(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板には、除電装置によって前記基板を除電しながら、前記剥離力を加えて前記基板貼付剤から剥離させる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の有機EL薄膜形成基板の製造方法。
前記基板保持板の裏面側から前記基板保持板に対してピンを移動させ、前記基板保持板に形成された貫通孔に前記ピンを挿通して前記ピンの先端を前記基板の裏面に当接させた後、更に前記ピンを前記基板保持板に対して1mm/秒以下の相対速度で移動させ、前記基板を押圧して前記基板に剥離力を加える請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の有機EL薄膜形成基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の有機EL薄膜形成基板の製造方法に用いる有機EL薄膜形成基板の製造装置2を示している。
図1に示すように、この製造装置2は、前室16と、基板貼付室11と、第一反転室17と、マスク貼合室18と、成膜室13と、マスク分離室19と、第二反転室25と、基板剥離室14と、受渡室26と、後室15とを有している。各室11,13〜19,25,26の間は、ゲートバルブ21を介して接続されている。各室11,13〜19,25,26から各室に続く室11,13〜19,25,26へ基板を搬入するときは、各室11,13〜19,25,26の間に設けられたゲートバルブ21を開けて各室に続く室11,13〜19,25,26に基板を搬入し、ゲートバルブ21を閉じるが、以下、基板を移動する際のゲートバルブ21の開閉の説明は省略する。
【0012】
各室11,13〜19,25,26は、それぞれ真空排気装置22に接続され、各ゲートバルブ21が閉じられた状態では、各室11,13〜19,25,26を、真空排気装置22によって、それぞれ個別に真空排気できるようになっている。
【0013】
予め、各ゲートバルブ21を閉じて、各室11,13〜19,25,26をそれぞれ真空排気しておく。
有機EL薄膜を形成する際には、前室16から基板貼付室11に有機EL薄膜を形成する基板を搬入する。
基板貼付室11には、基板保持板32が配置されている。
【0014】
基板保持板32は、金属(例えばアルミニウム)等の硬い材質から成る板状の部材であり、基板保持板32には、
図2(a)に示すように、保持板貫通孔36が複数設けられている。
【0015】
基板保持板32の片面を基板貼付面34とし、その反対側の面を裏面54とすると、保持板貫通孔36の、基板貼付面34表面に位置する開口部と開口部との間の部分には、基板貼付剤33が貼付されている。基板貼付剤33は、ここでは、粘着性を有するシート状又は平板状の物質である。基板保持板32は、基板貼付面34が上方を向けられて配置されており、搬入された基板31が、有機EL薄膜を形成する成膜面37を上方に向け、その反対側の非成膜面38が基板貼付剤33に貼付され、基板保持板32と、基板貼付剤33と、基板31とで、
図2(b)に示す成膜対象物40が構成され、基板貼付室11から第一反転室17に移動され、第一反転室17内で上下が反転され、成膜面37を鉛直下方に向けた状態で、マスク貼合室18に移動される。
【0016】
マスク貼合室18には、マスク80が配置されており、マスク貼合室18内で、基板31とマスク80との位置合わせがされ、
図3に示すように、成膜対象物40の成膜面37上にマスク80が配置され、マスク80は成膜対象物40に固定される。
マスク80には、貫通孔である窓部81が形成されており、窓部81の底面には、成膜面37が露出されている。
【0017】
マスク80と成膜対象物40とを、搬送対象物44と呼ぶと、搬送対象物44は、マスク貼合室18から成膜室13に移動され、成膜室13内に設けられた基板搬送装置41に配置され、成膜面37を下方に向けさせた状態で成膜室13の内部を移動される。
【0018】
成膜室13の内部の底面側には、蒸気放出装置43が複数台(ここでは10〜15台)設けられている。各蒸気放出装置43は、蒸気を放出する蒸気放出口(図示せず)を有しており、蒸気放出口から成膜室13の内部に、有機EL薄膜材料の有機化合物蒸気を放出できるようにされている。
【0019】
少なくとも搬送対象物44が成膜室13の内部を移動する間は、成膜室13内部は継続して真空排気されており、成膜室13の内部の雰囲気は、所定圧力範囲の第一の真空雰囲気にされており、各蒸気放出装置43の蒸気放出口から、上方に向けて有機化合物蒸気が放出された状態で、成膜面37が各蒸気放出装置43の蒸気放出口と順番に対面し、窓部81底面に露出する成膜面37に、有機化合物蒸気が順番に到達すると、
図4に示すように、窓部81の底面に露出する成膜面37上には、有機EL薄膜39が形成される。(このとき、マスク80の表面上にも、有機EL薄膜が形成される。)
有機EL薄膜39を形成する際には搬送対象物44に熱が流入し、基板31の温度と基板貼付剤33の温度とは、有機EL薄膜39を形成する直前に比べ、有機EL薄膜39を形成した直後が30℃を超えて高くなる。
【0020】
基板貼付剤33の接着力は温度が高くなると弱くなるため、基板31と基板貼付剤33との間の粘着力が、基板31が落下しない強さを維持させる為に、45℃より低い温度範囲になるように、成膜室13内に設けた冷却機構35(
図1)によって、基板31と基板貼付剤33とを冷却しながら、有機EL薄膜39を形成している。
【0021】
この製造装置2では、冷却機構35は、成膜室13の天井や、蒸気放出装置43の間に配置されている。
有機EL薄膜39が形成された基板31を有する搬送対象物44は、成膜室13からマスク分離室19に移動される。
【0022】
マスク分離室19内では、搬送対象物44からマスク80と成膜対象物40とが分離され、分離されたマスク80は、真空雰囲気中を移動して、マスク貼合室18に戻され、成膜対象物40は、マスク分離室19から第二反転室25に移動される。
【0023】
第二反転室25内では、移動された成膜対象物40の上下は反転され、有機EL薄膜39の形成された基板31の成膜面37は、上方に向けられ、基板保持板32は下方に向けられた状態で、第二反転室25から基板剥離室14内に移動される。
【0024】
基板剥離室14の内部は継続して真空排気されており、基板剥離室14の内部の雰囲気である第二の真空雰囲気は、第一の真空雰囲気と同じ圧力にされている。ここでは、第一の真空雰囲気と第二の真空雰囲気とは、1×10
-4Pa未満の圧力である。
【0025】
基板剥離室14の内部には、
図1に示すように、底面上にはステージ55が配置され、天井側には、温度調節機構60が有する板状の温度調節板63が配置されている。
温度調節板63の内部には、熱媒体62が流れる媒体流路65が設けられている。
【0026】
基板剥離室14の外部には、温度制御装置67が配置されており、媒体流路65は、温度制御装置67から熱媒体62が供給され、媒体流路65を流れた熱媒体62は、温度制御装置67に戻るように構成されている。
【0027】
温度制御装置67は、熱媒体62を加熱又は冷却して熱媒体62の温度を制御する加熱冷却装置を有しており、温度制御装置67に戻った熱媒体62は、加熱冷却装置によって、温度が制御され、媒体流路65に供給されるようになっている。
【0028】
ステージ55の一面は、平坦な載置面56にされており、ステージ55にはピン52の昇降用の移動孔が形成されており、
図5(a)は、移動孔に挿通された複数のピン52の上端が、載置面56上に突き出された状態である。
【0029】
各ピン52は、ピン昇降装置53(
図1)に取り付けられており、ピン昇降装置53によってピン52は載置面56の下方に降下された後、基板剥離室14の内部に搬入された成膜対象物40は、ステージ55と温度調節板63の間に挿入され、ピン52の上方に保持板貫通孔36が位置するように位置合わせがされた後、降下されて、
図5(b)に示すように、成膜面37が上方を向けられた状態で、載置面56上に乗せられる。
【0030】
その状態では、保持板貫通孔36は移動孔と連通している。成膜面37は、温度調節板63と平行に、近接して対面するようにされており、温度調節板63は、基板31に放射熱を入射させ、又は、基板31の放射熱を吸収して、基板31を昇温又は冷却するようになっており、熱媒体62の温度を制御することによって基板31と基板貼付剤33との温度を制御することができる。
基板剥離室14内に搬入されたときの、基板31及び基板貼付剤33の温度は30℃より高く45℃より低い温度範囲になっている。
【0031】
ステージ55に載置されたその温度範囲の基板貼付剤33を温度調節板63によって温度制御する場合は、基板貼付剤33の温度30℃以下の低温範囲又は45℃以上の高温範囲のいずれかの温度範囲内にする熱媒体62の温度と、対面させる時間とが、予め求められており、ステージ55に載置された成膜対象物40は、温度制御装置67が供給する熱媒体62によって温度制御されて、基板貼付剤33の温度が、低温範囲又は高温範囲にされる。
【0032】
低温範囲の場合は、室温(20℃)以上の温度範囲であることが普通であり、高温範囲の場合は、基板31に形成されている薄膜にダメージを与えないことから、80℃以下にすることが普通である。
低温範囲又は高温範囲になったところで、ピン52が上昇される。
【0033】
ピン52の上方には、基板31の非成膜面38が露出されている。基板保持板32はステージ55に固定されており、上昇するピン52の先端は、非成膜面38に当接し、更に上昇しようとすると、基板31には下方から押圧力が加わり、その押圧力が剥離力となる。剥離力が接触力よりも大きいと、基板31は基板貼付剤33から剥離する。
【0034】
基板剥離室14の内部のステージ55の側方位置には、除電装置(ここでは紫外線ランプ72)が配置されており、基板剥離室14の外部には、ランプ用電源73が配置されている。
ランプ用電源73が起動すると紫外線ランプ72に通電され、紫外線ランプ72は点灯し、紫外線ランプ72から載置面56上の空間に向けて紫外線が放射されるようになっている。
紫外線ランプ72は、基板31が基板貼付剤33から剥離される際には、点灯させておき、非成膜面38に紫外線が照射されるようにする。
【0035】
基板31が剥離される際には、基板貼付剤33の温度は、低温範囲又は高温範囲にされており、帯電量が小さくなるようにされている。また、非成膜面38に紫外線が照射されることで、基板31の帯電が小さくなるようにされている。
【0036】
ピン昇降装置は、ピン52を所望の速度で上昇させることができるように構成されており、ここでは、ピン52が非成膜面38に当接した後、ピン52は、0.1mm/秒以上1mm/秒以下の速度で上昇されており、その速度は、従来のピン移動速度よりも遅くされ、帯電が少なくなるようにされている。
【0037】
図5(c)は、基板保持板32から剥離された基板31を示している。
なお、上述した基板31の剥離方法では、基板31にピン52を押し付け、押圧力によって基板31を基板保持板32から剥離したが、基板31を牽引する引張力によって、基板31を基板貼付剤33から剥離しても良い。
【0038】
また、剥離の際に、基板剥離室14に不活性ガスを導入して第二の真空雰囲気を、1×10
-4Pa以上の圧力にしてもよいし、除電装置は、紫外線ランプ72でなくても良い。また、基板剥離室14の内部に除電装置を設けなくてもよい。
【0039】
また、複数のピン52は、それぞれ同速度で上昇してもよいし、ピン52とピン52との間で、異なる速度で上昇するようにしてもよい。
【0040】
また、温度調節機構60の温度調節板63は、成膜対象物40の基板31と対面する位置に、成膜対象物40と離間して設けられていたが、ステージ55の内部に媒体流路65を設け、熱媒体62を媒体流路65に供給して循環させることによって、ステージ55を温度調節板63とし、温度調節板63を成膜対象物40と接触するようにして配置しても良い。
【0041】
ピン52を上昇させ、有機EL薄膜が形成された基板31を基板貼付剤33から剥離して、基板保持板32と基板貼付剤33とから分離させた後、基板保持板32は、真空雰囲気中を移動して、基板貼付室11に戻され、分離された基板31は、後室15の内部に移動され、基板31には、次の処理が行われる。
なお、上記基板31はガラス基板であったが、本発明には、ガラス基板以外の誘電体の基板を用いることができる。
【実施例】
【0042】
[基板貼付剤の温度と基板貼付剤の粘着力及び基板の帯電量との関係]
本実施例では、基板貼付剤33にはブタジエンゴムを使用し、基板保持板32にはアルミニウムを使用した。また、試料基板には、約50mm角の正方形の未成膜のガラス基板を使用した。基板貼付剤33を基板保持板32に貼付し、試料基板を基板貼付剤33上に載置し、上方から20Nの力で押圧して試料基板を基板貼付剤33に貼付して固定し、成膜対象物のサンプルを得た。ここでは、成膜対象物のサンプルを複数枚作成し、各成膜対象物からそれぞれ試料基板を剥離させたときの、基板貼付剤33の温度と基板貼付剤33の粘着力との関係と、基板貼付剤33の温度と基板31の帯電量との関係をそれぞれ測定した。
【0043】
温度と、粘着力の測定結果の平均値との関係を表1に示し、温度と、帯電量の測定結果の平均値の規格値との関係を表2に示す。表2に示した規格値は、基板貼付剤33が30℃のときに剥離した際の帯電量(760.9V)を1としたときの規格値である。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1に示した温度と粘着力との関係を
図6に示し、表2に示した温度と帯電量との関係を
図7に示す。
図6、
図7に示すグラフの横軸は、基板貼付剤33の温度を、
図6の縦軸は粘着力の測定結果の平均値を、
図7の縦軸は帯電量の測定結果の平均値の規格値を示している。
【0047】
粘着力と帯電量とを測定した際には、基板貼付剤33の温度に加え、その基板貼付剤33に貼付された基板31の温度も測定しており、表1、表2には、基板31と基板貼付剤33との測定温度を記載した。
【0048】
表1と
図6とから、ブタジエンゴムを用いた基板貼付剤33は、23℃以上60℃以下の温度範囲内では、高温の基板貼付剤33の粘着力の方が、低温の基板貼付剤33の粘着力よりも小さくなっている。
従って、低温範囲よりも高温範囲の方が、剥離力は小さくて済む。
【0049】
他方、表2と
図7とから、基板貼付剤33の温度が、23℃以上35℃以下の温度範囲内では、基板貼付剤33の温度が高い方が低い方よりも帯電量が大きくなっており、35℃以上60℃以下の温度範囲内では、基板貼付剤33の温度が高い方が低い方よりも帯電量は小さくなっており、その結果、基板貼付剤33の温度が35℃のときに試料基板の帯電量は最も大きくなっている。
【0050】
以上の結果より、基板貼付剤の温度を、35℃よりも低い温度にするほど、又は35℃よりも高い温度にするほど、帯電の放電による有機EL薄膜39の破壊は起こり難くなることがわかる。基板貼付剤33の温度を35℃よりも低い20℃〜30℃の低温領域又は、35℃よりも高い45℃〜80℃の高温領域にして、基板貼付剤33から基板31を剥離すると、有機EL薄膜39の劣化によるデバイス不良の問題が起こらないことが確認されている。
【0051】
[ピンの移動速度と基板の帯電量との関係]
本実施例では、基板貼付剤33にはブタジエンゴムを使用し、基板保持板32にはアルミニウムを使用した。また、試料基板は、300mm×400mmの長方形の未成膜のガラス基板を用いた。基板貼付剤33を基板保持板32に貼付し、試料基板を基板貼付剤33上に載置し、上方から押圧して試料基板を基板貼付剤33に貼付して固定し、成膜対象物のサンプルを得た。基板貼付剤33の温度を24℃としたときに、成膜対象物のサンプルから試料基板を剥離させたときの、ピン52の移動速度と試料基板の帯電量との関係を測定した。測定結果を下記表3に示す。下記表3に示した値は、ピンの移動速度が2mm/秒であるときの試料基板の帯電量(9200V)を1としたときの規格値である。
【0052】
【表3】
【0053】
表3の数値から、ピン52の移動速度が、2mm/秒、1mm/秒、0.1mm/秒であるときの基板31の帯電量の規格値は、それぞれ1.00、0.39、0.34であり、移動速度が0.1mm/秒以上2mm/秒以下の範囲では、ピン52の移動速度が遅い方が速い方よりも試料基板の帯電量は小さくなることが分かる。
表3から、移動速度は1mm/秒以下が望ましいことが分かる。