(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037420
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】コバルトスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20161128BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-503871(P2016-503871)
(86)(22)【出願日】2015年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2015077150
(87)【国際公開番号】WO2016052348
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2016年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-199088(P2014-199088)
(32)【優先日】2014年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】小田 国博
(72)【発明者】
【氏名】浅野 孝幸
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−306751(JP,A)
【文献】
特表2005−528525(JP,A)
【文献】
特開2003−73817(JP,A)
【文献】
特開平9−272970(JP,A)
【文献】
特開2007−297679(JP,A)
【文献】
特開2001−200356(JP,A)
【文献】
特表2001−514325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純度が99.99%〜99.999%であり、Si含有量が1wtppm以下であるCoスパッタリングターゲットであって、ターゲットの厚みが4mm〜15mmであり、ターゲットの厚みをT(mm)、PTF値(%)をPとしたとき、ターゲットの厚みとPTF値が(P−80)/T≧−2.5の関係式を満たすことを特徴とするCoスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Coスパッタリングターゲットであって、ターゲットの厚みが4mm〜15mmであり、ターゲットの厚みをT(mm)、PTF値(%)をPとしたとき、ターゲットの厚みとPTF値が(P−80)/T≧−2.5の関係式を満たすことを特徴とするCoスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端半導体デバイスのCu配線構造におけるキャップ層やバリア層等を形成するのに有用な、コバルトスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスのCu配線構造においては、Cuが絶縁膜中に拡散するのを防止するために、Cu配線側面にTa/TaNのバリア層を形成したり、Cu配線上部にSi系のキャップ層を形成したりすることが行われていた。しかし、半導体デバイスの微細化に伴って、膜特性の要求が格段に厳しくなっており、これまで材料では所望の特性を十分に満たすことができないという問題が生じていた。中でも、バリア層やキャップ層は均一であると共に、十分なバリア性と密着性を有することが求められている。
【0003】
その対策の一つとして、従来のTa/TaNバリア層からTaN/CVD−Coバリア層への変更が有力視されているが、CVD(化学蒸着法)は、前駆体ガスの残渣や下地膜の酸化などの問題を十分に払拭できないため、CVD−Coの技術を採用することは容易ではなかった。したがって、安定的な成膜が可能であると共に、反応性スパッタ、逆スパッタなどの手法を駆使して、極薄かつ均一な成膜を可能なPVD(物理上蒸着法)により成膜することが望まれており、精力的な開発が続いている。
【0004】
これまで、ゲート電極用サリサイド膜の形成に高純度コバルトターゲットが用いられていたが(特許文献1〜2参照)、バリア層はCu配線とTa膜などの間に使用されるのでその要求特性はゲート電極用とは大きく異なる。中でもゲート電極用ではPoly−Siとの反応生成物であるCoSi
2が必要とされていたが、バリア層用では、Siがより安定な珪化物を形成しやすいTa中に拡散して、バリア特性の劣化させることがあった。また、Cu配線側にSiが拡散した場合には、銅珪化物を生成して脆性が高くなり、密着性低下などの問題を生じた。
【0005】
一方、Cu配線の上部にキャップ層として配される厚膜Coは、CVDにより形成されていたが、CVDには前述の問題があるため、PVDによる成膜が望まれていた。このキャップ層は、ゲート用途やバリア用途に比べて厚膜であるため、ターゲットの使用量が多いにも関わらず、磁気特性によるスパッタ性能の低下が問題となり、ターゲット厚みが3mm以上のものは作製することが困難であり、ターゲットの交換頻度の増加に伴う、装置の停止に起因するコストの増加も問題となっていた。
【0006】
なお、特許文献3〜6には、強磁性材のコバルトからなるスパッタリングターゲットにおいて、その表面における漏洩磁束を改良することで、スパッタ効率を高めることが開示されている。しかしながら、上記いずれの文献にも、ターゲットの厚みと高い漏洩磁束を両立させることについての教示はなく、また、半導体デバイスにおける一般的な不純物(遷移金属、アルカリ金属など)を低減させることについて記載されているが、Siを不純物として認識し、これを格別低減させようとする試みもなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−272970号公報
【特許文献2】特開2007−297679号公報
【特許文献3】特開2001−200356号公報
【特許文献4】特開2003−306751号公報
【特許文献5】特表2001−514325号公報
【特許文献6】特表2005−528525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、コバルト中のSi含有量を低減することにより、反応性の高いシリサイド化を抑えて、バリア性及び密着性を向上させることができると共に、ターゲット組織を適切に制御することで、ターゲット厚みが厚くなっても高PTFを得ることができ、プラズマを安定化した高速成膜が可能となるので、厚膜が必要とされるライナーやキャップ層などの形成に有用なコバルトスパッタリングターゲットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題に鑑みて、本発明は、以下を提供する。
1)純度が99.99%〜99.999%であり、Si含有量が1wtppm以下であることを特徴とするCoスパッタリングターゲット。
2)ターゲットの厚みが4mm〜15mmであり、ターゲットの厚みをT(mm)、PTF値(%)をPとしたとき、ターゲットの厚みとPTF値とが、(P−80)/T≧−2.5の関係式を満たすことを特徴とする上記1)記載のCoスパッタリングターゲット。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ターゲット中のSi含有量を低減することにより、反応性の高いシリサイド化を抑えて、バリア性及び密着性を向上させることができると共に、ターゲットの組織を改変することで、磁化容易軸をスパッタ面に対して効果的に配向させることができ、安定した高速成膜が可能であるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のCoスパッタリングターゲットは、純度が99.99%(4N)以上99.999%(5N)以下(重量比)であって、Si含有量が1wtppm以下であることを特徴とする。Si含有量は、好ましくは0.5wtppm以下、さらに好ましくは、0.1wtppm以下とする。Coターゲット中のSi含有量を低減することにより、成膜したバリア層やキャップ層において反応性の高いシリサイド化を抑制して、バリア性、密着性、さらに配線抵抗を改善することが可能となる。一方、ターゲットの純度が高いほど不純物によるデバイス性能の劣化を防止できるので好ましいが、純度が5Nを超えると、精製コストが高くなるため好ましくない。したがって、純度が4N〜5NのCoターゲットにおいて、不純物として特にSiに着目して、その含有量の低減を図ることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のCoスパッタリングターゲットは、ターゲットの厚みが4mm〜15mmであり、ターゲットの厚みをT(mm)、PTF値(%)をPとしたとき、ターゲットの厚みとPTF値とが、(P−80)/T≧−2.5の関係式を満たすことを特徴とする。Coターゲットは磁気特性によるスパッタ性能の悪化が問題となっており、従来、厚みが3mm以上のCoターゲットを作製することが困難であったが、ターゲットの配向を制御することにより、このような厚肉のターゲットであっても、漏れ磁束(PTF)を大きくすることができ、これにより、スパッタリングによる成膜速度を向上することができる。
【0013】
一般にターゲットの厚みとPTF値とは線形関係を有しており、例えばターゲットの配向を制御しない場合には、その関係式は、(P−80)/T=−10.0程度となる。しかし、このような関係式を満たすターゲットは、厚みが3mm以下であれば、高速成膜が可能であるが、厚みが増すと十分な漏れ磁束が得られず、スパッタの効率は格段に低下する。したがって、上記の特徴を有する本発明のCoターゲットは、キャップ層等の厚膜を形成する場合、スパッタ効率の観点から特に有効である。
【0014】
PTF(Pass−Through−Flux)の測定方法は、ASTM F2086−01に基づいて行う。まず、プラスチックや非磁性金属(例えばアルミニウムなど)によって、測定物(ターゲット)を積載するための台座と、その下に配置する永久磁石を固定するための治具を作製し、磁束密度測定用のホールプローブをターゲット上空で保持し、かつターゲット面内方向に移動させることのできる支持台を同じくプラスチックなど磁束に影響を与えない材質で作製する。永久磁石として、馬蹄形磁石(鋳造アルニコ5磁石、幅100mm、高さ85mm)を準備し、固定治具にセットする。
次に、測定治具に磁石とホールプローブを取り付けて固定し、ホールプローブにガウスメーターを接続する。測定物(ターゲット)と同厚みのプラスチック製参照板をテーブルに設置し、ホールプローブを取り付けた支持台を疑似ターゲットの面上で移動し、永久磁石の磁束密度が最大となる位置を探索し、この位置で測定された磁場をReferennce fieldとする。
【0015】
参照板に代えて被測定ターゲットをテーブルの上に設置し、その上に先ほど高さ調整を行った、支持台に固定されたホールプローブを測定位置に載せる。その後、測定したい位置の下部に永久磁石を移動し、それに伴ってホールプローブも移動し、最大磁束密度を記録する作業を繰り返す。測定位置は直交する2本の直径線と、ターゲットの直径の半分を直径とする円周、および外周から15mm内側に入った円周とが交差する合計9点の位置で測定をする。そして、測定したこれらの値を、先ほどのReferennce fieldの値で割って100を掛けた値を漏れ磁束密度(%)とし、9点の平均をそのターゲットのPTF(漏れ磁束密度)(%)とする。
【0016】
本発明のCoスパッタリングターゲットは、以下のようにして作製することができる。
純度99.99%以上のコバルトを溶解、鋳造してインゴットとした後、これを1000℃以上1200℃以下(好ましくは1100℃以上1200℃以下)の範囲の温度域で、かつ、炉内の温度分布を±10℃以内に一定に保持した炉内で加熱した後、熱間鍛造する。その後、これを1000℃以上1200℃以下(好ましくは1100℃以上1200℃以下)の範囲の温度域で、かつ、炉内の温度分布を±10℃以内に一定に保持した炉内で加熱した後、50%以上の圧下率で熱間圧延する。さらに、これを250℃以上450℃以下(好ましくは350℃以上450℃以下)の温度域で、かつ、炉内の温度分布を±10℃以内に一定に保持した炉内で加熱した後、30%以上の圧下率で温間圧延し、その後、これを200℃以上400℃以下の温度域で、かつ、炉内の温度分布を±10℃以内に一定に保持した炉内で、10時間以上20時間以下で加熱保持する。そして、これを切削、研磨等の機械加工を施して、スパッタリングターゲット形状に加工する。以上により、所望の配向からなるCoスパッタリングターゲットが得られる。
【実施例】
【0017】
次に、具体的な実施例(実験例)について説明する。この場合、比較となる例も示す。なお、この実施例は、本願発明で規定する範囲ではあるが、理解を容易にするために、特定の条件で実施された例である。したがって、発明は、以下の例に限定されることなく、本願発明の技術思想に基づいた、変形が可能であることは言うまでも無い。本願発明は、これらを全て包含するものである。
【0018】
(実施例1)
電子ビーム溶解により得られた、純度99.998%(Si含有量:0.9wtppm)コバルトインゴットを1000℃で熱間鍛造した後、これを1000℃、圧下率65%で熱間圧延した。次に、これを250℃、圧下率45%で温間圧延した後、さらに、250℃、10時間で加熱保持した。このようにして得られた厚さ4mmのコバルト板材を機械加工して、コバルトスパッタリングターゲットを作製した。
【0019】
このようにして作製した円形のコバルトスパッタリングターゲットについて、圧延面(すなわちスパッタ面となる面)に対して、平行な方向の漏れ磁束(PTF)を、面内9点(中心1点、直交する2本の直径線とターゲットの直径の半分を直径とする円周との交点4点、前記直径線と外周から15mm内側の円周との交点4点)測定し、その平均値を求めた。その結果、この表1に示すように、PTF値は平均75%であり、関係式:(P−80)/T=−1.25と、肉厚のターゲットであっても漏れ磁束が大きいため、スパッタリングによる高速成膜が可能であった。
【0020】
【表1】
【0021】
(実施例2)
電子ビーム溶解により得られた、純度99.998%(Si含有量:0.4wtppm)コバルトインゴットを1100℃で熱間鍛造した後、これを1100℃、圧下率60%で熱間圧延した。次に、これを350℃、圧下率40%で温間圧延した後、さらに、300℃、15時間で加熱保持した。このようにして得られた厚さ9mmのコバルト板材を機械加工して、コバルトスパッタリングターゲットを作製した。
【0022】
このようにして作製した円形のコバルトスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に、圧延面(すなわちスパッタ面となる面)に対して、平行な方向の漏れ磁束(PTF)を測定し、その平均値を求めた。その結果、この表1に示すようにPTF値は平均63.6%であり、関係式:(P−80)/T=−1.82と、肉厚のターゲットであっても漏れ磁束が大きいため、スパッタリングによる高速成膜が可能であった。
【0023】
(実施例3)
電子ビーム溶解により得られた、純度99.998%(Si含有量:0.08wtppm)コバルトインゴットを1200℃で熱間鍛造した後、これを1200℃、圧下率50%で熱間圧延した。次に、これを450℃、圧下率30%で温間圧延した後、さらに、400℃、20時間で加熱保持した。このようにして得られた厚さ12.7mmのコバルト板材を機械加工して、コバルトスパッタリングターゲットを作製した。
【0024】
このようにして作製した円形のコバルトスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に、圧延面(すなわちスパッタ面となる面)に対して、平行な方向の漏れ磁束(PTF)を測定し、その平均値を求めた。その結果、この表1に示すようにPTF値は平均50%であり、関係式:(P−80)/T=−1.97と、肉厚のターゲットであっても漏れ磁束が大きいため、スパッタリングによる高速成膜が可能であった。
【0025】
(比較例1)
電子ビーム溶解により得られた、純度99.998%(Si含有量:0.1wtppm)コバルトインゴットを1250℃で熱間鍛造した後、これを1100℃、圧下率80%で熱間圧延した。次に、これを500℃、2時間で熱処理した。このようにして得られた厚さ4mmのコバルト板材を機械加工して、コバルトスパッタリングターゲットを作製した。
【0026】
このようにして作製した円形のコバルトスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に、圧延面(すなわちスパッタ面となる面)に対して、平行な方向の漏れ磁束(PTF)を測定し、その平均値を求めた。その結果、この表1に示すようにPTF値は平均35%であり、関係式:(P−80)/T=−11.25と、漏れ磁束が十分でないため、スパッタリングによる高速成膜が困難であった。
【0027】
(比較例2)
電子ビーム溶解により得られた、純度99.998%(Si含有量:3.2wtppm)コバルトインゴットを1100℃で熱間鍛造した後、これを1000℃、圧下率60%で熱間圧延した。次に、これを500℃、圧下率40%で温間圧延した後、さらに、400℃、15時間で加熱保持した。このようにして得られた厚さ4mmのコバルト板材を機械加工して、コバルトスパッタリングターゲットを作製した。
【0028】
このようにして作製した円形のコバルトスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に、圧延面(すなわちスパッタ面となる面)に対して、平行な方向の漏れ磁束(PTF)を測定し、その平均値を求めた。その結果、この表1に示すようにPTF値は平均69.5%であり、関係式:(P−80)/T=−2.63と、漏れ磁束が十分でないため、スパッタリングによる高速成膜は困難であった。
【0029】
(比較例3)
電子ビーム溶解により得られた、純度99.998%(Si含有量:1.2wtppm)コバルトインゴットを1250℃で熱間鍛造した後、これを1250℃、圧下率60%で熱間圧延した。次に、これを500℃、圧下率40%で温間圧延した後、さらに、300℃、15時間で加熱保持した。このようにして得られた厚さ9mmのコバルト板材を機械加工して、コバルトスパッタリングターゲットを作製した。
【0030】
このようにして作製した円形のコバルトスパッタリングターゲットについて、実施例1と同様に、圧延面(すなわちスパッタ面となる面)に対して、平行な方向の漏れ磁束(PTF)を測定し、その平均値を求めた。その結果、この表1に示すようにPTF値は平均50%であり、関係式:(P−80)/T=−3.33と、漏れ磁束が十分でないため、スパッタリングによる高速成膜は困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
Si含有量を低減することにより、反応性の高いシリサイド化を抑えて、バリア性や密着性を向上させることができると共に、磁化容易軸をスパッタ面に対して効果的に配向させることで、安定した高速成膜が可能であるので、半導体デバイスの配線構造を形成するためのコバルトスパッタリングターゲットとして有用である。