特許第6032496号(P6032496)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6032496-銅電解スライムからのセレン製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6032496
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】銅電解スライムからのセレン製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 19/02 20060101AFI20161121BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20161121BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20161121BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20161121BHJP
   B01J 41/12 20060101ALI20161121BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C01B19/02 E
   C22B3/26
   C22B7/00 Z
   C22B11/00 101
   B01J41/12
   B01D39/16 A
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-253240(P2013-253240)
(22)【出願日】2013年12月6日
(65)【公開番号】特開2015-110490(P2015-110490A)
(43)【公開日】2015年6月18日
【審査請求日】2015年11月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】一色 靖志
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 善昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英明
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−506777(JP,A)
【文献】 特開2012−126611(JP,A)
【文献】 特開2001−316735(JP,A)
【文献】 特開昭53−014117(JP,A)
【文献】 特開昭60−251107(JP,A)
【文献】 特開2009−050786(JP,A)
【文献】 特開2004−143522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 19/02
B01D 39/16
B01D 50/00
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅電解スライムのスラリーから塩素浸出した少なくとも金、白金族元素及びセレンがイオンの形で含まれる浸出液を、有機溶媒法を用いて有機溶媒と接触させて、前記浸出液中の金を前記有機溶媒に抽出し、前記金が抽出された浸出液を抽出残液とし、前記抽出残液を陰イオン交換樹脂と接触させて、前記抽出残液に含まれていた白金族元素を、前記陰イオン交換樹脂に吸着させて、白金族元素を取り除いた抽出残液を吸着残液とし、前記吸着残液に銅製錬における熔錬炉及び転炉で発生して鋼製配管を経て送られてくる二酸化硫黄ガスを吹き込んで、前記吸着残液に含まれるセレンイオンを還元してセレンを回収する銅電解スライムからのセレン製造方法において、
前記二酸化硫黄ガスが、前記吸着残液に吹き込まれる前に、目開き10〜70μmのフィルターを使い濾過されることを特徴とする銅電解スライムからのセレン製造方法。
【請求項2】
前記フィルターが、フッ素樹脂製であることを特徴とする請求項1に記載の銅電解スライムからのセレン製造方法。
【請求項3】
前記フィルターが、フッ素樹脂製であり、且つポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅電解スライムからのセレン製造方法。
【請求項4】
前記二酸化硫黄ガスが、銅製錬における熔錬炉及び転炉で発生する二酸化硫黄濃度が10〜20%の製錬排ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅電解スライムからのセレン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬における銅電解工程で発生する銅電解スライム(アノードスライムともよぶ)からセレン(Se)を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅製錬における銅電解工程で発生する銅電解スライムからセレンを回収する方法として、銅電解スライムに水を加えてスラリー状とし、塩素ガスを吹き込むことにより、金、白金族元素、セレン、等の有価金属を浸出し、得られた浸出液から溶媒抽出により、先ず金を、次に白金族元素を分離した後、残液に含まれるセレンイオンを還元してセレン(Se)を回収する方法がある。
上記セレンを含有した残液からのセレン回収方法では、二酸化硫黄を使用して酸化還元電位をコントロールする湿式還元法が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に開示される方法では、二酸化硫黄を吹き込む前に、亜硫酸水素ナトリウムを添加し、生成した主にパラジウムを含む沈殿物を濾過して分離した後、得られた濾液に、二酸化硫黄を吹き込み、濾液中のセレンイオンを還元処理してセレンを回収する方法が開示されている。しかしながら、得られたセレンは、パラジウムの含有は抑制されたが、硫黄が含有されており、より高いセレン純度への対応は困難であった。
【0004】
ところで、この還元処理に使用される二酸化硫黄は、銅の硫化鉱を使い、銅製錬を行なうプラントで発生する製錬排ガスに含まれる二酸化硫黄を有効利用している。そのため、この製錬排ガスは配管を経てセレン製造工程に送られている。
ここで使用される配管は、高温且つ温度変動の大きい製錬排ガスを通すために、樹脂製配管、あるいは内側にライニングを施した複合材配管を使用することができず、通常、鋼製配管が使用されている。
【0005】
この配管を経て送られてきた製錬排ガスは、フィルターを通して様々な粒状物を取り除いた後、セレンを含有した上記残液に吹き込まれ、残液中のセレンイオンを還元処理してセレンを生成している。
しかしながら、この製錬排ガスを二酸化硫黄源とする方法で回収されたセレンには、僅かに硫黄が含まれており、セレン純度の高いものではなかった。
【0006】
そこで、この製錬排ガスを二酸化硫黄源とする二酸化硫黄による還元処理を使用し、僅かにセレンに混入する硫黄を抑え、硫黄品位が低く、純度の高いセレンを製造する方法が求められていた。具体的には、セレン中の硫黄品位を100ppm以下にすることができる銅電解スライムからのセレンを回収するセレン製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−126611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電解スライムから回収するセレンにおいて、セレンへの硫黄の混入を抑え、硫黄品位が低く純度の高いセレンの回収方法である電解スライムからのセレンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の発明は、銅電解スライムのスラリーから塩素浸出した少なくとも金、白金族元素及びセレンがイオンの形で含まれる浸出液を、有機溶媒法を用いて有機溶媒と接触させて、前記浸出液中の金を前記有機溶媒に抽出し、前記金が抽出された浸出液を抽出残液とし、前記抽出残液を陰イオン交換樹脂と接触させて、前記抽出残液に含まれていた白金族元素を、前記陰イオン交換樹脂に吸着させて、白金族元素を取り除いた抽出残液を吸着残液とし、前記吸着残液に銅製錬における熔錬炉及び転炉で発生して鋼製配管を経て送られてくる二酸化硫黄ガスを吹き込んで、前記吸着残液に含まれるセレンイオンを還元してセレンを回収する銅電解スライムからのセレン製造方法において、前記二酸化硫黄ガスが、前記吸着残液に吹き込まれる前に、目開き10〜70μmのフィルターを使い濾過されることを特徴とする銅電解スライムからのセレン製造方法である。
【0010】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるフィルターが、フッ素樹脂製であることを特徴とする銅電解スライムからのセレン製造方法である。
【0011】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明におけるフィルターが、フッ素樹脂製で、且つポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする銅電解スライムからのセレン製造方法である。
【0012】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明における二酸化硫黄ガスが、銅製錬における熔錬炉及び転炉で生成する二酸化硫黄濃度が10〜20%の製錬排ガスであることを特徴とする銅電解スライムからのセレン製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回収したセレンの硫黄品位を抑えることができ、より高純度のセレンを得ることを可能とし、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明における銅電解スライムからセレン(Se)を回収するセレン製造方法の工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に本発明に係る銅電解スライムからセレン(Se)を回収するセレン製造方法の工程フロー図を示す。
本発明による銅電解スライムからセレン(Se)を回収するセレン製造方法は、図1に示す工程フロー図のように、先ず銅電解スライムのスラリーを塩素浸出(図1:塩素浸出)し、その浸出液に有機溶媒を接触させて金を抽出(図1:溶媒抽出)し、その抽出残液を陰イオン交換樹脂と接触させて白金族元素を吸着(図1:イオン交換)させた後、残る吸着残液に鋼製配管を経て送られてくる二酸化硫黄ガス(製錬排ガス)を吹き込んで、吸着残液中のセレンイオンを還元してセレンを生成(図1:還元処理)して回収するセレン製造方法において、吹き込む二酸化硫黄ガス(製錬排ガス)を目開き10〜70μmのフィルターを使い濾過するものである。
【0016】
先ず、回収したセレンに含まれる硫黄の供給源が、銅電解スライムのスラリーを塩素浸出し、その浸出液に有機溶媒を接触させて金を抽出し、その抽出残液を陰イオン交換樹脂と接触させて白金族元素を吸着させた後、吸着残液に二酸化硫黄ガスとして例えば製錬排ガスを吹き込んで、セレンを還元して製造する各工程の内、吸着残液に二酸化硫黄ガスを吹き込んで、含まれるセレンイオンを還元処理してセレンを生成する工程で使用している製錬排ガスに混じっている硫黄であることを見出した。
【0017】
詳しくは、製錬排ガスを送るために使用されている鋼製配管内には鉄錆が生じているが、この鉄錆は製錬排ガス中に除去されずに残った微量の水分や、製錬排ガスの温度が低下し、露点を下回ることで生じた微量の水分により生じるものである。ところで、この鉄錆が配管内で生じる際には、製錬排ガスに含まれる二酸化硫黄は、ごく一部が還元されて、微粒の硫黄が生成される。この生成された硫黄は、配管内に設けられたフィルターで、その大部分が分離されるが、生成した硫黄の一部、即ち、前記フィルターを通り抜けた粒径100μm未満の微粒硫黄は反応槽に吹き込まれ、その反応槽内で沈殿しているセレンに混じり、セレン中の硫黄品位を押し上げている。なお、この配管に設置されたフィルターは、銅製錬において製錬排ガスを処理する硫酸製造工程において、最も多くのエネルギーを使用する製錬排ガスファンの消費電力を抑えるため、圧力損失の大きくない、即ち、目開きの比較的大きな、例えばプレフィルターなどのフィルターを使用している。
【0018】
そこで、この粒径100μm未満の微粒硫黄を取り除く方法について説明する。
粒径100μm未満の微粒硫黄が混入した場合のセレン中の硫黄品位は、370ppm程度であることを確認している。したがって、硫黄品位が低く純度の高いセレンとするためには含まれる硫黄品位を100ppm未満にすることが要求され、そのためには粒径100μm未満の微粒硫黄の70%以上を取り除くことが求められる。
【0019】
この製錬排ガス中に存在する微粒硫黄を70%以上取り除くには、微粒硫黄の粒度分布から、フィルターの目開きは70μm以下とする必要があることがわかった。即ち、フィルターの目開きを70μmとして操業することで、セレン中の硫黄濃度は100ppm未満とすることができる。
【0020】
他方、前記フィルターの目開きが10μm未満の場合、硫黄濃度100ppm未満の高純度のセレンを得ることができる。しかしながら、フィルターの圧力損失が大きく製錬排ガスファンの消費電力が増加するだけである。
従って、フィルターの目開きは10〜70μmとすることが好ましい。
【0021】
次に、このフィルターはフッ素樹脂であることについて説明する。
このフィルターは、製錬排ガスの濾過に使用するため、また、製錬排ガスの温度は露点よりも高い200℃前後として操業するため、酸などの腐食に強く、かつ、250℃程度までの温度に耐える材質であることが好ましく、従って、フッ素樹脂が材質として好ましい。
さらに、そのフッ素樹脂としては、入手が容易であり、価格も安いポリテトラフルオロエチレン(PTFEとよぶこともある)が好ましい。
【0022】
また、濾布が織布の場合、配管内で剥離した鉄錆片などの飛散により部分的に損傷を受けると、その損傷の範囲が拡がっていく。一方、不織布の1種であるフェルトタイプの場合、この損傷の範囲は表面に留まり、拡がることが無いので好ましい。
【0023】
次に、還元処理に用いる二酸化硫黄ガスは、銅製錬における熔錬炉、及び転炉で得られる製錬排ガスであることについて説明する。
本発明においてセレンの還元処理に用いる二酸化硫黄ガスは、銅製錬における自熔炉などの熔錬炉及び転炉で発生した濃度10〜20%の二酸化硫黄を含む製錬排ガスであることが好ましい。
【0024】
前記製錬排ガスには、10〜20%の二酸化硫黄が含まれている。従って、同じ銅製錬所の中で発生する製錬排ガスを、銅電解スライムからのセレンの製造に利用することで、わざわざ二酸化硫黄ガスを製造する必要がなくなり、銅電解スライムからのセレン製造コストを削減することができる。
【0025】
製錬排ガスの二酸化硫黄濃度が10%未満の場合、製錬排ガスとセレンとの還元反応は、二酸化硫黄の濃度が低いために、時間がかかり、好ましくない。
また、製錬排ガスの二酸化硫黄濃度が20%を超える場合、セレンの還元反応にかかる時間は短くなるものの、二酸化硫黄濃度の高い製錬排ガスを得るためには、熔錬炉、転炉において、酸素の使用量を増やす必要がある。従って、製錬排ガスを得るためのコストが増加するので好ましくない。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0027】
銅電解スライムに水を加えてスラリーとし、塩素ガスを吹き込むことにより、金、白金族元素、セレン、等の有価金属が浸出した浸出液を得た。その浸出液から溶媒抽出法により金を抽出し、抽出残液を得た。この抽出残液の硫黄濃度を測定したところ25ppmであった。そしてこの抽出残液を陰イオン交換樹脂と接触させて白金族元素を吸着させ、吸着残液を得た。
【0028】
次に、銅製錬の自熔炉および転炉から鋼製配管を経て送られてきた二酸化硫黄濃度10%の製錬排ガスを、目開き70μmのポリテトラフルオロエチレン製フェルトフィルターを使用して濾過し、微粒硫黄を除去した所望の二酸化硫黄ガスを得た。
この二酸化硫黄ガスを、得られた吸着残液に吹き込み、吸着残液中のセレンイオンを還元処理してセレンを回収した。
得られたセレンの硫黄品位は80ppmであった。
【実施例2】
【0029】
ポリテトラフルオロエチレン製フェルトフィルターの目開きを10μm、二酸化硫黄濃度20%の製錬排ガスを使用した以外は、実施例1と同じ条件でセレンの回収を行った。
その結果、硫黄品位70ppmのセレンが得られた。
【実施例3】
【0030】
目開き70μmのポリフェニレンサルファイド製フェルトフィルターを用いた以外は、実施例1と同じ条件で銅電解スライムからセレンの回収を行った。
その結果、実施例1と同程度の硫黄品位のセレンが得られた。
【実施例4】
【0031】
鋼製配管の長さが50m長いこと、製錬排ガス温度が150℃であること、並びに目開き70μmのポリエステル製フェルトフィルターを用いた以外は、実施例1と同じ条件で銅電解スライムからのセレンの回収を行った。
その結果、実施例1と同程度の硫黄品位のセレンが得られた。
【0032】
(比較例1)
ポリテトラフルオロエチレン製フェルトフィルターの目開きを100μm、二酸化硫黄濃度8%の製錬排ガスを使用したこと以外は、実施例1と同じ条件でセレンの回収を行った。
その結果、硫黄品位370ppmのセレンが得られた。
【0033】
(従来例)
銅製錬の自熔炉および転炉から鋼製配管を経て送られてきた二酸化硫黄濃度10%の製錬排ガスをそのまま二酸化硫黄ガスとして使用した以外は、実施例1と同じ条件でセレンの回収を行った。
その結果、含まれる硫黄の硫黄品位が400ppmのセレンが得られた。
図1