(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0028】
(第一の実施の形態)
本発明における第一の実施の形態について、
図1から
図12を用いて説明する。
【0029】
図1に、本発明における第一の実施形態の潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)上の少なくとも一部に、印刷画像(3)を有する。基材(2)は、印刷画像(3)を形成することができるのであれば、紙、フィルム及び金属等、いかなる材質でも良く、その色彩は、いかなる色彩でも良い。また、印刷画像(3)もいかなる色彩でも良い。すなわち、透明又は半透明としても良く、特定の色相を有していても良い。
【0030】
図2に、本発明の印刷画像(3)の構成の概要を示す。印刷画像(3)は、A−A´断面図に示すように、盛り上がりを有する曲万線で構成された蒲鉾状曲画線群(4)の上に、潜像画線群(5)が積層されて成る。
【0031】
図3に、蒲鉾状曲画線群(4)の詳細を示す。蒲鉾状曲画線群(4)は、盛り上がりを有する蒲鉾状画線(6)が、曲万線状に特定のピッチで規則的に複数配置されて成る。
【0032】
図4に、蒲鉾状画線(6)が、曲万線状に特定のピッチで規則的に複数配置されている形態を示す。本発明でいう曲万線状とは、
図4(a)に示すように、画線方向が一方向に固定された真っ直ぐな線(直線)ではなく、
図4(b)〜(d)に示すように、画線方向が連続的に変化するような曲がった線(曲線)を指す。
【0033】
具体的には、
図4(b)に示すように、画線が曲万線状に特定のピッチ(P1)で規則的に複数配置された円状(楕円を含む)の形態、
図4(c)に示すように、画線が、曲万線状に特定のピッチ(P1)で規則的に複数配置された円弧状の形態、
図4(d)に示すように、画線が、曲万線状に特定のピッチ(P1)で規則的に複数配置された波線状の形態が挙げられる。
【0034】
このように、曲万線状とは、蒲鉾状曲画線群(4)を形成している蒲鉾状画線(6)が、全て画線方向が連続的に変化する曲線から形成されており、その曲線が特定のピッチで規則的に配置されている形態のことである。
【0035】
ただし、蒲鉾状曲画線群(4)の形態(図柄)によっては、蒲鉾状画線(6)の一部分が直線状となる場合がある。このような図柄の都合により、蒲鉾状画線(6)の一部分が直線状となったとしても、本発明の意図する効果に影響を及ぼすことはないため、本発明の構成の範疇とする。
【0036】
第一の実施の形態では、特定の円心を有し、同心円のように直径がX側からX´側の方向に徐々に大きくなる円弧であり、一定の画線幅(W1)を有する蒲鉾状画線(6)が、特定のピッチ(P1)で、円弧の画線方向と直交する方向に連続して配置されて蒲鉾状曲画線群(4)を構成している。
【0037】
本発明でいう画線方向について説明する。従来技術のように蒲鉾状画線(6)が画線である場合、
図5(a)に示すように画線方向は画線と一致し、画線方向と直交する方向は、画線と直交する方向となる。
【0038】
一方、本発明でいう円弧の画線方向と、円弧の画線方向と直交する方向とは、
図5(b)に示すように、円弧のそれぞれの位置で連続的に変化する。具体的には、円弧上のそれぞれの地点で円弧と画線方向を成す方向が、それぞれの地点での円弧の画線方向(図中、画線方向1、画線方向2、画線方向3)であり、円弧上のそれぞれの地点で接線を成す方向と直交する方向である、すなわち、法線方向が円弧の画線方向と直交する方向となる。つまり、曲線の場合の画線方向とは、円弧状のそれぞれの接線と同意である。
【0039】
また、本発明における画線とは、印刷の最小単位である網点を一定の距離で隙間なく、連続して配置した画像要素であって、点線、破線、分断線及び分岐線等が含まれる。
【0040】
以上のような構成の蒲鉾状曲画線群(4)を、印刷画線に盛り上がりを形成することができる印刷方式によって形成する。出現する潜像画像に一定の視認性を確保するためには、蒲鉾状画線(6)の盛り上がり高さは3μm以上必要であるため、スクリーン印刷や凹版印刷等で形成することが望ましいが、グラビア印刷やフレキソ印刷、IJP、凸版印刷等であってもこの程度の画線の盛り上がり高さを形成することは可能である。また、盛り上がりの高さの上限に関しては、特に制限はないが、大量に積載した場合の安定性や耐摩擦性、流通適性等を考慮して、1mm以下とする。
【0041】
また、蒲鉾状画線(6)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を備える必要がある。明暗フリップフロップ性とは、正反射した場合に明度が上昇する特性を指し、カラーフリップフロップ性とは、色相が変化する特性を指す。すなわち、蒲鉾状画線(6)は、光が入射した場合に、明度や色相が変化することで、色彩が大きく変化する特性を有する必要がある。色彩の変化の大きさが大きければ大きいほど、出現する潜像画像の視認性は高くなる。
【0042】
前述のような盛り上がりを有する画線に明暗フリップフロップ性を付与する方法の一例としては、高光沢なインキ樹脂を用いたり、インキ中に金属顔料を混合したりすることで容易に実現することができる。カラーフリップフロップ性を付与できる機能性材料の一例としては、パール顔料、コレステリック液晶、ガラスフレーク顔料、金属粉顔料及び鱗片状金属顔料等が考えられる。
【0043】
図6に、潜像画線群(5)の詳細を示す。潜像画線群(5)は、いくつかの塊の画像が集まって一つの潜像画線群(5)となっているが、説明の便宜上、ある一塊の潜像画線群(5A)を選択して説明する。潜像画線群(5A)は、潜像画線(7)が蒲鉾状曲画線群(4)と同じ規則に従って複数配置されて成る。
【0044】
ここでいう蒲鉾状曲画線群(4)と「同じ規則」とは、前述の蒲鉾状曲画線群(4)における規則と、画線幅以外の規則が同じであることを指す。すなわち、特定の円心を有し、同心円のように直径がX側からX´側の方向に徐々に大きくなる円弧であり、一定の画線幅(W2)を有する潜像画線(7)が、特定のピッチ(P1)で円弧の画線方向と直交する方向に連続して配置されて潜像画線群(5A)を構成している。
【0045】
図7に、蒲鉾状曲画線群(4)と潜像画線群(5)の配置関係を示す。蒲鉾状曲画線群(4)を構成するそれぞれの蒲鉾状画線(6)と、潜像画線群(5)を構成するそれぞれの潜像画線(7)は、お互いに対を成す関係にある。
【0046】
本明細書における「対を成す」とは、潜像画線(7)が配置される部分における蒲鉾状画線(6)と潜像画線(7)の関係が、一つの蒲鉾状画線(6i)に対して、これと一対一で対応する潜像画線(7i)が配置されている構成のことをいう。言い換えると、一つの蒲鉾状画線(6i)には、一つの潜像画線(7i)のみしか配置されない。
【0047】
例えば、蒲鉾状画線(6i)と潜像画線(7i)は、画線幅以外の画線構成に関するパラメータである、すなわち、円心の位置、画線の円心からの距離、曲率及び画線方向等は、それぞれ完全に一致する関係にあって、適正な位置関係で重ね合わせた場合には、画線中心が完全に一致する。
【0048】
また、蒲鉾状画線(6i)と隣り合う蒲鉾状画線(6i+1)においても、蒲鉾状画線(6i+1)と潜像画線(7i+1)は、対を成す関係にあり、その他の画線についても同様である。
【0049】
なお、それぞれの画線幅(W1、W2)は一致する必要はないが、一致しても問題ない。第一の実施の形態においては一致しており、画線幅(W1とW2)は同じ値であり、蒲鉾状曲画線群(4)と潜像画線群(5)を適正な位置関係で重ね合わせた場合には、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6)と潜像画線(7)は、それぞれ重なり合う関係にある。
【0050】
続いて、潜像画線群(5A)及び潜像画線(7)の形成方法について、
図8を用いて説明する。
図8(a)は、正反射光下で出現する潜像画像の基となる基画像(8)である。第一の実施の形態においては、桜の花びらの画像が基画像(8)である。潜像画像を印刷画像(3)の特定の位置に出現させることを想定して、基画像(8)を印刷画像(3)中に配置した場合に、基画像(8)と重なる位置関係にあるそれぞれの蒲鉾状画線(6)に対して、それぞれに対を成すだけの潜像画線(7)を作製する必要がある。
【0051】
ここでは、基画像(8)のほぼ中央に重なった蒲鉾状画線(6i)と対を成す潜像画線(7i)の作製方法について説明する。
図8(b)に、基画像(8)と蒲鉾状画線(6i)の位置関係を示す。この蒲鉾状画線(6i)と対を成す潜像画線(7i)を作製するためには、以下の手順を取る。
【0052】
まず、
図8(c)に示すように、蒲鉾状画線(6i)の中心から均等な距離(H/2)に2つの画線(6fi)を配置する。続いて、
図8(d)に示すように、2つの画線(6fi)に挟まれた基画像(8i)だけを選択して取り出す。
【0053】
次に、
図8(e)に示すように、取り出した基画像(8i)を蒲鉾状画線(6i)の中心に向かって、特定の縮率で蒲鉾状画線(6i)に沿って画線幅W2に圧縮する。これによって、
図8(f)に示す蒲鉾状画線(6i)と対を成す潜像画線(7i)が完成する。
【0054】
なお、潜像画線(7)の画線幅W2とは、蒲鉾状画線(6)の画線幅W1とは異なり、全ての画線の幅が必ずしもW2の値となる必要があるわけではない。潜像画線(7)の画像を配置することができる領域としてW2の幅が割り当てられるものの、基画像(8)がその領域に含まれなければ画像自体は構成されないため、潜像画線(7)の画像自体はW2以下の幅と成る。そのため、潜像画線(7)の画線幅とは、W2以下の大きさで変動するものであって、画線幅W2とは、潜像画線(7)が取りうる最大の画線幅を指すが、説明を簡便にするため、潜像画線(7)の画線幅をW2と記載する。
【0055】
この作業を繰り返して、それぞれの潜像画線(7)を作製し、対となる蒲鉾状画線(6)と同じ位置に配置する。すなわち、
図9に示すように、ある蒲鉾状画線(6i−10)に対応した潜像画線(7i−10)は、基の蒲鉾状画線(6i−10)と重なる位置に、また、異なる蒲鉾状画線(6i)に対応した潜像画線(7i)は、基の蒲鉾状画線(6i)と重なる位置に、また、異なる別の蒲鉾状画線(6i+10)に対応した潜像画線(7i+10)は、基の蒲鉾状画線(6i+10)と重なる位置に配置することで、潜像画線群(5A)ができあがる。
【0056】
以上の手順で作製した潜像画線群(5)を
図7に示したように、それぞれ対と成る蒲鉾状画線(6)と潜像画線(7)とが重なり合う位置関係として重ね合わせることで、印刷画像(3)が完成する。
【0057】
本発明においては、対を成す蒲鉾状画線(6)と潜像画線(7)の中心が正確に重なり合うことが望ましい。ただし、作製に使用する印刷機の精度によっては、蒲鉾状画線(6)と潜像画線(7)とが意図したとおりに正確に重ならず、わずかにずれが生じる場合がある。
【0058】
このような製造上の都合により、それぞれの蒲鉾状画線(6)の中心と潜像画線(7)の中心がずれて形成された場合のうち、対となる蒲鉾状画線(6)と潜像画線(7)とが平行に重なり、かつ、蒲鉾状画線(6)の画線中心と潜像画線(7)の中心のズレの量がそれぞれの対で同じ量であれば、本発明の意図する効果は少なくとも発現するため、このようなズレが生じた場合も、本発明の構成の範疇とする。
【0059】
潜像画線群(5)は、盛り上がりは必須ではないことから、如何なる印刷方式で形成しても良い。生産性を考えれば、オフセット印刷で形成することが最も好ましい。正反射光下で潜像画像を可視化するために、潜像画線(7)は正反射時に蒲鉾状画線(6)との間に色差が生じる必要があり、少なくとも反射時の色彩が蒲鉾状画線(6)の正反射時の色彩と異なっている必要がある。
【0060】
また、潜像画線(7)は、蒲鉾状画線(6)の上に重ねて形成されるために、潜像画線(7)下の蒲鉾状画線(6)に入射する光を遮断し、正反射光下で生じる蒲鉾状画線(6)の色彩変化を抑制する働きを成す。したがって、潜像画線(7)が重なっているか否かによって、蒲鉾状画線(6)の正反射時の色彩に、より大きな違いが生じるため、潜像画像の視認性をより高めるためには、潜像画線(7)は高い光遮断性を備えていることが望ましい。
【0061】
そのため、潜像画線(7)を印刷で形成する場合には、低光沢なマットインキを用いることが望ましい。また、これらのインキにチタンのような光遮断性の高い機能性材料を配合すると、より高い効果を得ることができる。
【0062】
さらに、潜像画線(7)は、拡散反射光下では不可視であることが望ましいことから、無色透明か、半透明程度の色彩であることが望ましい。ただし、品質管理を容易にするために、わずかに着色顔料を配合してインキを着色したり、透明インキに蛍光顔料を配合して、UVランプを用いて脱刷や印刷不良等の異常を管理することもできる。
【0063】
また、潜像画線(7)は、版面を用いる印刷機で形成するだけでなく、プリンター等のデジタル印刷機を用いて形成しても良い。また、潜像画線(7)にあたる画像を、蒲鉾状画線(6)を切削して付与することで形成することもできる。このような切削は、レーザー加工機を用いることで容易に実施することができる。レーザーが照射された蒲鉾状画線(6)は、多くの場合明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性が失われるか、大きく低下するために、本発明で潜像画線(7)に必要とする特性を付与することができる。これらのプリンターやレーザー加工機を用いる場合には、一枚一枚異なる情報を与える可変情報を容易に付与することができるという特徴がある。
【0064】
図10に、本発明の効果を示す。印刷画像(3)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、潜像画像は不可視であり、単に印刷画像(3)のみが視認される(図示せず)。一方の正反射光下においては、桜の花びらを表した潜像画像が光のコントラストによって出現する。
【0065】
図10(a)、
図10(b)及び
図10(c)に示すように、光に対する潜像印刷物(1)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3)中の潜像画像の位置が変化し、潜像画像がそれぞれの蒲鉾状画線(6)と直交する方向に動いているように見える。本実施の形態においては、傾きが大きくなるにしたがって、A´側からA側へと潜像画像が動いているように見える。
【0066】
以上のような効果が生じる原理について説明する。例えば、潜像印刷物(1)のA側の方向から光が入射した場合、蒲鉾状曲画線群(4)を形成している盛り上がりを有する蒲鉾状画線(6)表面のうち、光を強く正反射するのは、それぞれの画線中心からA側にあたる画線表面のみであり、逆に、潜像印刷物(1)のA´側の方向から光が入射した場合、蒲鉾状画線(6)表面のうち、光を強く正反射するのは、それぞれの画線中心からA´側の方向にあたる画線表面のみである。
【0067】
以上のように、蒲鉾状画線(6)のような、盛り上がりを有する画線が光を反射する場合、入射する光に対して入射光と法線を成す画線表面を中心に光を反射しており、言い換えれば、入射する光の角度に応じて、盛り上がりを有する画線表面のうち、強く光を反射する領域は変化している。
【0068】
また、蒲鉾状曲画線群(4)を形成している盛り上がりを有する蒲鉾状画線(6)は、ほぼ相似の立体構造の画線が特定のピッチで規則的に繰り返し配置されていることから、蒲鉾状曲画線群(4)の中の光を反射する領域は、特定のピッチで規則的に生じる。
【0069】
蒲鉾状画線(6)の表面には、それぞれ潜像画線(7)が形成されていることから、蒲鉾状画線(6)が光を強く反射した場合には、その画線上に重ねられた潜像画線(7)と蒲鉾状画線(6)とは異なる色彩に変化し、それまで隠蔽されていた潜像画線(7)が可視化される。
【0070】
この場合、可視化される潜像画線(7)は、蒲鉾状画線(6)のうち、光を強く反射した領域に重ねて形成された潜像画線(7)のみであり、それ以外の領域に重ねられて形成された潜像画線(7)は、隠蔽されたままとなる。
【0071】
蒲鉾状画線(6)には、特定のピッチで光を強く反射する領域が形成されるため、潜像画線(7)も特定のピッチで可視化される。潜像画線群(5)は、基画像(8)から蒲鉾状画線(6)と同じピッチで取り出した画像を、一定の割合で圧縮して蒲鉾状画線(6)と同じピッチで配置して形成しているため、蒲鉾状画線(6)と同じピッチで画像をサンプリングした場合には、基画像(8)と同じ画像が潜像画像として再現される。
【0072】
この際、サンプリングされる幅である、すなわち、それぞれの蒲鉾状画線(6)が光を強く反射する領域の幅が狭い方が、出現する潜像画像はより基画像(8)に近く、輪郭がシャープで、かつ、画像全体が明瞭に再現される。
【0073】
逆に、その幅が広い場合には、より潜像画線群(5)に近く、輪郭がぼやけ、不明瞭な状態で再現されてしまう。この状態を防ぐためには、それぞれの盛り上がりを有する画線が光を強く反射する領域を狭くする必要があり、盛り上がりを有する画線の高さを、より高くすることが有効である。
【0074】
観察者の視点が動いたり、潜像印刷物(1)を傾けた場合には、光が入射する角度が変化するために、蒲鉾状画線(6)の表面のうち、光を反射する領域も移動することから、それに伴って潜像画線(7)のサンプリングされる領域も移動することで、観察者には出現した基画像(10)が動いて見える。
【0075】
また、潜像印刷物(1)に正対して観察した場合、右眼と左眼とでは、入射した光が印刷物で反射して眼に入る角度がわずかに異なるため、蒲鉾状画線(6)の光を反射する画線表面もわずかに異なっている。このため、出現する潜像画像は、右眼から見た場合と左から見た場合では水平方向の位相が異なり、これによって両眼視差に起因する立体的な視覚効果が生じる。
【0076】
例えば、潜像画像が右眼から見た場合よりも左眼から見た場合の方が、右にある場合には、潜像画像は印刷物の表面よりも手前にあるように感じられる。逆に、潜像画像が右眼から見た場合よりも左眼から見た場合の方が、左にある場合には潜像画像は、印刷物の表面よりも奥にあるように感じられる。
【0077】
この立体的な視覚効果を生じさせるためには、観察者から見て水平方向に画像が動いて見える効果が必須であるため、蒲鉾状画線(6)を垂直方向に近い角度で並べたほうが、この効果は高くなる。
【0078】
以上が、本発明の潜像印刷物(1)において、潜像印刷物(1)が光を強く反射した場合に潜像画像として基画像(8)が出現し、動画効果と立体的な視覚効果が生じる原理である。
【0079】
本発明と従来の技術と差異の一つは、潜像画像の動きの方向の多様さにある。従来の技術においては、盛り上がりを有する画線の画線方向は一つの方向に制限されていたため、潜像画像の動く方向に制約があった。
【0080】
例えば、
図11(a)に示すように、盛り上がりを有する画線の画線方向が垂直方向である場合には、潜像画像は水平方向にしか動けず、一方、
図11(b)に示すように、盛り上がりを有する画線の画線方向が水平方向である場合には、潜像画像は水平方向にしか動けない。
【0081】
本発明の潜像印刷物(1)においては、潜像画像の動く方向をあらかじめ決めておけば、盛り上がりを有する蒲鉾状画線(6)の画線方向を、動きの方向と直交した画線方向に設定することで、希望する方向に潜像画像を動かすことが可能となり、動画効果デザイン上の自由度が向上した。
【0082】
また、従来技術のような一定の方向に潜像画像が動く効果と比較して、仮に同じ距離だけ潜像画像が動いた場合でも、複数の異なる方向に潜像画像が動いた場合にはその効果をより容易に認識することができる。このため、真偽判別技術に必須である判別性がより高まった。
【0083】
従来技術は、特に、
図11(a)に示すように、盛り上がりを有する画線の画線方向が垂直方向である場合、例えば、第三の方向(図中S3方向)から光が入射した場合には、潜像画像がシャープに再現され、優れた動画効果が生じるものの、第二の方向(図中S2方向)から光が入射した場合には、潜像画像はややぼやけた画像となるとともに、動きは鈍くなり、第一の方向(図中S1方向)から光が入射した場合には、潜像画像は不明瞭な画像となるとともに、ほとんど動きが生じなくなる。
【0084】
図11(b)も同様に、画線方向と平行な光に対しては、潜像画像はぼやけた画像となるとともに、ほとんど動きが生じない。以上のように、従来技術においては、特定の光の入射角度では優れた効果を発揮するものの、ある特定の入射角度では、その効果が失われるという問題があった。
【0085】
一方、本発明の潜像印刷物(1)は、
図11(c)に示すように、例えば、第三の方向(図中S3方向)から光が入射した場合に、印刷画像(3)のうちの3Cに示した領域において、潜像画像がシャープに再現され、動画効果も良好となる。
【0086】
第二の方向(図中S2方向)から光が入射した場合には、印刷画像(3)のうちの3Bに示した領域において、潜像画像がシャープに再現され、動画効果も良好となり、第一の方向(図中S1方向)から光が入射した場合には、印刷画像(3)のうちの3Aに示した領域において、潜像画像がシャープに再現され、動画効果も良好となる。
【0087】
すなわち、第一から第三までのいかなる角度で光が入射した場合でも、印刷画像(3)の中の少なくとも一部の領域において、潜像画像がシャープに再現され、動画効果も良好である領域が存在する。特許文献1に記載の従来の技術においては、特定の光の入射角度において効果が低下したが、本発明の潜像印刷物(1)では、印刷画像(3)全体として効果が低下する光の入射角度がない。
【0088】
様々な環境下で真偽判別のために機能することが望まれる偽造防止技術においては、あらゆる条件において判別機能が失われないことが大切であり、本発明の潜像印刷物(1)のこの効果は、偽造防止技術に望まれる性質を満たしているといえる。
【0089】
また、蒲鉾状画線(6)は、曲万線によって構成されていることから、
図12に示すように、入射する光の角度が変化することで、蒲鉾状曲画線群(4)の光を反射する領域が変化し、美しい光のグラデーションが生じる。
【0090】
例えば、第一の方向から光が入射した場合には、
図12(a)に示すように入射光と直交する蒲鉾状曲画線群(4)の集合で構成される3Aの領域が強く光を反射する一方、3Aの領域から離れるに従って、3Bの領域において光量はわずかずつ減り、3Cの領域はほとんど反射光を生じない。
【0091】
また、第二の方向から光が入射した場合には、
図12(b)に示すように入射光と直交する蒲鉾状曲画線群(4)の集合で構成される3Bの領域が強く光を反射する一方、3Bの領域から離れるに従って、3Aと3Cの領域において光量はわずかずつ減る。
【0092】
第三の方向から光が入射した場合には、
図12(c)に示すように入射光と直交する蒲鉾状曲画線群(4)の集合で構成される3Cの領域が強く光を反射する一方、3Cの領域から離れるに従って、3Bの領域において光量はわずかずつ減り、3Aの領域はほとんど反射光を生じない。
【0093】
以上のように、入射する光の角度に応じて、美しい光の輪のようなグラデーションが生じる。また、この光のグラデーションは、潜像印刷物(1)の傾きを変えた場合、その動きに対応して瞬時にその光の輪が印刷画像(3)中で回転するように見えるため、人目を引きやすく、高い判別性を備える。
【0094】
また、従来技術の構成では、盛り上がりを有する画線の画線方向と平行な方向から光が入射した場合、例えば、
図11(a)に示した構成では、第一の方向から光が入射した場合、潜像画像がぼやけて動画効果が生じないだけでなく、印刷画像中に潜像画線群全体が反射光の強弱によって浮かび上がってしまい、観察者に不完全な画像を視認されてしまうという問題があった。
【0095】
これは、従来技術の構成では、盛り上がりを有する全ての画線が同じ画線方向を有するために、平行な方向から光が入射した場合には、盛り上がりを有する画線全体から均等なムラのない反射光が生じてしまい、潜像画線群の有無のみが必要以上に目立ってしまうことに起因していた。
【0096】
偽造防止技術において、本来出現を意図していない不明瞭な画像が可視化されることは、所望の効果以外の異なった効果が発生するということであり、潜像画像の視認性や動画効果が低下するといった「所望の効果の低下」とは別の大きな問題であった。
【0097】
本発明の潜像印刷物(1)において、例えば、第一の方向から光が入射した場合、3Aの領域にシャープな潜像画像と優れた動画効果が生じる一方で、3Bと3Cの領域では、潜像画像がぼやけた画像となり、動画効果も低下する点では従来技術と同様である。
【0098】
ただし、本発明の潜像印刷物(1)は、従来技術と異なり、3Bと3Cの領域において、潜像画線群(5)の有無によって生じる反射光の強弱よりも、隣接する3Aの領域の反射光の強さや蒲鉾状画線(6)上に生じる光のグラデーションの反射光の強弱のほうが相対的に強いため、3Bと3Cに出現する潜像画像の視認性は相対的に低くなり、特に、3Cの領域に出現する画像は極めて認識しづらい。
【0099】
このことから、本発明の潜像印刷物(1)においては、従来の技術のように潜像画線群全体が反射光の強弱によって浮かび上がりづらくなり、観察者に不完全な画像を視認されてしまう問題が大きく改善された。以上が、本発明の最も基本的な形態における、従来の技術との基本的な差異である。
【0100】
(第二の実施の形態)
続いて、第一の実施の形態とほぼ同様な構成の潜像印刷物の一形態であって、第一の実施の形態の潜像画像とは逆方向に潜像画像が動く潜像印刷物について
図13から
図19を用いて説明する。
【0101】
図13に、本発明における第二の実施形態の潜像印刷物(1−2)を示す。潜像印刷物(1−2)は、基材(2−2)上の少なくとも一部に、印刷画像(3−2)を有する。
【0102】
図14に、本発明の印刷画像(3−2)の構成の概要を示す。印刷画像(3−2)は、A−A´断面図に示すように、盛り上がりを有し、曲万線状に構成された蒲鉾状曲画線群(4−2)の上に、潜像画線群(5−2)が積層されて成る。
【0103】
図15に、蒲鉾状曲画線群(4−2)の詳細を示す。具体的な構成は、第一の実施の形態と同様に特定の円心を有し、同心円のように直径がX側からX´側の方向に徐々に大きくなる円弧であり、一定の画線幅(W1)を有する蒲鉾状画線(6−2)が、特定のピッチ(P1)で、円弧の画線方向と直交する方向に連続して配置されて蒲鉾状曲画線群(4−2)を構成している。
【0104】
以上のような構成の蒲鉾状曲画線群(4−2)を、A−A´断面図に示すように盛り上がりの有した形状で形成する。また、蒲鉾状画線(6−2)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を備える。
【0105】
図16に、潜像画線群(5−2)の詳細を示す。潜像画線群(5−2)は、いくつかの塊の画像が集まって一つの潜像画線群(5−2)と成っているが、説明の便宜上、一塊の潜像画線群(5A−2)を選択して説明する。
【0106】
潜像画線群(5A−2)は、潜像画線(7−2)が前述の蒲鉾状曲画線群(4−2)における規則と、同じ規則にしたがって配置されて成る。すなわち、特定の円心を有し、同心円のように直径がX側からX´側の方向に徐々に大きくなる円弧であり、一定の画線幅(W2)を有する潜像画線(7−2)が、特定のピッチ(P1)で連続して配置されて潜像画線群(5A−2)を構成している。
【0107】
蒲鉾状曲画線群(4−2)を構成するそれぞれの蒲鉾状画線(6−2)と、潜像画線群(5−2)を構成するそれぞれの潜像画線(7−2)は、お互いに対を成す関係にある。第二の実施の形態においても第一の実施の形態と同様に、蒲鉾状曲画線群(4−2)と潜像画線群(5−2)を適正な位置関係で重ね合わせた場合には、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6−2)と潜像画線(7−2)は、それぞれの画線が完全に重なり合う関係にある。
【0108】
続いて、潜像画線群(5A−2)及び潜像画線(7−2)の形成方法について、
図17を用いて説明する。第二の実施の形態と第一の実施の形態では、潜像画像の動きの方向が逆方向となるが、その違いは、以下に説明する潜像画線(7−2)の構成の違いによって生じる。
【0109】
ここでは、基画像(8−2)のほぼ中央に重なった蒲鉾状画線(6i−2)と対を成す潜像画線(7i−2)の作製方法について説明する。
図17(a)に示すのは基画像(8−2)であり、第一の実施の形態と同様に桜の花びらとした。
【0110】
図17(b)に、基画像(8−2)と蒲鉾状画線(6i−2)の位置関係を示す。この蒲鉾状画線(6i−2)と対を成す潜像画線(7i−2)を作製するためには、まず、
図17(c)に示すように、蒲鉾状画線(6i−2)の画線中心から均等な距離(H/2)に2つの画線(6fi−2)を配置する。続いて、
図17(d)に示すように、2つの画線(6fi−2)に挟まれた基画像(8i−2)だけを選択して取り出す。ここまでは第一の実施の形態の潜像画線(7i)の作製方法と全く同じである。
【0111】
第一の実施の形態との違いは、次の工程の有無であり、
図17(e)に示すように、取り出した基画像(8i−2)を、蒲鉾状画線(6i−2)を中心線としてミラー反転する。これによって、取り出した基画像(8i−2)は、反転した基画像(8iR−2)となる。
【0112】
ここで作製した反転した基画像(8iR−2)を、
図17(f)に示すように、蒲鉾状画線(6i−2)の中心に向かって、特定の縮率で蒲鉾状画線(6i−2)に沿って圧縮する。これによって、
図17(g)に示す、蒲鉾状画線(6i−2)と対を成す潜像画線(7i−2)が完成する。
【0113】
この作業を繰返してそれぞれの潜像画線(7−2)を作製し、対となる蒲鉾状画線(6−2)と同じ位置に配置する。すなわち、
図18に示すように、ある蒲鉾状画線(6i−10−2)に対応した潜像画線(7i−10−2)は、基の蒲鉾状画線(6i−10−2)と重なる位置に、また、異なる蒲鉾状画線(6i−2)に対応した潜像画線(7i−2)は、基の蒲鉾状画線(6i−2)と重なる位置に、また、異なる別の蒲鉾状画線(6i+10−2)に対応した潜像画線(7i+10−2)は、基の蒲鉾状画線(6i+10−2)と重なる位置に配置することで、潜像画線群(5A−2)ができあがる。
【0114】
以上の手順で作製した潜像画線群(5−2)を、それぞれ対と成る蒲鉾状画線(6−2)と潜像画線(7−2)とが重なり合う位置関係として重ね合わせることで、印刷画像(3−2)が完成する。潜像画線(7−2)を印刷で形成する場合には、低光沢で透明なマットインキを用いることが望ましい。
【0115】
図19に、本発明の効果を示す。印刷画像(3−2)に強い光が入射しない、拡散反射光下においては、潜像画像は不可視であり、単に印刷画像(3−2)のみが視認される(図示せず)。
【0116】
一方の正反射光下においては、桜の花びらを表した潜像画像が光のコントラストによって出現する。
図19(a)、
図19(b)及び
図19(c)に示すように、光に対する潜像印刷物(1−2)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3−2)中の潜像画像の位置が変化し、潜像画像がそれぞれの蒲鉾状画線(6−2)と直交する方向に動いているように見える。第二の実施の形態においては、傾きが大きくなるにしたがって、第一の実施の形態とは逆のA側からA´側へと潜像画像が動いているように見える。
【0117】
以上のような効果が生じる原理について説明する。第一の実施の形態同様に、蒲鉾状画線(6−2)の表面には、それぞれ潜像画線(7−2)が形成されている。このため、光が入射した場合、蒲鉾状曲画線群(4−2)には特定のピッチで光を強く反射する領域が発生し、潜像画線群(5−2)も同じピッチでサンプリングされて可視化される。
【0118】
第二の実施の形態における潜像画線(7−2)は、一旦ミラー反転したのちに一定の割合で圧縮して形成しているため、正反射光下では、ミラー反転された逆像として再現されるものの、それぞれの潜像画線(7−2)は、同じ基画像(8−2)から構成されていることに変わりはないため、潜像画線(7−2)の集合である潜像画線群(5−2)全体としてサンプリングされた画像を見た場合には、第一の実施の形態と同様に、基画像(8−2)と同じ画像として出現する。
【0119】
しかし、潜像印刷物(1−2)を正反射光下で傾けることで、蒲鉾状画線(6−2)の光を正反射する画線表面がAからA´の方向に移動した場合、潜像画線(7−2)も第一の実施の形態と同様に、AからA´の方向にサンプリングされるが、それぞれの潜像画線(7−2)は、ミラー反転されて基画像(8−2)の画像の位置情報は逆転しているため、再現された基画像(8−2)の動きの方向は、反対方向のA´からAの方向に動く画像となる。
【0120】
以上のように、潜像画線(7−2)の構成方法を変えることによって、正反射光下で出現する潜像画像の動きの方向を逆方向に変えることができる。
【0121】
なお、第一の実施の形態で表した形態と、第二の実施の形態で表した形態については、一つの印刷画像の中で同時に実現することもできる。
図20に示した形態は、第一の実施の形態で構成した潜像画線群(5)と第二の実施の形態で構成した潜像画線群(5−2)を重ね合わせた潜像画線群(5−2´)を形成した潜像画像(3−2´)の概要図である。
【0122】
図21(a)、
図21(b)及び
図21(c)に示すように、光に対する潜像印刷物(1−2´)の傾きを変えて観察することによって、一部の潜像画像はAからA´方向へと、一部の潜像画像はA´からA方向へとそれぞれが逆方向に動く。このように、構成の異なった潜像画線群(5−2´)を一つの印刷画像(3−2´)の中に配置することで、潜像画像にそれぞれ逆向きの動きを付与することもできる。
【0123】
また、この場合、それぞれの潜像画像が動く距離自体は同じであっても、一つの印刷画像(3−2´)の中に逆方向に動く効果によって、動きをより強調することができる。動画効果が強調されれば、判別性も向上するため、真偽判別能も高まる。
【0124】
(第三の実施の形態)
続いて、第一の実施の形態と第二の実施の形態とは異なり、蒲鉾状曲画線群が同心円で成る形態であって、潜像画像が動いて見えるだけでなく、潜像画像の形状自体も変化する効果を有する潜像印刷物について、
図22から
図30を用いて説明する。
【0125】
図22に、本発明における第三の実施形態の潜像印刷物(1−3)を示す。潜像印刷物(1−3)は、基材(2−3)上の少なくとも一部に、印刷画像(3−3)を有する。
【0126】
図23に、本発明の印刷画像(3−3)の構成の概要を示す。印刷画像(3−3)は、A−A´断面図に示すように、盛り上がりを有し、曲万線状に構成された蒲鉾状曲画線群(4−3)の上に、潜像画線群(5−3)が積層されて成る。
【0127】
図24に、蒲鉾状曲画線群(4−3)の詳細を示す。蒲鉾状曲画線群(4−3)は、特定の円心を有した円であり、A−A´断面図に示すように、一定の画線幅(W1)を有する蒲鉾状画線(6−3)が、特定のピッチ(P1)で、円弧の画線方向と直交する方向に連続して配置されて同心円状の蒲鉾状曲画線群(4−3)を構成している。
【0128】
以上のような構成の蒲鉾状曲画線群(4−3)を、A−A´断面図に示すように盛り上がりの有した形状で形成する。また、蒲鉾状画線(6−3)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を備える
【0129】
図25に、潜像画線群(5−3)の詳細を示す。潜像画線群(5−3)は、潜像画線(7−3)が前述の蒲鉾状曲画線群(4−3)における規則と、同じ規則にしたがって配置されて成る。すなわち、特定の円心を有した円であり、一定の画線幅(W2)を有する潜像画線(7−3)が、特定のピッチ(P1)で連続して配置されて同心円状の潜像画線群(5−3)を構成している。
【0130】
蒲鉾状曲画線群(4−3)を構成するそれぞれの蒲鉾状画線(6−3)と、潜像画線群(5−3)を構成するそれぞれの潜像画線(7−3)は、お互いに対を成す関係にある。
図26に示すように、蒲鉾状曲画線群(4−3)と潜像画線群(5−3)を適正な位置関係で重ね合わせた場合には、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6−3)と潜像画線(7−3)の中心は、完全に重なり合う関係にある。
【0131】
続いて、潜像画線群(5−3)及び潜像画線(7−3)の形成方法について、
図27を用いて説明する。基本的な形成方法は、第一の実施の形態と同じである。まず、潜像画線(7−3)の作製方法について説明する。ここでは、基画像(8−3)のほぼ中央に重なった蒲鉾状画線(6i−3)と対を成す潜像画線(7i−3)の作製方法について説明する。
【0132】
図27(a)は、第三の実施の形態における基画像(8−3)であり、×印の彩紋とした。
図27(b)に基画像(8−3)と蒲鉾状画線(6i−3)の位置関係を示す。この蒲鉾状画線(6i−3)と対を成す潜像画線(7i−3)を作製するためには、まず、
図27(c)に示すように、蒲鉾状画線(6i−3)の画線中心から均等な距離(H/2)に2つの画線(6fi−3)を配置する。続いて、
図27(d)に示すように、2つの画線(6fi−3)に挟まれた基画像(8i−3)だけを選択して取り出す。ここで取り出した基画像(8i−3)を、
図27(e)に示すように、蒲鉾状画線(6i−3)の中心に向かって、特定の縮率で蒲鉾状画線(6i−3
)に沿って画線幅W2に圧縮する。これによって、
図27(f)に示す蒲鉾状画線(6i−3)と対を成す潜像画線(7i−3)が完成する。
【0133】
この作業を繰り返して、それぞれの潜像画線(7−3)を作製し、対となる蒲鉾状画線(6−3)と同じ位置に配置する。すなわち、
図28に示すように、ある蒲鉾状画線(6i−10−3)に対応した潜像画線(7i−10−3)は、基の蒲鉾状画線(6i−10−3)と重なる位置に、また、異なる蒲鉾状画線(6i−3)に対応した潜像画線(7i−3)は、基の蒲鉾状画線(6i−3)と重なる位置に、また、異なる別の蒲鉾状画線(6i+10−3)に対応した潜像画線(7i+10−3)は、基の蒲鉾状画線(6i+10−3)と重なる位置に配置することで、潜像画線群(5−3)ができあがる。
【0134】
以上の手順で作製した潜像画線群(5−3)を、それぞれ対と成る蒲鉾状画線(6−3)と潜像画線(7−3)とが重なり合う位置関係として重ね合わせることで、印刷画像(3−3)が完成する。潜像画線(7−3)を印刷で形成する場合には、低光沢で透明なマットインキを用いることが望ましい。
【0135】
図29に、本発明の効果を示す。印刷画像(3−3)に強い光が入射しない、拡散反射光下においては、
図29(a)に示すように、潜像画像は不可視であり、単に印刷画像(3−3)のみが視認される。
【0136】
一方の正反射光下においては、彩紋を表した潜像画像が光のコントラストによって出現する。
図29(b)、
図29(c)、
図29(d)及び
図29(e)に示すように、光に対する潜像印刷物(1−3)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3−3)中の潜像画像の位置が変化し、潜像画像がそれぞれの蒲鉾状画線(6−3)と直交する方向に動いているように見える。
【0137】
図29(b)は、印刷画像(3−3)を正反射光下でB辺を図面上側へ傾けた状態であり、この場合、印刷画像(3−3)はB辺側へと移動する。
図29(c)は、印刷画像(3−3)を正反射光下でA´辺を図面右側へ傾けた状態であり、この場合、印刷画像(3−3)はA´辺側へと移動する。
図29(d)は、印刷画像(3−3)を正反射光下でB´辺を図面下側へ傾けた状態であり、この場合、印刷画像(3−3)はB´辺側へと移動する。
図29(e)は、印刷画像(3−3)を正反射光下でA辺を図面左側へ傾けた状態であり、この場合、印刷画像(3−3)はA辺側へと移動する。
【0138】
以上のように、本実施の形態の蒲鉾状画線(6−3)は、円によって構成されているため、360°いかなる方向に傾けたとしても、潜像画像はそれに対応した方向へと動く特徴を有する。
【0139】
第三の実施の形態の潜像印刷物(3−3)においては、いかなる方向に傾けたとしても、潜像画像はそれに対応した方向に動く特徴に加え、第一の実施の形態及び第二の実施の形態とは異なり、印刷画像(3−3)の中の潜像画像の位置が変化するだけでなく、潜像画像の形状自体が変化する特徴を有する。
【0140】
形状が変化する効果について、
図29(c)に示した印刷画像(3−3)を正反射光下でA´辺を図面右側へ傾けた状態を代表例として、
図30を用いて説明する。
図30(a)は、特許文献1に示した従来の技術で構成した場合に、
図29(c)に示した、印刷画像(3−3)を正反射光下でA´辺を図面右側へ傾けた状態に出現する潜像画像であり、
図30(b)は、本発明の潜像印刷物(3−3)において、
図29(c)に示した、印刷画像(3−3)を正反射光下でA´辺を図面右側へ傾けた状態に出現する潜像画像である。
【0141】
従来の技術では、蒲鉾状画線は、全て同一の画線方向を成す直線で形成されていることから、出現した潜像画像は、
図30(a)に示すように、画線と直交する方向へと平行移動する。
【0142】
一方の本発明の潜像印刷物(3−3)においては、蒲鉾状画線(6−3)は円であり、蒲鉾状曲画線群(4−3)は、同心円を構成していることから、それぞれの領域において蒲鉾状画線(6−3)と直交する方向は変化している。潜像画像は、蒲鉾状画線(6−3)と直交する方向に動くことから、潜像画像のうち、円心から円周へ移動する画像は円周に向かって拡大し、潜像画像のうち、円周から円心へ移動する画像が円心に向かって縮小されるために、全体の形状が変化する効果が生まれる。以上のような形状変化の効果が、あらゆる角度に傾けた場合に生じる。
【0143】
この効果は、一つの潜像画像を構成する潜像画線群(5−3)が、画線方向の変化幅の大きい蒲鉾状曲画線群(4−3)の上に重なる構成となった場合により顕著になる。蒲鉾状曲画線群(4−3)を構成する蒲鉾状画線(6−3)の画線方向が、10度以上変化している場合に認識可能であり、特に、30度以上変化していることが望ましい。
【0144】
また、蒲鉾状画線(6−3)が楕円を含む円から成る場合、蒲鉾状画線(4−3)の円心に、一つの潜像画像を構成する潜像画線群(5−3)が重なった構成とすることで、潜像画像の形状変化をより大きなものとすることができる。
【0145】
なお、潜像画線群(5−3)とは、潜像画線群(5−3)の一番外周を形成している画線から内側の領域の全てを潜像画線群(5−3)とする。つまり、第三の実施形態に示す×印の彩紋のような閉鎖された画線の場合、一番外周の画線から内側の領域であるため、中央部分には画線が存在しないが、その部分も含め潜像画線群(5−3)とする。また、閉鎖された画線でない場合においても同様であり、一番外周を形成している画線から内側の領域の全てを潜像画線群(5−3)とする。
【0146】
以上のように、第三の実施の形態では、潜像画像は単にその位置が変化して動いて見えるだけでなく、形状自体が変化する効果が発揮される。
【0147】
(第四の実施の形態)
続いて、第三の実施の形態とほぼ同様な構成の潜像印刷物の一形態であって、第三の実施の形態の潜像画像とは逆方向に潜像画像が動き、かつ、形状も変化する潜像印刷物について
図31から
図36を用いて説明する。
【0148】
図31に、本発明における第四の実施形態の潜像印刷物(1−4)を示す。潜像印刷物(1−4)は、基材(2−4)上の少なくとも一部に、印刷画像(3−4)を有する。
【0149】
図32に、本発明の印刷画像(3−4)の構成の概要を示す。印刷画像(3−4)は、A−A´断面図に示すように、盛り上がりを有し、曲万線状に構成された蒲鉾状曲画線群(4−4)の上に、潜像画線群(5−4)が積層されて成る。
【0150】
図33に、蒲鉾状曲画線群(4−4)の詳細を示す。具体的な構成は、第三の実施の形態と同様に特定の円心を有した円であり、一定の画線幅(W1)を有する蒲鉾状画線(6−4)が、特定のピッチ(P1)で、円弧の画線方向と直交する方向に連続して配置されて同心円状の蒲鉾状曲画線群(4−4)を構成している。
【0151】
以上のような構成の蒲鉾状曲画線群(4−4)を、A−A´断面図に示すように盛り上がりの有した形状で形成する。また、蒲鉾状画線(6−4)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を備える。
【0152】
図34に、潜像画線群(5−4)の詳細を示す。潜像画線群(5−4)は、潜像画線(7−4)が前述の蒲鉾状曲画線群(4−4)における規則と、同じ規則にしたがって配置されて成る。すなわち、特定の円心を有した円であり、一定の画線幅(W2)を有する潜像画線(7−4)が、特定のピッチ(P1)で連続して配置されて同心円状の潜像画線群(5−4)を構成している。
【0153】
蒲鉾状曲画線群(4−4)を構成するそれぞれの蒲鉾状画線(6−4)と、潜像画線群(5−4)を構成するそれぞれの潜像画線(7−4)は、お互いに対を成す関係にある。第四の実施の形態においても第三の実施の形態と同様に、蒲鉾状曲画線群(4−4)と潜像画線群(5−4)を適正な位置関係で重ね合わせた場合には、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6−4)と潜像画線(7−4)は、それぞれの画線中心が完全に重なり合う関係にある。
【0154】
続いて、潜像画線群(5−4)及び潜像画線(7−4)の形成方法について、
図35を用いて説明する。第四の実施の形態と第三の実施の形態では、潜像画像の動きの方向が異なるが、その違いは以下に説明する潜像画線(7−4)の構成の違いによって生じる。ここでは、基画像(8−4)のほぼ中央に重なった蒲鉾状画線(6i−4)と対を成す潜像画線(7i−4)の作製方法について説明する。
【0155】
図35(a)に示すのは基画像(8−2)であり、十字の彩紋とした。
図35(b)に基画像(8−4)と蒲鉾状画線(6i−4)の位置関係を示す。この蒲鉾状画線(6i−4)と対を成す潜像画線(7i−4)を作製するためには、まず、
図35(c)に示すように、蒲鉾状画線(6i−4)の画線中心から均等な距離(H/2)に2つの画線(6fi−4)を配置する。続いて、
図35(d)に示すように、2つの画線(6fi−4)に挟まれた基画像(8i−4)だけを選択して取り出す。ここまでは、第三の実施の形態の潜像画線(7i−4)の作製方法と全く同じである。
【0156】
第三の実施の形態との違いは、次の工程の有無であり、
図35(e)に示すように、取り出した基画像(8i−4)を蒲鉾状画線(6i−4)を中心線としてミラー反転する。これによって、取り出した基画像(8i−4)は反転した基画像(8iR−4)となる。ここで作製した反転した基画像(8iR−4)を、
図35(f)に示すように、蒲鉾状画線(6i−4)の中心に向かって、特定の縮率で蒲鉾状画線(6i−4)に沿って画線幅W2に圧縮する。これによって、
図35(g)に示す、蒲鉾状画線(6i−4)と対を成す潜像画線(7i−4)が完成する。
【0157】
この作業を繰返してそれぞれの潜像画線(7−4)を作製し、対となる蒲鉾状画線(6−4)と同じ位置に配置する。この手順は、第三の実施の形態と同様であるため省略する。
【0158】
以上の手順で作製した潜像画線群(5−4)を、それぞれ対と成る蒲鉾状画線(6−2)と潜像画線(7−4)とが重なり合う位置関係として重ね合わせることで、印刷画像(3−4)が完成する。潜像画線(7−4)を印刷で形成する場合には、低光沢で透明なマットインキを用いることが望ましい。
【0159】
図36に、本発明の効果を示す。印刷画像(3−4)に強い光が入射しない、拡散反射光下においては、
図36(a)に示すように、潜像画像は不可視であり、単に印刷画像(3−4)のみが視認される。
【0160】
一方の正反射光下においては、彩紋を表した潜像画像が光のコントラストによって出現する。
図36(b)、
図36(c)、
図36(d)及び
図36(e)に示すように、光に対する潜像印刷物(1−4)の傾きを変えて観察することによって、印刷画像(3−4)中の潜像画像の位置が変化し、潜像画像がそれぞれの蒲鉾状画線(6−4)と直交する方向に動いているように見える。
【0161】
図36(b)は、印刷画像(3−4)を正反射光下でB辺を図面上側へ傾けた状態であり、この場合、印刷画像(3−3)はB´辺側へと移動する。
図36(c)は、印刷画像(3−4)を正反射光下でA´辺を図面右側へ傾けた状態であり、この場合、印刷画像(3−3)はA辺側へと移動する。
図36(d)は、印刷画像(3−4)を正反射光下でB´辺を図面下側へ傾けた状態であり、この場合、印刷画像(3−4)はB辺側へと移動する。
図36(e)は、印刷画像(3−4)を正反射光下でA辺を図面左側へ傾けた状態であり、この場合、印刷画像(3−4)はA´辺側へと移動する。
【0162】
以上のように、第四の実施の形態の蒲鉾状画線(6−4)は、円によって構成されているため、360°いかなる方向に傾けたとしても、潜像画像はそれに対応した方向へと動く特徴を有する。また、動きの方向は、第三の実施の形態の潜像印刷物(1−3)の方向とは逆の方向となる。
【0163】
さらに、第三の実施の形態と同様に、印刷画像(3−4)の中の潜像画像の位置が変化するだけでなく、潜像画像の形状自体が変化する特徴を有する。形状の変化の傾向については、第三の実施の形態と同様であり、円周へと動く方向では拡大され、円心へと動く方向では縮小される。
【0164】
なお、第三の実施の形態で表した形態と、第四の実施の形態で表した形態については、一つの印刷画像の中で同時に実現することもできる。
図37に示した形態は、第三の実施の形態で構成した潜像画線群(5−3´)と第四の実施の形態で構成した潜像画線群(5−4´)を重ね合わせた潜像画線群(5−5´)を形成した潜像画像(3−5´)の概要図である。
【0165】
図38(a)に示すように、拡散反射光下では潜像画像は不可視であって、
図38(b)、
図38(c)、
図38(d)及び
図38(e)に示すように、光に対する潜像印刷物(1−5´)の傾きを変えて観察することによって、それぞれの潜像画像が逆方向に動く。このように、構成の異なった潜像画線群(5−3´及び5−4´)を一つの印刷画像(3−5´)の中に配置することで、潜像画像にそれぞれ逆向きの動きと形状の変化を付与することもできる。
【0166】
また、この場合、それぞれの潜像画像が動く距離自体は同じであっても、一つの印刷画像(3−5´)の中に逆方向に動く効果と形状の変化が生じるため、動きや形状の変化をより強調することができる。動画効果や形状の変化が強調されれば、判別性も向上するため、真偽判別能も高まる。
【0167】
本発明における蒲鉾状画線(6)は、画線方向が連続的に変化する、曲がった線である必要があるが、蒲鉾状画線(6)内における画線方向は、角度にして少なくとも10度以上変化するものとし、30度以上変化することがより望ましい。
【0168】
10度未満の角度変化では、従来の直線で蒲鉾状の画線が構成された印刷物と比較して、効果の面で顕著な差異が生じないためである。最も効果的な蒲鉾状画線(6)の構成は、第三の実施の形態及び第四の実施の形態で示した360度のあらゆる画線方向を有した円の構成であり、蒲鉾状曲画線群(4)全体として、同心円を構成する形態である。
【0169】
本発明における蒲鉾状曲画線群(4)及び潜像画線群(5)のピッチは、0.05mm以上1.0mm以下で形成する。0.05mm以下のピッチは、蒲鉾状画線(6)に3μm以上の盛り上がりを形成する場合には、一般的な印刷で再現することができる画線のピッチとしてはほぼ限界のピッチであり、印刷物品質の安定性に欠ける上に、たとえ、0.05mm以下のピッチで画線を形成することができた場合でも、ほとんどの場合、出現する潜像画像の視認性が極端に低くなるため適当ではない。また、逆に、1.0mm以上のピッチで形成した場合には、潜像画像として再現することができる画像の解像度が極端に低くなってしまうため、同様に適切ではない。
【0170】
各潜像画線をミラー反転させた潜像画線(7)を用いて潜像画線群(5)を形成した場合、潜像画像の動きの方向が逆方向に変化するだけでなく、遠近感も逆転する。潜像画線(7)をミラー反転させない場合、出現する潜像画像は、印刷画像(3)自体よりも手前に存在するように感じられ、潜像画線(7)をミラー反転させた場合、出現する潜像画像は印刷画像(3)自体よりも奥に存在するように感じられる。
【0171】
このように、遠近感が逆転する原因は、ミラー反転の有無により潜像画像の動きの方向が逆方向に変化し、右眼で捉える潜像画像の位置と、左眼で捉える潜像画像の位置が逆転するために両眼視差に起因する遠近感も逆転するためである。
【0172】
また、潜像画線(7)を作製するにあたって、基画像(8)を取り出す幅(H)/潜像画線の画線幅(W2)の比率(縮率)を変えることで、出現する潜像画像の動きの速さや動き幅の大きさを制御することができる。縮率を大きく設計した場合には、出現した潜像画像は傾けた場合に早く動き、動きの幅も大きくなり、縮率を小さく設計した場合には、出現した潜像画像は傾けた場合に遅く動き、動きの幅も小さくなる。
【0173】
ただし、動きの早さや幅の大きさと、出現する潜像画像のシャープさは、トレードオフの関係にあり、縮率を大きく設計した場合には、出現する潜像画像は基画像(8)と比較してぼやけた画像となり、逆に縮率を小さく設計した場合には、出現する潜像画像は基画像(8)をほぼそのまま再現したようなシャープな画像となる。
【0174】
また、縮率は、動きの早さ、動きの幅の大きさ及び出現する潜像画像のシャープさに関係するだけでなく、遠近感にも関係する。すなわち、縮率を大きく設計した場合には、出現する潜像画像の遠近感は大きくなり、縮率を小さく設計した場合には、出現する潜像画像の遠近感は小さくなる。
【0175】
以上のように、縮率を変えることで、動きの速さ、動きの幅、潜像画像のシャープさ及び遠近感が変化する。縮率の具体的な数値の範囲については、基画像(8)の複雑さや蒲鉾状画線(6)の幅にも左右されるが、2以上100以下程度で形成することが望ましい。
【0176】
縮率を2以下とした場合、立体的な視覚効果や動画的な視覚効果が低くなり過ぎ、100以上とした場合、潜像画線の幅内に画像を圧縮した場合に印刷再現性を超えた解像度になる場合が多いためである。いずれにしても、ユーザの求める効果に応じて適宜、適正な数値を選択する必要がある。
【0177】
本発明を実施するための形態において、潜像画像として文字を例にして説明したが、これに限定される必要はなく、文字の他に記号又は図柄等でも形成可能である。
【0178】
なお、本明細書中でいう正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。
【0179】
例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では、無色透明に見えるが、正反射した状態では、特定の干渉色を発する。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
【0180】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作成した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0181】
実施例1について、
図39から
図44を用いて説明する。
図39に、本発明の潜像印刷物(1−11)を示す。潜像印刷物(1−11)は、基材(2−11)上に、印刷画像(3−11)を有する。実施例1の潜像印刷物(1−11)における基材(2−11)は、一般的な白色コート紙(日本製紙製)を用いた。
【0182】
図40に、本発明の印刷画像(3−11)の構成の概要を示す。印刷画像(3−11)は、A−A´断面図に示すように、盛り上がりを有し、曲万線状に構成された蒲鉾状曲画線群(4−11)の上に、潜像画線群(5−11)を積層して作製した。
【0183】
図41に、蒲鉾状曲画線群(4−11)の詳細を示す。特定の円心を有した円であり、画線幅0.3mmの蒲鉾状画線(6−11)が、0.4mmピッチで連続して配置されて同心円状の蒲鉾状曲画線群(4−11)を構成している。
【0184】
以上のような構成の蒲鉾状曲画線群(4−11)を、蒸着アルミを顔料とする銀インキ(ミラシーン ウォールステンホルム社製)を用いて、基材(2−11)にスクリーン印刷によって印刷した。
【0185】
蒲鉾状画線(6−11)の盛り上がりの高さは、約12μmであった。使用したインキは、拡散反射光下では、暗い灰色であるが、正反射光下では、明度が大きく上昇して白色へと変化する優れた明暗フリップフロップ性を備える。
【0186】
図42に、潜像画線群(5−11)の詳細を示す。潜像画線群(5−11)は、第三の実施の形態及び第四の実施の形態で説明した潜像画線を一つの潜像画線群(5−11)とした構成とした。
【0187】
すなわち、×印の彩紋を表す基画像(8A−11)を基に、縮率を20としてミラー反転せずに形成した画線幅0.2mmの潜像画線(7A−11)を0.4mmピッチで蒲鉾状曲画線群(4−11)と同じ同心円状に配置した潜像画線群(5A−11)と、十字の彩紋を表す基画像(8B−11)を基に、縮率を20としてミラー反転して形成した画線幅0.2mmの潜像画線(7B−11)を0.4mmピッチで蒲鉾状曲画線群(4−11)と同じ同心円状に配置した潜像画線群(5B−11)を、それぞれの円心を等しく重ね合わせて一つの潜像画線群(5−11)として構成した。なお、潜像画線(7A−11)及び潜像画線(7B−11)は、互いに重ならないように配置されるが、各々の基画像(8A−11及び8B−11)を同一の領域内に重ねて配置する場合、潜像画線(7A−11)及び潜像画線(7B−11)が、画線領域を共有して形成することとなるが、本発明においては、これらの領域を共有する形態ついても、双方の潜像画線(7A−11及び7B−11)を重ならないように配置したものとする。
【0188】
以上の構成の潜像画線群(5−11)を透明なマットインキ(マットメジウム T&K TOKA製)を用いてウェットオフセット印刷方式で、
図43に示すように、それぞれ対を成す蒲鉾状画線(6−11)と潜像画線(7−11)の画線中心が完全に重なり合う関係で蒲鉾状曲画線群(4−3)と潜像画線群(5−3)を重ね合わせて、潜像印刷物(1−11)を形成した。
【0189】
図44に、本実施例における潜像印刷物(1−11)の効果を示す。潜像印刷物(1−11)の印刷画像(3−11)に強い光が入射しない拡散反射光下においては、
図44(a)に示すように、潜像画像は不可視であり、単に印刷画像(3−11)のみが銀インキの拡散反射光下の色彩である暗い灰色で視認された。
【0190】
一方の正反射光下においては、二つの彩紋を表した潜像画像が光のコントラストによって出現した。すなわち、潜像画像は銀インキの拡散反射光下の色彩である暗い灰色で、印刷画像(3−11)のその他の領域は、銀インキの正反射光下の色彩である白色の色彩で出現した。
図44(b)、
図44(c)、
図44(d)及び
図44(e)に示すように、光に対する潜像印刷物(1−11)の傾きを変えて観察することによって、360°いかなる方向に傾けたとしても、印刷画像(3−11)中の潜像画像の位置がそれぞれの蒲鉾状画線(6−11)と直交する方向に動き、かつ、潜像画像の形状が変化して見えた。
【0191】
以上のように、拡散反射光下では潜像画像は不可視であり、正反射光下で潜像画像は銀インキの拡散反射光下の色彩である暗い灰色で、印刷画像(3−11)のその他の領域は、銀インキの正反射光下の色彩である白色の色彩に彩られて出現した。また、正反射光下において360°いかなる方向に傾けたとしても、印刷画像(3−11)中の潜像画像の位置がそれぞれの蒲鉾状画線(6−11)と直交する方向に動き、かつ、潜像画像の形状が変化して見える効果を確認することができた。