【0022】
本発明が適用されるR−Fe−B系焼結磁石としては、例えば、下記の製造方法によって製造されたものが挙げられる。
25質量%〜40質量%の希土類元素Rと、0.6質量%〜1.6質量%のB(硼素)と、残部Feおよび不可避不純物とを包含する合金を用意する。ここで、Rは重希土類元素RHを含んでいてもよい。また、Bの一部はC(炭素)によって置換されていてもよいし、Feの一部(50質量%以下)は、他の遷移金属元素(例えば、CoまたはNi)によって置換されていてもよい。この合金は、種々の目的により、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種の添加元素Mを0.01質量%〜1.0質量%程度含有していてもよい。
上記の合金は、原料合金の溶湯を例えばストリップキャスト法によって急冷して好適に作製され得る。以下、ストリップキャスト法による急冷凝固合金鋳片の作製を説明する。
まず、上記組成を有する原料合金をアルゴン雰囲気中において高周波溶解によって溶解し、原料合金の溶湯を形成する。次に、この溶湯を1350℃程度に保持した後、単ロール法によって急冷し、例えば厚さ約0.3mmのフレーク状合金鋳片を得る。こうして作製した合金鋳片を、次の水素粉砕処理前に例えば1mm〜10mmのフレーク状に粉砕する。なお、ストリップキャスト法による合金鋳片の製造方法は、例えば、米国特許第5、383、978号明細書に開示されている。
[粗粉砕工程]
上記のフレーク状に粗く粉砕された合金鋳片を水素炉の内部へ収容する。次に、水素炉の内部で水素脆化処理(以下、「水素粉砕処理」や単に「水素処理」と称する場合がある)工程を行う。水素粉砕処理後の粗粉砕粉を水素炉から取り出す際、粗粉砕粉が大気と接触しないように、不活性雰囲気下で取り出し動作を実行することが好ましい。そうすれば、粗粉砕粉が酸化・発熱することが防止され、磁石の磁気特性の低下が抑制できるからである。
水素粉砕処理によって、希土類合金は0.1mm〜数mm程度の大きさに粉砕され、その平均粒径は500μm以下となる。水素粉砕処理後、脆化した原料合金をより細かく解砕することが好ましい。
[微粉砕工程]
次に、粗粉砕粉に対してジェットミル粉砕装置を用いて不活性ガス雰囲気下で微粉砕を実行する。本実施形態で使用するジェットミル粉砕装置にはサイクロン分級機が接続されている。ジェットミル粉砕装置は、粗粉砕工程で粗く粉砕された希土類合金(粗粉砕粉)の供給を受け、粉砕機内で粉砕する。粉砕機内で粉砕された粉末はサイクロン分級機を経て回収タンクに集められる。こうして、0.1μm〜20μm程度の微粉末を得ることができる。このような微粉砕に用いる粉砕装置は、ジェットミルに限定されず、アトライタやボールミルであってもよい。粉砕に際して、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を粉砕助剤として用いてもよい。
[プレス成形]
本実施形態では、上記方法で作製された微粉末に対し、例えばロッキングミキサー内で潤滑剤を例えば0.3質量%添加・混合し、潤滑剤で微粉砕粉末粒子の表面を被覆する。次に、上述の方法で作製した微粉砕粉末を公知のプレス装置を用いて配向磁界中で成形する。印加する磁界の強度は、例えば1.0T〜1.7Tである。また、成形圧力は、成形体のグリーン密度が例えば4g/cm
3〜4.5g/cm
3程度になるように設定される。
[焼結工程]
上記の粉末成形体に対して、例えば、1000℃〜1200℃の範囲内の温度で10分間〜240分間行う。650℃〜1000℃の範囲内の温度で10分間〜240分間保持する工程と、その後、上記の保持温度よりも高い温度(例えば、1000℃〜1200℃)で焼結を更に進める工程とを順次行ってもよい。焼結時、特に温度が650℃〜1000℃の範囲内にあるとき、粒界相中のRリッチ相が融け始め、液相が形成される。その後、焼結が進行し、焼結体が形成される。焼結工程の後、時効処理(400℃〜700℃)や寸法調整のための研削を行ってもよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。
【0025】
(磁石体試験片1の製造)
Nd:19.0、Pr:5.5、Dy:8.2、B:0.97、Co:0.9、Cu:0.1、Al:0.2、Ga:0.09、残部:Fe(単位はmass%)の組成を有する厚さ0.2mm〜0.3mmの合金鋳片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金鋳片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金鋳片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金鋳片を脆化し、大きさ約0.15mm〜0.2mmの粗粉砕粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した粗粉砕粉末に対し粉砕助剤として0.04mass%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、粉末粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行い、焼結体ブロックを得た。
得られた焼結体ブロックを真空中にて490℃で2.5時間の時効処理を行った後、その表面に対し研削加工を行って寸法調整し、厚さ4mm×縦15mm×横18mmの焼結磁石(以下「磁石体試験片1」と称する)を得た。
(磁石体試験片2の製造)
Nd:16.2、Pr:4.5、Dy:9.1、B:0.93、Co:2.0、Cu:0.1、Al:0.15、Ga:0.07、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する厚さ0.2mm〜0.3mmの合金鋳片をストリップキャスト法により作製し、磁石体試験片1の製造と同様にして焼結体ブロックを得た。得られた焼結体ブロックから磁石体試験片1の製造と同様にして厚さ4mm×縦15mm×横18mmのR−Fe−B系焼結磁石(以下「磁石体試験片2」と称する)を得た。
【0026】
(実施例1)
磁石体試験片1を超音波水洗した後、
図1に示した構成を有する連続処理炉を用いて表面改質を行った。なお、焼結磁石の温度の測定は、熱電対を装着した温度測定用磁石の温度をモニタリングすることにより行った。
(1)昇温工程
常温(25℃。以下同じ)から熱処理を行う温度(400℃)までの昇温を、露点−40℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧19Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=1052)の雰囲気下、500℃/時間の平均昇温速度で行った。
(2)熱処理工程
露点0℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧600Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=33.3)の雰囲気下、400℃で20分間行った。熱処理領域(本発明における処理室に相当:容積0.64m
3)内の雰囲気形成は、0.120m
3/分の流量で露点0℃の大気を熱処理領域内に導入することで熱処理領域内が陽圧状態になるようにして行った(容積1m
3あたりの酸素流量は0.037m
3/分で全体流量は0.188m
3/分。酸素流量は全体流量である大気流量の1/5として換算。大気流量は面積式流量計で制御。熱処理は雰囲気ガス導入開始から30分以上経過後開始。以下同じ)。陽圧状態の確認は、別途熱処理領域内に上記全体流量と同じ流量の不活性ガスを導入し、導入開始から30分後、酸素濃度が測定下限値以下であることを確認することによって、それぞれ処理室内が陽圧であることを確認した。
(3)降温工程
昇温工程において採用した雰囲気と同じ雰囲気下、400℃から100℃までの降温を690℃/時間の平均冷却速度で行った。なお、平均冷却速度の調整は、降温に用いる雰囲気ガスの流量を調整することにより行った。
以上の方法で焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.5μmであった。なお、改質層の厚みは、表面改質された焼結磁石を樹脂埋め研磨後、イオンビーム断面加工装置(SM09010:日本電子社製)を用いて試料作製し、電界放出型走査電子顕微鏡(S−4300:日立ハイテクノロジー社製)を用いて断面観察を行うことによって測定した
(以下同じ)。
【0027】
以上の方法で表面改質された焼結磁石について、その表面付近の断面観察を透過型電子顕微鏡(TEM:HF2100:日立ハイテクノロジー社製)エネルギー分散型X線分析装置(EDX:NORAN社製)および走査型電子顕微鏡(FE−SEM:S−4300:日立ハイテクノロジー社製)を用いて行った結果、磁石表面から順に、厚みが約1.4μmの主層、厚みが約50nmのRとFeと酸素を含む非晶質層(Fe−R酸化物および/またはFe酸化物とR酸化物を含む非晶質層)、厚みが約150nmの実質的にRを含まないFe酸化物層の3層構造を有することがわかった。また、磁石表面付近をX線光電子分析装置(ESCA‐850M:SHIMADZU社製)を用いて分析した結果を
図2に示す。主層中のFeは金属状態であり、Rは酸化物であることがわかった。
【0028】
主層の断面観察を透過型電子顕微鏡(JEM−3010:日本電子社製)を用いて行った結果を
図3〜5に示す。
図3は表面改質層全体の低倍明視野像、
図4は
図3における主層の矢印先端付近の高分解能格子像、また、
図5は
図3における主層の矢印先端付近φ100nm領域から得た電子線回折パターンである。
図3の低倍明視野像から縞状に見えるNd
2Fe
14B型結晶相の上層に柱状の主層が生成していることがわかる。なお、
図3の低倍明視野像では厚みが約50nmのRとFeと酸素を含む非晶質層は薄すぎて判別できない。また、中央部の白い部分は試料作成時にできた孔である。
図3の主層における、矢印先端付近の高分解能観察結果が
図4である。母材マトリックスの格子内に2〜5nm程度の非晶質相が分散していることがわかる(格子が崩れていることから非晶質であると判断でき、例えば
図4の○囲み部分が非晶質相である)。また、
図5の電子線回折パターンは母材マトリックスから得られており、回折パターンがα―Feに帰属出来る事から、母材マトリックスはα―Feである事が分かる。母材マトリックスの格子内に微細分散している非晶質相は微小な為、回折パターンのスポットとしては非常にわかりにくいが、X線光電子分析、及びエネルギー分散型X線分析結果を合わせて判断すると、前記非晶質相はR酸化物であると考えられる。すなわち、主層はα‐Feおよび非晶質のR酸化物を構成成分として含み、具体的には、α‐Fe内に非晶質のR酸化物が分散して存在している構造を有していることがわかった。
【0029】
また、最表層付近をX線回折分析装置(RINT2400:Rigaku社製)を用いて調べた結果、厚みが約150nmの実質的にRを含まないFe酸化物層はヘマタイト(α−Fe
2O
3)を主体とする層であることがわかった。
【0030】
(実施例2)
熱処理工程を露点−40℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧19Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=1052)の雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例1と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.3μmであった。
【0031】
(実施例3)
処理室内の容積が0.0034m
3のバッチ式の熱処理炉を用い、処理室内の雰囲気形成を0.0041m
3/分の流量で露点0℃の大気を処理室内に導入することで、処理室内が陽圧状態になるようにして行ったことと(容積1m
3あたりの酸素流量は0.238m
3/分で全体流量は1.209m
3/分。)、熱処理を雰囲気ガス導入開始から5分以上経過後開始したことと、100℃までの降温を平均冷却速度700℃/時間で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。陽圧状態の確認は、別途熱処理領域内に上記全体流量と同じ流量の不活性ガスを導入し、導入開始から5分後、酸素濃度が測定下限値以下であることを確認することによって、処理室内が陽圧であることを確認した。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.4μmであった。
【0032】
(実施例4)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.4μmであった。
【0033】
(実施例5)
処理室内の雰囲気形成を0.0030m
3/分の流量で露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は(容積1m
3あたりの酸素流量は0.176m
3/分で全体流量は0.894m
3/分。)実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.3μmであった。
【0034】
(実施例6)
処理室内の雰囲気形成を0.0101m
3/分の流量で露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は(容積1m
3あたりの酸素流量は0.588m
3/分で全体流量は2.988m
3/分。)実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.5μmであった。
【0035】
(実施例7)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったことと、熱処理工程を340℃で60分間行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.1μmであった。
【0036】
(実施例8)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったことと、熱処理工程を300℃で120分間行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.2μmであった。
【0037】
(実施例9)
磁石体試験片2を用いたこと、処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと、熱処理工程を420℃で20分間行ったこと、100℃までの降温を平均冷却速度900℃/時間で行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.6μmであった。
【0038】
(実施例10)
磁石体試験片2を用いたこと、処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと、熱処理工程を420℃で20分間行ったこと、100℃までの降温を平均冷却速度650℃/時間で行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.8μmであった。
【0039】
(実施例11)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったことと、100℃までの降温を平均冷却速度1800℃/時間で行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.3μmであった。
【0040】
(比較例1)
処理室内の雰囲気形成を0.0004m
3/分の流量で露点0℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は(容積1m
3あたりの酸素流量は0.022m
3/分で全体流量は0.112m
3/分。)実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.1μmであった。なお陽圧状態の確認は、別途熱処理領域内に上記全体流量と同じ流量の不活性ガスを導入し、酸素濃度を確認したが、不活性ガス導入後5分以上経過しても酸素濃度は測定下限値に達せず、処理室内は陽圧でないことが確認された。
【0041】
(比較例2)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は比較例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても比較例1と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.2μmであった。
【0042】
(比較例3)
処理室内の雰囲気形成を0.0151m
3/分の流量で露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は(容積1m
3あたりの酸素流量は0.882m
3/分で全体流量は4.482m
3/分。)比較例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。陽圧状態の確認は、別途熱処理領域内に上記全体流量と同じ流量の不活性ガスを導入し、導入開始から5分後、酸素濃度が測定下限値以下であることを確認することによって、処理室内が陽圧であることを確認した。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.5μmであった。
【0043】
(比較例4)
磁石体試験片2を用いたこと、処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと、熱処理工程を420℃で20分間行ったこと、100℃までの降温を平均冷却速度420℃/時間で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例1と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.6μmであった。
【0044】
(比較例5)
100℃までの降温を平均冷却速度530℃/時間で行ったこと以外は比較例4と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても比較例4と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.6μmであった。
【0045】
(比較例6)
処理室内の雰囲気形成を露点15℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧1711Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=11.7)を処理室内に導入することで行ったこと、100℃までの降温を平均冷却速度700℃/時間で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例1と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.7μmであった。
【0046】
(参考例)
磁石体試験片1を洗浄後、表面改質を行わず磁石体試験片とした。
【0047】
(耐食性評価)
実施例1〜11、比較例1〜6それぞれにおいて表面改質を行った焼結磁石、および参考例の焼結磁石に対し、温度:60℃×相対湿度:90%の高温高湿条件下での耐食性試験を24時間行い、試験後の表面発錆の有無を外観観察により調べた。試験に供した各20個の磁石のうち表面発錆が認められた磁石の個数を表1に示す。
【0048】
(接着強度評価)
接着剤に電気化学工業社製ハードロックG55(アクリル系)を用い,実施例1〜11、比較例1〜6のそれぞれにおいて表面改質を行った焼結磁石、および参考例の焼結磁石を
図6に示すように鉄治具に接着したのち、2mm/minの速度で打ち抜く方法により接着強度を調べた。接着厚みは約20μmであり、接着面積は約2cm
2である。接着強度を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
(まとめ)
耐食性評価結果から明らかなように、焼結磁石の表面改質によって付与された耐食性は、実施例1〜11、比較例1、2、4、5、参考例の間で差異はなく、いずれにおいても優れたものであったが、比較例3、6はこれらに比べて耐食性に劣るものであった。比較例3は雰囲気ガスの導入流量が多すぎたために、処理室内に温度および雰囲気のばらつきが生じ、表面改質にばらつきが生じたことによるものと考えられ、比較例6は水蒸気分圧が高い雰囲気で熱処理を行ったことによるものと考えられる。また、接着強度評価結果から明らかなように、実施例1〜11は表面改質を行っていない参考例と同等の接着強度を有しているが、比較例1、2、4〜6は接着強度が低下していた。接着強度試験後の接着面を観察したところ、実施例、参考例ではほぼ全体が接着剤の凝集破壊であったのに対し、比較例では一部磁石表面の素材破壊が見られ、実施例、参考例の磁石表面に対して比較例の磁石表面は脆くなっていることがわかった。実施例の接着強度試験結果が参考例のものと差がなかったのに対して、比較例の接着強度試験結果が劣っていた原因は、以下のような理由により、表面改質層(特に主層)の構造が実施例と比較例とで異なるためと考えられる。すなわち、実施例1〜11の磁石は酸素流量が多い陽圧環境で熱処理を行っており、表面改質層の主層は、実施例1で説明した通り、α‐Fe内に非晶質のR酸化物が分散した構造を有している。このような表面改質層が形成されるしくみの詳細は不明であるが、本発明における表面改質反応は、酸素の磁石内部への拡散に伴う酸化反応であり、酸素によってR−Fe−B焼結磁石の主相は分解されて不均化する。この時、酸化性が高い陽圧環境で熱処理を行うことにより、酸素の磁石内部への拡散速度が速まり、比較的反応性が高いRが優先的に酸化されることで、主相のFe原子は酸化されにくくα―Feへと変化する。酸化されたRはα―Fe内に取り残されたまま分散し、酸化による不均化反応が磁石内部に進行する。表面では酸化が促進され、α―Feが酸化するため、最表面にα‐Fe
2O
3(ヘマタイト)を主体とする酸化鉄層が析出する。この時、α―Fe内に存在したR酸化物はこれ以上酸化しないのでヘマタイトを主体とする酸化鉄層(最表層)下に濃縮され、磁石表面から順に、ヘマタイトを主体とする酸化鉄層、RとFeと酸素を含む非晶質層が形成されるものと推測される。また、冷却速度が早いことでその状態を保ったまま常温に達する。一方、比較例1、2のように酸素流量が少なく陽圧でない雰囲気下で熱処理を行った場合、酸素の内部への拡散速度が遅くなってα‐Feの酸化も進み、主層にはR酸化物とともにα−Feより脆いFe酸化物も生成すると考えられ、主層全体が実施例の表面改質層より脆くなる。さらにこの場合、主層には多くの酸素が取り込まれることになり、内部応力が高まることによっても脆化すると考えられる。降温工程における冷却速度が遅い比較例4、5では、形成された主層の構造が降温工程で維持できず、Feの酸化が進んでしまったために主層が脆くなったものと考えられる。水蒸気分圧が1000Paを超える比較例6では、水蒸気による酸化に伴って発生した水素を磁石が吸蔵することにより、磁石表面が脆くなったものと考えられる。これらの理由により、比較例の磁石は、接着強度評価試験において磁石表面の素材破壊が起こり、接着強度が低下したものと考えられる。