(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
透明基材と、前記透明基材に形成され、屈折率が2以上の高屈折率層と屈折率が1.6以下の低屈折率層とからなる単位屈折率層が複数積層された誘電体多層膜とを有する光学部材であって、
前記誘電体多層膜における前記単位屈折率層の全層数が15以上、かつ前記単位屈折率層における前記高屈折率層の光学膜厚をnHdH、前記低屈折率層の光学膜厚をnLdLとしたとき、前記誘電体多層膜におけるnHdH/nLdL≧3を満足する単位屈折率層の層数が10以上であり、
前記誘電体多層膜は、前記高屈折率層および前記低屈折率層の一部から構成される合計層数が10層以上の調整部を有するものであって、前記調整部は、前記調整部に含まれる前記高屈折率層の平均光学膜厚をTH、前記調整部に含まれる前記低屈折率層の平均光学膜厚をTLとしたとき、TH/TLが0.9以下であることを特徴とする光学部材。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の光学部材について説明する。本発明の光学部材1は、透明基材2と、この透明基材2に形成された誘電体多層膜3とを有する。誘電体多層膜3は、屈折率が2以上の高屈折率層31と屈折率が1.6以下の低屈折率層32とからなる単位屈折率層33が複数積層されて構成される。なお、屈折率は、波長550nmの光に対する屈折率を意味する。
【0013】
本発明の光学部材1は、誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数が15以上であることを特徴とする。また、単位屈折率層33における高屈折率層31の光学膜厚をn
Hd
H、低屈折率層32の光学膜厚をn
Ld
Lとしたとき、誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33の層数が10以上であることを特徴とする。
【0014】
なお、誘電体多層膜3は、必ずしも単位屈折率層33のみから構成される必要はなく、厚さ方向、すなわち単位屈折率層33の積層方向の一方または双方に、単位屈折率層33を構成しない単独で存在する高屈折率層31または低屈折率層32を有してもよい。また、n
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する10以上の単位屈折率層33については、互いにn
Hd
H/n
Ld
Lが同一であってもよいし、異なってもよい。以下では、このような誘電体多層膜3を第1の誘電体多層膜3と記すことがある。
【0015】
本発明の光学部材1によれば、特に誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33の層数を10以上とすることで、屈折率が2以上の高屈折率層31と屈折率が1.6以下の低屈折率層32とからなる単位屈折率層33を複数積層するものにおいて、入射角依存性を効果的に低減できる。具体的には、透過帯域と反射帯域との間のカットオフ帯域、通常は650nm付近のカットオフ帯域における入射角0°における50%透過波長と入射角30°における50%透過波長との差を例えば16nm以下に低減できる。以下、上記差を赤外線側半値波長シフト量または単に波長シフト量と記す場合がある。本発明の光学部材1においては、入射角依存性をより効果的に低減する観点から、n
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数が10以上であることが好ましい。
【0016】
誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数、および誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数は、入射角依存性を低減するとともに、透過率リップル、すなわち分光透過率の平坦性を改善する観点から、より多いことが好ましい。例えば、誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数は、30以上が好ましく、35以上がより好ましい。また、誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数は、15以上が好ましく、18以上がより好ましい。誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数、および誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数を上記範囲とすることで、特に650nm付近のカットオフ帯域における入射角0°における50%透過波長と入射角30°における50%透過波長との差を16nm以下に低減するとともに、透過率リップルを低減しやすい。
【0017】
誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数、および誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数は、赤外域遮蔽の観点からは多いことが好ましいが、生産性の観点からは抑制することが好ましい。従って、誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数は45以下が好ましく、40以下がより好ましい。また、誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数は、35以下が好ましく、30以下がより好ましい。
【0018】
また、誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33は、5≦n
Hd
H/n
Ld
L≦8を満足することが好ましい。誘電体多層膜3における5≦n
Hd
H/n
Ld
L≦8を満足する単位屈折率層33の層数は、10以上が好ましく、15以上がより好ましい。このようなものとすることで、650nm付近のカットオフ帯域における入射角0°における50%透過波長と入射角30°における50%透過波長との差を16nm以下とするとともに、透過率リップルを低減しやすい。
【0019】
誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全体、すなわちn
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33とn
Hd
H/n
Ld
L<3である単位屈折率層33とを合わせた全体におけるn
Hd
H/n
Ld
Lの平均値である平均n
Hd
H/n
Ld
Lは4.5〜6が好ましい。特に、誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数が多い場合、例えば誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数が30以上の場合、平均n
Hd
H/n
Ld
Lは4.5〜5.3が好ましい。
【0020】
誘電体多層膜3における個々の単位屈折率層33のn
Hd
H/n
Ld
Lは、上記条件を満たせば必ずしも制限されないが、0.1〜25が好ましく、0.2〜20が好ましい。なお、上記したように、誘電体多層膜3における10以上の単位屈折率層33については、n
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足し、より好ましくは5≦n
Hd
H/n
Ld
L≦8を満足する。
【0021】
誘電体多層膜3における高屈折率層31の光学膜厚n
Hd
Hの平均値である平均光学膜厚n
Hd
Hは、200〜310nmが好ましく、210〜300nmがより好ましい。誘電体多層膜3における低屈折率層32の光学膜厚n
Ld
Lの平均値である平均光学膜厚n
Ld
Lは、40〜70nmが好ましく、40〜65nmがより好ましい。特に、誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数が多い場合、例えば誘電体多層膜3における単位屈折率層33の全層数が30以上の場合、高屈折率層31の光学膜厚n
Hd
Hの平均値である平均光学膜厚n
Hd
Hは、210〜270nmが好ましく、220〜260nmがより好ましい。また、誘電体多層膜3における低屈折率層32の光学膜厚n
Ld
Lの平均値である平均光学膜厚n
Ld
Lは、45〜70nmが好ましく、45〜65nmがより好ましい。
【0022】
誘電体多層膜3における個々の高屈折率層31の光学膜厚n
Hd
Hは、上記条件を満たすものであれば必ずしも制限されないが、10〜350nmが好ましい。誘電体多層膜3における個々の低屈折率層32の光学膜厚n
Ld
Lについても、上記条件を満たすものであれば必ずしも制限されないが、10〜140nmが好ましい。
【0023】
高屈折率層31の構成材料は、屈折率が2以上であれば必ずしも制限されないが、例えば、TiO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、これらの複合酸化物等が挙げられる。また、低屈折率層32の構成材料についても、屈折率が1.6以下であれば必ずしも制限されないが、例えば、SiO
2、MgF
2、これらの複合酸化物等が挙げられる。高屈折率層31、低屈折率層32には、上記屈折率を満たす範囲内で、屈折率を調整するための添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、SiO
2、Al
2O
3、CeO
2、FeO
2、HfO
2、In
2O
3、MgF
2、Nb
2O
3、SnO
2、Ta
2O
3、TiO
2、Y
2O
3、ZnO、ZrO
2、NiO、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony doped Tin Oxide)、MgO等が挙げられる。
【0024】
前記高屈折率層31および前記低屈折率層32は、それぞれ単一の構成材料からなることが好ましい。このようにすることで、誘電体多層膜3を形成する際の膜厚調整機構が2つの構成材料にのみ対応すればよく、また膜材料も2種類のみとなるため、成膜工程における生産性を向上させることが可能となる。
【0025】
高屈折率層31、低屈折率層32は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法により形成する。これらの形成方法によれば、各屈折率層の厚さを高精度に制御しながら、各屈折率層を比較的容易に形成できる。また、スパッタリング法やイオンプレーティング法は、いわゆるプラズマ雰囲気処理であることから、透明基材2に対する誘電体多層膜3の密着性を向上できる。
【0026】
透明基材2は、無色および有色のいずれであってもよく、可視波長域の光を透過するものであれば、その形状は特に限定されるものではなく、例えば、板状、フィルム状、ブロック状、レンズ状等が挙げられる。
【0027】
透明基材2の構成材料としては、ガラス、水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の結晶、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。これらの材料は、紫外波長域および赤外波長域の少なくとも一方に対して吸収特性を有するものであってもよい。
【0028】
ガラスは、可視波長域で透明な材料から、使用する装置、配置する場所等を考慮して、アルカリ成分の有無や線膨張係数の大きさ等の特性を適宜選択して使用できる。硼珪酸ガラスは、加工が容易で、光学面における傷や異物等の発生を抑制できるために好ましく、アルカリ成分を含まないガラスは、接着性、耐候性等が良好なために好ましい。また、ガラスとしては、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラスにCuO等が添加された赤外波長域に吸収を有する吸収型のガラスであってもよい。
【0029】
透明基板2は、赤外波長域に吸収を有することが好ましい。本発明の光学部材1を撮像装置用の近赤外線カットフィルタとして用いる場合、透明基板2が赤外波長域に吸収を有することで、人の視感度特性に近い色補正が可能となる。誘電体多層膜3は、透明基板2の吸収が十分でない部分を補完する目的で用いられる。誘電体多層膜3を用いることで、入射角依存性の低い分光特性が得られるため、透明基板2の分光特性に悪影響を及ぼすことがない。そのため、撮像装置用の近赤外線カットフィルタとして良好な特性を有する光学部材1を得ることが可能となる。
【0030】
水晶、ニオブ酸リチウム、サファイヤ等の結晶は、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置において、モアレや偽色を低減するためのローパスフィルタや波長板として使用されており、光学部材1にローパスフィルタや波長板の機能を付与し、例えば撮像装置を小型化および薄型化できる。
【0031】
撮像装置における固体撮像素子または固体撮像素子パッケージには、一般に固体撮像素子を保護するためのカバーが気密封着される。このカバーを透明基材2として利用することで、該カバーに赤外線遮蔽機能を付与するとともに、入射角依存性を低減できる。カバーの材料としては、結晶、ガラス、樹脂が挙げられるが、耐熱性の観点から結晶またはガラスが好ましい。樹脂を選択する場合、耐熱性に優れる材料、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、シルセスキオキサン等を含有する有機無機ハイブリッド材料等が好ましい。
【0032】
誘電体多層膜3は、以下の調整部を含んでもよい。誘電体多層膜3は、入射角依存性が低い分光特性が得られるものであるが、その一部の構成を調整部とすることで、特に赤外線側半値波長シフト量をより小さくすることができる。例えば、調整部を含む誘電体多層膜3によれば、光学部材1の赤外線側半値波長シフト量を10nm以下にできる。
【0033】
調整部は、単独での分光特性における入射角依存性が高く、斜入射時に波形変形を生じることが特徴である。具体的には、調整部による近赤外側半値波長付近の波形が斜入射とともに大きく変化することで、誘電体多層膜3の全体による近赤外側半値波長付近の波長シフト量が結果的に小さくなる。調整部以外の誘電体多層膜3による近赤外側半値波長付近の波形シフトは斜入射とともに相似形で平行にシフトするが、調整部による波形シフトは波形変形を伴いながら、つまり相似形でない形でシフトする。これらを組み合わせることで、基本的には波長シフト量が小さく、かつ波形変形を利用することで近赤外側半値波長の波長シフト量を極めて小さくすることが可能である。なお、このような調整部の斜入射時の波形変形は、入射角度の変化に伴う光学的膜厚変化から生じている。
【0034】
調整部は、誘電体多層膜3における屈折率が2以上の高屈折率層31と屈折率が1.6以下の低屈折率層32との少なくとも一部から構成されるものであって、高屈折率層31と低屈折率層32との合計層数が10層以上、かつ、高屈折率層31の平均光学膜厚をT
H、低屈折率層32の平均光学膜厚をT
Lとしたとき、T
H/T
Lが1.5以下のものが好ましい。このようなものとすることで、上記したような分光特性とすることができる。
【0035】
なお、高屈折率層31の平均光学膜厚T
Hは、調整部を構成する高屈折率層31の光学膜厚の合計を、調整部を構成する高屈折率層31の層数で除したものである。同様に、低屈折率層32の平均光学膜厚T
Lは、調整部を構成する低屈折率層32の光学膜厚の合計を、調整部を構成する低屈折率層32の層数で除したものである。ここで、調整部は、必ずしも10層以上が連続して形成される必要はなく、2以上の部分に分割して形成されてもよい。分割して形成される場合、少なくとも1つの部分の層数は10層以上であることが好ましい。また、分割して形成される場合、それぞれの部分については必ずしもT
H/T
Lが1.5以下となっている必要はなく、全ての部分を合わせた全体についてT
H/T
Lが1.5以下となっていればよい。
【0036】
調整部の合計層数は、基本的に多くなるほど所定の分光特性を得やすくなるために好ましいが、生産性等の観点から100層以下が好ましく、50層以下が好ましい。また、T
H/T
Lについても、1.5以下であれば必ずしも制限されないが、所定の分光特性を得やすいことから1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましい。T
H/T
Lは、通常、0.1以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。
【0037】
誘電体多層膜3で調整部を用いた場合と用いない場合との赤外側カットオフ領域の透過率1〜95%での平均波長シフト量はほとんど変わらない。これは、誘電体多層膜3における斜入射での波形シフトへの影響は、調整部以外の誘電体多層膜3の構成による分光特性が支配的であるためと考えられる。しかしながら、光学部材を撮像装置用の近赤外線カットフィルタとして用いる場合には、調整部を用いることで透過率が50%を超える領域の波形シフトを小さくでき、これにより赤色域の波長範囲の入射角依存性を小さくすることができるため、撮像装置における画像向上に寄与することができる。
【0038】
上記観点から、調整部を有する光学部材1は、以下の分光特性を有することが好ましい。すなわち、入射角θが0°から30°に変化した際の近赤外側の透過率が50%〜90%となる波長領域のシフト量が10nm以下になることが好ましい。これにより、赤色域の波長範囲(630nm付近)の波長シフトが抑制され、撮像装置における画像向上に寄与することができる。また、この効果を得るために、近赤外側半値波長は、入射角θが0°のとき600〜700nmの範囲にあることが好ましく、620〜680nmの範囲にあることがより好ましい。
【0039】
光学部材1には、上記した第1の誘電体多層膜3に加えて、
図2に示すように、透明基材2の第1の誘電体多層膜3が設けられる主面とは反対側の主面に、紫外波長域および赤外波長域の長波長側の領域を遮蔽する第2の誘電体多層膜4を設けることができる。
【0040】
第2の誘電体多層膜4としては、屈折率が2以上の高屈折率層41と屈折率が1.6以下の低屈折率層42とからなる単位屈折率層43を複数積層したものが挙げられる。第2の誘電体多層膜4における単位屈折率層43の全層数は、紫外線波長域および赤外波長域の光を効果的に遮蔽する観点から、3以上が好ましく、4以上がより好ましい。また、第2の誘電体多層膜4における単位屈折率層43の全層数は、生産性等との観点から、55以下が好ましく、50以下がより好ましい。
【0041】
第2の誘電体多層膜4における単位屈折率層43の全体のn
Hd
H/n
Ld
Lの平均値である平均n
Hd
H/n
Ld
Lは、0.8〜1.5が好ましく、0.9〜1.4がより好ましい。また、第2の誘電体多層膜4における個々の単位屈折率層43のn
Hd
H/n
Ld
L値は、上記条件を満たせば必ずしも制限されないが、0.1〜10が好ましく、0.1〜8が好ましい。
【0042】
第2の誘電体多層膜4における高屈折率層41の光学膜厚n
Hd
Hの平均値である平均光学膜厚n
Hd
Hは、100〜250nmが好ましく、120〜230nmがより好ましい。また、第2の誘電体多層膜4における低屈折率層42の光学膜厚n
Ld
Lの平均値である平均光学膜厚n
Ld
Lは、100〜230nmが好ましく、120〜210nmがより好ましい。
【0043】
第2の誘電体多層膜4における個々の高屈折率層41の光学膜厚n
Hd
Hは、上記条件を満たせば必ずしも制限されないが、10〜310nmが好ましく、15〜300nmがより好ましい。第2の誘電体多層膜4における個々の低屈折率層42の光学膜厚n
Ld
Lについても、上記条件を満たせば必ずしも制限されないが、5〜310nmが好ましく、10〜300nmがより好ましい。
【0044】
高屈折率層41の構成材料は、屈折率が2以上であれば必ずしも制限されないが、例えば、TiO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、これらの複合酸化物等が挙げられる。また、低屈折率層42の構成材料についても、屈折率が1.6以下であれば必ずしも制限されないが、例えば、SiO
2、MgF
2、これらの複合酸化物等が挙げられる。高屈折率層41、低屈折率層42には、上記屈折率を満たす範囲内で、屈折率を調整するための添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、SiO
2、Al
2O
3、CeO
2、FeO
2、HfO
2、In
2O
3、MgF
2、Nb
2O
3、SnO
2、Ta
2O
3、TiO
2、Y
2O
3、ZnO、ZrO
2、NiO、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony doped Tin Oxide)、MgO等が挙げられる。
【0045】
高屈折率層41、低屈折率層42は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンビーム法、イオンプレーティング法、CVD法により形成する。これらの形成方法によれば、各屈折率層の厚さを高精度に制御しながら、各屈折率層を比較的容易に形成できる。また、スパッタリング法やイオンプレーティング法はいわゆるプラズマ雰囲気処理であることから、透明基材2に対する第2の誘電体多層膜4の密着性を向上できる。
【0046】
光学部材1は、透過帯域と反射帯域との間のカットオフ帯域、通常は650nm付近のカットオフ帯域において、入射角0°における50%透過波長と入射角30°における50%透過波長との差が20nm以下であることが好ましく、18nm以下であることがより好ましい。光学部材1においては、第1の誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数を10以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは18以上とすることで、例えば入射角0°における50%透過波長と入射角30°における50%透過波長との差を16nm以下に低減することもできる。
【0047】
光学部材1は、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等の近赤外線カットフィルタ、すなわち視感度補正フィルタとして用いられる。デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置においては、光学部材1は、例えば撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。自動露出計においては、例えば受光素子の前面に配置される。
【0048】
通常、光学部材1は、第1の誘電体多層膜3が積層された主面側が光線入射側、例えば撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される場合の撮像レンズ側となるように配置される。このような配置とすることで、入射角依存性を効果的に低減し、撮影される画像の中心部と周辺部とにおける色目の変化を抑制できる。
【0049】
撮像装置では、固体撮像素子の前面から離れた位置に光学部材1を配置してもよいし、固体撮像素子、または固体撮像素子のパッケージに直接貼着してもよいし、既に説明したように固体撮像素子を保護するカバーを光学部材1としてもよい。また、モアレや偽色を低減するための水晶やニオブ酸リチウム等の結晶を使用したローパスフィルタに直接貼着してもよい。
【0050】
図3は、固体撮像素子を有する撮像装置の一実施形態を概略的に示す断面図である。撮像装置50は、例えば、固体撮像素子51、カバーガラス52、レンズ群53、絞り54、およびこれらを固定する筐体55を有する。
【0051】
レンズ群53は、固体撮像素子51の撮像面側に配置され、例えば、第1のレンズL1、第2のレンズL2、第3のレンズL3、および第4のレンズL4を有する。絞り54は、第3のレンズL3と第4のレンズL4との間に配置される。カバーガラス52は、固体撮像素子51のレンズ群53側に配置され、外部環境から固体撮像素子51を保護する。固体撮像素子51は、レンズ群53を通過した光を電気信号に変換する電子部品であり、例えばCCDやCMOS等である。固体撮像素子51、カバーガラス52、レンズ群53、および絞り54は、光軸xに沿って配置される。
【0052】
撮像装置50では、被写体側より入射した光は、第1のレンズL1、第2のレンズL2、第3のレンズL3、絞り54、第4のレンズL4、およびカバーガラス52を通って固体撮像素子51に入射する。この入射した光を固体撮像素子51が電気信号に変換し、画像信号として出力する。
【0053】
光学部材1は、例えば、カバーガラス52、レンズ群53、すなわち第1のレンズL1、第2のレンズL2、第3のレンズL3、もしくは第4のレンズL4として用いられる。言い換えれば、光学部材1の第1の誘電体多層膜3や第2の誘電体多層膜4は、従来の撮像装置のカバーガラスやレンズ群を透明基材2とし、この透明基材2の表面に設けられる。撮像装置50のカバーガラス52やレンズ群53に光学部材1を適用することで、入射角依存性を効果的に低減し、撮影される画像の中心部と周辺部とにおける色目の変化を抑制できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を参照して光学部材1についてより具体的に説明する。
【0055】
(実施例1)
透明基材2としての厚さ1mmのソーダガラス板の一方の表面に、表1〜3に示すように高屈折率層31としてのTiO
2膜と低屈折率層32としてのSiO
2膜とを交互に積層して第1の誘電体多層膜3を形成する。また、該透明基材2の他方の表面に、表4〜6に示すように高屈折率層41としてのTiO
2膜と低屈折率層42としてのSiO
2膜とを交互に積層して第2の誘電体多層膜4を形成し、光学部材1を製造する。
【0056】
なお、第1の誘電体多層膜3については、高屈折率層31と低屈折率層32とを合わせた全層数は76、すなわち単位屈折率層33の全層数は38、n
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33の層数は28、n
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数は25、5≦n
Hd
H/n
Ld
L≦8を満足する単位屈折率層33の層数は23、平均n
Hd
H/n
Ld
Lは4.8、平均光学膜厚n
Hd
Hは232nm、平均光学膜厚n
Ld
Lは54nmとする。
【0057】
第2の誘電体多層膜4については、高屈折率層41と低屈折率層42とを合わせた全層数は90、すなわち単位屈折率層43の全層数は45、平均n
Hd
H/n
Ld
Lは1.2、平均光学膜厚n
Hd
Hは143nm、平均光学膜厚n
Ld
Lは145nmとする。
【0058】
また、実施例1の光学部材1は、入射角θが0°のときにおいて、350〜395nmの範囲における透過率が3%未満、430〜630nmの範囲における平均透過率が95%以上、同範囲における最低透過率が90%以上、700〜1000nmの範囲における平均透過率が0.1%未満、同範囲における最大透過率が0.5%未満、1000〜1100nmの範囲における平均透過率が0.5%未満、同範囲における最大透過率が2%未満を満たし、かつ415±10nmの範囲内および650±6nmの範囲内に透過率が50%となる点を有するものである。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
(比較例1)
実施例1で使用したガラス板と同様のガラス板の一方の表面に、表7〜9に示すようにTiO
2膜とSiO
2膜とを交互に積層して赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜を形成する。また、該ガラス板の他方の表面に、実施例1の光学部材1における第2の誘電体多層膜4と同様、表4〜6に示すようにTiO
2膜とSiO
2膜とを交互に積層して紫外線波長域および赤外波長領域遮蔽用の誘電体多層膜を形成し、光学部材を製造する。なお、表7〜9に示される赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜は、基本的に各屈折率膜の光学膜厚をλ
0/4としたものである。ここで、λ
0は反射帯域の中心波長760nmである。
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
【表9】
【0069】
(比較例2)
実施例1で使用したガラス板と同様のガラス板の一方の表面に、表10〜12に示すようにTiO
2膜とSiO
2膜とを交互に積層して赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜を形成する。また、該ガラス板の他方の表面に、実施例1の光学部材1における第2の誘電体多層膜4と同様、表4〜6に示すようにTiO
2膜とSiO
2膜とを交互に積層して紫外線波長域および赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜を形成し、光学部材を製造する。なお、表10〜12に示される赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜は、基本的に各屈折率膜の光学膜厚を5λ
0/4としたものである。ここで、λ
0は反射帯域の中心波長680nmである。
【0070】
【表10】
【0071】
【表11】
【0072】
【表12】
【0073】
次に、実施例1、比較例1、2の光学部材について、光学シミュレーションにより、入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を求めた。
図4に、実施例1、比較例1、2の光学部材について、600〜700nmの波長範囲における入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を示す。また、
図5に、実施例1の光学部材について、300〜1200nmの波長範囲における入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を示す。なお、前記光学シミュレーションにおいて、高屈折率層の屈折率は、波長依存性を考慮した。
【0074】
図4からも明らかなように、第1の誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3、好ましくはn
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数が10以上、具体的にはn
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する層数が28、n
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する層数が25である実施例1の光学部材1については、650nm付近のカットオフ帯域における入射角θが0°のときの50%透過波長と入射角θが30°のときの50%透過波長との差を16nmとでき、入射角依存性を効果的に低減できる。また、
図5から明らかなように、実施例1の光学部材1については、入射角依存性を効果的に低減できるとともに、透過率リップル、すなわち分光透過率の平坦性も効果的に改善できる。
【0075】
(実施例2)
透明基材2としての厚さ1mmのソーダガラス板の一方の表面に、表13に示すように高屈折率層31としてのTiO
2膜と低屈折率層32としてのSiO
2膜とを交互に積層して第1の誘電体多層膜3を形成し、光学部材1を製造する。
【0076】
なお、第1の誘電体多層膜3については、高屈折率層31と低屈折率層32とを合わせた全層数は30、すなわち単位屈折率層33の全層数は15、n
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33の層数は13、n
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数は12、5≦n
Hd
H/n
Ld
L≦8を満足する単位屈折率層33の層数は12、平均n
Hd
H/n
Ld
Lは5.5、平均光学膜厚n
Hd
Hは283nm、平均光学膜厚n
Ld
Lは48nmとする。
【0077】
また、実施例2の光学部材1は、入射角θが0°のときにおいて、360〜395nmの範囲における透過率が3%未満、430〜630nmの範囲における平均透過率が95%以上、同範囲における最低透過率が90%以上、415±10nmの範囲内および650±6nmの範囲内に透過率が50%となる点を有するものである。
【0078】
【表13】
【0079】
次に、実施例2の光学部材1について、光学シミュレーションにより、入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を求めた。
図6に、350〜1100nmの波長範囲における入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を示す。なお、前記光学シミュレーションにおいて、高屈折率層の屈折率は、波長依存性を考慮した。
【0080】
図6からも明らかなように、第1の誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33の層数が13、n
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数が12であるものについても、650nm付近のカットオフ帯域における入射角θが0°のときの50%透過波長と入射角θが30°のときの50%透過波長との差を16nmにでき、入射角依存性を効果的に低減できる。
【0081】
(実施例3)
透明基材2としての近赤外線カットフィルタガラス(旭硝子株式会社製NF−50ガラスでガラス厚みは0.3mm)の一方の表面に、表14〜16に示すように高屈折率層31としてのTiO
2膜と低屈折率層32としてのSiO
2膜とを交互に積層して第1の誘電体多層膜3を形成する。また、該透明基材2の他方の表面に、表17に示すように高屈折率層41としてのTiO
2膜と低屈折率層42としてのSiO
2膜とを交互に積層して第2の誘電体多層膜4を形成し、光学部材1を製造する。
【0082】
なお、第1の誘電体多層膜3については、高屈折率層31と低屈折率層32とを合わせた全層数は76、すなわち単位屈折率層33の全層数は38、n
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33の層数は28、n
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数は20、5≦n
Hd
H/n
Ld
L≦8を満足する単位屈折率層33の層数は17、平均n
Hd
H/n
Ld
Lは5.1、平均光学膜厚n
Hd
Hは247nm、平均光学膜厚n
Ld
Lは58nmとする。
【0083】
第2の誘電体多層膜4については、高屈折率層41と低屈折率層42とを合わせた全層数は12、すなわち単位屈折率層43の全層数は6、平均n
Hd
H/n
Ld
Lは1.1、平均光学膜厚n
Hd
Hは211nm、平均光学膜厚n
Ld
Lは190nmとする。
【0084】
また、実施例3の光学部材1は、入射角θが0°のときにおいて、350〜395nmの範囲における透過率が3%未満、430〜545nmの範囲における平均透過率が95%以上、同範囲における最低透過率が90%以上、700〜1000nmの範囲における平均透過率が0.1%未満、同範囲における最大透過率が0.5%未満、1000〜1100nmの範囲における平均透過率が0.5%未満、同範囲における最大透過率が2%未満を満たし、かつ415±10nmの範囲内および640±6nmの範囲内に透過率が50%となる点を有するものである。
【0085】
【表14】
【0086】
【表15】
【0087】
【表16】
【0088】
【表17】
【0089】
次に、実施例3の光学部材1について、光学シミュレーションにより、入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を求めた。
図7に、400〜1100nmの波長範囲における入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を示す。なお、前記光学シミュレーションにおいて、各屈折率層の屈折率は、波長依存性を考慮していない。
【0090】
図7からも明らかなように、透明基材2を変更した実施例3の光学部材1についても、カットオフ帯域における入射角θが0°のときの50%透過波長638nmに対して入射角θが30°のときの50%透過波長を635nmにでき、また同カットオフ帯域における入射角θが0°のときの20%透過波長686nmに対して入射角θが30°のときの20%透過波長を671nmにでき、入射角依存性を効果的に低減できる。
【0091】
(比較例3)
実施例1で使用したガラス板と同様のガラス板の一方の表面に、表18、19に示すように主としてTiO
2膜とAl
2O
3膜とを交互に積層して赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜を形成する。なお、層番号の1、2、35に記載される膜は調整層であり、層番号の3〜34からなる膜が赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜である。また、該ガラス板の他方の表面に、実施例1の光学部材1における第2の誘電体多層膜4と同様、表4〜6に示すようにTiO
2膜とSiO
2膜とを交互に積層して紫外線波長域および赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜を形成し、光学部材を製造する。なお、表18、19に示される赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜は、高屈折率層と中屈折率層(屈折率が1.6を超え、2未満の構成材料からなる)との繰り返し構成である。
【0092】
【表18】
【0093】
【表19】
【0094】
(比較例4)
実施例1で使用したガラス板と同様のガラス板の一方の表面に、表18、19に示すように比較例3と同様のTiO
2膜とAl
2O
3膜とを交互に積層して赤外波長域遮蔽用の誘電体多層膜を形成する。なお、比較例3との相違点は、ガラス板の他方の表面に誘電体多層膜を形成していないことである。
【0095】
次に、比較例3、4の光学部材1について、光学シミュレーションにより、入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を求めた。
図8および
図9に、300〜1300nmの波長範囲における入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を示す。なお、前記光学シミュレーションにおいて、各屈折率層の屈折率は、波長依存性を考慮している。
【0096】
図8および
図9からも明らかなように、本発明を満足しない光学部材については、650nm付近のカットオフ帯域における入射角θが0°のときの50%透過波長と入射角θが30°のときの50%透過波長との差が22nmと大きく、入射角依存性を低減することができない。
【0097】
(実施例4)
透明基材2としての厚さ1mmのソーダガラス板の一方の表面に、表20、21に示すように高屈折率層31としてのTiO
2膜と低屈折率層32としてのSiO
2膜とを交互に積層して第1の誘電体多層膜3を形成し、光学部材1を製造する。
【0098】
なお、第1の誘電体多層膜3については、高屈折率層31と低屈折率層32とを合わせた全層数は42、すなわち単位屈折率層33の全層数は21、n
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33の層数は13、n
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数は13、5≦n
Hd
H/n
Ld
L≦8を満足する単位屈折率層33の層数は8、平均n
Hd
H/n
Ld
Lは5.2、平均光学膜厚n
Hd
Hは99.4nm、平均光学膜厚n
Ld
Lは75.8nmとする。
【0099】
また、第1の誘電体多層膜3の層番号1〜10及び29〜42は調整部としても機能する。該調整部は、該調整部に含まれる高屈折率層31の平均光学膜厚をT
H、該調整部に含まれる低屈折率層32の平均光学膜厚をT
Lとしたとき、T
H/T
Lが0.87である。
【0100】
また、実施例4の光学部材1は、入射角θが0°のときにおいて、360〜395nmの範囲における透過率が3%未満、430〜630nmの範囲における平均透過率が95%以上、同範囲における最低透過率が90%以上、415±10nmの範囲内、具体的には415〜416nmの範囲内、および650±15nmの範囲内、具体的には660〜661nmの範囲内に透過率が50%となる点を有するものである。
【0101】
【表20】
*:調整部としても機能するもの。
【0102】
【表21】
*:調整部としても機能するもの。
【0103】
次に、実施例4の光学部材1について、光学シミュレーションにより、入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を求めた。
図10に、350〜1100nmの波長範囲における入射角θが0°のときの分光透過率、および入射角θが30°のときの分光透過率を示す。なお、前記光学シミュレーションにおいて、各屈折率層の屈折率は、波長依存性を考慮している。
【0104】
図10からも明らかなように、第1の誘電体多層膜3におけるn
Hd
H/n
Ld
L≧3を満足する単位屈折率層33の層数が13、n
Hd
H/n
Ld
L≧5を満足する単位屈折率層33の層数が13であるものについても、650nm付近のカットオフ帯域における入射角θが0°のときの50%透過波長と入射角θが30°のときの50%透過波長との差を8nmにでき、入射角依存性を効果的に低減できる。
【0105】
これは、第1の誘電体多層膜3の一部を調整部として用いたことにより、650nm付近のカットオフ帯域における入射角θが0°と入射角θが30°との波形シフトが平行とならず、波形が変形していることに起因していると考えられる。具体的には、
図10に示すとおり、近赤外側の透過率が50〜90%となる波長領域において、この範囲における入射角θが0°から30°に変化した場合の波長シフト量は10nm以下であり、波長シフト量が非常に小さいことがわかる。また、近赤外線の透過率が50%未満となる波長領域は、前記透過率が50〜90%となる波長領域の波長シフト量と比べ、波長シフト量が大きい。よって、第1の誘電体多層膜3の一部を調整部とすることで、近赤外側の入射角に依存する波長シフト量を不均一化させ、赤色域の波長範囲の入射角依存性を小さくすることができる。