(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
エピタキシャルシリコンウェーハは、基板となるシリコンウェーハの片面にシリコンソースガスを吹き付けてエピタキシャル層を成長させたウェーハであり、メモリー系素子、ロジック系素子、撮像素子などの幅広い用途に使用されている。
【0003】
これらの半導体素子の集積度の向上のためには、エピタキシャルシリコンウェーハの平坦度は重要な要素の一つであるため、平坦度の高いエピタキシャルシリコンウェーハが強く求められている。さらに、エピタキシャルシリコンウェーハ1枚からより多くの半導体素子を作るためにも、ウェーハの全面、特にエッジ部(ウェーハ端部)まで平坦な形状が要求されるようになってきている。ウェーハ面のフラットネス(平坦度)を測定するときのエッジ除外領域(Edge Exclusion)は、従来、ウェーハエッジから3mmであったものが、現状では、2mmへと進んでおり、さらには1mmまでの縮小化も要求されつつある。
【0004】
ここで、
図10(A),(B)を用いて、シリコンウェーハの(100)面上にエピタキシャル層を成長させた場合のエピタキシャル層の膜厚分布について説明する。
【0005】
図10(B)に示した<110>方位を基準結晶方位とする。
図10(B)における<110>方位は、
図10(A)において、0度(360度),90度,180度,270度に対応し、
図10(B)における<100>方位は、
図10(A)における45度,135度,225度,315度に対応する。また、
図10(A)では、エピタキシャルウェーハの外周端から内側にそれぞれ1mm,2mm,3mm入ったところの周方向のエピタキシャル層の膜厚プロファイルを示している。
【0006】
図10(A)からわかるように、<100>方位の周縁部(エピタキシャルウェーハの外周端から1〜3mm程度のエピタキシャル表面周辺領域)ではエピタキシャル層が薄く、<110>方位の周縁部ではエピタキシャル層が厚く、周縁部におけるエピタキシャル層の膜厚に周方向で周期的な変化が生じている。これは、<100>方位の周縁部ではエピタキシャル層の成長速度が遅く、<110>方位の周縁部では成長速度が速いためである。このように、エピタキシャルシリコンウェーハの周縁部でのエピタキシャル層の成長速度が下地となるシリコンウェーハの結晶方位に依存する性質は成長速度方位依存性と呼ばれ、かかる成長速度方位依存性が、エピタキシャルシリコンウェーハの周縁部の平坦度悪化の要因となる。さらに、エピタキシャルシリコンウェーハの外周端に近づくほど、エピタキシャル層の膜厚の周方向での最大値と最小値の差が大きくなることも
図10(A)からわかる。これは、エピタキシャル層の成長速度方位依存性が外周端に近づくほど強いからである。
【0007】
このように、エピタキシャルシリコンウェーハの周縁部では、外周端に近づくほどエピタキシャル層の成長速度が結晶方位に依存して、エピタキシャル層の膜厚に周方向で周期的な変化が大きく生じるため、周縁部における平坦化は、特に外周端に近づくほど困難であることが知られている。この現象は、シリコンウェーハの(110)面上にエピタキシャル層を成長させる場合にも生じる。
【0008】
これまで、エピタキシャル層表面の平坦化については、エピタキシャル層の形成後に該エピタキシャル層表面を鏡面研磨して平坦度を高める方法(特許文献1)や、エピタキシャル層を成長させるときに供給する原料ガス流れを径方向に調整する方法(特許文献2)などが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、エピタキシャル層表面を鏡面研磨する工程を追加する必要があるため製造コストの上昇を招き、さらに研磨加工によるエピタキシャル層への加工ダメージのおそれもある。また、エピタキシャル層表面への鏡面研磨は基本的に面内均一に等量の研磨が行われるため、周方向の成長速度方位依存性はほとんど抑制できない。特許文献2に記載の方法では、エピタキシャル層の径方向の膜厚分布を調整することはできるものの、周方向の膜厚分布を調整することはできず、成長速度方位依存性による周縁部における平坦度の悪化を改善することはできない。
【0011】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、周縁部における平坦度が高いエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法およびこれにより得られるエピタキシャルシリコンウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成すべく本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
すなわち、エピタキシャル成長させる面の結晶面が(100)面または(110)面である場合、既述の成長速度方位依存性が発現しうるが、成長させる面側の端部の面取り幅を、従来使用される範囲よりも狭い200μm以下にすることで成長速度方位依存性を抑制できることを見出した。このようなシリコンウェーハ上にエピタキシャル層を成長させれば、成長速度方位依存性を抑制して周縁部における平坦度の高いエピタキシャルシリコンウェーハを得られる。本発明者らはこのような知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
本発明によるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、
片面の面方位が(100)面または(110)面であり、該片面側の端部の面取り幅が200μm以下であるシリコンウェーハの、前記片面上にエピタキシャル層を形成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明によるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、前記シリコンウェーハの中心部における前記エピタキシャル層の膜厚が2〜10μmであることが好ましい。
【0015】
また、本発明によるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、前記シリコンウェーハの前記片面側の端部の面取り幅が100μm以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明によるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、前記シリコンウェーハの他面側の端部の面取り幅が300〜400μmであることが好ましい。
【0017】
また、本発明によるエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法は、前記エピタキシャル層の表面において、下記に定義されるPV値を12.5以下に制御することが好ましい。
記
PV値は、エッジ除外領域を1mmとしたESFQRの、結晶方位ごとの平均値のうち、最大値から最小値を差し引いた値(nm)を、前記シリコンウェーハの中心部における前記エピタキシャル層の膜厚(μm)で除した値とする。
【0018】
また、本発明によるエピタキシャルシリコンウェーハは、
片面の面方位が(100)面または(110)面であり、該片面側の端部の面取り幅が200μm以下であるシリコンウェーハと、
該シリコンウェーハの前記片面上に形成されたエピタキシャル層と、を有するエピタキシャルシリコンウェーハであって、
前記エピタキシャル層の表面において、下記に定義されるPV値が12.5以下であることを特徴とする。
記
PV値は、エッジ除外領域を1mmとしたESFQRの、結晶方位ごとの平均値のうち、最大値から最小値を差し引いた値(nm)を、前記シリコンウェーハの中心部における前記エピタキシャル層の膜厚(μm)で除した値とする。
【0019】
また、本発明によるエピタキシャルシリコンウェーハは、前記シリコンウェーハの中心部における前記エピタキシャル層の膜厚が2〜10μmであることが好ましい。
【0020】
また、本発明によるエピタキシャルシリコンウェーハは、前記シリコンウェーハの他面側の端部の面取り幅が300〜400μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリコンウェーハのエピタキシャル成長させる面の端部の面取り幅を200μm以下にし、その後にエピタキシャル層を形成したので、成長速度方位依存性を抑制することができ、周縁部における平坦度が高いエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法およびこれにより得られるエピタキシャルシリコンウェーハを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に従うシリコンウェーハの(100)面上にエピタキシャル層を形成したエピタキシャルシリコンウェーハの模式図であり、(A)は<100>方位に沿った断面図であり、(B)は<110>方位に沿った断面図である。
【
図2】(A)は、本発明の一実施形態に従うエピタキシャルシリコンウェーハの基準結晶方位からの角度とエピタキシャル層の膜厚との関係を示す図であり、(B)は、(A)を45度周期化した図である。
【
図3】本発明の一実施形態に従うエピタキシャルシリコンウェーハの表面におけるESFQRを説明するための図であり、(A)はエピタキシャルシリコンウェーハの上面図であり、(B)は(A)におけるI−I断面図である。
【
図4】(A)は、実施例1,7および比較例7において、基準結晶方位からの角度とESFQRとの関係を示すグラフであり、(B)は、(A)を45度周期化したグラフである。
【
図5】(A)は、実施例2,8および比較例8において、基準結晶方位からの角度とESFQRとの関係を示すグラフであり、(B)は、(A)を45度周期化したグラフである。
【
図6】実施例2,8および比較例8において、基準結晶方位からの角度とエピタキシャル層の膜厚との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例1〜12および比較例1〜12におけるシリコンウェーハのおもて面の面取り幅A1とPV値との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例4,10および比較例4,10において、基準結晶方位からの角度とエピタキシャル層の膜厚との関係を示すグラフであり、(A)は外周端から1mmにおける膜厚を示すグラフであり、(B)は外周端から2mmにおける膜厚を示すグラフであり、(C)は(A)を45度周期化し、さらに0度における膜厚の相対値を用いたグラフであり、(D)は(C)と同様に(B)を45度周期化してさらに相対値を用いたグラフである。
【
図9】実施例4,10および比較例4,10において、基準結晶方位からの角度とエピタキシャルウェーハ表面のESFQRとの関係を示すグラフであり、(A)は外周端から1mmにおけるESFQRを示すグラフであり、(B)は外周端から1.5mmにおけるESFQRを示すグラフであり、(C)は(A)を45度周期化したグラフであり、(D)は(B)を45度周期化したグラフである。
【
図10】従来知られたエピタキシャル層の成長速度方位依存性を説明する図であり、(A)は、比較例7における基準結晶方位からの角度とエピタキシャル層の膜厚との関係を示すグラフであり、(B)は、基板となるシリコンウェーハの結晶方位を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、
図1〜9を参照しつつ本発明の一実施形態に従うエピタキシャルシリコンウェーハ1およびその製造方法を説明する。なお、基準とする結晶方位は
図10(A),(B)で既述した<110>方位と同様である。
【0024】
まず、
図1(A)を用いて、本発明の一実施形態に従うエピタキシャルシリコンウェーハ1の製造方法を説明する。まず、基板となるシリコンウェーハ2を作製する。シリコンウェーハ2のベベル領域22において、おもて面23側の端部の面取り幅をA1とし、裏面24側の端部の面取り幅をA2とすると、本実施形態ではシリコンウェーハ2のA1は200μm以下となるように面取りを行う。また、本実施形態では、シリコンウェーハ2のおもて面23の結晶面は(100)面である。なお、本明細書においては、上記のとおり、シリコンウェーハのうち、主にエピタキシャル層を成長させる面をシリコンウェーハの「おもて面」、その反対側の面をシリコンウェーハの「裏面」という。
【0025】
ここで、シリコンウェーハ2の表裏面の面取り幅は任意の方法により制御することができる。例えば、シリコンインゴッドからスライスされたシリコンウェーハに対して、シリコンウェーハの端面をダイヤモンドでコートされた面取り砥石などで面取りすればよい。
【0026】
次に、シリコンウェーハ2の片面であるおもて面23上にエピタキシャル層3を形成してエピタキシャルシリコンウェーハ1を得る。シリコンウェーハ2のおもて面23の上にエピタキシャル層3を形成するエピタキシャル成長条件は、特に限定されない。例えば、シリコンウェーハをサセプタ内に、ウェーハ表裏面を水平にして横置きする。次に、シリコンウェーハの表面の自然酸化膜やパーティクルの除去を目的として、チャンバ内に水素ガスを供給し、1150℃程度の温度で60秒間程度の水素ベークを行う。その後、キャリアガス(H
2ガス)、シリコンソースガス(4塩化けい素、モノシラン(SiH
4)、トリクロロシラン(SiHCl
3)、ジクロルシラン(SiH
2Cl
2)など)、ドーパントガス(ジボラン(B
2H
6)、フォスフィン(PH
3)など)をチャンバ内に供給し、チャンバ温度1000℃〜1150℃で加熱したシリコンウェーハの表面に、成長速度が1〜3μm/分となるようにエピタキシャル成長させることができる。
【0027】
ここで、
図1(A),(B)を用いて、シリコンウェーハ2のおもて面23にエピタキシャル層3を成長させるときに、エピタキシャル層3の成長速度が周縁部11でシリコンウェーハ2の結晶方位に依存する原因を説明する。
【0028】
本発明者らは、既述のエピタキシャル層の成長速度方位依存性は、ベベル領域22でのエピタキシャル成長速度が結晶方位ごとに異なるためであることに着目した。すなわち、<100>方位のベベル領域22でのエピタキシャル成長速度は、<110>方位のベベル領域22でのエピタキシャル成長速度よりも速い。これは、以下の現象によるものと推測される。
図1(A)に示すように、<100>方位のベベル領域22の面取り部に形成されるエピタキシャル層3には成長速度が速い(110)面が存在し、この部位でのエピタキシャル成長が促進される結果、おもて面23のエッジ領域21上のエピタキシャル層3の成長が抑制される。一方、
図1(B)に示すように、<110>方位のベベル領域22の面取り部に形成されるエピタキシャル層3には、成長速度が遅い(311)面および(111)面が存在するため、この部位でのエピタキシャル成長が抑制される結果、おもて面23のエッジ領域21上のエピタキシャル層3の成長が促進されてしまい、おもて面23のエッジ領域21上のエピタキシャル層3の膜厚は、<100>方位では薄く、<110>方位では厚くなるものと考えられる。
【0029】
こうして、
図2(A)に示すように、結晶方位によって周縁部11のエピタキシャル層3の膜厚には周方向で周期的な変化が生じる。本発明は、この周期的な変化を極力小さくすることを目的とするものである。
【0030】
ここで、本発明者らは、ベベル領域22の、おもて面23側の面取り幅A1を狭くすることにより、ベベル領域22上のエピタキシャル層3の領域が縮小され、既述のエピタキシャル層の成長速度方位依存性を抑制できることを見出した。したがって、おもて面23側の端部の面取り幅A1を200μm以下と、従来の面取り幅よりも狭くしたシリコンウェーハ2のおもて面23側にエピタキシャル層3を形成することにより、成長速度方位依存性を抑制し、周縁部11においても平坦度の高いエピタキシャルシリコンウェーハ1を得ることができる。一方、A1が200μm超であると、成長速度方位依存性の抑制作用は薄れてしまう。
【0031】
なお、上記実施形態ではシリコンウェーハ2のおもて面23の結晶面は(100)面であったが、(110)面であってもよい。(100)面の場合、エピタキシャル層3の膜厚の成長速度方位依存性は90度周期であり、(110)面の場合は成長速度方位依存性が180度周期である点でのみ異なる。A1を200μm以下とすることで成長速度方位依存性を抑制することができ、同様の効果が得られる。
【0032】
次に、A1を200μm以下としたシリコンウェーハ2上にエピタキシャル層3を成長させることにより得られる、エピタキシャルシリコンウェーハ1の周縁部11の平坦性の評価手法について説明する。
【0033】
図2(A)では、<110>方位および<100>方位での周縁部11のエピタキシャル層3の膜厚は、それぞれ4箇所全てで同じ値をとる、理論的な周方向の周期性の例を説明した。しかし実際には、サセプタに対してシリコンウェーハ2を正確に中央に載置できないなどの理由で、同じ結晶方位でも膜厚にはばらつきが発生する。かかるばらつきが存在しても、45度周期で平均値を取った値とすると、結晶方位ごとに膜厚の正確な評価ができる。45度周期で平均値を取るとは、すなわち、
図2(A)を0度〜45度,90度〜135度,180度〜225度,270度〜315度の4区分と、45度〜90度,135度〜180度,225度〜270度,315度〜360度のそれぞれを反転させた4区分とを合わせた計8区分の合計膜厚の平均値を取ることである(以下、「45度周期化」という。)。このようにすることで、同じ結晶方位に膜厚のばらつきがあっても、ばらつきの影響を最小化することができる(
図2(B))。なお、
図2(A),(B)では縦軸を周縁部のエピタキシャル層の膜厚としたが、ESFQRでも同様の周期性となり、同様の45度周期化が可能である。なお、
図2(B)に示すように、理論的には<110>方位である0度が最大値となり、<110>方位以外の方位(例えば<100>方位)が最小値となる。
【0034】
ここで、ESFQR(Edge flatness metric, Sector based, Front surface referenced, Site Front least sQuaresRange)とは、周縁部11に形成した扇形の領域(
図3、セクター51)内のSFQRを測定した平坦度を示す指標であり、値が小さいほど平坦度が高いことを意味する。本明細書におけるESFQRは、平坦度測定器(KLA-Tencor社:Wafer Sight)を用い、測定除外領域(エッジ除外領域52)を1mmとして、ウェーハ全周を5度間隔で72分割し、セクター長Dを30mmとしたセクター内を測定した値とする。また、SFQR(Site Front least sQuaresRange)とは、SEMI規格にかかる、所定サイト内の平坦度を示す指標である。このSFQRは、設定されたサイト内で最小二乗法により求められた基準面からの+側および−側のそれぞれの最大変位量の絶対値の和で表した、サイトごとに評価された値である。(
図3(A),(B))
【0035】
PV(Peak Valley)値は、上記ESFQRを用いて定義される。本発明では、エッジ除外領域52を1mmとしたESFQRの、結晶方位ごとの平均値のうち、最大値から最小値を差し引いた値(nm)を、シリコンウェーハの中心部におけるエピタキシャル層の膜厚(μm)で除した値がPV値として定義される。これは、
図2(B)におけるESFQRの最大値と最小値との差(nm)をエピタキシャル層の膜厚(μm)で除した値と同義である。つまり、PV値とは、成長させるエピタキシャル層3の膜厚を加味しつつ、エピタキシャルシリコンウェーハ1の周縁部11の平坦度を示す指標であり、値が低いほど周縁部11における平坦度が高い、すなわち、厚みばらつきが小さいことを意味する。
【0036】
本実施形態によれば、シリコンウェーハ2のおもて面23側の面取り幅A1を200μm以下とすることにより、成長速度方位依存性を抑制することができ、その結果、PV値が12.5以下という周縁部における平坦度の高いエピタキシャルシリコンウェーハ1を得ることができる。これは、ウェーハの外周端から1mmの場合も1.5mmの場合も周方向のESFQRの変動幅が小さくなることから、成長速度方位依存性が出現する位置がウェーハの外周側に移動したことによるものではなく、成長速度方位依存性そのものが低下するからである。
【0037】
また、本発明では、シリコンウェーハ2のおもて面23側の面取り幅A1を狭くするほど成長速度方位依存性を抑制できる点では好ましいが、ハンドリングや搬送時にエピタキシャルウェーハ1に割れ、欠けなどの発生を抑制するためには、シリコンウェーハ2のおもて面23側の面取り幅A1は100μm以上であることが好ましい。
【0038】
また、シリコンウェーハ2の裏面24側の面取り幅A2は300〜400μmであることが好ましい。A2はエピタキシャル層3を成長させるときの成長速度方位依存性に影響しないので、A1よりも広い面取り幅とすることで、エピタキシャルシリコンウェーハ1の搬送時の割れや欠けの発生を抑制することができる。さらに、エピタキシャル層3を成長させるときや、エピタキシャルウェーハ1を用いてデバイス作製するときの熱処理のためにも、裏面の面取り幅A2は300〜400μmであることが望ましい。
【0039】
さらに、本発明では、シリコンウェーハ2の中心部におけるエピタキシャル層4の膜厚は2〜10μmであることが好ましい。エピタキシャル層4の膜厚が2μm以上となると、面取り幅A1を広くした場合に成長速度方位依存性による周縁部の平坦度の悪化が顕著に表れてくるため、本発明は特に有効である。一方、膜厚が10μmを超えると、周縁部における成長速度方位依存性を抑制できる点では本発明は有効だが、これと異なる要因で、クラウン(周縁部におけるエピタキシャル層の盛り上がり)の発生を生じるおそれがある。
【0040】
(エピタキシャルウェーハ)
これまで説明した製造方法により得られるエピタキシャルウェーハ1は、基板となるシリコンウェーハ2と、このシリコンウェーハ2の片面であるおもて面23上に形成されたエピタキシャル層3とを有する。ここで、シリコンウェーハ2のおもて面23の結晶面は(100)面または(100)面であり、おもて面23側の面取り幅長さA1は200μm以下である。このエピタキシャルシリコンウェーハ1の周縁部11の平坦度の指標である既述のPV値は12.5以下である。
【0041】
また、本発明に従うエピタキシャルウェーハ1のエピタキシャル層3の膜厚は、2〜10μmであることが好ましい。
【0042】
さらに、本発明に従うエピタキシャルウェーハ1は、裏面24側の面取り幅長さA2は300〜400μmであることが好ましい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明の効果をさらに明確にするため、以下の実施例および比較例を挙げるが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0044】
(実施例1)
直径300mm、厚さ775μmであり、おもて面側の端部の面取り幅A1が130μmに面取り加工したp型シリコンウェーハを作製した。シリコンウェーハのおもて面の結晶面は(100)面であり、裏面の面取り幅A2は350μmである。
【0045】
このシリコンウェーハを、枚葉式エピタキシャル装置内のサセプタ上に載置し、チャンバ内に水素ガスを供給して、1130℃の温度で30秒間の水素ベークを行った後、キャリアガスである水素ガスと共にシリコンソースガス(トリクロロシラン)およびドーパントガス(ジボラン)を炉内に供給して、1130℃の温度でエピタキシャル成長を行い、成長速度2.2μm/分でシリコンウェーハおもて面に、シリコンウェーハの中心部における膜厚が2μmのエピタキシャル層を形成し、エピタキシャルシリコンウェーハとした。
【0046】
作製したエピタキシャルシリコンウェーハに対して、KLA-Tencor社製Wafer Sightを用いておもて面のESFQRを測定した。このとき、エッジ除外領域(Edge Exclusion)を1mm、セクター長を30mm、セクター数を72とした。
【0047】
(実施例2〜12および比較例1〜12)
おもて面側の端部の面取り幅A1および/またはエピタキシャル層の膜厚を表1に記載の値に変えたこと以外は、実施例1と同じ方法でエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。
【0048】
表1に、実施例1〜12および比較例1〜12のエピタキシャルシリコンウェーハのPV値およびESFQRの最大値を示す。
【0049】
【表1】
【0050】
図4(A)に、実施例1,7および比較例7についてのESFQRの測定結果を示す。
図4(B)は
図4(A)を45度周期化したグラフである。
【0051】
図5(A)に、実施例2,8および比較例8についてのESFQRの測定結果を示す。
図5(B)は
図5(A)を45度周期化したグラフである。
【0052】
図6は、同じく実施例2,8および比較例8について、エピタキシャルウェーハの周縁部(エピタキシャルウェーハの外周端から1mm内側の位置)のエピタキシャル層の膜厚の周方向プロファイルを示すグラフである。
【0053】
図7に、実施例1〜12および比較例1〜12のおもて面側の面取り幅A1に対するPV値の関係を示す。
【0054】
図8(A)および
図8(B)に、実施例4,10および比較例4,10について、エピタキシャルウェーハの外周端からそれぞれ1mm,2mm内側の位置におけるエピタキシャル層の膜厚の周方向プロファイルの測定結果を示すグラフを示す。
図8(C)は
図8(A)を45度周期化して、さらに0度における膜厚を1としたときの相対値を用いたグラフであり、
図8(D)も同様に
図8(B)を45度周期化し、さらに相対値を用いたグラフである。
【0055】
図9(A)および
図9(B)に、実施例4,10および比較例4,10について、エピタキシャルウェーハの外周端からそれぞれ1mm,1.5mm内側の位置におけるESFQRの測定結果を示す。
図9(C)は
図9(A)を45度周期化したグラフであり、
図9(D)も同様に
図9(B)を45度周期化したグラフである。
【0056】
図4(A),(B)および
図5(A),(B)から、おもて面側の面取り幅の長さA1が短いほど、平坦度(ESFQR)のばらつきが小さくなっていることがわかる。
図6からも、A1が短いほど成長速度方位依存性が抑制でき、周縁部におけるエピタキシャル層の膜厚の周方向ばらつきを抑制できることがわかる。
【0057】
また、
図7および表1から、シリコンウェーハ2のおもて面23側の面取り幅A1を200μm以下とすることにより、成長速度方位依存性を抑制することができたため、2μm以上のエピタキシャル層を形成したにも係わらず、PV値が12.5以下という周縁部における平坦度の高いエピタキシャルシリコンウェーハ1を得ることができたことがわかる。これは、
図8(A)〜(D)からエピタキシャルウェーハの外周端から1mmの場合も2mmの場合も、エピタキシャル層の周方向の膜厚の変動幅が小さくなっていることがわかること、さらに
図9(A)〜(D)からエピタキシャルウェーハの外周端から1mmの場合も1.5mmの場合も周方向のESFQRの変動幅が小さくなっていることがわかることから、成長速度方位依存性が出現する位置がウェーハの外周側に移動したことによるものではなく、成長速度方位依存性そのものが低下したものと結論付けることができる。