(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための蛍光体およびこれを用いた発光装置を例示するものであって、本発明は、蛍光体およびこれを用いた発光装置を以下に限定するものではない。
【0014】
なお、色名と色度座標との関係や、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。具体的には、380nm〜455nmが青紫色、455nm〜485nmが青色、485nm〜495nmが青緑色、495nm〜548nmが緑色、548nm〜573nmが黄緑色、573nm〜584nmが黄色、584nm〜610nmが黄赤色、610nm〜780nmが赤色である。
【0015】
本実施の形態に係る蛍光体は、以下の一般式で表される。
【0016】
M
xSi
yN
((2/3)x+(4/3)y):Eu(ただし、Mは、Ca、Sr、Baから選択される1種以上のアルカリ土類金属元素であり、x、yは、0.5≦x≦1.5、6.5≦y≦7.5である。)
また、この蛍光体は、400nmの光源により励起されたとき、440〜470nmに発光ピーク波長を有する性質を有する。
【0017】
本実施の形態に係る蛍光体は、Ca、SrおよびBaから選択される1種以上のアルカリ土類金属元素M、及び、Si、Nを含有し、Euで付活される蛍光体である。Siは珪素、Nは窒素、Euはユーロピウムである。この蛍光体は、後述するX線回折パターンで規定される結晶構造を有した生成相を含有している。本実施の形態に係る蛍光体は、紫外の短波長領域の光を吸収して、青色に発光する。ここで、本明細書において近紫外から可視光の短波長領域とは、特に限定されないが、250nm〜520nmであることが好ましい。
【0018】
本実施の形態に係る蛍光体が示すX線回折パターンについて、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態に係る蛍光体の例として、後述する実施例1〜4の蛍光体について、CuKα線によるX線回折パターンを示した図である。
【0019】
実施例1〜4に係る各X線回折パターンに示されているように、本実施の形態に係る蛍光体は、2θが29.3°〜29.9°、30.6°〜31.2°、55.8°〜56.4°、66.1°〜66.7°の範囲内に主な回折ピークを有する。
【0020】
ここで、本発明は、実施例1〜4に係る各X線回折パターンに示されているように、2θが29.3°〜29.9°の範囲内にある回折ピークの強度を100%としたとき、2θが30.6°〜31.2°の範囲内にある回折ピークの相対強度は410%〜650%である。同様に、2θが55.8°〜56.4°の範囲内にある回折ピークの相対強度は90%〜160%である。同様に、2θが66.1°〜66.7°の範囲内にある回折ピークの相対強度は60%〜105%である。
【0021】
ここで、本実施の形態に係る蛍光体のX線回折パターンの測定方法について説明する。XRD装置及びその測定条件を以下に示す。
【0022】
XRD装置:株式会社リガク製MiniFlex
X線管球:CuKα
管電圧:30kV
管電流:15mA
スキャン方法:2θ/θ
スキャン速度:4°/min
サンプリング間隔:0.02°
また、元素比の変更、他元素による固溶、さらに、X線が照射される試料面が平坦でなかったときや、XRD装置の測定条件の違いにより回折ピークの位置のズレが生じることもある。そのため、回折ピークの2θの範囲が若干ずれることは許容されるものとする。
【0023】
本実施の形態に係る蛍光体は、370nm前後の波長域にわたり効率よく励起される励起スペクトルを示す。本実施の形態に係る蛍光体は、この波長領域内の光で励起された時の最大発光強度を100%とすると、励起波長が270nm〜420nmの光で励起された時は50%以上の強度で発光することができる。
【0024】
本実施の形態に係る蛍光体は、440nm〜470nmの波長域にピーク波長を有し、青色に発光する。さらに、本実施の形態に係る蛍光体の発光スペクトルの半値幅は、39nmとすることができる。このように半値幅の狭い発光スペクトルを有することによって、色ずれが少なく色を再現することができる。
【0025】
また、実施例1〜4に基づくと、本実施の形態に係る蛍光体を構成する元素のモル比は、アルカリ土類金属元素をMとして、M+Eu:Si:N=1:6〜7:8.67〜10であることが好ましい。より好ましくは、M+Eu:Si:N=1:7:10である。このようなモル比で各元素を含有することにより、本実施の形態に係る蛍光体は、高輝度な青色光を放出することができる。
【0026】
また、実施例5〜9に基づくと、Eu濃度は、アルカリ土類金属元素をMとして、M+Eu:Eu=1:0.04〜0.08であることが好ましい。より好ましくは、M+Eu:Eu=1:0.06である。このようなモル比で各元素を含有することにより、本実施の形態に係る蛍光体は高輝度な青色光を放出することができる。
【0027】
また、本実施の形態に係る蛍光体のCa、Sr、Baから選択される1種以上のアルカリ土類金属元素Mは、Srであることが好ましい。またSrの一部をCa、Baで置換してもよい。実施例10〜11、比較例1〜3に基づくと、Srの一部をCaで置換する場合は、Srに対するCa濃度が10%以内であることが好ましい。また、実施例12〜14、比較例4〜5に基づくと、Srの一部をBaで置換する場合は、Srに対するBa濃度が50%以内であることが好ましい。このように、アルカリ土類金属元素Mについて、Ca、Sr、Baの配合比を調整することにより、蛍光体のピーク波長を適宜調整できる。
【0028】
また、本実施の形態に係る蛍光体は、希土類であるEuを付活剤として用いる。付活剤の濃度は、アルカリ土類金属元素Mに対して、好ましくは0.001%〜20%であり、より好ましくは4%〜8%である。ただし、付活剤はEuのみに限定されず、Euの一部を、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等の希土類金属やアルカリ土類金属で置換してもよい。これにより、置換された元素とEuが共付活し、この蛍光体の発光色の色調を変化させるなど発光特性を調整できる。
【0029】
また、本実施の形態に係る蛍光体は、その組成中にLi、Na、K、Rb、Cs、Mn、Re、Cu、Ag、Auからなる群より選択された少なくとも1種以上の元素を含有していてもよい。さらに、その他の元素についても蛍光体の特性を損なわない程度に混入されていてもよい。
【0030】
また、本実施の形態に係る蛍光体は、後述するX線回折パターンから結晶構造を解析すると、斜方晶系に帰属する結晶の単位格子を有している。また、この蛍光体は、大部分が結晶を有することが好ましい。具体的には、少なくとも50重量%以上、より好ましくは80重量%以上が結晶を有していることが好ましい。これは、発光性を有する結晶相の割合を示し、50重量%以上、結晶相を有しておれば、実用に耐え得る発光が得られるためである。また、このような粉体であれば、製造及び加工が容易である。例えば、ガラス体(非晶質)は構造がルーズなため、蛍光体中の成分比率が一定せず色度ムラを生じる恐れがある。したがって、これを回避するため生産工程における反応条件を厳密に一様になるよう制御する必要が生じる。
【0031】
また、本実施の形態に係る蛍光体を発光装置に搭載することを考慮すれば、この蛍光体の平均粒径は、1μm乃至100μmの範囲が好ましく、より好ましくは2μm乃至50μmである。この平均粒径値を有する蛍光体が、頻度高く含有されていることが好ましい。さらに、粒度分布においても狭い範囲に分布しているものが色ムラを抑制でき好ましい。なお、この平均粒径は、F.S.S.S.No(Fisher Sub Sieve Sizer’s No)における空気透過法で得られる。具体的には、気温25℃、湿度70%の環境下において、1cm
3分の試料を計り取り、専用の管状容器にパッキングした後一定圧力の乾燥空気を流し、差圧から比表面積を読み取り平均粒径に換算する。
【0032】
(製造方法)
以下に、本実施の形態に係る蛍光体の製造方法について説明する。この蛍光体は、その組成に含有される元素の単体や酸化物、炭酸塩あるいは窒化物などを原料とし、各原料を所定の仕込み組成比となるように秤量する。「仕込み組成比」とは、各原料の混合物において、蛍光体の構成元素を含む原料における各元素のモル比が示されている。
【0033】
本実施の形態に係る蛍光体の仕込み組成比は、アルカリ土類金属元素をMとして、M+Eu:Si:N=1:5〜8:7.33〜11.33であり、好ましくは、M+Eu:Si:N=1:6〜7:8.67〜10である。この関係を満たすように各原料を秤量する。また、これらの原料にフラックスなどの添加材料を適宜加えることができる。さらに、必要に応じてホウ素を含有させることもできる。
【0034】
これらの原料は、混合機を用いて湿式又は乾式で均一になるように混合する。混合機は工業的に通常用いられているボールミルの他、振動ミル、ロールミル、ジェットミルなどの粉砕機を用いることができる。また、粉末の比表面積を一定範囲とするために、工業的に通常用いられている沈降槽、ハイドロサイクロン、遠心分離器などの湿式分離機、サイクロン、エアセパレータなどの乾式分級機を用いて分級することもできる。
【0035】
この混合物を、SiC、石英、アルミナ、窒化ホウ素等の材質からなる坩堝内や板状のボートに載置した後、焼成する。焼成には、管状炉、小型炉、高周波炉、メタル炉などを使用することができる。
【0036】
また、焼成は、流通する還元雰囲気中にて行うことが好ましい。具体的には、窒素雰囲気、窒素及び水素の混合雰囲気、アンモニア雰囲気又は、それらの混合雰囲気中で焼成することが好ましい。
【0037】
焼成温度は、好ましくは1500℃から2100℃であり、さらに好ましくは1900℃から2000℃である。また、焼成時間は好ましくは2時間から20時間であり、より好ましくは5時間から10時間である。
【0038】
焼成後は、焼成されたものを粉砕、分散、濾過等して目的の蛍光体粉末を得る。固液分離は濾過、吸引濾過、加圧濾過、遠心分離、デカンテーションなどの工業的に通常用いられる方法により行うことができる。また乾燥は、真空乾燥機、熱風加熱乾燥機、コニカルドライヤー、ロータリーエバポレーターなどの工業的に通常用いられる装置や方法により達成できる。
【0039】
ここで、具体的な蛍光体原料について説明する。仕込み組成比の元素Mを構成するCa、Sr、Baの原料は、元素単独を使用できる他、金属、酸化物、イミド、アミド、窒化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩など各種の塩類などの化合物を使用することができる。具体的には、SrCO
3、Sr
3N
2、CaCO
3などを用いることができる。
【0040】
また、仕込み組成比のSiは、元素単独の他、金属、酸化物、イミド、アミド、窒化物及び各種塩類などの化合物を用いることができる。また、予め元素M、Siを混合したものを使用してもよい。具体的には、Si
3N
4、SiO
4などを用いることができる。また、例えば、Siを含有した化合物において、原料のSiの純度は、2N以上のものが好ましいが、Li、Na、K、B、Cuなどの異なる元素が含有されていてもよい。さらに、Siの一部をAl、Ga、In、Ge、Sn、Ti、Zr、Hfで置換させるために、それらの元素を含有した化合物を使用することもできる。
【0041】
さらに、付活剤のEuは、好ましくは単独で使用されるが、ハロゲン塩、酸化物、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩などを使用することができる。具体的には、Eu
2O
3などを用いることができる。また、Euの一部を他の元素で置換する場合は、Euを含有した化合物に、他の希土類元素などを含有した化合物を混合することができる。
【0042】
さらに必要に応じて加える元素は、通常、酸化物、若しくは水酸化物で加えられるが、これに限定されるものではなく、メタル、窒化物、イミド、アミド、若しくはその他の無機塩類でも良く、また、予め他の原料に含まれている状態でも良い。また、各々の原料は、平均粒径が、約0.1μm以上15μm以下、より好ましくは、約0.1μmから10μmの範囲である。これは、他の原料との反応性、焼成時及び焼成後の粒径制御などの観点から好ましく、上記範囲以上の粒径を有する場合は、アルゴン雰囲気中若しくは窒素雰囲気中、グローブボックス内で粉砕を行うことで達成できる。
【0043】
以下に、本実施の形態に係る蛍光体を搭載した発光装置の例を示す。発光装置には、例えば、蛍光ランプ等の照明器具、ディスプレイやレーダ等の表示装置、液晶用バックライト等が挙げられる。また、励起光源としては近紫外から可視光の短波長領域の光を放つ発光素子が好ましい。特に半導体発光素子は、小型で電力効率が良く鮮やかな色の発光をする。他の励起光源として、既存の蛍光灯に使用される水銀灯等を適宜利用できる。
【0044】
発光素子を搭載した発光装置として、いわゆる砲弾型や表面実装型など種々のタイプがある。本実施の形態では、
図9を参照しながら、表面実装型の発光装置について例示して説明する。
【0045】
図9は、本実施の形態に係る発光装置100の模式図である。本実施の形態にかかる発光装置100は、凹部を有するパッケージ110と、発光素子101と、発光素子101を被覆する封止部材103とから構成されている。発光素子101は、パッケージ110に形成された凹部の底面112に配置されており、パッケージ110に配置された正負一対のリード電極111に導電性ワイヤ104によって電気的に接続されている。封止部材103は、凹部内に充填されており、蛍光体102を含有する樹脂によって形成されている。さらに、正負一対のリード電極111は、その一端がパッケージ110の外側面に突出されて、パッケージ110の外形に沿うように屈曲されている。これらのリード電極111を介して外部から電力の供給を受けて発光装置100が発光する。以下に、本実施の形態に係る発光装置を構成する部材について説明する。
【0046】
(発光素子101)
発光素子101は、紫外線領域から可視光領域までの光を発することができる。この発光素子101は、例えば、窒化物半導体素子(In
XAl
YGa
1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いることができる。
【0047】
(蛍光体102)
本実施の形態に係る蛍光体102は、封止部材103の下方へ自重により沈降するよう配合されている。このように発光素子101に接近して蛍光体を配置することにより、発光素子101からの光を効率よく波長変換することができ、発光効率の優れた発光装置とすることができる。また、蛍光体102を封止部材103中にほぼ均一の割合で混合することによって、色ムラのない光を得るようにすることもできる。
【0048】
また、蛍光体102は、本発明にかかる蛍光体の他、2種以上の蛍光体を用いてもよい。例えば、本実施の形態に係る発光装置100において、青色光を放出する発光素子101と、これに励起されて緑色光を発する蛍光体と、赤色光を発する蛍光体を併用することで、演色性に優れた白色光を得ることができる。赤色光を発する蛍光体としては、(Ca
1−xSr
x)AlSiN
3:Eu(0≦x≦1.0、0≦y≦0.5)、(Ca
1−ZSr
Z)
2Si
5N
8:Eu(0≦z≦1.0)またはK
2SiF
6:Mn等の蛍光体を、本実施の形態に係る蛍光体と併用して用いることができる。これらの赤色光を発する蛍光体を併用することで、三原色に相当する成分光の半値幅を広くできるため、より暖色系に富んだ白色光を得られる。
【0049】
その他、さらに併用できる蛍光体の一例として、赤色光を発する蛍光体としては、(La,Y)
2O
2S:Eu等のEu付活酸硫化物蛍光体、(Ca,Sr)S:Eu等のEu付活硫化物蛍光体、(Y,Tb,Gd)
3Al
5O
12:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)
10(PO
4)
6Cl
2:Eu,Mn等のEu,Mn付活ハロリン酸塩蛍光体、Lu
2CaMg
2(Si,Ge)
3O
12:Ce等のCe付活酸化物蛍光体、α型サイアロン等のEu付活酸窒化物蛍光体を用いることができる。
【0050】
また、緑色光を発する蛍光体としては、(Ca,Sr,Ba)
2SiO
4:Eu、Ca
3Sc
2Si
3O
12:Ce等のケイ酸塩蛍光体、Ca
8MgSi
4O
16Cl
2−δ:Eu,Mn等のクロロシリケート蛍光体、(Ca,Sr,Ba)
3Si
6O
9N
4:Eu、(Ca,Sr,Ba)
3Si
6O
12N
2:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si
2O
2N
2:Eu、CaSc2O4:Ce、β型サイアロン等の酸窒化物蛍光体、Y
3(Al,Ga)
5O
12:Ce等のCe付活アルミン酸塩蛍光体、SrGa
2S
4:Eu等のEu付活硫化物蛍光体、を用いることができる。
【0051】
また、青色光を発する蛍光体としては、(Sr,Ca,Ba)Al
2O
4:Eu、(Sr,Ca,Ba)
4Al
14O
25:Eu、(Ba,Sr,Ca)MgAl
10O
17:Eu、BaMgAl
14O
25:Eu,Tb,Sm等のEu付活アルミン酸塩蛍光体、(Ba,Sr,Ca)MgAl
10O
17:Eu,Mn等のEu,Mn付活アルミン酸塩蛍光体、SrGa
2S
4:Ce、CaGa
2S
4:Ce等のCe付活チオガレート蛍光体、(Sr,Ca,Ba,Mg)
10(PO
4)
6Cl
2:Eu等のEu付活ハロリン酸塩蛍光体を用いることができる。
【0052】
(封止部材103)
封止部材103は、発光装置100の凹部底面112上に配置された発光素子101を覆うように、透光性樹脂を材料として、充填されて形成される。透光性樹脂は、シリコーン樹脂組成物を使用することが好ましいが、エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物等の絶縁樹脂組成物を使用することもできる。また、封止部材103には蛍光体102が含有されているが、さらに適宜、添加部材を含有させることもできる。例えば、光拡散材を含むことで、発光素子からの指向性を緩和させ、視野角を増大させることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。ただし、これらの実施例は本発明の技術思想を具体化するための蛍光体及びその製造方法を例示するものであって、本発明に係る蛍光体及びその製造方法を下記のものに特定しない。
【0054】
以下、本発明に係る蛍光体の実施例1〜14と、その比較例1〜5について説明する。実施例1〜14および比較例1〜5において、原料は、窒化ストロンチウム(Sr
3N
2)、窒化カルシウム(Ca
3N
2)、窒化バリウム(Ba
3N
2)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、酸化ユーロピウム(Eu
2O
3)を共通して使用し、これらの原料を以下の各仕込み組成比になるように秤量し、蛍光体をそれぞれ得た。
【0055】
(実施例1〜4)
実施例1に係る蛍光体の仕込み組成比は、SrSi
7N
10:Eu
0.04である。具体的には、Sr
3N
2、Si
3N
4、Eu
2O
3の粉末を原料とし、モル比でSr
3N
2:Si
3N
4:Eu
2O
3=0.32:2.33:0.02となるように各原料を秤量した。具体的には、各原料を以下に示す質量に計量した。ただし、各蛍光体原料の純度を100%と仮定している。
Sr
3N
2・・・・10.89g
Si
3N
4・・・・38.29g
Eu
2O
3・・・・0.82g
窒素パージされたグローブボックス中で、上記のように秤量した原料を乳鉢によって乾式で十分に混合した後、当該混合物を炉内に載置し、窒素雰囲気中、約2000℃で約5時間の焼成を行った。これにより、仕込み組成比がSrSi
7N
10:Eu
0.04である蛍光体を得た。実施例1の蛍光体の生成における反応式の例を下記の[化1]に示す。
【0056】
【化1】
【0057】
ただし、上記の化学式は、原料に含まれる元素が失われることなく反応したとする、理論上想定される反応式である。本実施の形態に係る蛍光体は、焼成する際に元素の一部が失われているため、上記の反応式に示された生成物の組成とは異なる組成を有している。
【0058】
実施例2〜4の蛍光体は、仕込み組成の変更の他は、実施例1と同様の操作を行うことによって得た。
【0059】
表1は、実施例1〜4の蛍光体について、仕込み組成比と、焼成時間、発光色の色度座標、輝度、発光スペクトルのピーク波長を測定した結果を示す。表1における輝度は、実施例1の輝度を100%とした時の相対輝度である。
【0060】
特に断りのない限り、以下の実施例に係る蛍光体は、400nmの励起光を用いて、蛍光体を発光させている。
【0061】
【表1】
【0062】
この結果から、本実施の形態に係る蛍光体を構成する元素のモル比は、アルカリ土類金属元素をMとして、M+Eu:Si:N=1:6〜7:8.67〜10であることが好ましい。
【0063】
図1は、実施例1〜4の蛍光体のX線回折パターンを示す。また、表2は、実施例1〜4の蛍光体のX線回折において、各2θ範囲内にある回折ピークの強度の値を示す。この回折ピークの強度は、2θが29.3°〜29.9°の範囲内にある回折ピークの強度を100%とし、その他の回折ピークの相対強度を示している。
【0064】
【表2】
【0065】
この結果から、仕込みの元素比によって各2θ範囲におけるピーク強度比が変化することがわかる。
【0066】
図2は、実施例1の蛍光体における励起スペクトルを示す。
図3は、実施例1の蛍光体における反射スペクトルを示す。
図4は、実施例1における蛍光体を400nmで励起した際の発光スペクトルを示す。
図5は、実施例1に係る蛍光体のSEM像を示す。
【0067】
この結果から、実施例1の蛍光体は、300〜400nmにピーク波長を持つ光で励起すると、456nmにピーク波長を持つ青色に発光することがわかる。
【0068】
(実施例5〜9)
実施例5〜9の蛍光体は、Srに対するEu濃度が、所定の濃度になるように原料を秤量した他は、実施例1と同様の操作を行って得た。
【0069】
表3は、実施例5〜9の蛍光体について、仕込み組成比、発光色の色度座標、輝度、発光スペクトルのピーク波長を測定した結果を示す。ここで輝度は、実施例7の輝度を100%とした時の相対輝度である。
【0070】
【表3】
【0071】
この結果から、実施例5〜9の蛍光体は、400nmにピーク波長を持つ光で励起すると、455nm〜457nmにピーク波長を持つ青色に発光した。Eu濃度を増加させるにつれて、僅かではあるがピーク波長を長波長にすることができる。また、Eu濃度が6%までは発光輝度が向上するが、それを超えると濃度消光が生じ、発光輝度が低下すると思われる。
【0072】
図6は、実施例5〜9における蛍光体のX線回折パターンを示す。また、表4は、実施例5〜9に係る蛍光体のX線回折において、各2θ範囲内にある回折ピークの強度の値を示す。この回折ピークの強度は、2θが29.3°〜29.9°の範囲内にある回折ピークの強度を100%とし、その他の回折ピークの相対強度を示している。
【0073】
【表4】
【0074】
この結果より、Srに対するEu濃度によって各2θ範囲にあるピーク強度比も変化するが、いずれも先に示した各2θ範囲での強度範囲を満たしている。
【0075】
(実施例10〜11、比較例1〜3)
実施例11および比較例1〜3の蛍光体は、Srの一部をCaで置換するために、Sr
3N
2の一部をCa
3N
2に置き換えて秤量および混合した他は、実施例1と同様の操作を行って得たものである。
【0076】
表5は、実施例10〜11および比較例1〜3の蛍光体について、仕込み組成比、発光色の色度座標、輝度、発光スペクトルのピーク波長を測定した結果を示す。ここで輝度は、Ca置換を行っていない、実施例10の輝度を100%とした時の相対輝度である。
【0077】
【表5】
【0078】
この結果から、実施例11のSrのCaによる10%置換では発光輝度を約80%維持できるが、比較例1〜3の30%以上の置換では発光輝度が大幅に低下した。また、比較例2〜3の50%以上の置換では、メインピーク波長も変化した。
【0079】
図7は、実施例10〜11および比較例1〜3の蛍光体のX線回折パターンを示す。また、表6は、実施例10〜11および比較例1〜3の蛍光体のX線回折において、各2θ範囲内にある回折ピークの強度の値を示す。この回折ピークの強度は、2θが29.3°〜29.9°の範囲内にある回折ピークの強度を100%とし、その他の回折ピークの相対強度を示している。
【0080】
【表6】
【0081】
この結果は、SrのCaによる置換によって、特に約30%以上で、各2θ範囲にあるピーク強度比が大きく変化し、本発明の蛍光体とは異なるXRDパターンになることを示す。このことから、SrをCaで置換することにより、特に約30%以上で、別の組成が生成してしまうため、発光輝度が大幅に低下してしまうと思われる。
【0082】
(実施例12〜14、比較例4〜5)
実施例12〜14および比較例4〜5の蛍光体は、Srの一部をBaで置換するために、Sr
3N
2の一部をBa
3N
2に置き換えて秤量および混合した他は、実施例1と同様の操作を行って得た。
【0083】
表7は、実施例12〜14および比較例4〜5の蛍光体について、仕込み組成比、発光色の色度座標、輝度、発光スペクトルのピーク波長を測定した結果を示す。ここで、輝度は、Ba置換を行っていない、実施例12の輝度を100%とした時の相対輝度である。
【0084】
【表7】
【0085】
この結果から、実施例12〜14のSrのBaによる約10〜50%置換では発光輝度を90%以上維持できるが、比較例4の約70%置換では発光輝度80%を下回った。また、置換量によらず、ピーク波長はほとんど変化しない。
【0086】
図8は、実施例12〜14および比較例4〜5の蛍光体のX線回折パターンを示す。また、表8は、実施例12〜14および比較例4〜5のX線回折における各2θ範囲内にある回折ピークの強度の値を示す。この回折ピークの強度は、2θが29.3°〜29.9°の範囲内にある回折ピークの強度を100%とし、その他の回折ピークの相対強度を示している。
【0087】
【表8】
【0088】
この結果は、SrのBaによる置換では、Caでの置換時と比較して、50%置換まで各2θ範囲にあるピーク強度比に大きな変化がないことを示す。また、SrのBaによる置換では、置換量の増加に伴って低角度側へのシフトが見られる。これは、元の結晶構造を維持したままSrがBaで置換されて格子定数が大きくなっていることを示している。このことから、SrのBaによる置換の場合、Caでの置換と異なり、元の構造を概ね維持したまま置換できるため、発光輝度が急激に低下しないものと推測される。