特許第6035087号(P6035087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーインスツル株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特許6035087ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法
<>
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000002
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000003
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000004
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000005
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000006
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000007
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000008
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000009
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000010
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000011
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000012
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000013
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000014
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000015
  • 特許6035087-ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6035087
(24)【登録日】2016年11月4日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ガスセンサ、ガス測定装置、及びガスセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20161121BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   G01N27/12 C
   G01N27/12 B
   G01N27/04 E
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-195998(P2012-195998)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-52237(P2014-52237A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年7月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(ロボット・新機械イノベーションプログラム)「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】近本 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 友一郎
(72)【発明者】
【氏名】梅津 光央
(72)【発明者】
【氏名】杉山 正和
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−008476(JP,A)
【文献】 特開2002−228616(JP,A)
【文献】 特開2010−038569(JP,A)
【文献】 特開2010−038840(JP,A)
【文献】 特開2005−003687(JP,A)
【文献】 特開2006−112819(JP,A)
【文献】 特表2004−515782(JP,A)
【文献】 特表2005−510711(JP,A)
【文献】 特開2012−037397(JP,A)
【文献】 嶋田 友一郎 他3名,カーボンナノチューブ結合性ペプチド分子を用いた機能性ナノ材料固定化技術の開発,第5回バイオ関連化学シンポジウム 講演予稿集,2011年 9月12日,p.25
【文献】 Hamid Ahmar 他4名,Electrocatalytic oxidation of oxalic acid on palladium nanoparticles encapsulated on polyamidoamine dendrimer-grafted multi-walled carbon nanotubes hybrid material,Sensors and Actuators B: Chemical,ELSEVIER,2012年 5月19日,Vol.171-172,p.611-618
【文献】 鈴木 瑞明、杉山 正和,多点型電極を用いたカーボンナノチューブの誘電泳動,電気学会研究会資料,2010年 6月17日,Vol.MSS-10,No.1-6・8-16・18-30,p.123-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00−27/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に間隔をあけて向かい合うように配設された一対の金属電極と、
前記一対の金属電極間に架橋されるように形成され、半導体性の複数のカーボンナノチューブ同士が集合したナノチューブ束と、を備え、
前記カーボンナノチューブの表面には、ナノ粒子が生体分子を介して修飾され、
前記生体分子は、前記カーボンナノチューブ及び前記ナノ粒子に対してそれぞれ特異的に結合しており、
前記ナノ粒子は、パラジウム又は白金であり、
前記生体分子は、ペプチド、DNA、糖類、及び脂質分子の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサにおいて、
前記支持基板は、
基板本体と、
前記基板本体の主面から上方に向けて突出すると共に、間隔をあけて向かい合うように配設された一対の土台部と、を備え、
前記一対の金属電極は、前記一対の土台部上にそれぞれ形成され、
前記ナノチューブ束は、前記基板本体に対して非接触状態で、前記一対の金属電極間に形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスセンサにおいて、
前記金属電極は、アルミニウム、金、チタン、又はニッケルのいずれかの材質から形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、
前記支持基板と前記金属電極との間には、絶縁層が形成されていることを特徴とするガスセンサ。
【請求項5】
請求項1に記載のガスセンサと、
前記一対の金属電極間に測定電圧を印加する電源部と、
前記ナノチューブ束の電気的特性の変化に基づいて、ガスの種類又は特性の少なくとも一方を測定する測定部と、を備えていることを特徴とするガス測定装置。
【請求項6】
支持基板と、該支持基板上に間隔をあけて向かい合うように配設された一対の金属電極と、該一対の金属電極間に架橋されるように形成され、半導体性の複数のカーボンナノチューブ同士が集合したナノチューブ束と、を備えるガスセンサを製造する方法であって、
前記カーボンナノチューブが分散された溶液中に、前記一対の金属電極が配設された前記支持基板を浸漬させた後、一対の金属電極間に交流電圧を印加してカーボンナノチューブを誘電泳動させると共に、該カーボンナノチューブを一対の金属電極間に架橋させるように結合させることで前記ナノチューブ束を形成するナノチューブ束形成工程を備え、
前記ナノチューブ束形成工程の際、
前記カーボンナノチューブの表面に、該カーボンナノチューブと、ナノ粒子と、に対してそれぞれ特異的に結合する生体分子を介して、前記ナノ粒子を修飾させ、
前記ナノ粒子は、パラジウム又は白金であり、
前記生体分子は、ペプチド、DNA、糖類、及び脂質分子の中から選択される少なくとも1種であることを特徴とするガスセンサの製造方法。
【請求項7】
請求項に記載のガスセンサの製造方法において、
前記ナノチューブ束形成工程は、
前記カーボンナノチューブが分散された溶液中に前記ナノ粒子及び前記生体分子を混入させ、カーボンナノチューブの表面に生体分子を介してナノ粒子を予め修飾させておく予備工程と、
前記交流電圧の印加により、前記生体分子を介して前記ナノ粒子が修飾された前記カーボンナノチューブを誘電泳動させて前記ナノチューブ束を形成する本工程と、を備えていることを特徴とするガスセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを利用してガスを検出するガスセンサ、該ガスセンサを具備するガス測定装置、及びガスセンサの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境を取り巻く問題意識から例えば工場や車等から排気されるガスの規制を強化する動きがある。実際上、環境にとって有害なガスは許容される濃度が存在しており、ppb〜ppmオーダー以下といった基準が規定されている。従って、これらのガスの極微小量の検知を可能とするガスセンサが必要とされている。従来、ガスを検知するガスセンサとしては、ガスの吸着を電気伝導度の変化として検知する、SnO2やZnO等の酸化物半導体センサが用いられているが、検出感度や応答速度の点で不十分であった。
【0003】
そこで、近年では新しいガスセンサの材料として、カーボンナノチューブ(以下、単にCNTと称する)に注目が集まっている。
特に、このCNTのうち単層CNT(以下、単にSW−CNT(シングルウォールカーボンナノチューブ)と称する)は、その直径が数オングストローム〜数nmの中空構造とされ、単位体積あたりの表面積が非常に大きいことから、CNT表面へのガス吸着に対して極めて高感度な検出が可能とされている。
また、SW−CNTは、そのカイラリティーによって金属性又は半導体の電気特性を持つことが知られており、半導体性のSW−CNTを用いた場合にはガス吸着反応をSW−CNTの電気伝導度の変化として検出することが可能とされている。
【0004】
上記した点に着目し、SW−CNTをガスセンサとして初めて利用した技術として、下記非特許文献1が知られており、電極間に形成されたSW−CNT(P型半導体性)の電気的性質を利用して、2〜200ppmのNO2(二酸化窒素)、及び0.1〜1%のNH3(アンモニア)等を室温環境下で測定していることが開示されている。
また、SW−CNTを利用するガスセンサを具体化したものとして、下記特許文献1に示されるものが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jing Kongm、他6名、「Nanotube Molecular Wires as Chemical Sensors」、SIGMA Life Science、VOL287、28 JANUARY 2000、P622−P625
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−329802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に示されるガスセンサによれば、一対の電極間に半導体性のCNTが架橋されるように形成されており、CNTへのガスの吸着に伴って変化する、電極間の抵抗変化に基づいてガス濃度を検出している。
しかしながら、このガスセンサでは、CNTの材料(P型、N型)を使い分けることで、検出するガスの種類を酸化性ガスであるか還元性のガスであるかは検出することができるものの、それ以上の種類分けを行いながら検出することは困難であった。そのため、例えば混合ガスの中から特定のガスだけを検出するといったことはできなかった。
【0008】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、特定のガスを選別的に測定することができるガスセンサ、これを具備するガス測定装置、及びガスセンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
(1)本発明に係るガスセンサは、支持基板と、前記支持基板上に間隔をあけて向かい合うように配設された一対の金属電極と、前記一対の金属電極間に架橋されるように形成され、半導体性の複数のカーボンナノチューブ同士が集合したナノチューブ束と、を備え、前記カーボンナノチューブの表面には、金属材又は半導体からなるナノ粒子が生体分子を介して修飾され、前記生体分子は、前記カーボンナノチューブ及び前記ナノ粒子に対してそれぞれ特異的に結合していることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るガスセンサによれば、検出対象となるガスがナノチューブ束に吸着すると、該吸着に応じてナノチューブ束の電気的特性が変化するので、この電気的特性の変化をモニタすることでガス検知や、ガスの濃度等の特性を測定することができる。
特にナノチューブ束を構成する各カーボンナノチューブの表面には、生体分子を介してナノ粒子が修飾されている。この際、生体分子は二重特異性を有し、カーボンナノチューブ及びナノ粒子の両者に対してそれぞれ特異的に結合しているので、ナノ粒子を確実に保持して繋ぎ止めている。しかも、生体分子は、カーボンナノチューブの表面の一部に片寄って結合されるのではなく、表面全体にムラなく均一に結合され易い。従って、これらのことから、カーボンナノチューブの表面全体にはナノ粒子が確実な結合力で均一に修飾された状態となっている。
【0011】
そのため、ガスの吸着時、ガスは各ナノ粒子に対して選択的に吸着或いは分解される。従って、修飾するナノ粒子を適宜選択することで、ナノ粒子に吸着し易いガスを選択することが可能である。これにより、特定のガスを狙って測定することが可能であり、ガスを選別しながら測定することができる。
【0012】
(2)上記本発明に係るガスセンサにおいて、前記支持基板は、基板本体と、前記基板本体の主面から上方に向けて突出すると共に、間隔をあけて向かい合うように配設された一対の土台部と、を備え、前記一対の金属電極は、前記一対の土台部上にそれぞれ形成され、前記ナノチューブ束は、前記基板本体に対して非接触状態で、前記一対の金属電極間に形成されていることが好ましい。
【0013】
この場合には、ナノチューブ束を基板本体に対して非接触状態とすることができ、中空に浮かせた状態で一対の金属電極間に形成することができる。そのため、ナノチューブ束の表面積を増大させることができ、ガスをより吸着させ易い。従って、より高感度で高速に応答するガスセンサにし易い。
【0014】
(3)上記本発明に係るガスセンサにおいて、前記ナノ粒子は、パラジウム又は白金であることが好ましい。
【0015】
この場合には、ナノ粒子として、水素系のガスが吸着し易いパラジウム(Pd)又は、炭化水素系のガスが吸着し易い白金(Pt)を用いるので、例えば混合ガスの中からこれら水素系のガス又は炭化水素系のガスだけを選別しながら測定することができる。
【0016】
(4)上記本発明に係るガスセンサにおいて、前記金属電極は、アルミニウム、金、チタン、又はニッケルのいずれかの材質から形成されていることが好ましい。
【0017】
この場合には、上記したいずれかの材質で金属電極を形成することで、ガスが金属電極に吸着したとしても、該吸着によって金属電極自体の抵抗変化が生じてしまうことを抑制することができる。従って、ナノチューブ束の電気的特性の変化をより正確にモニタすることができ、測定精度を高めることができる。
【0018】
(5)上記本発明に係るガスセンサにおいて、前記生体分子は、ペプチド、DNA、糖類、及び脂質分子の中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
この場合には、生体分子としてペプチド、DNA、糖類、及び脂質分子の中から選択される少なくとも1種を用いるので、例えばナノ粒子との親和性等に応じて最適なものを生体分子として幅広く使用できる。
【0020】
(6)上記本発明に係るガスセンサにおいて、前記支持基板と前記金属電極との間には、絶縁層が形成されていることが好ましい。
【0021】
この場合には、支持基板と金属電極との間に絶縁層が形成されているので、導電性を有する支持基板であっても良く、支持基板としての材料選択性を高めて設計の自由度を向上できる。
【0022】
(7)本発明に係るガス測定装置は、上記本発明に係るガスセンサと、前記一対の金属電極間に測定電圧を印加する電源部と、前記ナノチューブ束の電気的特性の変化に基づいて、ガスの種類又は特性の少なくとも一方を測定する測定部と、を備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明に係るガス測定装置によれば、上述したガスセンサを具備しているので、狙った特定のガスの測定や、そのガスの濃度等の特性を正確に測定することができ、各種の用途に適用することが可能である。
【0024】
(8)本発明に係るガスセンサの製造方法は、支持基板と、該支持基板上に間隔をあけて向かい合うように配設された一対の金属電極と、該一対の金属電極間に架橋されるように形成され、半導体性の複数のカーボンナノチューブ同士が集合したナノチューブ束と、を備えるガスセンサを製造する方法であって、前記カーボンナノチューブが分散された溶液中に、前記一対の金属電極が配設された前記支持基板を浸漬させた後、一対の金属電極間に交流電圧を印加してカーボンナノチューブを誘電泳動させると共に、該カーボンナノチューブを一対の金属電極間に架橋させるように結合させることで前記ナノチューブ束を形成するナノチューブ束形成工程を備え、前記ナノチューブ束形成工程の際、前記カーボンナノチューブの表面に、該カーボンナノチューブと、金属材又は半導体からなるナノ粒子と、に対してそれぞれ特異的に結合する生体分子を介して、ナノ粒子を修飾させることを特徴とする。
【0025】
本発明に係るガスセンサの製造方法によれば、カーボンナノチューブが分散された溶液中において一対の金属電極間に交流電圧を印加することで、溶液中に分散されているカーボンナノチューブを一対の金属電極に向けて誘電泳動させることができる。この際、カーボンナノチューブの両端部が分極することにより、誘電泳動中、一対の金属電極を結ぶ電界方向に沿ってカーボンナノチューブを配向させることができる。
また、互いに向かい合っている一対の金属電極の先端部に電界が局所的に集中し易いので、上記配向姿勢で誘電泳動したカーボンナノチューブは、一対の金属電極の先端部に対して片端部がそれぞれ付着して結合する。そして、このようにカーボンナノチューブが次々と結合することでナノチューブ束が形成されると共に、該ナノチューブ束を一対の金属電極間に架橋するように結合させることができる。
【0026】
また、上記ナノチューブ形成工程の際、カーボンナノチューブの表面に、該カーボンナノチューブ及びナノ粒子に対してそれぞれ特異的に結合する(二重特異性を有する)生体分子を介してナノ粒子を修飾させる。これにより、生体分子を介してナノ粒子が表面に均一に修飾されたカーボンナノチューブからなるナノチューブ束を具備するガスセンサを得ることができる。このガスセンサによれば、上述した作用効果と同様の作用効果を奏効することができる。即ち、特定のガスを選別しながら測定することができるガスセンサを得ることができる。
【0027】
特に、誘電泳動を利用してカーボンナノチューブの向きを整えながら、一対の金属電極間に架橋するように結合させることができるので、容易且つ効率良くナノチューブ束を確実に形成することができ、生産性の向上化及び低コスト化に繋げることができる。また、常温程度の温度環境下で製造を行えるので量産性にも優れている。
【0028】
(9)上記本発明に係るガスセンサの製造方法において、前記ナノチューブ束形成工程は、前記カーボンナノチューブが分散された溶液中に前記ナノ粒子及び前記生体分子を混入させ、カーボンナノチューブの表面に生体分子を介してナノ粒子を予め修飾させておく予備工程と、前記交流電圧の印加により、前記生体分子を介して前記ナノ粒子が修飾された前記カーボンナノチューブを誘電泳動させて前記ナノチューブ束を形成する本工程と、を備えていることが好ましい。
【0029】
この場合には、カーボンナノチューブが分散された溶液中にナノ粒子及び生体分子を混入させるので、予めカーボンナノチューブの表面全体に生体分子を介してナノ粒子を均一に結合させておくことができる。そのため、その後に行う誘電泳動によって、ナノ粒子が確実に修飾された複数のカーボンナノチューブ同士を集合させることができ、より高品質なナノチューブ束を得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、特定のガスを選別的に測定することができ、ガス検知が必要とされる各種用途に柔軟に対応することができる利便性の高いガスセンサとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る第1実施形態を示す図であって、ガス測定装置の構成図である。
図2図1に示すガスセンサの斜視図である。
図3図2に示すナノチューブ束を構成するCNTの拡大図である。
図4】ガス濃度の違いによって、図2に示すガスセンサにおけるナノチューブ束のセンサ応答がどのように変化するかを示した図である。
図5図2に示すガスセンサを製造する際の一工程図であって、SOI基板上に金属膜を形成した状態を示す図である。
図6図5に示す状態から、金属膜上に一対の金属電極に対応したフォトレジスト膜を形成した状態を示す図である。
図7図6に示す状態から、フォトレジスト膜をマスクとして、SOI基板をエッチングした後、フォトレジスト膜を除去した状態を示す図である。
図8図7に示すSOI基板をCNTが分散された溶液中に浸漬させた状態を示す図である。
図9図8に示す状態から、一対の金属電極間に交流電圧を印加して、生体分子を介してナノ粒子が修飾されたCNTを誘電泳動させている状態を示す図である。
図10】ガスセンサの製造方法の変形例を示す図であって、ナノ粒子が修飾されていないCNTを誘電泳動させている状態を示す図である。
図11】本発明に係る第2実施形態を示す図であって、ガス測定装置の構成図である。
図12図11に示すガスセンサの斜視図である。
図13】本発明に係る第3実施形態を示す図であって、厚みが均一な支持基板上に形成された一対の金属電極間にナノチューブ束が形成されたガスセンサの斜視図である。
図14図13に示すガスセンサを製造する際の一工程図であって、SOI基板上に金属膜を形成し、この金属膜上に一対の金属電極に対応したフォトレジスト膜を形成した状態を示す図である。
図15図14に示す状態から、フォトレジスト膜をマスクとして金属膜をエッチング加工した後、フォトレジスト膜を除去した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る第1実施形態について図面を参照して説明する。
(ガス測定装置の構成)
図1に示すように、本実施形態のガス測定装置1は、ガスセンサ2と、該ガスセンサ2の後述する一対の金属電極15間に測定電圧を印加する電源部3と、電圧印加時におけるガスセンサ2の後述するナノチューブ束20の電気的特性の変化に基づいて、検出対象であるガスの種類又は特性の少なくとも一方を測定する測定部4と、CPU等から構成され、電源部3及び測定部4を制御する制御部5と、を備えている。
【0033】
測定部4は、前記測定電圧として直流電圧又は交流電圧を印加する電源であり、電圧印加時におけるナノチューブ束20のコンダクタンス変化(電気的特性変化)を測定することで、ガス濃度等を測定することが可能とされている。
なお、コンダクタンス変化(△G)を初期コンダクタンス(G)で規格化したものをセンサ応答(△G/G)とする。
【0034】
(ガスセンサの構成)
ガスセンサ2について説明する。
図2に示すように、ガスセンサ2は、支持基板10と、該支持基板10上に間隔をあけて向かい合うように配置された一対の金属電極15と、一対の金属電極15間に架橋される(架け渡される)ように形成されたナノチューブ束20と、を備えている。
【0035】
上記支持基板10は、平面視で第1方向L1に長く、該第1方向L1に直交する第2方向L2に短い平面視長方形状とされ、平坦な基板本体11と、該基板本体11の主面11aから上方に向けて突出すると共に、第1方向L1に間隔をあけて向かい合うように配設された一対の土台部12と、で一体的に形成されている。
一対の土台部12は、支持基板10における第2方向L2の中間に位置する部分に配置され、一方の端部(基端部)は基板本体11の縁部に一致している。また、一対の土台部12における他方の端部(先端部)は、それぞれ間隔をあけて向かい合う対向部12aとされている。なお、この対向部12aは、先鋭化するように平面視三角形状に形成されている。
【0036】
なお、本実施形態の支持基板10は、シリコン支持層13a上に酸化層(シリコン酸化膜)13bを形成し、さらに該酸化層13b上にシリコン活性層13cを熱的に貼り合わせたSOI基板13により形成されている場合を例にする。そして、基板本体11は主にシリコン支持層13aで形成され、一対の土台部12はシリコン支持層13a、酸化層13b及びシリコン活性層13cで形成されている。但し、支持基板10はSOI基板13で形成される場合に限定されるものではない。
【0037】
上記金属電極15は、一対の土台部12上に全面に亘って形成された電極膜であり、例えば蒸着法やスパッタリング法等により形成されている。そのため、金属電極15のうち、互いに向かい合う対向部15aは、先鋭化するように平面視三角形状に形成されている。また、金属電極15としては、例えばアルミニウム、金、チタン又はニッケルのいずれかの材質から形成されることが好ましい。
なお、一対の金属電極15が形成されている土台部12は酸化層13bを有しているので、該土台部12及び基板本体11を通じて、一対の金属電極15が互いに導通することはない。
【0038】
上記ナノチューブ束20は、半導体性の複数のカーボンナノチューブ21同士が寄り集ることで束状(バンドル状)に形成されたカーボンナノチューブ21の集合体であり、基板本体11に対して非接触状態で一対の金属電極15における対向部15a間に形成されている。
そのため、ナノチューブ束20は、第1方向L1に沿って平行に配設されると共に、中空に浮いた状態とされている。
【0039】
なお、上記カーボンナノチューブ21としては、カーボンナノホーン、カーボンナノオニオン、カーボンナノファイバ等で長尺の構成を有するものも含む。また、その構造としては、単層、二層、多層でも構わないが、本実施形態では単層カーボンナノチューブを用いた場合を例に挙げ、以下単にCNT21と称する。
【0040】
ところで、ナノチューブ束20を構成する各CNT21の表面には、図3に示すように、ナノ粒子25が生体分子26を介して修飾されている。
上記ナノ粒子25は、金属材又は半導体からなる極微小サイズの粒子である。なお、ナノ粒子25というが、ナノサイズに限定されるものではなく、マイクロサイズでも構わないし、ナノ以下のサイズも含まれるものである。
なお、ナノ粒子25としては、例えばパラジウム(Pd)や白金(Pt)等の貴金属の粒子や、セレン化カドミウム(CdSe)、酸化亜鉛(ZnO)、シリコン(Si)等の半導体の粒子を用いることが好ましい。
【0041】
上記生体分子26は、CNT21及びナノ粒子25に対してそれぞれ特異的に結合可能な二重特異性を有するものであり、その結合力(化学的結合力)によりナノ粒子25をCNT21の表面に確実に繋ぎ止めている。特に、この生体分子26は、CNT21の表面全体にムラなく均一に結合している。そのため、各CNT21の表面全体には、ナノ粒子25が確実な結合力で均一に修飾(コート)された状態となっている。
なお、生体分子26としては、例えばペプチド、DNA、糖類及び脂質分子の中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、図3では、生体分子26が連続して一列に連なりながらCNT21の表面に巻き付くように結合している場合を図示しているが、この場合に限定されるものではない。
【0042】
(ガス測定装置の作用)
次に、上述したように構成されたガス測定装置1を利用して、ガスを測定する場合について説明する。
まず、図1に示すガスセンサ2を測定地点に設置し、電源部3により一対の金属電極15間に測定電圧を印加する。ここで、上記測定地点に検出対象であるガスが存在すると、これらガスがナノチューブ束20に吸着する。すると、この吸着によりナノチューブ束20のコンダクタンスが変化(電気的特性が変化)する。よって、測定部4がこの変化をモニタすることで、ガス検出を行える。
【0043】
特に、ナノチューブ束20を構成する各CNT21の表面には、表面全体に亘ってナノ粒子25が生体分子26を介して確実な結合力で均一に修飾された状態となっている。そのため、ガスの吸着時、ガスは主にナノ粒子25に対して選択的に吸着或いは分解される。従って、修飾するナノ粒子25を適宜選択することで、ナノ粒子25に吸着し易いガスを選択することが可能である。これにより、特定のガスを狙って測定することができ、選別しながら測定することができる。
【0044】
従って、本実施形態のガスセンサ2を具備するガス測定装置1によれば、例えば混合ガスの中から特定の種類のガスだけを検出することが可能である。また、ナノチューブ束20は、基板本体11に対して非接触状態とされ、中空に浮いた状態で一対の金属電極15間に形成されているので、ナノチューブ束20の表面積を増大させることができ、ガスをより吸着させ易い。従って、より高感度で高速に応答するガスセンサ2とすることができる。
【0045】
また、ガス検出だけでなく、ガスの濃度等の特性についても測定することができる。
例えば、CNT21がP型半導体性とされ、酸化性のガスであるNOガスを測定する場合を例に挙げて説明する。
ある特定の濃度(×1倍)のNOガスがガスセンサ2の周囲に存在する場合、これらNOガスはナノ粒子25によって引き寄せられてCNT21の表面に吸着する。すると、CNT21中の電子がNOに移動し、CNT21のホール密度が増加することで該CNT21の電気抵抗が変化してコンダクタンスが上昇する。従って、図4に示す期間T1のようにセンサ応答(△G/G)が上昇する。
【0046】
なお、NOガスが吸着した後、該NOガスが脱離する温度までガスセンサ2を加熱、又は紫外線を照射することによって、NOガスをナノチューブ束20から脱離させることができ、図4に示す期間T2のようにセンサ応答(△G/G)を低下させ、且つ元の状態に回復させることができる。
【0047】
次に、先程のガスの2倍の濃度(×2倍)のNOガスがガスセンサ2の周囲に存在する場合には、CNT21のホール密度がさらに増加するので、図4に示す期間T3のようにセンサ応答(△G/G)が(×1倍)の場合よりも上昇する。
更に、先程のガスの4倍の濃度(×4倍)のNOガスがガスセンサ2の周囲に存在する場合には、CNT21のホール密度がさらに増加するので、図4に示す期間T4のようにセンサ応答(△G/G)が(×2倍)の場合よりも上昇する。
【0048】
このように、ガス濃度が上昇すると、その濃度に比例してセンサ応答(△G/G)が上昇する。従って、測定部4は、ナノチューブ束20のセンサ応答(△G/G)の大きさに基づいて、ガス濃度を正確に測定することができる。
【0049】
なお、NOガスは一例であり、この場合に限定されるものではない。
例えば、還元性のガスであるNHガスを測定することも可能である。この場合には、上述した場合とは逆にNHガスが吸着すると、NHからCNT21に電子が移動し、CNT21のホール密度が低下することで該CNT21の電気抵抗が変化してコンダクタンスが上昇する。従って、ガス濃度が上昇すると、やはりそれに比例してセンサ応答(△G/G)が上昇する。よって、同様にガス濃度を測定することが可能である。
なお、その他のガスであっても、ガス濃度を測定することが可能である。
【0050】
上述したように、本実施形態のガスセンサ2によれば、狙った特定のガスの測定や、そのガスの濃度等の特性を正確に測定することができ、ガス検知が必要とされる各種用途に柔軟に対応することができる利便性の高いガスセンサとすることができる。
また、このガスセンサ2を具備するガス測定装置1によれば、各種の用途に適用することが可能である。例えば、NOxやSOx等の大気汚染ガスや、半導体プロセスでの有毒ガス(SF、NH)や、揮発性有機物(VOC)ガスの測定等、広範囲な応用が期待できる。
【0051】
(ガスセンサの製造方法)
次に、上記したガスセンサ2の製造方法について、以下に説明する。
はじめに、SOI基板13から基板本体11及び一対の土台部12を有する支持基板10を形成すると共に、一対の金属電極15を形成する形成工程を行う。
【0052】
詳細には、まず図5に示すように、SOI基板13のシリコン活性層13c上に蒸着又はスパッタリング等によって、金属膜30を全面に亘って形成する。次いで、図6に示すように、この金属膜30上に、一対の金属電極15に対応するようにフォトレジスト膜31をパターニングする。
【0053】
次いで、一般的なエッチング加工技術を利用した半導体プロセスやMEMSプロセス等により、フォトレジスト膜31をマスクとして金属膜30を例えばウェットエッチングした後、SOI基板13を上記シリコン支持層13a側からドライエッチングによって掘り下げ加工する。これにより、図7に示すように、SOI基板13を段差構造にして、基板本体11及び一対の土台部12からなる支持基板10を形成することができると同時に、一対の土台部12上に金属電極15を形成することができる。
なお、図7ではマスクとしていたフォトレジスト膜31を除去した状態を示している。
【0054】
次いで、CNT21が分散された溶液中において一対の金属電極15間に交流電圧を印加し、誘電泳動によりナノチューブ束20を形成すると同時に、CNT21の表面に生体分子26を介してナノ粒子25を修飾させるナノチューブ束形成工程を行う。
【0055】
詳細には、まず水系溶媒又は有機溶媒(アルコール類等)に予めCNT21が混合され、該CNT21が分散された溶液W(図8参照)が貯留された図示しない液槽を用意する。このとき、溶液Wに生体分子26及びナノ粒子25を混入しておく。また、金属性とは電気的性質が分離、精製された半導体性のCNT21を用い、この半導体性のCNT21が分散された溶液Wとしておく。
【0056】
すると、生体分子26は、CNT21及びナノ粒子25に対してそれぞれ二重特異性を有しているので、CNT21の表面全体に生体分子26を介してナノ粒子25を均一に結合させておくことができる。
これにより、溶液W中には、生体分子26を介してナノ粒子25が修飾(化学的結合)された複数のCNT21が分散された状態となる(予備工程)。
【0057】
なお、CNT21を単に溶液に混入させた場合には、CNT21同士がくっ付き合い易く(絡まり易く)なることが一般的に知られており、これにより溶液中に均一に分散されない恐れがある。その対策として、溶液に分散剤や界面活性剤等を入れておく等の処置を行う場合が多い。
これに対して本実施形態の場合には、生体分子26がCNT21に対して速やかに且つムラなく結合するので、CNT21同士のくっ付き合いを抑制することができ、上記界面活性剤等と同様の働きをさせることができる。従って、界面活性剤等を入れる手間や、その管理に係る手間を省略することができる。
【0058】
次いで、図8に示すように、一対の金属電極15が形成された支持基板10を溶液W中に浸漬させた後、一対の金属電極15に接続された交流電源32により、一対の金属電極15間に交流電圧を印加する。これにより、図9に示すように生体分子26を介してナノ粒子25が修飾されたCNT21を、一対の金属電極15に向けて誘電泳動により移動させることができる。
なお、図9では生体分子26及びナノ粒子25の図示を簡略化している。
【0059】
この際、CNT21の両端部が分極することにより、誘電泳動中、一対の金属電極15を結ぶ電界方向(矢印F方向)に沿ってCNT21を配向させることができる。また、互いに向かい合っている一対の金属電極15の対向部15aに電界が局所的に集中し易いので、上記配向姿勢で誘電泳動したCNT21は一対の金属電極15の対向部15aに対して片端部がそれぞれ付着して結合する。
【0060】
そして、このようにしてCNT21が次々と結合することで、ナノ粒子25が確実に修飾された複数のCNT21同士が集合し合ったナノチューブ束20が形成されると共に、該ナノチューブ束20を一対の金属電極15間に架橋するように結合させることができる(本工程)。この時点で、ナノチューブ束形成工程が終了する。
その結果、図2に示すガスセンサ2を得ることができる。
【0061】
上記した本実施形態の製造方法によれば、誘電泳動を利用してCNT21の向きを整えながら、一対の金属電極15間に架橋するように結合させることができるので、容易且つ効率良くナノチューブ束20を確実に形成することができ、生産性の向上化及び低コスト化に繋げることができる。また、常温程度の温度環境下で製造を行えるので量産性にも優れている。
【0062】
なお、一対の金属電極15間にナノチューブ束20を形成する方法として、例えばFe、Ni系の金属触媒を用いてメタン等の原料ガスを流しながら加熱する熱化学気相成長法(CVD)が考えられるが、この場合には成長条件の制御が難しい点や、コスト及び作製スループットの点で問題がある。また、熱CVD法によって得られたナノチューブ束の中には、金属触媒の粒子や炭素系不純物が多く含まれてしまうため、ガス検出能力の劣化が考えられる。更に、熱CVD法では、半導体性や金属性といったCNTの電気的性質を制御することが困難であるため、ガスセンサとして利用することができる、半導体性のナノチューブ束を効率良く形成することが難しい。
【0063】
これに対して、本実施形態では誘電泳動を利用してナノチューブ束20を形成するので、上記した熱CVD法による各問題が生じるおそれがない。
即ち、予め半導体性のCNT21が分散された溶液Wを用いるので、ガスセンサ2としての検出能力の劣化に繋がる不純物無しに効率良く半導体性のCNT21が集合したナノチューブ束20を形成することができる。また、このナノチューブ束20の形状や密度等については、一対の金属電極15の形状や、交流電圧の振幅、周波数、印加時間等によって精密に制御することが可能である。更に、ナノチューブ束20を形成するために必要な装置は、主として交流電源32及びCNT21が分散された溶液Wだけで良く、誘電泳動に費やす時間も実質数分程度と短時間で済む。
【0064】
従って、本実施形態の製造方法によれば、簡易なプロセスでCNT21を一対の金属電極15間に架橋させてナノチューブ束20を形成することができ、酸化物半導体センサではなし得ない極微量検知、高速応答、室温動作が可能なガスセンサ2を実現できる。加えて、各CNT21の表面に、生体分子26を介してナノ粒子25を均一に修飾しているので、特定のガスを選別的に検出するといったことが可能である。
【0065】
なお、上記第1実施形態では、CNT21を誘電泳動させる前の段階で、CNT21の表面に生体分子26を介してナノ粒子25を修飾させたが、この場合に限定されるものではない。
例えば、図10に示すように、CNT21のみが分散された溶液W中において、一対の金属電極15間に交流電圧を印加してCNT21を誘電泳動させ、ナノチューブ束20を形成する。
次いで、生体分子26及びナノ粒子25が含有された図示しない含有液を用意し、一対の金属電極15間にナノチューブ束20が形成された支持基板10を、この含有液に漬浸する。なお、含有液中では、生体分子26にナノ粒子25が特異的に結合した状態とされる。
【0066】
そして、上記漬浸を行うことで、生体分子26はナノチューブ束20を構成する各CNT21の表面に次々と特異的に結合する。これにより、CNT21の表面に生体分子26を介してナノ粒子25を修飾することができる。最後に、超純水により上記含有液を洗浄すると共に、Nガス等により乾燥させることで、図2に示すガスセンサ2を得ることができる。
このような製造方法であっても、ガスセンサ2を製造することが可能であり、同様の作用効果を奏効することができる。
【0067】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0068】
(ガス測定装置、ガスセンサの構成)
図11に示すように、本実施形態のガス測定装置45は、マルチセンシングタイプのガスセンサ40を具備している。
このガスセンサ40は、図12に示すように、共通の基板本体11に、一対の土台部12及び一対の金属電極15を複数組形成し、各一対の金属電極15間にナノチューブ束20が架橋されるように形成されている。
【0069】
この場合には、ナノチューブ束20を複数備えているので、例えばガス濃度等を測定する場合、1つのナノチューブ束20による測定結果よりも複数のナノチューブ束20による測定結果に基づいてガス濃度を測定できるので、測定精度をより高めることができる。
なお、図示の例では、ナノチューブ束20を3つ備えている場合を例にしたが、2つでも構わないし、4つ以上備えていても構わない。
【0070】
<第3実施形態>
次に、本発明に係る第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第3実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
【0071】
(ガスセンサの構成)
図13に示すように、本実施形態のガスセンサ50は、厚みが均一な支持基板51の主面51a上に絶縁層52が形成され、さらにこの絶縁層52上に一対の金属電極15が形成されて、これら一対の金属電極15の対向部15a間に架橋されるようにナノチューブ束20が形成されている。そのため、ナノチューブ束20は、中空に浮いた状態で形成されているのではなく、一部が絶縁層52に接した状態で一対の金属電極15における対向部15a間に架橋されるように形成されている。
なお、支持基板51としては、上記したSOI基板13でも構わないしシリコンウエハ等でも構わない。また、絶縁層52としては、ガラス膜、セラミック膜や酸化膜等でも良い。
【0072】
このように構成されたガスセンサ50であっても、同様の作用効果を奏効することができる。但し、第1実施形態によれば、ナノチューブ束20を中空に浮かせた状態にして表面積を増大できるので、より好ましい。
【0073】
(ガスセンサの製造方法)
このように構成されたガスセンサ50を製造する場合には、図14に示すように、支持基板51の主面51a上に蒸着又はスパッタリング等によって絶縁層52を形成すると共に、この絶縁層52上に同様の手法により金属膜30を全面に亘って形成した後、この金属膜30上に、一対の金属電極15に対応するようにフォトレジスト膜31をパターニングする。
そして、図15に示すように、フォトレジスト膜31をマスクとして金属膜30を例えばウェットエッチング等にエッチング加工して金属電極15を形成する。なお、図15ではマスクとしていたフォトレジスト膜31を除去した状態を示している。
【0074】
その後、第1実施形態と同様に、ナノチューブ束形成工程を行うことで、図13に示すガスセンサ50を製造することができる。
特に、この第3実施形態においては、支持基板51を掘り下げ加工する必要がないので、より効率良くガスセンサ50を製造することができる。また、支持基板51と金属電極15との間に絶縁層52が形成されているので、導電性を有する支持基板51であっても良く、支持基板51としての材料選択性を高めて設計の自由度を向上することができる。
なお、支持基板51としてガラス基板等の絶縁性基板を用いた場合には、絶縁層52を形成する必要はない。
【0075】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0076】
例えば、上記各実施形態において、ナノ粒子25は金属材又は半導体であれば良く、測定したいガスの種類等に応じて適宜選択すれば良い。特に、ナノ粒子25として、第1実施形態で挙げたパラジウム(Pd)を選択した場合には、水素系のガスを吸着させ易くなるので、例えば混合ガスの中から水素系のガスを選別しながら測定することが可能である。また、ナノ粒子25として白金(Pt)を選択した場合には、炭化水素系のガスを吸着させ易くなるので、この炭化水素系のガスを選別しながら測定することが可能である。
なお、ナノ粒子25としては、例えばCdSe等も挙げられる。
【0077】
また、上記各実施形態において、生体分子26としては、第1実施形態で挙げたように、ペプチド、DNA、糖類及び脂質分子の中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このとき、例えばペプチドだけを1種類だけ選択しても良いし、ペプチド及びDNAの2種類を選択しても良い。よって、ナノ粒子25との親和性等に応じて最適なものを生体分子26として幅広く使用することができる。
つまり、測定したいガスの種類等に応じてナノ粒子25を選択し、該ナノ粒子25に対して良好な親和性を有する生体分子26を選択して用いれば良い。
【0078】
また、上記各実施形態において、金属電極15の材質は特に限定されるものではないが、第1実施形態で挙げたように、アルミニウム、金、チタン又はニッケルのいずれかの材質から形成されることが好ましい。この場合には、ガスが金属電極15に吸着したとしても、該吸着によって金属電極15自体の抵抗変化が生じてしまうことを抑制することができる。従って、ナノチューブ束20のコンダクタンスの変化(電気的特性の変化)をより正確にモニタすることができ、測定精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0079】
1、45…ガス測定装置
2、40、50…ガスセンサ
3…電源部
4…測定部
10、51…支持基板
15…金属電極
20…ナノチューブ束
21…CNT(カーボンナノチューブ)
25…ナノ粒子
26…生体分子
11…基板本体
12…土台部
52…絶縁層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15