特許第6037240号(P6037240)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037240
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20161128BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C04B35/00 P
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-189514(P2014-189514)
(22)【出願日】2014年9月18日
(65)【公開番号】特開2016-60940(P2016-60940A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2015年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福島 英子
(72)【発明者】
【氏名】上坂 修治郎
(72)【発明者】
【氏名】玉田 悠
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−060352(JP,A)
【文献】 特開2001−081511(JP,A)
【文献】 特開2001−059170(JP,A)
【文献】 特開2008−174829(JP,A)
【文献】 特開2009−221589(JP,A)
【文献】 特開2000−345326(JP,A)
【文献】 特開2001−164358(JP,A)
【文献】 特開平11−61395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C04B 35/453
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットであって、前記酸化物焼結体の相対密度をX(%)とし、前記スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面の十点平均粗さ(RZJIS)をY(μm)としたときに、X≧90%、Y≧3.50μm、および、−1.03X+103≦Y≦−1.54X+154であり、かつ、前記被スパッタリング領域の表面の算術的平均粗さ(Ra)をY1(μm)としたときに、Y1≧0.50μm、および、−0.203X+20.16≦Y1≦−0.304X+30.24であるスパッタリングターゲット。
【請求項2】
酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットであって、前記酸化物焼結体の相対密度をX(%)とし、前記スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面の十点平均粗さ(RZJIS)をY(μm)としたときに、X≧90%、Y≧3.50μm、および、−1.03X+103≦Y≦−1.54X+154であり、かつ、前記酸化物焼結体は、Zn、Sn、O、および、Alを含み、(Alの質量)/(酸化物焼結体の全質量)×100(%)で表されるAlの含有比率が0.005%〜0.2%であるスパッタリングターゲット。
【請求項3】
X≦97%である、請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパッタリングターゲットに関し、特に薄膜トランジスタの酸化物半導体膜などに適用されるスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化物焼結体からなる各種の酸化物半導体は、様々な分野で使用されている。例えば、薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という。)で駆動する方式の液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置では、TFTのチャネル層に非晶質シリコン膜、あるいは結晶質シリコン膜を採用したものが主流である。しかし、例えば特許文献1に開示されるIn(インジウム)とGa(ガリウム)とZn(亜鉛)とO(酸素)とを含む酸化物半導体膜(以下、「InGaZnO薄膜」という。)は、優れたTFT特性を有するとして実用化されつつある。このInGaZnO薄膜に含まれるInやGaは、日本ではレアメタル備蓄対象鉱種に指定される希少かつ高価な金属である。
【0003】
近年、例えば特許文献2に開示されるZn(亜鉛)とSn(錫)とO(酸素)とを含む酸化物半導体膜(以下、「ZTO薄膜」という。)は、希少かつ高価なInやGaを含まないので注目されつつある。InGaZnO薄膜やZTO薄膜をスパッタリング法によって成膜(以下、「スパッタリング成膜」ということがある。)する場合、当該薄膜に必要な成分組成と実質的に同等な成分組成を有する酸化物焼結体をスパッタリングターゲット(以下、「ターゲット」ということがある。)に用いることが一般的に行われている。
【0004】
酸化物の薄膜を形成する技術の一つであるスパッタリング法は、イオンや原子またはクラスターを物質(ターゲット)の表面に衝突させて、その物質の表面を削る(あるいは飛ばす)ことにより、その物質を構成する成分を基板などの表面上に堆積させる成膜法である。例えば、ZTO薄膜を製造する場合、アルゴンガスおよび酸素ガスを含むスパッタガスの雰囲気中で、当該ZTO薄膜に必要な成分組成を有するスパッタリングターゲット(以下、「ZTOターゲット」という。)が用いられる。スパッタリングによってZTOターゲットから飛ばされた物質の構成成分が被成膜面上に堆積して形成された堆積物が、ZTOターゲットと実質的に同等な成分組成を有するZTO薄膜となる。同様に、InGaZnO薄膜を製造する場合、当該InGaZnO薄膜に必要な成分組成を有するスパッタリングターゲットが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−62316号公報
【特許文献2】特開2012−180247号公報
【特許文献3】特開平5−148635号公報
【特許文献4】特開2001−164358号公報
【特許文献5】特開2009−221589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スパッタリング成膜の量産プロセスでは、チャンバー内に配置するターゲットが1つの場合や複数の場合があり、いずれにおいても膜厚の高速かつ高精度な制御が求められる。そのために1乃至複数のターゲットを対象として、スパッタリングレート(成膜速度)を高めるとともに、その不安定性を排除することが必要である。スパッタリングレートは、スパッタリング中、諸条件(スパッタ条件)、例えば、ターゲットの表面性状、スパッタガスの流量や圧力、およびチャンバー内の温度や清浄度などの変動により、動的に変化する。従って、量産プロセスのスパッタリングレートを決める場合、スパッタリングの初期段階のスパッタリングレートを予測される量産プロセスのスパッタリングレートよりも小さく設定し、かつ、低出力のスパッタリングから始める立ち上げ試験を行うことが一般的である。この場合、スパッタリング中に、例えば、放電状態、スパッタガスの流量および圧力、ターゲットの表面性状、およびチャンバー汚染の有無などの変化を確認しながら種々のスパッタ条件を調整し、1乃至複数のターゲットを使用する量産プロセスに適合するスパッタリングレートおよびスパッタ条件を選定する。
【0007】
上述した初期段階のスパッタリングレートは、ターゲットの被スパッタリング領域の表面の微細なキズおよび凹凸の影響を受ける。このため、被スパッタリング領域の表面性状によっては、スパッタリングの開始直後にアーキング(異常放電)が発生しやすい。また、スパッタリング中、ターゲットの被スパッタリング領域の表面は徐々に粗化されるが、アーキングが発生した領域は発生していない領域よりも大きく粗化されて放電しやすい表面性状に変化し、アーキングを繰り返すようになる。アーキングは、スパッタリングレートの安定性を損ね、ターゲットの構成成分の被成膜面上への堆積および成長を不安定にするため、アーキングが多発するようになると成膜プロセスが不安定になる。つまり、被スパッタリング領域の表面の異常な目減り、飛散するパーティクル(微粒状物)の増大、あるいはチャンバー内の汚染など、種々の不具合が発生する。
【0008】
アーキングの抑制には、ターゲットに用いる酸化物焼結体の焼結密度(相対密度)を高めることが有効である。また、ターゲットの被スパッタリング領域の表面粗さをより小さくしてアーキングの発生を抑制しようとする提案がある。例えば、ITOと呼ばれるIn(インジウム)およびSn(錫)を含む酸化物焼結体からなるターゲットの被スパッタリング領域の表面の算術平均粗さ(Ra)を0.5μm以下とする提案(特許文献3)、さらに、Raを0.1μm以下とする提案(特許文献4)がある。また、ITOや、AZOと呼ばれるAl(アルミニウム)およびZn(亜鉛)を含む酸化物焼結体の2μm以下とする結晶粒径(d)とターゲットの被スパッタリング領域の表面粗さとの関係に着目し、Raを0.05μm以上0.2dμm以下(d=2μmのとき0.2d=0.4μm)として、または、最大高さ粗さを0.4μm以上1.8dμm以下(d=2μmのとき1.8d=3.6μm)として、アーキングの発生を抑制しようとする提案(特許文献5)がある。
【0009】
しかし、ターゲットの被スパッタリング領域の表面粗さが小さくなる程、被スパッタリング領域の表面の微細なキズおよび凹凸の大きさが相対的に拡大されてスパッタリングへの影響がより強くなるため、キズおよび凹凸の山頂付近から発生する放電が増える。こうした放電状態を回避する目的で、スパッタリングの初期段階から高出力のスパッタリングを行った場合、ターゲットが瞬時に大負荷を受けて割れることがあるとともに、上述したスパッタ条件の動的な変化が大きくなって調整が難しくなる。あるいは、アーキングやターゲット割れを抑止するために、ターゲットの被スパッタリング領域の表面を適度にクリーニングするスパッタリング(プレスパッタリング)を行う場合もある。いずれにしても、量産プロセスに適合するスパッタリングレートの安定化の調整に要する時間が増大し、スパッタリング成膜プロセスの調整作業時の効率の低下や、使用するターゲットの消耗量の増大をもたらす。
【0010】
本発明の目的は、量産プロセスに適合するスパッタリングレートの調整を容易にし、スパッタリング成膜プロセスの調整作業時あるいは量産時の効率の向上や、スパッタリングの初期段階のターゲットの消耗量の低減が期待できる、スパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットの「スパッタリング中に、ターゲットの被スパッタリング領域の表面性状の違いで放電のしやすさや放電状態が変化し、スパッタリングレートが変化する。」こと、および「スパッタリングレートが安定かつ均一化しているときの放電状態は安定している。」ことについて検討し、未使用のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを開始した際に、ターゲットの被スパッタリング領域の表面の微細なキズおよび凹凸が比較的に大きい場合に放電しやすいことに着目した。そして、スパッタリングの初期段階で、被スパッタリング領域の放電状態がより安定かつ均一化しやすいターゲットの表面性状を見出し、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明、酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットであって、前記酸化物焼結体の焼結密度(相対密度)をX(%)とし、前記スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面の十点平均粗さ(RZJIS)をY(μm)としたときに、X≧90%、Y≧3.50μm、および、−1.03X+103≦Y≦−1.54X+154であり、かつ、前記被スパッタリング領域の表面の算術的平均粗さ(Ra)をY1(μm)としたときに、Y1≧0.50μm、および、−0.203X+20.16≦Y1≦−0.304X+30.24である。この場合、X≦97%であってよい。
【0014】
また、本発明は、酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットであって、前記酸化物焼結体が、Zn、Sn、O、および、Alを含み、(Alの質量)/(酸化物焼結体の全質量)×100(%)で表されるAlの含有比率が0.005%〜0.2%であり、前記酸化物焼結体の相対密度をX(%)とし、前記スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面の十点平均粗さ(RZJIS)をY(μm)としたときに、X≧90%、Y≧3.50μm、および、−1.03X+103≦Y≦−1.54X+154である。この場合、X≦97%であってよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタリングの初期段階で被スパッタリング領域の放電状態が安定かつ均一化しやすい。よって、上述した立ち上げ試験によって量産プロセスに適合するスパッタリングレートおよびスパッタ条件の調整を行う場合、その調整が容易になる。また、本発明の構成を有するターゲットを用いることにより、量産プロセスに適合するスパッタ条件に基づいてスパッタリング成膜を行う際に、スパッタリングレートが安定した状態になるまでの時間を短縮することができる。このため、スパッタリング成膜プロセスの調整作業時および量産時の効率の向上や、前記調整に使用するターゲットの消耗量の低減に寄与できる、
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試験TG1および試験TG2の測定値に基づく焼結密度(相対密度)と十点平均粗さ(RZJIS)との関係を示す図(グラフ)である。
図2】試験TG1および試験TG2の測定値に基づく焼結密度(相対密度)と算術的平均粗さ(Ra)との関係を示す図(グラフ)である。
図3】焼結密度が約94%であるZTOターゲットの被スパッタリング領域の表面のSEM像である。
図4】焼結密度が約84%であるZTOターゲットの被スパッタリング領域の表面のSEM像である。
図5】本発明(請求項1)において規定するスパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面粗さ(RZJIS)の範囲を示す図である。
図6】本発明(請求項2)において規定するスパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面粗さ(Ra)の範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、スパッタリングの初期段階のターゲットの被スパッタリング領域の表面性状を、スパッタリングレートが安定しているときの被スパッタリング領域の表面性状と実質的に同等にするという技術思想を、表面粗さの観点から具現することによって完成された。初めからスパッタリングレートが安定しているときの被スパッタリング領域の表面性状を有しているターゲットを使用することにより、スパッタリングの開始後、放電状態をより短時間で安定かつ均一化することができる。従って、初期段階であってもスパッタリングレートが早期に安定化しやすくなるため、スパッタリングレートの調整時間が短縮でき、調整に使用するターゲットの消耗量の低減ができる。
【0018】
本発明スパッタリングターゲットは、酸化物焼結体からなり、前記酸化物焼結体の焼結密度(相対密度)をX(%)とし、そのターゲットの被スパッタリング領域の表面の十点平均粗さ(RZJIS)をY(μm)としたときに、
(1)X≧90%、
(2)Y≧3.50μm、
(3)−1.03X+103≦Y≦−1.54X+154
を同時に満足する。なお、十点平均粗さ(RZJIS)は、JIS−B0601:2013の表C2を参照する。この構成により、ターゲットの被スパッタリング領域の表面性状を、スパッタリングレートが安定しているときの被スパッタリング領域の表面性状と実質的に同等にすることができる。
【0019】
また、本発明スパッタリングターゲットは、前記(1)(2)(3)を同時に満足することに加えて、前記被スパッタリング領域の表面の算術的平均粗さ(Ra)をY1(μm)としたときに、
(4)Y1≧0.50μm、
(5)−0.203X+20.16≦Y1≦−0.304X+30.24
を同時に満足する。
【0020】
以下、本発明のスパッタリングターゲットについて、上述した十点平均粗さ(RZJIS)および算術的平均粗さ(Ra)の選定理由を含め、より詳しく説明する。なお、後述する焼結密度は特に断りのない限り相対密度である。ここでいう相対密度は、酸化物焼結体の実体の質量を実体の寸法から求めた体積で除した値(実体密度)と、酸化物焼結体の焼結組織中の酸化物が個々に独立して存在していると仮定して使用原料の配合組成から求めた値(理論密度)との比を百分率で表した値である。つまり、相対密度(%)=実体密度/理論密度×100である。理論密度を求める場合、例えば酸化物換算で使用原料の全質量に対する配合比が1質量%以下の元素など、他元素に比べると微量であって、相対密度に及ぼす影響が無視できると推測される元素については考慮しなくてもよい。
【0021】
本発明のスパッタリングターゲットは酸化物焼結体からなる。酸化物焼結体の製造方法としては、例えば、加圧成形、射出成形、押し出し成形、鋳込み成形、テープ成形、ゲルキャスティング成形など、幾つか知られている。例えば、好適に微細化された各種の酸化物粉末およびバインダなどからなる成形用組成物を作製し、その成形用組成物を用いて上述したような方法により成形体を作製し、その成形体からバインダなどを除去するとともに酸化物粉末を焼結することにより、酸化物焼結体を作製することができる。粉末の焼結組織である酸化物焼結体は、隣接する複数の粒子の間隙が焼結後に空孔となって内部に残ることが多い。例えば、ITOやAZOよりも焼結性が劣るとされているZTOターゲットに用いる酸化物焼結体(以下、「ZTO焼結体」という。)の場合、粒子間による空孔に加え、焼結中にZnが蒸発することによって空孔が形成されやすい。従って、空孔を埋めるために例えば微粒子の配合比率を増した粒度分布を有する粉末原料を使用するなどしたとしても、実質的に99%を超える焼結密度を得ることは困難と考えられる。
【0022】
酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットは、切削などの機械的加工によって所定の外観形状を有するターゲットを作製し、機械的研磨によって所定の表面粗さを有するように被スパッタリング領域の表面を仕上げることが一般的である。酸化物焼結体の内部に多数の微細な空孔が存在している場合、その内部に存在する多数の微細な空孔が、ターゲットの被スパッタリング領域の仕上がり表面において、多数の微細な凹面(窪み)になる。こうしたターゲットの被スパッタリング領域の表面の多数の微細な凹面(窪み)の分布および形態を、適正に表すことができる表面性状パラメータを見出すことにより、ターゲットの被スパッタリング領域の表面性状を数値化できるはずである。こうした観点から、表面性状を数値化するためのパラメータとして粗さパラメータに着目した。
【0023】
表面性状を表す粗さパラメータは、JIS−B0601:2013に規定されている、算術的平均粗さ(Ra)や最大高さ粗さ(Rz)および十点平均粗さ(RZJIS)が一般的である。本発明においては、酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面性状を最も的確に表すことができる粗さパラメータとして、十点平均粗さ(RZJIS)を選定した。また、酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の全体的な表面性状(表面粗さ)の水準を最も的確に表すことができる粗さパラメータとして、算術的平均粗さ(Ra)を選定した。
【0024】
酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットの分野では、特許文献3〜5に開示されるように、算術的平均粗さ(Ra)が使用される場合が多い。Ra値は、JIS−B0601:2013における所定の式(記載略)によって求められる値であり、粗さ曲線の基準長さにおける山高さおよび谷深さが一様に平均化された値である。つまり、Ra値は、測定表面におけるキズおよび凹凸の大きさを一様に平均化した値といえる。従って、ターゲットの被スパッタリング領域の表面に存在するキズおよび凹凸をより的確に表したい場合、Raは測定表面に存在する一つひとつのキズおよび凹凸の山高さおよび谷深さの影響を受け難いため不十分である。なお、測定表面の全体的な表面粗さ(表面性状)の水準を的確に表したい場合、Raは好適である。
【0025】
また、最大高さ粗さ(Rz)は、特許文献5に開示されるように、Raとともに使用される場合がある。Rz値は、粗さ曲線の基準長さにおける最も高い山頂と最も低い谷底との縦倍率の方向の距離である。つまり、Rz値は、測定表面に存在するキズおよび凹凸の山頂と谷底との標高差の最大値であり、山高さおよび谷深さの影響を強く受ける。そのため、Rz値は、粗さ曲線すなわち測定表面に一つの異常なキズまたは凹凸が存在していた場合、その一つの異常なキズまたは凹凸が被測定面の表面性状を代表してしまう値といえる。従って、ターゲットの被スパッタリング領域の表面に存在するキズおよび凹凸をより的確に表したい場合、Rzは不適切である。
【0026】
また、十点平均粗さ(RZJIS)は、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(山高さ)の絶対値の平均と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高(谷深さ)の絶対値の平均との和である。つまり、RZJIS値は、測定表面に存在するキズおよび凹凸の山高さおよび谷深さの影響を強すぎず弱すぎない範囲で含む値といえる。従って、RZJISは、粗さ曲線すなわち測定表面に一つの異常なキズまたは凹凸が存在していた場合であっても、ターゲットの被スパッタリング領域の表面性状を適切に表すことができる。
【0027】
上述した観点から、本発明においては、ターゲットの被スパッタリング領域の表面性状を最も的確に表す粗さパラメータとして十点平均粗さ(RZJIS)を、また、全体的な表面性状(表面粗さ)の水準を最も的確に表す粗さパラメータとして算術的平均粗さ(Ra)を、それぞれ選定した。
【0028】
次に、本発明における焼結密度X(%)と表面粗さ(十点平均粗さ(RZJIS)Y(μm)および算術的平均粗さ(Ra)Y1(μm))との関係について、Zn、Sn、O、および微量のAl(アルミニウム)を含む、酸化物焼結体(ZTO焼結体)からなるスパッタリングターゲット(ZTOターゲット)を具体例に挙げて説明する。但し、本発明はその主旨を越えない限り、ZTOターゲットに限定されない。
【0029】
(ZTOターゲットの作製)
微量のAlを含むZTOターゲットを製造する場合、Znを含む酸化物原料およびSnを含む酸化物原料に、Alを含む酸化物原料またはAlおよびZnを含む酸化物原料を混合するとよい。具体的には、AlやSiなどの微量元素を実質的に含有していない高純度の粉末であって、Znを含む酸化亜鉛粉末(以下、「ZnO粉末」という。)およびSnを含む酸化スズ粉末(以下、「SnO粉末」という。)を準備した。また、Znに所定量のAlを含むAl含有酸化亜鉛粉末(以下、「AZO粉末」という。)を準備した。
【0030】
ZnO粉末とSnO粉末とを混合し、十分に混練し、ZnO粉末およびSnO粉末の混合粉末を作製した。次いで、前記混合粉末とAZO粉末とを混合し、十分に混練し、その後にバインダなどを混合し、さらに十分に混練し、Zn、Sn、O、およびAlを含む第1の成形用粉末を作製した。この際に、AZO粉末の配合量が、酸化物焼結体の全質量に対してAlが0.1質量%の含有比率であるように調整した。最終的に前記第1の成形用粉末に含まれるZnO粉末とSnO粉末の配合量は、酸化物焼結体〔(ZnO)z(SnO)1−z〕としたときにモル比がz=0.7であった。
【0031】
上述した方法で作製した前記第1の成形用粉末を用いて成形体を成形し、その成形体からバインダなどを除去して粉末を焼結し、第1のZTO焼結体を作製した。次いで、第1のZTO焼結体を所定の形状に加工し、一般的に用いられるエアーランダム研磨(#80)によって被スパッタリング領域の表面(放電面)を仕上げ、試験評価用の直径が50mmで厚みが5mmの複数個の第1のZTOターゲット(以下、「試験TG1」という。)を得た。
【0032】
また、試験TG1と同じ製造プロセスにより、焼結密度を高めるように諸条件を調整し、試験TG1と同様な成分組成を有する第2のZTO焼結体を作製した。次いで、第2のZTO焼結体を試験TG1と同じ形状に加工し、同様にエアーランダム研磨(#80)によって被スパッタリング領域の表面(放電面)を仕上げ、試験評価用の直径が50mmで厚みが5mmの複数個の第2のZTOターゲット(以下、「試験TG2」という。)を得た。
【0033】
次に、上述した方法で作製した試験TG1および試験TG2を用いて、上述した立ち上げ試験(スパッタリング)を、それぞれのスパッタリングレートが安定した状態になるまで行う。立ち上げ試験には、例えば、一般的に量産に使用されるような大型のDCまたはRFマグネトロンスパッタリング装置を使用してよいし、一般的に研究用に使用されるような小型のスパッタリング装置を使用してよい。また、スパッタリングガスは、例えば、アルゴンガス、酸素ガス、または、これらの混合ガスなどを使用してよい。
【0034】
実際の試験TG1および試験TG2を用いた立ち上げ試験は、一般的に使用されている小型のスパッタリング装置(キヤノンアネルバ株式会社製:E−200S、圧力:0.1〜1.0Pa、電極間距離:40〜100mm)を使用し、スパッタガスにはアルゴンと酸素の混合ガスを使用して行った。また、この立ち上げ試験に先立ち、立ち上げ試験に用いるものとは別の試験TG1および試験TG2を用いて、前記装置によるスパッタリングレート値を測定した。このとき、スパッタリングレート値を測定するために行ったスパッタリングは、1回の測定当たり約20分を要した。このようにして試験TG1および試験TG2のぞれぞれについて、スパッタリングレートが安定した状態になったときのスパッタ条件を得た。
【0035】
続いて、前記装置で、円形状の試験TG1および試験TG2を用いて、スパッタリングの開始から上述のようにして得たスパッタ条件でスパッタリング試験を行った。ここでは、このスパッタリング試験の初期段階、つまり、スパッタリングの開始からスパッタリングレートが安定した状態になるまでの範囲を、前記装置による試験TG1および試験TG2を用いた立ち上げ試験という。立ち上げ試験後の放電面上には、中心部や外周部でない放射方向の中間部に、概ね環状の消耗部が認められた。この立ち上げ試験の前後に、試験TG1および試験TG2の被スパッタリング領域の表面(放電面)の十点平均粗さ(RZJIS)および算術的平均粗さ(Ra)を測定した。表1に、その結果を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示す焼結密度(相対密度)、RZJIS値、およびRa値は、いずれも平均値である。相対密度の平均値は、試験TG1および試験TG2を3つずつ準備し、上述した実体密度と理論密度の関係から相対密度を求め、それぞれ求めた3つの値を単純平均して求めた。また、立ち上げ試験前の粗さの平均値は、被スパッタリング領域の表面上で直交する2方向において1方向当たり重複しない3箇所を測定し、合計6箇所で得た6つの値を単純平均して求めた。立ち上げ試験後の粗さの平均値は、前記消耗部の底部付近と、その底部から放電面の中心および外周に向かって傾斜する内側傾斜面および外側外傾斜面において、それぞれ重複しない2箇所で測定し、合計6箇所で得た6つの値を単純平均して求めた。なお、前記底部では放電面の接線方向に測定し、内側傾斜面および外側傾斜面では放電面の放射方向に測定した。また、この立ち上げ試験後の状態は、スパッタリングレートが安定した状態である。この安定状態を得るまでには、量産用の大型装置でない研究用の小型装置であることから比較的に短時間であったが、2分のプレスパッタリング時間を含めて、試験TG1では約7分、試験TG2では約7分30秒の時間を要した。
【0038】
また、表1に示す各値に基づいて、焼結密度とRZJISおよびRaとの関係をグラフ化し、図1および図2に示す。破線で示す直線L0(RZJIS)およびL0(Ra)は、立ち上げ試験後のRZJIS値およびRa値の上を通過する直線である。実線で示す直線(RZJIS=3.50μm)および直線(Ra=0.50μm)は、一般的に用いられるエアーランダム研磨(#80)による仕上げ表面のRZJIS値およびRa値のバラツキおよび最小値に基づいて容易に推定できた、被スパッタリング領域の仕上がり表面のRZJISおよびRaの限界域を示す直線である。
【0039】
図中、直線L0(RZJIS)およびL0(Ra)はいずれも、右下がりの傾向、すなわち焼結密度が高くなるとスパッタリングレートが安定した状態での表面粗さが小さくなる傾向を示している。従って、ターゲットの被スパッタリング領域の仕上がり表面のRZJISおよびRaの限界域を示す直線(RZJIS=3.50μm)および直線(Ra=0.50μm)との関係において、酸化物焼結体の焼結密度が高い場合、立ち上げ試験後のRZJIS値およびRa値が立ち上げ試験前のRZJIS値およびRa値に近づいて行くと推定される。立ち上げ試験の前後のRZJIS値およびRa値の差は、焼結密度が97%〜98%に達するようになると小さくなる傾向がある。
【0040】
ここで、被スパッタリング領域の仕上がり表面の性状の違いを明確に示すために、焼結密度の差が約10%であるZTO焼結体からなるZTOターゲットの被スパッタリング領域の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察したときの写像を、図3および図4に示す。焼結密度は、図3の場合が約94%であり、図4の場合が約84%である。なお、観察した表面は、エアーランダム研磨(#80)を行った後にダイヤモンド砥粒(1μm)による研磨を行っている。図3の焼結密度が90%以上で高い場合と、図4の焼結密度が90%未満で約10%低い場合とを比べれば、両者の表面性状の違いが視覚的にも容易に確認できる。
【0041】
実際に、エアーランダム研磨(#80)およびダイヤモンド砥粒(1μm)による研磨によって表面の仕上げを行った試験TG1および試験TG2の被スパッタリング領域の仕上がり表面には、多数の微細な研磨キズおよび焼結粒子間の凹面(窪み)が残っていた。仮に、図4に示すような大小様々な凹面(窪み)がターゲットの被スパッタリング領域の仕上がり表面に存在していた場合、その表面性状の影響を強く受けるはずである。例えば、粗さ測定の部位によってはRZJIS値およびRa値のバラツキが大きくなるため、そのようなRZJIS値およびRa値に基づいて被スパッタリング領域の仕上がり表面の表面性状を的確に表すことは好ましくない。また、スパッタリングの開始直後からアーキングが多発する可能性が大きい。
【0042】
(1)X≧90%
以上述べたことより、スパッタリングターゲットに用いる酸化物焼結体の焼結密度(相対密度)が90%以上である場合、本発明の作用効果を奏し、特に有用になる。焼結密度が90%未満の場合、図4に示す焼結密度が約84%の場合のように、ターゲットの被スパッタリング領域の表面における焼結粒子間の凹面(窪み)が増大するため、その表面性状に起因するアーキング、パーティクルの飛散、およびターゲットの消耗量の増大などの不具合を発生しやすいし、表面性状の数値化の精度が低下しやすい。また、ZTO焼結体など多くの酸化物焼結体では、上述したように実際に焼結密度を100%に作製することは困難である。従って、焼結密度X(%)の上限は、後述する(2)および(3)の条件との関係で決定すればよく、例えば算術的には後述する図5中に示す直線(RZJIS=3.50μm)と直線L2(RZJIS)の交点におけるX=97.7%に決定することができる。また、実際の作製可能性および量産時のバラツキの程度などの安定性を考慮すれば、焼結密度X(%)の上限として好ましくは97%であり、より好ましくは96%乃至96.5%である。
【0043】
(2)Y≧3.50μm
スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面の十点平均粗さ(RZJIS)をY(μm)とする。この場合、図1に実線で示す直線(RZJIS=3.50μm)はY=3.50μmと表すことができる。ここで、3.50μm(RZJIS)は、酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットにおいて、実用上、しばしば用いられるエアーランダム研磨(#80)による仕上げ表面のRZJIS値のバラツキおよび最小値に基づいて得た値である。X≧90%である酸化物焼結体は、その酸化物焼結体を構成する酸化物粉末の粒形状、平均粒径、および粒度分布などの性状に少しばかりの違いがあった場合でも、通常のエアーランダム研磨(#80)による仕上げ表面のRZJIS値には実用的に影響を及ぼすほどの違いはない。
【0044】
また、図1に破線で示す直線L0(RZJIS)は、右下がりの傾向を示している。つまり、焼結密度Xが大きくなると、スパッタリングレートが安定した状態での表面の十点平均粗さ(RZJIS)Y(μm)が小さくなる傾向を示している。従って、直線L0(RZJIS)と直線Y=3.50との関係において、酸化物焼結体の焼結密度X(%)が大きくなると、立ち上げ試験後のRZJIS値が立ち上げ試験前のRZJIS値に次第に近づくと推定できる。また、図1に示すRZJIS値はいずれも平均値であるため、立ち上げ試験および測定におけるバラツキを考慮したとき、立ち上げ試験の前後のRZJIS値は、焼結密度V(%)の上限として好ましいとしたX=97%を超えた辺り(算術的には上述した97.7%)で同程度になり、それ以下では立ち上げ試験後が大きくなると推定できる。
【0045】
以上述べたことより、スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の仕上がり表面のRZJIS値は、少なくとも上限として好ましいとした焼結密度X(%)が97%以下の場合に、本発明の作用効果を奏し、特に有用になるように決定するとよい。従って、本発明においては、スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の仕上がり表面のRZJIS値が、直線(RZJIS=3.50μm)を含み、その直線よりも上側の領域内であるとよいため、RZJIS値の下限を3.50μmとし、Y≧3.50μmとする。なお、量産時、一般的に使用されているエアーランダム研磨(#80)により、RZJIS値が3.50μm未満(Y<3.50μm)の仕上げ面を作製することは容易でなく、作業効率の低下などの不都合が起こることがある。
【0046】
(3)−1.03X+103≦Y≦−1.54X+154
前記(3)によって規定される領域を図1上に重ねて、図5に示す。
前記(3)は、Y≧−1.03X+103…式<1>およびY≦−1.54X+154…式<2>を、同時に満足することを意味する。式<1>は、Y(μm)の取り得る値が、Y=−1.03X+103、すなわち図5中に実線で示す直線L1(RZJIS)上を含み、その線上よりも上側の領域に存在することを意味する。式<2>は、Y(μm)の取り得る値が、Y=−1.54X+154、すなわち図5中に実線で示す直線L2(RZJIS)上を含み、その線上よりも下側の領域に存在することを意味する。従って、前記(3)は、Y(μm)の取り得る値が、直線L1(RZJIS)および直線L2(RZJIS)の線上を含み、直線L1(RZJIS)の上側、かつ、直線L2(RZJIS)の下側の領域内に存在することを意味する。
【0047】
図5中、直線L1(RZJIS)および直線L2(RZJIS)は、任意のX(%)の値に対するY(μm)の値を示す直線L0(RZJIS)よりも小さい値(YMIN)および大きい値(YMAX)を示す。その大小の振れ幅(範囲)は±約25%である。例えば、「○」で示すX=92%の場合、YMIN=8.24μmでY(μm)の値よりも約18%小さく、YMAX=12.32μmでY(μm)の値よりも約22%大きい。同様に、X=96%の場合、YMIN=4.12μmでY(μm)の値よりも約16%小さく、YMAX=6.16μmでY(μm)の値よりも約25%大きい。なお、直線L1(RZJIS)および直線L2(RZJIS)の直線L0(RZJIS)から乖離する振れ幅の割合(±約25%)は、実用的に、特に量産時に、管理が容易であることから狙いとして定めた比率であり、粗さ測定のバラツキや計算上の丸め誤差などが含まれるものの実用的に影響を及ぼすことがないと考える。
【0048】
本発明者の検討によれば、前記(3)を満足しなかった場合、スパッタリングの開始後に放電状態が安定かつ均一化するまでに時間を要することが分った。具体的には、Y<−1.03X+103の場合、ターゲットの被スパッタリング領域の表面が滑らか過ぎるため、被スパッタリング領域の表面が消耗して好適に粗化されるまでに時間を要することがある。Y>−1.54X+154の場合、ターゲットの被スパッタリング領域の表面が粗過ぎるため、スパッタリングの開始直後からアーキングが発生しやすいことに加え、被スパッタリング領域の表面が消耗して好適に平滑化されるまでに時間を要することがある。
【0049】
以上述べたことより、本発明のスパッタリングターゲットは、被スパッタリング領域の表面のRZJIS値を前記(3)を満足するようにして、同時に、前記(1)X≧90%および前記(2)Y≧3.50μmを満足するようにする。図5において、焼結密度が90%の線、直線L1(RZJIS)、直線L2(RZJIS)、および直線(RZJIS=3.50μm)によって囲まれた領域の内側が、それぞれの線上を含め、前記(1)(2)(3)の条件を同時に満足する領域である。スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面を、図5中に示す領域内の表面粗さ(RZJIS)に仕上げることは容易である。例えば、一般的に行われている上述したエアーランダム研磨などの従来の仕上げ研磨手段において、所望のRZJIS値に適するように研磨剤の種類や大きさを選定すればよい。
【0050】
本発明においては、前記(1)(2)(3)を同時に満足することに加えて、上述したように、スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面の算術的平均粗さ(Ra)をY1(μm)としたときに、前記(4)Y1≧0.50μmおよび前記(5)−0.203X+20.16≦Y1≦−0.304X+30.24を同時に満足していてよい。
【0051】
(4)Y1≧0.50μm
スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面の算術的平均粗さ(Ra)をY1(μm)とする。この場合、図2に実線で示す直線(Ra=0.50μm)はY1=0.50と表すことができる。ここで、0.50μm(Ra)は、上述したRZJISの場合と同様に、エアーランダム研磨(#80)による仕上げ表面のRa値のバラツキおよび最小値に基づいて得た値である。X≧90%である酸化物焼結体は、RZJISの場合で述べたように、エアーランダム研磨(#80)による仕上げ表面のRa値には実用的に影響を及ぼすほどの違いがない。
【0052】
また、図2に破線で示す直線L0(Ra)は、右下がりの傾向を示している。つまり、焼結密度X(%)が大きくなると、スパッタリングレートが安定した状態での表面の算術的平均粗さ(Ra)Y1(μm)が小さくなる傾向を示している。従って、直線L0(Ra)と直線Y1=0.50との関係において、酸化物焼結体の焼結密度X(%)が大きくなると、上述したRZJIS値の場合と同様に、立ち上げ試験後のRa値が立ち上げ試験前のRa値に次第に近づくと推定できる。また、図2に示すRa値はいずれも平均値であるため、立ち上げ試験および測定におけるバラツキを考慮したとき、立ち上げ試験の前後のRa値は、焼結密度X(%)の上限として好ましいとしたX=97%を超えた辺りで同程度になり、それ以下では立ち上げ試験後が大きくなると推定できる。Y1=0.50μmとなるX(%)は、後述する図6中に示す直線(Ra=0.50μm)と直線L2(Ra)の交点で、X=97.8%である。
【0053】
以上述べたことより、スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の仕上がり表面のRa値は、少なくとも上限として好ましいとした焼結密度X(%)が97%以下の場合に、本発明の作用効果を奏し、特に有用になるように決定するとよい。従って、本発明においては、スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の仕上がり表面のRa値が、直線(Ra=0.50μm)を含み、その直線よりも上側の領域内であるとよいため、Ra値の下限を0.50μmとし、Y1≧0.50μmとする。なお、上述したRZJIS値の場合と同様に、量産時、Ra値が0.50μm未満(Y1<0.50μm)の仕上げ面を作製することは容易でなく、作業効率の低下などの不都合が起こることがある。
【0054】
(5)−0.203X+20.16≦Y1≦−0.304X+30.24
前記(5)によって規定される領域を図2上に重ねて、図6に示す。
前記(5)は、Y1≧−0.203X+20.16…式<3>およびY1≦−0.304X+30.24…式<4>を、同時に満足することを意味する。式<3>は、Y1(μm)の取り得る値が、Y1=−0.203X+20.16、すなわち図6中に実線で示す直線L1(Ra)上を含み、その線上よりも上側の領域に存在することを意味する。式<4>は、Y1(μm)の取り得る値が、Y1=−0.304X+30.24、すなわち図6中に実線で示す直線L2(Ra)上を含み、その線上よりも下側の領域に存在することを意味する。従って、前記(5)は、Y1(μm)の取り得る値が、直線L1(Ra)および直線L2(Ra)の線上を含み、直線L1(Ra)の上側、かつ、直線L2(Ra)の下側の領域内に存在することを意味する。
【0055】
図6中、直線L1(Ra)および直線L2(Ra)は、任意のX(%)の値に対するY1(μm)の値を示す直線L0(Ra)よりも小さい値(Y1MIN)および大きい値(Y1MAX)を示す。その大小の振れ幅(範囲)は±約25%である。例えば、「○」で示すX=92%の場合、Y1MIN=1.48μmでY1(μm)の値よりも約22%小さく、Y1MAX=2.27μmでY1(μm)の値よりも約19%大きい。同様に、X=96%の場合、Y1MIN=0.67μmでY1(μm)の値よりも約25%小さく、Y1MAX=1.06μmでY1(μm)の値よりも約19%大きい。なお、直線L1(Ra)および直線L2(Ra)の直線L0(Ra)から乖離する振れ幅の割合(±約25%)は、実用的に、特に量産時に、管理が容易であることから狙いとして定めた比率であり、粗さ測定のバラツキや計算上の丸め誤差などが含まれるものの実用的に影響を及ぼすことがないと考える。
【0056】
本発明者の検討によれば、−0.203X+20.16≦Y1≦−0.304X+30.24の範囲を逸脱した場合、すなわち前記(5)を満足しなかった場合、スパッタリングの開始後に放電状態が安定かつ均一化するまでに時間を要することが分った。具体的には、Y1<−0.203X+20.16の場合、ターゲットの被スパッタリング領域の表面が滑らか過ぎるため、被スパッタリング領域の表面が消耗して好適に粗化されるまでに時間を要することがある。Y1>−0.304X+30.24の場合、ターゲットの被スパッタリング領域の表面が粗過ぎるため、スパッタリングの開始直後からアーキングが発生しやすいことに加え、被スパッタリング領域の表面が消耗して好適に平滑化されるまでに時間を要することがある。
【0057】
以上述べたことより、本発明のスパッタリングターゲットは、被スパッタリング領域の表面のRa値を前記(5)を満足するようにして、同時に、前記(4)Y1≧0.50μmを満足していることがよい。図6において、焼結密度が90%の線、直線L1(Ra)、直線L2(Ra)、および直線(Ra=0.50μm)によって囲まれた領域の内側が、それぞれの線上を含め、前記(4)(5)の条件を同時に満足する領域である。スパッタリングターゲットの被スパッタリング領域の表面を、図6中に示す領域内の表面粗さ(Ra)に仕上げることは容易であって、上述した所望のRZJIS値に仕上げる場合と同様と考えてよい。
【0058】
本発明の作用効果を奏することが特に有用なスパッタリングターゲットとして、薄膜トランジスタの酸化物半導体膜として期待されるZTO薄膜を成膜ためのZTOターゲットを挙げることができる。ZTOターゲットは、希少かつ高価なInやGaを含まないZTO焼結体を用いている。そのため、材料コストの観点から、ZTOターゲットはInGaZnOターゲットよりも有利であり、特に、良好なTFT特性を得るために、微量のAlを含むZTOターゲットへの期待は高まっている。
【0059】
ZTO焼結体は、Znを含む酸化物(ZnOなど)、Snを含む酸化物(SnOなど)、および、ZnおよびSnを含むZnSn複合酸化物(ZnSnOなど)を合計量で、酸化物焼結体の全量に対する質量比率で50質量%以上含んでよい。ここで、「Znを含む酸化物およびSnを含む酸化物が合計量で50質量%以上」であることは、その酸化物焼結体にZnを含む酸化物およびSnを含む酸化物が含まれていることを意味する。ZnOなどのZnを含む酸化物の含有比率が高いZTO薄膜は優れたエッチング耐性を有することが知られている。従って、Znを含む酸化物の含有比率が高い酸化物焼結体を用いて成るZTOターゲットを用いることにより、InGaZnO薄膜よりも格段に高いエッチング耐性を有するZTO薄膜を得ることができる。
【0060】
また、ZnとSnの比率が所定の範囲であるZTO薄膜は、TFTにおけるキャリアの移動度が良好に維持されることが知られている。従って、ZTO焼結体は、ZnおよびSnの合計量に対するZn/(Zn+Sn)×100(%)で表されるZnの比率(以下、「z値」ということがある。)が、原子比率で、52%を超え80%以下であることがよい。z値が80%以下であることで、ZTO薄膜のキャリアの移動度が良好に維持される。また、z値が52%を超える範囲であることで、エッチング液に対する耐性が強くなり過ぎず、ZTO薄膜を所望のパターンに形成するときのエッチング性がより良好になる。すなわち、z値を52%を超え80%以下の範囲とすることで、ZTO薄膜のエッチングのしやすさとキャリア移動度とのバランスが良好になる。z値の範囲は、59%〜70%が好ましい。
【0061】
ZTOターゲットすなわちZTO焼結体に微量のAlを含ませる場合、Alは、(Alの質量)/(酸化物焼結体の全質量)×100(%)で表されるAlの含有比率が0.005%〜0.2%であるとよい。この場合、ZTOターゲットにおいてAlは、AlなどのAl酸化物として存在することができる。ZTOターゲットのAl含有比率が0.005%〜0.2%である場合、そのZTOターゲットを用いたZTO薄膜においてキャリアの制御が可能であるとともに光ストレス耐性を有することができる。光ストレス耐性を有するZTO薄膜は、紫外光または可視光に曝された後の特性の劣化が抑制され、例えばゲート電圧(Vg)とドレイン電流(Id)に係るVg−Id特性の変化を小さく抑えることができるという知見を得ている(本発明者らによる国際出願第2014/060444)。この場合、ZTO薄膜は、InGaZnO薄膜と同等またはそれ以上の良質かつ高特性のTFTの実用化のために有効である。Vg−Id特性の変化を抑制する観点では、Alは、0.008質量%〜0.1質量%が好ましく、0.008質量%〜0.05質量%であることが更に好ましい。
【0062】
ZTO焼結体は、微量であればZn、Sn、O、およびAlを除く他元素を更に含んでいてもよい。この微量元素としては、例えばSi(珪素)が挙げられる。ZTO焼結体は、Alの含有量を超えない範囲のSiを、(Alの質量+Siの質量)/酸化物焼結体の全質量×100(%)で表されるAlおよびSiの含有比率が0.2%以下の範囲で含むことにより、焼結密度が向上する。
【0063】
その他、含有されていてもよい微量元素は、例えば、Alと同じ傾向の効果をもたらすと考えられるGa(ガリウム)、In(インジウム)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Hf(ハフニウム)、Nb(ニオビウム)、Cr(クロミウム)、B(硼素)、V(バナジウム)、および、Fe(鉄)や、Siと同じ傾向の効果をもたらすと考えられるGe(ゲルマニウム)、Pb(鉛)、As(砒素)、Sb(アンチモン)、Bi(ビスマス)が挙げられる。また、原料や製造工程に由来して混入しやすい微量元素は、上述したFe、Pb、Sbに加えて、C(炭素)、S(硫黄)、P(燐)、N(窒素)、H(水素)、Mg(マグネシウム)、Zr(ジルコニウム)、Mn(マンガン)、Cd(カドミウム)が挙げられる。Zn、Sn、O、Al、およびSi以外の他元素は、ZTO焼結体の全質量に対して0.03質量%未満の範囲に抑制するのがよい。また、前記他元素は、Alの含有量からSiの含有量を引いて求まる含有量を超えない範囲に抑制するのがよい。
【0064】
また、ZTOターゲットは、本発明の技術分野では比抵抗とも呼ぶ体積抵抗率が、小さいほどよい。特に直流スパッタリング法(例えばDCマグネトロンスパッタリング法)による成膜時の直流放電安定性などの観点では、体積抵抗率は0.10[Ω・cm]以下がよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の実施形態であるスパッタリングターゲット(ZTOターゲット)は、酸化物半導体膜(ZTO薄膜)をスパッタリング成膜するためのスパッタリングターゲットとして適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6