(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
最近、太陽電池用途やタッチパネル用途として透明導電膜の利用が増えてきており、それに伴って、スパッタリングターゲットなどの透明導電膜形成用材料の需要が増加している。透明導電膜形成用材料には、酸化インジウム系焼結材料が主に使用されており、その主原料として酸化インジウム粉が使用されている。
【0003】
酸化インジウム粉の製造方法の一つとしては、特許文献1に示すように、金属インジウムを電解処理することで水酸化インジウムスラリーを沈殿させる、いわゆる電解法を用いて水酸化インジウム粉を得て、これを仮焼して酸化インジウム粉を製造する方法が提案されている。
【0004】
近年の酸化インジウム粉の需要に応えるため、電解法におけるより効果的な製造条件が求められている。生産設備の構成を変更しない場合は、一般的には電流密度を大きくすることで最も容易に生産性を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、電解では、安易に電流密度を向上させると、アノードとカソードの間にデンドライトが成長し、最終的にショートして電解ができなくなってしまうという問題が発生する場合がある。
【0006】
例えば特許文献2に記載されているように、硝酸アンモニウム水溶液を電解液として用いた場合には、電流密度を18A/dm
2よりも大きくするとデンドライトが発生し、電圧が上昇するなどの不具合が発生する場合がある。この問題を解決するため、特許文献2では、電解液をアノードとカソードの間で回流させる方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献2の方法では、電解液を回流させるために、電解装置そのものの構造を変更する必要があり、コストアップにつながるという問題が生じる。また、特許文献2の方法を用いた場合には、特定の条件内で電解を行うことによりデンドライトの発生は抑えられるが、電解液の回流速度等の条件が異なると作製される水酸化インジウム粉の粒径が異なってしまう。1つの電解装置には、電極が複数存在し、かつ生産量に応じて装置も複数台必要になる場合が考えられる。このような場合、各電解装置において各電極間の電解液の流れを全て一定にそろえることは困難であるため、各装置の全ての電極間での処理条件を均一に維持して、ばらつきの少ない水酸化インジウム粉を効率よく得ることが難しいという問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を適用した水酸化インジウム粉の製造方法について説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。本発明を適用した水酸化インジウム粉の製造方法について、以下の順序で詳細に説明する。
【0015】
1−1.電気分解工程
1−2.電解液分離工程
1−3.リパルプ洗浄工程
1−4.洗浄液脱水工程
1−5.乾燥工程
【0016】
(1−1.電気分解工程)
水酸化インジウム粉は、電解反応を利用して得る。水酸化インジウム粉の製造方法は、先ず、水酸化インジウム粉を含む電解液(以下、電解スラリーという。)を得る電気分解工程を行う。電気分解工程では、金属インジウムをアノード(陽極)とし、対極のカソード(陰極)に導電性の金属やカーボン電極を使用し、陽極及び陰極を電解液に浸漬して両極間に電位差を発生させて電流を生じさせることで陽極金属が溶解し、水酸化インジウム粉が晶析して、水酸化インジウム粉を含む電解液からなる電解スラリーを得る。
【0017】
陽極には、例えば金属インジウム等を用いる。使用する金属インジウムは、特に限定されないが、水酸化インジウム粉及びこれを焼成して得られる酸化インジウム粉への不純物の混入を抑制するため高純度のものが望ましい。金属インジウムとしては、純度99.9999%(通称6N品)が好適品として挙げることができる。
【0018】
陰極には、導電性の金属やカーボン電極等が用いられ、例えば不溶性のチタン等を用いることができ、チタンを白金でコーティングしたものであってもよい。
【0019】
電解液としては、水溶性の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩等の一般的な電解質塩の水溶液を用いることができる。その中でも、硝酸アンモニウムが好ましい。硝酸アンモニウムは、水酸化インジウム粉を沈殿した後の乾燥、仮焼後に硝酸イオン及びアンモニウムイオンが窒素化合物として除去されて不純物として残らず、生成される水酸化インジウム粉の純度を高め、かつコストを削減することができる。
【0020】
電解液は、生成された水酸化インジウム粉の溶解度が10
−6〜10
−3mol/Lの範囲であることが好ましい。電解液では、水酸化インジウムの溶解度を10
−6〜10
−3mol/Lの範囲にすることで適度に一次粒子の成長が促進されるため、凝集が抑制され、粒度分布の幅が広くならず、粒度分布が狭く、粒径が均一な水酸化インジウム粉を得ることができる。
【0021】
電解液は、水酸化インジウム粉の溶解度が10
−6〜10
−3mol/Lの範囲であればよく、電解質塩の濃度、pH、液温等により溶解度を制御することができる。電解液は、例えば、硝酸アンモニウムの濃度を0.1〜2.0mol/L、pHを2.5〜4.0、液温を20〜60℃の範囲に調製することにより、溶解度を10
−6〜10
−3mol/Lの範囲に制御することができる。pHは、硝酸アンモニウムの添加量により調製することができる。
【0022】
電解液のpHが2.5より小さい場合には、水酸化物の沈殿が生じず、また4.0よりも大きい場合には、水酸化物の析出速度が速過ぎて濃度不均一のまま沈殿が形成されるため粒度分布幅が広がってしまい好ましくない。したがって、電解液のpHは、2.5〜4.0の範囲が好ましい。
【0023】
電解液の液温が20℃よりも低い場合には、析出速度が遅過ぎ、また60℃よりも高い場合には析出速度が速過ぎて濃度不均一のまま沈殿が形成されるため粒度分布幅が広がり好ましくない。したがって、電解液の温度は、20〜60℃の範囲が好ましい。
【0024】
ここで、電解を行う際には、電解工程における電解液の濃度に対する電流密度の比率が24(A/dm
2)/(mol/L)以下となるように制御する。電解の際にこのように制御することで、デンドライトが生成されずに電解を行うことができる。特に、従来の電解で一般的な電流密度である6〜7A/dm
2よりも高い電流密度で電解を行っても、電解液の濃度に対する電流密度の比率が24(A/dm
2)/(mol/L)以下となるように制御すれば従来発生していたデンドライトの発生を防止することができる。
【0025】
電解液の濃度としては、0.1〜2.0mol/Lとすることが好ましい。0.1mol/Lよりも低い場合には、電解液の電気伝導率が低過ぎて電流が生じないか、または必要電圧が実用範囲を越えるため好ましくない。一方、濃度が2.0mol/Lあれば、十分な電気伝導率が確保されるので、2.0mol/Lより高くすることは不経済でありその必要がない。
【0026】
電解時の電流密度としては、2〜48A/dm
2が好ましく、広範囲の電流密度とすることができる。電流密度が2A/dm
2より低い場合には、水酸化インジウム粉の生産効率が低下してしまう。電流密度が48A/dm
2であれば、十分に電解を行うことができるため、これ以上高くする必要がない。また、電流密度は、18〜48A/dm
2がより好ましく、電解液の上昇、金属インジウムの表面の不動態化を防止する等の観点から上限は36A/dm
2であることが更に好ましい。
【0027】
電解工程では、電解の際に上述の電解液の濃度、電流密度の範囲で、電解液の濃度に対する電流密度の比率が24(A/dm
2)/(mol/L)以下となるように制御することで、電流密度を高くしてもデンドライトの発生を防止できる。電解工程では、電流密度を高くしてもデンドライトが発生しないため、2〜48A/dm
2の広範囲の電流密度で電解を行うことができる。電解工程では、デンドライトによる電極間の短絡を防止できるため、電流密度を高くして水酸化インジウム粉の生成を効率良くすることができる。
【0028】
また、この電解工程では、デンドライトによる金属インジウムの混入を防止できるため、純度の高い水酸化インジウム粉を生成することができる。更に、この電解工程では、電解液の濃度に対する電流密度の比率を24(A/dm
2)/(mol/L)以下に制御するだけであり、電解液の流れや流速に依存しないため、複数の電極間で同一の条件とすることが容易にでき、生成する水酸化インジウム粉の粒径等にばらつきがなく均一な水酸化インジウム粉を生成することができる。また、複数の電解装置を用いた場合であっても、同様に装置間でばらつきなく水酸化インジウム粉を生成することができるため、より効率良く均一の水酸化インジウム粉を製造することができる。また、電解工程では、従来の電解装置を使用することができ、電解装置の構成を変える必要がない。
【0029】
(1−2.電解液分離工程)
次に、上述した電解工程により得られた電解スラリーから電解液を固液分離する電解液分離工程を行う。
【0030】
電解液の分離には、微細な粉末であっても目詰まりを起こし難く、水酸化インジウム粉の回収効率が高いクロスフロー方式のロータリーフィルタを使用する。ロータリーフィルタで使用するろ布は、水酸化インジウム粉の回収率を高めるため、できるだけ通気度が小さい方が望ましい。通気度が0.3cm
3/sec/cm
2以下のものが好ましい。
【0031】
(1−3.リパルプ洗浄工程)
次に、電解液分離工程後の電解スラリーには電解液が含まれているため、洗浄液を加えて電解スラリーをリパルプ洗浄する。リパルプ洗浄に使用する洗浄液は、不純物が少ない方が望ましいため純水を用いる。特にJIS K0557に規定されたA2グレード以上であることが望ましい。これ以下のグレードである場合には、シリカなどの不純物が混入し、生成された水酸化インジウム粉を使用したスパッタリングターゲットを作製する際に問題となるため、好ましくない。
【0032】
リパルプ洗浄は、水酸化インジウム粉1kgに対して5〜20Lの純水を用いて洗浄することが望ましい。使用する純水の量が5Lより少ない場合には、水酸化インジウム粉内に電解液成分である例えば硝酸アンモニウムが多く残留してしまい、水酸化インジウム粉の乾燥時、水酸化インジウム粉を仮焼し、酸化インジウム粉を得る際に火災が発生する危険性が高くなる。一方、20Lの純水を使用すれば洗浄できるため、20Lよりも多く使用すると洗浄後の排水処理量が増加し、コストアップとなってしまう。
【0033】
リパルプ洗浄工程では、電解スラリーに洗浄液を加えて必要に応じて撹拌を行う。リパルプ洗浄工程では、リパルプ洗浄を1回以上行うことによって、電解スラリー中の電解液を除去でき、水酸化インジウム粉を洗浄することができる。
【0034】
(1−4.洗浄液脱水工程)
洗浄液脱水工程では、リパルプ洗浄工程の洗浄スラリーから洗浄液を脱水する。脱水には、微細な粉末であっても目詰まりを起こし難く回収効率の高いクロスフロー方式のロータリーフィルタを使用する。
【0035】
(1−5.乾燥工程)
乾燥工程では、洗浄液脱水工程後の水酸化インジウム粉をスプレードライヤにて噴霧乾燥する。
【0036】
乾燥条件は、水酸化インジウム粉の水分を除去できれば特に限定されないが、例えば乾燥温度は80℃〜150℃の範囲が好ましい。乾燥温度が80℃よりも低い場合には、乾燥が不十分となり、150℃よりも高い場合には、水酸化インジウムから酸化インジウムに変化してしまう。また、乾燥時間は、温度により異なるが、約10時間〜24時間程度である。
【0037】
以上のような水酸化インジウム粉の製造方法では、電解工程における電解の際に、電解液の濃度に対する電流密度の比率が24(A/dm
2)/(mol/L)以下となるように制御することでデンドライトの発生を防止でき、特に電流密度を高くしてもデンドライトの発生を防止できるため、効率良く水酸化インジウム粉を生成することができる。
【0038】
また、水酸化インジウム粉の製造方法では、デンドライトによる金属インジウムの混入を防止できるため、純度の高い水酸化インジウム粉を製造することができる。更に、水酸化インジウム粉の製造方法では、電解液の濃度に対する電流密度の比率が24(A/dm
2)/(mol/L)以下に制御するだけであり、電解液の流れや流速に依存しないため、複数の電極間、複数の電解装置間ですべて同一の条件で電解を行うことができ、電解条件にばらつきがないため、生成する水酸化インジウム粉の粒径等にばらつきがなく均一な水酸化インジウム粉を効率良く製造することができる。また、水酸化インジウム粉の製造方法では、電解液に回流等を発生させてデンドライトを防止する方法を採用する必要がないため、従来の電解装置を使用することができ、電解装置の構成を変える必要がなく、コスト上昇を避けることができる。
【0039】
以上のような水酸化インジウム粉の製造方法により得られた水酸化インジウム粉は、600℃〜800℃で数時間、仮焼して酸化インジウム粉とすることができる。そして、得られた酸化インジウム粉は、スパッタリングターゲットの原料に用いられる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例では、電解液の濃度に対する電流密度の比率と、デンドライトの発生の有無との関係を確認した。
【0042】
先ず、電解方法について説明する。電解では、陽極に純度99.99%の金属インジウム板を使用し、陰極に不溶性Ti/Pt電極を使用した。電解液には、下記の表1に示す濃度の硝酸アンモニウム水溶液をpH3.8、液温40℃に調整したものを使用した。電解条件は、電解液の濃度と電流密度の関係が下記の表1となるように、電解液の濃度と電流密度を調整し、電解時間を5時間として電解を行った。
【0043】
以上のような電解条件で電解を行い、デンドライトの発生の有無を評価した。評価結果を表1及び
図1に示す。表1において、デンドライトが発生している場合には×で示し、発生していない場合には○で示した。その結果、
図1に示すように、電流密度と電解液の濃度との関係は、比例関係であり、電解液の濃度に対する電流密度の比率が24(A/dm
2)/(mol/L)以下の領域では、デンドライトが発生しないことがわかる。すなわち、電流密度を高くしても、電解液の濃度を調整して、比率が24(A/dm
2)/(mol/L)以下となるように制御すればデンドライトの発生を防止できることわかる。
【0044】
【表1】