(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6033632
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】セロビオン酸ホスホリラーゼを用いた酸性βグルコシル二糖の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/12 20060101AFI20161121BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20161121BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
C12P19/12ZNA
!C12N9/12
!C12N15/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-228364(P2012-228364)
(22)【出願日】2012年10月15日
(65)【公開番号】特開2014-79185(P2014-79185A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(72)【発明者】
【氏名】中井 博之
(72)【発明者】
【氏名】仁平 高則
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 由華
(72)【発明者】
【氏名】大坪 研一
(72)【発明者】
【氏名】北岡 本光
(72)【発明者】
【氏名】西本 完
【審査官】
伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/118007(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/128601(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/007481(WO,A1)
【文献】
Database GenBank [online], Accession No.ABD80168.1,2011年11月21日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/89950153?sat=18&satkey=1747322
【文献】
Database GenBank [online], Accession No.AAM43298.1,2009年 2月26日,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/21115350?sat=18&satkey=1856173
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12P 19/12
C12N 9/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−グルコース1−リン酸と、グルコン酸又はグルクロン酸と、以下の酵素学的性質と配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するセロビオン酸ホスホリラーゼを含む溶液中で酵素反応を行うステップと、セロビオン酸又はグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を回収するステップとを含む酸性βグルコシル二糖の製造方法:
a)作用
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用してセロビオン酸を生成し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用してグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を生成する;
b)基質特異性
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用する;
c)至適pH
30℃の条件下で、pH6.5;
d)温度安定性
pH6.5の条件下で、35℃まで安定;
e)pH安定性
4℃、24時間の条件下で、pH5.5−10.5で安定。
【請求項2】
α−グルコース1−リン酸と、グルコン酸又はグルクロン酸と、以下の酵素学的性質と配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するセロビオン酸ホスホリラーゼを含む溶液中で酵素反応を行うステップと、セロビオン酸又はグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を回収するステップとを含む酸性βグルコシル二糖の製造方法:
a)作用
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用してセロビオン酸を生成し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用してグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を生成する;
b)基質特異性
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用する;
c)至適pH
30℃の条件下で、pH6.0;
d)温度安定性
pH6.0の条件下で、35℃まで安定;
e)pH安定性
4℃、24時間の条件下で、pH5.0−10.5で安定。
【請求項3】
α−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びその基質となる糖と、グルコン酸又はグルクロン酸と、リン酸と、以下の酵素学的性質と配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するセロビオン酸ホスホリラーゼを含む溶液中で酵素反応を行うステップと、セロビオン酸又はグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を回収するステップとを含む酸性βグルコシル二糖の製造方法:
a)作用
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用してセロビオン酸を生成し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用してグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を生成する;
b)基質特異性
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用する;
c)至適pH
30℃の条件下で、pH6.5;
d)温度安定性
pH6.5の条件下で、35℃まで安定;
e)pH安定性
4℃、24時間の条件下で、pH5.5−10.5で安定。
【請求項4】
α−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びその基質となる糖と、グルコン酸又はグルクロン酸と、リン酸と、以下の酵素学的性質と配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するセロビオン酸ホスホリラーゼを含む溶液中で酵素反応を行うステップと、セロビオン酸又はグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を回収するステップとを含む酸性βグルコシル二糖の製造方法:
a)作用
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用してセロビオン酸を生成し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用してグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を生成する;
b)基質特異性
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用する;
c)至適pH
30℃の条件下で、pH6.0;
d)温度安定性
pH6.0の条件下で、35℃まで安定;
e)pH安定性
4℃、24時間の条件下で、pH5.0−10.5で安定。
【請求項5】
α−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びその基質となる糖の組み合わせが、スクロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.7)及びスクロースとの組み合わせ、ホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)及びデンプンまたはデキストリンとの組み合わせ、セロビオースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.20)及びセロビオースとの組み合わせ、セロデキストリンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.49)及びセロデキストリンとの組み合わせ、ラミナリビオースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.31)またはβ−1,3オリゴグルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.30)及びラミナリオリゴ糖との組み合わせ、β−1,3グルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.97)及びβ−1,3グルカンとの組み合わせ、トレハロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.231)及びトレハロースとの組み合わせ、よりなる群から選択される1つ以上の組み合わせである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液がpH5.5〜8.5である請求項1〜4のいずれかに記載の酸性βグルコシル二糖の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セロビオン酸ホスホリラーゼ及びそれを用いた酸性βグルコシル二糖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に添加されるオリゴ糖の機能として、近年栄養面からだけでなく、品質改良を目的とした嗜好面の向上能が注目されているが、その高純度調製の困難さ・高コストが当該研究の産業応用を妨げている。そのため、オリゴ糖をはじめとする種々の糖質の選択的な低コスト大量調製法の確立が望まれている。
【0003】
ところで、酸性βグルコシル二糖の一つであるセロビオン酸は、種々の食品用添加剤として有用とされている。例えば、ベーカリー製品の原料にセロビオン酸を添加することにより、食感に優れ、ソフトなボリュームがあり、焼成後の保存安定に優れたベーカリー製品を作製可能であることから、ベーカリー製品用品質改良剤として有用とされている(特許文献1)。また、煮崩れ防止能を有しつつも、食感に優れ、食味に影響を及ぼさないことから、食品の煮崩れ防止剤として有用とされている(特許文献2)。さらに、カルシウムや鉄等との塩形態である場合に水溶性を示すことから、ミネラル補強剤としても有用とされている。
【0004】
しかし、従来のセロビオン酸の製造方法には、以下の問題があり、安価に製造することはできなかった。化学的酸化法は、酸化反応の位置選択性は充分ではなく、副反応生成物を生じるため収率が低かった。また、酸化酵素法は、高価なセロビオースを出発材料とするため、高コストとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−35513号公報
【特許文献2】特開2010−119343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、安価な材料から酵素合成法により効率的にセロビオン酸を製造することを可能にする、新規のセロビオン酸ホスホリラーゼ及びそれを用いた酸性βグルコシル二糖の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため鋭意検討した結果、新規に2種のセロビオン酸ホスホリラーゼを発見した。そして、α−グルコース1−リン酸とグルコン酸又はグルクロン酸を出発原料としたセロビオン酸ホスホリラーゼが触媒するオリゴ糖合成反応(加リン酸分解反応の逆反応)、またはα−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素の加リン酸分解反応と新規に発見したセロビオン酸ホスホリラーゼが触媒するオリゴ糖合成反応を組み合わせることで、酸性βグルコシル二糖を簡便かつ選択的に大量製造することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明
で用いられるセロビオン酸ホスホリラーゼは、以下の酵素学的性質
と配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する:
a)作用
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用してセロビオン酸を生成し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用してグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を生成する;
b)基質特異性
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用する;
c)至適pH
30℃の条件下で、pH6.5;
d)温度安定性
pH6.5の条件下で、35℃まで安定;
e)pH安定性
4℃、24時間の条件下で、pH5.5−10.5で安定。
【0009】
或いは、本発明
で用いられるセロビオン酸ホスホリラーゼは、以下の酵素学的性質
と配列番号5に記載のアミノ酸配列を有する:
a)作用
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用してセロビオン酸を生成し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用してグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を生成する;
b)基質特異性
α−グルコース1−リン酸とグルコン酸とに作用し、α−グルコース1−リン酸とグルクロン酸とに作用する;
c)至適pH
30℃の条件下で、pH6.0;
d)温度安定性
pH6.0の条件下で、35℃まで安定;
e)pH安定性
4℃、24時間の条件下で、pH5.0−10.5で安定。
【0010】
本発明の酸性βグルコシル二糖の製造方法は、α−グルコース1−リン酸と、グルコン酸又はグルクロン酸と、前記セロビオン酸ホスホリラーゼを含む溶液中で酵素反応を行うステップと、セロビオン酸又はグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を回収するステップとを含む。
【0011】
或いは、本発明の酸性βグルコシル二糖の製造方法は、α−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びその基質となる糖と、グルコン酸又はグルクロン酸と、リン酸と、前記セロビオン酸ホスホリラーゼを含む溶液中で酵素反応を行うステップと、セロビオン酸又はグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を回収するステップとを含む。
【0012】
また、α−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びその基質となる糖の組み合わせが、スクロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.7)及びスクロースとの組み合わせ、ホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)及びデンプンまたはデキストリンとの組み合わせ、セロビオースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.20)及びセロビオースとの組み合わせ、セロデキストリンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.49)及びセロデキストリンとの組み合わせ、ラミナリビオースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.31)またはβ−1,3オリゴグルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.30)及びラミナリオリゴ糖との組み合わせ、β−1,3グルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.97)及びβ−1,3グルカンとの組み合わせ、トレハロースホスホリラーゼ(EC 2.4.1.231)及びトレハロースとの組み合わせ、よりなる群から選択される1つ以上の組み合わせである。
【0013】
また、前記溶液がpH5.5〜8.5である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安価な材料から酵素合成法により効率的にセロビオン酸又はグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】実施例1で調製したセロビオン酸ホスホリラーゼの至適pHを示した図である。
【
図1B】実施例1で調製したセロビオン酸ホスホリラーゼのpH安定性を示した図である。
【
図1C】実施例1で調製したセロビオン酸ホスホリラーゼの温度安定性を示した図である。
【
図2A】実施例2で調製したセロビオン酸ホスホリラーゼの至適pHを示した図である。
【
図2B】実施例2で調製したセロビオン酸ホスホリラーゼのpH安定性を示した図である。
【
図2C】実施例2で調製したセロビオン酸ホスホリラーゼの温度安定性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によれば、α−グルコース1−リン酸と、グルコン酸又はグルクロン酸と、前記セロビオン酸ホスホリラーゼを含む溶液中で酵素反応を行うことで、酸性βグルコシル二糖を簡便かつ選択的に大量製造することができる。或いは、α−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びその基質となる糖と、グルコン酸又はグルクロン酸と、リン酸と、前記セロビオン酸ホスホリラーゼを含む溶液中で酵素反応を行うことで、酸性βグルコシル二糖を簡便かつ選択的に大量製造することができる。
【0017】
α−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びその基質となる糖の組み合わせは、スクロースホスホリラーゼ及びスクロースとの組み合わせ、ホスホリラーゼ及びデンプンまたはデキストリンとの組み合わせ、セロビオースホスホリラーゼ及びセロビオースとの組み合わせ、セロデキストリンホスホリラーゼ及びセロデキストリンとの組み合わせ、ラミナリビオースホスホリラーゼまたはβ−1,3オリゴグルカンホスホリラーゼ及びラミナリオリゴ糖との組み合わせ、β−1,3グルカンホスホリラーゼ及びβ−1,3グルカンとの組み合わせ、トレハロースホスホリラーゼ及びトレハロースとの組み合わせ、よりなる群から選択される1つ以上の組み合わせであり、最も好ましい組み合わせはスクロースホスホリラーゼ及びスクロースとの組み合わせである。
【0018】
α−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びセロビオン酸ホスホリラーゼは特に限定されるものではなく、いかなる起源の酵素を用いることも可能である。反応液中でのα−グルコース1−リン酸を生成する糖質加リン酸分解酵素及びセロビオン酸ホスホリラーゼの濃度は特に限定されないが、それぞれ、0.01〜1000μM、好ましくは、10〜30μMで使用することができる。これらの酵素の使用形態は特に限定されるものではなく、菌体抽出液、精製酵素、固定化酵素など種々のものを利用することができる。本発明の好適な実施形態によれば、上記反応に関わる全ての酵素を固定化したバイオリアクターカラムを用いて、固定化酵素リアクターとして反応を行うことも可能である。
【0019】
出発原料として用いる糖質の使用濃度は特に限定されるものではないが、好ましくは約1〜約1000g/Lであり、より好ましくは約10〜約1000g/Lである。
【0020】
酵素反応に関わるリン酸はいかなる起源のものであっても良い。反応系に加えるリン酸濃度は特に限定されるものではないが、好ましくは約0.1mM〜約1000mM、より好ましくは約1mM〜約100mM程度である。
【0023】
反応形態は特に限定されるものではないが、水溶液又は緩衝液中で行われるのが好適である。反応液のpHは好ましくは5〜9である。反応温度は特に限定されるものではないが、好ましくは5℃〜80℃、特に30℃が好ましい。また反応時間は特に限定されるものではないが、0.1〜100時間であることが好ましい。
【0024】
本発明により得られる酸性βグルコシル二糖は任意の方法で精製することができる。例えば、本発明により得られる酸性βグルコシル二糖は、カラムクロマトグラフィーや結晶化により単離することが可能である。カラムクロマトグラフィーとして、これに限定されるものではないが、サイズ排除クロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過膜分離、逆浸透膜分離が含まれる。結晶化方法としては、これに限定されるものではないが、濃縮、温度低下、溶媒添加(エタノール、メタノール、アセトンなど)が含まれる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【0026】
次に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
サッカロファガス・デグラダンスのゲノム情報を基に、Sde0906遺伝子に対するフォーワードプライマー(配列番号3)及びリバースプライマー(配列番号4)を設計し、合成した。Sde0906遺伝子の塩基配列を配列番号2に、またこの塩基配列にコードされているアミノ酸配列を配列番号1に示す。
【0028】
サッカロファガス・デグラダンスのゲノムDNAを鋳型とし、上記のプライマー及びKOD plus polymerase(TOYOBO社製)を用い、94℃に2分間保持したのち、95℃で15秒間、50℃で30秒間、68℃で3分30秒間のサイクルを40回繰り返してPCR反応を行った。その結果、2381bpの増幅断片が得られた。このPCRで増幅されるDNA断片は、5’末端にNcoIサイトを、3’末端にXhoIサイトをそれぞれ有するSde0906をコードするDNAである。
【0029】
得られた増幅断片を制限酵素NcoI及びXhoIで消化後、同様に処理した市販の遺伝子発現用プラスミドpET−28a(ノバジェン社製)に高効率ライゲーション試薬Ligation high(TOYOBO社製)を用いて連結した。さらに、ライゲーション反応液を用いて大腸菌コンピテントセルDH5α(TOYOBO製)を形質転換し、C末端に6残基のヒスチジンからなるHisタグが付加されたSde0906をコードするDNAを含む発現ベクターpET−28aを回収した。
【0030】
この発現ベクターpET−28aを用いて、大腸菌BL21(DE3)をHanahanらの方法(J.Mol.Biol.、1983年、第166巻、第557−580頁)に従って形質転換した。形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地200mLに植菌し、IPTG濃度を0.1mMとして誘導培養を18℃で24時間行った。培養液から遠心分離で回収した菌体を10mLの500mM塩化ナトリウム及び10%グリセロールを含む20mMHEPES−NaOH緩衝液pH7.5に懸濁し、超音波処理により破砕した後、遠心分離後によって粗酵素液を得た。組換えタンパク質の精製は、Hisタグタンパク質精製用カラムHisTrapHP(GEヘルスケア社製)を用いたカラムクロマトグラフィーにより行った。得られた精製酵素溶液を、10mM HEPES−NaOH緩衝液pH7.0に対して透析を行い、遠心式フィルターユニットアミコンウルトラ-30(ミリポア社製)を用いた限外濾過によって3.5mLに濃縮することで、Sde0906精製酵素標品を調製した。
【実施例2】
【0031】
キントモナス・カンペストリスのゲノム情報を基に、XCC4077遺伝子に対するフォーワードプライマー(配列番号7)及びリバースプライマー(配列番号8)を設計し、合成した。XCC4077遺伝子の塩基配列を配列番号6に、またこの塩基配列にコードされているアミノ酸配列を配列番号5に示す。
【0032】
キントモナス・カンペストリスのゲノムDNAを鋳型とし、上記のプライマー及びKOD plus polymerase(TOYOBO社製)を用い、95℃に2分間保持したのち、95℃で30秒間、60℃で30秒間、68℃で2分30秒間のサイクルを45回繰り返してPCR反応を行い、最後に68℃に5分間保持した。その結果、2415bpの増幅断片が得られた。このPCRで増幅されるDNA断片は、5’末端にNdeIサイトを、3’末端にNotIサイトをそれぞれ有するXCC4077をコードするDNAである。
【0033】
得られた増幅断片を制限酵素NdeI及びNotIで消化後、同様に処理した市販の遺伝子発現用プラスミドpET−24a(ノバジェン社製)に高効率ライゲーション試薬Ligation highを用いて連結した。さらに、ライゲーション反応液を用いて大腸菌コンピテントセルDH5αを形質転換し、C末端に6残基のヒスチジンからなるHisタグが付加されたXCC4077をコードするDNAを含む発現ベクターpET−24aを回収した。
【0034】
この発現ベクターpET−28aを用いて、大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地200mLに植菌し、IPTG濃度を0.1mMとして誘導培養を18℃で24時間行った。培養液から遠心分離で回収した菌体を10mLの500mM塩化ナトリウム及び10%グリセロールを含む20mMHEPES−NaOH緩衝液pH7.5に懸濁し、超音波処理により破砕した後、遠心分離後によって粗酵素液を得た。組換えタンパク質の精製は、Hisタグタンパク質精製用カラムHisTrapHPを用いたカラムクロマトグラフィーにより行った。得られた精製酵素溶液を、10mM HEPES−NaOH緩衝液pH7.0に対して透析を行い、遠心式フィルターユニットアミコンウルトラ-30を用いた限外濾過によって3.5mLに濃縮することで、XCC4077精製酵素標品を調製した。
【実施例3】
【0035】
得られたSde0906精製酵素標品を用い、以下に示す方法によってSde0906を新規酵素セロビオン酸ホスホリラーゼと同定し、セロビオン酸を生成した。
【0036】
500mMのα−グルコース1−リン酸(糖供与体)、500mMのグルコン酸(糖受容体)、9.5μMのSde0906を含む反応液1mL(pH6.5)中で酵素反応を30℃、24時間行い、65℃、30分熱処理することで反応を停止した。反応液にフォスファターゼ(83μg)を添加して30℃、24時間静置した後、トヨパールHW−40Sカラム(径2.6cm、長さ70cm)による水を溶媒としたゲル濾過クロマトグラフィーにより二糖画分を単離した。精製後の収量は43mgであった。生成物をNMRにより分析したところ、セロビオン酸であることを確認した。
【0037】
50mM MES−NaOH緩衝液(pH6.5)中、2mMのα−グルコース1−リン酸及びグルコン酸を用いて、Sde0906が合成反応時に生成するリン酸をモリブデンブルー法により定量した結果、グルコン酸を糖受容体とした際のSde0906の活性は1.8ユニット/mgであった。
【0038】
Sde0906の30℃における至適pHは6.5付近であり(
図1A)、安定pH範囲は4℃及び24時間の条件下でpH5.5−10.5であった(
図1B)。本酵素のpH6.5における安定性は35℃までであった(
図1C)。
【0039】
500mMのスクロース、500mMのグルコン酸、10mM リン酸、0.18μMのスクロースホスホリラーゼ、12μMのSde0906を含む反応液10mL(pH6.5)中で酵素反応を30℃、24時間行った後、65℃、30分熱処理することで反応を停止した。反応液にインベルターゼ(0.33mg)及びフォスファターゼ(0.83mg)を添加して30℃、24時間静置した後、トヨパールHW−40Fカラム(径2.6cm、長さ70cm)による水を溶媒としたゲル濾過クロマトグラフィーによりセロビオン酸画分を単離した。精製後の収量は1.3gであった。
【実施例4】
【0040】
得られたXCC4077精製酵素標品を用い、以下に示す方法によってXCC4077を新規酵素セロビオン酸ホスホリラーゼと同定し、セロビオン酸を生成した。
【0041】
500mMのα−グルコース1−リン酸(糖供与体)、500mMのグルコン酸(糖受容体)、20μMのXCC4077を含む反応液1mL(pH6.0)中で酵素反応を30℃、24時間行い、65℃、30分熱処理することで反応を停止した。反応液にフォスファターゼ(83μg)を添加して30℃、24時間静置した後、トヨパールHW−40Sカラム(径2.6cm、長さ70cm)による水を溶媒としたゲル濾過クロマトグラフィーにより二糖画分を単離した。精製後の収量は58mgであった。生成物をNMRにより分析したところ、セロビオン酸であることを確認した。
【0042】
50mM MES−NaOH緩衝液(pH6.0)中、2mMのα−グルコース1−リン酸及びグルコン酸を用いて、XCC4077が合成反応時に生成するリン酸をモリブデンブルー法(J.Biol.Chem.1946、162、421-428)により定量した。上記条件下に毎分1μモルのリン酸を生成する活性を1ユニットと定義した。その結果、グルコン酸を糖受容体とした際のXCC4077の活性は2.3ユニット/mgであった。
【0043】
XCC4077の30℃における至適pHは6.0付近であり(
図2A)、安定pH範囲は4℃及び24時間の条件下でpH5.0−10.5であった(
図2B)。本酵素のpH6.0における安定性は35℃までであった(
図2C)。
【0044】
500mMのスクロース、500mMのグルコン酸、10mM リン酸、0.18μMのスクロースホスホリラーゼ、26μMのXCC4077を含む反応液(pH6.0)中で酵素反応を30℃、24時間行った後、65℃、30分熱処理することで反応を停止した。反応液にインベルターゼ(0.33mg)及びフォスファターゼ(0.83mg)を添加して30℃、24時間静置した後、トヨパールHW−40Fカラム(径2.6cm、長さ70cm)による水を溶媒としたゲル濾過クロマトグラフィーによりセロビオン酸画分を単離した。精製後の収量は1.4gであった。
【実施例5】
【0045】
得られたSde0906及びXCC4077精製酵素標品を用い、以下に示す方法によってグルコシル−β−1,3−グルクロン酸を生成した。
【0046】
500mMのα−グルコース1−リン酸(糖供与体)、500mMのグルクロン酸(糖受容体)、9.5μMのSde0906を含む反応液1mL(pH6.5)中で酵素反応を30℃、24時間行い、65℃、30分熱処理することで反応を停止した。反応液にフォスファターゼ(83μg)を添加して30℃、24時間静置した後、トヨパールHW−40Sカラム(径2.6cm、長さ70cm)による水を溶媒としたゲル濾過クロマトグラフィーにより二糖画分を単離した。精製後の収量は42mgであった。生成物をNMRにより分析したところ、グルコシル−β−1,3−グルクロン酸であることを確認した。
【0047】
50mM MES−NaOH緩衝液(pH6.5)中、2mMのα−グルコース1−リン酸及びグルクロン酸を用いて、Sde0906が合成反応時に生成するリン酸をモリブデンブルー法により定量した結果、グルクロン酸を糖受容体とした際のSde0906の活性は0.3ユニット/mgであった。
【0048】
500mMのα−グルコース1−リン酸(糖供与体)、500mMのグルクロン酸(糖受容体)、20μMのXCC4077を含む反応液1mL(pH6.0)中で酵素反応を30℃、24時間行い、65℃、30分熱処理することで反応を停止した。反応液にフォスファターゼ(83μg)を添加して30℃、24時間静置した後、トヨパールHW−40Sカラム(径2.6cm、長さ70cm)による水を溶媒としたゲル濾過クロマトグラフィーにより二糖画分を単離した。精製後の収量は39mgであった。生成物をNMRにより分析したところ、グルコシル−β−1,3−グルクロン酸であることを確認した。
【0049】
50mM MES−NaOH緩衝液(pH6.0)中、2mMのα−グルコース1−リン酸及びグルクロン酸を用いて、XCC4077が合成反応時に生成するリン酸をモリブデンブルー法により定量した結果、グルクロン酸を糖受容体とした際のXCC4077の活性は0.8ユニット/mgであった。
【0050】
500mMのスクロース、500mMのグルクロン酸、10mM リン酸、0.18μMのスクロースホスホリラーゼ、26μMのXCC4077を含む反応液10mL(pH6.0)中で酵素反応を30℃、24時間行った後、65℃、30分熱処理することで反応を停止した。反応液にインベルターゼ(0.33mg)及びフォスファターゼ(0.83mg)を添加して30℃、24時間静置した後、トヨパールHW−40Fカラム(径2.6cm、長さ70cm)による水を溶媒としたゲル濾過クロマトグラフィーによりグルコシル−β−1,3−グルクロン酸画分を単離した。精製後の収量は0.68gであった。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]