特許第6035002号(P6035002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6035002スパッタリング装置及びその状態判別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6035002
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】スパッタリング装置及びその状態判別方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/00 20060101AFI20161121BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C23C14/00 B
   C23C14/34 U
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-548388(P2016-548388)
(86)(22)【出願日】2016年6月10日
(86)【国際出願番号】JP2016002814
【審査請求日】2016年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-162484(P2015-162484)
(32)【優先日】2015年8月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 佳詞
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−148703(JP,A)
【文献】 特開2013−019028(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/103168(WO,A1)
【文献】 特開2012−132064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
H01L 21/203
H01L 21/363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットをスパッタリングしてこのターゲットに対向配置される基板に成膜するスパッタリング装置にて、基板への成膜に先立って真空チャンバ内の雰囲気が成膜に適した状態かを判別するスパッタリング装置の状態判別方法であって、
スパッタリング装置として、隔絶手段によってターゲットと基板とが臨む、真空チャンバ内と隔絶された隔絶空間を真空チャンバ内に設け、真空チャンバ内の真空引きに伴って隔絶空間が真空引きされるようにしたものを用い、
真空チャンバ内を予め設定された圧力まで真空引きし、この状態でガスを導入し、このときの隔絶空間内の圧力を取得し、所定の膜厚・膜質面内分布で成膜したときに予め求めた前記隔絶空間内の圧力を基準圧力とし、この基準圧力と前記取得した隔絶空間内の圧力とを比較してスパッタリング装置の状態を判別する第1の判別工程を含むことを特徴とするスパッタリング装置の状態判別方法。
【請求項2】
真空チャンバ内の前記隔絶空間の外側の圧力を測定し、この測定した圧力と前記取得した隔絶空間内の圧力との圧力差からスパッタリング装置の状態を判別する第2の判別工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載のスパッタリング装置の状態判別方法。
【請求項3】
前記ガスを導入したときの単位時間当たりの前記隔絶空間内の圧力の変化量を測定し、この測定した変化量からスパッタリング装置の状態を判別する第3の判別工程を更に含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のスパッタリング装置の状態判別方法。
【請求項4】
前記ガスを導入したときの単位時間当たりの真空チャンバ内の前記隔絶空間の外側の圧力の変化量を測定し、この測定した変化量からスパッタリング装置の状態を判別する第4の判別工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載のスパッタリング装置の状態判別方法。
【請求項5】
ターゲットが着脱自在に取り付けられる真空チャンバと、真空チャンバ内でターゲットと対向配置されて基板を保持するステージと、ターゲットと基板とが臨む、真空チャンバ内から隔絶された隔絶空間を画成する隔絶手段と、真空チャンバ内を真空引きすることで隔絶空間内を真空引きする排気手段とを備えるスパッタリング装置であって、
隔絶手段は、ステージの周囲に配置されるアース接地で環状の隔絶ブロックと、隔絶ブロックとターゲットとの周囲を囲ってターゲットとステージとの間の空間を囲繞する隔絶板とを有するものにおいて、
隔絶ブロックに、先端が隔絶空間を臨み厚さ方向に貫通する少なくとも1つの貫通孔を設け、この貫通孔を通して隔絶空間内の圧力を測定する真空計を設けたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項6】
前記隔絶ブロックは前記貫通孔を複数有し、これらの貫通孔のいずれかに屈曲部分を形成し、この屈曲部分を通して前記真空計を設けたことを特徴とする請求項5記載のスパッタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置及びその状態判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばアルミナや窒化シリコン等の絶縁物をターゲットとし、これをスパッタリングして処理すべき基板のターゲットとの対向面に酸化物や窒化物等の絶縁膜を成膜する場合、スパッタリング装置を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなスパッタリング装置としては、ターゲットが着脱自在に取り付けられる真空チャンバと、真空チャンバ内でターゲットと対向配置されて基板を保持するステージと、ターゲットと基板とが臨む、真空チャンバ内から隔絶された隔絶空間を画成する隔絶手段と、真空チャンバ内を真空引きする排気手段とを備えるものがある。隔絶手段は、メンテナンス性やステージに対する基板の搬送等を考慮して、隔絶ブロックと複数枚の隔絶板とを組み付けて構成することが一般であり、隔絶ブロックや隔絶板相互の間の隙間を介して真空チャンバ内と隔絶空間内とが連通しており、真空チャンバ内の真空引きに伴って隔絶空間が真空引きされるようになっている。隔絶ブロックと隔絶板の組み付けに際しては、ターゲットに高周波電力を投入したときに隔絶板相互間の隙間を介してプラズマが漏れ出さないように、当該隙間が2〜3mmの範囲に設定される。
【0004】
ところで、ターゲットのスパッタリングによる成膜中、隔絶板にもスパッタ粒子が付着し、これが汚染の原因となる。このため、隔絶板は定期的に交換されるが、隔絶板が上記隙間が保持されるように組み付けられないと、成膜時の隔絶空間内の圧力ひいてはプラズマ密度が変化し、膜厚や膜質の面内分布が変化してしまう。
【0005】
そこで、隔絶空間内に圧力センサの測定子を配置することが考えられるが、これでは、測定子の表面にも成膜されて圧力を精度よく測定できなくなる。このため、従来は、真空チャンバ内(つまり、隔絶板の外側の空間)の圧力を測定し、この測定した圧力から隔絶空間内の圧力を予測していた。
【0006】
然しながら、隔絶板相互間の隙間が変化して隔絶空間の圧力が変化した場合、上記従来例の如く予測した隔絶空間内の圧力と実際の隔絶空間内の圧力との間でずれが生じ、真空チャンバ内の雰囲気が成膜に適した状態か否かを判別することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−4042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、真空チャンバ内の雰囲気が成膜に適した状態かを確実に判別できるスパッタリング装置及びその状態判別方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、ターゲットをスパッタリングしてこのターゲットに対向配置される基板に成膜するスパッタリング装置にて、基板への成膜に先立って真空チャンバ内の雰囲気が成膜に適した状態かを判別する本発明のスパッタリング装置の状態判別方法は、スパッタリング装置として、隔絶手段によってターゲットと基板とが臨む、真空チャンバ内と隔絶された隔絶空間を真空チャンバ内に設け、真空チャンバ内の真空引きに伴って隔絶空間が真空引きされるようにしたものを用い、真空チャンバ内を予め設定された圧力まで真空引きし、この状態でガスを導入し、このときの隔絶空間内の圧力を取得し、所定の膜厚・膜質面内分布で成膜したときに予め求めた前記隔絶空間内の圧力を基準圧力とし、この基準圧力と前記取得した隔絶空間内の圧力とを比較してスパッタリング装置の状態を判別する第1の判別工程を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、隔絶空間内の圧力を取得し、この取得した圧力と基準圧力とを比較することで、真空チャンバ内の雰囲気が成膜に適した状態か否かを確実に判別できる。例えば、隔絶手段を交換する際に所定の位置に組み付けられず、隔絶手段の交換後に測定した隔絶空間内の圧力が交換前(基準圧力)と比較して大きく変化した場合には、膜厚や膜質の面内分布が変化する虞があり、成膜に適した状態ではないと判別される。この場合、ダミースパッタリング及び成膜を行う前に隔絶手段の組み付け位置を確認することができ、スパッタリング装置のメンテナンス時間を短縮できて有利である。
【0011】
本発明において、真空チャンバ内の前記隔絶空間の外側の圧力を測定し、この測定した圧力と前記取得した隔絶空間内の圧力との圧力差からスパッタリング装置の状態を判別する第2の判別工程を更に含むことが好ましい。これによれば、ダミースパッタリング及び成膜を行う前に、隔絶空間内と隔絶空間外側との圧力差から隔絶手段の組み付け位置の異常等を確認することができて有利である。
【0012】
本発明において、前記ガスを導入したときの単位時間当たりの前記隔絶空間内の圧力の変化量を測定し、この測定した変化量からスパッタリング装置の状態を判別する第3の判別工程を更に含むことが好ましい。これによれば、ダミースパッタリング及び成膜を行う前に、隔絶空間内の圧力の変化量から隔絶手段の組み付け位置の異常等を確認することができて有利である。
【0013】
本発明において、前記ガスを導入したときの単位時間当たりの真空チャンバ内の前記隔絶空間の外側の圧力の変化量を測定し、この測定した変化量からスパッタリング装置の状態を判別する第4の判別工程を更に含むことが好ましい。これによれば、取得した隔絶空間内の圧力が基準圧力と同等であり、真空チャンバ内の前記隔絶空間の外側の圧力の変化量が多い場合には、スパッタリング装置の排気手段が劣化していると判別してメンテナンスを適当な時期に行うことができて有利である。
【0014】
また、上記課題を解決するために、ターゲットが着脱自在に取り付けられる真空チャンバと、真空チャンバ内でターゲットと対向配置されて基板を保持するステージと、ターゲットと基板とが臨む、真空チャンバ内から隔絶された隔絶空間を画成する隔絶手段と、真空チャンバ内を真空引きすることで隔絶空間内を真空引きする排気手段とを備える本発明のスパッタリング装置は、隔絶手段が、ステージの周囲に配置されるアース接地で環状の隔絶ブロックと、隔絶ブロックとターゲットとの周囲を囲ってターゲットとステージとの間の空間を囲繞する隔絶板とを有し、隔絶ブロックに、先端が隔絶空間を臨み厚さ方向に貫通する少なくとも1つの貫通孔を設け、この貫通孔を通して隔絶空間内の圧力を測定する真空計を設けたことを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、隔絶ブロックの貫通孔を通して隔絶空間内の圧力を測定するため、スパッタ粒子が真空計の測定子に付着して成膜されることを防止できる。従って、本発明のスパッタリング装置を用いることで、隔絶空間内の圧力を測定することができるため、真空チャンバの雰囲気が成膜に適した雰囲気か否かを確実に判別することができる。
【0016】
本発明において、前記隔絶ブロックは前記貫通孔を複数有し、これらの貫通孔のいずれかに屈曲部分を形成し、この屈曲部分を通して前記真空計を設けることが好ましい。これによれば、直進性を有するスパッタ粒子が真空計の測定子に付着して成膜されることをより一層防止できるため、真空チャンバの雰囲気が成膜に適した雰囲気か否かをより確実に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態のスパッタリング装置の模式図。
図2】本発明の効果を確認する実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、SMは、本発明の実施形態のスパッタリング装置である。このスパッタリング装置SMは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1の天井部にカソードユニットCが着脱自在に取付けられている。以下においては、図1中、真空チャンバ1の天井部側を向く方向を「上」とし、その底部側を向く方向を「下」として説明する。
【0019】
カソードユニットCは、ターゲット2と、バッキングプレート3と、磁石ユニット4とから構成されている。ターゲット2は、基板Wに成膜しようとする薄膜の組成に応じて適宜選択されるアルミナ等の絶縁物で構成され、基板Wの輪郭に応じて、公知の方法で平面視円形に形成される。バッキングプレート3は、ターゲット2のスパッタ面2aと背向する上面に、図示省略のインジウムやスズ等のボンディング材を介して接合されており、このターゲット2に接合された状態で絶縁体I1を介して真空チャンバ1上部に取り付けられる。バッキングプレート3の内部には図示省略の冷媒循環通路が開設されており、この冷媒循環通路に冷媒を循環させることで、成膜中、ターゲット2を冷却できるようになっている。
【0020】
ターゲット2は、公知の構造を有する高周波電源Eに接続され、スパッタリング時、アースとの間で所定周波数(例えば、13.56MHz)の高周波(交流)電力が投入されるようにしている。磁石ユニット4は、ターゲット2のスパッタ面2aの下方空間に磁場を発生させ、スパッタリング時にスパッタ面2aの下方で電離した電子等を捕捉してターゲット2から飛散したスパッタ粒子を効率よくイオン化する公知の閉鎖磁場若しくはカスプ磁場構造を有するものであり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0021】
真空チャンバ1の底部中央には、ターゲット2に対向させてステージ5が配置されている。ステージ5は、例えば筒状の輪郭を持つ金属製の基台51と、この基台51の上面に接着したチャックプレート52とで構成されている。チャックプレート52は、基台51の上面より一回り小さい外径を有し、静電チャック用の電極52a,52bが埋設され、図外のチャック電源から電圧が印加されるようになっている。チャックプレート52は、リング状の防着板53により基台51の上面に着脱自在に取り付けられている。防着板53は絶縁体I2を介して基台51の上面に取り付けられている。なお、静電チャックの構造については、単極型や双極型等の公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。基台51は、真空チャンバ1の底面に設けた開口に気密に装着された絶縁体I3で保持され、アース接地の真空チャンバ1とは縁切りされ、電気的にフローティングにされている。各絶縁体I1,I2,I3の材質としては特に制限はなく、ガラス入りのフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)や、ガラス入りのエポキシ樹脂などを用いることができる。
【0022】
スパッタリング装置SMは、ターゲット2と基板Wとが臨む、真空チャンバ1内から隔絶された隔絶空間1aを画成する隔絶手段として、環状でアース接地の隔絶ブロック6と、複数枚の隔絶板71,72,73とを備える。隔絶ブロック6は、ステージ5の周囲の真空チャンバ1の底面に配置され、その内周縁部から径方向外側に下方に傾斜するように形成されている。隔絶板71,72,73は、隔絶ブロック6とターゲット2の周囲を囲ってターゲット2とステージ5との間の空間を囲繞するように上下に配置されている。これら隔絶ブロック6と隔絶板71,72,73は、真空チャンバ1の内壁面へのスパッタ粒子の付着を防止する防着板としての役割も果たす。隔絶板72の外側面には、真空チャンバ1の底面を貫通して設けたシリンダCyの駆動軸Crが夫々連結されており、シリンダCyにより、図1に示す下動位置と、隔絶板71側の上動位置との間で移動自在となっている。隔絶板72を上動位置に移動させることで、隔絶板72と隔絶板73との間に隙間を形成し、図外のゲートバルブで開閉される搬送用の透孔Toを通してステージ5への基板Wの搬出・搬入を行うことができる。隔絶板71,72,73の組み付けに際しては、ターゲット2に高周波電力を投入したときに隔絶板71,72,73相互の隙間dを介してプラズマが漏れ出さないように、当該隙間dは2〜3mmの範囲に設定される。
【0023】
真空チャンバ1の側壁には、隔絶空間1a内にスパッタガスを導入するガス導入手段としてのガス管8が接続され、このガス管8がマスフローコントローラ8aを介して図示省略のガス源に連通する。スパッタガスには、隔絶空間1a内にプラズマを形成する際に導入されるアルゴンガス等の希ガスだけでなく、酸素ガスや窒素ガスなどの反応ガスが含まれる。真空チャンバ1の側面にはまた、ターボ分子ポンプやロータリポンプなどで構成される排気手段Pに通じる排気管9が接続され、排気手段Pにより真空チャンバ1内を一定速度で真空引きすることで隔絶空間1aを真空引きできるようにしている。
【0024】
上記スパッタリング装置SMは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた公知の制御手段Cuを有し、後述する状態判別方法を実施するだけでなく、マスフローコントローラ8aの稼働、排気手段Pの稼働、高周波電源Eの稼働、シリンダCyの稼働等を統括制御するようにしている。以下、上記スパッタリング装置SMを用いたスパッタリング方法について、アルミナ膜を成膜する場合を例に説明する。
【0025】
シリンダCyにより隔絶板72を上動位置に移動し、図示省略の搬送ロボットを用いて、透孔Toを通して基板Wをステージ5上へ搬送し、静電チャック用の電極52a,52bに所定電圧を印加して、基板Wを静電吸着する。搬送ロボットを退避させた後、シリンダCyにより隔絶板72を下動位置に移動し、隔絶空間1a内にガス管8の導入口8bからスパッタガスとしてのアルゴンガスを所定流量で導入し、ターゲット2に高周波電源Eから所定の高周波電力(例えば、13.56MHz、1〜5kW)を投入する。これにより、隔絶空間1a内にプラズマが形成され、ターゲット2のスパッタ面2aがスパッタリングされて飛散したスパッタ粒子が基板Wに付着、堆積してアルミナ膜などの絶縁膜が成膜される。
【0026】
ところで、スパッタリングによる成膜中、ターゲット2からのスパッタ粒子は、基板W表面だけでなく隔絶板71,72,73にも付着し、これが汚染の原因となるため、隔絶板71,72,73は定期的に交換される。このとき、隔絶板71,72,73が上記隙間dが保持されるように組み付けられないと、交換後に再開される成膜時の隔絶空間1a内の圧力ひいてはプラズマ密度が変化し、膜厚や膜質の面内分布が変化してしまう。
【0027】
本実施形態では、隔絶ブロック6に、先端が隔絶空間1aを臨み厚さ方向に貫通する複数の貫通孔61を設け、これらの貫通孔61のいずれかに屈曲部分62を形成した。この屈曲部分62を形成した貫通孔61に連通する透孔1bを真空チャンバ1の底壁に開設し、この透孔1bに気密に真空計11のフランジ11bを取り付けた。この真空計11により、屈曲部分62を介して隔絶空間1a内の圧力を測定できる。ここで、成膜時にターゲット2から飛散するスパッタ粒子は直進性を有するため、スパッタ粒子が貫通孔61に入射しても屈曲部分62より先には進入できない。このため、真空計11の測定子11aにスパッタ粒子が付着して成膜されることはない。以下、上記スパッタリング装置SMの状態判別方法について、隔絶板71,72,73の交換後に実施する場合を例に説明する。
【0028】
洗浄済の隔絶板71,72,73を組み付けた後、真空ポンプPにより真空チャンバ1内を真空引きすることで隔絶空間1a内を真空引きする。隔絶空間1aが所定圧力(1×10−4Torr)に達すると、ガス管8から例えばアルゴンガスを200sccm導入する。このとき、隔絶空間1a内と真空チャンバ1内とは、隔絶板71,72,73の隙間dを介して通じるため、両者の間には上記隙間(コンダクタンス)dに応じた圧力差が生じる。つまり、上記隙間dに応じて、アルゴンガス流量に対する隔絶空間1a内の圧力が異なることとなる。隔絶板71,72,73の組み付け不良によって、隙間dが所定値(設計値)よりも小さくなった場合、隔絶空間1a内の圧力が高くなる一方で、隙間dが所定値よりも大きくなった場合、隔絶空間1a内の圧力が低くなる。このように隙間dが変化すると、成膜時の隔絶空間1a内の圧力ひいてはプラズマ密度が変化し、膜厚や膜質の面内分布よく成膜できなくなる。
【0029】
本実施形態では、アルゴンガスの導入開始から所定時間後に、真空計11により測定される隔絶空間1a内の圧力(以下「測定圧力」ともいう)を上記制御手段Cuが取得する。また、所定の(良好な)膜厚・膜質面内分布で成膜したときの隔絶空間1a内の圧力を基準圧力として予め求めておく。そして、取得した測定圧力と、予め求めた良好な膜厚・膜質面内分布で成膜できたときの圧力(基準圧力)とを比較する。測定圧力が基準圧力と同等(両者の差が所定範囲内)であれば、真空チャンバ1内の雰囲気、即ち、隔絶空間1a内の雰囲気が成膜に適した状態であると判別する(第1の判別工程)。この場合、公知のダミースパッタリングを行った後、上記の成膜に復帰する。一方、測定圧力と基準圧力との差が所定範囲を超えると、隔絶空間1a内の雰囲気が成膜に適さない状態であると判別する。この場合、ダミースパッタリングを行うことなく、隔絶板71,72,73の組み付けを確認する等のメンテナンスを行う。これによれば、隔絶板71,72,73の組み付け不良により膜厚や膜質の面内分布よく成膜できなくなるという異常が、ダミースパッタリング後の成膜時に発覚してメンテナンス完了までに長時間を要することを防止できる。従って、ダミースパッタリング前にメンテナンスを行うことができるため、メンテナンス時間を短縮することができて有利である。
【0030】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態では、3枚の隔絶板71,72,73を備える場合について説明したが、枚数はこれに限定されず、隔絶板相互の間に隙間dを存するように複数枚備えればよい。
【0031】
また、図1に示すように、真空チャンバ1側壁に透孔1cを設け、この透孔1cに通じる第2の真空計12を設け、真空チャンバ1内の隔絶空間1a外側の圧力を測定できるように構成してもよい。そして、アルゴンガス流量に対する真空チャンバ1内の隔絶空間1a外側の圧力をも測定し、この測定した圧力と隔絶空間1a内の圧力との圧力差からスパッタリング装置SMの状態を判別してもよい(第2の判別工程)。この場合、隔絶空間1a内の圧力が前回測定した圧力と同等(つまり、測定圧力と基準圧力とが同等)であるものの、真空チャンバ1内の隔絶空間1a外側の圧力が前回測定した圧力よりも高いと、圧力差が大きくなるため、例えば、スパッタリング装置SMの排気手段Pが劣化していると判別し、メンテナンスを適当な時期に行うことができて有利である。
【0032】
また、スパッタガスを導入中の単位時間当たりの隔絶空間1a内の圧力の変化量や、真空チャンバ1内の隔絶空間1aの外側の圧力の変化量を測定し、この測定した変化量からスパッタリング装置の状態を判別してもよい(第3、第4の判別工程)。ここで、隔絶板71,72,73が上記隙間dが保持されるように組み付けられないと、隔絶空間1a内と隔絶空間1a外部とのコンダクタンスが変化する。このため、これらの圧力変化量から隔絶板71,72,73の組み付け位置の異常等を確認することができる。
【0033】
上記実施形態では、隔絶空間1a内の圧力を屈曲部分62を通して真空計11により測定する場合を例に説明したが、隔絶ブロック6の貫通孔61の内壁にスパッタ粒子が付着して真空計11にスパッタ粒子が到達しないような場合には、貫通孔61に屈曲部分62を形成しなくてもよく、この場合、貫通孔61を通して隔絶空間1a内の圧力が測定される。また、上記実施形態では、隔絶ブロック6に複数の貫通孔61が設けられているが、貫通孔61を必ずしも複数設ける必要はなく、真空計11に連通する貫通孔61が1つ設けられていればよい。
【0034】
次に、以上の効果を確認するために、図1に示す高周波スパッタリング装置SMを用いて以下の実験を行った。本実験では、隔絶板71,72,73を適正な位置(このとき、隙間dが3mm)に組み付け、この状態を第1状態とする。この第1状態で、真空チャンバ1内を真空引きすることで隔絶空間1a内を1×10−4Torrまで真空引きした後、アルゴンガスを200sccm導入する。このアルゴンガス導入開始から所定時間(5sec)経過後の隔絶空間1a内の圧力(「基準圧力」に相当する)及び真空チャンバ1内の圧力を真空計11,12により夫々測定した結果、2.1×10−2Torr,1.4×10−2Torrであった(このときの圧力差は0.7×10−2Torr)。また、この第1状態で、ターゲット2に13.56MHzの高周波電源Eを3kW投入して、ステージ5で保持したシリコン基板Wの表面にアルミナ膜を成膜し、膜厚面内分布を測定した結果、1.46%であった。
【0035】
次に、隙間dが1.5mmと小さくなるように故意に隔絶板71,72,73の位置をずらし、この状態を第2状態とする。この第2状態で、上記第1状態のときと同様にアルゴンガスを200sccm導入し、導入開始から所定時間(5sec)経過後の隔絶空間1a内の圧力及び真空チャンバ1内の圧力を真空計11,12により夫々測定した結果、2.4×10−2Torr,1.4×10−2Torrであった(このときの圧力差は1×10−2Torr)。また、上記第1状態のときと同様にシリコン基板W表面にアルミナ膜を成膜し、膜厚面内分布を測定した結果、1.81%であった。さらに、第1状態と第2状態のそれぞれにおいて、アルゴンガス流量を50〜300sccmの間で変化させ、上記と同様に各圧力を夫々測定した結果、図2に示すような関係が得られた。
【0036】
以上より、第1状態と第2状態とで真空チャンバ1内の圧力は同等であるが、隔絶空間1a内の圧力は3mTorr程度異なることが確認された。また、隙間dが変化すると、隔絶空間1aの圧力が変化して膜厚面内分布が変化することが確認された。従って、真空計11で隔絶空間1aの圧力を測定することにより、真空チャンバ1内及び隔絶空間1a内の雰囲気が成膜に適した状態か否かを判別できることが判った。また、隔絶空間1aの圧力と、真空チャンバ1内の隔絶空間1a外側の圧力との差圧から判別できることも判った。
【符号の説明】
【0037】
SM…スパッタリング装置、W…基板、1…真空チャンバ、1a…隔絶空間、2…ターゲット、5…ステージ、6…隔絶ブロック(隔絶手段)、61…貫通孔、62…屈曲部分、71,72,73…隔絶板(隔絶手段)、11…真空計。
【要約】
真空チャンバ内の雰囲気が成膜に適した状態かを確実に判別できるスパッタリング装置及びその状態判別方法を提供する。
ターゲット2をスパッタリングしてこのターゲットに対向配置される基板Wに成膜するスパッタリング装置SMにて、基板への成膜に先立って真空チャンバ内の雰囲気が成膜に適した状態かを判別する本発明のスパッタリング装置の状態判別方法は、スパッタリング装置として、隔絶手段6,71〜73によってターゲットと基板とが臨む、真空チャンバ内と隔絶された隔絶空間を真空チャンバ内に設け、真空チャンバ内の真空引きに伴って隔絶空間が真空引きされるようにしたものを用い、真空チャンバ内を予め設定された圧力まで真空引きし、この状態でガスを導入し、このときの隔絶空間内の圧力を取得し、所定の膜厚・膜質面内分布で成膜したときに予め求めた前記隔絶空間内の圧力を基準圧力とし、この基準圧力と前記取得した隔絶空間内の圧力とを比較してスパッタリング装置の状態を判別する第1の判別工程を含む。
図1
図2