(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
内視鏡装置には、近点から遠点まで合焦できるパンフォーカスの撮像装置を搭載したもの、焦点距離を変更して近接観察における拡大画像が取得できる撮像装置を搭載したもの等がある。焦点距離が変更可能な内視鏡装置は、
図9に内視鏡先端部の断面図を示すように、その駆動機構としてカム軸81が広く使用されている。この撮像装置によれば、カム軸81は、モータMの回転駆動力がギア83、中間軸85等を介して伝達されて回転駆動される。レンズ87,89を保持するレンズ保持部材91,93は、カム軸81に軸支されており、カム溝95,97に挿入するピン99,101を有している。カム軸81が回転駆動されると、カム溝95,97に沿ってピン99,101が光軸方向に移動する。これらピン99,101の移動により、レンズ保持部材91,93に保持されるレンズ87,89がそれぞれ光軸方向の所望の位置に移動することになる。
ところが、レンズ87,89を移動させる手段としてカム軸81を用いると、撮像装置の小型化が難しくなる不利がある。即ち、カム軸81を小径化すると、カム溝95,97に挿入されるピン99,101がカム溝95,97に固着することがある。また、カム軸81を小径化すると、カム溝95,97の深さが十分に確保できなくなる。
【0003】
カム軸を用いずにレンズを移動させる他の例として、例えば特許文献1に、ピエゾアクチュエータを利用してフォーカシングレンズを動かす機構が開示されている。この機構では、ピエゾアクチュエータによりフォーカシングレンズが保持されるレンズホルダを光軸方向に移動させることで合焦動作を行っている。しかし、この機構をフォーカシングレンズに代えてズームレンズの駆動に使用する場合、ピエゾアクチュエータでは駆動力が比較的小さく、1群のレンズしか移動できず、かつ可動範囲が短いため、必要とされる変倍率が十分に確保できない不利がある。
また、特許文献2には、複数の可動レンズを内部に収容し、回転によって可動レンズ群を光軸方向に相対移動させるカム筒を備え、このカム筒をモータにより回転駆動することで可動レンズを変倍、焦点移動させる拡大内視鏡が開示されている。この拡大内視鏡は、モータからの回転駆動力を、回転操作ワイヤを介してカム筒に伝達し、カム筒に形成されたカム溝に沿って可動レンズを光軸方向に移動する構成となっている。かかる構成によれば、カム軸を用いることなく、必要十分な変倍率が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態を説明するための図で、撮像装置の外観斜視図、
図2は
図1のV1方向から見た撮像装置の側面図、
図3は
図2のA−A断面図である。ここでは、撮像装置100を内視鏡装置における挿入部先端に配置する構成例として説明する。
【0011】
図1に示すように、撮像装置100は、主に撮像部11とレンズ駆動部13とを有する。撮像部11は、鏡筒部15と、鏡筒部15を保持するホルダ17と、ホルダ17に固定され鏡筒部15の光路後端側に配置される三角プリズム19と、撮像素子21(
図3参照)を含む電子部品を実装する回路基板23とを備える。レンズ駆動部13は、ホルダ17に保持される回転モータ25と、回転モータ25の回転軸に取り付けたピニオンギア27とを備える。なお、本明細書においては、観察光の光路における被写体側を前方、撮像素子側を後方と称する。
【0012】
この撮像装置100は、
図2に示すように、撮像部11の光軸Oとレンズ駆動部13の回転軸は互いに平行であり、回路基板23の基板面の法線方向に、回路基板23を挟んで撮像部11とレンズ駆動部13とが配置されている。なお、以降の説明では、同一の部材に対しては同じ符号を付与することで、その説明を簡単又は省略する。
【0013】
図3に示すように、鏡筒部15は、光軸Oの光路前方から順に、レンズL1,L2,L3,L4,L5を同軸に収容する。レンズL1,L2はレンズ保持部材31、レンズL3はレンズ保持部材33、レンズL4はレンズ保持部材35、レンズL5はレンズ保持部材37にそれぞれ保持される。レンズL1,L2(第1光学部材)とレンズL5(第2光学部材)は光軸方向に固定された大径の固定レンズであり、レンズL3とレンズL4は、光軸方向に移動自在な比較的小径の可動レンズである。
【0014】
各レンズL1〜L5は、図示例ではそれぞれ単一のレンズで示しているが、複数枚のレンズで構成されていてもよい。可動レンズL3を保持するレンズ保持部材33と、可動レンズL4を保持するレンズ保持部材35は、それぞれ可動レンズL3,L4の半径方向外側に向けて突起するピン(突起部)41,43を有する。
【0015】
鏡筒部15は、レンズ保持部材33,35のピン41,43と係合するカム溝45,47が周面に形成されたカム筒49と、カム筒49の内側で同軸に配置されるインナースリーブ51とを有する。
【0016】
インナースリーブ51は、その内周面に光軸Oと平行に、レンズ保持部材33,35を案内するためのガイド溝53が形成されている。また、インナースリーブ51の内周面にはレンズ保持部材31,37が固定され、後端側(観察像の観察方向の前方とは反対側であって図中右側を指す)の外周面がホルダ17に固定される。
【0017】
図4はインナースリーブ51内のレンズ保持部材31,33,35,37を示す斜視図である。
レンズ保持部材33,35は、樹脂材料等からなる成形品であり、カム溝45,47(
図1,
図3参照)と係合するピン41,43とは反対側の側面に、それぞれ摺動部55,57が設けられている。摺動部55,57は、レンズ保持部材33,35と一体に半径方向外側に向けて突設されている。摺動部55,57の先端は、インナースリーブ51のガイド溝53に挿入され、変倍操作に応じて光軸方向に摺動する。
【0018】
カム筒49は、インナースリーブ51の外周に摺動自在に設けられ、観察像の観察方向の前方における外周面先端領域に、周方向に沿って形成された筒状ギア部59を有する。筒状ギア部59は、前述のピニオンギア27と噛合して、回転モータ25の回転駆動力を、ピニオンギア27を介してカム筒49に伝達する。
【0019】
カム筒49は、ピニオンギア27により回転駆動されると、ピン41,43が当接するカム溝45,47の位置がカム溝45,47の溝形状に応じて変化して、ピン41,43が光軸方向に移動する。換言すると、カム溝45,47は、カム筒49の回転角に応じて、レンズ保持部材33,35を所望の光軸位置に移動させるように、その溝形状が設定されている。
【0020】
三角プリズム19は、鏡筒部15の光軸を全反射面19aで直角に曲げて、撮像素子21上で光学像が結像されるようにする。
【0021】
回路基板23は、電子部品28が実装されリード線29が半田付けされたフレキシブル回路基板30が接続され、撮像素子21やレンズ駆動部13と外部との信号の授受が行われるようになっている。
【0022】
上記構成の撮像装置100によれば、操作者による操作又は予めプログラミングされたコンピュータ装置からの指令により、回転モータ25を駆動して、カム筒49を所望の回転角度に回転駆動すると、カム筒49の回転角度とカム溝45,47の形状に応じてレンズ保持部材33,35の光軸方向位置がそれぞれ変化する。これら可動レンズL3,L4が光軸方向に移動することで、変倍動作と合焦動作が行われる。また、撮像素子21は、上記同様に入力される指令によって撮像条件や撮像タイミングが設定される。
【0023】
本構成の撮像装置100は、レンズ軸外にカム軸を配置する必要がないため、ピンの固着やカム溝深さの制約等の問題を生じない小型化に有利な構成となる。また、カム筒49の観察方向前方における外周面先端領域に筒状ギア部59が設けてあるので、回転モータ25の位置からカム筒49の筒状ギア部59が配置される先端領域までの間にスペースが確保される。このスペースを利用すれば、より全長の長い回転モータが使用でき、回転駆動力を高めることができる。回転モータの回転駆動力が増大すると、カム筒49の回転駆動を高速化でき、一層俊敏な変倍動作、合焦動作が可能となる。また、このスペースに必要に応じて減速ギア等の他の部材も配置でき、スペース効率が向上する。
【0024】
一般に、レンズL1〜L5は、光軸方向両端に配置されるレンズほど大径に、その中間に配置されるレンズは小径に設計されることが多い。そのため、カム筒49のレンズL1,L2が配置される観察方向の前方位置は、比較的外径が大きいためにピニオンギア27より大径となる。その結果、本構成においては筒状ギア部59とピニオンギア27とのギア比が大きくなり、複雑な機構なしに回転モータ25の回転を減速できる。
【0025】
また、外径の大きいカム筒49にカム溝45,47を形成するため、カム溝45,47の配置スペースが広く得られ、可動レンズを移動させるためのカム溝を複数列配置できる。また、それぞれの可動レンズに対して、光軸方向への可動範囲を広く設定できる。
【0026】
可動レンズL3,L4を保持するレンズ保持部材33,35は、摺動面が最小限となるように、それぞれ2箇所の突起(ピン41,43及び摺動部55,57)で摺動する。そのため、レンズ保持部材33,35の外周全体で摺動させる場合と比較して摺動面積が狭くなり、レンズ保持部材33,35を安定してスムーズに移動させることができる。
【0027】
また、可動レンズL3,L4は比較的小径に設計されるため、これらを保持するレンズ保持部材33,35の外周に突起(41,43,55,57)を設けても、レンズ保持部材33,35の最外径サイズを小さく留めることができる。そのため、レンズ保持部材33,35の外周を覆うカム筒49やインナースリーブ51を拡径させることなく、鏡筒部15を小径のままに維持できる。
【0028】
図5は内視鏡装置の体腔内に挿入される挿入部先端における軸方向投影面を模式的に示す正面図である。内視鏡装置の挿入部先端部61には、レンズL1である観察窓63と、観察窓63の両脇に配置される一対の照明窓65と、観察窓63にノズル開口を向けて配置される送気送水ノズル67と、鉗子口69がそれぞれ配置されている。各部に接続される種々の管路は内視鏡挿入部内に軸方向に沿って高密度に収納されている。
【0029】
撮像装置100は、内視鏡装置における挿入部先端部61内の観察窓63がレンズL1の位置となるように、観察窓63の奥側に収容される。その際、撮像装置100は、観察窓63より挿入部先端部61の外周縁側に回路基板23を配置する向きで配置される。こうすることで、デッドスペースであった挿入部先端部61の外周側領域DSを有効活用でき、スペース効率が向上する。
【0030】
また、
図3に示すように、通常はデッドスペースになってしまう撮像素子21の前方領域、好ましくは、回路基板23よりも前方領域に回転モータ25の後端が配置される。この前方領域が回転モータ25及びピニオンギア27の配置場所に利用されることで、内視鏡の挿入部先端部における軸方向に、回転モータ25とピニオンギア27とが重なり合う。これにより、挿入部先端部に収容される部材の軸方向投影面積が小さくなり、挿入部先端部61の細径化に寄与できる。
【0031】
次に、撮像装置の他の構成例について説明する。
図6は他の撮像装置200の外観斜視図、
図7は
図6のV2方向から見た撮像装置200の側面図、
図8は
図7に示す撮像装置200のB−B断面図である。
【0032】
図6に示すように、本構成の撮像装置200のホルダ17Aは、レンズ駆動部13の回転軸71が、鏡筒部15の光軸Oよりも回路基板23側とは反対側となる領域で、回路基板23の基板面法線Hから角度φ(本構成においては45°)だけ傾斜した位置に配置されるように形成されている。
【0033】
このように、レンズ駆動部13を撮像部11の回路基板23とは反対側の外周位置に配置することでも、
図5に示すデッドスペースである外周側領域DS以外の他のデッドスペースにレンズ駆動部13を収容できる。よって、内視鏡装置の挿入部先端部の設計に応じて角度φを任意に選択すれば、デッドスペースに合わせたレンズ駆動部13の配置が行え、スペース効率が向上する。
【0034】
図8は、カム筒49及びカム筒49のカム溝45,47の展開図を示す説明図である。カム筒49は、光軸方向に移動自在な可動レンズの群数に応じたカム溝45,47を有する。カム溝45,47は、レンズ保持部材33,35に設けたピン41,43が挿入され、カム筒49の回転動作に応じてピン41,43を光軸方向に移動させる。複数の異なる形状のカム溝を備えることで、複数の可動レンズ群に対して、それぞれ個別に光軸方向への移動が設定可能となる。
【0035】
本構成のカム筒49は、カム溝45,47の一部に、光軸方向に直交する方向に延びるバッファ領域W1,W2を同じ回転角度範囲に設けてある。ピン41,43がこのバッファ領域W1,W2の範囲内にあるときは、カム筒49が回転してもピン41,43が光軸方向に移動しない。これにより、回転モータの回転誤差が吸収され、ピン41,43の軸方向位置、即ち、可動レンズL3,L4の光軸方向位置を精度良く合わせることができる。
【0036】
上記のバッファ領域W1,W2は、例えば、最小倍率から最大倍率までの間の中間倍率の撮影モード用として、最小倍率位置から最大倍率位置までの間の任意の溝位置に設けることで、所望の中間倍率での観察が簡単な操作で行える。つまり、1台の内視鏡装置で被写界深度の狭い高倍率観察モードや、比較的被写界深度の広い中間倍率観察モード等、内視鏡装置の術者の用途や目的に合わせて簡単に観察モードを使い分けることができ、術者の使い勝手を向上できる。
【0037】
本構成においては、2箇所にバッファ領域W1,W2を設け、例えば、W1を標準観察モード、W2を中間倍率観察モードに対応させている。これによれば、使用頻度の高い標準観察モードを、回転モータ25の回転位置ズレ等が生じても撮影倍率が変化することなく維持でき、また、他の観察モードから標準観察モード時に戻る際に回転位置ズレが生じても、確実に標準観察モードに変更できる。
【0038】
また、内視鏡装置の術者が変倍操作を行って、カム筒49が一方向に連続して回転駆動される際、カム溝45,47に設けるバッファ領域W1,W2は、カム筒49の回転途中で特定のズーム倍率に到達したときに、そのズーム倍率のまま一定期間固定する。これにより、内視鏡装置の術者は観察に適したズーム倍率で被検体を注視でき、被検体の状態をより詳細に観察することを術者に促せる。
【0039】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。例えば、筒状ギア部はカム筒の全周にわたって形成しているが、周上の一部に形成したものであってもよい。また、筒状ギア部は、カム筒に直接設ける以外にも、他の部材にギアを設けて、このギアからの回転力を筒状ギア部に伝達する構成であってもよい。更に、本実施形態では可動レンズを主に変倍操作用のレンズとして説明しているが、合焦動作用のレンズに対しても本発明を適用できる。
【0040】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 少なくとも1群以上の可動レンズをレンズ光軸に沿って移動させて観察像の変倍操作を行う鏡筒部、及び上記可動レンズを通じて得られる上記観察像を撮像する撮像素子を有する撮像部を有する撮像装置であって、
上記可動レンズを保持し、該可動レンズの半径方向外側に向けて突起する突起部を有するレンズ保持部材と、
上記レンズ保持部材の突起部と係合するカム溝を周面に有し、上記レンズ保持部材が上記レンズ光軸と同軸に収容される円筒状のカム筒と、
上記レンズ光軸の軸外に配置され上記カム筒を回転駆動するためのレンズ駆動部と、を備え、
上記カム筒は、上記観察像の観察方向前方における外周面先端領域で、上記カム筒の周方向に沿って形成された筒状ギア部を有し、
上記レンズ駆動部は、上記撮像素子よりも上記観察方向前方に配置され、上記筒状ギア部を介して上記カム筒を回転駆動し、上記カム溝に沿って上記可動レンズを移動させる撮像装置。
(2) (1)記載の撮像装置であって、
上記レンズ駆動部は、上記撮像素子が実装される回路基板より上記観察方向前方に配置される撮像装置。
(3) (1)又は(2)記載の撮像装置であって、
上記レンズ駆動部は、回転モータである撮像装置。
(4) (1)乃至(3)のいずれか一項記載の撮像装置であって、
上記鏡筒部は、光軸方向に沿ったガイド溝を有し、
上記レンズ保持部材は、上記可動レンズの半径方向外側に向けて突設され、先端が上記ガイド溝に挿入される摺動部を有する撮像装置。
(5) (1)乃至(4)のいずれか一項記載の撮像装置であって、
上記カム筒は、上記可動レンズの群数に対応する本数の上記カム溝を有する撮像装置。
(6) (1)乃至(5)のいずれか一項記載の撮像装置であって、
上記レンズ保持部材の上記観察方向前方に、上記可動レンズより大径の第1光学部材が配置され、
上記レンズ保持部材の上記観察方向前方とは反対の後方に、上記可動レンズより大径の第2光学部材が配置され、
上記第1光学部材と上記第2光学部材との間で、上記レンズ保持部材を覆って上記カム筒が配置される撮像装置。
(7) (1)乃至(6)のいずれか一項記載の撮像装置であって、
上記カム筒は、上記カム溝の始点から終点までの範囲内で、上記レンズ光軸方向に直交する方向に延びるバッファ領域を有する撮像装置。
(8) (7)記載の撮像装置であって、
上記カム溝は、上記バッファ領域を少なくとも2箇所に有する撮像装置。
(9) (1)乃至(8)のいずれか一項記載の撮像装置を内視鏡挿入部の先端部に備えた内視鏡装置。