特許第6036699号(P6036699)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6036699撥インク剤の製造方法、ネガ型感光性樹脂組成物、隔壁および光学素子
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  • 特許6036699-撥インク剤の製造方法、ネガ型感光性樹脂組成物、隔壁および光学素子 図000020
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036699
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】撥インク剤の製造方法、ネガ型感光性樹脂組成物、隔壁および光学素子
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20161121BHJP
   G03F 7/075 20060101ALI20161121BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20161121BHJP
   C08G 77/26 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C09K3/18 104
   G03F7/075 521
   G03F7/075 511
   G03F7/027 502
   C08G77/26
【請求項の数】13
【全頁数】55
(21)【出願番号】特願2013-539715(P2013-539715)
(86)(22)【出願日】2012年10月19日
(86)【国際出願番号】JP2012077158
(87)【国際公開番号】WO2013058386
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-232277(P2011-232277)
(32)【優先日】2011年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】川島 正行
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/013816(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18、
C08G77/26、
G03F7/027、
G03F7/075
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(c−1)で表される加水分解性シラン化合物と下式(c−2)で表される加水分解性シラン化合物とを含む混合物の部分加水分解縮合物からなる撥インク剤の製造方法であって、
以下の工程(I)および工程(II)を含むことを特徴とする撥インク剤の製造方法。
工程(I):前記混合物に酸を含ませて、加水分解性シラン化合物(c−2)における窒素原子をプロトン化する工程、
工程(II):前記混合物に水と酸触媒とを含ませて、該混合物を加水分解および縮合反応させる工程。
【化1】

式(c−1)において、Aはフッ素原子または下式(1)で表される基を示す。
−Q−SiX …(1)
式(c−2)において、D、Eは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基または下式(2)で表される基を示す。
−Q−SiX(3−j)(RH2 …(2)
式(c−1)、(c−2)中のA、D、E以外の記号、および式(1)および(2)中の記号は、以下の通りである。
:炭素原子数2〜15のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基、
、Q:炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基
H1、RH2:炭素原子数1〜6の炭化水素基、
、Q:それぞれ独立して、炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基、
、X、X、X:それぞれ独立して、加水分解性基、
p:1または2、
q:0または1であり、p+qが1または2となる数、
j:0または1。
ただし、X〜Xが式(c−1)および/または式(c−2)内に複数個存在する場合、またはE−N(D)−Qが式(c−2)内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【請求項2】
前記混合物中の加水分解性シラン化合物(c−1)および(c−2)の含有割合が、加水分解性シラン化合物(c−1)の1モルに対して、加水分解性シラン化合物(c−2)が0.1〜9モルである請求項1に記載の撥インク剤の製造方法。
【請求項3】
前記部分加水分解縮合物のフッ素原子の含有割合が10〜55質量%である、請求項1または2に記載の撥インク剤の製造方法。
【請求項4】
前記部分加水分解縮合物がシラノール基を含有し、ケイ素原子1個当たりのシラノール基が0.2〜3.5個である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の撥インク剤の製造方法。
【請求項5】
前記式(c−2)におけるDおよびEのいずれか一方が水素原子であって、他方がベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜12のフェニル基またはベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜12のフェニルアルキル基である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の撥インク剤の製造方法。
【請求項6】
前記式(c−2)で表される加水分解性シラン化合物が、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランまたはN−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシランである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の撥インク剤の製造方法。
【請求項7】
前記混合物が、さらに下式(c−3)で表される加水分解性シラン化合物を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の撥インク剤の製造方法。
H3−SiX(4−r) …(c−3)
式(c−3)中の記号は、以下の通りである。
H3:炭素原子数1〜6の炭化水素基、
:加水分解性基、
r:0、1または2である。
ただし、RH3およびXが、前記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【請求項8】
前記混合物が、さらに下式(c−4)で表される加水分解性シラン化合物を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の撥インク剤の製造方法。
【化2】
式(c−4)中の記号は、以下の通りである。
Y:エチレン性二重結合を有する基、
:炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基、
H4:炭素原子数1〜6の炭化水素基、
:加水分解性基、
g:1または2、
h:0または1であり、g+hが1または2となる数。
ただし、Y−QおよびXが、前記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法で得られた撥インク剤、アルカリ可溶性樹脂(A)、光重合開始剤(B)および溶媒(D)を含むネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項10】
前記撥インク剤の含有割合が、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中、0.01〜10質量%である請求項9に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項11】
さらに、架橋剤(E)を含み、該架橋剤(E)が1分子中に2つ以上のエチレン性二重結合を有し、酸性基を有しない化合物である、請求項9または10に記載のネガ型感光性樹脂組成物。
【請求項12】
基板表面を画素形成用の複数の区画に仕切る形に形成された隔壁であって、請求項9〜11のいずれか一項に記載のネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜からなることを特徴とする隔壁。
【請求項13】
基板表面に複数の画素と隣接する画素間に位置する隔壁とを有する光学素子であって、前記隔壁が、請求項12に記載の隔壁で形成されていることを特徴とする光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥インク剤の製造方法、該方法で得られた撥インク剤を含有するネガ型感光性樹脂組成物、これを用いた隔壁および該隔壁を有する光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子である、カラーフィルタや有機EL(Electro−Luminescence)素子の画素部に用いられる隔壁は、感光性樹脂組成物を基板に塗布してフォトリソグラフィ技術により形成する方法が知られている。
【0003】
近年、カラーフィルタや有機ELの画素部製造方法としてインクジェット法を利用した低コスト化プロセスが提案されている。
例えば、カラーフィルタの製造においては、隔壁をフォトリソグラフィにより形成した後に、隔壁で囲まれた開口部(ドット)にR(レッド)、G(グリーン)、およびB(ブルー)のインクをインクジェット法により噴射し、塗布して、画素を形成する。
【0004】
インクジェット法では、隣り合う画素間におけるインクの混色を防ぐ必要がある。したがって、隔壁には、インクジェットの吐出液である水や有機溶剤を含むインクをはじく性質、いわゆる撥インク性が要求されている。
一方、インクジェット法で画素に形成されるインク層には、高い膜厚均一性を有することが要求されているため、隔壁で囲まれた開口部(ドット)は吐出液に対して良好な濡れ性、いわゆる親インク性を有することが要求される。
【0005】
そこで、隔壁の表面を撥インク性とするために、隔壁形成に用いる感光性樹脂組成物に撥インク剤を添加する技術が開発されている。例えば、感光性樹脂組成物に表面自由エネルギーが小さい撥インク剤を添加し、塗膜の乾燥工程において溶媒が蒸発する過程で、撥インク剤がその他の固形分成分との間に働く斥力によって表面移行することを利用して、得られる隔壁表面への撥インク性の付与を図っている。この場合、撥インク剤の表面移行性が不足していると、撥インク剤が膜内部に残留するため隔壁側面の親インク性が不良になる問題や、現像工程で膜表面が溶解する際に撥インク剤が表面移行した層が薄いため全て除去され、隔壁表面の撥インク性が不良になる問題等がある。
【0006】
また、現像後、ドットに感光性樹脂組成物が残留することに起因して、インクの白抜けが発生することがある。これを防止する目的でインク注入の前に、ドットに対して紫外線/オゾン照射処理等が行われるが、その際に隔壁の撥インク性が低下する問題もある。
【0007】
特許文献1には、表面自由エネルギーが充分に小さく、紫外線/オゾン照射処理を経ても撥インク性の保持が可能な、含フッ素加水分解性シラン化合物の加水分解縮合物からなる撥インク剤を含むネガ型感光性樹脂組成物が記載されている。
特許文献2には、感光性樹脂組成物の貯蔵安定性が良好で、該組成物を用いて得られる硬化膜の基材密着性を向上できる、2級芳香族アミノ基を有する加水分解性シラン化合物を含む感光性樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2010/013816号
【特許文献2】国際公開第2007/004345号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者の知見によれば、特許文献1に記載のネガ型感光性樹脂組成物は、撥インク剤を構成する加水分解縮合物のシラノール基同士が反応して分離する等、貯蔵安定性が充分でない場合があった。
特許文献2に記載の加水分解性シラン化合物は、フッ素原子を有しておらず、撥インク剤として機能するものではない。
【0010】
本発明は、ネガ型感光性樹脂組成物に配合した際に該組成物中での貯蔵安定性に優れ、該組成物から製造される隔壁に紫外線/オゾン照射処理を経ても優れた撥インク性を付与することが可能な撥インク剤の製造方法、および貯蔵安定性に優れ、かつ紫外線/オゾン照射処理を経ても優れた撥インク性を持続できる隔壁の製造が可能なネガ型感光性樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、紫外線/オゾン照射処理を経ても撥インク性に優れた隔壁、および該隔壁を有し、白抜け現象等の発生が抑制された光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下[1]〜[13]の構成を有する撥インク剤の製造方法、ネガ型感光性樹脂組成物、隔壁および光学素子を提供する。
[1]下式(c−1)で表される加水分解性シラン化合物と下式(c−2)で表される加水分解性シラン化合物とを含む混合物の部分加水分解縮合物からなる撥インク剤の製造方法であって、
以下の工程(I)および工程(II)を含むことを特徴とする撥インク剤の製造方法。
工程(I):前記混合物に酸を含ませて、加水分解性シラン化合物(c−2)における窒素原子をプロトン化する工程、
工程(II):前記混合物に水と酸触媒とを含ませて、該混合物を加水分解および縮合反応させる工程。
【化1】

式(c−1)において、Aはフッ素原子または下式(1)で表される基を示す。
−Q−SiX …(1)
式(c−2)において、D、は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基または下式(2)で表される基を示す。
−Q−SiX(3−j)(RH2 …(2)
式(c−1)、(c−2)中のA、D、E以外の記号、および式(1)および(2)中の記号は、以下の通りである。
:炭素原子数2〜15のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基、
、Q:炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基、
H1、RH2:炭素原子数1〜6の炭化水素基、
、Q:それぞれ独立して、炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基、
、X、X、X:それぞれ独立して、加水分解性基、
p:1または2、
q:0または1であり、p+qが1または2となる数、
j:0または1。
ただし、X〜Xが式(c−1)および/または式(c−2)内に複数個存在する場合、またはE−N(D)−Qが式(c−2)内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
[2]前記混合物中の加水分解性シラン化合物(c−1)および(c−2)の含有割合は、加水分解性シラン化合物(c−1)の1モルに対して、加水分解性シラン化合物(c−2)が0.1〜9モルである上記[1]の撥インク剤の製造方法。
[3]前記部分加水分解縮合物のフッ素原子の含有割合が10〜55質量%である、上記[1]または[2]の撥インク剤の製造方法。
[4]前記部分加水分解縮合物がシラノール基を含有し、ケイ素原子1個当たりのシラノール基が0.2〜3.5個である、上記[1]〜[3]のいずれかの撥インク剤の製造方法。
[5]前記式(c−2)におけるDおよびEのいずれか一方が水素原子であって、他方がベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜12のフェニル基またはベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜12のフェニルアルキル基である、上記[1]〜[4]のいずれかの撥インク剤の製造方法。
[6]前記式(c−2)で表される加水分解性シラン化合物が、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランまたはN−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシランである、上記[1]〜[5]のいずれかの撥インク剤の製造方法。
[7]前記混合物が、さらに下式(c−3)で表される加水分解性シラン化合物を含む、上記[1]〜[6]のいずれかの撥インク剤の製造方法。
H3−SiX(4−r) …(c−3)
式(c−3)中の記号は、以下の通りである。
H3:炭素原子数1〜6の炭化水素基、
:加水分解性基、
r:0、1または2である。
ただし、RH3およびXが、前記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
[8]前記混合物がさらに下式(c−4)で表される加水分解性シラン化合物を含む、上記[1]〜[7]のいずれかの撥インク剤の製造方法。
【化2】

式(c−4)中の記号は、以下の通りである。
Y:エチレン性二重結合を有する基、
:炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基、
H4:炭素原子数1〜6の炭化水素基、
:加水分解性基、
g:1または2、
h:0または1であり、g+hが1または2となる数。
ただし、Y−QおよびXが、前記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかの製造方法で得られた撥インク剤、アルカリ可溶性樹脂(A)、光重合開始剤(B)および溶媒(D)を含むネガ型感光性樹脂組成物。
[10]前記撥インク剤の含有割合が、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中、0.01〜10質量%である上記[9]のネガ型感光性樹脂組成物。
[11]さらに、架橋剤(E)を含み、該架橋剤(E)が1分子中に2つ以上のエチレン性二重結合を有し、酸性基を有しない化合物である、上記[9]または[10]のネガ型感光性樹脂組成物。
[12]基板表面を画素形成用の複数の区画に仕切る形に形成された隔壁であって、上記[9]〜[11]のいずれかのネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜からなることを特徴とする隔壁。
[13]基板表面に複数の画素と隣接する画素間に位置する隔壁とを有する光学素子であって、前記隔壁が上記[12]の隔壁で形成されていることを特徴とする光学素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ネガ型感光性樹脂組成物に配合した際に該組成物中での貯蔵安定性に優れ、該組成物から製造される隔壁に紫外線/オゾン照射処理を経ても優れた撥インク性を付与可能な撥インク剤の製造方法、および貯蔵安定性に優れ、かつ紫外線/オゾン照射処理を経ても優れた撥インク性を持続できる隔壁の製造が可能なネガ型感光性樹脂組成物の提供が可能である。
また、本発明によれば、紫外線/オゾン照射処理を経ても撥インク性に優れた隔壁、および該隔壁を有し白抜け現象等の発生が抑制された光学素子の提供が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いた、光学素子用隔壁の製造例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書における「(メタ)アクリロイル…」とは、「メタクリロイル…」と「アクリロイル…」の総称である。(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドおよび(メタ)アクリル樹脂もこれと同様である。
【0015】
本明細書における式(1)で表される基を、基(1)という。他の基も同様である。
本明細書における式(c−1)で表される化合物を、化合物(c−1)という。他の化合物についても同様である。
本明細書における「側鎖」とは、繰り返し単位が主鎖を構成する重合体において、主鎖を構成する炭素原子に結合する、水素原子またはハロゲン原子以外の基である。
本明細書における「全固形分」とは、ネガ型感光性樹脂組成物が含有する成分のうち、隔壁形成成分をいい、ネガ型感光性樹脂組成物を140℃で24時間加熱して溶媒を除去した、残存物である。具体的には、溶媒(D)等の隔壁形成過程における加熱等により揮発する揮発性成分以外の全成分を示す。なお、全固形分の量は仕込み量からも計算できる。
本明細書においては、ネガ型感光性樹脂組成物を塗布した膜を「塗膜」、それを乾燥させた状態を「膜」、さらに、それを硬化させて得られる膜を「硬化膜」という。
【0016】
本明細書において、隔壁の「表面」は、隔壁の上面のみを示す用語として用いる。したがって、隔壁の「表面」には、隔壁の側面は含まれない。
本明細書におけるインクとは、乾燥硬化した後に、例えば光学的、電気的に機能を有する液体を総称するものであり、従来から用いられている着色材料に限定されるものではない。また、上記インクを注入して形成される「画素」についても同様に、隔壁で仕切られた、光学的、電気的な機能を有する区分を表すものとして用いられる。
本明細書における「撥インク性」とは、上記インクをはじくために、撥水性と撥油性の両方を適度に有する性質をいい、例えば、後述の方法で評価できる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に説明のない場合、%は質量%を表す。
【0017】
[撥インク剤の製造方法]
本発明の製造方法は、上式(c−1)で表される加水分解性シラン化合物(以下、加水分解性シラン化合物(c−1)ともいう。)と上式(c−2)で表される加水分解性シラン化合物(以下、加水分解性シラン化合物(c−2)ともいう。)とを含む混合物の部分加水分解縮合物からなる撥インク剤の製造方法であって、以下の工程(I)および工程(II)を含むことを特徴とする。
工程(I):前記混合物に酸を含ませて加水分解性シラン化合物(c−2)における窒素原子をプロトン化する工程、
工程(II):前記混合物に水と酸触媒とを含ませて該混合物を加水分解および縮合反応させる工程。
【0018】
前記混合物は、フッ素原子を含有する加水分解性シラン化合物(c−1)およびアミノ基を有する加水分解性シラン化合物(c−2)を必須成分として含有する。該混合物を用いた本発明の撥インク剤の製造方法は、得られる撥インク剤において、加水分解性シラン化合物(c−2)に由来するアミノ基における窒素原子の一部または全部をアンモニウム型カチオンとして効率よく存在させる製造方法であって、それにより、該撥インク剤における加水分解性シラン化合物(c−1)由来のフッ素原子に起因する、凝集し易い傾向を緩和する効果を有する。すなわち、本発明の製造方法により得られる撥インク剤は、フッ素原子を有しながら安定な状態を維持することができ、これをネガ型感光性樹脂組成物に配合した際に、該組成物全体の安定性を向上させることが可能となる。
ネガ型感光性樹脂組成物中においては、アンモニウム型カチオン基は溶媒和される。これにより、本発明の製造方法で得られた撥インク剤は、該組成物中でより安定に存在することが可能となると考えられる。
【0019】
本発明の製造方法に用いる上記混合物は、必要に応じて、加水分解性シラン化合物(c−1)および加水分解性シラン化合物(c−2)以外の加水分解性シラン化合物を含有してもよい。該混合物には、加水分解性シラン化合物以外に、ヘキサメチルジシロキサン等の1官能性シロキサン単位となりうる、オルガノジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状オルガノポリシロキサン等を含有してもよい。
【0020】
混合物中に含有される加水分解性シラン化合物としては、加水分解性シラン化合物(c−1)および加水分解性シラン化合物(c−2)以外に、後述の加水分解性シラン化合物(c−3)〜(c−5)が挙げられる。また、1官能性シロキサン単位となりうるオルガノジシロキサンとしては、具体的には、後述のオルガノジシロキサン(c−6)が挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法においては、工程(I)と工程(II)は、その順に行ってもよいが、同時に行ってもよい。工程(I)を行った後に、工程(II)を行った方が、化合物(c−2)中のアミノ基(塩基)を触媒としたシラノール基の縮合反応が抑制されるため、より好ましい。すなわち、一般に、アミノ基は塩基性触媒として、酸より縮合触媒の能力が強いとされる。そのため、アミノ基が存在すると加水分解で生成したシラノール基の縮合反応が促進されて、撥インク剤の分子量が必要以上に上がり、該撥インク剤を含むネガ型感光性樹脂組成物の貯蔵安定性が損なわれる可能性がある。よって、工程(I)により窒素原子(アミノ基)を完全にプロトン化した後に、工程(II)により、酸を触媒とした混合物の加水分解、および縮合反応を行うことが好ましい。
【0022】
以下、本発明の製造方法について、下式(7)で表される工程(I)および工程(II)の反応により撥インク剤を製造する例として説明する。なお、下式(7)で表される反応により撥インク剤を製造する方法は、例示であって、本発明の製造方法がこれに限定されるものではない。
下式(7)中の式(3−1)で表される平均組成式の生成物は、後述の式(3)で表される平均組成式の加水分解縮合物において、加水分解性シラン化合物(c−2)に由来する縮合単位のRが、全て後述の式(5)で表される基である加水分解縮合物である。
ここで、式(7)で得られる生成物は、実際は加水分解性基またはシラノール基が残存した部分加水分解縮合物であり、本発明においては、得られた部分加水分解縮合物を撥インク剤として使用する。ただし、この生成物(部分加水分解縮合物)を化学式で表すことは困難であり、式(7)中、式(3−1)で表される平均組成式は、式(7)に表される反応によって製造された部分加水分解縮合物において、加水分解性基またはシラノール基の全てがシロキサン結合となったと仮定した場合の化学式である。
【0023】
式(7)で表される反応は、撥インク剤を工程(I)、工程(II)の順に行って製造した場合の反応を示すものである。なお、式(7)は、加水分解性シラン化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)として、加水分解性シラン化合物(c−5)のみを使用した例である。
【0024】
【化3】
【0025】
ただし、式(7)中、HZは一塩基酸を示し、それ以外の記号は、後述の式(3)における記号と、好ましい態様を含めて同様である。
ここで、式(7)においては、工程(I)および工程(II)に用いる酸は、いずれも一塩基酸を用いているが、本発明の製造方法において用いる酸はこれに限定されない。
【0026】
工程(I)で用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸等の有機酸が挙げられる。なかでも、工程(I)では無機酸を用いることが好ましく、塩酸、硝酸が特に好ましい。また、工程(I)で用いる酸の量は、化合物(c−2)の窒素原子に対して、1.0〜1.05倍モル量が好ましい。
【0027】
また、工程(II)で用いる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、マレイン酸等の有機酸が挙げられる。ただし、工程(II)で用いる酸は、上記工程(I)で用いる酸と同じ酸を用いることが好ましい。したがって、無機酸を用いることが好ましく、塩酸、硝酸が特に好ましい。工程(II)で用いる酸の量は、水に対して0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜1質量%が特に好ましい。工程(II)で用いる水の量は、混合物が有する加水分解性基の全量に対して、0.1〜10倍モルが好ましく、0.5〜5倍モルがより好ましく、1〜2倍モルが特に好ましい。
【0028】
工程(I)および工程(II)における反応温度は、0〜100℃が好ましく、20〜70℃が特に好ましい。また、工程(I)における反応時間は、0.5〜2時間が好ましい。工程(II)における反応時間は、0.3〜7時間が好ましい。
具体的には、反応をガスクロマトグラフィーでモニターし、原料としての化合物(c−1)〜(c−5)が検出限界以下になった時点から、さらに、0.5〜5時間反応を継続することが好ましい。すなわち、工程(II)の反応開始から、反応を原料としての化合物(c−1)〜(c−5)が検出限界以下になるまでの時間は、0.3〜2時間が好ましく、さらに0.5〜5時間反応を継続することが好ましく、全反応時間としては、0.3〜7時間が好ましい。
【0029】
本発明の製造方法においては、工程(I)および工程(II)で、溶媒を用いてもよい。
該溶媒としては、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール等のセルソルブ類;2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール等のカルビトール類;メチルアセテート、エチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、4−ブチロラクトン、ブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールのモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールのジアルキルエーテル類;が挙げられる。その他には、ベンジルアルコール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。溶媒は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
工程(I)および工程(II)で、用いる溶媒の量としては、前記混合物の100質量部に対して、100〜900質量部が挙げられる。
なお、上記撥インク剤の製造に用いた溶媒は、溶質である撥インク剤とともに溶液の形で、ネガ型感光性樹脂組成物に配合されてもよい。
【0031】
本発明の撥インク剤の製造方法において、原料成分として用いる混合物が、必須成分として含有する加水分解性シラン化合物(c−1)、加水分解性シラン化合物(c−2)、さらに任意に含む加水分解性シラン化合物(c−3)〜(c−5)、およびオルガノジシロキサン(c−6)について、以下に説明する。
【0032】
(加水分解性シラン化合物(c−1))
加水分解性シラン化合物(c−1)は、本発明の撥インク剤の製造方法における必須の原料成分であり、下式(c−1)で表される化合物である。
A−R−Q−SiX …(c−1)
式(c−1)において、Aはフッ素原子または下式(1)で表される基を示す。
−Q−SiX …(1)
式(c−1)中のA以外の記号、および式(1)中の記号は、以下の通りである。
:炭素原子数2〜15のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキレン基、
、Q:炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基、
、X:それぞれ独立して、加水分解性基。
ただし、X、Xが、上記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0033】
式(c−1)で表される通り、化合物(c−1)は、3官能性の加水分解性シリル基を1個または2個有する含フッ素加水分解性シラン化合物である。
【0034】
式(c−1)において、Aがフッ素原子である場合、Rは、炭素原子数4〜8のペルフルオロアルキレン基、または炭素原子数4〜9のエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基が好ましく、炭素原子数6のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。また、式(c−1)において、Aが基(1)である場合、Rは、炭素原子数3〜15のペルフルオロアルキレン基、または炭素原子数3〜15のエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基が好ましく、炭素原子数4〜6のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。
が上記範囲であると、ネガ型感光性樹脂組成物を用いて形成される隔壁が、優れた撥インク性および撥インク性の耐紫外線/オゾン性を示し、また、汎用の溶媒への溶解性が優れているため好ましい。
の構造は、直鎖構造、分岐構造、環構造、または部分的に環を有する構造が挙げられるが、直鎖構造が好ましい。
【0035】
の具体例としては、以下の基が挙げられる。
−(CF−、−(CF−、−(CF−。
−CFCFOCFCFOCF−、−CFCFOCFCFOCFCF−、−CFCFOCFCFOCFCFOCFCFOCF−、−CFCFOCFCFOCFCFOCFCFOCFCF−。
−CFCFCFOCF−、−CFCFCFOCFCF−、−CFCFCFOCF(CF)−、−CFCFCFOCF(CF)CF−、−CFCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、−CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)−、−CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)CF−、−CFOCF(CF)CFOCF(CF)−、−CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)−。
【0036】
化合物(c−1)が有するQ、および式(c−1)において、Aが基(1)である場合のQは、Rと加水分解性シリル基(−SiX)および(−SiX)とをそれぞれ連結する2価の有機基であり、炭素原子数1〜10のフッ素原子を含まない2価の有機基である。なお、化合物(c−1)が、QとQをともに有する場合には、これらは同一であっても異なってもよい。
およびQは、右側の結合手にSiが、左側の結合手にRがそれぞれ結合するとして表示した場合に、具体的には、−(CHi1−(i1は1〜5の整数。)、−CHO(CHi2−(i2は1〜4の整数。)、−SONR−(CHi3−(Rは水素原子、メチル基またはエチル基、i3は1以上であり、Rの炭素原子数との合計で4以下の整数。)、−(C=O)−NR−(CHi4−(Rは上記と同様であり、i4は1以上であり、Rの炭素原子数との合計で4以下の整数。)で表される基が好ましい。QおよびQとしては、i1が2または3である−(CHi1−がより好ましく、−(CH−が特に好ましい。
【0037】
なお、Rがペルフルオロアルキレン基である場合、上記QおよびQとしては、−(CHi1−(i1は上記と同様)で表される基が好ましい。i1は2〜4の整数であることが好ましく、i1が2である−(CH−が特に好ましい。
また、Rがエーテル性酸素原子を含むペルフルオロアルキレン基である場合、上記QおよびQとしては、−(CHi1−、−CHO(CHi2−、−SONR−(CHi3−、−(C=O)−NR−(CHi4−で表される基(i1〜i4およびRは上記と同様)が好ましい。この場合においても、−(CH−が特に好ましい。
【0038】
式(c−1)において、XおよびXは、ケイ素原子に結合する加水分解性基を示す。X、Xとしては、それぞれ独立して、アルコキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基、アミノ基、アミノ基の水素原子がアルキル基で置換された基等が挙げられる。なかでも、X、Xとしては、炭素原子数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子が好ましく、メトキシ基、エトキシ基、塩素原子がより好ましく、メトキシ基およびエトキシ基は、加水分解反応により水酸基(シラノール基)となり、さらに分子間で縮合反応して、Si−O−Si結合を形成する反応が円滑に進みやすい。
【0039】
化合物(c−1)の具体例としては、Aがフッ素原子の場合、以下の化合物が挙げられる。
F(CFCHCHSi(OCH、F(CFCHCHSi(OCH、F(CFCHCHSi(OCH、F(CFOCF(CF)CFO(CFCHCHSi(OCH、F(CFO(CFO(CFCHCHSi(OCH
【0040】
また、化合物(c−1)の具体例としては、Aが基(1)である場合、以下の化合物が挙げられる。
(CHO)SiCHCH(CFCHCHSi(OCH
(CHO)SiCHCH(CFCHCHSi(OCH
(CHO)SiCHCH(CFOCF(CF)CFO(CFOCF(CF)CFO(CFCHCHSi(OCH
【0041】
本発明においては、化合物(c−1)として、なかでも、F(CFCHCHSi(OCH、F(CFOCF(CF)CFO(CFCHCHSi(OCH等が特に好ましく用いられる。
なお、本発明の撥インク剤の製造方法における原料である加水分解性シラン化合物として、化合物(c−1)は、1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。
【0042】
また、本発明の撥インク剤の製造方法に用いる加水分解性シラン化合物混合物における、化合物(c−1)の含有割合としては、該混合物から本発明の製造方法により得られる部分加水分解縮合物、すなわち、撥インク剤におけるフッ素原子含有率が上記範囲となる割合である。
【0043】
(加水分解性シラン化合物(c−2))
加水分解性シラン化合物(c−2)は、上記化合物(c−1)とともに、本発明の撥インク剤の製造方法における必須の原料成分であり、下式(c−2)で表される化合物である。
【0044】
【化4】
【0045】
式(c−2)において、D、Eは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基または下式(2)で表される基を示す。
−Q−SiX(3−j)(RH2 …(2)
式(c−2)中のD、E以外の記号、並びに式(2)中の記号は、以下の通りである。
H1、RH2:炭素原子数1〜6の炭化水素基、
、Q:それぞれ独立して、炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基、
、X:それぞれ独立して、加水分解性基、
p:1または2、
q:0または1であり、p+qが1または2となる数、
j:0または1。
ただし、E−N(D)−Q、X、Xが、上記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0046】
式(c−2)で示される通り、化合物(c−2)は、アミノ基を有する有機基(E−N(D)−Q−)を、p個(pは1または2)有し、炭化水素基(RH1)をq個(qは0または1であって、p+qが1または2となる数)有する、2官能性または3官能性の加水分解性シラン化合物である。
また、化合物(c−2)において、アミノ基を有する有機基(E−N(D)−Q−)は、窒素原子に、D、Eとして、連結基(Q)を介して2官能性または3官能性の加水分解性シリル基(−SiX(3−j)(RH2)が、1個または2個結合した基であってもよい。
【0047】
本発明の製造方法により得られる撥インク剤においては、化合物(c−2)のアミノ基における窒素原子の一部または全部が、アンモニウム型カチオンとして存在する。該アンモニウム型カチオンは、化合物(c−2)由来の縮合単位と上記化合物(c−1)由来の縮合単位を有する本発明の撥インク剤において、上記化合物(c−1)由来のフッ素原子に起因する、凝集し易い傾向を緩和する方向に作用する。これにより、撥インク剤は、フッ素原子を有しながら安定な状態を維持することができ、これをネガ型感光性樹脂組成物に配合した際に、該組成物全体の安定性を向上させることが可能となる。
【0048】
なお、本発明の製造方法で得られる撥インク剤においては、化合物(c−2)のアミノ基における窒素原子の全部が、アンモニウム型カチオンとして存在することが特に好ましい。
本発明の製造方法で得られる撥インク剤においては、化合物(c−2)における窒素原子をアンモニウム型カチオンとして存在させる方法として、化合物(c−2)が有するアミノ基を、酸によりプロトン化する方法を適用している。
【0049】
式(c−2)において、D、Eは、窒素原子に結合する原子、または1価の基であり、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基または上記式(2)で表される基を示す。
炭素原子数1〜12の1価の有機基としては、炭素数1〜12の直鎖構造、分岐構造、シクロ環構造、または部分的にシクロ環を有する構造のアルキル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜12のフェニル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜24のフェニルアルキル基、等が挙げられる。これらの炭化水素基において、炭素原子に結合する水素原子の一部は−NH基に置換されていてもよい。さらに、アルキル基を構成する−CH−の一部は−C(=O)−に置換されていてもよい。
【0050】
式(c−2)中のD、Eとしては、いずれか一方が水素原子であって、他方が炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基または上記式(2)で表される基であることが好ましい。また、いずれか一方が水素原子であって、他方が炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基であることがより好ましい。さらに、いずれか一方が水素原子であって、他方が炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよく、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜12のフェニル基、またはベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜12のフェニルアルキル基であることが特に好ましい。
本発明の撥インク剤の製造方法において、アミノ基を含む化合物(c−2)がベンゼン環を有する場合は、該化合物(c−2)をネガ型感光性樹脂組成物に配合した際に、アルカリ可溶性樹脂(A)中のベンゼン環との相互作用が高まるため、撥インク剤がさらに安定化され、ネガ型感光性樹脂組成物の安定性がより向上する。
【0051】
式(c−2)中のD、Eが、炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基である場合の具体例としては、−C(O)NH、−C(O)CH、−C、−(CHNH、−(CHNH等が挙げられる。
【0052】
式(c−2)中のQは、加水分解性シリル基(−SiX(4−p−q)(RH1)と窒素原子とを結合する連結基であり、炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基である。具体的には、右側の結合手にSiが、左側の結合手に窒素原子がそれぞれ結合するとして表示した場合に、−(CHx1−(x1は1〜6の整数。)、−(C=O)−NR−(CHx2−(Rは水素原子、メチル基またはエチル基、x2は1以上であり、Rの炭素原子数との合計で5以下の整数。)、−(CHx3−NR−(CHx4−(Rは上記と同様であり、x3、x4は1以上であり、x3およびx4と、Rの炭素原子数との合計で6以下の整数)等で表される基が好ましい。Qとしては、炭素原子数2または3のアルキレン基が好ましい。
【0053】
式(2)中のQは、加水分解性シリル基(−SiX(3−j)(RH2)と窒素原子とを結合する連結基であり、炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基である。具体例および好ましい態様はQと同様である。
【0054】
式(c−2)中のXおよび式(2)中のXは、加水分解性基であり、具体例および好ましい態様は、式(c−1)および式(1)中の加水分解性基であるX、Xと同様である。
式(c−2)中、pは1または2、qは0または1であり、p+qが1または2となる数である。よって、加水分解性基Xの数(4−p−q)は、2または3である。pおよびqは、造膜性の観点から、加水分解性基Xの数が3となる数、すなわちpが1で、qが0であることが好ましい。また、式(2)中、jは0または1であるが、上記と同様に造膜性の観点から、加水分解性基Xの数が3となる数、すなわちjが0であることが好ましい。このように、化合物(c−2)は、加水分解性シリル基として3官能性の加水分解性シリル基を有することが好ましい。
【0055】
式(c−2)中のRH1および式(2)中のRH2は、炭素原子数1〜6の炭化水素基を示すが、炭素原子数1〜4のアルキル基またはフェニル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0056】
化合物(c−2)の具体例としては、DおよびEの両方が水素原子である例、DおよびEのいずれか一方が水素原子であり、他方が炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基である例として、以下の化合物が挙げられる。
N(CHNH(CHSiCH(OCH
N(CHNH(CHSi(OCH
N(CHNH(CHSi(OC
N(CHSi(OCH
N(CHSi(OC
NC(O)NH(CHSi(OC
CHC(O)NH(CHSi(OCH
NH(CHSi(OCH
NH(CHSi(OC
【0057】
また、化合物(c−2)の具体例として、DおよびEのいずれか一方が水素原子であり、他方が上式(2)で示される場合、以下の化合物が挙げられる。
HN((CHSi(OC、HN((CHSi(OCH
(CHO)Si(CH−NH−(CH−NH−(CHSi(OCH、((CO)Si−(CH−NH)C=O、((CHO)Si−(CH−NH)C=O、HN((CHSiCH(OC
【0058】
なかでも、化合物(c−2)としては、ベンゼン環を有するという観点から、CNH(CHSi(OCH(N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン)、CNH(CHSi(OC(N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン)が特に好ましい。
なお、本発明の撥インク剤の製造方法における原料である、加水分解性シラン化合物として、化合物(c−2)は、1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。
【0059】
また、本発明の撥インク剤の製造方法に用いる混合物における化合物(c−2)の含有割合としては、化合物(c−2)が有するアミノ基がプロトン化されることで、得られる撥インク剤が安定化する割合であれば特に制限されない。ただし、上記化合物(c−1)の配合による、撥インク剤におけるフッ素原子含有率が上記範囲となるのを妨げない量である。このような化合物(c−2)の配合量として、化合物(c−1)の1モルに対して化合物(c−2)を0.1〜9モル用いることが好ましく、0.5〜9モル用いることが特に好ましい。
【0060】
(加水分解性シラン化合物(c−3))
加水分解性シラン化合物(c−3)は、本発明の製造方法において、得られる撥インク剤の造膜性や溶媒への溶解性を高めるために任意に用いられ、下式(c−3)で表される。
H3−SiX(4−r) …(c−3)
なお、式(c−3)において、加水分解性基を示すXは、上式(c−1)中のXと好ましい態様を含めて同様である。また、RH3は上式(c−2)中のRH1と好ましい態様を含めて同様である。式(c−3)中、rは0、1または2である。RH3およびXが、上記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0061】
化合物(c−3)は、rが0である4官能性化合物、またはrが1である3官能性化合物であることが好ましく、4官能性化合物が特に好ましい。化合物(c−3)は1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。2種以上を併用する場合、4官能性化合物および/または3官能性化合物とともに、2官能性化合物を併用することもできる。
化合物(c−3)を用いることより、撥インク剤は炭化水素系の溶媒に溶解しやすくなり、基材の表面にネガ型感光性樹脂組成物の塗膜を形成する際に、比較的安価な溶媒を選択できる。
【0062】
本発明により得られる撥インク剤においては、化合物(c−1)由来のRによって撥油性が発現される。また、撥インク剤の硬化物が充分な撥油性を発現するには、撥インク剤中のRの相対的割合が高いことが好ましい。化合物(c−3)において、rが0の場合、撥インク剤におけるRの相対的割合が高くなり、撥油性が向上し、また造膜性に優れるという利点がある。化合物(c−3)において、rが1または2の場合、RH3がある程度存在することにより、撥インク剤は炭化水素系の溶媒に溶解しやすくなり、基材の表面にネガ型感光性樹脂組成物の塗膜を形成する際に、比較的安価な溶媒を選択できるという利点がある。
【0063】
化合物(c−3)の具体例としては、以下の例が好ましい。また、化合物(c−3)として、必要に応じて、その複数個を予め部分加水分解縮合して得た部分加水分解縮合物を用いてもよい。なお、他の加水分解性シラン化合物についても同様である。
Si(OCH、Si(OCHCH、CHSi(OCH
CHSi(OCHCH、CHCHSi(OCH
CHCHSi(OCHCH、(CHSi(OCH
(CHSi(OCHCH
Si(OCHを加水分解縮合した化合物(例えば、コルコート社製のメチルシリケート51(商品名))、
Si(OCHCHを加水分解縮合した化合物(例えば、コルコート社製のエチルシリケート40、エチルシリケート48(いずれも商品名))。
【0064】
また、本発明の撥インク剤の製造方法における原料である、加水分解性シラン化合物として、加水分解性シラン化合物(c−3)を用いる場合には、1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。
【0065】
なお、加水分解性シラン化合物(c−1)および加水分解性シラン化合物(c−2)に加えて、加水分解性シラン化合物(c−3)を用いて撥インク剤を製造する場合、加水分解性シラン化合物(c−1)および加水分解性シラン化合物(c−2)の合計量に対する加水分解性シラン化合物(c−3)の配合量は、10〜300モル%が好ましく、50〜200モル%が特に好ましい。
【0066】
(加水分解性シラン化合物(c−4))
加水分解性シラン化合物(c−4)は、本発明の製造方法において、得られる撥インク剤の隔壁上面への定着性を高める目的で任意に用いられる、下式(c−4)で表される加水分解性シラン化合物である。
【0067】
【化5】

式(c−4)において、加水分解性基を示すXは、上記式(c−1)中のXと好ましい態様を含めて同様である。また、RH4は上記式(c−2)中のRH1と好ましい態様を含めて同様である。
式(c−4)中のYは、エチレン性二重結合を有する基であり、Qは、炭素原子数1〜6のフッ素原子を含まない2価の有機基である。gは1または2であり、hは0または1であり、g+hが1または2となる数である。ただし、Y−QおよびXが、上記加水分解性シラン化合物内に複数個存在する場合は、これらは互いに異なっていても、同一であってもよい。
【0068】
化合物(c−4)はYを有するため、化合物(c−4)を用いて得られる撥インク剤を配合したネガ型感光性樹脂組成物の膜を露光する際に、該膜の上面において、該基を介して撥インク剤同士で、あるいは撥インク剤と上記組成物が含有するエチレン性二重結合を有する他成分と重合することができる。すなわち、露光後に、撥インク剤が隔壁上面に留まりやすくする作用を有する。露光後に行われる現像、ポストベーク、親インク化処理等を経た後においても、得られる隔壁の上面は撥インク性に、側面は親インク性に保つ効果を付与できる。
【0069】
式(c−4)中のYとしては、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニルフェニル基等が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基が特に好ましい。
式(c−4)中のQは、加水分解性シリル基(−SiX(4−g−h)(RH4)とYとを結合する連結基であり、具体的には、炭素原子数2〜6のアルキレン基、フェニレン基等が挙げられる。なかでも、−(CH−が好ましい。
【0070】
式(c−4)において、gが2の場合、2個のY−Qは互いに同一であっても異なっていてもよく、g+hが1の場合、3個のXは互いに同一であっても異なっていてもよく、g+hが2の場合、2個のXは互いに同一であっても異なっていてもよい。
式(c−4)中、gが1、hが0または1であることが好ましい。
【0071】
化合物(c−4)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CH=C(CH)COO(CHSi(OCH
CH=C(CH)COO(CHSi(OC
CH=CHCOO(CHSi(OCH
CH=CHCOO(CHSi(OC
[CH=C(CH)COO(CH]CHSi(OCH
[CH=C(CH)COO(CH]CHSi(OC
【0072】
また、本発明の撥インク剤の製造方法における原料である加水分解性シラン化合物として、加水分解性シラン化合物(c−4)を用いる場合には、1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。
撥インク剤を、化合物(c−1)および化合物(c−2)に加えて、化合物(c−4)を用いて製造する場合、化合物(c−1)および化合物(c−2)の合計量に対する加水分解性シラン化合物(c−4)の配合量は、100〜500モル%が好ましく、50〜400モル%が特に好ましい。
【0073】
本発明の撥インク剤の製造方法に用いる混合物には、化合物(c−1)および化合物(c−2)に加えて、化合物(c−3)および/または化合物(c−4)を含むことが好ましい。特に、化合物(c−3)、または化合物(c−3)と化合物(c−4)を含むことが好ましい。なお、化合物(c−4)を用いない場合には、用いる場合に比べて隔壁上面への撥インク剤の固定が強固なものでなくなり、露光後、撥インク剤が隔壁側面に移動しやすいため、隔壁上面、隔壁側面共に撥インク性とすることができ、このような特性が求められる用途に好適である。このように、化合物(c−4)の使用は、用途に応じて適宜使い分けられる。
【0074】
混合物に化合物(c−1)および化合物(c−2)に加えて、化合物(c−3)および加水分解性シラン化合物(c−4)を用いる場合、化合物(c−1)および化合物(c−2)の合計量に対する化合物(c−3)の配合量は、10〜300モル%が好ましく、50〜200モル%が特に好ましい。化合物(c−1)および化合物(c−2)の合計量に対する化合物(c−4)の配合量は、20〜200モル%が好ましく、特に50〜100モル%が好ましい。また、化合物(c−1)および化合物(c−2)の合計量に対する化合物(c−3)および化合物(c−4)の配合量の合計は、10〜500モル%が好ましく、50〜300モル%が特に好ましい。
【0075】
(加水分解性シラン化合物(c−5)およびオルガノジシロキサン(c−6))
加水分解性シラン化合物(c−5)およびオルガノジシロキサン(c−6)はともに、本発明の製造方法において、得られる撥インク剤のネガ型感光性樹脂組成物への相溶性の向上や反応性の制御等を目的として任意に用いられる成分である。
加水分解性シラン化合物(c−5)は、下式(c−5)で表される1官能性の加水分解性シラン化合物である。
【0076】
【化6】
【0077】
式(c−5)中のXは、式(c−1)中のXと好ましい態様を含めて同様であり、RH5は式(c−2)中のRH1と好ましい態様を含めて同様である。
式(c−5)中、Wは、上式(c−1)に中のA−R−Q(ただし、Aはフッ素原子である。)、RH5または上式(c−4)中のY−Qを示す。なお、式(c−5)中、2個のRH5(WがRH5の場合は3個のRH5)は互いに同一であっても異なっていてもよい。
加水分解性シラン化合物(c−5)において、Wを適宜調整することより、撥インク剤とネガ型感光性樹脂組成物の他の構成成分との相溶性の向上、シラノール基を封止することによる撥インク剤自体の反応性の抑制、硬化膜の撥インク性の調整、膜の硬化性向上など、ネガ型感光性樹脂組成物の特性についてより細かく調整することができる。
【0078】
オルガノジシロキサン(c−6)は、下式(c−6)で表されるオルガノジシロキサンである。化合物(c−6)は1官能性のシロキサン単位を生成しうるシラン化合物である。
【0079】
【化7】
【0080】
式(c−6)中の記号RH6は、式(c−2)中のRH1と好ましい態様を含めて同様であり、Wは、式(c−5)中のWと好ましい態様を含めて同様である。式(c−6)中、Wは互いに同一であっても異なっていてもよい。式(c−6)中、4個のRH6(WがRH6の場合は5または6個のRH6)は互いに同一であっても異なっていてもよい。
化合物(c−6)において、Wを適宜調整することより、上記加水分解性シラン化合物(c−5)と同様の効果を、本発明の製造方法で得られる撥インク剤に付与することができる。
【0081】
本発明の撥インク剤の製造方法において、用いる混合物に加水分解性シラン化合物(c−5)およびオルガノジシロキサン(c−6)を配合する場合、該化合物のWおよびWがA−R−Q(ただし、Aはフッ素原子である。)であると、撥インク剤におけるRの相対的割合が高まり優れた撥油性を発現しうるため好ましい。WおよびWが、それぞれRH5およびRH6であると、撥インク剤の炭化水素系溶媒への溶解性が向上するため好ましい。WおよびWがY−Q−であると、撥インク剤の硬化性が向上し、また炭化水素系溶媒への溶解性が向上するため好ましい。
【0082】
化合物(c−5)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
F(CFCHCH(CHSiOCH、(CHSiOCH、[CH=C(CH)COO(CH](CHSiOCH
化合物(c−6)の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
(CHSiOSi(CH
【0083】
また、本発明の撥インク剤の製造方法における原料である加水分解性シラン化合物として、加水分解性シラン化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)を用いる場合には、これらの1種を単独で用いることも2種以上を併用することも可能である。
【0084】
本発明の撥インク剤の製造方法において、混合物が化合物(c−1)および化合物(c−2)に加えて、化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)を含有する場合、化合物(c−1)および化合物(c−2)の合計量に対する化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)の配合量は、5〜300モル%が好ましく、10〜200モル%が特に好ましい。ただし、オルガノジシロキサン(c−6)のみを用いる場合、上限は150モル%が好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0085】
さらに、該混合物に、化合物(c−1)および化合物(c−2)に加えて、化合物(c−4)および化合物(c−5)を用いる場合、化合物(c−1)および化合物(c−2)の合計量に対する化合物(c−4)の配合量は1〜500モル%が好ましく、化合物(c−5)の配合量は1〜300モル%が好ましい。特に好ましくは、化合物(c−1)および化合物(c−2)の合計量に対する化合物(c−4)の配合量は5〜400モル%であり、化合物(c−5)の配合量は5〜200モル%である。
【0086】
[撥インク剤]
本発明の製造方法で得られる撥インク剤(以下、「本発明の撥インク剤」ともいう。)は、加水分解性シラン化合物(c−1)と加水分解性シラン化合物(c−2)とを含む混合物の部分加水分解縮合物からなり、加水分解性シラン化合物(c−2)における窒素原子の一部または全部が、アンモニウム型カチオンとして存在することを特徴とする。
【0087】
本発明の撥インク剤の製造方法における、工程(II)の加水分解縮合反応は、上記の通り加水分解性基の加水分解反応によるシラノール基の生成と、シラノール基同士の脱水縮合反応によるシロキサン結合の生成である。本発明の撥インク剤は、このようにして得られる部分加水分解縮合物中に、好ましい態様として、上記加水分解反応により生成されたシラノール基が残るように分子設計されたものであり、シラノール基数はケイ素原子1個当たり、平均0.2〜3.5個が好ましく、平均0.2〜2.0個がより好ましく、0.5〜1.5個が特に好ましい。
【0088】
上記範囲の下限値以上であると、撥インク剤の溶媒への溶解性やネガ型感光性樹脂組成物中の他の成分への相溶性が良好であり、作業性が向上する。上記範囲の上限値以下であると、ネガ型感光性樹脂組成物を用いて隔壁を形成する際に、基材表面からの撥インク剤の蒸発を防止できる。
なお、部分加水分解縮合物中のシラノール基数は、29Si−NMRにより測定されるシラノール基を有するSi基と、シラノール基を有しないSi基とのピーク面積の比により算出される。
【0089】
本発明の撥インク剤は、加水分解性シラン化合物(c−1)由来のフッ素原子を有することで、これを配合したネガ型感光性樹脂組成物から製造される隔壁に紫外線/オゾン照射処理を経ても優れた撥インク性を付与することが可能である。部分加水分解縮合物におけるフッ素原子の含有量(以下、「フッ素原子含有率」ともいう。)は、10〜55質量%が好ましく、12〜40質量%がより好ましく、15〜30質量%が特に好ましい。上記範囲であると、該撥インク剤を含むネガ型感光性樹脂組成物から得られる隔壁に、優れた撥インク性および撥インク性の耐紫外線/オゾン性を付与できる。なお、撥インク剤における混合物が、フッ素原子を有する加水分解性シラン化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)を用いた場合には、撥インク剤は、加水分解性シラン化合物(c−1)由来のフッ素原子に加えて、加水分解性シラン化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)由来のフッ素原子を合わせたフッ素原子を含有することになる。
【0090】
本発明の撥インク剤は、さらに加水分解性シラン化合物(c−2)由来のアミノ基における窒素原子の一部または全部が、アンモニウム型カチオンとして存在することにより、ネガ型感光性樹脂組成物に配合した際に、該組成物中で安定に存在することが可能である。
【0091】
本発明における撥インク剤は、単一の化合物で構成されていてもよいが、通常、重合度等の異なる複数の化合物で構成される混合物である。すなわち、撥インク剤は、例えば、加水分解性シラン化合物(c−1)として式(c−1)中のAがフッ素原子である化合物、および加水分解性シラン化合物(c−2)として式(c−2)中のDおよびEが、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基である化合物を必須成分として用い、任意に加水分解性シラン化合物(c−3)、加水分解性シラン化合物(c−4)、加水分解性シラン化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)を用いて製造した場合、下式(3)で表される平均組成式の構造を有する剤となる。
【0092】
ただし、実際は加水分解性基またはシラノール基が残存した生成物(部分加水分解縮合物)であるので、この生成物を化学式で表すことは困難であり、式(3)で表される平均組成式は、上記のように製造された部分加水分解縮合物において、加水分解性基またはシラノール基の全てがシロキサン結合となったと仮定した場合の化学式である。
【0093】
【化8】
式(3)中、Rは、上式(c−1)におけるA−R−Q(ただし、Aはフッ素原子である。)を示す。
は、上式(c−2)におけるE−N(D)−Q−(ただし、DおよびEが、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子に結合する水素原子が−NH基に置換されていてもよい炭素原子数1〜12の1価の有機基である。)で示される基、または該基の窒素原子が、プロトン化されてアンモニウム型カチオンとなった下式(5)で示される基を示す。
【0094】
【化9】
は、上式(c−4)におけるY−Qを示す。
Wは、上式(c−5)におけるW、または式(c−6)におけるWを示す。
は、上式(c−5)におけるRH5、または上式(c−6)におけるRH6を示す。
H1、RH3、RH4、p、q、r、g、hについては、上式(c−2)〜上式(c−4)におけるのと、好ましい態様を含めて同様である。
m、n、k、s、tは、構成単位の合計モル量に対する各単位のモル%を示す。m、nはそれぞれ0を超える数であり、k、s、tは0以上の数であり、m+n+k+s+tは、100である。
【0095】
式(3)においては、必須成分である加水分解性シラン化合物(c−1)および加水分解性シラン化合物(c−2)、任意に配合される加水分解性シラン化合物(c−3)、加水分解性シラン化合物(c−4)、加水分解性シラン化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)にそれぞれ由来する単位は、ランダムに配列していると推測される。
【0096】
また、式(3)で表される平均組成式中の、m:n:k:s:tは、撥インク剤の製造に用いた混合物における化合物(c−1)、化合物(c−2)、化合物(c−3)、化合物(c−4)および化合物(c−5)、および/または化合物(c−6)の仕込み量のモル比と一致する。m、nの値は、撥インク剤全体の平均値として、m:nが、それぞれ加水分解性シラン化合物(c−1)に対する加水分解性シラン化合物(c−2)の共縮合割合として、上述した範囲内にあることが好ましい。
【0097】
本発明の撥インク剤は、加水分解性シラン化合物(c−2)に由来する縮合単位部分の窒素原子の一部または全部が、プロトン化されてアンモニウム型カチオンとなった剤である。つまり、化合物(3)には、化合物(c−2)に由来する単位のRが、上式(5)で示される基であるものが必ず含まれる。特には、加水分解性シラン化合物(c−2)に由来する全ての窒素原子がアンモニウム型カチオンとなったもの、すなわち、化合物(3)において、化合物(c−2)に由来する単位のRが、全て上式(5)で示される基であるものが好ましい。
【0098】
また、任意に配合される加水分解性シラン化合物(c−3)、加水分解性シラン化合物(c−4)、加水分解性シラン化合物(c−5)および/またはオルガノジシロキサン(c−6)における共縮合割合についても、撥インク剤全体の平均値として、m+nに対するモル%としては、上記化合物毎に説明した上記割合の範囲内にあることが好ましい。
【0099】
本発明の撥インク剤としては、上式(3)中のtが0であり、mを1モルとしたときにnが0.1〜5モル、kが0.5〜10モル、sが0.1〜5モルである平均組成、または、tおよびsが0であり、mを1モルとしたときにnが0.5〜10モル、kが0.1〜5モルである平均組成が特に好ましい。
【0100】
本発明の撥インク剤の数平均分子量(Mn)は、500以上が好ましく、1,000,000未満が好ましく、10,000未満が特に好ましい。数平均分子量(Mn)が下限値以上であると、ネガ型感光性樹脂組成物を用いて隔壁を形成する際に、基材表面からの蒸発を防止できる利点があり、数平均分子量(Mn)が上限値未満であると、溶媒への溶解性が良好になるため、作業性が向上する利点がある。
撥インク剤の数平均分子量(Mn)は、以下に説明する撥インク剤の製造方法において反応条件等を選択することにより調節できる。
【0101】
本発明の撥インク剤は、撥インク性を有する硬化膜の製造に用いるネガ型感光性樹脂組成物の一構成成分として用いられる。本発明の撥インク剤を含有するネガ型感光性樹脂組成物としては特に制限はなく、具体的には、以下の本発明のネガ型感光性樹脂組成物等が挙げられる。
本発明の撥インク剤は、ネガ型感光性樹脂組成物に配合した際に、該組成物中での貯蔵安定性に優れ、該組成物から製造される硬化膜、例えば、隔壁において紫外線/オゾン照射処理を経ても優れた撥インク性を付与することが可能である。
【0102】
[ネガ型感光性樹脂組成物]
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、アルカリ可溶性樹脂(A)、光重合開始剤(B)、撥インク剤(C)として本発明の製造方法で得られた撥インク剤、および溶媒(D)を含有する。さらに、必要に応じて、架橋剤(E)を含有する。さらに、熱架橋剤(F)、着色剤(G)、高分子分散剤(H)、分散助剤(I)、シランカップリング剤(J)、微粒子(K)、リン酸化合物(L)およびその他の添加剤を含有してもよい。
【0103】
(アルカリ可溶性樹脂(A))
本発明におけるアルカリ可溶性樹脂(A)は、1分子中に酸性基とエチレン性二重結合とを有する感光性樹脂である。アルカリ可溶性樹脂(A)が分子中にエチレン性二重結合を有することで、ネガ型感光性樹脂組成物の露光部は、光重合開始剤(B)から発生したラジカルにより重合して硬化する。このように硬化した露光部分は、アルカリ現像液にて除去されない。また、アルカリ可溶性樹脂(A)が分子中に酸性基を有することで、アルカリ現像液にて、硬化していないネガ型感光性樹脂組成物の未露光部を選択的に除去することができる。その結果、隔壁を形成することができる。
【0104】
前記酸性基としては、特に制限されないが、カルボキシ基、フェノール性水酸基、スルホ基、リン酸基等が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
前記エチレン性二重結合としては、特に制限されないが、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニル基、ビニルオキシ基、ビニルオキシアルキル基等の付加重合性を有する二重結合が挙げられ、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、エチレン性二重結合基が有する水素原子の一部または全てが、アルキル基、好ましくはメチル基で置換されていてもよい。
【0105】
アルカリ可溶性樹脂(A)としては、特に限定されないが、酸性基を有する側鎖とエチレン性二重結合を有する側鎖とを有する樹脂(A1−1)、エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂(A1−2)、酸性基を有する側鎖とエチレン性二重結合を有する側鎖とを有する単量体(A1−3)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0106】
樹脂(A1−1)は、例えば、以下の(i)または(ii)の方法で合成できる。
(i)側鎖に酸性基以外の反応性基、例えば、水酸基、エポキシ基等の反応性基を有する単量体と、側鎖に酸性基を有する単量体とを共重合させ、反応性基を有する側鎖と、酸性基を有する側鎖を有する共重合体を得る。次いで、この共重合体と、上記反応性基に対して結合し得る官能基およびエチレン性二重結合を有する化合物を反応させる。または、側鎖に酸性基、例えばカルボキシ基等を有する単量体を共重合させた後、酸性基に対して結合し得る官能基およびエチレン性二重結合を有する化合物を、反応後に酸性基が残る量で反応させる。
【0107】
(ii)上記(i)と同様の酸性基以外の反応性基を側鎖に有する単量体と、この反応性基に対して結合し得る官能基および保護されたエチレン性二重結合を有する化合物を反応させる。次いで、この単量体と側鎖に酸性基を有する単量体とを共重合させた後、エチレン性二重結合の保護を外す。または、側鎖に酸性基を有する単量体と、側鎖に保護されたエチレン性二重結合を有する単量体とを共重合させた後、エチレン性二重結合の保護を外す。
なお、(i)または(ii)は溶媒中で実施することが好ましい。
これらのうちでも、本発明においては(i)の方法が好ましく用いられる。以下、(i)の方法について具体的に説明する。
【0108】
反応性基として水酸基を有する単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0109】
上述の(i)において、反応性基として水酸基を有する単量体を用いる場合、共重合させる酸性基を有する単量体は、特に限定されない。後述のカルボキシ基を有する単量体の他に、リン酸基を有する単量体として、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等が挙げられる。水酸基を反応性基として有する単量体と、酸性基を有する単量体との共重合は、従来公知の方法で行うことができる。
【0110】
得られた共重合体と反応させる、水酸基に対して結合し得る官能基およびエチレン性二重結合を有する化合物としては、エチレン性二重結合を有する酸無水物、イソシアナート基とエチレン性二重結合とを有する化合物、塩化アシル基とエチレン性二重結合とを有する化合物等が挙げられる。
エチレン性二重結合を有する酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、cis−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、2−ブテン−1−イルサクシニックアンハイドライド等が挙げられる。
イソシアナート基とエチレン性二重結合とを有する化合物としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。
塩化アシル基とエチレン性二重結合とを有する化合物としては、(メタ)アクリロイルクロライド等が挙げられる。
【0111】
反応性基としてエポキシ基を有する単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート等が挙げられる。
反応性基としてエポキシ基を有する単量体と共重合させる酸性基を有する単量体としては、上記水酸基を反応性基として有する単量体で説明したものと同様の単量体が使用でき、エポキシ基を反応性基として有する単量体と酸性基を有する単量体の共重合についても、従来公知の方法で行うことができる。
【0112】
得られた共重合体と反応させる、エポキシ基に対して結合し得る官能基およびエチレン性二重結合を有する化合物としては、カルボキシ基とエチレン性二重結合を有する化合物が挙げられる。該化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸およびこれらの塩が挙げられる。なお、ここで生じた水酸基とカルボン酸の脱水縮合部分が環状構造の一部をなす酸無水物とを反応させ、樹脂(A1−1)中にカルボキシ基を導入してもよい。
【0113】
反応性基としてカルボキシ基を有する単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸およびこれらの塩が挙げられる。なお、これらの単量体は上述した酸性基を有する単量体としても用いられる。
【0114】
反応性基としてカルボキシ基を有する単量体を用いる場合、上記の通り該単量体を重合させる。得られた重合体と反応させる、カルボキシ基に対して結合し得る官能基およびエチレン性二重結合を有する化合物としては、エポキシ基とエチレン性二重結合を有する化合物が挙げられる。該化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート等が挙げられる。なお、この場合、カルボキシ基を有する重合体と反応させる、カルボキシ基に対して結合し得る官能基およびエチレン性二重結合を有する化合物の量は、反応後に重合体においてカルボキシ基が酸性基として側鎖に残る量とする。
【0115】
樹脂(A1−2)は、エポキシ樹脂と、後述するカルボキシ基とエチレン性二重結合とを有する化合物とを反応させた後に、多価カルボン酸またはその無水物とを反応させることにより合成することができる。
具体的には、エポキシ樹脂と、カルボキシ基とエチレン性二重結合を有する化合物とを反応させることにより、エポキシ樹脂にエチレン性二重結合が導入される。次に、エチレン性二重結合が導入されたエポキシ樹脂に、多価カルボン酸またはその無水物を反応させることにより、カルボキシ基を導入することができる。
【0116】
エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、下式(A1−2a)で表されるビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、下式(A1−2b)で表されるエポキシ樹脂、下式(A1−2c)で表されるビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0117】
【化10】

(式(A1−2a)中、vは、1〜50の整数であり、2〜10の整数が好ましい。またベンゼン環の水素原子は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12のアルキル基、ハロゲン原子、または一部の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基で置換されていてもよい。)
【0118】
【化11】
(式(A1−2b)中、R31、R32、R33およびR34は、それぞれ独立に、水素原子、塩素原子または炭素原子数が1〜5のアルキル基であり、wは、0または1〜10の整数である。)
【0119】
【化12】

(式(A1−2c)中、ベンゼン環の水素原子は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12のアルキル基、ハロゲン原子、または一部の水素原子が置換基で置換されていてもよいフェニル基で置換されていてもよい。zは、0または1〜10の整数である。)
【0120】
なお、式(A1−2a)〜(A1−2c)で表されるエポキシ樹脂と、カルボキシ基とエチレン性二重結合を有する化合物とを反応させた後に、多価カルボン酸無水物を反応させる場合、多価カルボン酸無水物としては、ジカルボン酸無水物およびテトラカルボン酸二無水物の混合物を用いることが好ましい。ジカルボン酸無水物とテトラカルボン酸二無水物の比率を変化させることにより、分子量を制御することができる。
【0121】
カルボキシ基とエチレン性二重結合とを有する化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸およびこれらの塩が好ましく、アクリル酸またはメタクリル酸が特に好ましい。
【0122】
樹脂(A1−2)は、市販品を使用することができる。市販品としては、いずれも商品名で、KAYARAD PCR−1069、K−48C、CCR−1105、CCR−1115、CCR−1159H、CCR−1235、TCR−1025、TCR−1064H、TCR−1286H、ZAR−1535H、ZAR−2001H、ZAR−2002、ZFR−1491H、ZFR−1492H、ZCR−1571H、ZCR−1569H、ZCR−1580H、ZCR−1581H、ZCR−1588H、ZCR−1642H、ZCR−1664H(以上、日本化薬社製)、EX1010(ナガセケムテックス社製)、ネオポール8430、8473、8475、8478(以上、日本ユピカ社製)等が挙げられる。
【0123】
単量体(A1−3)としては、2,2,2−トリアクリロイルオキシメチルエチルフタル酸(NKエステル CBX−1、新中村化学工業社製)等が挙げられる。
【0124】
アルカリ可溶性樹脂(A)としては、現像時の硬化膜の剥離が抑制されて、高解像度のパターンを得ることができる点、ラインの直線性が良好である点、ポストベーク工程後の外観が維持され、平滑な硬化膜表面が得られやすい点等から、樹脂(A1−2)を用いることが好ましい。
樹脂(A1−2)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、式(A1−2a)〜(A1−2c)で表されるエポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂が特に好ましい。
【0125】
アルカリ可溶性樹脂(A)が1分子中に有するエチレン性二重結合の数は、平均3個以上が好ましく、6個以上が特に好ましい。エチレン性二重結合の数が上記範囲の下限値以上であると、露光部分が硬化性に優れ、より少ない露光量での微細なパターン形成が可能となる。
【0126】
アルカリ可溶性樹脂(A)の質量平均分子量(Mw)は、1.5×10〜30×10が好ましく、2×10〜20×10が特に好ましい。また、数平均分子量(Mn)は、500〜20×10が好ましく、1×10〜10×10が特に好ましい。質量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)が上記範囲の下限値以上であると、露光時の硬化性に優れ、上記範囲の上限値以下であると、現像性が良好である。
アルカリ可溶性樹脂(A)の酸価は、10〜300mgKOH/gが好ましく、30〜150mgKOH/gが特に好ましい。酸価が上記範囲であると、ネガ型感光性樹脂組成物の現像性が良好になる。
【0127】
ネガ型感光性樹脂組成物に含まれるアルカリ可溶性樹脂(A)は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中のアルカリ可溶性樹脂(A)の含有割合は、5〜80質量%が好ましく、10〜60質量%が特に好ましい。含有割合が上記範囲であると、ネガ型感光性樹脂組成物の現像性が良好である。
【0128】
(光重合開始剤(B))
本発明における光重合開始剤(B)は、光重合開始剤としての機能を有する化合物であれば特に制限されないが、光によりラジカルを発生する化合物が好ましい。
【0129】
光重合開始剤(B)としては、メチルフェニルグリオキシレート、9,10−フェナンスレンキノン等のα−ジケトン類;ベンゾイン等のアシロイン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のアシロインエーテル類;チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、チオキサントン−4−スルホン酸等のチオキサントン類;ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;アセトフェノン、2−(4−トルエンスルホニルオキシ)−2−フェニルアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、2,2’−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン等のアセトフェノン類;アントラキノン、2−エチルアントラキノン、カンファーキノン、1,4−ナフトキノン等のキノン類;2−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル等のアミノ安息香酸類;フェナシルクロライド、トリハロメチルフェニルスルホン等のハロゲン化合物;アシルホスフィンオキシド類;ジ−t−ブチルパーオキサイド等の過酸化物;1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)、下式(4)で表されるアセチルオキシム等のオキシムエステル類;トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n−ブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の脂肪族アミン類;2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、1,4−ブタノールビス(3−メルカプトブチレート)、トリス(2−メルカプトプロパノイルオキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)等のチオール化合物等が挙げられる。
【0130】
【化13】
【0131】
式(4)中、Rは、水素原子、R61またはOR62を示し、該R61およびR62は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜20のアルキル基、シクロアルカン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数2〜5のアルケニル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜30のフェニル基、またはベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜30のフェニルアルキル基を示す。
は、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜30のフェニル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜30のフェニルアルキル基、炭素原子数2〜20のアルカノイル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のベンゾイル基、炭素原子数2〜12のアルコキシカルボニル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のフェノキシカルボニル基、またはシアノ基を示す。
【0132】
は、炭素原子数1〜20のアルキル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜30のフェニル基またはベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜30のフェニルアルキル基を示す。
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、シアノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、R61、OR62、炭素原子数2〜20のアルカノイル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のベンゾイル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のベンジルカルボニル基、炭素原子数2〜12のアルコキシカルボニル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のフェノキシカルボニル基、または炭素原子数1〜20のアミド基を示す。
は、R61、OR62、シアノ基またはハロゲン原子を示す。
aは0または1〜3の整数である。
【0133】
式(4)で表される化合物(以下、光重合開始剤(4)という。)のなかでも、R〜RおよびRが以下の態様である化合物が好ましい。
は、水素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数2〜5のアルケニル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜20のフェニル基、またはベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜20のフェノキシ基を示す。
は、水素原子、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜20のフェニル基、炭素原子数2〜20のアルカノイル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のベンゾイル基、炭素原子数2〜12のアルコキシカルボニル基、またはベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のフェノキシカルボニル基を示す。
【0134】
は、炭素原子数1〜12のアルキル基を示す。
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基、シクロアルカン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数6〜20のフェニル基、炭素原子数2〜20のアルカノイル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のベンゾイル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のベンジルカルボニル基、炭素原子数2〜12のアルコキシカルボニル基、ベンゼン環中の水素原子がアルキル基に置換されていてもよい炭素原子数7〜20のフェノキシカルボニル基、炭素原子数1〜20のアミド基、またはニトロ基を示す。
の個数を示すaは0である。
【0135】
光重合開始剤(4)の具体例としては、式(4)において、R〜Rがそれぞれ以下の基であり、Rの個数を示すaは0である、化合物(4−1)〜(4−10)等を挙げることができる。
:フェニル基、R:オクチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:ベンゾイル基である化合物(4−1)、
:メチル基、R:オクチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:ベンゾイル基である化合物(4−2)、
:メチル基、R:ブチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:ベンゾイル基である化合物(4−3)、
:メチル基、R:ヘプチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:ベンゾイル基である化合物(4−4)、
:フェニル基、R:オクチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:2−メチルベンゾイル基である化合物(4−5)、
:メチル基、R:オクチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:2−メチルベンゾイル基である化合物(4−6)、
:メチル基、R:メチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:2−メチルベンゾイル基である化合物(4−7)、
:メチル基、R:メチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:2−メチル−4−テトラヒドロピラニルメトキシベンゾイル基である化合物(4−8)、
:メチル基、R:メチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:2−メチル−5−テトラヒドロフラニルメトキシベンゾイル基である化合物(4−9)、
:メチル基、R:メチル基、R:エチル基、R、R、R:水素原子、R:2−メチル−5−テトラヒドロピラニルメトキシベンゾイル基である化合物(4−10)
【0136】
光重合開始剤(B)は市販品を使用することができる。2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノンとしては、IRGACURE 907(BASF社製、商品名)、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オンとしては、IRGACURE 369(BASF社製、商品名)が挙げられる。オキシムエステル類としては、例えば、IRGACURE OXE01(BASF社製、商品名:1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム)]に相当する。)、アデカオプトマー N−1919、アデカクルーズ NCI−831、NCI−930(以上、ADEKA社製、いずれも商品名)等が挙げられる。
光重合開始剤(4)としては、市販品として、IRGACURE OXE02(BASF社製、商品名:上記化合物(4−7)に相当する。)等が挙げられる。
光重合開始剤(4)としては、また、国際公開第2008/078678号に記載のNo.1〜71が使用できる。
【0137】
上に例示した光重合開始剤(B)のなかでも、ベンゾフェノン類、アミノ安息香酸類、脂肪族アミン類およびチオール化合物は、その他のラジカル開始剤と共に用いると、増感効果を発現することがあり好ましい。
光重合開始剤(B)としては、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)、エタノン1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)(上記化合物(4−7)に相当する化合物。)、2,4−ジエチルチオキサントンが好ましい。さらに、これらと上記ベンゾフェノン類、例えば、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンとの組み合わせが特に好ましい。
【0138】
ネガ型感光性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤(B)は、1種でも2種以上の混合物でもよい。
ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中の光重合開始剤(B)の割合は、0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜30質量%がより好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。上記範囲であると、ネガ型感光性樹脂組成物の現像性が良好である。
【0139】
(撥インク剤(C))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、撥インク剤(C)として上記本発明の製造方法で得られた撥インク剤を含有する。
【0140】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物における撥インク剤(C)の含有割合は、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜6質量%がより好ましく、0.5〜5質量%が特に好ましい。撥インク剤(C)の含有割合を上記範囲とすることにより、ネガ型感光性樹脂組成物の貯蔵安定性が良好になり、また該ネガ型感光性樹脂組成物から得られる光学素子の隔壁の撥インク性が良好となり、滑らかな表面を有する隔壁が得られる。
【0141】
(溶媒(D))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、溶媒(D)を含有することで、ネガ型感光性樹脂組成物の粘度が低減し、ネガ型感光性樹脂組成物の基板表面への塗布がしやすい。よって、均一なネガ型感光性樹脂組成物の塗膜が形成できる。
【0142】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物が含有する溶媒(D)は、ネガ型感光性樹脂組成物が含有する上記アルカリ可溶性樹脂(A)、光重合開始剤(B)、撥インク剤(C)、必要に応じて架橋剤(E)、さらには後述する任意成分を均一に溶解または分散させて、隔壁が形成される基材へのネガ型感光性樹脂組成物の塗布を均一かつ簡便にする機能を有し、かつこれら成分との反応性を有しないものであれば特に制限されない。
【0143】
溶媒(D)としては、例えば、上に例示した撥インク剤(C)の合成時に使用可能な溶媒と同様の溶媒が使用できる。その他には、n−ブタン、n−ヘキサン等の鎖式炭化水素;シクロヘキサン等の環式飽和炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ベンジルアルコール、水等が挙げられる。これらは、1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0144】
ネガ型感光性樹脂組成物の種類や基板への塗工方法等により、それぞれ求められる性能を有する溶媒が適宜選択され、溶媒(D)として用いられる。
【0145】
例えば、ネガ型感光性樹脂組成物において、隔壁の製造に際して、これを用いて基板表面に塗膜を形成し乾燥させた膜について、大面積においても膜厚が均一でムラがなく、膜表面に凝集物が発生しない良好な塗工性が求められる場合、特にスリットコート法において良好な塗工性が求められる場合には、溶媒(D)としては、溶媒全量に対して、沸点が165〜210℃である溶媒(D1)を、10〜100質量%の割合で含有するものが好ましく用いられる。
【0146】
溶媒(D1)の沸点は165〜210℃であり、170〜200℃が特に好ましい。溶媒(D1)の沸点が上記範囲の下限値以上であると、撥インク剤(C)の表面移行時間を充分に確保できるため、凝集物の発生を防ぐことができる。さらに、塗膜の乾燥速度が速すぎて充分なレベリング期間を取れずに乾燥が終了することで発生する、膜の外観のムラや、膜厚の不均一化の問題も防ぐこともできる。
【0147】
一方、溶媒(D1)の沸点が上記範囲の上限値以下であると、スティッキングの発生や乾燥工程に要する時間が長くなることによる生産性の低下をきたすおそれがない。溶媒が残留することで、発生する現像時の硬化膜の剥離、隔壁形成後の再加熱によるアウトガス発生等によって信頼性が低下する等の影響を防ぐことができる。
【0148】
溶媒(D1)の溶媒(D)中の含有量は、10〜100質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、30〜70質量%が特に好ましい。該含有量が上記範囲であると、ネガ型感光性樹脂組成物の基板表面への塗工および乾燥工程において、膜厚が均一でムラがなく、膜表面に凝集物が発生しない良好な膜が得られる。
【0149】
溶媒(D1)の具体例としては、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM、沸点176℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(EDE、沸点:189℃)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(IPDM、沸点:179℃)、プロピレングリコールジアセテート(沸点:190℃)、プロピレングリコールn−ブチルエーテル(沸点:170℃)、3−メトキシブチルアセテート(沸点:171℃)、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート(沸点:188℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点:175℃)、3−エトキシプロピオン酸エチル(沸点:170℃)、4−ブチロラクトン(沸点:204℃)、シクロヘキサノールアセテート(沸点:173℃)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0150】
溶媒(D1)としては、下式(6)で表される化合物が特に好ましい。化合物(6)は極性を有するエーテル性酸素を含むため、撥インク剤(C)を溶解する能力が高く、ネガ型感光性樹脂組成物の貯蔵安定性の向上に大きく寄与することができる。
11O(CO)12 (6)
式(6)中、R11は炭素原子数が1〜10のアルキル基、R12は炭素原子数が2〜10のアルキル基を示し、yは1〜10の整数を示す。
【0151】
化合物(6)において、R11は炭素原子数が1〜4のアルキル基が好ましく、炭素原子数1のアルキル基が特に好ましい。
12としては炭素原子数が2〜4のアルキル基が好ましく、2のアルキル基が特に好ましい。また、yは1〜3が好ましく、2が特に好ましい。
【0152】
溶媒(D1)として好ましく用いられる化合物(6)の具体例を、その略称、沸点とともに以下に示す。
ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(EDM、沸点:176℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(EDE、沸点:189℃)、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル(IPDM、沸点:179℃)等が挙げられる。これらは1種を用いても、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルが特に好ましい。
【0153】
溶媒(D)が溶媒(D1)を含有する場合、これと共に溶媒(D2)を用いることが好ましい。該溶媒(D2)は、分子中に水酸基を有し、沸点が165℃未満の化合物であり、好ましくは、25℃における粘度が2mP・s以下である。
【0154】
撥インク剤(C)は部分加水分解縮合物であるため、その生成物中にシラノール基が残る。したがって、該シラノール基と同様の水酸基構造を有する溶媒(D2)をネガ型感光性樹脂組成物に含有させることで、溶媒和により組成物中の撥インク剤(C)の分散状態がより安定化し、結果としてネガ型感光性樹脂組成物の貯蔵安定性をより向上させることができる。
一方、溶媒(D2)は水酸基を有するため、分子間の水素結合により、水酸基を持たない同程度の分子量の化合物と比較して粘度が上昇しやすい。溶媒(D2)の沸点が上記上限値未満であると、その粘度は概ね上記上限値以下となり、塗工時に基板表面の濡れ広がりが良好となって、多くの液量を必要としたり、面内均一性が悪化したり、ムラが生じたりすることがない。
【0155】
溶媒(D2)としては、具体的には、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME、沸点:120℃、粘度:1.71mPa・s(25℃))、水(沸点:100℃、粘度:0.89mPa・s(25℃))、2−プロパノール(IPA、沸点:82℃、粘度:1.96mPa・s(25℃))等が挙げられる。
溶媒(D)の全量に対する溶媒(D2)の割合は、1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0156】
また、溶媒(D)として、上述の溶媒(D1)および溶媒(D2)以外の溶媒(D3)を必要に応じて含有してもよい。溶媒(D3)としては、上記アルカリ可溶性樹脂(A)や撥インク剤(C)の合成に使用した溶媒等が、アルカリ可溶性樹脂(A)や撥インク剤(C)とともにネガ型感光性樹脂組成物に配合される場合の溶媒等が挙げられる。
【0157】
なお、上記アルカリ可溶性樹脂(A)や撥インク剤(C)の合成に使用する溶媒としては、上記溶媒(D1)や溶媒(D2)を用いる場合もある。ネガ型感光性樹脂組成物がこれら配合成分由来の溶媒(D1)や溶媒(D2)を含有する場合には、それぞれについて、これらを含む溶媒(D1)および溶媒(D2)の各総量により算出される、溶媒(D)における溶媒(D1)および溶媒(D2)の含有量が、それぞれ上記範囲となるように調整すればよい。
【0158】
溶媒(D3)として具体的には、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート(PGMEA、沸点:146℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(EDGAC、沸点:217℃)、ブチルアセテート(沸点:126℃)、シクロヘキサノン(沸点:156℃)、ソルベントナフサ(沸点:150〜200℃)等が挙げられる。ソルベントナフサは、石油系化合物の混合溶媒であり、上記の沸点が示す通り、その組成には溶媒(D1)に分類される化合物が含まれる。
本明細書においては、このように混合溶媒であって、沸点の範囲が溶媒(D1)の沸点の範囲を超えている溶媒については、溶媒(D3)に分類した。
【0159】
溶媒(D)における溶媒(D3)の含有量は、溶媒(D)の全量から溶媒(D1)および溶媒(D2)の量を引いた量であり、具体的には、溶媒(D)の全量に対して1〜50質量%が好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0160】
なお、溶媒(D)の具体的な態様として、溶媒(D1)のみで構成される、溶媒(D1)と溶媒(D2)および/または溶媒(D3)で構成される態様が挙げられる。溶媒(D)が溶媒(D1)と溶媒(D2)で構成される場合の好ましい配合割合(質量比)として、溶媒(D1):溶媒(D2)=50〜90:10〜50が挙げられる。溶媒(D)が溶媒(D1)と溶媒(D3)で構成される場合の好ましい配合割合(質量比)として、溶媒(D1):溶媒(D3)=50〜90:10〜50が挙げられる。また、溶媒(D)が溶媒(D1)、溶媒(D2)、および溶媒(D3)で構成される場合の好ましい配合割合(質量比)として、溶媒(D1):溶媒(D2):溶媒(D3)=50〜90:5〜45:5〜45が挙げられる。
【0161】
以上、ネガ型感光性樹脂組成物に、例えば、大面積の塗工、特にスリットコート法に有利となるような、高い塗工性能が求められる場合の、溶媒(D)の好ましい組成について説明したが、本発明のネガ型感光性樹脂組成物における溶媒(D)の組成は、これに限定されない。上記のようにネガ型感光性樹脂組成物の求められる特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、溶媒(D)は適宜選択可能である。
【0162】
ネガ型感光性樹脂組成物における溶媒(D)の含有割合は、ネガ型感光性樹脂組成物の組成や用途等により異なるが、50〜99質量%が好ましく、60〜95質量%がより好ましく、65〜90質量%が特に好ましい。
【0163】
(架橋剤(E))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、ラジカル硬化を促進する任意成分として、架橋剤(E)を含んでもよい。架橋剤(E)としては、1分子中に2つ以上のエチレン性二重結合を有し、酸性基を有しない化合物が好ましい。ネガ型感光性樹脂組成物が架橋剤(E)を含むことにより、露光時におけるネガ型感光性樹脂組成物の硬化性が向上し、低い露光量でも隔壁を形成することができる。
【0164】
架橋剤(E)としては、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ビス{4−(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)フェニル}メタン、N,N’−m−キシリレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)、ウレタンアクリレート等が挙げられる。光反応性の点から多数のエチレン性二重結合を有することが好ましい。例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、ウレタンアクリレートが好ましい。なお、これらは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0165】
架橋剤(E)としては、市販品を使用することができる。市販品としては、KAYARAD DPHA(商品名、日本化薬社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物)、NKエステル A−9530(商品名、新中村化学工業社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物))、NKエステル A−9300(商品名、新中村化学工業社製、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート)、NKエステル A−9300−1CL(商品名、新中村化学工業社製、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート)、BANI−M(商品名、丸善石油化学社製、ビス{4−(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)フェニル}メタン)、BANI−X(商品名、丸善石油化学社製、N,N’−m−キシリレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド))等が挙げられる。ウレタンアクリレートとしては、日本化薬社製のKAYARAD UXシリーズが挙げられ、具体的な商品名としては、UX−3204、UX−6101、UX−0937、DPHA−40H、UX−5000、UX−5002D−P20等が挙げられる。
【0166】
なかでも、KAYARAD DPHAおよびNKエステル A−9530は、ネガ型感光性樹脂組成物から得られる硬化膜の感度を向上させる理由から好ましい。NKエステル A−9300、BANI−MおよびBANI−Xは、硬化膜に硬さを付与し、熱垂れを抑制する点から好ましい。NKエステル A−9300−1CLは、硬化膜に柔軟性を付与する点から好ましい。ウレタンアクリレートは、適度な現像時間が実現可能となり、現像性が良好になるので好ましい。
【0167】
ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中の架橋剤(E)の含有割合は、10〜60質量%が好ましく、20〜55質量%が特に好ましい。上記範囲であると、ネガ型感光性樹脂組成物の貯蔵安定性が良好になり、ネガ型感光性樹脂組成物を用いて得られるパターニング基板を形成させた際に、画素内のインクジェットインキの濡れ性が良好になる。
【0168】
(熱架橋剤(F))
本発明における熱架橋剤(F)は、カルボキシ基および/または水酸基と反応し得る基を2個以上有する化合物である。熱架橋剤(F)は、アルカリ可溶性樹脂(A)がカルボキシ基および/または水酸基を有する場合、アルカリ可溶性樹脂(A)と反応し、硬化膜の架橋密度を増大させ耐熱性を向上させるという作用を有する
【0169】
熱架橋剤(F)としては、アミノ樹脂、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、ポリイソシアネート化合物、およびポリカルボジイミド化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を好ましく挙げることができる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0170】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中の熱架橋剤(F)の含有割合は、1〜50質量%が好ましく、5〜30質量%が特に好ましい。上記範囲であると得られるネガ型感光性樹脂組成物の現像性が良好となる。
【0171】
(着色剤(G))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物を液晶表示素子のカラーフィルタのR、G、Bの三色の画素を囲む格子状の黒色部分であるブラックマトリックス形成のために用いる場合、着色剤(G)を含むことが好ましい。
着色剤(G)としては、例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、アントラキノン系黒色顔料、ペリレン系黒色顔料、具体的には、C.I.ピグメントブラック1、6、7、12、20、31等が挙げられる。着色剤(G)としては、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等の有機顔料や無機顔料の混合物を用いることもできる。
【0172】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物に着色剤(G)を含有させ、ブラックマトリックス形成等に用いる場合、該ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中の着色剤(G)の含有割合は、15〜65質量%が好ましく、20〜50質量%が特に好ましい。上記範囲であると、得られるネガ型感光性樹脂組成物は感度が良好であり、また、形成される隔壁は遮光性に優れる。
【0173】
(高分子分散剤(H))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物が、上記着色剤(G)等の分散性材料を含有する場合、その分散性を向上させるために、高分子分散剤(H)を含有することが好ましい。
高分子分散剤(H)としては、特に限定されず、ウレタン系、ポリイミド系、アルキッド系、エポキシ系、ポリエステル系、メラミン系、フェノール系、アクリル系、ポリエーテル系、塩化ビニル系、塩化ビニル酢酸ビニル系共重合体系、ポリアミド系、ポリカーボネート系等が挙げられ、ウレタン系、またはポリエステル系が好ましい。また、高分子分散剤(H)は、エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイド由来の構成単位を有していてもよい。
【0174】
高分子分散剤(H)を着色剤(G)の分散のために用いる場合には、着色剤(G)に対する親和性を考慮して、塩基性基を有する高分子分散剤(H)を用いることが好ましい。塩基性基としては、特に限定されないが、1級、2級または3級のアミノ基が挙げられる。
高分子分散剤(H)としては市販品を用いてもよい。市販品としては、ディスパロンDA−7301(商品名、楠本化成社製)、BYK161、BYK162、BYK163、BYK182(以上全て商品名、BYK−Chemie社製)、ソルスパーズ5000、ソルスパーズ17000(以上全て商品名、ゼネカ社製)等が挙げられる。
高分子分散剤(H)の使用量は、着色剤(G)に対して、5〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%が特に好ましい。使用量が上記範囲の下限値以上であると、着色剤(G)の分散性が向上し、上記範囲の上限値以下であると、ネガ型感光性樹脂組成物の現像性が良好になる。
【0175】
(分散助剤(I))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、分散助剤(I)として、フタロシアニン系顔料誘導体や金属フタロシアニンスルホンアミド化合物を含有してもよい。分散助剤(I)は、着色剤(G)等の分散性材料と高分子分散剤(H)に吸着して、分散安定性を向上させる機能を有すると考えられる。
【0176】
分散助剤(I)の使用量は、着色剤(G)に対して、1〜10質量%であることが好ましく、2〜8質量%が特に好ましい。使用量が上記範囲の下限値以上であると、着色剤(G)の分散安定性が向上し、上記範囲の上限値以下であると、ネガ型感光性樹脂組成物の現像性が良好になる。
【0177】
(シランカップリング剤(J))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、シランカップリング剤(J)を使用すると、形成される硬化膜の基材密着性が向上する。
シランカップリング剤(J)の具体例としては、テトラエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、へプタデカフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、ポリオキシアルキレン鎖含有トリエトキシシラン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0178】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中のシランカップリング剤(J)の含有割合は、0.1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%が特に好ましい。上記範囲の下限値以上であると、ネガ型感光性樹脂組成物から形成される硬化膜の基材密着性が向上し、上記範囲の上限値以下であると、撥インク性が良好である。
【0179】
(微粒子(K))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、必要に応じて、微粒子(K)を含んでいてもよい。微粒子(K)を配合することにより、ネガ型感光性樹脂組成物から得られる隔壁の熱垂れを防止することが可能となる。
【0180】
微粒子(K)は、特に限定されず、シリカ、ジルコニア、フッ化マグネシウム、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等の無機系微粒子;ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等の有機系微粒子が挙げられる。なかでも、耐熱性を考慮すると、無機系微粒子が好ましく、入手容易性や分散安定性を考慮すると、シリカ、またはジルコニアが特に好ましい。
また、ネガ型感光性樹脂組成物が、着色剤(G)および高分子分散剤(H)を含有する場合には、該高分子分散剤(H)の吸着能を考慮すれば、微粒子(K)は、負に帯電していることが好ましい。
さらに、ネガ型感光性樹脂組成物の露光感度を考慮すると、微粒子(K)は、露光時に照射される光を吸収しないことが好ましく、超高圧水銀灯の主発光波長であるi線(365nm)、h線(405nm)およびg線(436nm)を吸収しないことが特に好ましい。
【0181】
微粒子(K)の粒子径は、隔壁の表面平滑性が良好となることから、平均粒子径が1μm以下であることが好ましく、200nm以下が特に好ましい。
ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中の微粒子(K)の含有割合は、5〜35質量%が好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。含有割合が上記範囲の下限値以上であると、ポストベークによる撥インク性の低下抑制効果があり、上記範囲の上限値以下であると、ネガ型感光性樹脂組成物の貯蔵安定性が良好になる。
【0182】
(リン酸化合物(L))
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、必要に応じて、リン酸化合物(L)を含んでいてもよい。ネガ型感光性樹脂組成物がリン酸化合物(L)を含むことで、基板との密着性を向上させることができる。
リン酸化合物(L)しては、モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等が挙げられる。
【0183】
ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中のリン酸化合物(L)の含有割合は、0.1〜10質量%が好ましく、0.1〜1質量%が特に好ましい。上記範囲であると、得られるネガ型感光性樹脂組成物から形成される硬化膜の基材との密着性が良好となる。
【0184】
(その他の添加剤)
本発明のネガ型感光性樹脂組成物においては、さらに必要に応じて硬化促進剤、増粘剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、紫外線吸収剤等を含有することができる。
【0185】
(ネガ型感光性樹脂組成物の好ましい組み合わせ)
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、用途や要求特性に合わせて、組成と配合比を適宜選択することが好ましい。
本発明のネガ型感光性樹脂組成物における各種配合成分の好ましい組成を以下に示す。
【0186】
<組み合わせ1>
アルカリ可溶性樹脂(A):ビスフェノールA型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、および上記式(A1−2a)〜(A1−2c)で表されるエポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に5〜80質量%、
【0187】
光重合開始剤(B):2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、および4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1つの光重合開始剤であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に0.1〜50質量%、
撥インク剤(C):加水分解性シラン化合物(c−1)および(c−2)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)および(c−3)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)、(c−3)および(c−4)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)および(c−4)の部分加水分解縮合物、および加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)、(c−3)、(c−4)および(c−5)の部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの部分加水分解縮合物であって、加水分解性シラン化合物(c−2)由来の窒素原子の一部または全部が、該部分加水分解縮合物においてアンモニウム型カチオンとして存在する撥インク剤を、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に0.01〜10質量%、
【0188】
溶媒(D):水、2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ブチルアセテート、4−ブチロラクトンおよびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒であって、ネガ型感光性樹脂組成物中に50〜99質量%。
【0189】
<組み合わせ1−2>
アルカリ可溶性樹脂(A)、光重合開始剤(B)および撥インク剤(C)は組み合わせ1と同様であり、溶媒(D)が以下である。
溶媒(D):該溶媒(D)の全量に対して、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、3−メトキシブチルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、3−エトキシプロピオン酸エチル、4−ブチロラクトンおよびシクロヘキサノールアセテートから選ばれる溶媒(D1)を50〜90質量%、水、2−プロパノールおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルから選ばれる溶媒(D2)を5〜45質量%、プロピレングリコール1−モノメチルエーテル2−アセテート、ブチルアセテート、シクロヘキサノン、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびソルベントナフサから選ばれる溶媒(D3)を5〜45質量%、それぞれ含有し、溶媒(D)はネガ型感光性樹脂組成物中に50〜99質量%である。
【0190】
<組み合わせ2>
アルカリ可溶性樹脂(A):ビスフェノールA型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂、および上記式(A1−2a)〜(A1−2c)で表されるエポキシ樹脂に酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に5〜80質量%、
【0191】
光重合開始剤(B):2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オンおよび4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1つの光重合開始剤であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に0.1〜50質量%、
撥インク剤(C):加水分解性シラン化合物(c−1)および(c−2)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)および(c−3)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)、(c−3)および(c−4)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)および(c−4)の部分加水分解縮合物、および加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)、(c−3)、(c−4)および(c−5)の部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの部分加水分解縮合物であって、加水分解性シラン化合物(c−2)由来の窒素原子の一部または全部が、該部分加水分解縮合物においてアンモニウム型カチオンとして存在する撥インク剤を、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に0.01〜10質量%、
【0192】
溶媒(D):水、2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ブチルアセテート、4−ブチロラクトンおよびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒であって、ネガ型感光性樹脂組成物中に50〜99質量%、
【0193】
架橋剤(E):ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレートおよびウレタンアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1つの架橋剤であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に10〜60質量%。
【0194】
<組み合わせ3>
アルカリ可溶性樹脂(A):上記式(A1−2a)で表されるビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、上記式(A1−2b)で表されるエポキシ樹脂、および上記式(A1−2c)で表されるビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの樹脂に、酸性基とエチレン性二重結合とを導入した樹脂であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に5〜80質量%、
【0195】
光重合開始剤(B):1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)およびエタノン1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾイル−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)からなる群から選ばれる少なくとも1つの光重合開始剤であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に0.1〜50質量%、
撥インク剤(C):加水分解性シラン化合物(c−1)および(c−2)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)および(c−3)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)、(c−3)および(c−4)の部分加水分解縮合物、加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)および(c−4)の部分加水分解縮合物、および加水分解性シラン化合物(c−1)、(c−2)、(c−3)、(c−4)および(c−5)の部分加水分解縮合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの部分加水分解縮合物であって、加水分解性シラン化合物(c−2)由来の窒素原子の一部または全部が、該部分加水分解縮合物においてアンモニウム型カチオンとして存在する撥インク剤を、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に0.01〜10質量%、
【0196】
溶媒(D):水、2−プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ブチルアセテート、4−ブチロラクトンおよびシクロヘキサノンからなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒であって、ネガ型感光性樹脂組成物中に50〜99質量%、
【0197】
架橋剤(E):ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレートおよびウレタンアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1つの架橋剤であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に10〜60質量%、
着色剤(G):カーボンブラック、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等の有機顔料の混合物から選ばれる少なくとも1つの着色剤であって、ネガ型感光性樹脂組成物における全固形分中に15〜65質量%。
【0198】
(ネガ型感光性樹脂組成物の製造方法)
ネガ型感光性樹脂組成物を製造する方法としては、アルカリ可溶性樹脂(A)、光重合開始剤(B)、撥インク剤(C)、溶媒(D)、必要に応じて、架橋剤(E)、熱架橋剤(F)、着色剤(G)、高分子分散剤(H)、分散助剤(I)、シランカップリング剤(J)、微粒子(K)、リン酸化合物(L)およびその他の添加剤とを混合する方法が好ましい。
【0199】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、通常のネガ型感光性樹脂組成物と同様に、フォトリソグラフィ等の材料として用いられ、得られた硬化膜は、通常のネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜が用いられる光学素子の部材として使用することが可能である。
特に、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を、基板表面に、複数の画素と隣接する画素間に位置する隔壁とを有する光学素子用の隔壁の形成に用いると、紫外線/オゾン洗浄処理等の親インク化処理後も、充分に撥インク性を有する隔壁を得ることができ、好ましい。
また、本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、撥インク剤(C)として、上記本発明の製造方法により得られた撥インク剤を含有することにより、長期にわたって撥インク剤の凝集・沈降が抑制され、貯蔵安定性に優れる組成物である。
【0200】
[隔壁およびその製造方法]
本発明の隔壁は、基板表面に区画を設けるために形成される隔壁であって、上記本発明のネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜からなる。
本発明の隔壁は、光学素子の用途に好適に用いられ、ネガ型感光性樹脂組成物が着色剤(G)を含有する場合には、得られる隔壁はブラックマトリックスとしての適用が可能である。
本発明の隔壁は、例えば、基板表面に、複数の画素と隣接する画素間に位置する隔壁とを有する光学素子用として適用される。
【0201】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて本発明の光学素子用の隔壁を製造する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0202】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物を上記基板表面に塗布して塗膜を形成し(塗膜形成工程)、次いで、上記塗膜を乾燥して膜とし(乾燥工程)、次いで、上記膜の隔壁となる部分のみを露光して光硬化させ(露光工程)、次いで、上記光硬化した部分以外の塗膜を除去して上記塗膜の光硬化部分からなる隔壁を形成させ(現像工程)、次いで、必要に応じて上記形成された隔壁等をさらに熱硬化させる(ポストベーク工程)ことにより、本発明の光学素子用の隔壁が製造できる。
また、現像工程とポストベーク工程の間に、上記形成された隔壁等をさらに光硬化させる工程(ポスト露光工程)を入れてもよい。
【0203】
基板の材質は特に限定されるものではないが、各種ガラス板;ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリ(メタ)アクリル樹脂等の熱可塑性プラスチックシート;エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル等の熱硬化性樹脂の硬化シート等を使用できる。特に、耐熱性の点からガラス板、ポリイミド等の耐熱性プラスチックが好ましい。また、ポスト露光を、隔壁が形成されていない裏面(基板側)から行うこともあるため、透明基板であることが好ましい。
基板のネガ型感光性樹脂組成物の塗布面は、塗布前に予めアルコール洗浄、紫外線/オゾン洗浄等で洗浄することが好ましい。
【0204】
図1は、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いた、光学素子用隔壁の製造例を模式的に示す断面図である。
図1(I)は、基板1上に本発明のネガ型感光性樹脂組成物からなる塗膜2が形成された状態の断面を示す図である。図1(II)は露光工程を模式的に示す図である。図1(III)は、現像工程後の基板1と基板表面に形成された隔壁6を示す断面図である。
以下、図1を用いて本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いた、光学素子用隔壁の製造方法を具体的に説明する。
【0205】
(塗膜形成工程)
図1(I)に断面を示すように、基板1上に上記本発明のネガ型感光性樹脂組成物を塗布してネガ型感光性樹脂組成物からなる塗膜2を形成する。なお、基板1上にネガ型感光性樹脂組成物の塗膜2を形成させる前に、基板1のネガ型感光性樹脂組成物の塗布面をアルコール洗浄、紫外線/オゾン洗浄等で洗浄することが好ましい。
【0206】
ネガ型感光性樹脂組成物の塗布方法としては、膜厚が均一な塗膜が形成される方法であれば特に制限されず、スピンコート法、スプレー法、スリットコート法、ロールコート法、回転塗布法、バー塗布法等の通常の塗膜形成に用いられる方法が挙げられる。
塗膜2の膜厚は、最終的に得られる隔壁の高さを勘案して決められる。塗膜2の膜厚は、最終的に得られる隔壁の高さの100〜200%が好ましく、100〜130%が特に好ましい。塗膜2の膜厚は0.3〜325μmが好ましく、1.3〜65μmが特に好ましい。
【0207】
(プリベーク工程)
上記塗膜形成工程で基板1上に形成された塗膜2を加熱し、膜2を得る。加熱によって、塗膜を構成するネガ型感光性樹脂組成物に含まれる溶媒を含む揮発成分が揮発し、除去され、粘着性のない膜が得られる。また、撥インク剤(C)が塗膜表面近傍に移行する。加熱の方法としては、基板1とともに塗膜2をホットプレート、オーブン等の加熱装置により、50〜120℃で10〜2,000秒間程度の加熱処理をする方法が挙げられる。
【0208】
なお、上記のようにプリベーク工程での加熱によって、溶媒等の揮発成分を除去することも可能であるが、溶媒等の揮発成分を除去するために、加熱(乾燥)以外の真空乾燥等の乾燥工程をプリベーク工程の前に別に設けてもよい。また、塗膜外観のムラを発生させず、効率よく乾燥させるために、上記のプリベーク工程による乾燥を兼ねた、加熱と真空乾燥を併用することがより好ましい。真空乾燥の条件は、各成分の種類、配合割合等によっても異なるが、好ましくは500〜10Paで10〜300秒間程度の幅広い範囲で行うことができる。
【0209】
(露光工程)
図1(II)に示すように、膜2に所定パターンのマスク4を介して光5を照射する。上記マスク4に切られた所定パターン部分のみを光5が透過し、基板1上の膜に到達して、その部分のみが光硬化する。したがって、隔壁の形成を行う場合、上記所定パターンは、隔壁の形状に適合する形に設けられる。
例えば、ポストベーク工程後における隔壁の幅の平均は、100μm以下であるのが好ましく、20μm以下が特に好ましい。また、隣接する隔壁間の距離の平均は、300μm以下であるのが好ましく、100μm以下が特に好ましい。該範囲となるようにパターンを形成したマスクを用いることが好ましい。
【0210】
図1(II)において、光が照射された膜の露光部分3は、ネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜からなり、一方、未露光部分は、未硬化のネガ型感光性樹脂組成物の膜2そのものが残存する状態である。
【0211】
照射する光5としては、可視光;紫外線;遠紫外線;KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー、Krエキシマレーザー、KrArエキシマレーザー、Arエキシマレーザー等のエキシマレーザー;X線;電子線等が挙げられる。また、照射光5としては、波長100〜600nmの電磁波が好ましく、300〜500nmの範囲に分布を有する光線がより好ましく、i線(365nm)、h線(405nm)およびg線(436nm)が特に好ましい。
【0212】
照射装置(図示されていない)としては、公知の超高圧水銀灯やディープUVランプ等を用いることができる。
露光量は、5〜1,000mJ/cmが好ましく、50〜400mJ/cmが特に好ましい。露光量が上記範囲の下限値以上であると、隔壁となるネガ型感光性樹脂組成物の硬化が充分であり、その後の現像で、溶解や基板1からの剥離が生じにくくなる。上記範囲の上限値以下であると、高い解像度が得られる。露光時間としては、露光量、感光組成物の組成、塗膜の厚さ等にもよるが、1〜60秒間が好ましく、5〜20秒間が特に好ましい。
【0213】
(現像工程)
現像液を用いて現像を行い、図1(II)に示される基板1上の未露光部分2を除去する。これにより、図1(III)に断面図が示されるような、基板1と上記基板表面にネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜により形成された隔壁6とから構成された基板が得られる。また、隔壁6と基板1で囲まれた部分は、インク注入等により画素が形成されるドット7と呼ばれる部分である。得られた基板10は、後述のポストベーク工程を経て、インクジェット方式での光学素子の作製に用いることが可能な基板となる。
【0214】
現像液としては、無機アルカリ類、アミン類、アルコールアミン類、第4級アンモニウム塩等のアルカリ類を含むアルカリ水溶液を用いることができる。
また現像液には、溶解性の向上や残渣除去のために、界面活性剤やアルコール等の有機溶媒を添加することができる。
【0215】
現像時間(現像液に接触させる時間)は、5〜180秒間が好ましい。また現像方法は液盛り法、ディッピング法、シャワー法等が挙げられる。現像後、高圧水洗や流水洗浄を行い、圧縮空気や圧縮窒素で風乾させることによって、基板1および隔壁6上の水分を除去できる。
【0216】
(ポストベーク工程)
基板1上の隔壁6を加熱する。加熱の方法としては、基板1とともに隔壁6をホットプレート、オーブン等の加熱装置により、150〜250℃で、5〜90分間加熱処理をする方法が挙げられる。加熱処理により、基板1上のネガ型感光性樹脂組成物の硬化膜からなる隔壁6がさらに硬化し、隔壁6と基板1で囲まれるドット7の形状もより固定化される。なお、上記加熱温度は180℃以上であることが特に好ましい。加熱温度が低すぎると隔壁6の硬化が不充分であるために、充分な耐薬品性が得られず、その後のインクジェット塗布工程でドット7にインクを注入した場合に、そのインクに含まれる溶媒により隔壁6が膨潤したり、インクが滲んでしまうおそれがある。一方、加熱温度が高すぎると、隔壁6の熱分解が起こるおそれがある。
【0217】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、隔壁の幅の平均が、100μm以下が好ましく、20μm以下が特に好ましい。また、隣接する隔壁間の距離(ドットの幅)の平均が、300μm以下が好ましく、100μm以下が特に好ましい。また、隔壁の高さの平均は、0.05〜50μmが好ましく、0.2〜10μmが特に好ましい。
【0218】
[光学素子の製造方法]
上記製造方法によって基板表面に隔壁を形成した後、例えば、上記基板と上記隔壁で囲まれた領域内に露出した基板表面に親インク化処理をし(親インク化処理工程)、次いで、上記領域にインクジェット法によりインクを注入して上記画素を形成する(インク注入工程)ことで光学素子が得られる。
(親インク化処理工程)
親インク化処理の方法としては、アルカリ水溶液による洗浄処理、紫外線洗浄処理、紫外線/オゾン洗浄処理、エキシマ洗浄処理、コロナ放電処理、酸素プラズマ処理等の方法が挙げられる。
アルカリ水溶液による洗浄処理は、アルカリ水溶液(水酸化カリウム、テトラメチル水酸化アンモニウム水溶液等)を用いて、基板表面を洗浄する湿式処理である。
紫外線洗浄処理は、紫外線を用いて、基板表面を洗浄する乾式処理である。
紫外線/オゾン洗浄処理は、185nmと254nmの波長の光を発光する低圧水銀ランプを用いて、基板表面を洗浄する乾式処理である。
エキシマ洗浄処理は、172nmの波長の光を発光するキセノンエキシマランプを用いて、基板表面を洗浄する乾式処理である。
コロナ放電処理は、高周波高電圧を利用し、空気中にコロナ放電を発生させ、基板表面を洗浄する乾式処理である。
酸素プラズマ処理は、主に真空中で高周波電源等をトリガーとして酸素を励起させ、反応性の高い「プラズマ状態」にしたものを用いて、基板表面を洗浄する乾式処理である。
【0219】
親インク化処理の方法としては、簡便である点で、紫外線/オゾン洗浄処理等の乾式処理法が好ましい。紫外線/オゾンは市販の装置を用いて発生させることができる。紫外線/オゾン装置内部に隔壁が形成された基板をおき、空気中、室温で、1〜10分程度、隔壁の撥油性を損なわない範囲で処理を行うことにより、親インク化処理を行うことができる。なお、処理時間については、個々の紫外線/オゾン装置にあわせて、隔壁の撥油性を損なわない範囲となる時間に調整すればよい。
【0220】
上記親インク化処理により、隔壁の形成後にドットに残る不純物の除去等を充分に行うことで、ドットの親インク化を充分に計ることができ、得られる光学素子を用いたカラー表示装置等の白抜け現象を防止することが可能となる。また、本発明のネガ型感光性樹脂組成物から得られる隔壁を用いれば、上記紫外線洗浄処理等で、隔壁の撥インク性を低下させることなく親インク化を行うことが可能である。
【0221】
ネガ型感光性樹脂組成物から形成される硬化膜の撥インク性(撥水撥油性)は、水およびPGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:インクの溶媒として多く使用されている有機溶媒。)の接触角で見積もることができる。
上記本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて形成された隔壁を有する基板を用いて光学素子を製造する場合、隔壁は上記親インク化処理後も充分な撥インク性を有することが求められる。そこで、隔壁の水の接触角は90度以上が好ましく、95度以上が特に好ましい。また、同様に隔壁のPGMEAの接触角は30度以上が好ましく、35度以上が特に好ましい。一方、上記本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて形成された隔壁を有する基板を用いて光学素子を製造する場合、ドットについては、親インク性であることが求められ、その水の接触角は20度以下が好ましく、10度以下が特に好ましい。
【0222】
(インク注入工程)
親インク化処理工程後のドットに、インクジェット法によりインクを注入して画素を形成する工程である。この工程は、インクジェット法に一般的に用いられるインクジェット装置を用いて、通常の方法と同様に行うことができる。このような画素の形成に用いられるインクジェット装置としては、特に限定されるものではないが、帯電したインクを連続的に噴射し、磁場によって制御する方法、圧電素子を用いて間欠的にインクを噴射する方法、インクを加熱し、その発泡を利用して間欠的に噴射する方法等の各種の方法を用いたインクジェット装置を用いることができる。
【0223】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて製造する光学素子としては、カラーフィルタ、有機EL素子、有機TFTアレイ等が挙げられる。
【0224】
[カラーフィルタの製造]
隔壁の形成、ドットの親インク化処理、およびインクジェット法によるインク注入は上述の通りである。カラーフィルタにおいて、形成される画素の形状は、ストライプ型、モザイク型、トライアングル型、4画素配置型等の公知のいずれの配列とすることも可能である。
【0225】
画素の形成に用いられるインクは、主に着色成分とバインダー樹脂成分と溶媒とを含む。着色成分としては、耐熱性、耐光性等に優れた顔料および染料を用いることが好ましい。バインダー樹脂成分としては、透明で耐熱性に優れた樹脂が好ましく、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
水性のインクは、溶媒として、水および必要に応じて水溶性有機溶媒を含み、バインダー樹脂成分として、水溶性樹脂または水分散性樹脂を含み、必要に応じて各種助剤を含む。
また、油性のインクは、溶媒として、有機溶媒を含み、バインダー樹脂成分として、有機溶媒に可溶な樹脂を含み、必要に応じて各種助剤を含む。
また、インクジェット法によりインクを注入した後、必要により、乾燥、加熱硬化、紫外線硬化等を行うことが好ましい。
【0226】
画素形成後、必要に応じて、保護膜層を形成する。保護膜層は、表面平坦性を上げる目的と隔壁や画素部のインクからの溶出物が液晶層に到達するのを遮断する目的で形成する。保護膜層を形成する場合は、事前に隔壁の撥インク性を除去することが好ましい。撥インク性を除去しない場合、オーバーコート用塗布液をはじき、均一な膜厚が得られないため好ましくない。隔壁の撥インク性を除去する方法としては、プラズマアッシング処理や光アッシング処理等が挙げられる。
さらに必要に応じて、カラーフィルタを用いて製造される液晶パネルの高品位化のために、フォトスペーサーを隔壁で構成されるブラックマトリックス上に形成することが好ましい。
【0227】
[有機EL素子の製造]
隔壁を形成する前に、ガラス等の透明基材にスズドープ酸化インジウム(ITO)等の透明電極をスパッタ法等によって製膜し、必要に応じて所望のパターンに透明電極をエッチングする。次に、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて隔壁を形成し、ドットの親インク化処理後、インクジェット法を用いて、ドットに正孔輸送材料、発光材料の溶液を順次塗布し、乾燥して、正孔輸送層、および発光層を形成する。その後アルミニウム等の電極を蒸着法等によって形成することによって、有機EL素子の画素が得られる。
【0228】
[有機TFTアレイの製造]
以下の(1)〜(3)の工程を経て、有機TFTアレイを製造することができる。
(1)ガラス等の透明基材に、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて隔壁を形成する。ドットの親インク化処理後、インクジェット法を用いて、ドットにゲート電極材料の溶液を塗布し、ゲート電極を形成する。
(2)ゲート電極を形成させた後、その上にゲート絶縁膜を形成させる。ゲート絶縁膜上に、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて隔壁を形成し、ドットの親インク化処理後、インクジェット法を用いて、ドットにソース・ドレイン電極材料の溶液を塗布し、ソース・ドレイン電極を形成する。
(3)ソース・ドレイン電極を形成させた後、一対のソース・ドレイン電極を含む領域を囲むように、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いて隔壁を形成し、ドットの親インク化処理後、インクジェット法を用いて、ドットに有機半導体の溶液を塗布し、有機半導体層をソース・ドレイン電極間に形成させる。
なお、(1)〜(3)は、それぞれ1工程のみにおいて、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いた隔壁を利用してもよいし、2つ以上の工程において、本発明のネガ型感光性樹脂組成物を用いた隔壁を利用してもよい。
【実施例】
【0229】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、例1〜6および例8〜13は実施例、例7および14が比較例である。
【0230】
各測定は以下の方法で行った。
[数平均分子量(Mn)]
分子量測定用の標準試料として市販されている重合度の異なる数種の単分散ポリスチレン重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を、市販のGPC測定装置(東ソー社製、装置名:HLC−8320GPC)を用いて測定し、ポリスチレンの分子量と保持時間(リテンションタイム)との関係をもとに検量線を作成した。
試料をテトラヒドロフランで1.0質量%に希釈し、0.5μmのフィルターを通過させた後、該試料についてのGPCを、前記GPC測定装置を用いて測定した。
前記検量線を用いて、試料のGPCスペクトルをコンピュータ解析することにより、該試料の数平均分子量(Mn)を求めた。
【0231】
[水接触角]
静滴法により、JIS R3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して、基材上の測定表面の3ヶ所に水滴を載せ、各水滴について測定した。液滴は2μL/滴であり、測定は20℃で行った。接触角は、3測定値の平均値(n=3)で示す。
【0232】
[PGMEA接触角]
静滴法により、JIS R3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して、基材上の測定表面の3ヶ所にPGMEA滴を載せ、各PGMEA滴について測定した。液滴は2μL/滴であり、測定は20℃で行った。接触角は、3測定値の平均値(n=3)で示す。
【0233】
各例で用いた化合物の略語は以下の通りである。
(撥インク剤(C)の原料としての加水分解性シラン化合物)
加水分解性シラン化合物(c−1)に相当する、化合物(c−11):CF(CFCHCHSi(OCH(TSL8257:商品名;モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)
加水分解性シラン化合物(c−2)に相当する、化合物(c−21):CNH(CHSi(OCH(KBM−573:商品名;信越化学工業社製)
加水分解性シラン化合物(c−3)に相当する、化合物(c−31):Si(OC(コルコート社製)
加水分解性シラン化合物(c−4)に相当する、化合物(c−41):CH=CHCOO(CHSi(OCH(東京化成工業社製)
(アルカリ可溶性樹脂(A))
CCR−1235:商品名;KAYARAD CCR−1235、日本化薬社製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂にカルボキシ基とエチレン性二重結合を導入した樹脂、酸価:60mgKOH/g、固形分:60質量%。
(光重合開始剤(B))
IR907:商品名;IRGACURE 907、BASF社製、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン。
EAB:4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(東京化成工業社製)。
【0234】
(溶媒(D))
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル。
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート。
(架橋剤(E))
A9530:商品名;NKエステル A−9530、新中村化学工業社製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合品。
【0235】
[例1:撥インク剤(C1)の合成および(C1)液の製造]
以下に示す式(71)で表される反応で、撥インク剤(C1)を合成した。
なお、式(71)で表される反応で得られる生成物は、実際は加水分解性基またはシラノール基が残存した部分加水分解縮合物であり、本例においては、得られた部分加水分解縮合物を撥インク剤(C1)として使用した。ただし、この生成物(部分加水分解縮合物)を化学式で表すことは困難であり、式(71)中、式(3−2)で表される平均組成式は、式(71)に表される反応によって製造された部分加水分解縮合物において、加水分解性基またはシラノール基の全てがシロキサン結合となったと仮定した場合の化学式である。
【0236】
撹拌機を備えた50cmの三口フラスコに、化合物(c−11)の0.5g、化合物(c−21)の0.34g、化合物(c−31)の0.83g、および化合物(c−41)の0.63gを入れて、撥インク剤(C1)の原料混合物を得た。次いで、該原料混合物にPGMEの11.0gを入れて、溶液(原料溶液)とした。
【0237】
得られた原料溶液に、室温で、撹拌しながら、65質量%硝酸水溶液の0.13gを滴下して、混合物中の化合物(c−21)すなわちCNH(CHSi(OCHを[CNH(CHSi(OCH・NOとした(工程(I))。
5分後、さらに、1.0質量%硝酸水溶液を1.12g滴下した。滴下終了後、さらに、室温で、5時間撹拌して、下式(71)で表される反応により、平均組成式(C1)で表される撥インク剤(C1)をPGME溶液(撥インク剤(C1)濃度:10質量%)として得た(工程(II))。なお、工程(II)は、反応をガスクロマトグラフィーでモニターし、原料としての各化合物が検出限界以下になった時点から、さらに、4時間反応を継続して合計5時間の撹拌とした。
【0238】
【化14】

ただし、式(71)中、ZはNOまたはClを示す。m、n、kおよびsは、それぞれ括弧で括られた単位のモル%(m+n+k+sは100%)を示す。
【0239】
得られた撥インク剤(C1)を10質量%で含有するPGME溶液を、(C1)液として、以下のネガ型感光性樹脂組成物の調製に用いた。
撥インク剤(C1)のフッ素原子含有率および数平均分子量(Mn)を、撥インク剤(C1)の仕込み量組成(モル%)とともに表1に示す。なお、この仕込み量組成が、そのまま平均組成式(C1)における、それぞれ化合物(c−11)、カチオン化された化合物(c−21)、化合物(c−31)および化合物(c−41)に由来する縮合単位のモル%、m、n、kおよびsに相当するといえる。以下、撥インク剤(C2)〜(C4)および(Cf1)についても同様である。
【0240】
[例2:撥インク剤(C2)の合成および(C2)液の製造]
撹拌機を備えた50cmの三口フラスコに、化合物(c−11)の0.5g、化合物(c−21)の0.41g、および化合物(c−31)の1.67gを入れて、撥インク剤(C2)の原料混合物を得た。次いで、該原料混合物にPGMEの9.0gを入れて、溶液(原料溶液)とした。
【0241】
得られた原料溶液に、室温で、撹拌しながら、65質量%硝酸水溶液の0.16gを滴下して、混合物中の化合物(c−21)すなわちCNH(CHSi(OCHを[CNH(CHSi(OCH・NOとした(工程(I))。
5分後、さらに、1.0質量%硝酸水溶液を1.44g滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌して、加水分解縮合反応により、平均組成式(C1)においてsが0である撥インク剤(C2)をPGME溶液(撥インク剤(C2)濃度:10質量%)として得た(工程(II))。なお、工程(II)は、反応をガスクロマトグラフィーでモニターし、原料としての各化合物が検出限界以下になった時点から、さらに、4時間反応を継続して合計5時間の撹拌とした。
【0242】
得られた撥インク剤(C2)を10質量%で含有するPGME溶液を、(C2)液として、以下のネガ型感光性樹脂組成物の製造に用いた。撥インク剤(C2)のフッ素原子含有率、および数平均分子量(Mn)を、撥インク剤(C2)の仕込み量組成(モル%)とともに表1に示す。
【0243】
[例3:撥インク剤(C3)の合成および(C3)液の製造]
撹拌機を備えた50cmの三口フラスコに、化合物(c−11)の0.5g、および化合物(c−21)の1.14gを入れて、撥インク剤(C3)の原料混合物を得た。次いで、該原料混合物にPGMEの13.1gを入れて、溶液(原料溶液)とした。
【0244】
得られた原料溶液に、室温で、撹拌しながら、65質量%硝酸水溶液の0.1gを滴下して、混合物中の化合物(c−21)すなわちCNH(CHSi(OCHを[CNH(CHSi(OCH・NOとした(工程(I))。
5分後、さらに、1.0質量%硝酸水溶液を0.6g滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌して、加水分解縮合反応により、平均組成式(C1)においてkおよびsが0である撥インク剤(C3)をPGME溶液(撥インク剤(C3)濃度:10質量%)として得た(工程(II))。なお、工程(II)は、反応をガスクロマトグラフィーでモニターし、原料としての各化合物が検出限界以下になった時点から、さらに、4時間反応を継続して合計5時間の撹拌とした。
【0245】
得られた撥インク剤(C3)を10質量%で含有するPGME溶液を、(C3)液として、以下のネガ型感光性樹脂組成物の製造に用いた。撥インク剤(C3)のフッ素原子含有率、および数平均分子量(Mn)を、撥インク剤(C3)の仕込み量組成(モル%)とともに表1に示す。
【0246】
[例4:撥インク剤(C4)の合成および(C4)液の製造]
撹拌機を備えた50cmの三口フラスコに、化合物(c−11)の0.5g、化合物(c−21)の0.34g、および化合物(c−41)の0.63gを入れて、撥インク剤(C4)の原料混合物を得た。次いで、該原料混合物にPGMEの10.0gを入れて、溶液(原料溶液)とした。
【0247】
得られた原料溶液に、室温で、撹拌しながら、65質量%硝酸水溶液の0.13gを滴下して、混合物中の化合物(c−21)すなわちCNH(CHSi(OCHを[CNH(CHSi(OCH・NOとした(工程(I))。
5分後、さらに、1.0質量%硝酸水溶液を0.54g滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌して、加水分解縮合反応により、平均組成式(C1)においてkが0である撥インク剤(C4)をPGME溶液(撥インク剤(C4)濃度:10質量%)として得た(工程(II))。なお、工程(II)は、反応をガスクロマトグラフィーでモニターし、原料としての各化合物が検出限界以下になった時点から、さらに、4時間反応を継続して合計5時間の撹拌とした。
【0248】
得られた撥インク剤(C4)を10質量%で含有するPGME溶液を、(C4)液として、以下のネガ型感光性樹脂組成物の製造に用いた。撥インク剤(C4)のフッ素原子含有率、および数平均分子量(Mn)を、撥インク剤(C4)の仕込み量組成(モル%)とともに表1に示す。
【0249】
[例5:撥インク剤(C5)の合成および(C5)液の製造]
上記例1において工程(I)で用いた65質量%硝酸水溶液の0.13gを、35質量%塩酸水溶液の0.14gに変更し、工程(II)で用いた1.0質量%硝酸水溶液の1.12gを1.0質量%塩酸水溶液の1.08gに変更した以外は同様にして、撥インク剤(C5)をPGME溶液(撥インク剤(C5)濃度:10質量%)として得た。
【0250】
[例6:撥インク剤(C6)の合成および(C6)液の製造]
上記例1において溶媒を、PGMEからPGMEAに変更した以外は同様にして、撥インク剤(C6)をPGMEA溶液(撥インク剤(C6)濃度:10質量%)として得た。得られた、撥インク剤(C6)を10質量%で含有するPGMEA溶液を、(C6)液として、以下のネガ型感光性樹脂組成物の製造に用いた。
【0251】
[例7:撥インク剤(Cf1)の合成および(Cf1)液の製造]
撹拌機を備えた50cmの三口フラスコに、化合物(c−11)の0.5g、化合物(c−31)の1.1g、および化合物(c−41)の0.63gを入れて、撥インク剤(Cf1)の原料混合物を得た。次いで、該原料混合物にPGMEの8.5gを入れて、溶液(原料溶液)とした。
【0252】
得られた原料溶液に、室温で、撹拌しながら、1.0質量%硝酸水溶液を1.17g滴下した。滴下終了後、さらに、5時間撹拌して、加水分解縮合反応により、平均組成式(C1)においてnが0である、撥インク剤(Cf1)をPGME溶液(撥インク剤(Cf1)濃度:10質量%)として得た(工程(II))。なお、工程(II)は、反応をガスクロマトグラフィーでモニターし、原料としての各化合物が検出限界以下になった時点から、さらに、4時間反応を継続して合計5時間の撹拌とした。
【0253】
得られた撥インク剤(Cf1)を10質量%で含有するPGME溶液を、(Cf1)液として、以下のネガ型感光性樹脂組成物(比較例)の製造に用いた。撥インク剤(Cf1)のフッ素原子含有率、および数平均分子量(Mn)を、撥インク剤(Cf1)の仕込み量組成(モル%)とともに表1に示す。
【0254】
【表1】
【0255】
[例8:ネガ型感光性樹脂組成物の製造および硬化膜の製造]
(ネガ型感光性樹脂組成物の製造)
上記例1で得られた(C1)液の0.26g(撥インク剤(C1)を固形分として0.026g含有し、残りは溶媒のPGME)、CCR-1235の4.0g(固形分は2.4g、残りは溶媒のEDGAC(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート):1.07g、ソルベントナフサ:0.53g)、IR907の0.29g、EABの0.19g、A9530の2.5g、PGMEの5.4g、2−プロパノールの1g、および水の1gを50cmの撹拌用容器に入れ、30分間撹拌して、ネガ型感光性樹脂組成物1を製造した。
【0256】
(硬化膜の製造)
10cm四方のガラス基板を、エタノールで30秒間超音波洗浄し、次いで、5分間の紫外線/オゾン洗浄を行った。紫外線/オゾン洗浄には、紫外線/オゾン発生装置としてPL2001N−58(センエジニアリング社製)を使用した。なお、以下の全ての紫外線/オゾン処理についても、紫外線/オゾン発生装置としては本装置を使用した。
【0257】
上記洗浄後のガラス基板表面に、スピンナーを用いて、ネガ型感光性樹脂組成物1を塗布した後、100℃で、2分間ホットプレート上で乾燥させ、膜厚1.3μmの膜を形成した。得られた膜の表面に、膜側から、開孔パターン(2.5cm×5cm)を有するフォトマスク(該パターン部以外の領域に光照射がされるフォトマスク)を介して50μmの間隙をあけて、高圧水銀ランプの紫外線を25mW/cmで10秒間照射し、硬化膜を得た。得られた硬化膜の膜厚は1.1μmであった。
【0258】
次いで、露光処理がなされたガラス基板を、0.4質量%テトラメチル水酸化アンモニウム水溶液に40秒間浸漬して現像し、未露光部分の塗膜を水により洗い流し、その後乾燥させた。次いで、これをホットプレート上において、230℃で20分間加熱することにより、上記開孔パターン部を除く領域に、ネガ型感光性樹脂組成物1の硬化膜(隔壁)が形成されたガラス基板1を得た。
【0259】
(評価)
上記で得られたネガ型感光性樹脂組成物1、および硬化膜(隔壁)が形成されたガラス基板1について以下の評価を行った。結果を表2に示す。
<露光部分および未露光部分の撥インク性・親インク性評価>
上記工程により得られたガラス基板1の塗膜硬化物表面(露光部分:隔壁)のPGMEA接触角と、ガラス基板表面(現像により塗膜が除去された未露光部分。以下、単に「未露光部分」という。:ドット)の水接触角を上記の方法で測定した。それぞれ、46度、51度であった。
その後、得られた塗膜硬化物が形成されたガラス基板1の塗膜硬化物が形成された側の表面全体に、紫外線/オゾン照射処理を1分間行った。照射1分後、塗膜硬化物表面のPGMEA接触角、および未露光部分の水接触角を測定した。
<硬化膜の膜厚>
レーザー顕微鏡(キーエンス社製、装置名:VK−8500)を用いて測定した。
<ネガ型感光性樹脂組成物の貯蔵安定性>
ネガ型感光性樹脂組成物をガラス製スクリュー瓶にて、23℃(室温)で一か月保存した。一か月保存後、液の外観を観察して、以下の基準により貯蔵安定性を評価した。
○(良好):液の白濁、沈澱物なし、
×(不良):液の白濁、沈澱物あり。
【0260】
[例9〜14]
(ネガ型感光性樹脂組成物の製造)
上記例8において、撥インク剤の溶液である(C1)液を、表2に示す液にそれぞれ変更した以外は、同様の方法で、ネガ型感光性樹脂組成物2〜7を製造した。なお、例12においては、(C6)液の溶媒に合わせて、添加溶媒としてPGMEの替わりにPGMEAを用いた。
(硬化膜の製造)
次に、例8と同様の方法で、開孔パターン部を除く領域にネガ型感光性樹脂組成物2〜7の硬化膜(隔壁)が形成されたガラス基板2〜7を得た。
【0261】
(評価)
上記で得られたネガ型感光性樹脂組成物2〜7について貯蔵安定性を、また、硬化膜(隔壁)が形成されたガラス基板2〜7について膜厚、露光部分および未露光部分の撥インク性・親インク性の評価を、例8と同様の方法で行った。結果を表2に示す。
【0262】
【表2】
【0263】
例8〜13のネガ型感光性樹脂組成物は、本発明の製造方法により得た撥インク剤を使用したため、貯蔵安定性が良好で、硬化膜に紫外線/オゾン照射処理を経ても優れた撥インク性を有した。一方、例14のネガ型感光性樹脂組成物は、本発明の製造方法によらない方法で得た撥インク剤を使用したため、貯蔵安定性が不充分であった。
【産業上の利用可能性】
【0264】
本発明のネガ型感光性樹脂組成物は、紫外線/オゾン照射をしても撥インク性の持続が可能であるなど、撥インク性が良好な隔壁を製造することができ、貯蔵安定性も良好で、例えば、インクジェット記録技術法を利用したカラーフィルタ製造用、有機EL素子製造用、有機TFTアレイ製造用として隔壁の形成に好適に用いることができる。
なお、2011年10月21日に出願された日本特許出願2011−232277号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0265】
1…基板、2…ネガ型感光性樹脂組成物の塗膜、3…塗膜露光部分、4…マスク、5…光、6…隔壁、7…ドット、10…インクジェット方式に用いる光学素子用基板
図1