(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
(透明フィルムの原料フィルム)
本発明の偏光板の製造方法において水分含有率の調整の対象となる原料フィルムは、偏光フィルムの片面または両面に貼合するための透明フィルムの貼合前の状態のフィルムである。本明細書中では、偏光フィルムに貼合される前の状態を「原料フィルム」、偏光フィルムに貼合された後の状態を「透明フィルム」と呼称する。なお、偏光フィルムの両面に透明フィルムが貼合される場合、各々の透明フィルムは同じものであってもよく、異なる種類のフィルムであってもよい。
【0014】
原料フィルムを構成する材料としては、たとえば、シクロオレフィン系樹脂、酢酸セルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリプロピレンなど、当分野において従来より広く用いられてきているフィルム材料を挙げることができる。中でも、本発明における原料フィルムは、シクロオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸セルロース系樹脂またはアクリル系樹脂で形成されたものであることが、好ましい。
【0015】
シクロオレフィン系樹脂とは、たとえば、ノルボルネン、多環ノルボルネン系モノマーのような、環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する熱可塑性の樹脂(熱可塑性シクロオレフィン系樹脂とも呼ばれる)である。シクロオレフィン系樹脂は、上記シクロオレフィンの開環重合体または2種以上のシクロオレフィンを用いた開環共重合体の水素添加物であってもよく、シクロオレフィンと鎖状オレフィン、ビニル基を有する芳香族化合物などとの付加重合体であってもよい。また、極性基が導入されているものも有効である。
【0016】
シクロオレフィンと鎖状オレフィンまたは/およびビニル基を有する芳香族化合物との共重合体を用いる場合、鎖状オレフィンとしては、エチレン、プロピレンなどが挙げられ、またビニル基を有する芳香族化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、核アルキル置換スチレンなどが挙げられる。このような共重合体において、シクロオレフィンからなるモノマーのユニットが50モル%以下(好ましくは15〜50モル%)であってもよい。特に、シクロオレフィンと鎖状オレフィンとビニル基を有する芳香族化合物との三元共重合体を用いる場合、シクロオレフィンからなるモノマーのユニットは、上述したように比較的少ない量とすることができる。かかる三元共重合体において、鎖状オレフィンからなるモノマーのユニットは、通常5〜80モル%、ビニル基を有する芳香族化合物からなるモノマーのユニットは、通常5〜80モル%である。
【0017】
シクロオレフィン系樹脂は、適宜の市販品、たとえば、Topas(Ticona社製)、アートン(JSR(株)製)、ゼオノア(ZEONOR)(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(ZEONEX)(日本ゼオン(株)製)、アペル(三井化学(株)製)、オキシス(OXIS)(大倉工業(株)製)などを好適に用いることができる。このようなシクロオレフィン系樹脂を製膜してフィルムとする際には、溶剤キャスト法、溶融押出法などの公知の方法が適宜用いられる。また、たとえばエスシーナ(積水化学工業(株)製)、SCA40(積水化学工業(株)製)、ゼオノアフィルム((株)オプテス製)などの予め製膜されたシクロオレフィン系樹脂製のフィルムの市販品を用いてもよい。
【0018】
シクロオレフィン系樹脂フィルムは、一軸延伸または二軸延伸されたものであってもよい。延伸することで、シクロオレフィン系樹脂フィルムに任意の位相差値を付与することができる。延伸は、通常、フィルムロールを巻き出しながら連続的に行なわれ、加熱炉にて、ロールの進行方向(フィルムの長手方向)、その進行方向と垂直の方向(フィルムの幅方向)、あるいはその両方へ延伸される。加熱炉の温度は、通常、シクロオレフィン系樹脂のガラス転移温度近傍からガラス転移温度+100℃の範囲が、採用される。延伸の倍率は、通常1.1〜6倍であり、好ましくは1.1〜3.5倍である。
【0019】
シクロオレフィン系樹脂フィルムは、ロール巻き状態にあると、フィルム同士が接着してブロッキングを生じ易い傾向にあるため、通常は、プロテクトフィルムを貼合した後にロール巻きとされる。また、シクロオレフィン系樹脂フィルムは、一般に表面活性が劣るため、偏光フィルムと接着させる表面には、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理などの表面処理を行なうのが好ましい。中でも、比較的容易に実施可能なプラズマ処理、特に大気圧プラズマ処理、コロナ処理が好適である。
【0020】
酢酸セルロース系樹脂とは、セルロースの部分または完全エステル化物であって、たとえば、セルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、それらの混合エステルなどからなるフィルムを挙げることができる。より具体的には、トリアセチルセルロースフィルム、ジアセチルセルロースフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルムなどが挙げられる。このようなセルロースエステル系樹脂フィルムとしては、適宜の市販品、たとえば、フジタックTD80(富士フィルム(株)製)、フジタックTD80UF(富士フィルム(株)製)、フジタックTD80UZ(富士フィルム(株)製)、KC8UX2M(コニカミノルタオプト(株)製)、KC8UY(コニカミノルタオプト(株)製)フジタックTD60UL(富士フィルム(株)製)、KC4UYW(コニカミノルタオプト(株)製)、KC6UAW(コニカミノルタオプト(株)製)、KC6UX(コニカミノルタオプト(株)製)、VH01(凸版印刷(株)製)などを好適に用いることができる。
【0021】
また、原料フィルムとして、位相差特性を付与した酢酸セルロース系樹脂フィルムも好適に用いられる。かかる位相差特性が付与された酢酸セルロール系樹脂フィルムの市販品としては、WV BZ 438(富士フィルム(株)製)、KC4FR−1(コニカミノルタオプト(株)製)、KC4CR−1(コニカミノルタオプト(株)製)、KC4AR−1(コニカミノルタオプト(株)製)などが挙げられる。酢酸セルロースは、アセチルセルロースとも、セルロースアセテートとも呼ばれる。
【0022】
(アクリル系樹脂)
アクリル系樹脂は、通常、メタクリル酸アルキルを主体とする重合体である。具体的には、メタクリル酸アルキルの単独重合体またはメタクリル酸アルキルを2種以上用いた共重合体であってもよいし、メタクリル酸アルキル50重量%以上とメタクリル酸アルキル以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。メタクリル酸アルキルとしては通常、そのアルキル基の炭素数が1〜4のものが用いられ、中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0023】
また、メタクリル酸アルキル以外の単量体は、分子内に1個の重合性炭素−炭素二重結合を有する単官能単量体であってもよいし、分子内に2個以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する多官能単量体であってもよいが、特に単官能単量体が好ましく用いられる。その例としては、アクリル酸メチルやアクリル酸エチルのようなアクリル酸アルキル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリルなどが挙げられる。共重合成分としてアクリル酸アルキルを用いる場合、そのアルキル基は通常、炭素数1〜8程度である。アクリル系樹脂の単量体組成は、単量体全体の量を基準にして、メタクリル酸アルキルが、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であり、また好ましくは99重量%以下である。
【0024】
このアクリル系樹脂は、グルタルイミド誘導体、グルタル酸無水物誘導体、ラクトン環構造などを有しないことが好ましい。グルタルイミド誘導体、グルタル酸無水物誘導体、またはラクトン環構造のような環状構造を有するアクリル系樹脂は、透明フィルムとして十分な機械強度および耐湿熱性が得られにくくなる傾向にある。換言すれば、このアクリル系樹脂は、単量体が実質的にメタクリル酸アルキルのみからなるか、またはメタクリル酸アルキルが単量体組成のたとえば70重量%以上、好ましくは90重量%以上を占め、それと、実質的にアクリル酸アルキル、スチレン系単量体および不飽和ニトリルから選ばれる単量体のみとの共重合体であるのが好ましい。
【0025】
本発明における原料フィルムは、上述のような透明なアクリル系樹脂からなっていてもよいし、また、透明なアクリル系樹脂に、平均粒径が10〜300nmのゴム弾性体粒子を25〜45重量%配合したものであってもよい。
【0026】
アクリル系樹脂に配合されるゴム弾性体粒子は、ゴム弾性を示す層を含む粒子である。このゴム弾性体粒子は、ゴム弾性を示す層のみからなる粒子であってもよいし、ゴム弾性を示す層とともに他の層を有する多層構造の粒子であってもよい。ゴム弾性体としては、たとえば、オレフィン系弾性重合体、ジエン系弾性重合体、スチレン−ジエン系弾性共重合体、アクリル系弾性重合体などが挙げられる。中でも、透明フィルムの表面硬度、耐光性、および透明性の観点から、アクリル系弾性重合体が好ましく用いられる。
【0027】
アクリル系弾性重合体は、アクリル酸アルキルを主体とする重合体で構成することができる。これは、アクリル酸アルキルの単独重合体であってもよいし、アクリル酸アルキル50重量%以上とそれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。アクリル酸アルキルとしては通常、そのアルキル基の炭素数が4〜8のものが用いられる。アクリル酸アルキル以外の単量体を共重合させる場合、その例としては、メタクリル酸メチルやメタクリル酸エチルのようなメタクリル酸アルキル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリルなどの単官能単量体、また、(メタ)アクリル酸アリルや(メタ)アクリル酸メタリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、マレイン酸ジアリルのような二塩基酸のジアルケニルエステル、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステルなどの多官能単量体が挙げられる。
【0028】
アクリル系弾性重合体を含むゴム弾性体粒子は、アクリル系弾性重合体の層を有する多層構造の粒子であることが好ましい。具体的には、アクリル系弾性体の外側にメタクリル酸アルキルを主体とする硬質の重合体層を有する2層構造のものや、さらにアクリル系弾性体の内側にメタクリル酸アルキルを主体とする硬質の重合体層を有する3層構造のものが挙げられる。アクリル系弾性体の外側または内側に形成される硬質の重合体層を構成するメタクリル酸アルキルを主体とする重合体における単量体組成の例は、先にアクリル系樹脂の例として挙げたメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の単量体組成の例と同様であり、特にメタクリル酸メチルを主体とする単量体組成が好ましく用いられる。このような多層構造のアクリル系ゴム弾性体粒子は、たとえば特公昭55−27576号公報に記載の方法により、製造することができる。
【0029】
本発明では、ゴム弾性体粒子として、その中に含まれるゴム弾性体層の平均粒径が10〜300nmであるものを用いる。これにより、接着剤を用いて偏光フィルムに貼合したときに、接着層から剥がれにくい透明フィルムを得ることができる。このゴム弾性体粒子の平均粒径は、好ましくは50nm以上であり、また好ましくは250nm以下である。
【0030】
アクリル系弾性重合体を含有するゴム弾性体粒子の平均粒径は、次のようにして測定される。すなわち、このようなゴム弾性体粒子をアクリル系樹脂に混合してフィルム化し、その断面を酸化ルテニウムの水溶液で染色すると、ゴム弾性体層だけが着色してほぼ円形状に観察され、母層のアクリル系樹脂は染色されない。そこで、このようにして染色されたフィルム断面から、ミクロトームなどを用いて薄片を調製し、これを電子顕微鏡で観察する。そして、無作為に100個の染色されたゴム弾性体粒子を抽出し、各々の粒子径を算出した後、その数平均値を平均粒径とする。このような方法で測定するため、本発明で規定するゴム弾性体粒子の平均粒径は、数平均粒径となる。
【0031】
最外層がメタクリル酸メチルを主体とする硬質の重合体であり、その中にアクリル系弾性重合体が包み込まれているゴム弾性体粒子を用いた場合、それを母体のアクリル系樹脂に混合すると、ゴム弾性体粒子の最外層が母体のアクリル系樹脂と混和する。そのため、その断面を酸化ルテニウムで染色し、電子顕微鏡で観察すると、そのゴム弾性体粒子が、最外層を除いた状態の粒子として観察される。具体的には、内層がアクリル系弾性重合体であり、外層がメタクリル酸メチルを主体とする硬質の重合体である2層構造のゴム弾性体粒子を用いた場合には、内層のアクリル系弾性重合体部分が染色されて単層構造の粒子として観察され、また、最内層がメタクリル酸メチルを主体とする硬質の重合体であり、中間層がアクリル系弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチルを主体とする硬質の重合体である3層構造のゴム弾性体粒子を用いた場合には、最内層の粒子中心部分が染色されず、中間層のアクリル系弾性重合体部分のみが染色された2層構造の粒子として観察されることになる。
【0032】
かかるゴム弾性体粒子は、上述した透明なアクリル系樹脂との合計量を基準に、25〜45重量%の割合で配合される。ゴム弾性体粒子をこの割合で配合することにより、フィルムへの製膜性を高め、得られる透明フィルムの耐衝撃性を高める効果が発現される。
【0033】
本発明で用いるアクリル系樹脂、またはアクリル系樹脂にゴム弾性体が配合された組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、滑剤、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0034】
紫外線吸収剤は、波長400nm以下の紫外線を吸収する化合物である。このような紫外線吸収剤を配合することで、偏光フィルムに透明フィルムが貼合された偏光板の耐久性を向上させる効果が得られる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤など、公知のものが使用できる。具体例を挙げると、2,2’−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどがある。これらの中でも、2,2’−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕は、好ましい紫外線吸収剤の一つである。紫外線吸収剤の配合量は、透明フィルムの波長370nm以下における透過率が、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下となる範囲で選択することができる。紫外線吸収剤を含有させる方法としては、紫外線吸収剤を予めアクリル系樹脂中に配合してペレット化しておき、これを溶融押出などによってフィルムに成形する方法、溶融押出成形時に直接、紫外線吸収剤を添加する方法などが挙げられ、いずれの方法も使用できる。
【0035】
赤外線吸収剤は、波長800nm以上の赤外線を吸収する化合物である。たとえば、ニトロソ化合物、その金属錯塩、シアニン系化合物、スクワリリウム系化合物、チオールニッケル錯塩系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、トリアリールメタン系化合物、イモニウム系化合物、ジイモニウム系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、アミノ化合物、アミニウム塩系化合物、カーボンブラック、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、周期律表の4A族、5A族若しくは6A族に属する金属の酸化物、炭化物またはホウ化物などを挙げることができる。これらの赤外線吸収剤は、赤外線(波長約800〜1100nmの範囲の光)全体を吸収できるように選択することが好ましく、2種類以上を併用してもよい。赤外線吸収剤の配合量は、たとえば、透明フィルムの波長800nm以上における光線透過率が10%以下となるように、適宜調整することができる。
【0036】
原料フィルムを構成するアクリル系樹脂組成物は、そのガラス転移温度Tgが80〜110℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移温度Tgが80℃よりも低い場合、前記原料フィルムを用いて作製した偏光板は耐熱試験でフィルムの収縮量が大きくなり、十分な耐熱性が得られない場合がある。また、110℃よりもガラス転移温度が高い場合、加熱処理により、巻き締まりにより発生した欠陥が十分に緩和できない場合がある。
【0037】
またこの組成物は、フィルムに成形したときの表面の硬度が高いこと、具体的には、 JIS K 5600−5−4に準じて荷重500gで測定される鉛筆硬度がHまたはそれより硬いものであることが好ましい。
【0038】
さらにこの組成物は、透明フィルムの柔軟性の観点から、JIS K 7171に準じて測定される曲げ弾性率が1500MPa以下であることが好ましい。この曲げ弾性率は、より好ましくは1300MPa以下であり、さらに好ましくは1200MPa以下である。この曲げ弾性率は、アクリル系樹脂や、アクリル系樹脂に添加することができるゴム弾性体粒子の種類や量などによって変動し、たとえば、ゴム弾性体粒子の含有量が多いほど、一般に曲げ弾性率は小さくなる。また、アクリル系樹脂として、メタクリル酸アルキルの単独重合体を用いるよりも、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルなどとの共重合体を用いる方が、一般に曲げ弾性率は小さくなる。一方、ゴム弾性体粒子として、前記3層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いるよりも、前記2層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いる方が、一般に曲げ弾性率は小さくなり、単層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いる方が、曲げ弾性率はより一層小さくなる。さらにゴム弾性体粒子中、弾性体の平均粒径が小さいほど、または弾性体の量が多いほど、一般に曲げ弾性率は小さくなる。そこで、アクリル系樹脂やゴム弾性体粒子の種類や量を前記所定の範囲で調整して、曲げ弾性率が1500MPa以下となるようにすればよい。
【0039】
本発明における原料フィルムは、アクリル系樹脂から形成される層を一つの層とする多層構造とすることもできる。原料フィルムを多層構成とする場合、上述したアクリル系樹脂の層以外に存在しうる層は、その組成に特別な限定はない。
【0040】
また、原料フィルムを多層構成とする場合、ゴム弾性体粒子や前記した添加剤の各層における含有量を互いに異ならせてもよい。たとえば、紫外線吸収剤および/または赤外線吸収剤を含有する層を挟んで、紫外線吸収剤および赤外線吸収剤を含有しない層が積層されているような構成も採用できる。
【0041】
本発明における原料フィルムは、上で説明したアクリル系樹脂を製膜することにより、製造できる。このようなアクリル系樹脂を用いた原料フィルムの厚さは、通常5〜200μm程度の範囲から任意に選択することができる。その厚さは好ましくは10μm以上であり、また好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0042】
製膜には、これまでに説明したアクリル系樹脂組成物を溶融押出しし、2本の金属製ロールで挟み込んだ状態で行う方法が好ましく採用される。この場合、金属製ロールは、鏡面ロールであることが好ましく、これにより、表面平滑性に優れる透明フィルムを得ることができる。透明フィルムを多層構成で製造する場合は、本発明で規定するアクリル系樹脂組成物を、他のアクリル系樹脂またはその組成物とともに、多層共押出しし、製膜すればよい。
【0043】
本発明の偏光板の製造方法は、原料フィルムの水分含有率を調整する工程を含む。原料フィルムの水分含有率の調整は、原料フィルムを温度および湿度が調整された雰囲気(環境)に曝露・滞留させることによって行なうことが好ましい。ここで、「温度および湿度が調整された雰囲気」としては、たとえば加湿炉内、加湿ブース内の雰囲気などが挙げられる。当該温度および湿度が調整された雰囲気は、30〜80℃の温度の範囲内、かつ、50RH%以上の相対湿度の範囲内であることが好ましく、30〜60℃の温度の範囲内、かつ、55〜95RH%の相対湿度の範囲内であることがより好ましい。
【0044】
前記温度および湿度が調整された雰囲気における温度が30℃未満である場合には、水分が原料フィルムに入っていく速度が遅く、最終的に原料フィルムの水分率も高めることが困難となる虞がある。また、前記温度および湿度が調整された雰囲気における相対湿度が50RH%未満である場合には、原料フィルムの水分率を上昇させる効果が低い傾向にある。
【0045】
また、前記温度および湿度が調整された雰囲気における温度が80℃を超える場合、および/または、相対湿度が95RH%を超える場合には、前記雰囲気が露点が非常に高い状態になるため、原料フィルム自体の温度が低い場合には、加湿炉の入り口辺りで原料フィルム表面が結露し、また、加湿炉の出入り口に結露が生じるという問題が生じやすくなる傾向にある。
【0046】
上述のような温度および相対湿度の範囲で原料フィルムの水分含有率を調整する場合、原料フィルムは、前記温度および湿度が調整された雰囲気に10秒間以上曝露・滞留させることが好ましく、15秒間以上滞留させることがより好ましい。なお、原料フィルムを前記温度および湿度が調整された雰囲気に曝露・滞留させる時間が10秒間よりも短い場合には、水分含有量の調整が不十分となってしまう虞がある。
【0047】
なお、加湿炉により原料フィルムの水分含有率を調整する場合、複数の加湿炉を用いて多段式(たとえば、二段式など)の加湿を行なってもよい。たとえば、一段階で加湿する場合、温度および湿度を高く設定しすぎたら、原料フィルムが結露してしまう問題が生じる場合がある。二段式で加湿する場合、一段階目でゆるく加湿しておき、二段階目で強く加湿することも可能なので、結露させないで原料フィルムの水分率を高くすることができるというような利点がある。
【0048】
また、水分含有率の調整は、上述した加湿炉などの温度および湿度が調整された雰囲気に曝露・滞留させることによってではなく、原料フィルムを水洗または湯洗することで行なうようにしてもよい。
【0049】
原料フィルムは、重量乾燥法で測定された水分含有率が、たとえばTACなど酢酸セルロース系樹脂で構成された原料フィルムの場合には好ましくは1%〜5%(さらに好ましくは2%〜4%)、たとえばPMMAなどアクリル系樹脂で構成された原料フィルムの場合には好ましくは0.2〜1.7%(さらに好ましくは0.4〜1.2%)の範囲内となるように調整されることが好ましい。目的の水分率は、原料フィルムと水との親和性によって異なるが、プロテクトフィルム側の原料フィルムについては、使用環境(クリーンルーム環境:通常、20〜23℃、55%RH前後)における平衡水分率よりも低くすることは望ましくない。経時における水分の出入り(通常は吸水)を少なくし、その結果、寸法変化を抑制することで、ウェーブカールを抑制することできる。本発明においては、偏光板をその使用環境での平衡水分率を目標にして水分含有率を調整する。
【0050】
原料フィルムの水分含有率が低過ぎる場合には、偏光板化した後に、経時で吸水することで寸法変化が生じ、ウェーブカールが発生しやすい傾向にある。また、原料フィルムの水分含有率が高過ぎる場合には、偏光板化した後に、経時で水分を吐き出すことにより寸法変化し、ウェーブカールが発生しやすい傾向にある。
【0051】
原料フィルムの水分含有率は、重量乾燥法により、たとえば乾燥前の重量から乾燥後の重量を差し引くことで測定ができる。このときの乾燥条件としては、たとえば110℃で1時間加熱する方法などがある。
【0052】
上述のような原料フィルムの水分含有率の調整は、たとえば加湿炉を用いた場合などには、加湿炉の内外での温度差、湿度差、原料フィルムの表面温度などにより結露が生じてしまわないかに留意する。
【0053】
本発明の偏光板の製造方法では、上述のような水分含有率を調整する工程の前または後に、原料フィルムを、たとえば、シクロオレフィン系樹脂で形成された原料フィルムの場合には、80〜120℃で加熱処理することが好ましく、また、たとえば、酢酸セルロース系樹脂で形成された原料フィルムの場合には、80〜150℃で加熱処理することが好ましい。このような加熱処理を行なうことで、重力、水分などの影響によって変形してしまい、表面が平坦ではないような状態の原料フィルムであっても、表面を平坦な状態とすることが可能となる。水分含有率を上げるという観点からは、加熱処理を行なった後に、上述した原料フィルムの水分含有率を調整する工程を行なうことが、好ましい。
【0054】
上述した加熱処理では、たとえば、原料フィルム自体を、上述したような原料フィルムの種類に応じた温度で加熱することが好ましい。すなわち、上述のような温度の雰囲気下に載置後、一定時間が経過して、原料フィルム自体が上述のような温度となって初めて、上述した加熱処理が行なわれたことになる。原料フィルム自体の温度は、たとえば熱伝対型の温度計を原料フィルム表面に貼り付ける方法や、赤外線を用いた放射温度計により測定することができる。
【0055】
本発明における原料フィルムの加熱処理は、たとえば、原料フィルムを熱風乾燥炉内を通過させることによって、原料フィルムを加熱するようにすることができる。また、本発明における原料フィルムの加熱処理は、熱源(たとえば、温水などの熱媒、赤外線ヒータ)を内部に備えるロールで原料フィルムを搬送することによって、原料フィルムを加熱するようにしてもよい。熱風乾燥炉、熱源を内部に備えるロールとしては、従来公知の適宜のものを特に制限なく用いることができる。
【0056】
また本発明において、原料フィルムの加熱時間は、5〜60秒間の範囲内であることが好ましく、10〜30秒間の範囲内であることがより好ましい。原料フィルムの加熱時間が5秒間未満である場合には、原料フィルム自体の温度が上がらない傾向にあるためであり、また、原料フィルムの加熱時間が60秒間を超える場合には、特にフィルム自体に不具合は無いが、余分な設備や滞留長になるという傾向にあるためである。
【0057】
本発明に用いられる原料フィルムの厚みは、薄い方が好ましいが、余り薄すぎると強度が低下し、加工性に劣るものとなる。一方で厚すぎると透明性が低下したり、積層後に必要な養生時間が長くなったりするなどの問題が生じる。そこで、原料フィルムの適当な厚みは、たとえば5〜200μmであり、好ましくは10〜150μm、より好ましくは20〜100μmである。
【0058】
接着剤と偏光フィルムおよび/または透明フィルムとの接着性を向上させるために、偏光フィルムおよび/または透明フィルムに、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線処理、プライマー塗布処理、ケン化処理などの表面処理を施してもよい。
【0059】
また、透明フィルムには、アンチグレア処理、アンチリフレクション処理、ハードコート処理、帯電防止処理、防汚処理などの表面処理が、それぞれ単独で、または2種以上組み合わせて施されてもよい。また、透明フィルムおよび/または透明フィルム表面保護層は、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物などの紫外線吸収剤や、フェニルホスフェート系化合物、フタル酸エステル化合物などの可塑剤を含有していてもよい。
【0060】
さらに、透明フィルムに、位相差フィルムとしての機能、輝度向上フィルムとしての機能、反射フィルムとしての機能、半透過反射フィルムとしての機能、拡散フィルムとしての機能、光学補償フィルムとしての機能など、光学的機能を持たせることができる。この場合、たとえば、透明フィルムの表面に、位相差フィルム、輝度向上フィルム、反射フィルム、半透過反射フィルム、拡散フィルム、光学補償フィルムなどの光学機能性フィルムを積層することにより、このような機能を持たせることができる他、透明フィルム自体にこのような機能を付与することもできる。また、輝度向上フィルムの機能を持った拡散フィルムなどのように、複数の機能を透明フィルムに持たせてもよい。
【0061】
たとえば、上述した透明フィルムに、特許第2841377号、特許第3094113号などに記載の延伸処理を施したり、特許第3168850号に記載された処理を施したりすることにより、位相差フィルムとしての機能を付与することができる。位相差フィルムにおける位相差特性は、たとえば、正面位相差値が5〜100nm、厚み方向位相差値が40〜300nmの範囲など、適宜選択できる。また、上記の透明フィルムに、特開2002−169025号公報や特開2003−29030号公報に記載されるような方法で微細孔を形成することにより、あるいは選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより、輝度向上フィルムとしての機能を付与することができる。
【0062】
上述した透明フィルムに蒸着やスパッタリングなどで金属薄膜を形成すれば、反射フィルムまたは半透過反射フィルムとしての機能を付与することができる。また上述した透明フィルムに微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、拡散フィルムとしての機能を付与することができる。また、上述した透明フィルムにディスコティック液晶性化合物などの液晶性化合物をコーティングして配向させることにより、光学補償フィルムとしての機能を付与することができる。また、透明フィルムに位相差を発現する化合物を含有させてもよい。さらに、適当な接着剤を用いて、各種の光学機能性フィルムを偏光フィルムに直接貼合してもよい。光学機能性フィルムの市販品としては、たとえば、DBEF(3M社製、日本では住友スリーエム(株)から入手できる)などの輝度向上フィルム、WVフィルム(富士フィルム(株)製)などの視野角改良フィルム、アートンフィルム(JSR(株)製)、ゼオノアフィルム((株)オプテス製)、エスシーナ(積水化学工業(株)製)、VA−TAC(コミカミノルタオプト(株)製)、スミカライト(住友化学(株)製)などの位相差フィルムなどを挙げることができる。
【0063】
(偏光フィルム)
本発明に用いられる偏光フィルムは、具体的には、一軸延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものである。ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニル酢酸系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他に、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体(たとえば、エチレン−酢酸ビニル共重合体)などが挙げられる。酢酸ビニルと共重合可能な他の単量体としては、他に、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、85モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは98〜100モル%である。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、通常1000〜10000、好ましくは1500〜5000である。これらのポリビニルアルコール系樹脂は、変性されていてもよく、たとえばアルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用し得る。
【0064】
かかるポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の適宜の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムの膜厚は特に限定されるものではないが、たとえば10〜150μm程度である。通常、ロール状で供給され、厚みが20〜100μmの範囲内、好ましくは30〜80μmの範囲内であり、また、工業的に実用的な幅が1500〜6000mmの範囲内である。
【0065】
市販のポリビニルアルコール系フィルム(ビニロンVF−PS#7500、クラレ製/OPLフィルム M−7500、日本合成製)の原反厚みは75μm、(ビニロンVF−PS#6000、クラレ製、ビニロンVF−PE#6000、クラレ製)の原反厚みは60μmなどがある。
【0066】
偏光フィルムは、通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色して二色性色素を吸着させる工程(染色処理工程)、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程(ホウ酸処理工程)、ならびに、このホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程(水洗処理工程)を経て、製造される。
【0067】
また、偏光フィルムの製造に際し、通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは一軸延伸されるが、この一軸延伸は、染色処理工程の前に行なってもよいし、染色処理工程中に行なってもよいし、染色処理工程の後に行なってもよい。一軸延伸を染色処理工程の後に行なう場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理工程の前に行なってもよいし、ホウ酸処理工程中に行なってもよい。勿論、これらの複数の段階で一軸延伸を行なうことも可能である。
【0068】
一軸延伸は、周速の異なるロール間で一軸に延伸するようにしてもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸するようにしてもよい。また、大気中で延伸を行なう乾式延伸であってもよいし、溶剤にて膨潤させた状態で延伸を行なう湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
【0069】
染色処理工程におけるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの二色性色素による染色は、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬することによって行なわれる。二色性色素としては、たとえばヨウ素、二色性染料などが用いられる。二色性染料には、たとえば、C.I.DIRECT RED 39などのジスアゾ化合物からなる二色性直接染料、トリスアゾ、テトラキスアゾなどの化合物からなる二色性直接染料が包含される。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、染色処理の前に水への浸漬処理を施しておくことが好ましい。
【0070】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100重量部あたり0.01〜1重量部であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり0.5〜20重量部である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合、染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃であり、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1800秒である。
【0071】
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は、通常、水溶液二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は、通常、水100重量部あたり1×10
−4〜10重量部、好ましくは1×10
−3〜1重量部であり、特に好ましくは1×10
−3〜1×10
−2重量部である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を染色助剤として含有していてもよい。二色性色素として二色性染料を用いる場合、染色に用いる染料水溶液の温度は、通常20〜80℃であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1800秒である。
【0072】
ホウ酸処理工程は、二色性色素により染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬することにより行なわれる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部、好ましくは5〜12重量部である。上述した染色処理工程における二色性色素としてヨウ素を用いた場合には、このホウ酸処理工程に用いるホウ酸含有水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。この場合、ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの量は、水100重量部あたり、通常0.1〜15重量部、好ましくは5〜12重量部である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常、60〜1200秒、好ましくは150〜600秒、さらに好ましくは200〜400秒である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常40℃以上であり、好ましくは50〜85℃、より好ましくは55〜75℃である。
【0073】
続く水洗処理工程では、上述したホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、たとえば水に浸漬することによって水洗処理する。水洗処理における水の温度は、通常4〜40℃であり、浸漬時間は、通常1〜120秒である。水洗処理後は、通常乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。乾燥処理は、たとえば熱風乾燥機、遠赤外線ヒータなどを好適に用いて行なわれる。乾燥処理の温度は通常30〜100℃、好ましくは50〜80℃である。乾燥処理の時間は、通常60〜600秒、好ましくは120〜600秒である。
【0074】
こうしてポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、ホウ酸処理および水洗処理を施して、偏光フィルムが得られる。この偏光フィルムの厚みは、通常、5〜50μmの範囲内である。
【0075】
(活性エネルギー線硬化型接着剤)
偏光フィルムと透明フィルム(原料フィルム)とは、活性エネルギー線硬化型の接着剤を介して貼合される。活性エネルギー線硬化型の接着剤としては、耐候性や屈折率、カチオン重合性などの観点から、活性エネルギー線の照射により硬化するエポキシ樹脂を含有するエポキシ系樹脂組成物からなる接着剤が挙げられる。ただし、これに限定されるものではなく、従来から偏光板の製造に使用されている各種の活性エネルギー線硬化型の接着剤(有機溶剤系接着剤、ホットメルト系接着剤、無溶剤型接着剤など)が採用可能である。
【0076】
エポキシ樹脂とは、分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物を意味する。耐候性、屈折率、カチオン重合性などの観点から、接着剤である硬化性エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂は、分子内に芳香環を含まないエポキシ樹脂であることが好ましい。このようなエポキシ樹脂として、水素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などが例示できる。
【0077】
水素化エポキシ樹脂は、芳香族エポキシ樹脂の原料であるポリヒドロキシ化合物を触媒の存在下、加圧下で選択的に核水素化反応して得られる核水添ポリヒドロキシ化合物をグリシジルエーテル化する方法により得ることができる。芳香族エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、およびビスフェノールSのジグリシジルエーテルなどのビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、およびヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂などのノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、およびエポキシ化ポリビニルフェノールなどの多官能型のエポキシ樹脂などが挙げられる。水素化エポキシ樹脂中でも、水素化したビスフェノールAのグリシジルエーテルが好ましい。
【0078】
脂環式エポキシ樹脂とは、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に1個以上有するエポキシ樹脂を意味する。「脂環式環に結合したエポキシ基」とは、次式に示される構造における橋かけの酸素原子−O−を意味する。次式中、mは2〜5の整数である。
【0080】
上記式における(CH
2)
m中の1個または複数個の水素原子を取り除いた形の基が他の化学構造に結合している化合物が、脂環式エポキシ樹脂となり得る。(CH
2)
m中の1個または複数個の水素原子は、メチル基やエチル基などの直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。脂環式エポキシ樹脂の中でも、オキサビシクロヘキサン環(上記式においてm=3のもの)や、オキサビシクロヘプタン環(上記式においてm=4のもの)を有するエポキシ樹脂は、優れた接着性を示すことから好ましく用いられる。以下に、好ましく用いられる脂環式エポキシ樹脂を具体的に例示するが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0081】
(a)次式(I)で示されるエポキシシクロヘキシルメチル エポキシシクロヘキサンカルボキシレート類:
【0083】
(式中、R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
【0084】
(b)次式(II)で示されるアルカンジオールのエポキシシクロヘキサンカルボキシレート類:
【0086】
(式中、R
3およびR
4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、nは2〜20の整数を表す)。
【0087】
(c)次式(III)で示されるジカルボン酸のエポキシシクロヘキシルメチルエステル類:
【0089】
(式中、R
5およびR
6は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、pは2〜20の整数を表す)。
【0090】
(d)次式(IV)で示されるポリエチレングリコールのエポキシシクロヘキシルメチルエーテル類:
【0092】
(式中、R
7およびR
8は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、qは2〜10の整数を表す)。
【0093】
(e)次式(V)で示されるアルカンジオールのエポキシシクロヘキシルメチルエーテル類:
【0095】
(式中、R
9およびR
10は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、rは2〜20の整数を表す)。
【0096】
(f)次式(VI)で示されるジエポキシトリスピロ化合物:
【0098】
(式中、R
11およびR
12は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
【0099】
(g)次式(VII)で示されるジエポキシモノスピロ化合物:
【0101】
(式中、R
13およびR
14は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
【0102】
(h)次式(VIII)で示されるビニルシクロヘキセンジエポキシド類:
【0104】
(式中、R
15は、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
(i)次式(IX)で示されるエポキシシクロペンチルエーテル類:
【0106】
(式中、R
16およびR
17は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
【0107】
(j)次式(X)で示されるジエポキシトリシクロデカン類:
【0109】
(式中、R
18は、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
上記例示した脂環式エポキシ樹脂の中でも、次の脂環式エポキシ樹脂は、市販されているか、またはその類似物であって、入手が比較的容易であるなどの理由からより好ましく用いられる。
【0110】
(A)7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3−カルボン酸と(7−オキサ−ビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールとのエステル化物[式(I)において、R
1=R
2=Hの化合物]、
(B)4−メチル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3−カルボン酸と(4−メチル−7−オキサ−ビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールとのエステル化物[式(I)において、R
1=4−CH
3、R
2=4−CH
3の化合物]、
(C)7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3−カルボン酸と1,2−エタンジオールとのエステル化物[式(II)において、R
3=R
4=H、n=2の化合物]、
(D)(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールとアジピン酸とのエステル化物[式(III)において、R
5=R
6=H、p=4の化合物]、
(E)(4−メチル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールとアジピン酸とのエステル化物[式(III)において、R
5=4−CH
3、R
6=4−CH
3、p=4の化合物]、
(F)(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールと1,2−エタンジオールとのエーテル化物[式(V)において、R
9=R
10=H、r=2の化合物]。
【0111】
また、脂肪族エポキシ樹脂としては、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルを挙げることができる。より具体的には、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル;1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル;グリセリンのトリグリシジルエーテル;トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル;プロピレングリコールのジグリシジルエーテル;エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0112】
エポキシ系樹脂組成物からなる接着剤を構成するエポキシ樹脂は、1種のみを単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。この組成物に用いられるエポキシ樹脂のエポキシ当量は通常、30〜3000g/当量、好ましくは50〜1500g/当量の範囲内である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、硬化後の複合偏光板の可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、3000g/当量を超えると、接着剤に含有される他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
【0113】
この接着剤においては、反応性の観点から、エポキシ樹脂の硬化反応としてカチオン重合が好ましく用いられる。そのために、活性エネルギー線硬化型の接着剤である硬化性エポキシ樹脂組成物には、カチオン重合開始剤を配合することが好ましい。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線などの活性エネルギー線の照射によってカチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる。以下、活性エネルギー線の照射によりカチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「光カチオン重合開始剤」という。
【0114】
光カチオン重合開始剤を用い、活性エネルギー線の照射により接着剤の硬化を行ななう方法は、常温での硬化が可能となり、偏光フィルムの耐熱性または膨張による歪を考慮する必要が減少し、フィルム間を良好に接着できる点において有利である。また、光カチオン重合開始剤は光で触媒的に作用するため、エポキシ樹脂に混合しても保存安定性や作業性に優れる。
【0115】
光カチオン重合開始剤としては、たとえば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩などのオニウム塩;鉄−アレン錯体などを挙げることができる。
【0116】
芳香族ジアゾニウム塩としては、たとえば、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロボレートなどが挙げられる。また、芳香族ヨードニウム塩としては、たとえば、ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。
【0117】
芳香族スルホニウム塩としては、たとえば、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4,4’−ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィド ビス(ヘキサフルオロホスフェート)、4,4’−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]ジフェニルスルフィド ビス(ヘキサフルオロアンチモネート)、4,4’−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]ジフェニルスルフィド ビス(ヘキサフルオロホスフェート)、7−[ジ(p−トルイル)スルホニオ]−2−イソプロピルチオキサントン ヘキサフルオロアンチモネート、7−[ジ(p−トルイル)スルホニオ]−2−イソプロピルチオキサントン テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−フェニルカルボニル−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロホスフェート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロアンチモネート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジ(p−トルイル)スルホニオ−ジフェニルスルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
【0118】
また、鉄−アレン錯体としては、たとえば、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロアンチモネート、クメン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)−トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタナイドなどが挙げられる。
【0119】
これらの光カチオン重合開始剤の市販品は、容易に入手することが可能であり、たとえば、それぞれ商品名で、「カヤラッド PCI−220」および「カヤラッド PCI−620」(以上、日本化薬(株)製)、「UVI−6990」(ユニオンカーバイド社製)、「アデカオプトマー SP−150」および「アデカオプトマー SP−170」(以上、(株)ADEKA製)、「CI−5102」、「CIT−1370」、「CIT−1682」、「CIP−1866S」、「CIP−2048S」および「CIP−2064S」(以上、日本曹達(株)製)、「DPI−101」、「DPI−102」、「DPI−103」、「DPI−105」、「MPI−103」、「MPI−105」、「BBI−101」、「BBI−102」、「BBI−103」、「BBI−105」、「TPS−101」、「TPS−102」、「TPS−103」、「TPS−105」、「MDS−103」、「MDS−105」、「DTS−102」および「DTS−103」(以上、みどり化学(株)製)、「PI−2074」(ローディア社製)などを挙げることができる。
【0120】
光カチオン重合開始剤は、1種のみを単独で使用してもよいし2種以上を混合して使用してもよい。中でも、芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械的強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため好ましく用いられる。
【0121】
光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ樹脂100重量部に対して通常、0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。光カチオン重合開始剤の配合量が、エポキシ樹脂100重量部に対して0.5重量部を下回ると、硬化が不十分になり、機械的強度や接着強度が低下する傾向にある。また、光カチオン重合開始剤の配合量が、エポキシ樹脂100重量部に対して20重量部を超えると、硬化物中のイオン性物質が増加することで硬化物の吸湿性が高くなり、耐久性能が低下する可能性がある。
【0122】
光カチオン重合開始剤を用いる場合、硬化性エポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、さらに光増感剤を含有することができる。光増感剤を用いることで、カチオン重合の反応性が向上し、硬化物の機械的強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、たとえば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾおよびジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。
【0123】
光増感剤のより具体的な例を挙げれば、たとえば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノンなどのベンゾイン誘導体;ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン誘導体;2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン誘導体;2−クロロアントラキノン、2−メチルアントラキノンなどのアントラキノン誘導体;N−メチルアクリドン、N−ブチルアクリドンなどのアクリドン誘導体;その他、α,α−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、フルオレノン、キサントン、ウラニル化合物、ハロゲン化合物などがある。光増感剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。光増感剤は、硬化性エポキシ樹脂組成物100重量部中、0.1〜20重量部の範囲内で含有されることが好ましい。
【0124】
接着剤に含有されるエポキシ樹脂は、光カチオン重合より硬化されるが、光カチオン重合および熱カチオン重合の双方により硬化してもよい。後者の場合、光カチオン重合開始剤と熱カチオン重合開始剤とを併用することが好ましい。
【0125】
熱カチオン重合開始剤としては、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤は、市販品として容易に入手することが可能であり、たとえば、いずれも商品名で、「アデカオプトンCP77」および「アデカオプトンCP66」(以上、株式会社ADEKA製)、「CI−2639」および「CI−2624」(以上、日本曹達株式会社製)、「サンエイドSI−60L」、「サンエイドSI−80L」および「サンエイドSI−100L」(以上、三新化学工業株式会社製)などが挙げられる。
【0126】
活性エネルギー線硬化型の接着剤は、オキセタン類やポリオール類など、カチオン重合を促進する化合物をさらに含有してもよい。
【0127】
オキセタン類は、分子内に4員環エーテルを有する化合物であり、たとえば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[(3−エチル−3−オキセタニル)メチル]エーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。これらのオキセタン類は、市販品として容易に入手することが可能であり、たとえば、いずれも商品名で、「アロンオキセタン OXT−101」、「アロンオキセタン OXT−121」、「アロンオキセタン OXT−211」、「アロンオキセタン OXT−221」および「アロンオキセタン OXT−212」(以上、東亞合成(株)製)などを挙げることができる。これらのオキセタン類は、硬化性エポキシ樹脂組成物中、通常、5〜95重量%、好ましくは30〜70重量%の割合で含有される。
【0128】
ポリオール類としては、フェノール性水酸基以外の酸性基が存在しないものが好ましく、たとえば、水酸基以外の官能基を有しないポリオール化合物、ポリエステルポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物、フェノール性水酸基を有するポリオール化合物、ポリカーボネートポリオールなどを挙げることができる。これらのポリオール類の分子量は通常48以上、好ましくは62以上、さらに好ましくは100以上、また好ましくは1000以下である。これらポリオール類は、硬化性エポキシ樹脂組成物中、通常、50重量%以下、好ましくは30重量%以下の割合で含有される。
【0129】
活性エネルギー線硬化型の接着剤には、さらに、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤などの添加剤を配合することができる。イオントラップ剤としては粉末状のビスマス系、アンチモン系、マグネシウム系、アルミニウム系、カルシウム系、チタン系およびこれらの混合系などの無機化合物が挙げられ、酸化防止剤としてはヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
【0130】
活性エネルギー線硬化型の接着剤は、溶剤成分を実質的に含まない無溶剤型接着剤として用いることができるが、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、粘度調整のために溶剤を含有させてもよい。溶剤としては、偏光フィルムの光学性能を低下させることなく、エポキシ樹脂組成物などを良好に溶解するものを用いることが好ましく、たとえば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤を挙げることができる。本発明で用いられる活性エネルギー線硬化型の接着剤の粘度は、たとえば5〜1000mPa・s程度の範囲であり、好ましくは10〜200mPa・sであり、より好ましくは20〜100mPa・sである。
【0131】
本発明の偏光板の製造方法において、原料フィルムのガラス転移温度よりも10〜20℃低い温度にまで原料フィルムを加熱する工程以外の工程は特に制限はなく、従来公知の偏光板の製造方法における各工程を適用できる。偏光板の製造方法は、通常、(1)接着剤塗工工程、(2)貼合工程、(3)活性エネルギー線照射工程、(4)偏光板巻き取り工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0132】
(接着剤塗工工程)
透明フィルムの原料フィルムおよび/または偏光フィルムへの接着剤の塗工方法は特に限定されないが、たとえば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。接着剤は、調製後、通常は15〜40℃の範囲内の所定温度±5℃(たとえば、所定温度が30℃である場合、30℃±5℃)、好ましくは±3℃、より好ましくは±1℃に調整された環境下で塗布される。
【0133】
(貼合工程)
本工程では、ロール状に巻回された状態から連続的に繰り出された偏光フィルムの片面または両面に、透明フィルムが接着剤を介して積層させる。この積層体を、搬送方向に回転する一対の貼合ロールの間に挟んで透明フィルムと偏光フィルムとを貼合する。
【0134】
貼合ロールの材質としては、金属やゴムが挙げられる。一対の貼合ロールの一方が金属製ロールであり、他方がゴム製ロールであることが好ましい。さらに、フラットロールが金属製であり、クラウンロールがゴム製であることがより好ましい。
【0135】
金属製ロールの母材としては、種々公知の材質を用いることができるが、好ましくはステンレスであり、より好ましくはSUS304(18%のCrと8%のNiを含むステンレス鋼)である。金属製ロールの表面には、クロムめっき処理が施されていることが好ましい。
【0136】
ゴム製ロールの材質は、特に限定されないが、NBR(ニトリルゴム)、タイタン、ウレタン、シリコン、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)などが挙げられ、好ましくは、NBR、タイタン、ウレタンである。ゴムロールの硬度は、特に限定されないが、通常60〜100°であり、好ましくは85〜95°である。なお、ゴムロールの硬度は、JIS K 6253に準拠した硬度計で測定することができる。市販の硬度計としては、たとえばアスカ社製のゴム硬度計「Type−A」などが用いられる。具体的には、表面を棒のようなもので押しつけた時の、ゴムロールの表面の抵抗を硬度計で測定する。
【0137】
(活性エネルギー線照射工程)
活性エネルギー線の照射により接着剤の重合硬化を行なうために用いる光源は、特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する光源であることが好ましい。このような光源としては、たとえば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプが挙げられる。
【0138】
活性エネルギー線硬化型接着剤への光照射強度は、接着剤の組成ごとに決定されるものであって特に限定されないが、10〜5000mW/cm
2であることが好ましい。樹脂組成物への光照射強度が10mW/cm
2未満であると、反応時間が長くなりすぎ、5000mW/cm
2を超えると、ランプから輻射される熱および組成物の重合時の発熱により、接着剤の構成材料であるエポキシ樹脂組成物などの黄変や偏光フィルムの劣化を生じる可能性がある。なお、照射強度は、好ましくは光カチオン重合開始剤の活性化に有効な波長領域における強度であり、より好ましくは波長400nm以下の波長領域における強度であり、さらに好ましくは波長280〜320nmの波長領域における強度である。
【0139】
活性エネルギー線硬化型接着剤への活性エネルギー線の照射時間は、硬化する組成物毎に制御されるものであって、特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が55mJ/cm
2以上、好ましくは55〜5000mJ/cm
2となるように設定されることが好ましい。上記接着剤への積算光量が55mJ/cm
2未満であると、開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、接着剤の硬化が不十分となり、得られる偏光板のタルミが発生する可能性がある。一方でその積算光量が5000mJ/cm
2を超えると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利なものとなる。
【0140】
本発明においては、積層体に活性エネルギー線を照射して接着剤を重合硬化させるが、加熱による重合硬化を併用してもよい。
【0141】
(偏光板巻取り工程)
続く偏光板巻取り工程では、貼合して得られた積層体(偏光板)を巻き取る。偏光体を巻き取る際の張力は、通常30〜150N/cm
2、好ましくは30〜120N/cm
2である。前記張力が30N/cm
2未満では長尺のロール巻きを移送する際、巻きズレが起きるため好ましくない。150N/cm
2より大きい場合は、巻き締まりが強く、タルミが発生し易い。
【0142】
なお、巻き長さが長くなるほど、同一張力では巻き締まり(繰り出した際に平坦な状態に戻り難くなる現象)が起き易くなるため、偏光板をコアに巻きながら張力を連続的または段階的に低下させてもよい。このような所謂テーパーをかけて張力を下げる方法においても、その際の張力は150N/cm
2以下とする。
【0143】
コアに巻き取られる偏光板の長さは、特に限定されないが、好ましくは100m以上4000m以下である。
【0144】
円筒状のコアの直径は、6インチ〜12インチが好ましい。コアの直径は大きいほど好ましく、11インチ、12インチなどより好ましいが、さらに大きすぎると移送や保管が難しくなる。
【0145】
円筒状コアの材質は、クリーンルームで使用するため、それ自身が発塵し難く、広い幅の偏光板を巻き取れるように適切な強度が確保できれば特に限定はないが、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)などを選択できる。
【実施例】
【0146】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0147】
<実施例1>
透明フィルムの原料フィルムとして、厚み60μm、幅1330mmの酢酸セルロース系フィルムKC6UX(コニカミノルタオプト(株)製)を、35℃、70%RHの雰囲気に調整した加湿炉内に20秒間以上滞留させた。110℃で1時間加熱乾燥し、乾燥前の重量から乾燥後の重量を差し引くようにして重量乾燥法で原料フィルムの水分含有率を測定したところ、2.5%であった。原料フィルムの片面に接着剤を塗工装置を用いて厚さ2μmで塗工し、別途作製していた偏光フィルムと貼合し、偏光板を得た。得られた偏光板は、クリーンルーム環境で40日経過後でも、逆カール、ウェーブカールのいずれも起こらなかった。
【0148】
<実施例2>
透明フィルムの原料フィルムとして、厚み65μm、幅1330mmの表面処理した酢酸セルロース系フィルムVH01(凸版印刷(株)製)を、35℃、65%RHの雰囲気に調整した加湿炉内に20秒間以上滞留させた。実施例1と同様にして原料フィルムの水分含有率を重量乾燥法で測定したところ、1.3%であった。その後、実施例1と同様にして偏光フィルムと貼合し、偏光板を得た。得られた偏光板は40日経過後でも、逆カール、ウェーブカールのいずれも起こらなかった。
【0149】
<実施例3>
(アクリル系樹脂とアクリル系弾性重合体を含むゴム弾性体粒子)
メタクリル酸メチル/アクリル酸メチルの重量比96/4の共重合体を、アクリル系樹脂とした。また、最内層が、メタクリル酸メチルに少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された硬質の重合体、中間層が、アクリル酸ブチルを主成分とし、さらにスチレンおよび少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された軟質の弾性体、最外層が、メタクリル酸メチルに少量のアクリル酸エチルを用いて重合された硬質の重合体からなる3層構造の弾性体粒子であって、中間層である弾性体までの平均粒径が240nmのものを、アクリル系弾性重合体を含むゴム弾性体粒子とした。
【0150】
(アクリル系光学フィルムの作製)
上記のアクリル系樹脂と上記のアクリル系弾性重合体を含むゴム弾性体粒子が前者/後者=70/30の重量比で配合されているペレットを二軸押出機で溶融混練しつつ、その100部に対して滑剤であるステアリン酸0.05部を加えて混合し、アクリル系樹脂組成物のペレットとした。このペレットを65mmφの一軸押出機に投入し、設定温度275℃のT型ダイを介して押し出し、押し出されたフィルム状溶融樹脂の両面を、45℃に温度設定された鏡面を有する2本のポリシングロールで挟み込んで冷却し、アクリル系樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムは、直径6インチ(15.2mm)のコアに巻き取った。
【0151】
実施例1と同様にして原料フィルムの水分含有率を重量乾燥法で測定したところ、0.6%であった。その後、実施例1と同様にして偏光フィルムと貼合し、偏光板を得た。得られた偏光板は15日経過後でも、逆カール、ウェーブカールのいずれも起こらなかった。