特許第6037217号(P6037217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037217
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】窒化珪素質焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/584 20060101AFI20161128BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20161128BHJP
   F16C 33/34 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C04B35/58 102C
   F16C33/32
   F16C33/34
【請求項の数】1
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-223020(P2012-223020)
(22)【出願日】2012年10月5日
(65)【公開番号】特開2014-73944(P2014-73944A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長沼 諒
(72)【発明者】
【氏名】清水 健一郎
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−265276(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111307(WO,A1)
【文献】 特開2011−132126(JP,A)
【文献】 阿部 弘,セラミックサイエンスシリーズ5 エンジニアリングセラミックス,1987年 9月25日,p.82−87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/584
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgおよび少なくとも1種の希土類元素を酸化物換算で0.5〜20質量%含む窒化珪素質焼結体の製造方法であって、50%累積粒子径(d50)が0.2〜3μmであり、当該50%累積粒子径(d50)と10%累積粒子径(d10)および90%累積粒子径(d90)との関係である(d90−d10)/d50が0.5〜8の範囲であり、Fe成分を5〜3000ppm含む窒化珪素粉末に、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を含む焼結助剤を、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を酸化物換算した場合の比(RExOy/MgO)が0.05〜5の範囲となるよう添加し、混合して原料粉末を形成する原料粉末調整工程と、前記原料粉末で形成した成形体を0.2〜10MPaの圧力下にて窒素雰囲気中で焼成する焼成工程を有し、
前記焼成工程において、
焼結助剤の液相化が開始する温度H1に対し、(H1−300℃)〜(H1−10℃)の範囲で成形体を0.5時間以上加熱する温度域を有し、かつ、
焼結助剤の液相化が開始する温度H1に対し、H1〜(H1+200℃)の範囲で成形体を0.5〜10時間加熱する温度域を有し、かつ、
成形体の収縮率が90%となる温度H3に対し、(H3−200℃)〜(H3+200℃)の範囲で成形体を0.1〜10時間加熱する温度域を有し、かつ、
1500〜2000℃の範囲で、0.1〜20時間加熱する温度域を有する窒化珪素質焼結体の製造方法。
(成形体の収縮率が90%となる温度H3は、200MPaの成形圧力でプレス成形した成形体を用いて求める)



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素質焼結体の製造方法に係る発明である。
【背景技術】
【0002】
例えば、鋼鈑の圧延ラインで使用される圧延用ロール、搬送用ロールまたは支持ロールなどの各種ロール部材、コンプレッサー、タービンブレードまたはカムローラなど各種エンジン部材、転動体(ボール・コロ)または内輪・外輪などのころがり軸受部材、すべり軸受部材として、摺動部材が組み込まれている。そして、近年、長寿命化および省エネ化を目的とし、これらの摺動部材に窒化珪素質焼結体を利用することが鋭意検討されており、その一例が、下記特許文献1〜4に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された窒化珪素質焼結体は、「窒化珪素粒子と、2質量%以上15質量%以下の範囲の焼結助剤成分とを含有する窒化珪素焼結体であって、前記窒化珪素粒子は、長径Lが10μm以下で、かつ短径Sに対する長径Lの比(L/S)が5以上である針状結晶粒子を、前記窒化珪素焼結体の結晶組織内に面積比で50〜80%有し、前記窒化珪素焼結体中に存在するボイドの最大径が3μm以下、前記ボイドの数が30×30μmの範囲内に5個以下である」、窒化珪素焼結体である。かかる窒化珪素焼結体によれば、これを摺動部材に適用した場合には、転がり寿命に代表される摺動特性のバラツキを低減し、耐久性や信頼性を再現性よく高めることができると記載されている。
【0004】
特許文献2に開示された窒化珪素質焼結体は、「窒化珪素結晶粒子と、2質量%以上15質量%以下の範囲の焼結助剤成分とを含有する窒化珪素焼結体であって、前記窒化珪素結晶粒子は、短径Sに対する長径Lの比(L/S比)が5以上の針状結晶粒子を面積比で10%以上含み、かつ前記針状結晶粒子のL/S比の平均値が6〜8の範囲で、変動係数が0.8以上であり、前記針状結晶粒子の長径Lは40μm以下である」、窒化珪素焼結体である。かかる窒化珪素焼結体によれば、強度や転がり寿命に代表される摺動特性の低下を抑制しつつ、加工性を向上させて製造コストの低減を図ることが可能であると記載されている。
【0005】
特許文献3に開示された窒化珪素質焼結体は、「金属窒化法により製造された窒化けい素粉末と焼結助剤とを混合した窒化けい素焼結体において、焼結助剤成分として希土類元素を1.5〜3質量%、Al元素を1〜3質量%、酸素元素を5質量%以下含有した窒化けい素焼結体であり、不純物としてFeを10〜3000ppm含有するとともに、Caを10〜1000ppm含有し、窒化けい素焼結体のビッカース硬度Hvが1300〜1600であり、ヤング率が290GPa以上であり、この窒化けい素焼結体の結晶組織において窒化けい素結晶粒子の短径に対する長径の比が2以上である窒化けい素針状結晶粒子の面積率が50%以上、その最大長さが40μm以下、前記窒化けい素焼結体の気孔率が1%以下、最大気孔径が3μm以下、前記窒化けい素焼結体を研摩加工した後の30×30μmの表面領域に残存する径が1μm以上の気孔数が5個以下、前記窒化けい素焼結体の結晶組織における助剤成分の偏析凝集部の最大径が30μm以下である」、窒化珪素焼結体である。かかる窒化珪素焼結体によれば、特に金属窒化法で製造された窒化けい素粉末のように純度が低く安価な窒化けい素原料粉末を使用して形成した場合であっても、助剤成分の分散状態を制御することが可能であり、均質で粒界強度のばらつきが小さくすることができ、従来の窒化けい素焼結体と同等以上の機械的強度、耐摩耗性、転がり寿命特性に加え、加工性に優れた転がり軸受け部材として好適な窒化珪素焼結体を構成できると記載されている。
【0006】
特許文献4に開示された窒化珪素質焼結体からなる耐摩耗部材(摺動部材)は、「ケイ素粉末に、希土類化合物を酸化物に換算して0.5〜10質量%、チタン化合物を窒化チタンに換算して0.1〜5質量%、酸化アルミニウムを0.1〜5質量%、および窒化アルミニウムを5質量%以下の範囲で添加した混合原料粉末を成形、焼結してなる窒化ケイ素焼結体を具備し、長軸径が1μm以下の窒化チタン粒子を0.2〜5質量%、前記窒化チタン粒子は、アスペクト比が1.0〜1.2の範囲の粒子を80%以上含み、前記窒化ケイ素焼結体は気孔率が0.5%以下である」、耐摩耗部材である。かかる耐摩耗部材によれば、高強度および高靭性に加えて、摺動特性に優れた耐摩耗性部材、特に転がり寿命を向上させて軸受部材に好適な特性を付与可能な耐摩耗部材を構成できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2008/111307号公報
【特許文献2】特開2008−285349号公報
【特許文献3】特開2011−16716号公報
【特許文献4】特開2011−132126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜4で例示される従来の窒化珪素質焼結体は、これを摺動部材として適用した場合に、表面の耐剥離性の点で不十分であった。このため、耐剥離性という観点で見た場合の摺動部材の耐久性が安定せず、工業生産において実用的に、窒化珪素質焼結体を摺動部材として適用することを阻害する一つの要因となっていた。
【0009】
さらに、従来の窒化珪素質焼結体は、相手材の損耗性の面で問題があった。すなわち、摺動部材の表面の摺動中における損耗は、硬度の低い粒界相が優先して摩耗するため、使用前には平滑な表面であっても、摺動中における粒界相の優先的な損耗により窒化珪素粒子が露出するようになり、表面に凹凸が生じる。ここで、従来の窒化珪素質焼結体はアスペクト比が高い針状の窒化珪素粒子を主体として構成されているため、この凹凸の程度が粗くなる。このため、圧延用ロールまたは搬送用ロールに適用した場合には、上記凸部に起因し相手材である鋼鈑等の表面に擦り疵が生じたり、鋼鈑等の表面に上記凹部がプリントされるという問題があった。また、転がり軸受の転動体に適用した場合には、相手材である内輪または外輪の摺動面に摩耗や損傷が生じ、軸受の寿命が低下するという問題があった。
【0010】
本発明は、上記従来技術の課題を本発明者らが鋭意検討してなされたものであり、耐剥離性という観点からの耐久性が安定し、加えて相手材の損傷性の低い窒化珪素質焼結体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の一態様は、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素を酸化物換算で0.5〜20質量%含む窒化珪素質焼結体の製造方法であって、50%累積粒子径(d50)が0.2〜3μmであり、当該50%累積粒子径(d50)と10%累積粒子径(d10)および90%累積粒子径(d90)との関係である(d90−d10)/d50が0.5〜8の範囲の窒化珪素粉末に、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を含む焼結助剤を、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を酸化物換算した場合の比(RExOy/MgO)が0.05〜5の範囲となるよう添加し、混合して原料粉末を形成する原料粉末調整工程と、前記原料粉末で形成した成形体を0.2〜10MPaの圧力下にて窒素雰囲気中で焼成する焼成工程を有する原料窒化珪素質焼結体の製造方法である。
【0012】
なお、前記焼成工程において、成形体の収縮率が90%となる温度H3に対し、(H3−200℃)〜(H3+200℃)の範囲で成形体を所定時間加熱する温度域を有することが望ましい。
【0013】
さらに、前記焼成工程において、焼結助剤の液相化が開始する温度H1に対し、(H1−300℃)〜(H1−10℃)の範囲で成形体を所定時間加熱する温度域を有することが好ましい。
【0014】
さらに加えて、前記焼成工程において、焼結助剤の液相化が開始する温度H1に対し、H1〜(H1+200℃)の範囲で成形体を所定時間加熱する温度域を有することがより好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る窒化珪素質焼結体によれば、下記で詳細に説明するように、耐剥離性という観点からの耐久性が安定し、加えて相手材の損傷性の低い窒化珪素質焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】焼成工程における温度プロファイルを示す図である。
図2】第4温度域の加熱温度の基準となる温度H2を求める方法を説明する図である。
図3】摩耗試験機の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る窒化珪素質焼結体の製造方法は、
(1)Mgおよび少なくとも1種の希土類元素を酸化物換算で0.5〜20質量%含む窒化珪素質焼結体の製造方法であって、
(2)50%累積粒子径(d50)が0.2〜3μmであり、当該50%累積粒子径(d50)と10%累積粒子径(d10)および90%累積粒子径(d90)との関係である(d90−d10)/d50が0.5〜8の範囲の窒化珪素粉末に、
(3)Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を含む焼結助剤を、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を酸化物換算した場合の比(RExOy/MgO)が0.05〜5の範囲となるよう添加し、混合して原料粉末を形成する原料粉末調整工程と、(4)前記原料粉末で形成した成形体を0.2〜10MPaの圧力下にて窒素雰囲気中で焼成する焼成工程を有する、窒化珪素質焼結体の製造方法である。以下、本発明に係る窒化珪素質焼結体の製造方法について、その工程に沿い説明する。
【0018】
[原料粉末調整工程]
まず、窒化珪素粉末について説明する。用意する窒化珪素粉末としては、d50が0.2〜3μmであり、(d90−d10)/d50が0.5〜8の範囲の粒度分布を有する窒化珪素粉末を用いる。なお、上記d10、d50およびd90は、JIS Z 8825−1に準拠し、窒化珪素粉末の粒度分布をレーザ式粒度測定装置で測定したときの体積基準の累積分布において、各々、10%累積粒子径、50%累積粒子径、90%累積粒子径のことを指す。このように(d90−d10)/d50が0.5〜8の範囲を有する窒化珪素粉末によれば、所望の長軸長の範囲を有する窒化珪素質焼結体を得ることができる。なお、(d90−d10)/d50の望ましい範囲は、1〜5である。
【0019】
窒化珪素粉末のd10は、0.1〜1μmの範囲であることが望ましい。d10が0.1μm未満の場合には、細かな粒子が相対的に多くなるため焼結時に異常な粒成長を引き起こしやすくなり、その結果、窒化珪素質焼結体に粗大な空孔が生じるおそれがある。一方で、d10が1μmを超えると、相対的に粒径が大きな窒化珪素粒子の割合が多くなるため、得られた窒化珪素質焼結体の強度が低下するおそれがある。さらに、窒化珪素粉末のd90は、0.8〜10μmの範囲であることが望ましい。d90が0.8μm未満の場合には、d50との差異が小さく、窒化珪素粒子の粒径が揃いすぎているため所望の充填密度を得ることができず、粗大な空孔が生じるおそれがある。一方で、d90が10μmを超えると、相対的に粒径が大きな窒化珪素粒子の割合が多くなるため、得られた窒化珪素質焼結体の強度が低下するおそれがある。なお、上記の理由から、窒化珪素粉末のd10およびd90の更に望ましい範囲は、各々、0.1〜0.5μm、0.9〜8μmである。
【0020】
窒化珪素粉末の酸素含有量は、焼結性および窒化珪素質焼結体の機械的特性等を考慮し、5質量%以下、より望ましく0.2〜3質量%であることが望ましい。加えて、同様な観点から、窒化珪素粉末中に占めるα型窒化珪素粒子の割合であるα化率は60%以上、望ましくは70%以上であることが望ましい。さらに、所望の機械的特性を有する窒化珪素質焼結体を低コストで製造するために、窒化珪素粉末または焼結助剤は、Fe成分をFe元素換算で5〜3000ppm含有してもよい。
【0021】
次いで、窒化珪素粉末に添加される焼結助剤について説明する。Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を少なくとも含む焼結助剤は、一般的に、これらの元素の酸化物、酸窒化物、炭化物、窒化物、珪化物、硼化物等の化合物として各々Mgを含む粉末(以下、Mg粉末と言う場合がある。)および希土類元素を含む粉末(以下、RE粉末と言う場合がある。)の形態で原料粉末に添加される。なお、焼結助剤として用いる希土類元素(RE)は特に限定されるものではないが、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの何れの元素でも好適に用いることができるが、これらの中でもY、Ce、Sm、Dy、Er、Yb、Luが機械的特性の面から望ましく、特に緻密化の観点からYが最も望ましい。なお、Mg粉末およびRE粉末(以下、両者を総し焼結助剤粉末と言う場合がある。)の平均粒径(d50)は0.1〜3μmとすることが好ましい。
【0022】
さらに、上記焼結助剤以外に、窒化珪素質焼結体の機械的特性を向上させる添加物として、金属元素(M)を原料粉末に添加してもよい。この金属元素(M)も、一般的には、酸化物、酸窒化物、炭化物、窒化物、珪化物、硼化物等の化合物として粉末(以下、金属元素を含む粉末をM粉末と言う場合がある。)の形態で原料粉末に添加される。なお、金属元素(M)は特に限定されるものではないが、例えばハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、およびクロム(Cr)から選ばれる少なくとも1種の金属元素Mを使用することができ、特に機械的強度の面からTiを使用することが望ましい。また、M粉末の平均粒径(d50)は0.1〜3μmとすることが好ましい。
【0023】
次いで、窒化珪素粉末、焼結助剤粉末および必要に応じM粉末に、有機バインダーおよび溶媒を添加し、これらを例えば窒化珪素製のボールを使用したボールミル等の混合装置で混合して原料スラリーを形成する。なお、溶媒中における窒化珪素粉末および焼結助剤粉末の分散性を向上するため、分散剤を添加してもよい。ここで、Mgおよび希土類元素は、酸化物換算で2〜20質量%含むように窒化珪素粉末および焼結助剤粉末を配合するが、Mgおよび希土類元素(RE)を酸化物換算した場合の比(RExOy/MgO)が0.05〜5の範囲となるようMg粉末およびRE粉末を調整する。これにより所定の大きさの窒化珪素粒子が所望のアスペクト比(L/S)を有する窒化珪素質焼結体を得ることができる。
【0024】
なお、Mgおよび希土類元素(RE)は、各々、酸化物換算で0.1〜15質量%、0.1〜15質量%となるよう調整することが望ましい。さらに、M粉末を添加する場合には、金属元素(M)を酸化物換算して0.01〜15質量%となるよう調整し、配合することが望ましい。
【0025】
上記有機バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、アクリル樹脂などの高分子化合物を単独でまたは2種以上混合して使用することができる。また、溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの有機溶媒や水(純水)などを単独でまたは2種以上混合して使用することができる。そして、原料スラリーは、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末の総量100質量部に対し、上記有機バインダーを0.1〜20質量部、上記溶媒を30〜1000質量部添加し、混合することにより得ることができる。
【0026】
[造粒工程]
上記原料調整工程で得られた原料スラリーを例えばスプレードライヤー等の造粒装置で乾燥し、造粒粉を形成する。
【0027】
上記スプレードライヤー等で形成された造粒粉を例えば篩分け等で分級し、所定の粒度分布を有する造粒粉を形成する。ここで、造粒粉の平均粒径(d50)は10〜300μmであることが望ましい。平均粒径(d50)が10μm未満の場合には、造粒粉の流動性が悪く成形型への充填率が低下するとともに、成形圧力の伝達性が低下するため、所望の密度を有する成形体を得ることができない場合がある。一方で、300μmを超える場合には、成形工程において造粒粉を成形型等に充填した際、造粒粉間に形成される気孔も相対的に大きくなり、その結果、粗大な空孔が成形体に発生し、ひいては得られた窒化珪素質焼結体に粗大な空孔が残存するおそれがある。同様な観点から、造粒粉の平均粒径(d50)の望ましい範囲は、20〜150μmである。
【0028】
[成形工程〜脱脂工程]
上記造粒工程で形成された造粒粉を使用し、成形体を形成する(成形工程)。成形方法は、乾式成形および湿式成形いずれでもよく、例えばプレス成型法やCIP(冷間静水圧プレス)等の乾式成形で成形を行うことができる。そして、成形工程で形成された成形体を大気雰囲気中で加熱し、成形体に含まれる有機バインダーを除去する(脱脂工程)。なお、必要に応じ、脱脂工程後の成形体を加工し、製品である摺動部材に近似した形状に成形体を調整しておいてもよい。
【0029】
[焼成工程]
上記脱脂工程を経た成形体を焼成炉で焼成し、窒化珪素質焼結体を形成する。成形体を焼成して窒化珪素質焼結体を形成する焼成工程は、図1に示すように、加熱域である第1〜第6温度域P1〜P6と第6温度域P6の後に配置された冷却域P7を備えた温度プロファイルPで温度を制御しつつ各温度域P1〜P6で炉内雰囲気を制御し、窒化珪素質焼結体を形成する。ここで、図1において、横軸は経過時間であり、縦軸は焼成炉の加熱温度であり、炉内雰囲気はグラフの下に表示している。また、各温度域P1〜P6を示す線図は図1において水平な直線として描かれているが、許容される温度範囲の中で各温度域P1〜P6の温度は変化してもよい。以下、温度プロファイルPの各温度域P1〜P7について、詳細に説明する。
【0030】
[第1温度域]
第1温度域P1は、真空雰囲気中において、好ましくは一定の温度で保持しつつ成形体を加熱し、成形体に含まれるガス化しうる成分を揮発させ、第2温度域P2以降において成形体に残存するガスに起因する粗大な気孔の発生を抑制するための温度域である。なお、脱ガス効果を高めるためには、50Pa以下の圧力下で成形体を加熱することが好ましく、さらに、次述する第2温度域P2においても真空雰囲気で成形体を加熱してもよい。加えて、同様な観点から、第1温度域P1の温度t1の範囲は、800〜1400℃とすることが好ましく、加熱時間は0.5〜10時間であることが好ましい。なお、脱脂効果を高めるためには、室温から第1温度域P1に至る昇温速度は、0.2〜20℃/時間とすることが好ましい。
【0031】
[第2温度域]
第2温度域P2は、次述する第3温度域P3の前段において、好ましくは一定の温度で保持しつつ成形体を所定の温度範囲で一定時間加熱することで、成形体の温度を全体として均一化させる温度域である。ここで、上記第1の温度域P1の加熱温度t1を超える温度に設定される第2温度域P2の温度t2の範囲は、焼結助剤成分として添加されたMg化合物の液相化が開始する温度H1を基準として設定する。具体的には、その温度範囲は、(H1−300℃)〜(H1−10℃)の範囲とすることが望ましい。上記温度H1は窒化珪素粉末および焼結助剤粉末の粒度・組成等により異なるが、例えば焼結助剤がMgOである場合には、上記温度H1は1200〜1700℃の範囲となる。さらに、成形体の温度の均一化のためには、第2温度域P2の加熱時間は、0.5時間以上とし、第1温度域P1から第2温度域P2までの昇温速度は、0.2〜20℃/時間とすることが好ましい。なお、加熱時間の上限は特に限定されないが、工業生産上コストの面から5時間以下とすることが望ましい。また、第2温度域P2の雰囲気は、窒素雰囲気でもよいが、上記したように第1温度域P1に引き続く真空雰囲気とすることが好ましい。
【0032】
[第3温度域]
第3温度域P3は、焼結助剤成分として添加されたMg化合物およびRE化合物とが窒化珪素粒子の表面のSiO等と反応して液相化を開始する温度に設定された温度域である。すなわち、第3温度域P3では、上記第2温度域P2で加熱された成形体を昇温し、その後、Mg化合物およびRE化合物の液相化が開始した状態において、好ましくは一定の温度で保持しつつ成形体を所定の温度範囲で一定時間加熱することで、Mg化合物およびRE化合物の液相化を成形体全体として均一に進行させる。ここで、上記のように第2温度域P2で成形体は均一に加熱されており、その効果も重畳し、Mg化合物およびRE化合物の液相化の均一性が更に高められる。
【0033】
上記第2の温度域P2の加熱温度t2を超える温度に設定される第3温度域P3の温度t3の範囲は、上記液相化が開始する温度H1を基準として設定するが、その温度範囲は、H1〜(H1+200℃)の範囲とすることが望ましい。さらに、液相化の均一化のためには、第3温度域P3の加熱時間は、0.5〜10時間の範囲とし、第2温度域P2から第3温度域P3までの昇温速度は、0.2〜20℃/時間とすることが好ましい。
【0034】
第3温度域P3の雰囲気は、脱ガスの効果を得るためには真空雰囲気としてもよいが、窒化珪素粒子の分解を低減するとともに、蒸気圧が低い液相化したMg化合物の蒸発を抑制し、粗大な気孔の発生を防止するためには、窒素雰囲気とすることが好ましい。なお、加圧条件は、下記する第4〜第6温度域P4〜P6も含め0.2〜10MPaとすることが好ましく、より好ましくは1〜10MPaである。その理由は、後述する。
【0035】
[第4温度域]
第4温度域P4は、液相化したMg化合物およびRE化合物の液相中において、窒化珪素粒子の再配列を促進させる温度域である。この第4温度域P4を設けることにより、液相中で収縮する成形体において、次述する第5温度域P5および第6温度域P6における窒化珪素粒子の粒成長の前に、窒化珪素粒子が液相中で再配列が促進され、その結果、得られる窒化珪素質焼結体の緻密性が高まり、粗大な空孔が少なく、さらに空孔の分散性が向上した窒化珪素質焼結体が形成される。
【0036】
ここで、上記第3の温度域P3の加熱温度t3を超える温度に設定される第4温度域P4の温度t4の範囲は、加熱された成形体における、単位温度当たりの収縮率の変化量である収縮速度(単位:%/℃)が最も高くなる温度H2を基準として設定するが、その温度範囲は、(H2−50℃)〜(H2+50℃)の範囲とすることが望ましく、好ましくは一定の温度に保持しつつ加熱することが望ましい。さらに、窒化珪素粒子の再配列を充分にならしめるためには、第4温度域P4の加熱時間は、1〜10時間の範囲とし、第3温度域P3から第4温度域P4までの昇温速度は、0.2〜20℃/時間とすることが好ましい。また、上記第3温度域P3と同様な理由から、第4温度域P4の雰囲気も、窒素雰囲気とすることが望ましい。また、加圧条件は、0.2〜10MPaとすることが好ましく、より好ましくは1〜10MPaである。
【0037】
上記加熱された成形体の収縮速度が最も高くなる温度H2は、本発明において、次の方法で求めるものとする。この温度H2は、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末の仕様または配合割合で変化するため、概念図である図2に示すように、第3温度域P3〜第6温度域P6の温度範囲t3〜t6の範囲を10分割し、温度ta~tiを選択する。そして、上記第1温度域P1および第2温度域P2は省略したうえで、0.2MPaの窒素雰囲気中にて選択した温度ta~tiまで成形体の加熱を行い、その後炉冷し、得られた成形体の線収縮率を測定する。そして、図2に示すように、加熱温度と収縮率との相関をプロットした線図のうち傾斜が最も大きな点の温度をH2とする。また、上記H2は、線膨張計の使用可能温度が上記t3〜t6の範囲内であれば、線膨張計を用いて加熱温度と収縮率との相関をプロットした線図を作成し傾斜が最も大きな点の温度をH2としても良い。
【0038】
[第5温度域]
第5温度域P5は、加熱域の最終段階である次述する第6温度域P6の前段において、望ましくは一定の温度を保持しつつ所定の温度範囲で所定時間、成形体を加熱し、成形体の収縮が全体的に均一となるよう配置された温度域である。この第5温度域P5を、第6温度域P6前段に設けることにより、より緻密化され粗大な気孔の少ない窒化珪素質焼結体を形成することができる。
【0039】
ここで、上記第4の温度域P4の加熱温度t4を超える温度に設定される第5温度域P5の温度t5の範囲は、加熱された成形体の収縮率が90%となる温度H3を基準として設定するが、その温度範囲は、(H3−200℃)〜(H3+200℃)の範囲とすることが望ましく、好ましくは一定の温度に保持しつつ加熱することが望ましい。なお、加熱された成形体の収縮率が90%となる温度H3は、上記第4温度域P4と同様にして求めることができる。さらに、成形体の収縮の均一化のためには、第5温度域P5の加熱時間は、0.1〜10時間の範囲とし、第4温度域P4から第5温度域P5までの昇温速度は、0.2〜20℃/時間とすることが好ましい。また、上記と同様に、第5温度域P5の雰囲気も、窒素雰囲気とすることが望ましい。加圧条件は、0.2〜10MPaとすることが好ましく、より好ましくは1〜10MPaである。
【0040】
[第6温度域]
加熱域の最終段階である第6温度域P6は、窒化珪素粒子のβ相への相転移が完了し、緻密化が完了する温度域である。ここで、上記第1の温度域P5の加熱温度t5を超える温度に設定される第6温度域P6における加熱温度t6および加熱時間は、得られる窒化珪素質焼結体の含む窒化珪素粒子の大きさやアスペクト比(L/S)または焼結助剤の揮発による空孔の形成など窒化珪素質焼結体の特性への影響を考慮して適宜設定されるが、加熱温度は、1500〜2000℃の範囲、加熱時間は0.1〜20時間の範囲とすることが好ましく、さらに、一定の温度で保持しつつ加熱することが好ましい。上記と同様に、第6温度域P6の雰囲気も、加圧された窒素雰囲気とすることが望ましい。加圧条件は、0.2〜10MPaとすることが好ましく、より好ましくは1〜10MPaである。
【0041】
[冷却域]
冷却域P7は、加熱域P1〜P6を経て形成された液相を固化して粒界相を形成する温度領域である。なお、焼結助剤成分の結晶化を抑制し、ガラス相を主体とした粒界相を構成するため、冷却域P7の冷却速度は、0.2℃/時間以上とすることが好ましい。これにより、窒化珪素質焼結体中に存在する粒界相中の面積率で97%以上をガラス相とすることができ、機械的特性、特に耐摩耗性に優れた窒化珪素質焼結体を得ることができる。
【0042】
上記実施態様に係る窒化珪素質焼結体の製造方法によれば、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素を酸化物換算で0.5〜20質量%含む窒化珪素質焼結体であって、窒化珪素粒子と、前記Mgおよび少なくとも1種の希土類元素を含む粒界相を有し、Mgおよび希土類元素(RE)の各々を酸化物換算した場合の比(RExOy/MgO)が、0.05〜5の範囲であり、加工された表面において任意に設定した20×20μmの領域に存在する窒化珪素粒子の長軸長Lの平均値が5.0μm以下、短軸長Sに対する長軸長Lの比(L/S)の平均値が5以下であり、加工された表面において任意に設定した300×300μmの領域において、個々の面積が0.01μm以上の気孔を面積比で0.01〜5%含み、前記気孔のうち最も隣接する気孔同士の重心間距離の平均値が5μm以上であり、当該重心間距離の変動係数が1.5以下である、窒化珪素質焼結体を得ることができる。以下、本発明に係る窒化珪素質焼結体の製造方法によって得ることのできる窒化珪素質焼結体の具体的な構成について説明する。
【0043】
上記製造方法で得られる窒化珪素質焼結体は、Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を酸化物換算で0.5〜20質量%含み、窒化珪素粒子と、前記Mgおよび少なくとも1種の希土類元素(RE)を含む粒界相を有している。
【0044】
ここで、窒化珪素質焼結体とは、窒化珪素を主成分とする焼結体である。摺動部材を構成するに有効に利用可能な窒化珪素質焼結体は、相対密度が90%以上、好ましくは95%以上の高密度な焼結体であることが望ましい。相対密度が90%未満の場合には、高い摺動特性が要求される摺動部材として好ましくない。
【0045】
焼結助剤成分としてのマグネシウム(Mg)および希土類元素(RE)は、粒界相を構成する主成分である。なお、窒化珪素質焼結体におけるMgおよび希土類元素(RE)の含有率の総量は、酸化物換算で0.5〜20質量%の範囲とする。総含有率が0.5%未満の場合には、窒化珪素粒子を結合する機能を果たす粒界相の割合が少なく、緻密化が不十分となり相対密度が低下するため、窒化珪素質焼結体の強度が低下し、これを摺動部材として適用した場合に、所望の耐剥離性を満足することができない。一方で、20%以上の場合には、窒化珪素粒子に対し粒界相の割合が多くなるために窒化珪素質焼結体の強度や硬度が低下し、これを摺動部材として適用した場合に、同様に、所望の耐剥離性を満足することができない。なお、Mgの含有量は0.1〜15質量%の範囲であることが好ましい。さらに、窒化珪素質焼結体中における希土類元素(RE)の含有量は0.1〜15質量%の範囲であることが好ましい。
【0046】
さらに、下記する窒化珪素粒子のアスペクト比は、Mgおよび希土類元素(RE)の各々を酸化物換算した場合の比(RExOy/MgO)は、0.05〜5の範囲とすることで具現される。
【0047】
そして、上記製造方法で得られた窒化珪素質焼結体は、加工した表面において任意に設定した20×20μmの領域に存在する窒化珪素粒子の長軸長Lの平均値が5.0μm以下、短軸長Sに対する長軸長Lの比(L/S)の平均値が5以下である。このように、本発明に係る窒化珪素質焼結体は、上記範囲の長軸長Lおよびアスペクト比(L/S)の平均値を有する窒化珪素粒子で構成されている。これにより、この窒化珪素質焼結体は、その中に存在する気孔の大きさを低減するとともに、気孔の分散状態を均一化して隣接した気孔の発生を抑制している。
【0048】
すなわち、上記窒化珪素質焼結体は、加工された表面で任意に設定した300×300μmの領域に存在する気孔のうち、個々の面積が0.01μm以上の気孔を面積比で0.01〜5%含んでいる。この面積を有する気孔は、当該窒化珪素質焼結体を摺動部材として適用した場合に、破壊の起点となる可能性のある気孔であり、その面積比を5%以下とすることにより窒化珪素質焼結体の強度が確保される。なお、気孔の面積比が0.01%未満の窒化珪素質焼結体を得るためには、高密度化のためにHIP処理等操作が必要となり、窒化珪素質焼結体の製造コストが高くなる。さらに、焼成工程において高圧で加圧した場合には気孔の密集部が形成されやすく、この密集部が見かけ上一つの大きな空孔として振る舞うため、密集部が存在する窒化珪素焼結体を摺動部材として使用した場合には、この密集部を起点としてクラックが生じ、剥離が生じる場合がある。
【0049】
さらに、上記窒化珪素質焼結体は、その気孔のうち最も隣接する気孔同士の重心間距離の平均値が5μm以上であり、当該重心間距離の変動係数が1.5以下である。本発明に係る窒化珪素質焼結体は、このように破壊の起点となりうる大きさの気孔が、一定の距離離散している状態で均一に分布している。その結果、この窒化珪素質焼結体を摺動部材として適用した場合に、隣接した気孔が見かけ上一つの大きな気孔を構成して破壊の起点となることを抑制し、摺動部材として適用した場合の耐剥離性を確保することが可能となる。なお、変動係数は、最も隣接する気孔同士の重心間距離の標準偏差をその平均値で除することにより求めることができる。
【0050】
加えて、上記製造方法で得られる窒化珪素質焼結体は、上記範囲の長軸長およびアスペクト比の平均値を有する窒化珪素粒子を主体として構成されているので、この窒化珪素質焼結体の表面には凸凹が少なくなる。その結果、本発明に係る窒化珪素質焼結体を摺動部材として適用した場合には、当該摺動部材と摺動する相手材の損耗が抑制される。
【0051】
本発明において、加工された表面における300×300μmの領域に存在する気孔の面積および当該領域における面積率ならびに隣接した気孔同士の重心間距離は、以下の手順で測定するものとする。まず、窒化珪素質焼結体が焼結肌である場合には、その表面を#180のダイヤモンド砥石で研削して焼結肌を除去し、加工肌とする。次いで、JISB0601に規定される表面粗さ(Rz)が0.07μm以下となるよう、当該加工肌を平均粒径が1μm以下のダイヤモンド砥粒でラップ加工する。そのラップ加工後の表面の任意の3箇所をSEMまたはレーザ顕微鏡で撮像する。次いで、撮像した写真の300×300μmの領域に存在する気孔の像を特定し、画像処理によりその面積を求め、面積が0.01μm以上の気孔の当該領域における面積比を求める。そして、画像処理によりそれらの気孔の重心を求め、最も隣接した気孔同士の重心間距離を算出し、その平均値および標準偏差を求める。なお、上記300×300μmの領域に一部が含まれる気孔は、確認の対象から除外するものとする。
【0052】
また、本発明において、上記窒化珪素粒子の長軸長L、そのアスペクト比(L/S)は、以下の手順で測定するものとする。まず、上記ラップ加工後の表面をプラズマエッチングし、その後当該プラズマエッチングした表面を、窒化珪素質焼結体の表面の任意の3箇所をSEMまたはレーザ顕微鏡で撮像する。撮像した写真の20×20μmの領域に存在する窒化珪素粒子の長軸長Lと短軸長Sを測定する。なお、長軸長Lとは、窒化珪素粒子のうち最も長さの長い部分の大きさを指し、短軸長Sとは、窒化珪素粒子のうち最も長さの短い部分の大きさを指す。そして、これらの測定結果から窒化珪素粒子の長軸長Lおよびアスペクト比(L/S)の平均値を求める。ここで、上記20×20μmの領域に周縁に一部が含まれる窒化珪素粒子は、確認の対象から除外するものとする。
【0053】
なお、耐剥離性を更に向上し、相手材の損耗性を更に低減するためには、加工された表面において任意に設定した20×20μmの領域において、窒化珪素粒子の長軸長Lが1.0〜4.0μm、かつアスペクト比(L/S)が4以下である窒化珪素粒子を50〜150個含み、加工された表面において任意に設定した300×300μmの領域において、上記気孔の面積比が0.01〜2%であり、上記重心間距離の平均値が5〜425μmであり、当該重心間距離の変動係数が0.5〜1.5であるであることが望ましい。
【0054】
さらに加えて、上記気孔の相互間の重心間距離5μm未満である密集部が存在する場合には、当該密集部の包囲円の直径が5〜40μmであることが好ましい。このように相互間の重心間距離が5μm未満である気孔の密集部が窒化珪素質焼結体の表面に存在すると、隣接した気孔が見かけ上一つの気孔を構成し、当該窒化珪素質焼結体を摺動部材として適用した場合に、密集部が破壊の起点となる可能性が高い。そこで、本発明に係る窒化珪素質焼結体では、上記密集部を包囲する包囲円の直径を40μm以下とすることにより、当該密集部が破壊の起点となることを抑制し、窒化珪素質焼結体の強度をより向上させている。なお、密集部の包囲円とは、密集部を構成する気孔を包含する最小直径の円のことと定義する。また、密集部の直径の下限は特に限定されないが、5μm未満とする場合には、高密度化のためにHIP処理等操作が必要となり、上記したように製造コストが高くなるとともに耐剥離性が低下する。そのため、密集部の直径の下限は、5μm以上とすることが好ましい。
【0055】
さらに、上記窒化珪素質焼結体は、鉄(Fe)成分をFe元素換算で5〜3000ppm含んでいてもよい。ここでFe成分とは、酸化鉄や窒化鉄などFe化合物など、元素としてFeを含む成分のことを指す。このFe成分は、通常、原料としての窒化珪素粉末または焼結助剤粉末に含まれる不純物に由来するが、必要に応じ添加してもよい。ここで、Fe成分がFe元素換算で3ppm未満の場合には、高純度の窒化珪素粉末または焼結助剤粉末が必要となり、窒化珪素質焼結体の製造コストが高くなる。一方で、3000ppmを超える場合には、窒化珪素質焼結体の所望の機械的特性を満足することができず、これを摺動部材として適用した場合に摺動特性を具現することができないおそれがある。ここで、窒化珪素質焼結体に含まれているFe成分は、破壊の起点となる偏析部を形成しやすく、摺動部材として適用した場合の耐剥離性を低下させる。しかしながら、下記説明するように、本発明に係る窒化珪素質焼結体では、当該偏析部の大きさおよび分散状態を制御してそれらを最適化することにより、耐剥離性の低下を抑制している。
【0056】
すなわち、このFe成分を含む窒化珪素質焼結体においては、加工された表面で任意に設定した200×200μmの測定領域において、最大径が0.1〜10μmのFe偏析部を5〜50個含み、隣接するFe偏析部間の重心間距離の平均値が5μm以上であり、当該重心間距離の変動係数を1.2以下としている。ここでFe偏析部の最大径が0.1μm未満、またはその個数が5個未満の場合には、高純度な窒化珪素原料粉末または焼結助剤粉末を使用する必要があり、コスト的に不利となる。一方で、Fe偏析部の最大径が20μmを超えまたはその個数が50個を超える場合には、強度が低下し、Fe偏析部を起点とした破壊が生じやすくなる。
【0057】
なお、上記Fe成分の含有量は以下の手順で測定できる。まず、窒化珪素質焼結体を微細に粉砕して粉状にした後、フッ酸などを加えて加圧容器中で180℃程度に加熱して溶液化する。次いで、硫酸でフッ酸などを洗い落とした後、この溶液に対してICP発光分析を行ってFe成分の含有量を求める。
【0058】
ここで、上記したように本発明に係る製造方法で製造された窒化珪素質焼結体は、上記範囲の長軸長およびアスペクト比の平均値を有する窒化珪素粒子を主体として構成されているため、Fe偏析部も、一定の距離離散した状態で均一に配置されることとなる。すなわち、この好ましい態様の窒化珪素質焼結体においては、加工された表面で任意に設定した200×200μmの測定領域において、Fe偏析部のうち最も隣接したFe偏析部間の重心間距離の平均値が5μm以上、当該重心間距離の変動係数が1.2以下となっている。これにより、隣接したFe偏析部が見かけ上一つのFe偏析部となって破壊の起点となることを抑制し、その結果、より耐剥離性の高い窒化珪素質焼結体が構成される。
【0059】
さらに、上記窒化珪素質焼結体は、上記Mg、希土類元素およびFe成分以外に、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、およびクロム(Cr)から選ばれる少なくとも1種の金属元素(M)を、金属元素の単体または金属元素の化合物として含んでいてもよい。これらの金属成分(M)は、窒化珪素質焼結体の機械的特性を向上させる添加物として任意に添加される。
【0060】
ここで、金属成分(M)は任意に添加される元素であるが、上記M化合物を窒化珪素質焼結体に分散させることで、窒化珪素質焼結体の機械的強度を向上せしめ、これを摺動部材として適用した場合の摺動特性を向上させることが可能となる。上記金属元素(M)のうち、特に機械的特性の観点からチタン(Ti)を適用することが好ましい。なお、窒化珪素質焼結体中における金属元素Mの含有量は金属元素(M)を酸化物換算して0.01〜15質量%の範囲とすることが好ましい。金属元素Mの含有量が15質量%を超えると、機械的強度が低下するおそれがある。一方で、0.01質量%未満の場合には、上記機械的強度の向上の効果を得ることができない可能性がある。
【0061】
このように金属元素(M)を酸化物換算して0.01〜15質量%含有させた場合、金属成分(M)を主成分として偏析した偏析部(以下、M偏析部と言う場合がある。)が生成する場合があり、このM偏析部を起点として窒化珪素質焼結体の破壊が生じるおそれがある。そこで、好ましい態様の窒化珪素質焼結体においては、加工された表面で任意に設定した40×40μmの領域において、最大径が5μm以下のM偏析部を50個以下含み、M偏析部のうち最も隣接するM偏析部間の重心間距離の平均値が2μm以上であり、当該重心間距離の変動係数が1.5以下としている。ここで、M偏析部の最大径が5μmを超えまたはその個数が50個を超える場合には、強度が低下し、M偏析部を起点とした破壊が生じやすい。一方で、M偏析部の最大径および個数下限は、特に限定されないが、M偏析部の最大径が0.05μm未満の窒化珪素質焼結体を製造するためには、非常に粒子径の細かい原料粉末の添加や当該原料粉末の窒化珪素粉末中における分散性を向上させる必要があり、工業生産上コスト的に不利となる。したがって、M偏析部の最大径の下限は、各々0.05μmであることが望ましい。また、M偏析部の個数下限は、同様な理由から2個であることが望ましい。
【0062】
本発明において、上記Fe偏析部およびM偏析部の最大径および個数等は、以下の手順で確認するものとする。まず、窒化珪素質焼結体の加工された表面において、任意に設定した200×200μmまたは40×40μmの領域についてEPMAで面分析し、当該面分析の画像に基づきFeおよび所定の金属元素(M)の分布を確認する。この面分析の画像に存在するFe偏析部およびM偏析部のうち所定の範囲の最大径を有するものの個数を測定する。なお、Fe偏析部およびM偏析部の最大径とは、個々のFe偏析部およびM偏析部の最大直径を指す。次いで、上記範囲の最大径を有するFe偏析部およびM偏析部のみを特定し、画像処理によりその重心を求め、最も隣接したFe偏析部およびM偏析部同士の重心間距離を算出し、その平均値および変動係数を求める。ここで、上記領域の周縁に一部が含まれるFe偏析部およびM偏析部は、確認の対象から除外するものとする。
【0063】
本発明に係る製造方法で製造された窒化珪素質焼結体において、窒化珪素粒子同士の粒界に存在する相は、ガラス相が主体であることが好ましい。具体的には、窒化珪素粒子同士の粒界に存在する結晶相の割合を面積率で3%未満とし、97%以上をガラス相とすることが好ましい。窒化珪素粒子同士の粒界に存在する相を主にガラス相で構成することによって、摺動部材としての耐剥離性を高めることができる。ここで、本発明において結晶相とは、Fe成分や金属元素(M)を主成分として含み、ガラス相とは別個に窒化珪素粒子間の粒界に存在するものを指す。
【0064】
なお、本発明において、上記窒化珪素粒子同士の粒界に存在するガラス相の面積率は、以下手順で求めるものとする。まず、加工された表面をX線回折法で解析し、結晶相の組成を同定する。次いで、上記のように組成を同定した結晶相を構成する元素について、200×200μmの領域をEPMAで面分析し、その面分析の画像に基づき当該元素の分布を確認する。この面分析の結果に基づき、当該元素を有する結晶相の面積を求める。また、上記200×200μmの領域をSEMで撮像し、粒界に存在するガラス相および結晶相の面積を求める。両者の合計面積から上記結晶相の面積を減じ、合計面積で除した値(100分率)をガラス相の面積割合(%)とする。
【0065】
[実施例]
以下、本発明について、その実施例1〜24および比較例1〜6に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、実施例1〜24に限定されない。
【0066】
まず、実施例1〜12および比較例1〜6について説明する。実施例1〜12および比較例1〜6では、以下説明する方法で窒化珪素質焼結体を製作し、その窒化珪素粒子および空孔等の状態ならびに耐剥離性および相手材の損耗性の評価を行った。
【0067】
各実施例および比較例ともに、表1に示すd10〜d90及び(d90−d10)/d50、酸素量1.5%、Fe含有率300ppm、α化率97%の窒化珪素粉末に対し、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y)、酸化セシウム(Ce)または酸化エルビウム(Er)を各々粉末の状態で表1に示す割合で添加した原料粉末100質量部に対して、有機バインダーとしてポリビニルブチラールを2質量部、有機溶剤としてエチルアルコールを100質量部、樹脂で内張りされた容器に入れ、窒化珪素ボールを用いてボールミルで24時間混合して原料スラリーを作製した。なお、粉末として添加した、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y)、酸化セシウム(Ce)および酸化エルビウム(Er)の各粉末の平均粒径(d50)は、1.2μmとした。
【0068】
各実施例および比較例ともに、得られた原料スラリーの粘度を調整した後、スプレードライヤーで乾燥し、造粒粉を形成した。得られた造粒粉を篩分けで分級し、平均粒径(d50)が80μmの造粒粉となるよう調整した。そして、当該造粒粉を200MPaの成形圧力でプレス成形し、直径80mm、厚さ6mmの円板状の成形体を多数作成した。
【0069】
上記成形体を大気中にて700℃、12時間加熱して脱脂処理した後、図1に示す温度および雰囲気パターンで焼結炉内において焼結し、直径が64〜66mm、厚みが4.8〜5mmの範囲の窒化珪素質焼結体からなる試験片を多数作成した。なお、第2温度域P2・第4温度域P4・第5温度域P5の温度t2・t4・t5および各々の加熱時間、ならびに窒素雰囲気とした第2温度域P2〜第6温度域の炉内圧力は表1に示すとおり設定した。上記以外の焼結条件は、下記のとおりである。なお、各温度域間の昇温速度は、いずれも2.0℃/時間とした。
(1)第1温度域P1 温度t1:900℃、加熱時間:2時間、雰囲気:真空、圧力:10Pa
(2)第2温度域P2 温度t2および加熱時間:表1に示す
(3)第3温度域P3 温度t3:1300℃、加熱時間:1時間
(4)第4温度域P4 温度t4:表1に示す、加熱時間:2時間
(5)第5温度域P5 温度t5および加熱時間:表1に示す
(6)第6温度域P6 温度t6:1850℃、加熱時間:3時間
(7)第7温度域P7 冷却速度:0.5℃/時間
【0070】
各実施例および比較例の試験片の表面および裏面を#180のダイヤモンド砥石で厚みが4.2mmとなるよう研削して焼結肌を除去し、加工肌とし、次いで、JISB0601に規定される表面粗さ(Rz)が0.07μm以下となるよう、当該加工肌を平均粒径が1μm以下のダイヤモンド砥粒でラップ加工した。そのラップ加工後の表面の任意の3箇所をSEMまたはレーザ顕微鏡で撮像し、撮像した写真の300×300μmの領域に存在する気孔の像を特定し、画像処理によりその面積を求め、面積が0.01μm以上の気孔の当該領域における面積比を求めた。そして、画像処理によりそれらの気孔の重心を求め、最も隣接した気孔同士の重心間距離を算出し、その平均値および標準偏差ならびに密集部が存在する場合にはその包囲円の直径を求めた。なお、上記300×300μmの領域に一部が含まれる気孔は、確認の対象から除外した。その結果を表2に示す。
【0071】
さらに、上記ラップ加工後の試験片の表面をプラズマエッチングし、その後当該プラズマエッチングした表面を、窒化珪素質焼結体の表面の任意の3箇所をSEMまたはレーザ顕微鏡で撮像し、撮像した写真の20×20μmの領域に存在する窒化珪素粒子の長軸長Lと短軸長Sを測定した。そして、これらの測定結果から窒化珪素粒子の長軸長Lおよびアスペクト比(L/S)の平均値、および長軸長Lが1.0〜4.0μm、アスペクト比(L/S)が4以下である所定の窒化珪素粒子の個数を求めた。なお、上記20×20μmの領域に一部が含まれる窒化珪素粒子は、確認の対象から除外した。その結果を表2に示す。
【0072】
本発明において、表2に示す耐剥離性および相手材の損耗性は、図3に示す試験装置10を用いて確認した。この試験装置10は、装置本体11内に配置された円板状の試験片12と、この試験片12上面に配置された複数の転動鋼球13と、この転動鋼球13の上部に配置されたガイド板14と、このガイド板14に接続された駆動回転軸15と、上記転動鋼球13の配置間隔を規制する保持器16とを備えて構成される。装置本体11内には、転動部を潤滑するための潤滑油17を充填した。上記転動鋼球13およびガイド板14は、日本工業規格(JIS G 4805)で規定される高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で形成した。上記潤滑油17としては、パラフィン系潤滑油(40℃での粘度:67.2mm2/S)を使用した。なお、試験片12は窒化珪素粒子や気孔の測定用の試験片と同じものを使用し、上記窒化珪素粒子や気孔の測定前の加工と同一の条件で加工した。
【0073】
本実施例および比較例に係る円板状の試験片の耐剥離性および相手材の損耗度を評価する際の条件は下記の通りとした。試験片12の上面に設定した直径40mmの軌道上に直径が9.35mmである3個のSUJ2製転動鋼球を相手材として配置し、パラフィン系潤滑油の油浴潤滑条件下で、この転動鋼球13に39.2MPaの荷重を印加した状態で回転数1200rpmの条件下で回転させた。そして、耐剥離性については、試験片12の表面が剥離するまでの時間を求め、100時間未満の場合には「×」、100時間以上・700時間未満の場合には「△」、700時間以上・2000時間未満の場合には「○」、2000時間以上の場合には「◎」と評価した。各実施例および比較例の耐剥離性の評価結果を表2に示す。
【0074】
また、本実施例および比較例に係る相手材の損耗性を評価する際の条件は、上記と耐剥離性の評価方法と同様な条件下で、転動鋼球13を500時間回転させた。相手材の損耗性については、次のようにして評価した。試験前後の転動鋼球の直径をマイクロメーターで10箇所測定する。そして、試験前の転動鋼球で得られた10箇所の直径の平均値D1とし、試験後の転動鋼球で得られた10箇所の直径のうち最も小さな直径を最小直径D2としたとき、損耗度(%)=((D1−D2)/D1×100、として相手材の損耗性を評価した。ここで、損耗度が、0.01%以上の場合を「×」、0.005%以上・0.01%未満の場合を「△」、0.001%以上・0.005%未満の場合を「◎」、0.001%未満の場合を「◎」と評価した。各実施例および比較例の相手材の損耗性の評価結果を表2に示す。なお、100時間未満で、試験片に剥離が生じたものについては、相手材の摩耗性は確認しなかった。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
実施例1〜12によれば、窒化珪素粒子の粒度分布、Mgおよび希土類元素の配合比および焼成工程における圧力を本発明の範囲内で製造することにより、得られた窒化珪素質焼結体である試験片の加工された表面において任意に設定した20×20μmの領域に存在する窒化珪素粒子の長軸長Lの平均値が5.0μm以下、短軸長Sに対する長軸長Lの比(L/S)の平均値が5以下であり、加工された表面において任意に設定した300×300μmの領域において、個々の面積が0.01μm以上の気孔を面積比で0.01〜5%含み、その気孔のうち最も隣接する気孔同士の重心間距離の平均値が5μm以上であり、当該重心間距離の変動係数が1.5以下である窒化珪素質焼結体の窒化珪素焼結体を得ることができた。その結果、その窒化珪素質焼結体の耐剥離性および相手材の損耗性は、いずれも良好であった。
【0078】
さらに、実施例1〜12では、いずれもMgおよび希土類元素(RE)の各々を酸化物換算した場合の比(RExOy/MgO)が、0.05〜5の範囲となり、加えて、加工された表面において任意に設定した20×20μmの領域において、長軸長Lが1.0〜4.0μm、かつアスペクト比(L/S)が4以下である窒化珪素粒子を50〜150個含み、加工された表面において任意に設定した300×300μmの領域において、上記気孔の面積比が0.01〜2%であり、上記重心間距離の平均値が5〜425μmであり、当該重心間距離の変動係数が0.5〜1.5となった。
【0079】
一方で、窒化珪素粒子の粒度分布、Mgおよび希土類元素の配合比および焼成工程における圧力が本発明の範囲外で製造した比較例1〜6では、得られた窒化珪素質焼結体である試験片の窒化珪素粒子の形態(長軸長・アスペクト比)または空孔の面積比・分散状態が悪く、もって耐剥離性および相手材の損耗性は、実施例1〜12に対し低い評価となった。
【0080】
次いで、実施例13〜24について説明する。実施例13〜24では、原料である窒化珪素粉末のFe含有率の水準を変化させた点以外は、上記実施例1〜12と基本的には同一の製造方法で窒化珪素質焼結体を作成し、その窒化珪素粒子およびFe偏析部の発生状態ならびに耐剥離性および相手材の損耗性の評価を行った。
【0081】
各実施例および比較例ともに、表3に示すd10〜d90及び(d90−d10)/d50およびFe含有率の窒化珪素粉末に対し、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y)を各々粉末の状態で表2に示す割合で添加した原料粉末を準備し、上記実施例1〜12と同一条件で原料スラリーを作製した。そして、この原料スラリーを用いて、上記実施例1〜12と同一条件で、直径80mm、厚さ6mmの円板状の成形体を作成し、この成形体を焼結することにより窒化珪素質焼結体からなる試験片を多数作成した。
【0082】
上記得られた試験片について、上記実施例1〜12と同様に加工し、その後、その窒化珪素粒子の長軸長Lおよび短軸長Sならびにアスペクト比(L/S)および気孔の分布を求め、さらに当該試験片を用い耐剥離性および相手材の損耗性を評価した。なお、気孔の分布(面積比等)は、表4に示すように、窒化珪素粒子の粒度分布、Mgおよび希土類元素の配合比および焼成工程における圧力が実施例1〜12と同レベルの場合と、ほぼ同様であった。
【0083】
ここで、実施例13〜24では、Fe偏析部の分布を確認した。実施例1〜12と同様に加工された試験片の表面において、任意に設定した200×200μmの領域についてEPMAで面分析し、当該面分析の画像に基づきFeの分布を確認した。そして、この面分析の画像に存在するFe偏析部のうち最大径が0.1〜10μmの個数を測定した。次いで、上記範囲の最大径を有するFe偏析部のみを特定し、画像処理によりその重心を求め、最も隣接したFe偏析部同士の重心間距離を算出し、その平均値および変動係数を求めた。その結果を表4に示す。なお、上記200×200μmの領域に一部が含まれるFe偏析部は、確認の対象から除外した。
【0084】
実施例13〜24によれば、Fe成分を3000ppm以下含み、当該Fe成分が偏析したFe偏析部を有する場合であっても、加工された表面において任意に設定した200×200μmの領域において、最大径が0.1〜10μmのFe偏析部を5〜50個含み、Fe偏析部のうち最も隣接する偏析部間の重心間距離の平均値が5μm以上であり、当該重心間距離の変動係数が1.2以下となるよう組織制御された窒化珪素焼結体を得ることができた。その結果、その窒化珪素質焼結体の耐剥離性および相手材の損耗性は、いずれも良好であった。
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【符号の説明】
【0087】
10 試験装置
11 装置本体
12 試験片
13 転動鋼球
14 ガイド板
15 駆動回転軸
16 保持器
17 潤滑油
図1
図2
図3