特許第6036944号(P6036944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許6036944新規有機ケイ素化合物、その製造方法及び密着向上剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6036944
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年11月30日
(54)【発明の名称】新規有機ケイ素化合物、その製造方法及び密着向上剤
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20161121BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20161121BHJP
   C09D 181/00 20060101ALI20161121BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20161121BHJP
【FI】
   C07F7/18 UCSP
   C09D5/00 D
   C09D181/00
   C09D175/04
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-165464(P2015-165464)
(22)【出願日】2015年8月25日
(62)【分割の表示】特願2013-123638(P2013-123638)の分割
【原出願日】2013年6月12日
(65)【公開番号】特開2016-28047(P2016-28047A)
(43)【公開日】2016年2月25日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−052168(JP,A)
【文献】 特表2002−507246(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/113485(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/014248(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02147685(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C09D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(3)
【化1】
(式中のAは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Bは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Eは独立に水素原子又は下記一般式(4)で示される置換基を表し、少なくとも1つは下記一般式(4)で示される置換基である。)
【化2】
(式中のDは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Rは独立にハロゲン原子又はアルコキシ基である加水分解性基であり、R’は独立に炭素数1〜4のアルキル基であり、mは1〜3の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物。
【請求項2】
下記一般式(7)
【化3】
(式中のEは上記と同様である。)
で示される請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
下記一般式(10)
【化4】
(式中のA、Bは上記と同様である。)
で表されるメルカプト化合物と下記一般式(a)
【化5】
(式中のD、R、R’、mは上記と同様である。)
で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物を反応させることを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
前記イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物が、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシランであることを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物を有効成分とする無機基材に対する密着向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規メルカプト基含有有機ケイ素化合物、その製造方法、及び該有機ケイ素化合物を有効成分とする密着向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
メルカプト基含有有機ケイ素化合物は、ガラスや金属などの無機基材への密着向上剤として広く使用されている。例えば、特許文献1(特許第4692885号公報)では、エポキシ樹脂とリードフレームとの密着性を向上させる目的でメルカプト基含有有機ケイ素化合物が使用されている。メルカプト基含有有機ケイ素化合物としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランや3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランが汎用されている。
【0003】
しかし、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランや3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランは沸点が低く、高温塗工時に揮発してしまうため、必要以上のメルカプト基含有有機ケイ素化合物を配合する必要があった。更に、揮発したメルカプト基含有有機ケイ素化合物により、機器を汚染してしまうという問題点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4692885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、無機基材に対し高い密着性を有し、更に揮発性の低いメルカプト基含有有機ケイ素化合物、その製造方法、及び該有機ケイ素化合物を有効成分とする密着向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)〜(3)で示されるメルカプト基を含有する有機ケイ素化合物が、揮発性が低く、無機基材に対して高い密着性を有することを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記有機ケイ素化合物、その製造方法及び密着向上剤を提供する。
〔1〕
下記一般式(3)
【化1】
(式中のAは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Bは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Eは独立に水素原子又は下記一般式(4)で示される置換基を表し、少なくとも1つは下記一般式(4)で示される置換基である。)
【化2】
(式中のDは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Rは独立にハロゲン原子又はアルコキシ基である加水分解性基であり、R’は独立に炭素数1〜4のアルキル基であり、mは1〜3の整数である。)
で示される有機ケイ素化合物。
〔2〕
下記一般式(7)
【化3】
(式中のEは上記と同様である。)
で示される〔1〕記載の有機ケイ素化合物。
〔3〕
下記一般式(10)
【化4】
(式中のA、Bは上記と同様である。)
で表されるメルカプト化合物と下記一般式(a)
【化5】
(式中のD、R、R’、mは上記と同様である。)
で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物を反応させることを特徴とする〔1〕記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
〔4〕
前記イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物が、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシランであることを特徴とする〔3〕記載の製造方法。
〔5〕
〔1〕又は〔2〕記載の有機ケイ素化合物を有効成分とする無機基材に対する密着向上剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有機ケイ素化合物は、分子内に(1)加水分解性シリル基、(2)チオウレタン構造、(3)メルカプト基を有しており、無機基材に対して高い密着性を付与することが可能である。更に、本発明の有機ケイ素化合物は、揮発性が低いため、密着向上剤として用いた場合に、周辺機器への汚染を抑え、生産性向上が期待でき、また必要最低量の配合量で密着性を向上させることができるため、経済的である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明において「シランカップリング剤」は「有機ケイ素化合物」に含まれる。
【0010】
[有機ケイ素化合物]
本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)、(2)、(3)で示される。
【化6】
(式中のAは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Bは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Dは独立に直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基であり、Rは独立に加水分解性基であり、R’は独立に炭素数1〜4のアルキル基であり、aは1〜4の数であり、bは0〜3の数であり、cは0又は1であり、a+b+cは4であり、mは1〜3の整数である。)
【化7】
(式中のA、B、D、R、R’、mは上記と同様であり、a’は0〜3の数であり、b’は0〜3の数であり、c’は0又は1であり、a’+b’+c’は3であり、a”は0〜3の数であり、b”は0〜3の数であり、c”は0又は1であり、a”+b”+c”は3であり、a’+a”は1〜6の数である。)
【化8】
(式中のA、Bは上記と同様であり、Eは独立に水素原子又は下記一般式(4)で示される置換基を表し、少なくとも1つは下記一般式(4)で示される置換基である。)
【化9】
(式中のD、R、R’、mは上記と同様である。)
【0011】
ここで、上記式中Aの直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基としては、CH2、C24、C36、C48、C510、C612、C714、C816が挙げられ、上記式中Bの直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基としては、CH2、C24、C36、C48、C510、C612、C714、C816が挙げられ、上記式中Dの直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8のアルキレン基としては、CH2、C24、C36、C48、C510、C612、C714、C816が挙げられ、原料の入手のしやすさからAはC24、BはC24、DはC36が好ましい。Rの加水分解性基としては、塩素、臭素等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基が挙げられ、アルコキシ基が好ましく、メトキシ基が特に好ましい。R’の炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基が挙げられ、メチル基が好ましい。
【0012】
mは1〜3の整数、好ましくは3である。
aは1〜4の数、好ましくは1〜2の数であり、bは0〜3の数、好ましくは2〜3の数であり、cは0又は1であり、a+b+cは4である。
a’は0〜3の数、好ましくは1〜2の数であり、b’は0〜3の数、好ましくは2〜3の数であり、c’は0又は1であり、a’+b’+c’は3であり、a”は0〜3の数、好ましくは1〜2の数であり、b”は0〜3の数、好ましくは2〜3の数であり、c”は0又は1であり、a”+b”+c”は3であり、a’+a”は1〜6の数、好ましくは1〜3の数である。
【0013】
一般式(1)で示される有機ケイ素化合物として、より好ましくは下記一般式(5)で示される。
【化10】
(式中のR、R’、m、a、b、c及びa+b+cは上記と同様である。)
【0014】
一般式(2)で示される有機ケイ素化合物として、より好ましくは下記一般式(6)で示される。
【化11】
(式中のR、R’、m、a’、b’、c’、a’+b’+c’、a”、b”、c”、a”+b”+c”及びa’+a”は上記と同様である。)
【0015】
一般式(3)で示される有機ケイ素化合物として、より好ましくは下記一般式(7)で示される。
【化12】
(式中のEは上記と同様である。)
【0016】
一般式(1)で示される有機ケイ素化合物の具体的な構造としては、下記に示すものが挙げられるが、これら例示したものに限らない。なお、下記式中、Meはメチル基を示す(以下、同じ)。
【化13】
【0017】
【化14】
【0018】
一般式(2)で示される有機ケイ素化合物の具体的な構造としては、下記に示すものが挙げられるが、これに限らない。
【化15】
【0019】
一般式(3)で示される有機ケイ素化合物の具体的な構造としては、下記に示すものが挙げられるが、これに限らない。
【化16】
【0020】
上記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物は、下記一般式(8)
【化17】
(式中のA、Bは上記と同様であり、dは3又は4であり、eは0又は1であり、d+eは4である。)
で表されるメルカプト化合物と、下記一般式(a)
【化18】
(式中のD、R、R’、mは上記と同様である。)
で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物とを反応させることにより得られる。
【0021】
上記式(8)で表されるメルカプト化合物としては、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)やペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)が挙げられるが、これら例示したものに限らない。
【0022】
また、上記式(a)で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物としては、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシランが挙げられ、原料の入手のしやすさから3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランもしくは3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0023】
上記式(8)で表されるメルカプト化合物と上記式(a)で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物との反応割合は、メルカプト化合物1molに対し、イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物を1〜3molとすることが好ましく、1〜2molとすることが更に好ましい。
【0024】
上記一般式(2)で示される有機ケイ素化合物は、下記一般式(9)
【化19】
(式中のA、Bは上記と同様であり、fは3又は4であり、gは0又は1であり、f+gは4であり、f’は3又は4であり、g’は0又は1であり、f’+g’は4である。)
で表されるメルカプト化合物と、下記一般式(a)
【化20】
(式中のD、R、R’、mは上記と同様である。)
で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物とを反応させることにより得られる。
【0025】
上記式(9)で表されるメルカプト化合物としては、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)が挙げられるが、これに限らない。
また、上記式(a)で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物としては、上記で例示したものと同様のものが挙げられるが、これら例示したものに限らない。
【0026】
上記式(9)で表されるメルカプト化合物と上記式(a)で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物との反応割合は、メルカプト化合物1molに対し、イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物を1〜6molとすることが好ましく、1〜2molとすることが更に好ましい。
【0027】
上記一般式(3)で示される有機ケイ素化合物は、下記一般式(10)
【化21】
(式中のA、Bは上記と同様である。)
で表されるメルカプト化合物と、下記一般式(a)
【化22】
(式中のD、R、R’、mは上記と同様である。)
で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物とを反応させることにより得られる。
【0028】
上記式(10)で表されるメルカプト化合物としては、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレートが挙げられるが、これに限らない。
また、上記式(a)で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物としては、上記で例示したものと同様のものが挙げられるが、これら例示したものに限らない。
【0029】
上記式(10)で表されるメルカプト化合物と上記式(a)で表されるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物との反応割合は、メルカプト化合物1molに対し、イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物を1〜3molとすることが好ましく、1〜2molとすることが更に好ましい。
【0030】
本発明の有機ケイ素化合物は、上述した通り多官能メルカプト化合物とイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物との反応により製造することができる。このように複数の反応点を有する反応のため、4置換メルカプト化合物とイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物の反応を例にすると下記一般式(15)のように、0置換体、1置換体、2置換体、3置換体、4置換体の混合物となる。なお、下記式中、Yは多官能メルカプト化合物の残基を、Zはイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物の残基を表す。
【化23】
【0031】
本発明の有機ケイ素化合物は、上記の通り、複数の化合物の混合物となっているため、上記式(1)〜(14)は、平均組成物として表記している。そのため、平均組成物として1置換体であっても、その他の置換体の化合物が混合している。
【0032】
本発明の有機ケイ素化合物製造時には、必要に応じて溶媒を使用してもよい。溶媒は原料であるメルカプト化合物やイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物と非反応性であれば特に限定されないが、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0033】
本発明の有機ケイ素化合物製造時には、必要に応じて触媒を使用してもよい。触媒は一般に使用されるイソシアネートの反応触媒でよく、好ましくはスズ化合物、アミン触媒である。スズ触媒としては、ジオクチルスズオキサイド等のスズ(II)のカルボン酸塩化合物が触媒活性の点より好ましく、アミン触媒としては、トリエチルアミンやトリブチルアミン、N−エチルジイソプロピルアミンなどの3級アミンが好ましい。
触媒の使用量は、イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物1molに対して0.0000001〜1molであり、より好ましくは0.000001〜0.01molである。1molより多く使用する場合、効果が飽和し、非経済的である。0.0000001mol未満である場合には、触媒効果が不足し、反応速度が低く、生産性が低下するおそれがある。
【0034】
本発明の有機ケイ素化合物製造時において、反応は発熱反応であり、不要に高温となると副反応が生じるおそれがある。そのため製造にあたり、好ましい反応温度は20〜150℃であり、より好ましくは30〜130℃、更に好ましくは40〜110℃の範囲である。20℃未満である場合は、反応速度が低く、生産性が低下する場合がある。一方、150℃を超える温度である場合には、イソシアネート基を有する有機ケイ素化合物の重合反応等の副反応が生じるおそれがある。
【0035】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる反応時間は、上記に述べたような発熱反応による温度管理が可能であり、且つ発熱反応が終了していれば特に限定されないが、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは1〜10時間程度である。
【0036】
本発明の有機ケイ素化合物は、ガラスや金属などの無機基材に対する密着向上剤として用いることができる。メルカプト基含有有機ケイ素化合物は、ガラスや金属などの無機基材への密着性を有している。本発明の有機ケイ素化合物は、加水分解性基1つに対し、複数のメルカプト基を有しており、更に極性基のウレタン結合、エステル結合を有しているため、エポキシ樹脂やウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等に0.1〜20質量%配合することで、従来のメルカプト基含有有機ケイ素化合物より高い密着性が期待できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例において部は質量部を示し、Meはメチル基を示し、IRは赤外分光法の略である。
【0038】
[参考例1]
有機ケイ素化合物(11)の製造法
攪拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)(堺化学(株)製、TMMP)399g(1mol)、ジオクチルスズオキサイド0.06gを納め、80℃まで加温した。その中に3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン205g(1mol)を滴下し、80℃にて2時間攪拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失したことを確認し、反応終了とした。濾過精製し、得られた生成物は、無色透明液体であり、メルカプト当量を測定すると303(理論値:301)とほぼ理論値通りであった。この有機ケイ素化合物をシランAとする。
【化24】
【0039】
[参考例2]
有機ケイ素化合物(12)の製造法
攪拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(堺化学(株)製、PEMP)489g(1mol)、ジオクチルスズオキサイド0.06gを納め、80℃まで加温した。その中に3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン205g(1mol)を滴下し、80℃にて2時間攪拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失したことを確認し、反応終了とした。得られた生成物は無色透明液体であり、メルカプト当量を測定すると233(理論値:231)とほぼ理論値通りであった。この有機ケイ素化合物をシランBとする。
【化25】
【0040】
[参考例3]
有機ケイ素化合物(13)の製造法
攪拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた2Lセパラブルフラスコに、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)(堺化学(株)製、DPMP)783g(1mol)、ジオクチルスズオキサイド0.06gを納め、80℃まで加温した。その中に3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン205g(1mol)を滴下し、80℃にて2時間攪拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失したことを確認し、反応終了とした。得られた生成物は無色透明液体であり、メルカプト当量を測定すると201(理論値:197)とほぼ理論値通りであった。この有機ケイ素化合物をシランCとする。
【化26】
【0041】
[実施例1]
有機ケイ素化合物(14)の製造法
攪拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート(堺化学(株)製、TEMPIC)526g(1mol)、ジオクチルスズオキサイド0.06gを納め、80℃まで加温した。その中に3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン205g(1mol)を滴下し、80℃にて2時間攪拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失したことを確認し、反応終了とした。得られた生成物は無色透明液体であり、メルカプト当量を測定すると370(理論値:365)とほぼ理論値通りであった。この有機ケイ素化合物をシランDとする。
【化27】
【0042】
[実施例2、参考例4、比較例1]
得られた有機ケイ素化合物の揮発性測定
次に、得られた有機ケイ素化合物(11)〜(14)(シランA〜D)及び下記シランEの揮発性を評価した。評価方法としては、化合物1gを滴下したアルミシャーレを105℃の恒温室に3時間開放系で放置した際の残存率を不揮発分として評価した。不揮発分が大きい程、化合物の揮発性は低い。評価結果を表1に示す。
シランE・・・3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−803)
【0043】
【表1】
【0044】
上記結果より、本発明の有機ケイ素化合物は揮発性が低いことが分かる。そのため、高温塗工時の揮発も抑制することができ、必要最低量の配合量で必要特性を発現することができるため、経済的である。更に、周辺機器への汚染も抑えることができ、生産性向上も期待できる。
【0045】
[実施例3、参考例5〜7、比較例2〜4]
得られた有機ケイ素化合物の密着性評価
上記で得られた有機ケイ素化合物及びシランEを用いた組成物の密着性を評価した。得られた組成物をガラス板にバーコーターで厚さ10μmとなるように塗布し、150℃、1時間の条件で硬化させ、下記方法により評価した。評価した組成物の成分を下記に、組成物の配合量及び評価結果を表2に示す。
密着性試験方法:
碁盤目剥離試験/JIS K 5400に準拠して行った。
エポキシ樹脂:YDPN638(新日鉄住金化学(株)製)
触媒:2−メチルイミダゾール
シランE・・・3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−803)
【0046】
【表2】
【0047】
上記の結果より、本発明の有機ケイ素化合物を用いることで、少量の添加量においてもガラスへの密着性が良好であった。