例えば、多官能アクリレートを含有する光硬化性プライマーを塗布して硬化したものが挙げられる。
【0046】
〔塗布膜〕
本発明の塗布膜は、基材表面に、上記硬化性組成物を塗布して得られる。
基材への本組成物の塗布方法としては、例えば、ディップ法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、スピンコート法、フローコート法及び静電塗装法が挙げられる。
【0047】
〔硬化被膜〕
本発明の硬化被膜は、基材等の表面に塗布された上述の塗布膜を硬化して得られる。
本発明においては、硬化被膜は良好な外観を有し、耐擦傷性に優れたものである。
また、硬化被膜は耐クラック性及び耐候密着性に優れたものである。
【0048】
本発明の硬化被膜は表層と最内層の少なくとも2層構造を有する層構造であり、表層は積層体の硬化被膜を有する面の表面に形成され、シロキサン系重合体を最内層に比べて相対的に多く含有している。また、最内層は硬化被膜の基材と接する面に形成され、(C)有機系重合体を表層に比べて相対的に多く含有している。なお、本明細書において、「最内層」とは、基板に接するように存在する内層を意味する。
本発明においては、必要に応じて、表層と最内層の間に、シロキサン系重合体と(C)有機系重合体とが混ざり合った少なくとも1層の中間層を有していてもよい。
【0049】
硬化被膜の層構造(表層と最内層)の有無及びそれぞれの層の厚みについては、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)による硬化被膜の断面の透過像で確認することができる。また、赤外分光法の全反射法(ATR法)で、基材から剥離して得られる硬化被膜の表層及び最内層の赤外吸収スペクトルを測定することにより硬化被膜の層構造の様子を推測することができる。
尚、上記基材から剥離された硬化被膜を得る方法としては、例えば、長時間の耐候性試験により基材から剥離された硬化被膜を得る方法又はテフロン(登録商標)板等の硬化被膜と密着性の低い基材を用いて積層体を作製した後に硬化被膜を剥離させる方法が挙げられる。
【0050】
TEM観察像では、電子線の透過、散乱に応じてコントラストの濃淡が観察できる。散乱の程度は試料の密度や厚さが大きいほど、また含まれる原子が重いほど大きくなり、金属酸化物は密度も大きく重い金属原子も含まれているため散乱の角度が有機物よりも大きく、有機物に比べて黒く映る。シロキサン系重合体成分である(A)成分及び(B)成分は濃く観察され、(C)有機系重合体成分は、淡く観察される。
本発明の硬化被膜は、シロキサン系重合体を最内層に比べて相対的に多く含有する表層は、コントラストが濃く観察され、(C)有機系重合体成分を表層に比べて相対的に多く含有する最内層は、コントラストが薄く観察される。また、中間層を有する場合は、コントラストが濃い部分と薄い部分が混在して、もしくは中間的なコントラストとして観察される。
【0051】
赤外分光法の全反射法(1回反射ATR法)では、波数によって異なるものの、表層からサブμm〜1μm以内の深さ領域の赤外吸収を測定できる。
最表層の主成分がシロキサン系重合体である場合、1020cm-1付近のシロキサン結合由来の吸収が大きく検出され、(C)有機系重合体に由来する1730cm-1付近のカルボニル基((C)有機系重合体がPMMAである場合)の吸収は検出されないか、検出されても微小となる。
本発明の硬化被膜の全反射法によるIRスペクトルは、シロキサン結合由来の吸収が強く検出され、カルボニル基由来の吸収はほとんど見られない。
【0052】
本発明の硬化被膜の厚みは、通常0.5〜50μm程度である。
本発明の硬化被膜が、上記表層及び最内層を有する場合、表層の厚みとしては0.5〜30μmが好ましく、1〜15μmがより好ましい。表層の厚みが0.5μm以上で、硬化被膜の硬度及び耐擦傷性を良好とすることができる傾向にある。また、表層の厚みが30μm以下で、硬化被膜の耐クラック性を良好とすることができる傾向にある。
本発明の硬化被膜が、上記表層及び最内層を有する場合、最内層の厚みとしては0.05〜10μmが好ましい。最内層の厚みが0.05μm以上で硬化被膜の基材への密着性を良好とすることができる傾向にあり、10μm以下で硬化被膜の硬度を良好とすることができる傾向にある。
【0053】
〔積層体の製造方法〕
本発明の積層体は、基材表面に、上記硬化性組成物を塗布し、得られた塗布膜に、活性エネルギー線を照射して該塗布膜を硬化することにより得られる。
活性エネルギー線としては、例えば、可視光線、真空紫外線、紫外線及び電子線が挙げられる。
活性エネルギー線の具体例としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマーレーザー及び太陽光を光源とする光が挙げられる。これらの中で、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯及びメタルハライドランプを光源とした光が好ましい。
活性エネルギー線は単独で又は2種以上を併せて使用できる。
活性エネルギー線の照射エネルギー量としては、例えば、紫外線を照射する場合においては、積算光量として100〜5,000mJ/cm2が好ましい。
【0054】
本発明においては、必要に応じて加熱しながら活性エネルギー線照射することもできる。高温での活性エネルギー線照射で硬化を促進することができる。
活性エネルギー線照射と並行する加熱方法としては、例えば、赤外線ヒーターによる照射法及び熱風による循環加熱法が挙げられる。
本発明の硬化被膜を得るための具体例としては、以下の方法が挙げられる。
まず、溶剤を含有し、(D)成分として熱により酸を発生するものを使用した本組成物を基材表面に塗布して塗布膜を形成した後に、活性エネルギー線感応性酸発生剤が熱により酸を発生する温度以上の温度で、塗布膜を加熱して溶剤を揮発させるセッティングを実施する。
次いで、塗布膜に活性エネルギー線を照射して、硬化被膜を有する積層体を得る。
【0055】
本発明の硬化性組成物の硬化に際しては(A)成分及び(B)成分の脱水縮合又は脱アルコール反応による縮合が生じることから、該硬化性組成物中のシラノール又はアルコキシシランは反応のために隣り合う分子と会合する必要がある。
本発明の硬化性組成物中に熱により酸を発生する(D)成分を使用し、塗布膜に流動性のあるセッティング段階で、(D)成分が熱により酸を発生する温度以上の温度で加熱することで、効率良くシラノール又はアルコキシシランが会合するので硬化度を上げることができる。硬化度を上げることにより、耐擦傷性と耐クラック性を向上することができる。
【0056】
上記のセッティングの方法としては、例えば、熱風乾燥機による方法が挙げられる。
セッティング条件としては、必要に応じて一つの温度条件でのセッティング又は温度の異なる2(段階)以上のセッティングの条件とすることができる。
セッティング温度としては、(D)成分が熱により酸を発生する温度以上の温度が好ましい。
2(段階)以上のセッティングの場合には、少なくとも1つのセッティングにおいて、(D)成分が熱により酸を発生する温度以上であれば良い。
セッティングの具体例としては、60〜120℃で1〜30分のセッティングが挙げられる。1分以上の加熱で溶剤を十分に揮発させることができる傾向にある。また、30分以下の加熱で生産性を高く維持できる傾向にある。
【0057】
本発明においては、硬化性組成物の塗布膜への活性エネルギー線照射による硬化の後に、必要に応じて短時間の加熱によるポストキュアを実施することができる。
加熱によるポストキュアでの残存する組成物の未硬化物の低減により、得られる硬化被膜の耐クラック性及び耐擦傷性を向上することができる。
また、加熱によるポストキュアにより硬化被膜と基材との密着性を向上させることができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例により説明する。また、以下において、特に明記がない限り、「%」は「質量%」を示す。
尚、以下において得られる縮合物の固形分とは、原料の縮合が完結したときの原料に基づく縮合後の構造の理論量をいう。
また、オリゴマーのMw、酸発生剤の酸発生温度並びに基材表面に硬化被膜が積層された積層体における硬化被膜の初期外観、全光線透過率、初期ヘイズ、鉛筆硬度、初期密着性、耐擦傷性、熱水試験、耐候性試験及び硬化被膜の層構造について以下の方法で評価した。
【0059】
(1)Mw
オリゴマーのMwはゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)にて以下の測定条件で求めた。
<GPC測定条件>
装置: Waters社製HPLC
(515 HPLC Pump、2414 RI検出器)
カラム:
・TSKgel:GMHXL(サイズ:7.8mmφ×300mm)×2本
・TSKgel:G1000HXL(サイズ:7.8mmφ×300mm)×1本
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
オーブン温度:40℃
【0060】
(2)酸発生温度
(D)成分又は熱感応性酸発生剤が酸を発生する温度の測定方法としては、例えば、(D)成分又は熱感応性酸発生剤を添加したエポキシ樹脂の示差走査熱量測定(DSC)により発熱を開始した温度として間接的に推測する方法があるが、市販されている酸発生剤については、一般的にメーカーの技術資料等により知ることができる。
【0061】
(3)初期外観
積層体の硬化被膜の表面の透明性及びクラック又は白化の有無を観察し、初期外観を評価した。
【0062】
(4)全光線透過率及び初期ヘイズ
日本電色工業(株)製NDH−2000 Haze Meter(商品名)を用いた。積層体の硬化被膜の表面の3ヶ所において全光線透過率及び初期ヘイズを測定し、それぞれの平均値を求めた。
初期ヘイズとしては、1.0%を超えると目視でも白っぽさを認識できるようになるため、1.0%以下であることが好ましい。
【0063】
(5)鉛筆硬度
積層体の硬化被膜の表面の鉛筆硬度をJIS−K5600(鉛筆引っかき試験)に準じて評価した。
【0064】
(6)初期密着性
積層体の硬化被膜の表面に、カミソリの刃で1mm間隔に縦横11本ずつの切れ目を入れて100個のマス目を作り、セロハンテープを良く密着させた後、45度手前方向に急激に剥がし、硬化被膜が剥離せずに残存したマス目数を計測した。記載に際しては、例えば、マス目が100個中30個残った場合、30/100と表記した。
【0065】
(7)耐擦傷性
積層体の硬化被膜の表面を#0000スチールウールで9.8×104Paの圧力を加えて10往復擦り、1cm×1cmの範囲に発生した傷の程度を目視観察し、耐擦傷性を以下の基準で評価した。
A:傷0〜9本(光沢面あり)
B+:傷10〜49本(光沢面あり)
B−:傷50〜99本(光沢面あり)
C:傷100本以上(光沢面あり)
D:光沢面が無い。
また、JIS K7136に準じて、スチールウールでの擦り試験の前後でヘイズ値を測定し、ヘイズ値の増加分により耐擦傷性をΔHzで評価した。
【0066】
(8)熱水試験
積層体の試験片を熱湯に浸し、90℃で2時間加熱した。次いで、試験片を取り出し、クラックがないか目視観察し、熱水耐クラック性を以下の基準で評価した。
<熱水耐クラック性>
○:クラックがない。
×:クラックが発生。
また、積層体の試験片を熱湯に浸し、90℃で2時間加熱した後に、初期密着性試験と同様の密着性試験を行い、熱水密着性を評価した。
【0067】
(9)耐候性試験
積層体の試験片をメタルウェザー耐候試験機(ダイプラウィンテス(株)製、KW−R5TP型)を用いて以下の条件で試験し、100時間後の試験片について初期密着性評価と同様の密着性試験を行い、耐候密着性を評価した。また、暴露100時間後の試験片についてクラックがないか目視観察し、耐候耐クラック性を以下の基準で評価した。
<暴露条件>
暴露サイクル
・照射 :温度63℃、湿度70%、UV照射;4時間(照射エネルギー140mW/cm2
・結露 :温度70℃、湿度90% 4時間
・暗黒 :温度30℃、湿度98% 4時間、暗黒の前後で30秒シャワー有り
<耐候耐クラック性>
“無し”:クラックがない。
“有り”:クラックが発生。
【0068】
(10)硬化被膜の層構造
硬化被膜の層構造は透過型電子顕微鏡により観察することができる。
積層体の断面をダイヤモンドナイフで約70〜150nmに切削し、超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡で観察を行った。
<透過型電子顕微鏡>
装置 :日本電子(株)製透過電子顕微鏡
加速電圧 :100〜120kV
倍率 :1,000〜5,000倍
また、赤外分光法により、被膜表面の組成を知ることができる。
<赤外分光法>
装置 :ニコレー(株)製フーリエ変換赤外分光計
測定方法 :1回反射ATR法
クリスタル:ゲルマニウム
【0069】
[合成例1]オリゴマー(A−1)の合成
メチルトリメトキシシラン(多摩化学工業(株)製、商品名:メチルトリメトキシシラン)90.0g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:KBM−103)10.0g及びイソプロピルアルコール75gを混合攪拌し、均一な溶液とした。このときの仕込みモル比は(メチルトリメトキシシラン)/(フェニルトリメトキシシラン)=93/7となる。
上記の溶液に水75.0gを加え、攪拌しながら80℃で5時間加熱して加水分解・縮合を行い、固形分20%のオリゴマー(A−1)溶液を得た。オリゴマー(A−1)のMwは約650であった。
【0070】
[合成例2]オリゴマー(A−2)の合成
メチルトリメトキシシラン(多摩化学工業(株)製、商品名:メチルトリメトキシシラン)30.0g、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:KBM−103)2.4g、テトラメトキシシラン(多摩化学工業(株)製、商品名:正珪酸メチル)1.9g及びイソプロピルアルコール20.2gを混合攪拌し、均一な溶液とした。このときの仕込みモル比は、(メチルトリメトキシシラン)/(フェニルトリメトキシシラン)/(テトラメトキシシラン)=90/5/5となる。
上記の溶液に水20.2gを加え、攪拌しながら80℃で2時間加熱して加水分解・縮合を行い、固形分23%のオリゴマー(A−2)溶液を得た。オリゴマー(A−2)のMwは約500であった。
【0071】
[合成例3]オリゴマー(A−3)の合成
メチルトリメトキシシラン(多摩化学工業(株)製、商品名:メチルトリメトキシシラン)17.2gにアルキルシリケートとしてメチルシリケート(コルコート(株)製、平均約7量体、平均分子量約789、商品名:メチルシリケート53A)10.0g及びイソプロピルアルコール10.0gを加え、攪拌して均一な溶液とした。このときの仕込みモル比は(メチルトリメトキシシラン)/(メチルシリケート53A)=91/9(平均値)となる。
上記の溶液に水10.5gを加え、攪拌しながら80℃で3時間加熱して加水分解・縮合を行った。
次いで、得られた反応液を25℃まで冷却し、更に24時間攪拌して縮合を進行させた。
更に、得られた反応最終液にイソプロピルアルコールを加えて全体を69.0gとし、固形分20%のオリゴマー(A−3)溶液を得た。オリゴマー(A−3)のMwは約6,600であった。
【0072】
[合成例4]オリゴマー(A−4)の合成
メチルトリメトキシシラン(多摩化学工業(株)製、商品名:メチルトリメトキシシラン)17.2gにアルキルシリケートとしてメチルシリケート(コルコート(株)製、平均約7量体、平均分子量約789、商品名:メチルシリケート53A)10.0g及びイソプロピルアルコール10.0gを加え、攪拌して均一な溶液とした。このときの仕込みモル比は(メチルトリメトキシシラン)/(メチルシリケート53A)=91/9(平均値)となる。
上記の溶液に水10.5gを加え、攪拌しながら80℃で3時間加熱して加水分解・縮合を行った。
次いで、得られた反応液にイソプロピルアルコールを加えて全体を69.0gとし、固形分20%のオリゴマー(A−4)溶液を得た。オリゴマー(A−4)のMwは約5,900であった。
【0073】
[合成例5]分散剤(イ)の製造
撹拌機、冷却管及び温度計を備えたフラスコ中に脱イオン水900部、メタクリル酸2−スルホエチルナトリウム60部、メタクリル酸カリウム10部及びメタクリル酸メチル12部を入れて撹拌し、フラスコ内を窒素置換しながら50℃に昇温した。次いで、フラスコ中に重合開始剤として2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩0.08部を添加し、更に60℃に昇温した。昇温後、滴下ポンプを使用して、メタクリル酸メチル18部を0.24部/分の速度で連続的に滴下した。得られた反応溶液を60℃で6時間保持した後、室温に冷却して、透明な水溶液である固形分10%の分散剤(イ)を得た。
【0074】
[合成例6]連鎖移動剤(ロ)の製造
撹拌装置を備えたフラスコ中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物1.00g、ジフェニルグリオキシム1.93g及び予め窒素バブリングにより脱酸素したジエチルエーテル80mlを入れ、室温で30分間攪拌した。次いで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体10mlを加え、更に6時間攪拌した。得られた反応物を濾過し、固形分をジエチルエーテルで洗浄し、15時間真空乾燥して、赤褐色固体の連鎖移動剤(ロ)2.12gを得た。
【0075】
[合成例7]ポリマー溶液−3の合成
撹拌機、冷却管及び温度計を備えたフラスコ中に、脱イオン水145重量部、硫酸ナトリウム0.1重量部及び分散剤(イ)0.25重量部を入れて撹拌し、均一な水溶液とした。次いで、フラスコ中にメタクリル酸メチル100重量部、連鎖移動剤(ロ)0.01重量部及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.8重量部の単量体混合物を加え、水性懸濁液とした。この後、フラスコ内を窒素置換し、80℃に昇温して約1時間反応させ、更に重合率を上げるため、93℃に昇温して1時間保持した。その後、反応液を40℃に冷却して、水性重合体懸濁液を得た。この水性重合体懸濁液を目開き45μmのナイロン製濾過布で濾過し、濾過物を脱イオン水で洗浄し、脱水し、40℃で16時間乾燥し、重合体を得た。Mwは3,100であった。この重合体をγ−ブチロラクトンで溶解し、固形分が10%のポリマー溶液−3を得た。
【0076】
[合成例8]ポリマー溶液−4の合成
撹拌機、冷却管及び温度計を備えたフラスコ中に、メタクリル酸メチル30重量部、γ−ブチロラクトン70重量部、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.6重量部を入れて攪拌し均一な溶液とし、窒素ガスでバブリングしたのち、80℃に昇温して5時間反応させた。反応の後放冷し、固形分30%の重合体を得た。Mwは21,000であった。
【0077】
[調製例1]ポリマー溶液−1の調製
(C)有機重合体としてポリメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、ダイヤナールBR−85、Mw280,000)1.0gをγ−ブチロラクトン9.0gに溶解したポリマー溶液−1を得た。
【0078】
[調製例2]ポリマー溶液−2の調製
(C)有機重合体としてポリメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、ダイヤナールBR−83、Mw40,000)1.0gをγ−ブチロラクトン9.0gに溶解したポリマー溶液−2を得た。
【0079】
[調製例3]コーティング液Aの調製
(A)シロキサン系オリゴマーとしてオリゴマー(A−1)の20%溶液20.0g(固形分換算で4.0g)、(B)エポキシ基含有アルコキシシランとしてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:KBM−403)2.4g、(C)有機系重合体としてポリマー溶液−15.8g(固形分0.58g)及び(D)活性エネルギー線感応性酸発生剤としてスルホニウム塩系酸発生剤溶液(三新化学工業(株)製、商品名:サンエイドSI−80L、50%γ−ブチロラクトン溶液)0.2g(固形分換算で0.1g)を配合した。
上記の配合液に、レベリング剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7001)の1%γ−ブチロラクトン溶液0.6g(固形分換算で0.006g)及びγ−ブチロラクトン6.9gを配合し、撹拌混合して活性エネルギー線硬化性組成物としてコーティング液Aを調製した。このとき使用した活性エネルギー線感応性酸発生剤が酸を発生する温度は約70℃であった。
【0080】
[調製例4〜13]コーティング液B〜Kの調製
表1に示す割合で(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、溶剤、レベリング剤を配合し、均一になるよう攪拌して、コーティング液B〜Kを調製した。
【0081】
【表1】
表1中の略号は以下の化合物を示す。
GTS:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:KBM−403)
BR−85:ポリメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、ダイヤナールBR−85、Mw約280,000)
BR−83:ポリメタクリル酸メチル(三菱レイヨン(株)製、ダイヤナールBR−83、Mw約40,000)
サンエイドSI−80L:スルホニウム塩系酸発生剤溶液(三新化学工業(株)製、商品名:サンエイドSI−80L、50%γ−ブチロラクトン溶液)
サンエイドSI−100L:スルホニウム塩系酸発生剤溶液(三新化学工業(株)製、商品名:サンエイドSI−100L、50%γ−ブチロラクトン溶液)
L−7001の1%溶液:レベリング剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7001)の1%γ−ブチロラクトン溶液
【0082】
[実施例1]
コーティング液Aを、基材である長さ10cm、幅5cm及び厚み3mmのアクリル板(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリライトL、全光線透過率92.6%、ヘイズ0.08%)の表面に適量滴下し、バーコーティング法(バーコーターNo.26使用)にて硬化被膜の厚みが3〜10μmとなるように塗布し、基材表面に塗布膜を形成した。
次いで、塗布膜が形成された基材を熱風乾燥機にて90℃で10分セッティングした。
この後、セッティングされた基材を高圧水銀灯((株)オーク製作所製、紫外線照射装置、商品名:ハンディーUV−1200、QRU−2161型)にて、紫外線(UV)照射積算光量1,000mJ/cm2でUVを照射して塗布膜を硬化させ、基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。
尚、UV照射量は紫外線光量計((株)オーク製作所製、商品名:UV−351型、ピーク感度波長360nm)にて測定した。
【0083】
[実施例2]
セッティング条件として、60℃×10分の1段階目のセッティング行った後、続いて90℃×10分の2段階目のセッティング行った。それ以外は実施例1と同様にして基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。
【0084】
[実施例3]
紫外線を照射による塗布膜の硬化後に90℃×10分のポストキュアを実施した。それ以外は実施例1と同様にして基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。
【0085】
[実施例4]
紫外線照射による塗布膜の硬化後に90℃×10分のポストキュアを実施した。それ以外は実施例2と同様にして基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。
【0086】
[実施例5]
セッティングを100℃×10分とし、ポストキュアを100℃×10分とした。それ以外は実施例3と同様にして基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。また、硬化被膜の層構造を示す透過顕微鏡写真を図1に示す。
【0087】
[実施例6、7及び8、比較例1、2及び5]
コーティング液の種類を表1に示すものとした。それ以外は実施例5と同様にして基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。また、実施例7、8及び比較例1、2の硬化被膜の層構造を示す透過顕微鏡写真をそれぞれ図2、3及び4、5に示す。
【0088】
[比較例3]
コーティング液の種類を表1に示すものとした。それ以外は実施例1と同様にして基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。
【0089】
[比較例4]
コーティング液の種類を表1に示すものとし、セッティングを60℃×10分とし、UV照射積算光量を3,000mJ/cm2とした。それ以外は実施例1と同様にして基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。
【0090】
[比較例6及び7]
コーティング液の種類を表1に示すものとした。それ以外は実施例5と同様にして基材表面に硬化被膜が積層された積層体を得た。積層体の評価結果を表1に示す。また、比較例6の硬化被膜の層構造を示す透過顕微鏡写真を図6に示す。
【0091】
実施例1〜8で得られた硬化被膜の物性はいずれも良好であった。これに対し、(B)成分を含まない比較例1では耐擦傷性に劣っていた。また、(C)成分を含まない比較例2では熱水密着性及び耐候密着性に劣っていた。更に、(B)成分及び(C)成分を含まない比較例3では耐候密着性に劣っていた。また、(A)成分のMwが高く、セッティング温度を(D)成分の酸発生温度よりも低い温度とした比較例4では初期外観、初期ヘイズ、鉛筆硬度、初期密着性、耐擦傷性及び熱水密着性に劣っていた。更に、(A)成分のMwが高い比較例5では初期密着性、耐擦傷性及び熱水密着性に劣っていた。また、(C)成分のMwが低い比較例6では耐擦傷性が劣り、比較例7では密着性が発現されず、性能の両立ができなかった。
【0092】
また、透過顕微鏡写真から、良好な物性を示した実施例5、実施例7、実施例8には積層体の表面を形成する硬化被膜において、シロキサン系重合体を相対的に多く含む表層と有機系重合体を相対的に多く含む最内層が存在することが確認された。さらに実施例7の被膜においてはコントラストの濃い部分と薄い部分が混在した中間層が確認された。実施例5、実施例7のIRスペクトル(1回反射ATR法)においても表層はシロキサン結合由来の吸収(1020cm-1付近)が強く検出され、(C)有機重合体由来のカルボニル基の吸収(1730cm-1付近)はほとんど見られず、表層はシロキサン系重合体を相対的に多く含むことを示している。
実施例5、実施例7、実施例8では、(C)有機系重合体を相対的に多く含む最内層が存在するため、耐候密着性も良好であった。
一方、比較例1、比較例2の透過顕微鏡写真においては、硬化被膜は表層及び最内層を有さず均質であった。IRスペクトルにおいては、比較例1ではカルボニル基の吸収(1730cm-1付近)が比較的強く検出されており、表層にシロキサン系重合体及び(C)有機系重合体が存在することを示している。比較例2においては有機系重合体(C)を配合していないため、カルボニル基の吸収は見られない。
比較例1、比較例2では、(C)有機系重合体)を相対的に多く含む最内層が存在しないため耐候密着性が低かった。
図7
図8
図9
図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6