(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多孔質膜層と支持体を有する中空状多孔質膜であって、前記多孔質膜層が熱可塑性樹脂からなり、前記支持体が、0.05〜1.0%の伸縮伸長率を有するマルチフィラメントを筒状に加工した支持体であり、前記マルチフィラメントが非捲縮糸である中空状多孔質膜。
前記支持体が前記マルチフィラメントを筒状に編み、前記筒状に編んだマルチフィラメントを更に熱処理した円筒状編紐支持体である請求項1〜7のいずれかに記載の中空状多孔質膜。
前記ポリフッ化ビニリデンが、異なる質量平均分子量を有する2種類以上のポリフッ化ビニリデンの混合物であり、前記多孔質膜層が前記混合物を含む請求項11に記載の中空状多孔質膜。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
<中空状多孔質膜>
本発明の中空状多孔質膜は、多孔質膜層と支持体を有するものであって、前記多孔質膜層が熱可塑性樹脂からなり、前記支持体が、1.0%以下の伸縮伸長率を有する糸を筒状に加工した支持体であることを特徴とするものである。
すなわち、本発明の中空状多孔質膜は、
図1に示すように、支持体10と、前記支持体10の外周面に設けられた多孔質膜層2とを有するものである。ここで、
図1は、本発明の中空状多孔質膜の一例を示す概略断面図である。
【0012】
本発明の中空状多孔質膜の外径は、中空状多孔質膜を複数本用いて構成した膜モジュールにおいて要求される必要濾過面積の観点から、1.0mm以上2.0mm以下である。このうち、1.2〜2.0mmがより好ましく、1.3〜1.8mmが最も好ましい。ここで、中空状多孔質膜の外径値とは、
図1に示す外径Dのことをいう。すなわち、本明細書において「中空状多孔質膜の外径値」とは、略円形状を有する中空状多孔質膜の断面において、略円形状の一方から他方側へ、中心部を通るように引いた直線の長さのことを指す。実際の測定においては、中空状多孔質膜のサンプルから薄片を切り出し、切り出した薄片断面を、投影機を用いてスクリーンに投影し、この投影像から中空状多孔質膜の外径をランダムに少なくとも3か所測定し、その平均値を外径Dとして採用する。
【0013】
本発明の中空状多孔質膜においては、中空状多孔質膜の外径値が1.0〜2.0mmと小さいため、本発明の中空状多孔質膜を含むモジュールは、高集積化が可能である。
本発明の中空状多孔質膜を含む膜モジュールの膜充填量は30〜85m
2であることが好ましく、35〜70m
2であることがより好ましい。
ここで膜充填量とは、中空状多孔質膜の、ケース断面積に対する充填した膜の断面積が50%となる本数を収納して集積化した際の、樹脂で封止された部分を除く膜の表面積のことを指す。従って、同形状の膜モジュールで比較した場合、中空状多孔質膜の外径値が小さければ、モジュールの高集積化、すなわち、膜充填量を高めることができる。
本発明の中空状多孔質膜においては、中空状多孔質膜の外径値が2.0mmより大きい場合、所望の膜充填量を達成するために充填率(膜の充填密度を表す値)を高くする必要があり、これにより中空状多孔質膜同士の膜間距離が小さくなって運転時のエアレーションによる洗浄性等が悪くなるため、好ましくない。
【0014】
ここで、エアレーションとは、中空状多孔質膜を揺動させることによって、膜表面に堆積する目詰まり成分を洗浄・除去する方法のことを指す。中空状多孔質膜を用いて水処理を行う際、このエアレーション時の負荷によって膜が破断し、目詰まり成分が処理水に流出して処理水の水質を悪化させることがある。従って、本発明の中空状多孔質膜の1本あたりの引張破断強度は、50N/fil以上であることが好ましい。中空状多孔質膜の1本あたりの引張破断強度が50N/fil以上であれば、エアレーション時の膜の破断を抑制することができるため好ましい。一方、中空状多孔質膜の1本あたりの引張破断強度が50N/fil未満では、エアレーション時に膜の破断が起こる可能性がある。
本発明の中空状多孔質膜の1本あたりの引張破断強度としては、さらに、70N/fil以上であることがより好ましい。また、引張破断強度の上限については、本発明の効果を有する限り特に限定されるものではないが、多孔質膜層が熱可塑性樹脂から構成される中空状多孔質膜の場合、製法やコストの観点から、500N/fil以下であることが好ましい。すなわち、本発明の中空状多孔質膜の1本あたりの破断強度は、50〜500N/filであることが好ましく、70〜500N/filであることがより好ましい。ここで、「N/fil」とは、中空状多孔質膜1本あたり(1 filter)が破断するのに必要な強度をニュートン(N)で表したものである。
また、エアレーション時の負荷は中空状多孔質膜の外径値によって変化する。そのため、中空状多孔質膜の断面積の値を反映させた引張破断応力で考える場合、その値は50MPa以上であることが好ましく、70MPa以上であることがより好ましい。また、引張破断応力の上限値については、引張破断強度同様に本発明の効果を有する限り特に限定されるものではないが、製法やコストの観点から200MPa以下であることが好ましい。すなわち、本発明の中空状多孔質膜の引張破断応力は、50〜200MPaであることが好ましく、70〜200MPaであることがより好ましい。
ここで、「中空状多孔質膜1本あたり引張破断強度」とは、テンシロン型引張試験器を用いて測定した値のことを指す。具体的には、1本の中空状多孔質膜を、膜の長さが10cmとなるように試験機のチャック部に把持させ、この状態で100mm/minの速度で伸長を行い、中空状多孔質膜が破断する時の荷重(N)を測定する。この測定を5回行って、その平均値を本発明の中空状多孔質膜1本あたりの引張破断強度とする。また、「中空状多孔質膜の引張破断応力」とは、前記方法で求められた引張破断強度を中空状多孔質膜の断面積で除した値(MPa)のことを指す。
【0015】
本発明の中空状多孔質膜の多孔質膜層は、熱可塑性樹脂から構成されるものである。熱可塑性樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられ、耐薬品性、耐熱性等の点から、ポリフッ化ビニリデン、またはポリフッ化ビニリデンとポリビニルピロリドンとの組み合わせが好ましい。
また、ポリフッ化ビニリデンの質量平均分子量(Mw)は2.0×10
5〜1.2×10
6の範囲であることが好ましい。この範囲であれば賦形性が良好であるため、所望の形状の中空状多孔質膜を容易に得ることができる。また、前記ポリフッ化ビニリデンは、異なる質量平均分子量(Mw)を有する、2種類以上のポリフッ化ビニリデンを混合した混合物であってもよい。例えば、ポリフッ化ビニリデン(1)(質量平均分子量が(Mw)
1)と、ポリフッ化ビニリデン(2)(質量平均分子量が(Mw)
2)とをw
1:w
2の質量比率(ただし、w
1+w
2=1)で混合して、これをポリフッ化ビニリデン(a)として使用する場合、前記ポリフッ化ビニリデン(a)の質量平均分子量Mwは、「日本レオロジー学会誌,Vol.28(2000),No.3 p99−103」に記載の下記式(1)により求められる。
【数1】
また、前記多孔質膜層は、前記混合物から形成されていてもよい。本発明の1つの態様においては、前記多孔質膜層が前記混合物から形成されている場合、前記混合物の質量平均分子量は、上述の好ましい範囲、すなわち、2.0×10
5〜1.2×10
6の範囲であることが好ましい。ここで、「質量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で求められる値のことを指す。
また、前記多孔質膜層は、単層であってもよく、2層以上の複合多孔質膜層であってもよい。前記多孔質膜が、2層以上の複合多孔質膜層であれば、中空状多孔質膜の外径値を容易に制御できるため好ましい。また前記多孔質膜層が複合多孔質膜層である場合、その層の数は、層数が増加するにつれ、製造工程が長く、複雑になる観点から、4層以下が好ましく、3層以下がより好ましい。すなわち、本発明の1つの態様において、中空状多孔質膜層は、1〜4層の多孔質膜層を有することが好ましく、2〜3層の複合多孔質膜層を有することがより好ましい。
また、前記多孔質膜層の膜厚は、中空状多孔質膜の物理的強度、透水性能の観点から、30〜200μmが好ましく、50〜150μmがより好ましい。ここで、「多孔質膜層の膜厚」とは、前述の中空状多孔質膜の外径値から、後述する支持体の外径値を差し引いた値のことを意味する。
【0016】
本発明の中空状多孔質膜は、支持体を有するものである。支持体と多孔質膜層とを有することにより、エアレーション時の膜の破断に対する強度が向上し、水処理使用時における破断のリスクをさらに低下させることが可能となる。
【0017】
また、支持体には、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸を筒状に加工したものを用いる。ここで「伸縮伸長率」とは「JIS L 1013 8.11 伸縮性 C法」に則って測定した値を指す。すなわち、試験長20cmの支持体を準備し、この支持体に一定荷重(8.82mN×20×フィラメントのtex数)を掛けたときの長さを測定し、その後荷重を外してその時の支持体の長さを測定した。この荷重を掛けたときの支持体の長さを、一定荷重を外した時の支持体の長さで除した割合を指す。1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸とはいわゆる後述のような捲縮加工が施されていない、非捲縮加工糸のことも指す(以下、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸を非捲縮糸と言うこともある)。また、伸縮伸長率が1.0%より大きい糸は捲縮加工が施された捲縮糸のことを指す。
中空状多孔質膜の支持体として、捲縮加工を施した糸を用いる場合、糸自体が伸縮性を有するため、筒状に製紐する際の張力管理が比較的容易であるといった効果を得ることができる。一方、非捲縮糸、すなわち、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸は、糸自体が伸縮性を有さないため、筒状に製紐する際の張力管理が難しいといった問題があるが、中空状多孔質膜の外径値が1.0〜2.0mmである本発明の中空状多孔質膜では、繊度の小さな糸を選択でき、かつ、合糸数も少なくすることができるため、それほど厳密な張力管理を必要としない。そのため、本発明の中空状多孔質膜の支持体には、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸を用いることができる。
捲縮加工の形態としては、フリクションディスクに原糸を接触させて加撚させる方式や、回転子に原糸を巻きつけ、前記回転子を高速回転させることで仮撚をする方式などさまざまである。しかしながら、いずれの方法を用いた場合においても、捲縮加工後の糸のかさが大きくなる。そのため、捲縮加工糸を筒状に加工した支持体を用いた場合、そのかさ高さから筒の内壁の凹凸が大きくなり、処理水が支持体内側を流れる際の圧力損失が大きくなり、透水時の抵抗が増大して流量が低下する要因となる。
一方、非捲縮糸を筒状に加工した支持体を用いた場合は、捲縮糸と比較してかさが低いため、処理水が支持体内側を流れる際の圧力損失による流量の低下を抑制することが出来る。このような非捲縮糸を筒状に加工した支持体を有する中空状多孔質膜は、実使用上問題のないモジュール透水性能の値を実現することができる。そのため、本発明の支持体には、捲縮加工が施されていない非捲縮糸を用いることが好ましい。また、糸の伸張伸縮率は、0.7%以下であることがより好ましく、0.4%以下であることが特に好ましい。また、糸の伸張伸縮率の下限値は、本発明の効果を有する限り特に限定されるものではないが、加工しやすさの観点から、0.05%以上であることが好ましく、0.1%以上であることがより好ましい。すなわち、本発明の支持体に用いられる糸の伸張伸縮率は、0.05〜1.0%であることが好ましく、0.1〜0.7%であることがより好ましく、0.1〜0.4であることが特に好ましい。
【0018】
ここで、モジュール透水性能とは、モジュール化を行う際の膜長にて測定する値であり、ろ過水が中空状多孔質膜の中空部を流れる際に生じる内径圧損、液体の粘度等を加味した透水性能のことをさす。
一般的に、中空状多孔質膜の透水性能は、基礎透水性能とモジュール透水性能とに分類することができる。基礎透水性能とは、膜の孔サイズや開孔率、空孔率、厚みといった膜構造に由来する、膜そのものの透水性能のことである。ここで、「開孔率」とは、多孔質膜の外表面における孔の占める面積割合のことを意味し、「空孔率」とは、多孔質膜内における孔が占める体積割合のことを意味する。一方、モジュール透水性能は、モジュールの膜長や中空状多孔質膜の中空部の内径値によって大きく変動する値である。具体的には、モジュールの膜長が長く、中空状多孔質膜の中空部の内径値が小さい膜は、モジュールの膜長が短く、中空状多孔質膜の中空部の内径値が大きい膜に比べて、内径圧損が大きくなる。このため、モジュール透水性能の値は基礎透水性能の値から大きく低下する。従って、中空状多孔質膜の透水性能に関しては、モジュール透水性能の値が実使用上十分な値であることが重要である。
本発明の中空状多孔質膜のモジュール透水性能は、モジュールの膜長が165cmのときに、2.0m
3/m
2/hr/MPa以上の透水性能を有していることが好ましく、3.0m
3/m
2/hr/MPa以上であることがより好ましい。また、モジュール透水性能の上限値は本発明の効果を有する限り特に限定されるものではないが、分画性能とのバランスから、30.0m
3/m
2/hr/MPa以下であることが望ましい。モジュール透水性能が、2.0〜30m
3/m
2/hr/MPaの範囲であれば、実際の運転時において、安定的に運転することが可能である。
ここで、「中空状多孔質膜の透水性能」とは、中空状多孔質膜から排出される水の量を、中空状多孔質膜の表面積で割り、更に25℃、1MPa当たりに換算した値のことを指す。具体的には中空状多孔質膜のサンプルを165cmに切断して、中空状多孔質膜の孔内をエタノールで満たした後、前記エタノールを純水に置換する。その後、サンプルの一端を25℃の純水の容器に入れ、他端をポンプで減圧して、サンプルから排水される純水の量を1分間測定することによって求めることができる。
【0019】
本発明の中空状多孔質膜は、非捲縮糸を筒状に加工した支持体を有するものであるが、非捲縮糸を筒状に加工する方法としては、1本の糸を円筒形に丸編みにする編紐形態や、円筒形に丸編みした編紐を熱処理することで剛性を付与する方法、複数の糸を円筒形に組み上げる組紐形態などさまざまである。これら方法の中で、生産性がよく、製膜に適度な伸縮性および剛性を有する点で、円筒形に丸編みした編紐に熱処理を施した形態が好ましい。なお、丸編みとは、丸編機を用いて筒状のよこメリヤス生地を編成することであり、糸を円筒状に丸編みした編紐とは、糸を湾曲させて螺旋状に伸びる連続したループを形成し、これらループを前後左右に互いに関係させたものである。
【0020】
1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸の材料としては、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維等が挙げられる。また、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸は、複数種類の繊維を組み合わせたものであってもよい。
合成繊維としては、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ポリアミド等のポリアミド系繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等のポリエステル系繊維;ポリアクリロニトリル等のアクリル系繊維;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維;ポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニリデン系繊維;ポリ塩化ビニル系繊維:ポリウレタン系繊維;フェノール樹脂系繊維;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系繊維;ポリアルキレンパラオキシベンゾエート系繊維等が挙げられる。
【0021】
半合成繊維としては、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、キチン、キトサン等を原料としたセルロース誘導体系繊維:プロミックスと呼称される蛋白質系繊維等が挙げられる。
再生繊維としては、ビスコース法、銅−アンモニア法、有機溶剤法等により得られるセルロース系再生繊維(レーヨン、キュプラ、ポリノジック等)が挙げられる。天然繊維としては、亜麻、黄麻等が挙げられる。
【0022】
これらのなかでは、耐薬品性に優れる点から、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維からなる群から選ばれる1種以上の繊維であることが好ましく、中空状多孔質膜の洗浄に用いられる次亜塩素酸塩(例えば次亜塩素酸ナトリウム)に対する耐性が優れる点では、ポリエステル繊維(PET)が特に好ましい。
【0023】
1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸の形態としては、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸等が挙げられるが、本発明の1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸の形態としては、マルチフィラメントが好ましい。
ここで、マルチフィラメントとは、数本から数十本の繊維をよりあわせた構造のことを指す。1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸の形態がマルチフィラメントであると、中空状多孔質膜の外径値を1.0〜2.0mmの範囲に制御しやすいため好ましい。
【0024】
1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸の繊度は支持体の外径値、内径値、及び支持体の厚みなどを勘案して決定できる。このうち、本発明の支持体には56〜333dtexの糸を用いることが好ましく、さらに好ましくは111〜222dtexである。1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸の繊度が56〜333dtexであれば、中空状多孔質膜の外径値を1.0〜2.0mmに制御しやすいため好ましい。
【0025】
ここで、支持体の外径値とは、
図2に示す外径Rのことをいう。
図2は本発明の支持体10の一例を示す横断面図である。
外径Rとは、支持体10の外径のうち最大である部分の長さのことをいう。すなわち、支持体10の外周面には凹凸があるが、凸の部分同士を、支持体10の中心を通るようにして結び、その長さを外径Rとして採用したものである。すなわち、本明細書においては、略円形状を有する中空状多孔質膜の断面において、凹凸を有する支持体の断面の一方の凸部分から他方の凸部分へ、中空状多孔質膜の中心部を通るように引いた直線の長さのことを指す。実際の測定においては、中空状多孔質膜のサンプルから薄片を切り出し、切り出した薄片断面を、投影機を用いてスクリーンに投影し、この投影像から支持体の外径をランダムに少なくとも3か所測定し、その平均値を外径Rとして採用する。
本発明の支持体10の外径は、0.8〜1.8mmが好ましく、1.0〜1.7mmがより好ましい。外径値が1.8mmより大きいと、前記支持体を含む本発明の中空状多孔質膜を膜モジュール化する場合、膜充填量に対する膜面積が減少し、必要な膜面積を確保できなくなる。一方、外径値が0.8mmより小さいと、内径値が小さくなり、処理水が支持体内側を流れる際に生ずる圧力損失によって流量が低下するため、好ましくない。支持体10の外径が、0.8〜1.8mmであれば、透水性能が損なわれず、かつ、前記支持体を含む本発明の中空状多孔質膜を膜モジュール化した際に必要な膜面積を確保できるため好ましい。
【0026】
また、支持体の内径値とは、
図2に示す内径rのことをいう。内径rとは、支持体10の厚みLを2倍した値(2L)を外径Rから引いた値、すなわち、r=R−2Lのことをいう。支持体10の厚みLとは、
図2に示すように、支持体10の径方向の厚みのうちの最大である部分の長さをいう。すなわち、支持体10の外周面および内周面には凹凸があるが、支持体外周面の凸部分と、支持体内周面の凸部分を、径方向(中心線を通る方向)で結び、その長さを厚みLとして採用したものである。本発明においては、この支持体の内径値rを、中空状多孔質膜の内径値として定義する。実際の測定においては、中空状多孔質膜のサンプルから薄片を作成し、投影機を用いて薄片断面の光学象を測定する。この断面像のうち、支持体の厚さの値が最も大きい部分をランダムに少なくとも3箇所測定し、その平均値を厚みLとして採用する。
支持体の内径rが小さくなると、処理水が支持体内側を流れる際に生ずる圧力損失による流量の低下が起こるため、内径rの値は0.6mm以上が好ましい。また、内径rの上限値としては、本発明の効果を有する限り外径未満の範囲において特に限定されないが、外径に対して内径が大きすぎると膜が潰れやすくなるため、1.8mm以下が好ましい。すなわち、内径rの値は、0.6〜1.8mmであることが好ましく、0.65〜1.6mmであることがより好ましい。
また支持体の内径rと、中空状多孔質膜の外径値Dとの比、すなわち、中空状多孔質膜の内外比(r/D)(以下、単に内外径比と言うこともある)の値は0.5〜0.9であることが好ましく、0.55〜0.85であることがより好ましい。内外径比が0.5未満では、支持体の内径値が小さくなり、処理水が支持体内側を流れる際に生ずる圧力損失によって流量が低下するため好ましくない。また、内外径比が0.9より大きいと、潰れに対する強度が低下するため好ましくない。すなわち、内外径比が0.5〜0.9である中空状多孔質膜であれば、処理水の流量が低下せず、つぶれに対する強度が低下しないため好ましい。ここで、「潰れ」とは、断面の円形を保てなくなり、被処理液が中空糸膜の中空部に流れる際の流路抵抗が増大する状態のことを意味する。
【0027】
本発明の別の態様は以下の通りである。
<1>多孔質膜層と支持体を有する中空状多孔質膜であって、前記多孔質膜層が熱可塑性樹脂からなり、前記支持体が、1.0%以下の伸縮伸長率を有する糸を筒状に加工した支持体であって、前記中空状多孔質膜の内径値が0.6〜1.8mmであり、前記中空状多孔質膜の外径値が1.2〜2.0mmである、中空状多孔質膜;
<2>前記多孔質膜層の膜厚が、30〜200μmである、<1>に記載の中空状多孔質膜;
<3>前記糸が、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、及び天然繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維である、<1>又は<2>に記載の中空状多孔質膜;
<4>前記糸が、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアミド系繊維、及びポリオレフィン系繊維からなる群より選択される少なくとも1つの繊維である、<1>又は<2>に記載の中空状多孔質膜;
<5>前記熱可塑性樹脂が、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、及びポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂である、<1>〜<4>のいずれかに記載の中空状多孔質膜;
<6>前記多孔質膜層が複合多孔質膜層である、<1>〜<5>のいずれかに記載の中空状多孔質膜。
【0028】
<支持体の製造方法>
以下、本発明の支持体の具体的な製造方法の例を記載する。
図4は、支持体10の製造に用いられる支持体製造装置の一例を示す概略構成図である。支持体製造装置20は、複数のボビン21と、ボビン21から引き出された1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸12を丸編する丸編機22と、丸編機22によって編成された円筒状編紐11を一定の張力で引っ張る紐供給装置23と、円筒状編紐11を熱処理する金型24と、円筒状編紐11を熱処理して得られた支持体10を引き取る引取り装置25と、支持体10をボビンに巻き取る巻取り機26とを具備する。
【0029】
丸編機22は、回転可能な円筒状のシリンダと、前記シリンダの内側に配置された回転しないスピンドルと、前記スピンドルの外円周上に配置された複数のメリヤス針とを有して構成される。円筒状編紐11の外径R、内径r、編目の数および大きさは、上述したように、糸の形態や繊度によっても決まるが、メリヤス針の数、メリヤス針を配置するスピンドルの円周直径によっても左右される。
また、本発明の1つの態様において、円筒状編紐11の外径値、及び内径値を、上述の支持体10の好ましい外径値、及び内径値に調節するためには、繊度が56〜333dtexであるマルチフィラメントの糸を、後述の工程(I)に記載の条件で編成し、かつ後述の工程(II)に記載の通り、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸12の溶融温度以下の温度で熱処理することが好ましい。
【0030】
金型24は、金属製のブロック、プレート等からなる本体と、加熱手段とを含む。加熱手段としては、バンドヒーター、アルミ鋳込みヒーター等が挙げられる。金型24の本体には、円筒状編紐11が通過する貫通孔が形成されている。
【0031】
紐供給装置23および引取り装置25としては、ネルソンロール、ニップロール、カレンダーロール等が挙げられる。ニップロールは円筒状編紐11をつぶすおそれがあることから、ネルソンロールまたはカレンダーロールが好ましい。
【0032】
以下、支持体製造装置20を用いた支持体10の製造方法の例を説明する。
支持体10は、下記(I)工程と下記(II)工程を有する製造方法によって製造される。
(I)工程:1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸12を丸編して円筒状編紐11を編成する工程。
(II)工程:前記円筒状編紐11を、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸12の溶融温度以下の温度で熱処理する工程。
【0033】
(I)工程:
円筒状編紐11は、丸編機22を用いて編成される。
製紐速度は、円筒状編紐11の形状により若干変わるが、シリンダの回転数によって決定することができる。シリンダ回転数は、1〜4000rpmに設定可能であり、安定して編成できる点から、100〜3000rpmが好ましい。この際の製紐速度は、およそ6〜200m/hrである。
【0034】
(II)工程:
円筒状編紐11は、その構造上、伸縮性を有している。従って、円筒状編紐11の伸縮による支持体の外径変化を抑制するために、円筒状編紐11に熱処理を施すことが好ましい。円筒状編紐11に熱処理を施すことによって、円筒状編紐11の伸縮性が抑制され、かつ、つぶれにくくなる。円筒状編紐11の熱処理は金型24で行われる。円筒状編紐11は、金型24を通過する際に熱処理されることで熱収縮を起こし、伸縮性が抑制される。さらに、編目が緻密になることでつぶれにくくなる。
【0035】
熱処理の温度t(℃)は、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸12の溶融温度以下に設定する必要があり、下記式(1)で表される範囲内の温度t(℃)であることが好ましい。
Tm−80℃≦t<Tm ・・・(1)
(式中、Tmは、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸12の材料の溶融温度(℃)である。)
非捲縮糸12の材料がポリエステル系繊維の場合、温度tは180〜250℃が好ましく、190〜230℃がより好ましい。
【0036】
なお、
図4では、ボビン21は3つであるが、ボビンは1つであってもよく、4つ以上であってもよい。また、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸12は、複数のボビンから供給して合糸してもよい。合糸することにより、所望の繊度および形態の非捲縮糸を供給できる。また、同じ種類の非捲縮糸でも、熱収縮性等の性状の異なる非捲縮糸を合糸したり、種類の異なる非捲縮糸を合糸したりすることにより、円筒状編紐11の性状を変えてもよい。
【0037】
また、1.0%以下の伸張伸縮率を有する糸12の熱収縮率が小さい場合は、紐供給装置23を設置しなくてもよい。この場合、円筒状編紐11の熱収縮により丸編機22と金型24との間にダンサーロール等を配置して張力を一定に保つとよい。
【0038】
<中空状多孔質膜の製造方法>
本発明の中空状多孔質膜は、例えば、以下の(1)〜(5)の工程を有する製造方法によって製造される。
(1)支持体の外周面に製膜原液を塗布する工程。
(2)(1)工程後の製膜原液を凝固させて多孔質膜層を形成し、中空状多孔質膜前駆体を得る工程。
(3)中空状多孔質膜前駆体を洗浄する工程。
(4)中空状多孔質膜前駆体を乾燥して、中空状多孔質膜を得る工程。
(5)(4)で得られた中空状多孔質膜を巻き取る工程。
図3は、(1)〜(2)工程に用いられる中空状多孔質膜製造装置の一例を示す概略構成図である。
【0039】
中空状多孔質膜製造装置30は、巻き出し装置(図示略)から連続的に供給された支持体10に、連続的に製膜原液を塗布する2重管紡糸ノズル31と、2重管紡糸ノズル31に製膜原液を供給する原液供給装置32と、支持体10に塗布された製膜原液を凝固させる凝固液が入った凝固浴槽33と、製膜原液が塗布された支持体10を凝固浴槽33に連続的に導入するガイドロール34とを具備する。
【0040】
工程(1):
2重管紡糸ノズル31の中央には、支持体10が通過する管路が形成されている。管路の途中には、管路の円周方向にスリット状の製膜原液吐出口が形成され、製膜原液を吐出する構造となっている。支持体10が管路を通過する際、原液供給装置32から第1の製膜原液が一定量で供給され、支持体10の外周面に第1の製膜原液が塗布されて所定の膜厚の多孔質膜層が形成される。
【0041】
2重管紡糸ノズル31の管路の内径は、支持体10の外径より若干大きく、2重管紡糸ノズル31の管路の内周面と支持体10とは一定の間隙を有する。前記間隙は、多孔質膜層の厚さ、製膜原液の粘度、支持体10の外径や走行速度等によって適宜変更する。
【0042】
製膜原液とは、上述の多孔質膜層の材料樹脂と溶剤とを含む液のことである。すなわち、多孔質膜層が熱可塑性樹脂から構成される本発明の中空状多孔質膜の製膜原液は、熱可塑性樹脂と溶剤とを少なくとも含むものである。
【0043】
溶剤としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等の水溶性の溶剤が挙げられ、透水性の高い多孔質膜層を形成できることから、N,N−ジメチルアセトアミドもしくはN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
製膜原液には、微細孔形成助剤として、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマーを添加してもよい。
製膜原液の総質量中の熱可塑性樹脂の濃度は、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。製膜原液の総質量中の熱可塑性樹脂の濃度が、5〜50質量%であれば、好適な多孔質膜構造、すなわち、孔同士の連結が良好で、透水性能が高く、かつ良好な分画性能を有する構造を形成することができる。また、製膜原液に微細孔形成助剤を添加する場合、その添加量は、製膜原液の総質量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。
【0044】
工程(2):
凝固浴槽33内の凝固液と、支持体10の外周面に塗布された第1の製膜原液とを接触させ、第1の製膜原液を凝固させて、第1の多孔質膜層を形成し、中空状多孔質膜前駆体13を得る。
なお、工程(2)と工程(3)の間に、工程(1)、(2)を繰り返すことで第2、第3の製膜原液によって第2、第3の多孔質膜層を有する中空状多孔質膜前駆体13を形成することも可能である。本発明の中空状多孔質膜1つの態様においては、支持体10の外周面に、多孔質膜層が2層以上積層された、複合多孔質膜層を有することが好ましい。
【0045】
凝固液としては、製膜原液の溶剤と同じ溶剤を含む水溶液であることが好ましい。製膜原液の溶剤が例えばN,N−ジメチルアセトアミド、もしくはN−メチル−2−ピロリドンである場合、凝固液中の溶剤の濃度は、凝固液(100質量%)に対して、1〜50質量%が好ましく、5〜45質量%であることがより好ましい。凝固液の総質量中の溶剤の濃度が、1〜50質量%であれば、好適な多孔質膜構造、すなわち、孔同士の連結が良好で、透水性能が高く、かつ良好な分画性能を有する構造を形成することができるため好ましい。
また、凝固液の温度は、10〜90℃が好ましく、15〜85℃であることがより好ましい。凝固液の温度が、10〜90℃であれば、好適な多孔質膜構造、すなわち、孔同士の連結が良好で、透水性能が高く、かつ良好な分画性能を有する構造を形成することができるため好ましい。
【0046】
工程(3):
例えば、(2)で得られた中空状多孔質膜前駆体を水または熱水中で洗浄して溶剤を除去し、ついで、次亜塩素酸等の薬液で洗浄し、さらに、水または熱水中で洗浄して薬液を除去する工程である。ここで熱水とは、60℃以上の温度に調整された水のことを指す。
【0047】
工程(4)〜(5):
前記中空状多孔質膜前駆体を、60℃以上110℃未満で、1分間以上1時間未満乾燥しで中空状多孔質膜を得た後、前記中空状多孔質膜をボビン、カセ等に巻き取る。
中空状多孔質膜前駆体を乾燥させる際の温度が、60℃以上110℃未満であれば、中空状多孔質膜前駆体の乾燥の効率が良く、かつ乾燥工程中のローラーなどとの接触による熱塑性変化が起こらないため好ましい。また、乾燥時間が1分間以上1時間未満であれば、生産効率が低下しないため好ましい。
このようにして製造された中空状多孔質膜は、支持体として非捲縮糸(ストレート糸)を筒状に加工したものを有しているため、機械的特性に優れると共に、中空状多孔質膜の外径値が1.0〜2.0mmと小さい値であっても、管内抵抗による圧力損失が抑制されて、良好な透水性能を維持することができる。更に、円筒状編紐11に熱処理を施すことで、支持体10の剛直性が増し、中空状多孔質膜の破断応力をより向上させることができる。
【0048】
また、上述の説明においては、多孔質膜層の形成方法として、いわゆる非溶媒誘起相分離法を例示して説明したが、例えば、公知の熱誘起相分離法を採用してもよい。ここで、一般的に熱誘起相分離法とは、ポリマーとこれに常温で溶けない貧溶媒とを高温で混合させ、均一なポリマー溶液を調製し、この温度を下げていくことで、相分離が起こし、凝固することによって多孔質構造を形成する方法である。
【実施例】
【0049】
本発明を以下の実施例により具体的に説明する。
【0050】
(中空状多孔質膜および支持体の外径)
支持体を有する中空状多孔質膜について、中空状多孔質膜の外径D、および支持体の外径Rを、以下の方法で測定した。
支持体を有する中空状多孔質膜のサンプルを約10cmに切断した。切断後のサンプルを数本束ねた後、サンプル全体をポリウレタン樹脂で被覆した。ポリウレタン樹脂は支持体の中空部にも入るようにした。ポリウレタン樹脂が硬化した後、カミソリ刃を用いて厚さ(中空糸膜の長手方向の長さに相当)約0.5mmの薄片を切り出した。次に、切り出した薄片断面の光学象を、投影機(ニコン社製、PROFILE PROJECTOR V−12)を用いて、倍率100倍(対物レンズ)にてスクリーンに投影し、投影された像からサンプルの中空状多孔質膜の外径D、及び支持体の外径Rを読み取った。この測定を3回行い、測定された数値の平均値を中空状多孔質膜の外径D1、支持体の外径R1とした。
【0051】
(支持体の内径)
中空状多孔質膜の外径の測定と同様に約0.5mmの薄片を作製し、投影機を用いて薄片断面の光学像を投影した。サンプルの断面像のうち、最も厚さの値が大きい部分を測定した。この測定を3回行い、測定された数値の平均値を厚みLとした。このように算出した厚みLを外径R1から差し引いた値を内径rとした。
【0052】
(中空状多孔質膜のモジュール透水性能)
中空状多孔質膜の透水性能は、以下の方法で測定した。
測定する中空状多孔質膜のサンプルを165cmに切断し、ポリウレタン樹脂で片端面の中空部を封じた。次にエタノール中で5分間以上減圧した後、純水中に浸してエタノールを純水に置換した。
容器に純水(25℃)を入れ、サンプルの他端面をチューブポンプに繋ぎ、吸引圧約20kPaで、サンプルから出る純水の量(ml)を1分間測定した。これを3回測定して平均値を求めた。この数値をサンプルの表面積で割り、1MPaの圧力に換算した値を、25℃における中空状多孔質膜のモジュール透水性能(m
3/m
2/hr/MPa)とした。
【0053】
(中空状多孔質膜の引張破断応力)
中空状多孔質膜の引張破断応力はテンシロン型引っ張り試験機(A&D社製、UCT−1T型)を用いて測定した。測定する中空状多孔質膜のサンプルを、膜長が10cmとなるように試験機のチャック部に把持させ、この状態で100mm/minの速度で伸張を行い、サンプルが破断するときの荷重(N)を測定した。この測定を5回行い、中空状多孔質膜1本(1 filter)の引張破断強度(N/fil)の平均値を求めた。また、引張破断強度を中空状多孔質膜の断面積で除することで引張破断応力(MPa)を算出した。
【0054】
(中空状多孔質膜の膜充填量)
中空状多孔質膜のサンプルを200cmに切断して並べ、シート状に積層したものを、長さ1110mm、幅16mm、深さ68mmのケースにシート束の一端を挿入した後、ウレタン樹脂を流し込んで端部を硬化させた。その後、もう一端をケースに挿入し、ウレタンで埋没していない膜部分の長さが1830mmになるように調節しながら、先程と同様にウレタン樹脂で端部を硬化させた。このときケースの収納部の面積に対して膜が占める面積を50%になるように膜本数を調節して膜を収納した。このときの膜部分の表面積を算出したものを中空状多孔質膜の膜充填量(m
2)とした。また、中空状多孔質膜の膜充填量は下記式により算出した。
充填率を50%としたときの膜本数=(ケース収納部の面積×0.5)/中空状多孔質膜の断面積
膜充填量(m
2)=中空状多孔質膜の外径×中空状多孔質膜の膜本数×ウレタン樹脂に埋没した部分を除いた膜の長さ
【0055】
(実施例1)
次のようにして、非捲縮糸を円筒状に丸編みし、熱処理を施した編紐支持体(a)の外周面に、熱可塑性樹脂からなる多孔質膜層を2層形成した中空状多孔質膜を製造した。
なお、編紐支持体(a)としては、
図4の支持体製造装置を用いて、伸長伸縮率が0.3%であり、捲縮加工がなされていないポリエステル繊維(PET製、繊度111dtex)のマルチフィラメントを円筒状に丸編みし、190℃で熱処理を施したものを使用した。使用した編紐支持体(a)の外径は1.38mmであり、内径は0.84mmであった。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP1(質量平均分子量(以下、Mwと略す):6.8×10
5)の16.2質量%と、ポリビニルピロリドンM1(Mw:4×10
4)の11.4質量%と、溶媒であるN−メチルピロリドンの72.4質量%を60℃にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP4(Mw:7.2×10
5)の18.3質量%と、ポリビニルピロリドンM1の8.3質量%と、溶媒であるN−メチルピロリドンの73.4質量%を60℃にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
【0056】
(中空状多孔質膜の製造)
図3に示す製造装置を用いて中空状多孔質膜を製造した。
2重管紡糸ノズルの中央の管路に編紐支持体(a)を通過させるとともに、その外側から第1の製膜原液を送液し、編紐支持体(a)の外周面に第1の製膜原液を塗布した後、溶剤濃度が30重量%、温度が23℃のN−メチルピロリドン水溶液(凝固液)で満たされている第1の凝固浴槽へ導き、前記第1の製膜原液を凝固させて第1の多孔質膜層を形成した。
次いで、第2の製膜原液を、第1の製膜原液の場合と同様にして、第1の多孔質膜層上に塗布し、溶剤濃度が30重量%、温度が61℃のN−メチルピロリドン水溶液(凝固液)で満たされている第2の凝固浴槽へ導き、第2の製膜原液を凝固させて、第1の多孔質膜層上に第2の多孔質膜層を形成した。
これを常温(25℃)、濃度13質量%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬した後、100℃の水蒸気雰囲気中に滞在させ、さらに90℃の温水中に浸漬するという一連の工程を3回繰り返し、膜中に残存するポリビニルピロリドンを洗浄、除去した。
上記洗浄工程の後に、105℃に熱した乾燥炉にて10分間乾燥させ、膜中に残存する水分を全て蒸発させた後、外径1.45mm、内外径比0.58、モジュール透水性能4.3m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度98N/fil、引張破断応力89.3MPaの中空状多孔質膜を得た。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は44.8m
2であった。
【0057】
(実施例2)
支持体に使用する糸を、伸張伸縮率が0.3%であり、捲縮加工がなされていないポリエステル繊維(PET製、繊度167dtex)のマルチフィラメントに変更した以外は、全て実施例1と同様の操作にて、編紐支持体(b)を製造した。この編紐支持体(b)の外径は1.47mmであり、内径は0.91mmであった。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP1の12.9質量%と、ポリビニルピロリドンM1の11.9質量%と、溶媒であるN−メチルピロリドンの75.2質量%を60℃にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP4の15.2質量%と、ポリビニルピロリドンM1の8.6質量%と、溶媒であるN−メチルピロリドンの76.2質量%を60℃にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
【0058】
(中空状多孔質膜の製造)
第1および第2の製膜原液を上述のものに変更した以外は全て実施例1と同様の操作にて中空状多孔質膜を製造した。
得られた中空状多孔質膜は外径1.58mm、内外径比0.58、モジュール透水性能5.4m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度133N/fil、引張破断応力101.5MPaであった。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は41.1m
2であった。
【0059】
(実施例3)
支持体として、実施例2と同様の編紐支持体(b)を使用した。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP2(Mw:5.2×10
5)の11.8質量%と、ポリフッ化ビニリデンP3(Mw:2.2×10
5)の11.8質量%と、ポリビニルピロリドンM2(Mw:9.0×10
4)の11.8質量%と、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの64.6質量%を60℃にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP2の19.2質量%と、ポリビニルピロリドンM2の10.1質量%と、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの70.7質量%を60℃にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
【0060】
(中空状多孔質膜の製造)
図3に示す製造装置を用いて中空状多孔質膜を製造した。
3重管紡糸ノズルの中央の管路に編紐支持体(b)を通過させるとともに、その外側の管路から第1の製膜原液を、さらに最外層から第2の製膜原液を送液し、編紐支持体(b)の外周面に第1および第2の製膜原液を塗布した後、溶剤濃度が8重量%で温度が70℃のN,N−ジメチルアセトアミド水溶液(凝固液)で満たされている第1の凝固浴槽へ導き、凝固させて第1および第2の多孔質膜層を形成した。
これを常温(25℃)、濃度13質量%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬した後、100℃の水蒸気雰囲気中に滞在させ、さらに90℃の温水中に浸漬するという一連の工程を3回繰り返し、膜中に残存するポリビニルピロリドンを洗浄、除去した。
上記洗浄工程の後に、105℃に熱した乾燥炉にて10分間乾燥させ、膜中に残存する水分を全て蒸発させた後、外径1.67mm、内外径比0.54、モジュール透水性能7.2m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度133N/fil、引張破断応力86.4MPaの中空状多孔質膜を得た。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は38.9m
2であった。
【0061】
(実施例4)
伸長伸縮率が0.3%であり、捲縮加工がなされていないポリエステル繊維(PET製、繊度111dtex)のマルチフィラメントを円筒状に丸編みし、180℃で熱処理を行った以外は全て実施例1と同様の操作にて、編紐支持体(g)を製造した。この編紐支持体(g)の外径値は1.16mmであり、内径値は0.70mmであった。
編紐支持体(g)を用いる以外は全て実施例2と同様の操作にて、中空状多孔質膜を製造した。得られた中空状多孔質膜は外径1.27mm、内外径比0.55、モジュール透水性能2.3m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度74N/fil、引張破断応力83.9MPaであった。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は51.2m
2であった。
【0062】
(実施例5)
編紐支持体(g)を用いる以外は全て実施例3と同様の操作にて中空状多孔質膜を製造した。
得られた中空状多孔質膜は外径1.30mm、内外径比0.54、モジュール透水性能6.7m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度74N/fil、引張破断応力78.5MPaであった。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は50.0m
2であった。
【0063】
(実施例6)
支持体に使用する糸を、伸張伸縮率が0.3%であり、捲縮加工がなされていないポリエステル繊維(PET製、繊度167dtex)のマルチフィラメントを円筒状に丸編みし、180℃にて熱処理を行った以外は全て実施例2と同様の操作にて、編紐支持体(h)を製造した。この編紐支持体(h)の外径は1.87mmであり、内径は1.27mmであった。
編紐支持体(h)を用いる以外は全て実施例5と同様の操作にて、中空状多孔質膜を製造した。得られた中空状多孔質膜は外径1.90mm、内外径比0.67、モジュール透水性能12.5m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度137N/fil、引張破断応力87.3MPaであった。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は34.2m
2であった。
【0064】
(実施例7)
支持体に使用する糸を、伸長伸縮率が0.2%であり、捲縮加工がなされていないポリエステル繊維(PET製、繊度194dtex)のマルチフィラメントに変更し、180℃にて熱処理を施した以外は全て実施例1と同様の操作にて、編紐支持体(i)を製造した。この編紐支持体(i)の外径値は1.96mmであり、内径値は1.37mmであった。
編紐支持体(i)を用いる以外は全て実施例6と同様の操作にて中空状多孔質膜を製造した。
得られた中空状多孔質膜は外径1.97mm、内外径比0.70、モジュール透水性能12.6m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度153N/fil、引張破断応力97.2MPaであった。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は33.0m
2であった。
【0065】
(実施例8)
支持体に使用する糸を、伸長伸縮率が0.3%であり、捲縮加工がなされていないポリエステル繊維(PET製、繊度83dtex)のマルチフィラメントに変更し、200℃にて熱処理を施した以外は全て実施例1と同様の操作にて、編紐支持体(f)を製造した。この編紐支持体(f)の外径値は1.00mmであり、内径値は0.60mmであった。
編紐支持体(f)を用いる以外は全て実施例4と同様の操作にて中空状多孔質膜を製造した。
得られた中空状多孔質膜は外径1.11mm、内外径比0.54、モジュール透水性能1.9m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度56N/fil、引張破断応力81.8MPaであった。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は58.6m
2であった。
【0066】
(比較例1)
支持体に使用する糸を、伸張伸縮率が1.6%である捲縮加工のポリエステル繊維(PET製、繊度167dtex)のマルチフィラメントに変更した以外は全て実施例1と同様の操作にて、編紐支持体(c)を製造した。この編紐支持体(c)の外径は1.47mmであり、内径は0.79mmであった。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP1の19.3質量%と、ポリビニルピロリドンM1の11.0質量%と、溶媒であるN−メチルピロリドンの69.7質量%を60℃にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
【0067】
(中空状多孔質膜の製造)
第1の製膜原液を上述のものに変えた以外は全て実施例1と同様の操作にて中空状多孔質膜を製造した。
得られた中空状多孔質膜は外径1.67mm、内外径比0.47、モジュール透水性能1.9m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度117N/fil、引張破断応力68.8MPaであった。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は38.9m
2であった。
【0068】
(比較例2)
支持体に使用する糸を、伸張伸縮率が2.3%である捲縮加工のポリエステル繊維(PET製、繊度417dtex)のマルチフィラメントに変更し、210℃で熱処理を施した以外は全て実施例1と同様の操作にて、編紐支持体(d)を製造した。この編紐支持体(d)の外径は2.60mmであり、内径は1.67mmであった。
(第1の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP2の11.8質量%と、ポリフッ化ビニリデンP3の11.8質量%と、ポリビニルピロリドンM2の11.8質量%と、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの64.6質量%を60℃にて撹拌混合して、第1の製膜原液を得た。
(第2の製膜原液の調製)
ポリフッ化ビニリデンP2の19.2質量%と、ポリビニルピロリドンM2の10.1質量%と、溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドの70.7質量%を60℃にて撹拌混合して、第2の製膜原液を得た。
【0069】
(中空状多孔質膜の製造)
図3に示す製造装置を用いて中空状多孔質膜を製造した。
3重管紡糸ノズルの中央の管路に編紐支持体(d)を通過させるとともに、その外側の管路から第1の製膜原液を、さらに最外層から第2の製膜原液を送液し、編紐支持体(d)の外周面に第1および第2の製膜原液を塗布した後、溶剤濃度が8重量%で温度が70℃のN,N−ジメチルアセトアミド水溶液(凝固液)で満たされている第1の凝固浴槽へ導き、凝固させて第1および第2の多孔質膜層を形成した。
これを常温(25℃)、濃度13質量%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に浸漬した後、100℃の水蒸気雰囲気中に滞在させ、さらに90℃の温水中に浸漬するという一連の工程を3回繰り返し、膜中に残存するポリビニルピロリドンを洗浄、除去した。
上記洗浄工程の後に、105℃に熱した乾燥炉にて10分間乾燥させ、膜中に残存する水分を全て蒸発させた後、外径2.80mm、内外径比0.60、モジュール透水性能11.6m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度270N/fil、引張破断応力68.1MPaの中空状多孔質膜を得た。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は23.2m
2であった。
【0070】
(比較例3)
支持体に使用する糸を、伸長伸縮率が1.1%である捲縮加工のポリエステル繊維(PET製、繊度83dtex)のマルチフィラメントに変更し、200℃にて熱処理を施した以外は全て実施例1と同様の操作にて、編紐支持体(e)を製造した。この編紐支持体(e)の外径値は0.98mmであり、内径値は0.55mmであった。
編紐支持体(e)を用いる以外は全て実施例4と同様の操作にて中空状多孔質膜を製造した。
得られた中空状多孔質膜は外径1.07mm、内外径比0.51、モジュール透水性能1.9m
3/m
2/hr/MPa、引張破断強度48N/fil、引張破断応力72.5MPaであった。
製造した中空状多孔質膜を、充填率が50%になるように膜本数を調節してケースに収納した。このときの中空状多孔質膜の膜充填量は60.7m
2であった。
【0071】
編紐支持体(a)〜(h)の組成、外径R1、内径rを表1に示した。また、実施例1〜8、比較例1〜3の中空状多孔質膜の製膜原液の組成比、及び外径D1、内外径比、モジュール透水性能、モジュール充填量、引張破断強度、引張破断応力の測定結果を表2〜3に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
表2に示すように、実施例1の中空状多孔質膜は、1.0%以下の伸長伸縮率を有する非捲縮加工糸を筒状に加工した編紐支持体(a)を支持体として用いているため、中空状多孔質膜の外径D1が1.45mmと小さな値であっても、良好な透水性能を有していた。更に引張破断強度も98N/filと十分に大きな値であった。同様に、実施例4,5の中空状多孔質膜においても、非捲縮加工糸を筒状に加工した編紐支持体(g)を支持体として用いているため、良好な透水性能及び引張破断強度を有していた。
一方、比較例1の中空状多孔質膜は、1.0%よりも大きな伸長伸縮率を有する、捲縮加工を施した糸を筒状に加工した編紐支持体(c)を支持体として用いているため、中空状多孔質膜の外径D1が1.67mmと小さい場合、十分な透水性能を得ることができなかった。これは、1.0%よりも大きな伸長伸縮率を有する捲縮加工糸を筒状に加工した支持体は、筒の内壁の凹凸が大きいため、処理水が支持体内側を流れる際の内径圧損が大きくなったためであると考えられる。
比較例2では、繊度が417dtexの捲縮加工糸を支持体の材料として用いたために支持体の外径R1が大きくなり、中空状多孔質膜の外径D1を1.0〜2.0mmの範囲に制御することができなかった。また、比較例2の中空状多孔質膜を用いた膜モジュールは、中空状多孔質膜の外径D1が2.8mmと大きな値であるため、モジュールの高集積化が困難であった。