【実施例1】
【0034】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。ここで、本発明の実施例1〜6及び比較例1〜5の概略を、表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
実施例1〜6及び比較例1〜5の詳細については、後述するが、表1における実施例1〜6、及び比較例1〜5は、概略として、基材としての銅からなる平板上に、種々の厚さの亜鉛の被覆層を電解めっきにより形成し、作製したものである。
【0037】
すなわち、実施例1〜6の銅系材料は、タフピッチ銅からなる平板上に、0.002〜0.45μmの亜鉛めっきの厚さを変えた被覆層を形成し、その後、大気中で焼鈍をして作製したものである。
【0038】
また、比較例1の銅系材料は、銅系材料の特性に及ぼす亜鉛層の厚さの影響を評価すべく、厚さを変化させた亜鉛層を形成し、その後、実施例1と同様の加熱処理をしたものであり、比較例2及び3の銅系材料は、銅系材料の特性に及ぼす加熱処理条件の影響を評価すべく、加熱処理条件を変化させ(比較例2)、又は加熱処理をせずに(比較例3)、作製したものである。
【0039】
さらに、比較例4及び5として、タフピッチ銅(比較例4)、及びCu−30質量%Zn合金(比較例5)を用意した。
【0040】
表1において、アモルファス層の存在の確認は、RHEED分析(Reflection High Energy Electron Diffraction)により行った。アモルファス層の存在を示すハローパターンが確認できたものを「有」、結晶質の構造を示す電子線の回折斑点が確認できたものを「無」とした。
【0041】
なお、表1において、作製した各銅系材料の外観、耐食性、総合評価は、以下のようにして行った。
【0042】
「外観」は、100℃に設定した恒温槽において、大気中で1000時間まで保持する恒温保持試験、及び温度85℃×湿度85%の試験槽中で100時間保持する試験を実施し、評価した。試験前後の色、光沢の変化で判断し、最も変化の少ないものを◎、最も変化が大きく外観上劣化したものを×、その中間を△とした。
【0043】
「耐食性」は、100℃に設定した恒温槽において、大気中で1000時間まで保持し、試験後に計測された酸化膜の増加量により評価した。初期(試験前)と比較して最も変化が少ないものを◎、最も変化が大きく、劣化していたものを×とし、その中間をその変化の程度に応じてそれぞれ○、△とした。定量的な基準としては、初期(試験前)の酸化膜の厚さと比較し、1000時間後の酸化膜の厚さが3倍以上となったものは、外観の変化によらず全て×とした。
【0044】
「総合評価」は、これらの項目を総合的に評価して、◎最良、○良好、△不足、×不適と判断した。
【0045】
以下に、実施例1〜6及び比較例1〜5の詳細を示す。
【0046】
[実施例1]
純Cu(タフピッチ銅;以下TPC)からなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.002μmの亜鉛からなる被覆層を形成し、その後、50℃の温度で10分間、大気中で加熱処理して、表面処理層を備えた銅系材料を作製した。作製した銅系材料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)からなる群から選択された2種又は3種で構成される表面処理層が、0.003μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0047】
[実施例2]
実施例2では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.005μmのZn層を形成し、その後、50℃の温度で1時間、大気中で加熱処理した銅系材料を作製した。作製した銅系材料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)からなる群から選択された2種又は3種で構成される表面処理層が、0.006μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0048】
[実施例3]
実施例3では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.008μmのZn層を形成し、その後、100℃の温度で5分間、大気中で加熱処理した銅系材料を作製した。作製した銅系材料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)からなる群から選択された2種又は3種で構成される表面処理層が、0.01μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0049】
[実施例4]
実施例4では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.04μmのZn層を形成し、その後、120℃の温度で10分間、大気中で加熱処理した銅系材料を作製した。作製した銅系材料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)からなる群から選択された2種又は3種で構成される表面処理層が、0.05μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0050】
[実施例5]
実施例5では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.08μmのZn層を形成し、その後、150℃の温度で30秒間、大気中で加熱処理した銅系材料を作製した。作製した銅系材料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)からなる群から選択された2種又は3種で構成される表面処理層が、0.1μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0051】
[実施例6]
実施例6では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.45μmのZn層を形成し、その後、150℃の温度で30秒間、加熱処理した銅系材料を作製した。作製した銅系材料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)からなる群から選択された2種又は3種で構成される表面処理層が、0.5μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0052】
[比較例1]
比較例1では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.95μmのZn層を形成し、その後、100℃の温度で5分間、大気中で加熱処理した銅系材料を作製した。作製した銅系材料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)からなる群から選択された2種又は3種で構成される表面処理層が、1μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0053】
[比較例2]
比較例2では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.02μmのZn層を形成し、銅系材料を作製した。
【0054】
[比較例3]
比較例3では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を用意し、その表面に、電解めっきにより厚さ0.01μmのZn層を形成し、その後、400℃の温度で30秒間、大気中で加熱処理した銅系材料を作製した。作製した銅系材料に対し、表面から深さ方向のオージェ分析を行うことで、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び銅(Cu)からなる群から選択された2種又は3種で構成される表面処理層が、0.02μmの厚さに形成されていることを確認した。
【0055】
[比較例4]
比較例4では、TPCからなる厚さ0.5mmの平板を評価試料とした。
【0056】
[比較例5]
比較例5では、Cu−30質量%Zn合金(黄銅)の厚さ0.5mmの平板を評価試料とした。
【0057】
図3は、実施例3に係る銅系材料の恒温(100℃)保持試験における1000時間試験品の、表層からスパッタを繰り返しながら深さ方向のオージェ元素分析を行った結果を示すグラフである。横軸は表面からの深さ(nm)、縦軸は原子濃度(at%)を表し、実線は酸素の含有比率としての原子濃度(at%)、長い破線は亜鉛の原子濃度、破線は銅の原子濃度を示している。酸素進入深さは、表面から8nm程度であり、特に深さ0〜3nmの表層部位における平均元素含有比率を(深さ0〜3nmでの各元素の最大原子濃度−最小原子濃度)/2と定義すると、実施例3では、亜鉛(Zn)が37at%、酸素(O)が50at%、銅(Cu)が13at%であった。
【0058】
また、他の実施例を含めると、上記平均元素含有比率は、亜鉛(Zn)が35〜68at%、酸素(O)が30〜60at%、銅(Cu)が0〜15at%の範囲にあることがわかった。
【0059】
一方、比較例1の銅系材料は、亜鉛(Zn)が33at%、酸素(O)が41at%、銅(Cu)が26at%であり、比較例5の銅系材料は、亜鉛(Zn)が5at%、酸素(O)が46at%、銅(Cu)が49at%であった。
【0060】
図4は、実施例3及び比較例4に係る銅系材料の恒温(100℃)保持試験における、表層からの酸素進入深さ(酸化膜厚さ)の時間変化を示すグラフ図である。酸素進入深さは、各時間保持したサンプル表面から、スパッタを繰り返しながら、深さ方向にオージェ分析を行うことで求めた。
図4において、横軸は100℃等温保持時間(h)、縦軸は酸素進入深さ(nm)を表し、実線は実施例3、破線は比較例4及び5の酸素進入深さを示している。なお、比較例1は点で示されている。
【0061】
実施例3では、
図3に示すように、3600時間保持経過後の状態で、表面近傍での酸素濃度が増加しているものの、その進入深さは試験前と殆ど変化せず約0.01μm以下であり、実施例3の銅系材料は高い耐酸化性を示した。
【0062】
一方、
図4に示すように、恒温保持試験前の比較例4(タフピッチ銅)及び比較例5では酸素を含む層の厚さが表面から約0.006μm程度と、恒温保持試験前の実施例3と同程度の深さであったが、3600時間保持試験後の比較例4では、表面近傍での酸素濃度が恒温保持試験前に比較して顕著に増加し、さらに、比較例4の酸素進入深さは約0.036μmと試験前の5倍以上となり、比較例5の酸素進入深さは約0.078μmと試験前の13倍となった。また試験後の比較例4及び比較例5では外観上も赤茶系に変色しており、明らかに酸素を含む層が厚く形成されていると判断することができた。また、TPCに0.95μmのZn層を形成した比較例1は1000時間保持試験後に既に酸素進入深さが約0.080μmに達していた。
【0063】
耐食性に優れた実施例3の表面をRHEED分析した結果を
図5に示す。電子線の回折像は、ハローパターンを示しており、表1にも示すとおり、表面にアモルファス層が形成されていることがわかった。一方、耐食性に劣る比較例4は、銅及び酸素で構成される結晶質であることが確認された。
【0064】
また、表1によれば、厚さを0.003〜0.5μmに変化させた表面処理層をもち、かつ、その表面処理層がアモルファス構造を有している実施例1〜6の外観及び耐食性の評価は良好であった。特に、表面処理層の厚さが0.006〜0.05μmの場合、優れた特性を示した。
【0065】
以上の結果から、実施例1〜6に示す構造は、表面酸化の進行がなく、100℃×1000時間にも及ぶ恒温保持試験、及び、85℃×85%の環境でも安定した表面状態を保っていることが確認された。
【0066】
一方、同じくZn系の表面処理層を持つ比較例1〜3であっても、良好な特性が得られない場合が認められた。比較例1のように、亜鉛の厚さが厚い場合、比較例2のようにめっき後の加熱処理を実施していない場合、比較例3のようにめっき後に過剰な加熱処理を行った場合等、表層にアモルファスが形成されないものはいずれも、耐食性の評価結果は不良となった。
【0067】
以上の結果から、加熱処理の条件としては、酸素を1%以上含む雰囲気中で50℃以上であることが好ましいことが確認された。
【0068】
コスト(経済性)に関して、本発明の実施例1〜6は、材料そのものの耐食性に優れているが材料コストが高い貴金属コーティング等を必要とせず、安価なZnを使用し、しかもその厚さが極めて薄いため、生産性と経済性に極めて優れている。
【0069】
上述の結果から総合的に判断すると、実施例1〜6に示す本発明によれば、高温環境下における長時間の使用に耐え得る耐食性(耐酸化性)を有し、かつ、簡易な手法によりアモルファス層を形成することができ、銅系の装飾用材料及び導電材料として好適である銅系材料及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、銅又は銅合金材料本来の色や光沢を有し、それらの表面酸化による劣化を低減させた銅系の装飾用材料及び導電材料を得ることができる。
【0070】
また、心材(基材)としての銅及び銅合金は、一般的なタフピッチ銅、無酸素銅に制限されるものではなく、高純度銅や上述したいわゆる希薄銅合金に対しても、本発明の方法は適用が可能である。