(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036552
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】水砕スラグの粗粒化方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/02 20060101AFI20161121BHJP
B01J 2/02 20060101ALI20161121BHJP
F27D 15/02 20060101ALI20161121BHJP
B02C 19/06 20060101ALI20161121BHJP
C22B 15/00 20060101ALN20161121BHJP
【FI】
C04B5/02 A
B01J2/02 B
F27D15/02 B
B02C19/06 A
!C22B15/00 102
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-110916(P2013-110916)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-227333(P2014-227333A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年9月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】川中 一哲
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 茂
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】小林 純一
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−076834(JP,A)
【文献】
特公昭51−028245(JP,B1)
【文献】
特開2001−072448(JP,A)
【文献】
特開昭62−065958(JP,A)
【文献】
実公昭51−053238(JP,Y1)
【文献】
特開平04−302994(JP,A)
【文献】
米国特許第5468279(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 5/00−5/06
F27D 15/00−15/02
C22B 7/04
C22B 15/00−15/14
B01J 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の製錬工程から排出される溶融スラグを水砕スラグとする水砕水を、前記溶融スラグに噴出する水砕水ノズルであって、
前記水砕ノズル前面部に、
前記水砕水ノズル前面部より突出して、3段に設けられた略矩形状の水砕水噴射口と、
前記水砕水噴射口の下方で、前記水砕ノズル前面部に開口された複数個の高圧水噴射孔を備えることを特徴とする水砕水ノズル。
【請求項2】
製錬炉から排出される溶融状態のスラグを水砕樋において水砕水で水砕して粗粒化水砕スラグを形成する水砕化スラグの粗粒化方法であって、
請求項1記載の水砕ノズルを用いて、前記水砕樋において水砕水を溶融状態のスラグに噴射して粗粒化水砕スラグを生成することを特徴とする水砕スラグの粗粒化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水砕スラグの粗粒化に適した水砕ノズルと水砕スラグの粗粒化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自熔炉で「かわ」を製造した際の製錬滓である自熔炉スラグは、熔融状態にあるスラグに水を直接吹き付け、急冷凝固する事によって粒状化した水砕スラグとなる。
この水砕スラグの利用法の一つとして、サンドブラストの研磨剤への利用が挙げられる。これには、ブラスト時の衝突エネルギーを大きくするために、粗粒化した水砕スラグが適しているためである。
【0003】
熔融スラグの粗粒化に関しては、特許文献1に、熔融スラグの流れ幅方向に互いに隔離した複数の水噴射孔を設けた列を、上下3段以上、且つ上下に隣接する2列の各噴射孔の上下方向への投影が重ならないように配設したシャワー状の水砕スラグ製造用ノズルが提案されている。
しかし、このようなノズルに、水砕水速度を一定のまま、上下が隣接しない様に水噴出孔を確保しようとすると、その隣接する噴出孔の間隔分だけ水砕ノズル本体を大きくする必要があるという問題がある。そのため、水砕ノズルの設置箇所の空間的制限がある場合には設置できない問題点を抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−72448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況に鑑み本発明は、溶融スラグを水砕して水砕スラグを形成する際に、水砕スラグの粗粒化が容易に可能な水砕ノズルと、その水砕ノズルを用いた水砕スラグの粗粒化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の発明は、金属の製錬工程から排出される溶融スラグを水砕スラグとする水砕水を、その溶融スラグに噴出する水砕水ノズルであって、その水砕ノズル前面部に、水砕水ノズル前面部より突出して、3段に設けられた
略矩形状の水砕水噴射口と、その水砕水噴射口の下方で、水砕ノズル前面部に開口された複数個の高圧水噴射孔を備えることを特徴とする水砕水ノズルである。
【0007】
本発明の第2の発明は、製錬炉から排出される溶融状態のスラグを水砕樋において水砕水で水砕して粗粒化水砕スラグを形成する水砕化スラグの粗粒化方法であって、第1の発明に記載の水砕ノズルを用いて、水砕樋において水砕水を溶融状態のスラグに噴射して粗粒化水砕スラグを生成することを特徴とする水砕スラグの粗粒化方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水砕ノズルによれば、容易にしかも安価にて、溶融スラグから粗大粒径の水砕スラグを製造可能であり、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明における水砕ノズル形状模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水砕ノズルと、その水砕ノズルを使用した水砕スラグの粗粒化方法を説明する。
図1は自熔炉スラグフロー図で、自熔炉1により比重分離された自熔炉スラグ(S
1)は、自熔炉1排出後、錬カン炉3を経由した後に、錬カン炉スラグ(S
3)として排出される。
この錬カン炉スラグ(S
3)は、熔融スラグの状態で錬カン樋4から、錬カン炉スラグ(S
3)の落ち口の下に噴出口が据え付けられた水砕ノズル5から噴出される水砕水に向かって流れ落ちる。6は水砕樋で、水砕の終わった水砕水を受けて排出するものである。
この錬カン炉スラグ(S
3)と水砕水(
図1白抜き矢印)との衝突によって、熔融スラグが急冷凝固及び破砕されて水砕スラグを形成する。
【0011】
図2は、水砕水を噴出する本発明の水砕ノズル5の外観斜視図である。
水砕ノズル5の前面部12より、高さH、突出して位置する噴出口10を、上下に重ねて3段有し、その噴出口の下方に複数の高圧水噴出孔11を備える。この高圧水噴出孔の個数、配置は、処理する溶融スラグの単位時間当たりの量、形成した水砕スラグや水砕水を受ける水砕樋の形状に合わせて適宜選択する。
【0012】
水砕ノズル5の前面部12より突出した位置に水砕水の噴出口を設けることにより、
図2で示すように溶融スラグ(
図1の錬カンスラグS
3)が流れる、上方に位置する錬カン樋4の端より、溶融スラグが下方に流れ落ちて、水砕ノズルから噴出される水砕水により水砕される際に、水砕水が溶融スラグに当たる範囲、即ち水砕水の噴出範囲を収束させる効果を示し、上下に3段に備えられる噴出口の配置と相まって、溶融スラグの粗粒化をもたらすものである。
その前面部12よりの突出高さHは、前面部12より突出していれば良く、水砕ノズル5と錬カン樋4の端(溶融スラグの排出口)との位置関係から、落下してくる溶融スラグを被らない位置に噴出口10の先端があるように適宜選択すると良い。
【0013】
本発明の水砕ノズルの使用に際しては、水砕水の噴出口が1段又は2段のノズルでは、水砕スラグの粗粒化を行うために水砕水量を減らし水砕水の流速を遅くすると、水による冷却効果が低下し熔融スラグが水砕樋上に溜まった結果、水蒸気爆発を起こす危険性があるのに対して、3段の水砕水の噴出口を備える本発明の水砕ノズルは、従来と同様の位置に設置し、その際、熔融スラグの流出方向と水砕水の流出方向が平行になるように設置する。また、熔融スラグを水砕水によって均等に冷却するため、水砕水を受ける水砕樋上を流れる水量が左右均等になるように、水砕ノズルの向きを設置する。
【0014】
このように水砕ノズルを設置することにより、同一水量において水砕水の流速を低減でき、水砕水噴出口が1段又は2段のノズルに比べて水砕水量を調節する事によって水砕水の流速を制御可能な幅が広くなり、水蒸気爆発の危険性を大きく低減できる。
ただし、本発明においても水砕水量を減らし過ぎると、1段又は2段の水砕ノズルと同様水蒸気爆発の危険性があるため、その点には留意する必要がある。
なお、3段を超えて水砕水噴出口を設けても、個々の噴出口からの水砕水量は少なるためスラグの粗粒化の効果は、3段の場合に比べてあまり見られない。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例により詳述する。
図1に示す自溶炉フロー図に従って、水砕スラグの形成を、表1に示す条件で行った。
本発明の水砕ノズル使用前をCase1、本発明の水砕ノズル使用後をCase2として、水砕スラグの粒度分布と50%粒径を表1に示す。
なお粒度分布については、2.36mm、1.18mm、0.6mmの篩を用いて篩別を行った。また、50%粒径についてはロージン・ラムラー線図を用いて求めた。
【0016】
【表1】
【0017】
この表1から、Case1の場合に比べ、本発明の水砕ノズルを使用したCase2の場合の方が、0.6mm〜 −1.18mmの割合が減少、+2.36の割合が増加し、50%粒径が増加した。この際、水砕スラグ粒度を粗粒化する他の因子と考えられる、熔融スラグ量及び水砕水温度は、ほぼ一定の値になるようにした。
【0018】
実施例から本発明の水砕ノズルを用いることによって、水砕スラグが粗粒化している事が示された。これは、水砕水の流速が遅くなったことで、熔融スラグと水砕水が衝突する際の衝突エネルギーが低減された効果と、水砕水の噴出口を3段にしたことによって、熔融スラグが冷却される初期段階において与えられる衝突エネルギーが緩和された効果であると推定できる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
上記したように本発明の水砕スラグ粗粒化方法は、水砕スラグの製造設備を変えることなく、既設のものを用い水砕ノズルを変更するだけであるため容易に、また水蒸気爆発のリスクを低減し、水砕スラグの利用用途に応じて水砕スラグの粒径を粗粒化する事が可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 自熔炉
2 自熔炉カン樋
3 錬カン炉
4 錬カン炉カン樋
5 水砕ノズル
6 水砕樋
10 水砕水噴出口
11 高圧水噴出孔
12 前面部(水砕ノズル)
S
1 自溶炉スラグ(溶融スラグ)
S
3 錬カン炉スラグ(溶融スラグ)