【文献】
BROWNSTEIN,S. et al,Canadian Journal of Chemistry,1978年,Vol.56(21) ,pp.2764-2767
【文献】
ZHOU,Z-B. et al,ChemPhysChem,2005年,Vol.6(7),pp.1324-1332
【文献】
ZHOU,Z-B. et al,Chemistry - A European Journal,2004年,Vol.10(24),pp.6581-6591
【文献】
ZHANG,Y. et al,Angewandte Chemie, International Edition,2011年,Vol.50(4), ,pp.935-937
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、一般に、イミダゾリニウム等のカチオンと、Br
−、Cl
−、BF
4−、PF
6−、(CF
3SO
2)
2N
−等のアニオンとの組み合わせで構成され、難燃性、不揮発性、高いイオン伝導性、優れた熱安定性を示すため、電池やキャパシタ用の電解液、環境適合性の高い溶媒(グリーン溶媒)等への応用が広く研究されている。
イオン液体は上記のように従来の有機溶媒にない優れた特徴を持っている。しかし、一方では粘度が高いという特徴も有する。粘度が高いと液体の移送や濾過の作業性が低下する。また、反応用溶媒として用いる場合は、反応速度が低下し、電池の電解液として用いる場合は、充放電に関与するイオンの移動度が低くなる結果、充放電速度が低下する。このように、イオン液体を利用する場合、粘度の高さが障害となることが多く、低粘度のイオン液体が求められている。
【0003】
多くの場合、イオン液体の粘度は、同じアニオンで比較すると、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンの場合に最低となることが知られている。1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオンとの組み合わせで、常温に於いて低粘度のイオン液体としては、特許文献1に(FSO
2)
2N
−をアニオンとするイオン液体が開示されており、粘度は非特許文献1に25℃で17mPasと報告されている。また、非特許文献2に(CN)
2N
−及び(CN)
3C
−をアニオンとするイオン液体が報告されており、粘度は22℃でそれぞれ17及び18mPasである。さらに、特許文献2にはCF
2=CFBF
3−をアニオンとするイオン液体が開示されており、粘度は25℃で16mPasである。
しかしながら、低粘度のイオン液体であっても、従来の溶媒と比較すると粘度は高い。そのため、さらに低粘度のイオン液体が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について更に詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態及び実施例に限定されない。
【0020】
イオン液体
イオン液体に関しては幾つかの定義が提唱されている(イオン液体II―驚異的な進歩と多彩な近未来―,シーエムシー出版,pp4−15,2006)。本発明において、イオン液体とは、少なくとも一方が有機イオンであるカチオンとアニオンのみから成り、融点が100℃以下である物質を示す。また、本発明のイオン液体は、少なくとも常温で液体であることが好ましい。
【0021】
アニオン成分
本発明のイオン液体を構成するアニオン成分には下記化学式(1)で示されるアニオンが用いられる。
【0023】
さらに、本発明のイオン液体を構成するアニオン成分には下記化学式(2)で示されるアニオンが用いられる。
【0025】
カチオン成分
本発明において用いられるカチオン成分は特に制限されない。ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンやテトラフルオロボレートアニオン等とイオン液体を形成するカチオンを本発明に於いても用いることができる。好ましいカチオンとしては下記化学式(3)で示されるカチオンが挙げられる。但し、式中、Zは窒素原子又はリン原子、R
1〜R
4は、水素原子、炭素数が20以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示し、R´
1〜R´
12は水素原子、炭素数が10以下のアルキル基、アルコキシアルキル基、トリアルキルシリルアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又は複素環基を示す。
【0027】
R
1〜R
4としては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、トリメチルシリルメチル基、アリル基が好ましい。R´
1〜R´
12としては水素原子、メチル基が好ましい。好ましいカチオンとしてより具体的には、下記化学式(6)で示されるカチオンがあげられる。但し、式中、nは1〜10の整数を示す。
【0029】
イオン液体の製造方法
本発明のイオン液体の代表的な製造法を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
先ず、BF
3(NCO)
−をアニオンとするイオン液体の製造法について説明する。
<第一の製造法>
【0032】
上記反応式(1)で示される第一の製造法は、シアン酸イオン又はイソシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体と三フッ化ホウ素とを反応させる製造法である。式中、C
+は本発明のイオン液体を構成するカチオン、OCN
−はシアン酸イオン、NCO
−はイソシアン酸イオン、nは0〜2の整数、Lは三フッ化ホウ素と錯体を形成する化合物である。
【0033】
シアン酸イオンをアニオンとするイオン液体はJournal of Materials Chemistry,Vol.21,pp19219−19225,2011に記載の公知の方法により製造することができる。具体的には、目的カチオンのハロゲン化物とシアン酸塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩等)とを反応させることにより製造することができる。また、イソシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体も同様に製造することができる。三フッ化ホウ素はBF
3ガス、ジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、ピペリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体として製造に用いることができる。三フッ化ホウ素はシアン酸イオン又はイソシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体1モルに対して1〜2モル反応させることが好ましい。反応は溶媒を用いても用いなくても実施することができる。溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステルを用いることができる。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応温度としては−80℃〜50℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。反応後、溶媒、三フッ化ホウ素等の揮発性成分を留去し、カラムクロマトグラフィーや溶媒抽出で精製することにより、本発明のイオン液体を得ることができる。
【0036】
上記反応式(2)で示される第二の製造法は、先ずトリフルオロ(イソシアナト)ホウ酸塩を製造し、続いてトリフルオロ(イソシアナト)ホウ酸塩と目的カチオンのハロゲン化物塩とを反応させる製造法である。式中、M
+はLi
+、Na
+、K
+、NH
4+、Ag
+のいずれかのカチオン、OCN
−はシアン酸イオン、NCO
−はイソシアン酸イオン、nは0〜2の整数、Lは三フッ化ホウ素と錯体を形成する化合物、C
+は本発明のイオン液体を構成するカチオン、X
−はCl
−、Br
−、I
−のいずれかのアニオンを示す。
【0037】
トリフルオロ(イソシアナト)ホウ酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。トリフルオロ(イソシアナト)ホウ酸塩はシアン酸塩又はイソシアン酸塩と三フッ化ホウ素とを反応させることにより製造することができる。シアン酸塩及びイソシアン酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。三フッ化ホウ素はBF
3ガス、ジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、ピペリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体として製造に用いることができる。三フッ化ホウ素はシアン酸塩又はイソシアン酸塩1モルに対して1〜2モル反応させることが好ましい。反応には溶媒を用いることが好ましく、溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。反応温度としては−80℃〜50℃が好ましい。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。反応後、溶媒、三フッ化ホウ素等の揮発性成分を留去し、カラムクロマトグラフィーや溶媒抽出、再結晶で精製することにより、トリフルオロ(イソシアナト)ホウ酸塩を得ることができる。
【0038】
イオン液体の製造は、目的カチオンの電荷とトリフルオロ(イソシアナト)ホウ酸アニオンの電荷が等しくなるように反応させることにより実施することができる。例えば、1価のカチオンの場合は1:1のモル比で反応させ、2価のカチオンの場合は1:2のモル比で反応させる。反応溶媒としては水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンが好ましい。目的カチオンのハロゲン化物塩及びトリフルオロ(イソシアナト)ホウ酸塩はそれぞれ純度99%以上に精製して用いることが好ましく、それぞれの溶液を調整し、一方の溶液に他方の溶液を添加することにより反応を行う。反応は空気中、常温で実施することができる。ハロゲン化物塩が副生するが、濾過あるいはイオン液体が疎水性の場合には、水で洗浄することによりハロゲン化物塩を除去することができる。
【0041】
上記反応式(3)で示される第三の製造法は、シアン酸塩又はイソシアン酸塩と目的カチオンのハロゲン化物とを三フッ化ホウ素存在下で反応させる製造法である。式中、M
+はLi
+、Na
+、K
+、NH
4+、Ag
+のいずれかのカチオン、OCN
−はシアン酸イオン、NCO
−はイソシアン酸イオン、C
+は本発明のイオン液体を構成するカチオン、X
−はCl
−、Br
−、I
−のいずれかのアニオン、nは0〜2の整数、Lは三フッ化ホウ素と錯体を形成する化合物を示す。
【0042】
シアン酸塩及びイソシアン酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。反応は目的カチオンの電荷とシアン酸アニオン又はイソシアン酸アニオンの電荷が等しくなるように実施する。例えば、1価のカチオンの場合は1:1のモル比で反応させ、2価のカチオンの場合は1:2のモル比で反応させる。三フッ化ホウ素はBF
3ガス、ジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、ピペリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体として製造に用いることができる。三フッ化ホウ素はシアン酸塩又はイソシアン酸塩1モルに対して1〜2モル反応させることが好ましい。反応には溶媒を用いることが好ましく、溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応温度としては−80℃〜50℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。反応後、溶媒、三フッ化ホウ素等の揮発性成分を留去し、カラムクロマトグラフィーや溶媒抽出で精製することにより、本発明のイオン液体を得ることができる。
【0043】
次に、B(CN)
3(NCO)
−をアニオンとするイオン液体の製造法について説明する。
<第一の製造法>
【0045】
上記反応式(4)で示される第一の製造法は、チオシアン酸イオン又はイソチオシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体とトリシアノボランとを反応させる製造法である。式中、C
+は本発明のイオン液体を構成するカチオン、SCN
−はチオシアン酸イオン、NCS
−はイソチオシアン酸イオン、nは0〜2の整数、L′はトリシアノボランと錯体を形成する化合物である。
【0046】
チオシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体は欧州特許第1512460号に記載の公知の方法により製造することができる。具体的には、目的カチオンのハロゲン化物とチオシアン酸塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩等)とを反応させることにより製造することができる。また、イソチオシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体も同様に製造することができる。トリシアノボランはChemistry of Materials,Vol.19,pp5890−5901,2007に記載の公知の方法により製造することができる。トリシアノボランはB(CN)
3単独又はジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、トリメチルアミン錯体、ピペリジン錯体、ピリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体、トリメチルシリルシアニド錯体として製造に用いることができる。トリシアノボランはチオシアン酸イオン又はイソチオシアン酸イオンをアニオンとするイオン液体1モルに対して1モル反応させることが好ましい。反応は溶媒を用いても用いなくても実施することができる。溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステルを用いることができる。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応温度としては−80℃〜50℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。反応後、溶媒等の揮発性成分を留去することにより、本発明のイオン液体を得ることができる。
【0049】
上記反応式(5)で示される第二の製造法は、先ずトリシアノ(イソチオシアナト)ホウ酸塩を製造し、続いてトリシアノ(イソチオシアナト)ホウ酸塩と目的カチオンのハロゲン化物塩とを反応させる製造法である。式中、M
+はLi
+、Na
+、K
+、NH
4+、Ag
+のいずれかのカチオン、SCN
−はチオシアン酸イオン、NCS
−はイソチオシアン酸イオン、nは0〜2の整数、L′はトリシアノボランと錯体を形成する化合物、C
+は本発明のイオン液体を構成するカチオン、X
−はCl
−、Br
−、I
−のいずれかのアニオンを示す。
【0050】
トリシアノ(イソチオシアナト)ホウ酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。トリシアノ(イソチオシアナト)ホウ酸塩はチオシアン酸塩又はイソチオシアン酸塩とトリシアノボランとを反応させることにより製造することができる。チオシアン酸塩及びイソチオシアン酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。トリシアノボランはB(CN)
3単独又はジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、トリメチルアミン錯体、ピペリジン錯体、ピリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体、トリメチルシリルシアニド錯体として製造に用いることができる。トリシアノボランはチオシアン酸塩又はイソチオシアン酸塩1モルに対して1モル反応させることが好ましい。反応には溶媒を用いることが好ましく、溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。反応温度としては−80℃〜50℃が好ましい。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。反応後、溶媒等の揮発性成分を留去することにより、トリシアノ(イソチオシアナト)ホウ酸塩を得ることができる。
【0051】
イオン液体の製造は、目的カチオンの電荷とトリシアノ(イソチオシアナト)ホウ酸アニオンの電荷が等しくなるように反応させることにより実施することができる。例えば、1価のカチオンの場合は1:1のモル比で反応させ、2価のカチオンの場合は1:2のモル比で反応させる。反応溶媒としては水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンが好ましい。目的カチオンのハロゲン化物塩及びトリシアノ(イソチオシアナト)ホウ酸塩はそれぞれ純度99%以上に精製して用いることが好ましく、それぞれの溶液を調整し、一方の溶液に他方の溶液を添加することにより反応を行う。反応は空気中、常温で実施することができる。ハロゲン化物塩が副生するが、濾過あるいはイオン液体が疎水性の場合には、水で洗浄することによりハロゲン化物塩を除去することができる。
【0054】
上記反応式(6)で示される第三の製造法は、チオシアン酸塩又はイソチオシアン酸塩と目的カチオンのハロゲン化物とをトリシアノボラン存在下で反応させる製造法である。式中、M
+はLi
+、Na
+、K
+、NH
4+、Ag
+のいずれかのカチオン、SCN
−はチオシアン酸イオン、NCS
−はイソチオシアン酸イオン、C
+は本発明のイオン液体を構成するカチオン、X
−はCl
−、Br
−、I
−のいずれかのアニオン、nは0〜2の整数、L′はトリシアノボランと錯体を形成する化合物を示す。
【0055】
チオシアン酸塩及びイソチオシアン酸塩はリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、銀塩が好ましい。反応は目的カチオンの電荷とチオシアン酸アニオン又はイソチオシアン酸アニオンの電荷が等しくなるように実施する。例えば、1価のカチオンの場合は1:1のモル比で反応させ、2価のカチオンの場合は1:2のモル比で反応させる。トリシアノボランはB(CN)
3単独又はジメチルエーテル錯体、ジエチルエーテル錯体、ジブチルエーテル錯体、tert−ブチルメチルエーテル錯体、テトラヒドロフラン錯体、メタノール錯体、エタノール錯体、プロパノール錯体、ブタノール溶液、フェノール錯体、エチルアミン錯体、トリメチルアミン錯体、ピペリジン錯体、ピリジン錯体、アセトニトリル錯体、ジメチルスルフィド錯体、酢酸錯体、トリメチルシリルシアニド錯体として製造に用いることができる。トリシアノボランはチオシアン酸塩又はイソチオシアン酸塩1モルに対して1モル反応させることが好ましい。反応には溶媒を用いることが好ましく、溶媒としてはジエチルエーテル、THF等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、アセトニトリル等のニトリル類、アセトン等のケトン類、及び酢酸エチル等のエステル類を用いることができる。反応は窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気で実施する。反応温度としては−50℃〜50℃が好ましい。反応時間としては1時間〜48時間が好ましい。ハロゲン化物塩が副生するが、濾過あるいはイオン液体が疎水性の場合には、水で洗浄することによりハロゲン化物塩を除去することができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0057】
イオン液体の製造
製造した化合物の構造確認は元素分析又はNMRにより行う。NMR測定装置はVarian社製Mercury−300又はINOVA−600を使用する。基準物質として
1H及び
13C−NMRはテトラメチルシラン、
19F−NMRはCFCl
3を使用する。元素分析装置はPerkinElmer社製2400IIを使用する。
【0058】
〔実施例1〕1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(イソシアナト)ボレート(化学式(4))の製造
【0059】
【化16】
【0060】
<1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイドの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、1−メチルイミダゾールは予め蒸留精製したものを使用する。ジムロート冷却管を備えた1Lの4つ口フラスコに、1−ブロモエタン345.6g(3.172mol)とアセトニトリル500mLとを入れる。フラスコ内を攪拌し、0〜3℃に冷却しながら、1−メチルイミダゾール130.2g(1.585mol)を2時間かけて滴下する。そのまま0℃で67時間攪拌した後、室温へ昇温する。反応混合物を減圧濃縮し、少量のトルエンを加える。析出した結晶を濾過し、ジエチルエーテルで洗浄、減圧乾燥する。その結果、が1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド137.7g(収率45%)が得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C37.72,H5.80,N14.66
分析値:C37.98,H6.43,N14.76
【0061】
<1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアネートの合成>
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド12.52g(65.53mmol)を窒素雰囲気下で100mLナス型フラスコに秤量し、水30mLを加え溶液とする。シアン酸銀(I)9.82g(65.5mmol)を500mLナス型フラスコに秤量し、水250mLを加え懸濁液とする。室温で攪拌しながらシアン酸銀(I)の懸濁液に1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイドの溶液を10分間かけて滴下する。50℃で3時間攪拌した後、さらに室温で15時間攪拌を続ける。沈殿を濾過し、水80mLで洗浄する。濾液を減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製すると、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアネート9.09g(収率91%)が得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C54.89,H7.24,N27.43
分析値:C54.76,H7.01,N27.44
【0062】
<1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(イソシアナト)ボレートの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体は予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートを備えた50mLのナス型フラスコに、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムシアネート1.753g(11.44mmol)とジクロロメタン4mLとを入れる。フラスコ内を攪拌し、0℃に冷却しながら、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体1.959g(13.80mmol)をジクロロメタン2mLに溶解した溶液を14分間かけて滴下する。滴下終了後、0℃で1時間攪拌し、さらに室温で19時間攪拌を続ける。副生成物の沈殿を濾過し、ジクロロメタンで洗浄する。濾液を減圧濃縮し、カラムクロマトグラフィーで精製すると、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロ(イソシアナト)ボレート0.894g(収率35%)が得られる。製造したイオン液体の構造は元素分析及びNMRにて確認した。結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C38.04,H5.02,N19.01
分析値:C38.36,H4.93,N18.93
〔NMRスペクトルデータ〕
1H−NMR(600MHz,アセトン−d6)
δ(ppm)8.94(1H,s),7.73(1H,s),7.66(1H,s),4.38(2H,q,J=7.3Hz),4.04(3H,s),1.57(3H,t,J=7.3Hz)
13C−NMR(150MHz,アセトン−d6)
δ(ppm)137.11,124.69,123.02,120.53(br),45.70,36.51,15.54
19F−NMR(564MHz,アセトン−d6)
δ(ppm)−136.90(brm)
【0063】
〔実施例2〕1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノ(イソチオシアナト)ボレート(化学式(5))の製造
【0064】
【化17】
【0065】
<トリシアノボラントリメチルシリルシアニド錯体の製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、トリメチルシリルシアニド及び三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体は予め蒸留精製したものを使用する。滴下ロートを備えた500mLの3つ口フラスコに、トリメチルシリルシアニド180.21g(1.8164mol)を入れる。フラスコ内を攪拌しながら、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体30.75g(0.2167mol)を室温で105分間かけて滴下する。滴下終了後、室温で16時間攪拌を続ける。反応混合物を減圧乾固し、残った固体をジクロロメタンで洗浄、乾燥する。その結果、トリシアノボラントリメチルシリルシアニド錯体25.28g(収率62%)が得られる。
【0066】
<トリシアノボランピリジン錯体の製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。還流冷却器を備えた1Lの4つ口フラスコに、トリシアノボラントリメチルシリルシアニド錯体27.46g(0.1460mol)とピリジン322.34g(4.0751mol)とを入れる。75℃で24時間攪拌した後、反応混合物を減圧乾固する。残渣をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを減圧留去すると粗生成物が得られる。さらに昇華精製を行うと、トリシアノボランピリジン錯体錯体13.14g(収率64%)が得られる。元素分析の結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C57.21,H3.00,N33.36
分析値:C57.14,H2.78,N33.14
【0067】
<1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノ(イソチオシアナト)ボレートの製造>
全ての操作は窒素雰囲気で行う。また、使用する溶媒は脱水剤で十分に脱水し、窒素バブリングにより脱酸素したものを使用する。また、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネートはIoLiTec社製のものを使用する。滴下ロートを備えた200mLのナス型フラスコに、トリシアノボランピリジン錯体17.00g(0.1012mol)とアセトニトリル60mLとを入れる。室温でフラスコ内を攪拌しながら、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアネート17.13g(0.1012mol)をアセトニトリル20mLに溶解した溶液を10分間かけて滴下する。滴下終了後、室温でさらに17時間攪拌を続ける。室温でアセトニトリルを減圧留去し、さらに80℃、40Paでピリジンを留去すると1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリシアノ(イソチオシアナト)ボレート26.12g(収率100%)が得られる。製造したイオン液体の構造は元素分析及びNMRにて確認した。結果を下記に示す。
〔元素分析値/mass%〕
理論値:C46.53,H4.30,N32.55
分析値:C46.58,H4.32,N32.48
〔NMRスペクトルデータ〕
1H−NMR(300MHz,CD
3CN)
δ(ppm)8.40(1H,s),7.37(1H,t,J=1.8Hz),7.32(1H,t,J=1.7Hz),4.16(2H,q,J=7.3Hz),3.81(3H,s),1.45(3H,t,J=7.3Hz)
13C−NMR(150MHz,CD
3CN)
δ(ppm)135.33,134.63(br),123.76,122.18,45.17,36.32,14.99
【0068】
粘度の測定
イオン液体の粘度は、E型粘度計(東機産業株式会社製、TVE−35L)を用い、窒素雰囲気のグローブボックス内で測定する。試料の温度は恒温水循環装置で一定に保ち、10℃、25℃、40℃で測定する。また、全ての測定でコーンロータは同じものを使用し、同じ回転数で測定する。表1に実施例のイオン液体の粘度測定の結果を示す。また、比較例1として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムジシアンアミド(IoLiTec社製)、比較例2として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(関東化学株式会社製)の粘度測定の結果も示す。
【0069】
【表1】