特許第6036265号(P6036265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036265
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】医薬製造向け精製水製造装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20161121BHJP
   C02F 1/32 20060101ALI20161121BHJP
   B01D 61/08 20060101ALI20161121BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20161121BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20161121BHJP
   B01D 61/04 20060101ALI20161121BHJP
   A61L 2/04 20060101ALI20161121BHJP
   A61L 2/08 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 1/469 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 9/02 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 9/06 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 9/10 20060101ALI20161121BHJP
   C02F 9/12 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C02F1/44 J
   C02F1/32
   B01D61/08
   B01D61/44 520
   B01D61/58
   B01D61/04
   A61L2/04
   A61L2/08
   C02F1/42 A
   C02F1/46 103
   C02F9/02
   C02F9/06
   C02F9/10
   C02F9/12
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-278444(P2012-278444)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2014-121669(P2014-121669A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】池田 宏之
(72)【発明者】
【氏名】大澤 公伸
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−512883(JP,A)
【文献】 特開昭50−080653(JP,A)
【文献】 特開2010−150790(JP,A)
【文献】 特開2010−012429(JP,A)
【文献】 特開2009−262122(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0127381(US,A1)
【文献】 特開2004−074109(JP,A)
【文献】 特開2007−237062(JP,A)
【文献】 特開平06−071256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B01D61/00−71/99
C02F 1/32,1/42,1/469
C02F 9/00−9/14
A61L 2/04,2/08
DB等 DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留塩素を含有する原水を処理して医薬製造向け精製水を製造する装置であって、
原水タンクと、原水タンクからの原水が導入される逆浸透膜装置と、逆浸透膜処理水が導入される電気脱イオン装置又はイオン交換樹脂塔とを有し、
該原水タンクに、該原水タンク内の原水に紫外線を照射する紫外線ランプを設けてなり、
装置の運転停止期間中に、前記紫外線ランプを点灯させた状態で前記原水タンクへの原水の流入及び該原水タンクからの原水の排出が停止され、
装置の運転停止期間中に、前記原水タンク内の原水が前記紫外線ランプの発熱により50〜90℃に加熱され、
装置の運転再開時に該加温された原水により系内の殺菌が行われることを特徴とする医薬製造向け精製水製造装置。
【請求項2】
請求項1において、前記原水タンクは、水平断面形状が円形のタンク本体と、該タンク本体の上部側壁に略接線方向に設けられた原水導入配管と、該タンク本体の底部に設けられた原水排出配管とを有し、前記紫外線ランプは該原水導入配管よりも下方の原水タンク内に略水平方向に設けられていることを特徴とする医薬製造向け精製水製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記紫外線ランプが中圧紫外線ランプであることを特徴とする医薬製造向け精製水製造装置。
【請求項4】
残留塩素を含有する原水を処理して医薬製造向け精製水を製造する方法において、
紫外線ランプを設けた原水タンクにおいて、該原水タンク内の原水に紫外線を照射した後、逆浸透膜処理し、その後、電気脱イオン処理又はイオン交換処理する医薬製造向け精製水製造方法であって、
精製水の製造停止期間中に、前記紫外線ランプを点灯させた状態で前記原水タンクへの原水の流入及び該原水タンクからの原水の排出を停止し、
精製水の製造停止期間中に、前記原水タンク内の原水を前記紫外線ランプの発熱により50〜90℃に加熱し、精製水の製造再開時に該加温された原水により精製水製造系内の殺菌を行うことを特徴とする医薬製造向け精製水製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜装置と電気脱イオン装置又はイオン交換樹脂塔とを有する医薬製造向けの精製水製造装置及び方法に係り、特に残留塩素含有水を原水とする精製水製造装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水など、水中に殺菌のための塩素を添加した水を原水とする医薬製造向けの精製水製造装置は、逆浸透膜やイオン交換樹脂などの精製手段が塩素により劣化するのを防止するために、これらの精製手段の前段に原水中の残留塩素を除去する手段を備えている。このような原水中の残留塩素除去手段を備えた医薬製造向け精製水製造装置としては、活性炭塔とイオン交換樹脂塔との組み合せのほか、活性炭塔と逆浸透膜装置と電気脱イオン装置との組み合わせ、或いはこれらの組み合わせにおいて、活性炭塔の代りに重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を注入する手段を用いたものなどが例示される。
【0003】
原水を活性炭塔で活性炭濾過する場合、活性炭塔内又はそれよりも後段の残留塩素が除去された環境での水の滞留部で一般細菌が繁殖する。通常、医薬製造向けの精製水装置では、系内の一般細菌数は水道水基準の一般細菌数である100ヶ/mL以下で管理するため、残留塩素除去手段として活性炭塔を用いた医薬製造向け精製水製造装置では、定期的に蒸気や熱水による活性炭塔の熱殺菌が行われている。しかし、夏場など原水の温度が上昇する時期には、活性炭塔の蒸気殺菌を行っても1週間程度の短い期間しか一般細菌数を100ヶ/mL以下に保つことができない。そのため、殺菌の回数が多くなり、維持管理費が嵩む。
【0004】
活性炭塔の代りに還元剤注入による残留塩素除去を行う場合、薬品を注入することによる原水中のイオン量増加により、後段装置の負荷が増大すると共に、薬品の補充管理が煩雑である。また、薬注ポンプのエアー噛みなどによる注入不良が生じやすく、後段の逆浸透膜やイオン交換樹脂の酸化劣化等のトラブルが生じ易い。
【0005】
また、活性炭の代わりに、塩素を分解可能な触媒などを使用する報告もなされているが、これらの触媒による塩素除去は、多くの場合、活性炭の塩素除去寿命の延命に用いられており、いくらか分解速度が速い報告もあるが、触媒に十分な接触面積を必要とするため、カラムのような充填塔となり、その結果、活性炭塔と同様、水の滞留部を生じ、一般細菌の繁殖する場を与えることとなる。
【0006】
逆浸透膜装置の逆浸透膜を酢酸セルロースなどの耐塩素性の膜とし、残留塩素を除去することなく原水を逆浸透膜装置に給水することも考えられる。しかしながら、日本薬局方による精製水の基準では蒸発残留物を10mg/L以下にする必要があり、これを満たすためには逆浸透膜装置の後段にイオン交換装置や、電気脱イオン装置によるイオン除去が必要となる。このイオン交換装置や電気脱イオン装置は、耐塩素性逆浸透膜処理水に含まれる塩素により劣化するため、これらの装置の前段にて残留塩素除去を行う必要がある。
【0007】
本発明者らは、原水中から残留塩素を除去しても一般細菌の増殖が十分に抑制され、システム全体での温水・熱水殺菌の回数を減らすことができる医薬製造向け精製水装置として、活性炭塔の代りに、流通式紫外線殺菌装置を用いて残留塩素を除去するようにした医薬製造向け精製水製造装置を提案し、本願出願人より先に特許出願した(特願2012−050548。以下「先願」という。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願2012−050548
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
流通式紫外線殺菌装置を用いた先願の医薬製造向け精製水製造装置であれば、水の滞留部がないため、残留塩素の除去部及びその後段での一般細菌の増殖が抑制されるが、本発明者らの検討により、この医薬製造向け精製水製造装置では、実用上、以下の課題を解決すべきであることが判明した。
1) 紫外線ランプの消灯はランプ不点寿命を短くしてしまう。例えば、1回の消灯により、低圧紫外線ランプでは6時間、中圧紫外線ランプでは9時間ランプ不点寿命が短くなると言われている。
2) 投入した電力が熱に替わってしまう。即ち、紫外線ランプの点灯で発熱が起きる。
3) 1),2)より、流通式紫外線殺菌装置を使用した場合、装置の運転停止中に、ランプ寿命を長くするために紫外線ランプの消灯を行わないで点灯し続けると、投入電力が熱に替わり、ランプを点灯しているハウジング内の水温が上昇してしまう。
この問題を解決するためには、紫外線ランプを点灯したままにしておく一方で、流通型紫外線殺菌装置に常に水を流し続け、ハウジング内の発熱を流水により取り去る必要があった。
【0010】
本発明は、上述した事情に鑑み、紫外線ランプを用いて原水に含まれる残留塩素を除去する医薬製造向け精製水製造装置であって、消灯による紫外線ランプの寿命低下を防止し、かつ、ランプ点灯により発生する熱エネルギーの有効利用が可能な医薬製造向け精製水製造装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原水タンクに紫外線ランプを設け、装置停止中には原水の通水を停止し、紫外線ランプのみ点灯させておくと、紫外線ランプの点灯で発生する熱により原水タンク内の原水が加温されるので、再起動時には、この加温された原水を殺菌用の温水として装置内に通水することにより、消灯による紫外線ランプの寿命低下を防止することができ、しかも、紫外線ランプの点灯で発生する熱を系内の殺菌に有効利用することができることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] 残留塩素を含有する原水を処理して医薬製造向け精製水を製造する装置であって、原水タンクと、原水タンクからの原水が導入される逆浸透膜装置と、逆浸透膜処理水が導入される電気脱イオン装置又はイオン交換樹脂塔とを有し、該原水タンクに、該原水タンク内の原水に紫外線を照射する紫外線ランプを設けてなり、装置の運転停止期間中に、前記紫外線ランプを点灯させた状態で前記原水タンクへの原水の流入及び該原水タンクからの原水の排出が停止され、装置の運転停止期間中に、前記原水タンク内の原水が前記紫外線ランプの発熱により50〜90℃に加熱され、装置の運転再開時に該加温された原水により系内の殺菌が行われることを特徴とする医薬製造向け精製水製造装置。
【0016】
] [1]において、前記原水タンクは、水平断面形状が円形のタンク本体と、該タンク本体の上部側壁に略接線方向に設けられた原水導入配管と、該タンク本体の底部に設けられた原水排出配管とを有し、前記紫外線ランプは該原水導入配管よりも下方の原水タンク内に略水平方向に設けられていることを特徴とする医薬製造向け精製水製造装置。
【0017】
] [1]又は2]において、前記紫外線ランプが中圧紫外線ランプであることを特徴とする医薬製造向け精製水製造装置。
【0018】
] 残留塩素を含有する原水を処理して医薬製造向け精製水を製造する方法において、紫外線ランプを設けた原水タンクにおいて、該原水タンク内の原水に紫外線を照射した後、逆浸透膜処理し、その後、電気脱イオン処理又はイオン交換処理する医薬製造向け精製水製造方法であって、精製水の製造停止期間中に、前記紫外線ランプを点灯させた状態で前記原水タンクへの原水の流入及び該原水タンクからの原水の排出を停止し、精製水の製造停止期間中に、前記原水タンク内の原水を前記紫外線ランプの発熱により50〜90℃に加熱し、精製水の製造再開時に該加温された原水により精製水製造系内の殺菌を行うことを特徴とする医薬製造向け精製水製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、原水タンクに設けた紫外線ランプにより原水に含まれる残留塩素を分解除去することができ、このように残留塩素を分解した水を逆浸透膜装置と、電気脱イオン装置又はイオン交換樹脂塔に通水して精製水を製造することができる。
また、原水タンクに設けた紫外線ランプを、装置の運転(精製水の製造)停止期間中も点灯させておくことにより、紫外線ランプを消灯することによるランプ寿命の低下を防止することができる。このように運転(精製水の製造)停止期間中も紫外線ランプを点灯させておくことで、紫外線ランプの発熱で加温された原水を、装置の運転(精製水の製造)再開時に系内に通水することにより、系内を殺菌することができる。即ち、紫外線ランプの発熱エネルギーを系内の殺菌に有効利用することが可能となる。
【0022】
本発明では、先願発明と同様、一般細菌が増殖しやすい水の滞留部がないため、一般細菌の増殖を防止することができる。また、逆浸透膜装置への給水中の残留塩素濃度が低いので、耐塩素性の低い逆浸透膜を用いることができる。本発明では、紫外線により原水が殺菌処理されるので、逆浸透膜及びそれよりも後段における一般細菌の増殖も抑制される。このため、精製水製造装置全体の蒸気殺菌の頻度を著しく低くすることができる。また、本発明では、残留塩素の除去に還元剤注入を行わないので、薬品コストが削減される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態に係る精製水製造装置のブロック図である。
図2】本発明に好適な原水タンクの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
図1は本発明の実施の形態を示すものであり、水道水などの残留塩素を含む原水は、原水タンク1から原水ポンプ2によって抜き出され、熱交換器3で熱交換された後、高圧ポンプ4によって昇圧されて逆浸透膜装置5に供給され、その透過水が電気脱イオン装置6に通水されて脱塩処理され、この脱塩処理水が精製水として取り出される。
【0026】
原水タンク1には紫外線ランプ10が設けられており、原水タンク1内の原水に紫外線が照射され、紫外線により原水中の残留塩素が分解除去される。
【0027】
紫外線による残留塩素の分解機構の詳細は明らかではないが、紫外線のエネルギーによって次亜塩素酸を分解させることにより、生菌の増殖しやすい活性炭塔に変わる残留塩素除去が可能となる。また、このようにタンク内で紫外線照射を行うことにより、紫外線ランプを消灯することなく点灯し続けることが可能となり、ランプの不点寿命を短くすることが防止されると共に、ランプ点灯時の発熱を原水の加温に有効利用することで、装置を長時間停止させた後の温水殺菌が可能となる。
【0028】
原水への紫外線照射量は、原水に含まれる残留塩素濃度、遊離塩素と結合塩素の割合で変化するため一概に言えないが、通常、必要照射量は原水の残留塩素濃度に比例する。標準的な水道水は0.5〜1.0mg/Lの残留塩素を含有しており、バッチ形式の完全混合の状態で、残留塩素濃度1.0mg/Lの水1mに含まれる残留塩素を90%除去するには約15W/mの照射量が必要とされ、この照射量は残留塩素の除去率に対して一定の傾きで比例することが確認されている。しかし、完全混合バッチ状態は、原水タンクのような水が入れ替わる形態では実現が難しい。そのため、先願における流通式紫外線殺菌装置で採用されている、原水中の残留塩素濃度0.1mg/L及び原水流量1mhあたり、30〜500Wh/mの照射量となるよう紫外線照射を行い、一方で、原水タンクに、原水タンク内の水が撹拌されつつ、なるべく層状に入れ替わるような細工を行うことが好ましい。
【0029】
このため、本発明では、好ましくは図2に示すように、水平断面形状が円形のタンク本体の上部側壁に、原水導入配管1Aを、該断面円形の略接線方向に設け、また、このタンク本体の底部に原水排出配管1Bを設け、紫外線ランプ10を原水導入配管1Aよりも下方の原水タンク1内に略水平方向に設けた原水タンク1を用いる。このような原水タンク1であれば、原水は、原水導入配管1Aより原水タンク1に導入され、タンク1内を周回方向に旋回流で流動しながら底部の原水排出配管1Bに向けて層状に流下し、その間に紫外線ランプ10により紫外線が効率的に照射される。
【0030】
なお、前述の紫外線照射量よりもさらに照射量を上げることにより、原水中の結合塩素の分解も可能となる。
【0031】
使用する紫外線の波長は365nm、254nm、185nmなど、いずれの波長のものを用いてもよく、2種以上の異なる波長の紫外線を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
投入する電力量を押えるためには、単色の254nmの波長を出す水銀封入圧が低い低圧紫外線ランプよりも、多色の幅広い波長を出すことができる水銀封入圧が50〜120Pa程度の中圧紫外線ランプを用いることが好ましく、中圧紫外線ランプを用いることにより、投入電力量を下げることが可能となる。
また、中圧紫外線ランプは、ランプ1本あたりの出力を高くすることができるため、必要とする紫外線ランプの本数を少なくして装置の小型化、省スペース化を図ることができる。
加えて、低圧紫外線ランプの場合、ランプ1本の出力を調光する場合、70%ぐらいまでしか調光し照射出力を落とすことができないが、中圧紫外線ランプの場合は約25%まで出力を落とすことが可能なため、原水の残留塩素濃度が変化することが判明している場合などは調光により照射出力を変えることが容易な中圧紫外線ランプを用いる方が、装置の設計上有利である。
【0033】
前述の如く、紫外線ランプの不点寿命を短くしないために、紫外線ランプはなるべく消灯しない方が良いが、消灯せずに紫外線ランプを点灯したまま、原水タンク内に原水を滞留させた場合、即ち、例えば、精製水の使用先で水を必要としない場合や、夜間に精製水の製造を止める場合などに装置の運転を停止して原水タンクへの原水の通水を停止したことにより原水タンク内に原水が滞留する場合、紫外線ランプが点灯したままであると、紫外線ランプの点灯のために投入した電力がほとんど熱に変換してしまう。
【0034】
仮に、以下の条件で、装置停止後紫外線ランプを点灯したままとした場合、原水タンク内に滞留している原水の水温上昇を計算すると、以下の通りとなる。
タンク容量:300L
タンク材質:SUS304
タンク構成材の厚さ:2mm(保温なし)
装置停止時初期のタンク内原水の水温:25℃
外気温:35℃
点灯させる紫外線ランプへの投入電力量:905W×2本
【0035】
この場合、装置停止から21分後には、原水タンク内の原水の水温は27℃を超え、456分(7時間36分)後には60℃を超えることとなる。
医薬業界では、管理計器である導電率計に温度補正を加えた水質計を用いないため、精製水水温を25℃±2℃に保つ必要がある。
このため、21分後にそのまま通水を再開した場合、27℃を超えた原水から得られる精製水は、ブローするか、或いは原水を冷却する必要がある。
【0036】
本発明では、装置の運転を停止した後運転を再開するまでの間、例えば、夜間精製水の製造を終了し、翌朝精製水の製造を再開するまでの間等、このような装置停止期間中に、原水タンク内の原水が紫外線ランプの点灯により50〜90℃に加温されるように、原水タンク容量、点灯させた紫外線ランプの出力などを設定し、装置の運転再開時に、原水タンクから50〜90℃に加温された原水を装置内に通水して系内を温水殺菌し、これにより系内における菌の増殖を抑制する。
ここで、原水の加温温度の上限を90℃とするのは、装置を構成する水処理部材(逆浸透膜や電気脱イオン装置など)の耐熱温度の上限が90℃付近が条件となっていることによる。また、原水の加温温度の下限を50℃とするのは、50℃以上であると良好な温水殺菌効果が得られることによる。
【0037】
本発明では、このようにして装置停止中も原水タンクに設けた紫外線ランプを点灯させておくことで、紫外線ランプの不点寿命を短くすることなく、また、紫外線ランプの消費電力を系内殺菌に有効利用する。
【0038】
なお、装置の運転停止後、運転再開時に、原水タンク内で加温された原水による系内の温水殺菌を行うには、具体的には後掲の実施例1に示されるように、原水タンク内の温水を、運転の再開により導入される原水によりすべて押し出し、系内を通水させた後、系外へ排出すればよい。
この時の温水の押し出し条件としては、使用している膜モジュールの高温時の通水上限差圧を守ると同時に、なるべく長い時間温水に接触させた方が殺菌効果が高いため、なるべく流量を下げた押し出し条件が好ましい。その流量としては、例えば、4インチ逆浸透膜の場合、1ベッセル当たり100〜300L/hr程度、8インチ逆浸透膜の場合、1ベッセル当たり300〜1200L/hr程度とすることが望ましい。
【0039】
なお、図1は本発明の医薬製造向け精製水製造装置の実施の形態の一例を示すものであって、本発明は何ら図1に示すものに限定されるものではない。例えば、原水タンク1への原水導入配管などに原水の残留塩素濃度を検出するためのセンサを設置し、このセンサの出力を制御器に入力し、原水の残留塩素濃度に応じて紫外線ランプ10の紫外線照射量を制御してもよい。具体的には、原水の残留塩素濃度が高いほど、前記の範囲内において、紫外線ランプ10での紫外線照射量を多くする。
【0040】
また、図1では、電気脱イオン装置6を用いているが、電気脱イオン装置の代りにイオン交換樹脂塔を設置してもよく、両者を設置してもよい。また、図1では、原水タンク1からの水を送水するために原水ポンプ2を設置し、該原水ポンプ2の送水圧によって熱交換器3に通水するようにしているが、熱交換器3の通水圧損が小さく、原水タンク1の水頭圧によってこれらに通水することができ、また、高圧ポンプ4の運転に支障のない場合は原水ポンプ2を省略しても良い。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0042】
<比較例1>
図1の装置を用いて以下の条件で精製水の製造実験を行った。
1) 原水条件
原水:栃木県野木町市水
水温:23〜32℃
遊離塩素濃度:0.3〜0.5mg/L
結合塩素濃度:0.1〜0.2mg/L
流量:3.6m/h
2) 紫外線ランプ
千代田工販(株)製中圧浸漬型紫外線ランプ(ランプ出力3.0kW×2本)
3) 逆浸透膜装置
逆浸透膜モジュール:Dowケミカルジャパン製「HSRO−390」2本
水回収率:65%
運転圧力:1.0MPa
4) 電気脱イオン装置
栗田工業(株)製KCDI−LX型(処理水量1.1m/h)
水回収率:80%
5) 操作方法
原水(野木町市水)を原水タンク1へ受け入れ原水ポンプ2、高圧ポンプ4を経由して逆浸透膜装置5及び電気脱イオン装置6に通水した。なお、通水を開始するに先立ち、原水タンク1から電気脱イオン装置6にいたる系内を80℃以上にして系内の温水殺菌を行った。
通水中、水温は25〜32℃の範囲であった。
運転開始から6時間経過後装置を停止した。停止時間は9時間とした。このとき紫外線ランプ10は消灯した。9時間の停止後通常起動を行い、再び6時間採水を行った。
以降、同様に6時間運転、9時間停止を1ヶ月間繰り返した。上記運転期間中、原水の野木町市水、原水タンク出口、逆浸透膜装置出口、電気脱イオン装置出口の各ポイントでの一般細菌の個数をR2A寒天培地による培養法で、10日に1回の間隔で測定し、結果を表1Aに示した。
【0043】
<実施例1>
操作方法を以下の通り変更したこと以外は、比較例1と全く同様にして精製水の製造実験を行い、同様に各ポイントでの一般細菌の個数を調べ、結果を表1Bに示した。
(1) 運転開始から6時間経過後、装置を停止したとき、9時間の停止期間中、紫外線ランプは点灯したままにして原水タンク内の原水の水温を上昇させた。
(2) 9時間停止後運転を再開する際、原水タンク内の原水の水温を記録しておき、またその原水を逆浸透膜装置の入口圧力で0.25MPa以下(具体的には0.20MPa)になるようにインバーターで制御し、原水タンク内の原水がポンプの空引をしない水位になるまで系内を押し出した。押し出し時の流量は300L/hrで行った。このとき電気脱イオン装置の直流電源は印加しなかった。この間約4分間を要した。
(3) 上記の原水タンク内の加温原水の押し出し終了後の電気脱イオン装置の濃縮水の水温を記録した。
(4) 上記の6時間運転、9時間停止、4分押し出しを1ヶ月間繰り返した。
【0044】
【表1】
【0045】
以上の結果より次のことが分かる。
比較例1では、原水タンク出口では全く一般細菌が検出されていないにもかかわらず、逆浸透膜装置出口からは実験開始直後から一般細菌の増殖が見られ、日数を経るにしたがって増殖している。電気脱イオン装置出口の一般細菌数も逆浸透膜装置出口の増殖に従って増殖している。
【0046】
実施例1でも、原水タンク出口では全く一般細菌が検出されていないにもかかわらず、逆浸透膜装置出口からは一般細菌の増加が見られる。しかし、その増加の割合は明らかに比較例1より少なく、最終的には30日後では比較例1の約半分の31個/mLであった。
実施例1において、原水タンク内の水温は、9時間停止後では約50〜52℃付近であり、押し出し終了直後の電気脱イオン装置の濃縮水の水温は39〜44℃付近であった。
このことから、運転停止中に点灯させた紫外線ランプの照射による発熱で加温された原水が50℃以上であれば、たとえ短時間であっても、生菌抑制の効果が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0047】
1 原水タンク
2 原水ポンプ
3 熱交換器
4 高圧ポンプ
5 逆浸透膜装置
6 電気脱イオン装置
10 紫外線ランプ
図1
図2