特許第6036875号(P6036875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036875
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20161121BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/08
【請求項の数】1
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-33940(P2015-33940)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-156042(P2016-156042A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2016年7月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】庄司 浩史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敬司
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佳智
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−530356(JP,A)
【文献】 特表2005−523996(JP,A)
【文献】 特表2003−514109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/00,23/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石を、マグネシウム品位が2重量%以下である低マグネシウム品位のリモナイト系鉱石と、マグネシウム品位が2重量%を越える高マグネシウム品位のサプロライト系鉱石とに選別する工程(A)と、
前記工程(A)で得られたサプロライト系鉱石に対して、下記工程(C)における加圧浸出により得られる加圧浸出液に含まれる遊離酸濃度と存在形態が3価であるとして算出した鉄イオン濃度との合計値を該サプロライト系鉱石に含まれるマグネシウム品位で除した値が1.5mol/mol当量以下となるように硫酸濃度を調整した該加圧浸出液を添加して常圧浸出し、常圧浸出液と常圧浸出残渣とを得る工程(B)と、
前記工程(A)で得られたリモナイト系鉱石と、前記工程(B)で得られた常圧浸出残渣とを混合し、高温高圧下の酸性雰囲気で硫酸と反応させることにより加圧浸出し、加圧浸出液を得る工程(C)と
を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関し、より詳しくは、ニッケル酸化鉱石のうち、マグネシウムやシリカ等のアルカリ金属を多く含むサプロライト系鉱石から有価金属を湿式製錬により高効率で回収することができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル品位の低い低品位ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を湿式製錬により回収する方法として、例えば特許文献1に示すような、鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出する高圧酸浸出法(HPAL法:High Pressure Acid Leach法)が行われている。
【0003】
ここで、低品位ニッケル酸化鉱石には、鉄品位が高くマグネシウムやシリカ等のアルカリ成分品位の低いリモナイト(Limonite)系鉱石と、アルカリ成分を多く含むサプロライト(Saprolite)系鉱石の2つがあり、HPAL法の原料としてはリモナイト系鉱石が主として用いられている。
【0004】
一方、サプロライト系鉱石を原料とした場合、浸出処理で添加した硫酸と、その鉱石に含まれるアルカリ成分とが反応して、硫酸マグネシウムのようなアルカリ硫酸塩を形成してしまい、その結果として酸消費量が増加する傾向があり経済的には不利となる。このため、サプロライト系鉱石をHPAL法に基づく加圧浸出に付す場合には、有価金属の回収量と硫酸消費量とがバランスする一部の量のみに制限されることになるが、多くの場合、産出するサプロライト系鉱石の鉱量のごく一部にとどまる。
【0005】
これまでも、サプロライト系鉱石の有効利用方法として、例えば常圧浸出方法が検討されてきた。具体的には、サプロライト系鉱石を、HPAL法により得られる浸出液に含まれる遊離(Free)酸の中和剤として利用する方法であり、例えば特許文献2や特許文献3等に開示されている。しかしながら、これらの方法は、あくまでも遊離酸の中和剤、又はマグネシウム源としての活用が主な目的であって、中和剤として使用した場合にはサプロライト系鉱石に含まれるニッケルやコバルト等の有価金属の回収率は低くなり、原料として有効活用しているとは言い難い。
【0006】
また、特許文献4に開示されている方法では、サプロライト系鉱石を原料として用いて常圧浸出によりニッケルやコバルトを浸出させる方法が開示されており、高回収率を達成できるとされているものの、常圧浸出に要する時間が9.5時間以上と非常に長く、生産効率の悪いものにとどまる。
【0007】
このようなことから、特許文献5には、常圧浸出で得られる浸出残渣を、HPAL法の加圧浸出処理に供給し、それにより有価金属を回収する方法が提案されている。具体的に、特許文献5に開示されている方法は、低品位ニッケル酸化鉱石の全量を、常圧浸出と加圧浸出とにより処理するものである。しかしながら、常圧浸出の条件である95℃の反応温度では、反応槽で2時間〜3時間の滞留時間をなお必要とし、設備規模の拡大や膨大な加温熱量の供給と保温が必要となる等、実操業としては効率的ではない。
【0008】
さらに、その特許文献5による常圧浸出も、加圧浸出により得られる浸出液の遊離酸の中和が主目的であるため、常圧浸出におけるマグネシウム浸出率としては42%〜50%程度にとどまり、加圧浸出にてマグネシウムに消費される硫酸使用量は依然として多い。
【0009】
また、加圧浸出液に含まれるマグネシウム濃度が上昇することにより、ニッケルやコバルト等の有価金属の浸出率が低下するという問題を有している。そのため、常圧浸出残渣の一部を系外に排出したり、一定以上の高いマグネシウム品位を持つサプロライト系鉱石は常圧浸出に使用することができない等、サプロライト系鉱石を原料として有効活用できないという問題を有している。
【0010】
上述した特許文献5では、その対策として、ナトリウムを含む工程排液の再利用を提案している。具体的には、ナトリウムを含む工程排液を加圧浸出残渣の多段洗浄液や、シックナー等の固液分離時に添加する凝集剤の希釈液、低品位ニッケル酸化鉱石のスラリー化等に使用して、加圧浸出時において不純物成分である鉄をナトロジャロサイト、アルミニウムをソーダ明礬石として除去し、これらの不純物成分に消費される硫酸量を低減させるとしている。しかしながら、ナトロジャロサイトやソーダ明礬石等の硫酸複塩は、オートクレーブ内でスケールとなる懸念がある。また、ナトリウムを含む工程排水は、有価金属を回収した後の硫酸マグネシウム溶液であり、プロセス系内での循環によって硫酸マグネシウムが濃縮してしまう。そのため、飽和濃度を超えて工程内で結晶析出が起こる可能性もあり、濾過不良や配管閉塞等が生じるという懸念も有している。
【0011】
以上のような理由から、HPAL法において。サプロライト系鉱石を原料として有効利用するには至っておらず、そのサプロライト系鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を効率よく回収できる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−350766号公報
【特許文献2】特開昭60−75536号公報
【特許文献3】特開2007−77459号公報
【特許文献4】特表2008−530356号公報
【特許文献5】特開平6−116660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述したような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルト等を回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出処理で使用する硫酸等の酸消費量を低減させ、またニッケルやコバルト等の有価金属を高効率で回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、原料とするニッケル酸化鉱石のうち、マグネシウムやシリカ等のアルカリ成分を多く含むサプロライト系鉱石のみに対して所定の規格化された浸出条件にて常圧浸出を施すことで目標とするマグネシウム品位までマグネシウムを浸出させ、その後、その常圧浸出により得られた浸出残渣とアルカリ成分が少ないリモナイト鉱石とに対して加圧浸出を施すことで、その加圧浸出処理で消費する硫酸量を効果的に低減させ、ニッケルやコバルト等の有価金属を高効率で回収できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0015】
すなわち、本発明は、ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石を、マグネシウム品位が2重量%以下である低マグネシウム品位のリモナイト系鉱石と、マグネシウム品位が2重量%を越える高マグネシウム品位のサプロライト系鉱石とに選別する工程(A)と、前記工程(A)で得られたサプロライト系鉱石に対して、下記工程(C)における加圧浸出により得られる加圧浸出液に含まれる遊離酸濃度と存在形態が3価であるとして算出した鉄イオン濃度との合計値を該サプロライト系鉱石に含まれるマグネシウム品位で除した値が1.5mol/mol当量以下となるように硫酸濃度を調整した該加圧浸出液を添加して常圧浸出し、常圧浸出液と常圧浸出残渣とを得る工程(B)と、前記工程(A)で得られたリモナイト系鉱石と、前記工程(B)で得られた常圧浸出残渣とを混合し、高温高圧下の酸性雰囲気で硫酸と反応させることにより加圧浸出し、加圧浸出液を得る工程(C)とを含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石からニッケルやコバルト等の有価金属を回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、加圧浸出処理で使用する硫酸等の酸消費量を効果的に低減させ、ニッケルやコバルト等の有価金属を高効率で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れを示す工程図である。
図2】サプロライト鉱石のみに対する常圧浸出処理を組み込んだニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れを示す工程図である。
図3】実施例1〜4の常圧浸出処理における反応時間に対する遊離酸濃度の関係を示すグラフ図である。
図4】実施例1〜4の常圧浸出処理における遊離酸濃度に対する鉄の濃度の関係を示すグラフ図である。
図5】実施例1〜4の常圧浸出処理における溶液のpHに対する鉄の濃度の関係を示すグラフ図である。
図6】実施例5〜10の常圧浸出処理における[Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量に対する浸出残渣中のマグネシウム品位の関係を示すグラフ図である。
図7】実施例5〜10の常圧浸出処理における[Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量に対する反応後終液の遊離酸濃度の関係を示すグラフ図である。
図8】実施例11〜13及び比較例1〜3の加圧浸出処理における遊離酸濃度とニッケル浸出率の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
≪1.概要≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル品位の低い低品位ニッケル酸化鉱石に対して浸出処理を施してニッケルやコバルト等の有価金属を回収する方法である。具体的には、低品位ニッケル酸化鉱のうち、マグネシウムやシリカ等を多く含むサプロライト系鉱石に対して常圧浸出を行い、その後、加圧浸出を行うことによって、その加圧浸出において消費する硫酸の使用量を効果的に低減させ、低品位ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルト等の有価金属を高効率で回収する方法である。
【0020】
より具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、以下の工程(A)〜工程(C)を含む。
工程(A):原料とするニッケル酸化鉱石を、マグネシウム品位が2重量%以下である低マグネシウム品位のリモナイト系鉱石と、マグネシウム品位が2重量%を越える高マグネシウム品位のサプロライト系鉱石とに選別する鉱石選別工程。
工程(B):工程(A)で得られたサプロライト系鉱石に対して、下記の工程(C)における加圧浸出により得られる加圧浸出液に含まれる遊離酸濃度と存在形態が3価であるとして算出した鉄イオン濃度との合計値をそのサプロライト系鉱石に含まれるマグネシウム品位で除した値が1.5mol/mol当量以下となるように硫酸濃度を調整した加圧浸出液を添加して常圧浸出し、常圧浸出液と常圧浸出残渣とを得る常圧浸出工程。
工程(C):工程(A)で得られたリモナイト系鉱石と、工程(B)で得られた常圧浸出残渣とを混合し、高温高圧下の酸性雰囲気で硫酸と反応させることにより加圧浸出し、加圧浸出液を得る加圧浸出工程。
【0021】
本実施の形態に係る湿式製錬方法では、原料とするニッケル酸化鉱石をマグネシウム品位に基づきリモナイト鉱石とサプロライト鉱石とに選別し、選別されたサプロライト鉱石のみに対して、加圧浸出液を用いた常圧浸出処理を行う。その常圧浸出処理においては、加圧浸出液に含まれる酸量と、常圧浸出処理の対象であるサプロライト鉱石に含まれるマグネシウム量のモル比とで規格化された分量にて実施し、常圧浸出残渣のマグネシウム品位を目標とするマグネシウム品位まで低減させる。そして、続いて、選別して得られたリモナイト系鉱石と、常圧浸出処理により得られた常圧浸出残渣とを混合して、高温高圧下にて硫酸を添加して加圧浸出を行う。
【0022】
このような方法によれば、常圧浸出に供する低品位ニッケル酸化鉱石量を低減させることができ、また常圧浸出によりサプロライト系鉱石のマグネシウム浸出を促進させることが可能となり、その結果として、加圧浸出において使用する硫酸量を効果的に低減させることができる。このことにより、低い酸濃度であっても、加圧浸出によりニッケル酸化鉱石に含まれるニッケルやコバルト等の有価金属を高い浸出率で浸出させることができ、低品位ニッケル酸化鉱石から有価金属を高効率で回収することができる。
【0023】
また、常圧浸出にて用いる加圧浸出液に含まれる酸量を、硫酸の追加添加等で適宜調整することによって、常圧浸出残渣のマグネシウム品位を目標とするマグネシウム品位までより一層に短時間で効率的に減少させることができ、その常圧浸出処理に必要となる設備規模を縮小させることができる。
【0024】
以下では、より具体的に、低品位ニッケル酸化鉱石から有価金属を回収する湿式製錬方法について説明するが、先ず、この方法を適用することができるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について説明する。なお、以下のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、硫酸溶液を用いた高温加圧酸浸出法(HPAL法)によりニッケル及びコバルトを回収する形態を具体例として示す。
【0025】
≪2.HPAL法に基づくニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法≫
図1は、ニッケル酸化鉱石のHPAL法を用いた湿式製錬方法の流れを示す工程図である。図1の工程図に示すように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸溶液を添加して高温高圧下で浸出(加圧浸出)する浸出工程S1と、浸出処理により得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら浸出残渣を分離してニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S2と、浸出液のpHを調整して浸出液中の余剰酸を中和するとともに不純物元素を含む中和澱物(中和残渣)を分離除去してニッケル及びコバルトを含む中和終液を得る中和工程S3と、中和終液に硫化剤を添加して硫化処理を施しニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を生成させる硫化工程S4と、固液分離工程S2から分離した浸出残渣スラリーと硫化工程S4から排出された貧液に含まれる不純物金属を中和除去して排出する最終中和工程S5とを有する。
【0026】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、高温加圧容器(オートクレーブ)等の加圧反応槽を用いて、低品位ニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)に硫酸溶液を添加して、220℃〜280℃の高い温度条件下で加圧しながら鉱石スラリーを攪拌することによって加圧浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを生成させる。
【0027】
ニッケル酸化鉱石としては、主として、Fe品位が高く、またアルカリ成分品位の低いリモナイト(Limonite)鉱石や、マグネシウムやシリカ等のアルカリ成分を多く含むサプロライト(Saprolite)鉱石等の、いわゆるラテライト(Laterite)鉱石が挙げられる。ラテライト鉱石におけるニッケル含有量は、通常、0.8重量%〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、ラテライト鉱石における鉄含有量は、10重量%〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ酸苦土鉱物に含有される。
【0028】
また、この浸出工程S1では、上述したようなラテライト鉱石のほかに、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガンノジュール等を処理することもできる。
【0029】
浸出工程S1における加圧浸出処理では、下記式(i)〜(iii)で表される浸出反応と下記式(iv)及び(v)で表される高温熱加水分解反応が生じ、ニッケルやコバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。
【0030】
・浸出反応
MO+HSO⇒MSO+HO ・・・(i)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す)
2Fe(OH)+3HSO⇒Fe(SO+6HO ・・・(ii)
FeO+HSO→FeSO+HO ・・・(iii)
・高温熱加水分解反応
2FeSO+HSO+1/2O⇒Fe(SO+HO ・・・(iv)
Fe(SO+3HO⇒Fe+3HSO ・・・(v)
【0031】
(2)固液分離工程(浸出残渣洗浄工程)
固液分離工程S2では、浸出工程S1における加圧浸出処理で形成された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトを含む浸出液と浸出残渣とに固液分離する。この固液分離工程S2では、浸出残渣の沈降分離の促進のために、例えばアニオン系の凝集剤等を添加して固液分離処理を行うことができる。
【0032】
固液分離工程S2では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。なお、固液分離工程S2は、浸出残渣洗浄工程ともいう。
【0033】
固液分離工程S2では、浸出スラリーを多段で洗浄しながら固液分離をすることが好ましい。多段洗浄方法としては、例えば、浸出スラリーに対して洗浄液を交流に接触させる連続交流多段洗浄法を用いることができる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上に向上させることができる。また、洗浄液(洗浄水)としては、特に限定されないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることが好ましい。例えば、洗浄液として、好ましくは、後工程の硫化工程S4で得られる貧液を繰り返して利用することができる。
【0034】
(3)中和工程
中和工程S3では、固液分離工程S2にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケルやコバルトを含む中和終液を得る。
【0035】
具体的に、中和工程S3では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加して、浸出液中の余剰酸を中和するとともに、浸出液中の3価の鉄やアルミニウム等の不純物成分を中和澱物とする。中和工程S3では、このようにして生成した中和澱物として沈降分離させ、ニッケル回収用の母液となる中和終液を生成させる。
【0036】
なお、中和工程S3では、中和処理して得られたスラリー(中和スラリー)に対してシックナー等の固液分離装置を用いた固液分離処理を施し、中和澱物を分離除去する。
【0037】
(4)硫化工程
硫化工程S4では、ニッケル回収用の母液である中和終液に対して、硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させた貧液(硫化後液)とを得る。
【0038】
なお、この硫化工程S4では、ニッケル及びコバルト回収用の母液(中和終液)に亜鉛が含まれる場合には、ニッケル及びコバルトを硫化物として分離するに先立って、亜鉛を硫化物として選択的に分離する処理を行うことができる。
【0039】
硫化工程S4では、ニッケル・コバルト混合硫化物のスラリーをシックナー等の固液分離装置を用いて沈降分離処理し、ニッケル・コバルト硫化物をシックナーの底部から分離回収するとともに、水溶液成分はオーバーフローさせて硫化後液として回収する。
【0040】
(5)最終中和工程
最終中和工程S5では、固液分離工程S2から排出された浸出残渣スラリーと、硫化工程S4から排出された貧液(硫化後液)に対して、排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理)を施す。
【0041】
最終中和工程S5における無害化処理の方法、すなわちpHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウム(石灰石)スラリーや水酸化カルシウム(消石灰)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。このような中和処理により、浸出残渣スラリーや貧液に含まれる重金属イオンを中和処理する。なお、重金属が水溶液中から除去された最終中和澱物スラリーは、尾鉱ダム(テーリングダム)に移送される。
【0042】
≪3.常圧浸出処理を含めたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法≫
ここで、上述した従来のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法(図1)において、原料とするニッケル酸化鉱石として例えばサプロライト鉱石等のマグネシウム品位の高い高マグネシウム鉱石を使用した場合には、浸出工程S1における加圧浸出処理で使用する硫酸とアルカリ成分であるマグネシウムとが反応してアルカリ硫酸塩を形成するようになり、そのマグネシウムによる干渉作用によって添加した硫酸の効力が下がり、硫酸を過剰に消費する方向に進む(例えば下記反応式を参照)。
MgO+HSO ⇒ MgSO+H
MgSO+HSO ⇒ Mg(HSO
【0043】
すると、加圧浸出処理に必要な硫酸量が増加してしまい、また所定の硫酸量あたりのニッケルやコバルト等の有価金属の浸出率が低下してしまう。
【0044】
これに対して、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、上述した湿式製錬方法に常圧浸出処理の工程を取り入れた方法である。具体的には、原料とするニッケル酸化鉱石をマグネシウム品位に基づきリモナイト鉱石とサプロライト鉱石とに選別し、選別されたマグネシウム品位の高いサプロライト鉱石のみに対して、加圧浸出液を用いた常圧浸出処理を行う。そして、その常圧浸出処理においては、加圧浸出液に含まれる酸量と常圧浸出処理の対象であるサプロライト鉱石に含まれるマグネシウム量のモル比とで規格化した分量にて実施し、常圧浸出残渣のマグネシウム品位を目標とするマグネシウム品位まで低減させる。その後、選別して得られたリモナイト系鉱石と、常圧浸出処理により得られた常圧浸出残渣とを混合して、高温高圧下にて硫酸を添加して加圧浸出を行う。
【0045】
このような方法によれば、常圧浸出に供するニッケル酸化鉱石量を低減させることができ、また常圧浸出によりサプロライト系鉱石のマグネシウム浸出を促進させることが可能となり、その結果として、加圧浸出において使用する硫酸量を効果的に低減させることができる。このことにより、低い酸濃度であっても、ニッケル酸化鉱石に含まれるニッケルやコバルト等の有価金属を高い浸出率で浸出させることができ、原料とするニッケル酸化鉱石から有価金属を高効率で回収することができる。
【0046】
図2は、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の流れを示す工程図である。図2の工程図に示すように、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、原料とするニッケル酸化鉱石を、低マグネシウム品位のリモナイト系鉱石と高マグネシウム品位のサプロライト系鉱石とに選別する鉱石選別工程S11と、鉱石選別工程S11で選別したサプロライト系鉱石に対して加圧浸出工程S13により得られる加圧浸出液に含まれる遊離酸濃度と存在形態が3価であるとして算出した鉄イオン濃度との合計値をそのサプロライト系鉱石に含まれるマグネシウム品位で除した値が所定の当量以下となるように硫酸濃度を調整した加圧浸出液を添加して常圧浸出する常圧浸出工程S12と、鉱石選別工程S11で選別したリモナイト系鉱石と常圧浸出工程S12で得られた常圧浸出残渣とを混合して加圧浸出する加圧浸出工程S13とを有する。
【0047】
<3−1.鉱石選別工程>
鉱石選別工程S11では、原料とするニッケル酸化鉱石を、マグネシウム品位に基づいて、リモナイト系鉱石と、サプロライト系鉱石とに選別する。原料とするニッケル酸化鉱石のうち、リモナイト系鉱石は、鉄品位が高く、一方でアルカリ成分であるマグネシウムの品位が低い。これに対して、サプロライト系鉱石は、マグネシウムやシリカ等のアルカリ成分を多く含む高マグネシウム品位の鉱石である。なお、区分として、「リモナイト系鉱石<マグネシウム品位:1.3重量%<サプロライト系鉱石」が知られている。
【0048】
具体的に、鉱石選別工程S11では、マグネシウム品位2重量%を境界とし、鉄品位が高くアルカリ成分であるマグネシウム品位が2重量%以下である低マグネシウム品位のリモナイト系鉱石と、マグネシウムやシリカ等のアルカリ成分を多く含む、すなわちマグネシウム品位が2重量%を越える高マグネシウム品位のサプロライト系鉱石とに選別する。
【0049】
このように、原料とするニッケル酸化鉱石をアルカリ成分であるマグネシウム品位に基づいて選別しておくことで、選別されたマグネシウム品位の高いサプロライト鉱石のみを、後述する常圧浸出工程S12における常圧浸出処理に供するようにする。これにより、サプロライト鉱石も有効に活用した製錬を実施できるとともに、常圧浸出に供される鉱石量が減少して短時間で常圧浸出処理を行うことができる。
【0050】
<3−2.常圧浸出工程>
(常圧浸出工程について)
常圧浸出工程S12では、鉱石選別工程S11で選別したサプロライト系鉱石に対して常圧浸出処理を施す。常圧浸出工程S12における常圧浸出では、後述する加圧浸出工程S13により得られる加圧浸出液を添加して行う。
【0051】
より具体的に、その常圧浸出処理においては、加圧浸出液に含まれる遊離酸濃度と、存在形態が3価であるとして算出した鉄イオン濃度との合計値を、そのサプロライト系鉱石に含まれるマグネシウム品位で除した値([Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量)が1.5mol/mol当量以下となるように硫酸濃度を調整した加圧浸出液を添加して常圧浸出することを特徴としている。
【0052】
このように、常圧浸出工程S12では、浸出処理に用いる加圧浸出液とサプロライト系鉱石との配合比率を、その加圧浸出液に含まれる酸量と鉱石に含まれるマグネシウム量のモル比で規格化した分量にて決定する。また、後述する加圧浸出工程S13において得られる浸出液には、鉱石に含まれる鉄に由来する鉄イオンが含まれており(例えば硫酸鉄(Fe(SO)の形態として含まれている)、その鉄イオンが溶液のpH上昇に伴って水酸化物となり、それがあたかも酸として作用して、サプロライト鉱石のスラリーに含まれるMg(OH)を消費するようになる。なお、以下に、サプロライト鉱石に含まれるマグネシウムを浸出する反応式の例を示す。
MgO+HO ⇒ Mg(OH)
SO+Mg(OH) ⇒ MgSO+2H
Fe(SO+3MgO+3HO ⇒ 3MgSO+2Fe(OH)
【0053】
これにより、常圧浸出によるサプロライト鉱石からのマグネシウムの浸出が促進され、形成される常圧浸出残渣におけるマグネシウム品位を短時間で低減させることができる。つまり、所望とするマグネシウム品位の常圧浸出残渣を得ることができるようになる。
【0054】
さらに、この常圧浸出工程S12では、必要に応じて硫酸の追加添加を実施することにより、サプロライト鉱石からのマグネシウムの浸出をより一層に促進させることができ、常圧浸出における固液比率を高めることができる。
【0055】
(固液分離工程について)
常圧浸出工程S12においてサプロライト鉱石に対する常圧浸出処理を行った後、得られた常圧浸出スラリーを、常圧浸出液と常圧浸出残渣とに固液分離する固液分離処理を行う(固液分離工程S14)。固液分離工程S14における固液分離処理方法としては、特に限定されないが、例えばシックナー等の固液分離装置を用いて行うことができる。
【0056】
<3−3.加圧浸出工程>
(加圧浸出工程について)
加圧浸出工程S13では、鉱石選別工程S11で選別したマグネシウム品位の低いリモナイト系鉱石のスラリーと、常圧浸出工程S12における常圧浸出処理で得られた常圧浸出残渣のスラリーとを混合し、それに硫酸を添加して高温高圧下で加圧浸出を施す。
【0057】
この加圧浸出工程S13は、図1に工程図を示す湿式製錬方法の浸出工程(加圧浸出工程)S1に相当し、リモナイト系鉱石と常圧浸出処理で得られた常圧浸出残渣とを処理対象としてオートクレーブ等の加圧反応槽に装入し、硫酸を用いた加圧浸出処理を施す。なお、浸出処理の具体的な説明は、浸出工程S1と同様であるためここでは省略する。
【0058】
ここで、本実施の形態においては、この加圧浸出工程S13における加圧浸出処理の対象として、マグネシウム品位の高いサプロライト鉱石を直接使用するのではなく、上述したように、サプロライト鉱石のみに対して常圧浸出処理(常圧浸出工程S12)を施して得られた、所望とするマグネシウム品位まで低減させた常圧浸出残渣を、マグネシウム品位の低いリモナイト鉱石と混合させて用いている。このことにより、この加圧浸出工程S13では、アルカリ成分であるマグネシウムによって、浸出のために添加した硫酸が消費されることがない。そのため、硫酸を過剰量としなくても(少ない遊離硫酸量で)、ニッケルやコバルト等の有価金属を効率的に浸出させることができる。
【0059】
(固液分離工程について)
加圧浸出工程S13においてリモナイト鉱石と常圧浸出残渣との混合物に対する加圧浸出処理を行った後、得られた浸出スラリー(加圧浸出スラリー)を、浸出液(加圧浸出液)と浸出残渣(加圧浸出残渣)とに固液分離する固液分離処理を行う(固液分離工程S15)。固液分離工程S15における固液分離処理方法としては、特に限定されないが、例えばシックナー等の固液分離装置を用いて行うことができる。
【0060】
固液分離処理により分離された加圧浸出液は、上述したようにマグネシウム品位の高いサプロライト鉱石に対して常圧浸出処理を行う常圧浸出工程S12に移送され、その常圧浸出処理に用いられる。このように、固液分離工程S15において、加圧浸出工程S13を経て得られた加圧浸出スラリーを直接固液分離することで、遊離酸濃度の高い浸出液を得ることができ、常圧浸出工程S12での常圧浸出の固液比率を高くすることができる。
【0061】
<3−4.以降の工程について>
(中和工程について)
図2の工程図に示すように、常圧浸出工程S12におけるサプロライト鉱石に対する常圧浸出(加圧浸出液を用いた常圧浸出処理)により得られた常圧浸出液は、中和工程S16に移送されて中和処理が施される。なお、中和工程S16における中和処理では、加圧浸出工程S13における加圧浸出により得られた浸出残渣を例えば交流多段洗浄して(残渣洗浄工程S17)回収された洗浄液も併せて処理することができる。
【0062】
この中和工程S16は、図1に工程図を示す湿式製錬方法の中和工程S3に相当し、常圧浸出液(及び洗浄液)に炭酸カルシウム等の中和剤を添加してpH調整し、不純物元素を含む中和澱物(中和残渣)と、ニッケル回収用の母液となる中和終液とを生成させる。なお、中和処理の具体的な説明は、中和工程S3と同様であるためここでは省略する。
【0063】
(硫化工程について)
中和工程S16における中和処理により得られた中和終液(母液)は、硫化工程S18に移送されて硫化処理が施される。
【0064】
この硫化工程S18は、図1に工程図を示す湿式製錬方法の硫化工程S4に相当し、ニッケル回収用の母液である中和終液に対して、硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させた貧液(硫化後液)とを得る。なお、硫化処理の具体的な説明は、硫化工程S4と同様であるためここでは省略する。
【0065】
(最終中和工程)
硫化工程S18における硫化処理により得られた貧液と、残渣洗浄工程S17にて多段洗浄された浸出残渣(加圧浸出残渣)は、最終中和工程S19に移送されて排出基準を満たす所定のpH範囲に調整する中和処理(無害化処理が)が施される。
【0066】
この最終中和工程S19は、図1に工程図を示す湿式製錬方法の最終中和工程S5に相当し、例えば炭酸カルシウムや水酸化カルシウム等の中和剤を用いた中和処理により、貧液や加圧浸出残渣に含まれる重金属イオンを中和処理する。なお、重金属が水溶液中から除去された最終中和澱物スラリーは、尾鉱ダム(テーリングダム)に移送される。
【実施例】
【0067】
以下、本発明に実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
[実施例1〜4]
容量1000mLの邪魔板付きセパラブルフラスコに、下記表1に示す硫酸濃度の硫酸水、又は、下記表1に示す鉄濃度及び硫酸濃度のHPAL浸出液(加圧浸出により生成した加圧浸出液)を入れ、オイルバスを用いて90℃に加温した。
【0069】
次に、所定のマグネシウム品位を有する低品位ニッケル酸化鉱石を、下記表1に示す所定の[Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量(mol/mol)となるように添加し、700rpmの攪拌速度で攪拌しながら、6時間にわたり常圧浸出処理を行った。反応開始から、0.5、1、1.5、2、3、4、5、6時間が経過したときに15mLずつサンプリングを行い、濾過処理を実施した後、その濾液の遊離酸濃度と各種の化学分析を行った。下記表2に、それぞれの反応時間での遊離酸濃度の測定結果をまとめて示し、図3〜5に、その遊離酸濃度と各種の化学分析結果についてのグラフ図を示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
実施例1と実施例2は、硫酸/鉱石Mg当量比(mol/mol)(Fe考慮しない)を同じ水準とした例である。しかしながら、表2及び図3に示すように、反応開始から6時間(360分)経過後において、実施例1では常圧浸出処理終液の遊離酸濃度が2.1g/Lまで低下したのに対して、加圧浸出液を用いた実施例2では常圧浸出処理終液の遊離酸濃度が8.4g/Lまでしか低下しなかった。なお、図3は、反応時間に対する遊離酸濃度の関係を示すグラフ図である。
【0073】
一方、実施例3と実施例4は、鉄を酸として計算して、(鉄+酸)/鉱石Mg当量比(mol/mol)を同じ水準とした例である。表2及び図3に示すように、各反応時間経過後において、実施例4の方が、常圧浸出処理終液の遊離酸濃度は若干高いものの、実施例1と実施例2との遊離酸濃度の差と比較すると、その実施例3と実施例4とでの遊離酸濃度の差は1g/L程度と小さく、ほぼ同じ範囲内であるといえる。
【0074】
また、図4は、遊離酸濃度に対する鉄の濃度の関係を示すグラフ図である。この図4から、実施例2においては、遊離酸濃度が12g/L以下となる付近から鉄濃度も低下したことが分かる。
【0075】
また、図5は、浸出処理を行った溶液のpHに対する鉄の濃度の関係を示すグラフ図である。この図5のグラフ図に示される結果から、例えば実施例2における鉄濃度の低下は、3価鉄イオン(Fe3+)の水酸化沈殿によるものと考えられる。
【0076】
以上の実施例1〜4の結果から、加圧浸出液中の鉄イオンは、遊離酸の中和が進んでpHが上昇すると水酸化物を形成して沈殿するため、それがあたかも酸として働いて、Mg(OH)を消費すると考えられる。このことから、鉄イオン濃度は酸として計算して常圧浸出に必要な酸量(加圧浸出液量)を決定する必要があることが分かる。
【0077】
[実施例5〜10]
500mLの邪魔板付きセパラブルフラスコに、下記表3に示す鉄濃度及び遊離硫酸濃度のHPAL浸出液(加圧浸出液)を入れ、オイルバスを用いて90℃に加温した。
【0078】
次に、所定のマグネシウム品位を持つ低品位ニッケル酸化鉱石を、下記表3に示す所定の[Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量(mol/mol)となるように添加し、700rpmの攪拌速度で3時間撹拌しながら常圧浸出処理を行った。反応開始から、1、2、3時間が経過したときに15mLずつサンプリングを行い、濾過処理を実施した後、その濾液の遊離酸濃度を測定した。また、サンプリングで得られた常圧浸出残渣について化学分析を行い、そのマグネシウム品位を確認した。図6及び図7に測定結果を示す。
【0079】
【表3】
【0080】
図6は、[Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量に対する常圧浸出により生成した浸出残渣中のマグネシウム品位の関係を示すグラフ図である。この図6から、高マグネシウム品位の鉱石から、常圧浸出により目標とするマグネシウム品位の常圧浸出残渣を得るために必要な酸量と反応時間とを確認することができる。
【0081】
また、図7は、[Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量に対する反応後終液の遊離酸濃度の関係を示すグラフ図である。この図7から、常圧浸出処理の反応時間を3時間以下とする場合、常圧浸出終液の遊離酸濃度を低く抑えるためには、[Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量を1.5(mol/mol)以下に調整することが望ましいことが分かる。
【0082】
以上の実施例1〜10の結果から、常圧浸出処理の条件を、[Fe(SO+硫酸]/鉱石Mg当量(mol/mol)として規格化することによって、高マグネシウム品位の鉱石から、常圧浸出により目標とするマグネシウム品位の常圧浸出残渣を得るために必要な酸量と反応時間とを制御できることが分かった。
【0083】
[実施例11〜13]
下記表4に示す金属品位の常圧浸出残渣と下記表5に示す濃度の常圧浸出液(常圧浸出終液)とからなる浸出スラリー(35重量%)と、表4に示す金属品位の低マグネシウム品位ニッケル酸化鉱石(40重量%スラリー:希釈は水道水)とを、表4及び表5に示す物量(g)、液量(L)で混合させ、そこに、下記表6に示す量の硫酸と水を添加して、濃度が28重量%のスラリーにそれぞれを調整した。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
各実施例において、調整したスラリーを容量3リットルのオートクレーブに入れ、反応温度245℃、保持時間1時間としてバッチ処理により加圧浸出した。
【0087】
加圧浸出処理により得られた浸出残渣スラリーを濾過して固液分離し、得られた浸出液の遊離酸濃度を測定した。また、化学分析により、その浸出液中の各成分濃度と、得られた浸出残渣中の成分品位を測定し、それぞれの成分の浸出率を算出した。下記表6に得られた浸出液(加圧浸出液)の各成分濃度を示し、下記表7に各成分の浸出率を示す。
【0088】
【表6】
【0089】
【表7】
【0090】
表6及び表7から、遊離酸濃度が低い場合であっても、つまり硫酸を過剰量としなくても、高い浸出率で有価金属を浸出できることが分かる。このことは、後述する比較例1〜3の結果と比較すると、より明確に理解することができる。
【0091】
[比較例1〜3]
下記表8に示す金属品位を有する、高マグネシウム品位のニッケル酸化鉱石(サプロライト系鉱石)を、下記表9に示す硫酸添加量で、上述した実施例11〜13と同様の方法により加圧浸出した。
【0092】
【表8】
【0093】
加圧浸出処理により得られた浸出残渣スラリーを濾過して固液分離し、得られた浸出液の遊離酸濃度を測定した。また、化学分析により、その浸出液中の各成分濃度と、得られた浸出残渣中の成分品位を測定し、それぞれの成分の浸出率を算出した。下記表9に得られた浸出液(加圧浸出液)の各成分濃度を示し、下記表10に各成分の浸出率を示す。
【0094】
【表9】
【0095】
【表10】
【0096】
表9及び表10から、高マグネシウム鉱石に対して直接加圧浸出すると、ニッケルやコバルトの浸出率を高く維持できないことが分かり、有価金属を高い浸出率で回収するためには、硫酸添加量を増やして遊離酸濃度を高くする必要が生じてしまうことが分かる。なお、より具体的に、比較例1〜3での結果に基づくと、遊離酸濃度が46.1g/L程度(比較例3)となってはじめてニッケル浸出率が95%以上となることが分かる。
【0097】
図8は、実施例11〜13、及び、比較例1〜3における、遊離酸濃度とニッケル浸出率の関係を示すグラフ図である。この図8に示されるように、実施例11〜13にて実施した方法によれば、効率的にかつ高い回収率で有価金属を回収できることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8