特許第6032446号(P6032446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6032446低反射グラフェン、光学部材用低反射グラフェン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6032446
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】低反射グラフェン、光学部材用低反射グラフェン
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/116 20150101AFI20161121BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20161121BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20161121BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   G02B1/116
   C23C16/26
   C01B31/02 101Z
   B32B18/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-104186(P2015-104186)
(22)【出願日】2015年5月22日
【審査請求日】2016年2月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「低炭素社会を実現するナノ炭素材料実用化プロジェクト/ナノ炭素材料の革新的薄膜形成技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 那由太
(72)【発明者】
【氏名】矢沢 健児
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴壽
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雅考
(72)【発明者】
【氏名】植草 和輝
【審査官】 南 宏輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−156202(JP,A)
【文献】 特開2012−058584(JP,A)
【文献】 特表2008−500560(JP,A)
【文献】 Rakesh Kumar et al.,Antireflection properties of graphene layers on planar and textured silicon surfaces,NANOTECHNOLOGY,英国,IOP PUBLISHING,2013年 3月27日
【文献】 吉村昭彦 他,プラズマCVDによる新炭素ナノ材料の創製と構造評価,IHI技報,日本,2008年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に略平行な面を有する第1のグラフェン層と、
前記第1のグラフェン層に接続し、前記第1の方向と交差する第2の方向に配向した第
2のグラフェン層と、を有し、
前記第1のグラフェン層と前記第2のグラフェン層とが凹部を形成し、
全光線反射率が、波長200nm以上2000nm以下の範囲において、1.5%以下であることを特徴とする低反射グラフェン。
【請求項2】
ラマン共鳴スペクトル測定において、2550cm−1以上2800cm−1以下の波数範囲にピークが観測されることを特徴とする請求項に記載の低反射グラフェン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記低反射グラフェンを円筒基材に用いたことを特徴とする光学部材。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の低反射グラフェンを壁面に用いたことを特徴とする電波通信用ノイズ低減壁。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の低反射グラフェンを導電性低反射膜に用いたことを特徴とする表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低反射グラフェン、光学部材用低反射グラフェンに関する。特に、可視光領域および赤外領域で一定以下の低い光反射特性を有する低反射グラフェン、およびそれを利用した光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
低反射材料は、従来、各種の光学機器における光反射量の制御に用いられている。例えば、光学顕微鏡、望遠鏡、カメラなどのレンズ光学系においては、低反射材を用いることでノイズを低減することができる。これは、レンズから入射した光が、鏡筒等の中に閉じ込められ、内部で反射を繰り返す迷光現象を低減させることができるためである。
【0003】
たとえば、望遠鏡や顕微鏡のレンズにおいては、前記の迷光がディテクタに検出され、それが観察対象であるのか、それとも、迷光に由来するノイズであるかどうかの判別がつかないことがある。このような迷光減少を低減させるための材料として、より低反射な材料が切望されている。
【0004】
さらに、モバイル端末、テレビ、パソコン等のディスプレーにおいて反射光を低減させてちらつきを抑えたりすることも可能となると考えられる。
【0005】
各種の低反射材が市販されているが、いずれも可視光領域および赤外領域において反射率が十分に低いとは言えない。また、グラフェンを利用した低反射材は市販されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−146533号公報
【特許文献2】特許第4762945号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】平松ほか Journal of the Vacuum Society of Japan. (真空)、Vol 49、No 6、2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の問題を解決するものであって、とくに、紫外光領域および赤外領域をカバーする、波長200nm以上2000nm以下の領域において、全光線反射率が低い低反射グラフェンおよび、これを利用した光学部材を提供することを目的とする。また、膜厚の薄い低反射グラフェン及びこれを用いた光学部材を提供する。通常、グラフェンは透明導電膜など光を透過する材料や部材としての開発が活発であるが、発明者らは鋭意検討し、従来とは全く異なる概念で、低反射グラフェン及びこれを用いた光学部材を提供することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によると、波長200nm以上2000nm以下の範囲において、全光線反射率が、1.5%以下である低反射グラフェンが提供される。
【0010】
本発明の一実施形態によると、第1の方向に略平行な面を有する第1のグラフェン層と、前記第1のグラフェン層に接続し、第1の方向と交差する第2の方向に配向した第2のグラフェン層と、を有する、低反射グラフェンが提供される。
【0011】
前記低反射グラフェンにおいて、ラマン共鳴スペクトル測定において、2550cm-1以上2800cm-1以下の波数範囲にピークが観測される低反射グラフェンが提供される。
【0012】
本発明の一実施形態によると、低反射グラフェンを円筒基材に用いた光学部材が提供される。
【0013】
本発明の一実施形態によると、低反射グラフェンを壁面に用いた光無線通信用ノイズ低減壁が提供される。
【0014】
本発明の一実施形態によると、低反射グラフェンを導電性低反射膜に用いた表示装置が提供される。
【0015】
本発明の一実施形態によると、プラズマCVD製膜装置にメタンガス、アルゴンガス、水素ガスを導入し、全光線反射率が、波長200nm以上2000nm以下の範囲において、1.5%以下であるグラフェン膜を基材上に形成する、低反射グラフェンの成膜方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、反射率の低いグラフェンと、その製造方法が提供される。紫外領域から赤外領域をカバーする、波長200nm以上2000nm以下の領域において、全光線反射率が低い低反射グラフェンおよび、これを利用した光学部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る低反射グラフェンを示す模式図である。
図2】本発明の一実施例に係る低反射グラフェンの波長200nm以上2000nm以下での反射率を示す図である。
図3】本発明の一実施例に係る低反射グラフェンの532nm波長のレーザーを用いて測定したラマンスペクトルを示す図である。
図4】本発明の比較例に係る低反射グラフェンの波長200nm以上2000nm以下での反射率を示す図である。
図5】本発明の比較例に係る低反射グラフェンの532nm波長のレーザーを用いて測定したラマンスペクトルを示す図である。
図6】本発明の比較例に係る低反射グラフェンの波長200nm以上2000nm以下での反射率を示す図である。
図7】本発明の比較例に係る低反射グラフェンの532nm波長のレーザーを用いて測定したラマンスペクトルを示す図である。
図8】本発明の一実施例に係る低反射グラフェンの断面の透過電子像(倍率6万倍)である。
図9】本発明の一実施例に係る低反射グラフェンの断面の透過電子像(倍率30万倍)である。
図10】本発明の一実施例に係る低反射グラフェンの走査型電子顕微鏡による二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らが、紫外領域から赤外領域をカバーする広範な波長領域において低反射となるグラフェンの探索を行った結果、特定の構造を有するグラフェン膜が広範な波長領域に対して極めて低反射となる特性を備えることを初めて見出した。
【0019】
ここで、カーボンを積層させることに関しての先行の技術としては、例えば、特許文献1には、簡便な方法により面状電子源を作製することができる構造を有する炭素薄体が記載されている。もっとも、同文献は、反射率に着目した材料ではない。
【0020】
また、特許文献2には、金属触媒を有しない基板と、前記基板の表面上に、直接、立設された多数の壁状から成り、厚さ0.05nm〜30nm、面の縦横の長さ100nm〜10μm、を有した金属触媒を有しない二次元的な広がりをもつ単層又は多重層のカーボンナノウォールとから成り、カーボンナノウォールのそれぞれの長さ方向は所定方向に配向しているカーボンナノウォール構造体、が記載されている。特許文献2には、本件で記す第一のグラフェン層が示されていないことから構造が異なる。もっとも、同文献を見ても、また、同文献の発明者と同一人物が作成したカーボンナノウォールに関する論文(非特許文献1)を見ても、同文献に記載のカーボンナノウォールが反射率に着目した材料であるとはいえない。
【0021】
本発明の一実施形態では、可視光領域および赤外領域をカバーする200nm以上2000nm以下という領域において、相対全反射率が1.5%という極めて低反射となるグラフェンが提供される。また、本発明の一実施形態において、そのような低反射のグラフェンの製造方法が提供される。
【0022】
以下、図面を参照して本発明に係る低反射グラフェンについて説明する。但し、本発明の低反射グラフェンは、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0023】
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態に係る低反射グラフェン1を示す模式図である。本発明のグラフェンは、基材10に対して略平行に伸びる第1のグラフェン層13と、その上に立設された第2のグラフェン層15とを有する。なお、本明細書では、図面において基材方向を下とした際の方向で上下左右を定義する。また、図1において第1のグラフェン層13がなす面の積層方向が第1の方向L1、第2のグラフェン層15がなす面の配向方向が第2の方向L2と定義される。
【0024】
ここで、基材10は、銅箔を用いることができる。そのほかに、例えば、ニッケル、コバルト、クロム等の触媒機能を有する金属、アルミニウムなどの金属であって良い、シリコン基板、ガラス基板、Ge基板、ZnS基板、フッ化カルシウムなどのフッ化物基板、サファイア等の酸化物基板等の無機系基板でもよいし、有機系基板として、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PC(ポリカーボネート)、アクリル、ポリイミド等の樹脂基板等を用いることができる。
【0025】
本実施形態は、第1の方向L1に延在する第1のグラフェン層13を有することから、基材10との接着面が広く、機械的強度が高いことにも特徴がある。また、このように第1の方向L1に延在する第1のグラフェン層13を有することによって基材との密着力が高いために、本実施形態の低反射グラフェン1を、所望の基材に密着させることが可能である。
【0026】
たとえば、顕微鏡、望遠鏡、カメラ等の鏡筒に用いる際においては、銅箔やポリイミド等に低反射グラフェン1を積層させ、これを鏡筒の内側部材に貼り付けることで鏡筒を簡易に組み立てることができる。さらに、本実施形態では、内部部材に直接積層させた場合も、自然に剥離しない程度の密着力を有する。これにより、さらに簡易に鏡筒を作成することが可能である。
【0027】
なお、図1において、簡単のために基材10を平板構造として示しているが、本発明に係る低反射グラフェン1は、これに限定されるものではなく、球体、レンズ型構造等の曲面を有する構造体、円筒構造、凹凸を有する構造体、粗面を有する構造体、所定のパターン形状を有する構造体等であってもよい。また、図1においては簡単のために第1の方向が、基材の平面方向に平行となっているが、略平行で構わない。とくに、球体、レンズ型構造等の曲面を有する構造体、円筒構造、凹凸を有する構造体、粗面を有する構造体、所定のパターン形状を有する構造体等が基材である場合には、略平行である。また、図1においては簡単のために、第1の方向L1と第2の方向L2とが直交する図面となっている。もっとも、第1の方向L1と第2の方向L2とが直交しなくともよく、たとえば60度程度の角度で交差していてもよい。また、図1に示したように、立設された第2のグラフェン層15は、完全にL2方向でそろって配向していなければならないものでもない。
【0028】
共鳴ラマン散乱測定法によって、グラフェンの振動スペクトルを測定すると、グラフェン由来の2550cm-1以上2800cm-1(2700cm-1付近である)の2Dバンド(Gプライム バンド)が観測される。本実施形態において、低反射グラフェン1は、グラフェン構造を有することから、共鳴ラマン散乱測定法により測定された2550cm-1以上2800cm-1以下の範囲内での、特徴的な前記ピークが存在する。これは、本実施形態での第1のグラフェン層、第2のグラフェン層に由来するものであり、低反射グラフェン1がグラフェンであることの証左である。
【0029】
低反射グラフェン1が、前述の構造をとり、なおかつ、紫外領域から赤外領域をカバーする200nm以上2000nmという領域において相対全光線反射率の極めて低い特性を有するということを発見した。本発明により実現される反射率は、グラフェンを単に直上に積層させる従来の手法では、なしえなかったものである。
【0030】
本実施形態と層数が同程度であっても構造が異なる場合には、上記のような特性が出ないことからすると、上記の特性は、第1の方向L1に積層した第1のグラフェン層13と、第2の方向L2に配向した第2のグラフェン層15とが、凹部を形成することによる、光閉じ込め効果と、前述したグラフェンの有する高い光吸収率という特性とが相まって、相乗効果的に生じたものであるということができる。
【0031】
なお、凹部とは、2つの隣接する第2のグラフェン層15と、これらが接着する第1のグラフェン層13とが成す形状が凹みを有する形状であるという意味である。
【0032】
本発明のさらなる実施形態では、上記で作成した低反射グラフェン1を、前述した鏡筒内の迷光対策として、鏡筒の壁面材料として用いることができる。また、鏡筒内の迷光対策以外にも、たとえば光無線通信分野において、ノイズキャンセラとして用いることも可能である。
【0033】
さらに、表示装置における低反射膜として利用することも可能である。たとえば、低反射膜としては、光出射面と反対側の基板に貼り合わせることによって、に貼り合わせることによって、パネル外部からの光の流入をおさえ、ちらつきや光学的混色を低減させる表示装置を提供することが可能である。
【0034】
<製造方法>
低反射グラフェン1の製造方法について説明する。所定形状の基材を用意する。低反射グラフェン1は、基材10に直接積層させることもでき、低反射グラフェン1を別の基材に成膜して、基板10に配置してもよい。基材10としては、実施形態1で説明した材質及び形状の基材を任意に選択可能である。本発明ではこの基材の上に、プラズマCVD製膜装置で、基材を石英ガラスチューブ内に設置し、含炭素ガス、不活性ガス、添加ガスを所定のガス比で導入し、プラズマを発生させて、基材上に低反射グラフェン1を形成する。基材として銅箔を選択した場合には、ガラスチューブにヒーターを巻きつけて高温で銅箔を加熱し、銅箔上に低反射グラフェン1を形成することができる。
【0035】
プラズマCVDを用いるグラフェンの製造プロセスとして、たとえば、国際公開第2011/115197号に記載されたマイクロ波表面波プラズマ化学気相成長法(マイクロ波表面波プラズマCVD)、が先行技術として存在するが、本発明では、このプロセスとは条件が異なるため、低反射グラフェン1を製造することが可能である。
【0036】
本発明で用いるCVD処理の条件としては、基材温度は500度以下であり、好ましくは200℃以上450℃以下である。また圧力は、50Pa以下である。処理時間は特に限定されないが、1秒以上1000秒以下程度である。好ましくは、100秒以上600秒以下程度である。
【0037】
本発明の低反射グラフェン1を積層させるためには、添加ガスと含炭素ガスのガス比をほぼ同じとするか、または、添加ガスを含炭素ガスよりも多くする必要がある。ここで、含炭素ガスとしては、メタン、エチレン、アセチレン、エタノール、アセトン、メタノール等が包含される。不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が包含される。また添加ガスとしては、水素ガスが好ましく用いられる。
【0038】
なお、第1のグラフェン膜13と、第2のグラフェン層15とは、グラフェンが1層の膜であってもよく、複数層が積層した膜であってもよい。低反射グラフェン1の取扱い上、複数層が配向したグラフェン膜であることが好ましい。
【0039】
上記のように基材10上に第1のグラフェン層13と、第2のグラフェン層とを含む低反射グラフェンを積層させることによって、本実施形態に係る低反射グラフェン1は、波長200nm以上2000nm以下の範囲の光に対して、極めて低い反射率を示す低反射グラフェンを製造することが可能である。これは、前述の光閉じ込め効果と、前述のグラフェンの有する高い光吸収率という特性とが相まったものであると考えられ、従来にないグラフェンを作成することのできる手法である。なお、本発明では、上に挙げた金属基板、ガラス、ポリイミドフィルム等へ直接成膜することも可能である。
【実施例】
【0040】
上述した本発明に係る低反射グラフェンについて、実施例を示してさらに説明する。なお、本明細書の開示する思想は、下記に示す1つの具体例としての実施例に限定して解釈されるべきではない。
【0041】
(実施例1)
プラズマCVD製膜装置で、圧延銅箔(33μm、福田金属箔粉工業)を石英ガラスチューブ内に設置し、メタンガス、アルゴンガス、水素ガスをガス比6:1:6で導入しながら、圧力バルブで内部気圧が10Paとなるように圧力を調整した。その後、チャンバー内に、プラズマを発生させて、圧延銅箔上に低反射グラフェン1を形成した。製膜時間は600秒であった。
【0042】
(実施例1の紫外領域から赤外領域の反射率測定)
実施例1の低反射グラフェンの紫外領域から赤外領域について紫外可視分光光度計(SolidSpec−3700DUV、島津製作所)を用いて、全光線反射率を測定した。なお、全光線反射率のリファレンス基板としては、ラブスフィア社製のスペクトラロン(登録商標)反射マテリアルを用いた。
【0043】
図2に実施例1の低反射グラフェンの波長200nm以上2000nm以下での反射率を示す。図2の結果から、実施例1の低反射グラフェンは、波長200nm以上2000nm以下の反射率がすべて1.5%未満であることが分かる。
【0044】
(実施例1の共鳴ラマン散乱測定)
実施例1の低反射グラフェンについて、共鳴ラマン散乱測定を行った。RENISYOUラマン装置により、532nm波長のレーザーを用いて測定したラマンスペクトルを図3に示す。2550cm-1以上2800cm -1以下の領域にグラフェン構造に起因するピークが観測された。なお、図3においては、該ピークの箇所に矢印でマークをしてある。
【0045】
(比較例1)
XGScience社カーボン粉末(C−750)を、粘着テープに接着してシート状にしたものを比較例1とした。
【0046】
(比較例1の紫外領域から赤外領域の反射率測定)
比較例1の紫外領域から赤外領域の反射率を、実施例1に記載の方法で測定した。図4に比較例1の波長200nm以上2000nm以下での反射率を示す。図4の結果から、比較例1は、波長約1000nm以上2000nm以下までは1.5%以上の反射率であった。
【0047】
(比較例1の共鳴ラマン散乱測定)
比較例1のラマンスペクトルを、実施例1と同様に測定した。図5に比較例1のラマンスペクトルを示す。2550cm-1以上2800cm-1以下の領域にピークは存在しなかった。
【0048】
(比較例2)
市販されている低反射材料として存在するACTER社のMetalVelvetを比較例2とした。なお、同試料は、そもそもシート形状である。
【0049】
(比較例2の紫外領域から赤外領域の反射率測定)
比較例2の紫外領域から赤外領域の反射率を、実施例1に記載の方法で測定した。図6に比較例2の波長200nm以上2000nm以下での反射率を示す。図6の結果から、波長200nm以上990nm以下までは1.5%以下の反射率であるものの、それ以降の波長990nm以上2000nm以下までの領域では、1.5%以上の反射を示した。
【0050】
(比較例2の共鳴ラマン散乱測定)
比較例2のラマンスペクトルを、実施例1と同様に測定した。図7に比較例2のラマンスペクトルを示す。波長2550-1以上2800cm -1以下の領域にピークは存在しなかった。
【0051】
以上より、実施例1のみが全光線反射率が、波長200nm以上2000nm以下の範囲において、反射率が1.5%以下であることが分かる。また、共鳴ラマン散乱測定により実施例1のみグラフェン構造を有していることが分かる。したがって、紫外領域から赤外領域をカバーする、波長200nm以上2000nm以下の領域において、全光線反射率が低い低反射グラフェンを提供できることが明らかとなった。
【0052】
<構造解析>
(実施例1の透過電子像)
実施例1について、透過型電子顕微鏡(Hitachi製 H9000UHR)により、微細組織を加速電圧300kVで観察した。その結果を、図8及び図9に示す。図8は、実施例1のグラフェンの上部を倍率300万倍で観察した透過電子像であり、図9は、実施例1のグラフェンの下部を300万倍で観察した透過電子像である。
【0053】
図8の結果から、第2の方向L2(上下方向)に延在する線上の構造物が見え、第2のグラフェン層15が第2の方向に延び、第1の方向(左右方向)に積層していることが分かる。とくに図12から、第2のグラフェン層15が第2の方向に延び、第1の方向(左右方向)に積層していることが明らかとなっている。
【0054】
図9の結果から、第1の方向L1に延在する線上の構造物と、その上に第2の方向L2に延在する線上の構造物が見え、第1のグラフェン層13と、第2のグラフェン層15とが、それぞれ第1の方向、第2の方向に延び、なおかつ、それぞれ第2の方向、第1の方向に積層していることが分かる。とくに図18から、第1のグラフェン層13と、第2のグラフェン層15とが、それぞれ第1の方向、第2の方向に延び、なおかつ、それぞれ第2の方向、第1の方向に積層していることが明らかとなっている。
【0055】
このことから、実施例1において、第1の方向L1に積層したグラフェン層13と、第2の方向L2に積層した第2のグラフェン層15と、が、前述の凹部を形成していることが分かる。
【0056】
図10に、実施例1を走査型電子顕微鏡によって観察した二次電子像を示す。これにより、実施例1の第2の方向L2に第2のグラフェン層15が延在していることがみえる。
【0057】
以上の構造解析の結果、本実施例において、第1の方向L1に積層したグラフェン層13と、第2の方向L2に積層した第2のグラフェン層15と、が、凹部を形成することによる光閉じ込め効果と、前述したグラフェンの有する高い光吸収率という特性とが相まって、波長200nm以上2000nm以下という波長範囲で相乗効果的に相対全光反射率が1.5%以下を満たす低反射グラフェンであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本件発明における低反射グラフェンは、上述した光学部材における迷光対策用の低反射グラフェン材料、光無線通信分野等におけるノイズキャンセラ、表示装置における導電性低反射膜として用いる以外にも、赤外線レーザーを反射させない効果を利用した低赤外線反射部材(ステルス)として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0059】
1:低反射グラフェン
10:基材
13:第1のグラフェン層
15:第2のグラフェン層
L1 第1の方向
L2 第2の方向
【要約】
【課題】本発明は、可視光領域および赤外領域をカバーする、波長200nm以上2000nm以下の領域において、全光線反射率が低い低反射グラフェンおよび、これを利用した光学部材を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明によると、波長200nm以上2000nm以下の範囲において、全光線反射率が、1.5%以下である低反射グラフェンが提供される。また、低反射グラフェンは、第1の方向に略平行な面を有する第1のグラフェン層と、前記第1のグラフェン層に接続し、前記第1の方向と交差する第2の方向に配向した第2のグラフェン層と、を有する。
【選択図】図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10