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特許6037498金属酸化物担持炭素紙の製造方法及び金属酸化物担持炭素紙
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037498
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】金属酸化物担持炭素紙の製造方法及び金属酸化物担持炭素紙
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20161128BHJP
   H01G 11/22 20130101ALI20161128BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20161128BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20161128BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20161128BHJP
   B01J 37/00 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   H01G11/22
   H01M4/36 C
   H01M4/48
   !H01M4/88 C
   !B01J37/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-92519(P2012-92519)
(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公開番号】特開2013-220966(P2013-220966A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年2月23日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔発行人〕 無機マテリアル学会 〔刊行物名〕 無機マテリアル学会第123回学術講演会講演要旨集 〔発行年月日〕 平成23年11月17日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】棚池 修
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−231258(JP,A)
【文献】 特開2007−055865(JP,A)
【文献】 特開2008−034557(JP,A)
【文献】 特開2000−357636(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0185327(US,A1)
【文献】 特開2009−298690(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0309072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B31/00−31/36
H01G9/00,11/00−11/86
B01J21/00−38/74
H01M4/00−4/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入することにより金属含有バクテリアセルロースゲルを作製する金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程と、
前記金属含有バクテリアセルロースゲルをシート状に成形することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元フィブリルに前記金属が担持された構造の金属担持バクテリアセルロース紙を作製する金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と、
前記金属担持バクテリアセルロース紙を熱処理して炭素化することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を作製する金属酸化物担持炭素紙作製工程とを含む金属酸化物担持炭素紙の製造方法であって、
前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程においては、仕込み濃度が0.025mol/L以上である金属塩水溶液に前記バクテリアセルロースゲルを含浸することにより、前記バクテリアセルロースゲルに前記金属イオンを導入することを特徴とする金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項2】
バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入することにより金属含有バクテリアセルロースゲルを作製する金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程と、
前記金属含有バクテリアセルロースゲルをシート状に成形することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元フィブリルに前記金属が担持された構造の金属担持バクテリアセルロース紙を作製する金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と、
前記金属担持バクテリアセルロース紙を熱処理して炭素化することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を作製する金属酸化物担持炭素紙作製工程とを含む金属酸化物担持炭素紙の製造方法であって、
前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程で導入する前記金属がMoであり、
前記金属酸化物担持炭素紙作製工程において作製される前記金属酸化物担持炭素紙の金属酸化物含有率が27.0wt%以上であることを特徴とする金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項3】
バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入することにより金属含有バクテリアセルロースゲルを作製する金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程と、
前記金属含有バクテリアセルロースゲルをシート状に成形することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元フィブリルに前記金属が担持された構造の金属担持バクテリアセルロース紙を作製する金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と、
前記金属担持バクテリアセルロース紙を熱処理して炭素化することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を作製する金属酸化物担持炭素紙作製工程とを含む金属酸化物担持炭素紙の製造方法であって、
前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程で導入する前記金属がMoであり、
前記金属酸化物担持炭素紙作製工程においては、600℃以上、かつ、700℃以下の温度で加熱して前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化することを特徴とする金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項4】
バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入することにより金属含有バクテリアセルロースゲルを作製する金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程と、
前記金属含有バクテリアセルロースゲルをシート状に成形することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元フィブリルに前記金属が担持された構造の金属担持バクテリアセルロース紙を作製する金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と、
前記金属担持バクテリアセルロース紙を熱処理して炭素化することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を作製する金属酸化物担持炭素紙作製工程とを含む金属酸化物担持炭素紙の製造方法であって、
前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程で導入する前記金属がVであり、
前記金属酸化物担持炭素紙作製工程において作製される前記金属酸化物担持炭素紙の金属酸化物含有率が9.0wt%以上であることを特徴とする金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項5】
バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入することにより金属含有バクテリアセルロースゲルを作製する金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程と、
前記金属含有バクテリアセルロースゲルをシート状に成形することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元フィブリルに前記金属が担持された構造の金属担持バクテリアセルロース紙を作製する金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と、
前記金属担持バクテリアセルロース紙を熱処理して炭素化することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を作製する金属酸化物担持炭素紙作製工程とを含む金属酸化物担持炭素紙の製造方法であって、
前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程で導入する前記金属がVであり、
前記金属酸化物担持炭素紙作製工程においては、600℃以上、かつ、800℃以下の温度で加熱して前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化することを特徴とする金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項6】
前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程においては、バクテリアセルロースゲル中の溶媒を金属塩水溶液と置換する溶媒置換法を用いて、前記バクテリアセルロースゲルに前記金属イオンを導入することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項7】
前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程で用いる前記バクテリアセルロースゲルが、酢酸菌により作製されたバクテリアセルロースゲルであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項8】
前記金属酸化物担持炭素紙作製工程においては、前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素ブロックで挟んだ状態で前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物担持炭素紙作製工程においては、還元性雰囲気の下で前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【請求項10】
前記金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と前記金属酸化物担持炭素紙作製工程との間に、前記金属担持バクテリアセルロース紙をヨウ素蒸気と接触させるヨウ素処理工程をさらに含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の金属酸化物担持炭素紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物担持炭素紙の製造方法及び金属酸化物担持炭素紙に関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリアセルロースゲルを原料に用いて、3次元ネットワーク構造を有する炭素紙(シート状に成形された炭素材料)を製造する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。なお、本明細書においては、以後、シート状に成形された炭素材料のことを炭素紙ということとする。
【0003】
このような技術により製造される炭素紙は、バクテリアセルロースゲルが極細の3次元フィブリル構造を有することから、大きな比表面積を有し、電気二重層キャパシター、燃料電池などの電極材料として好適に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−55865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、キャパシターの技術分野においては、常に従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能とする材料が求められており、炭素紙においても例外ではない。
【0006】
そこで、本発明は、従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能とする金属酸化物担持炭素紙及びこのような金属酸化物担持炭素紙を製造可能な金属酸化物担持炭素紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法は、バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入することにより金属含有バクテリアセルロースゲルを作製する金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程と、前記金属含有バクテリアセルロースゲルをシート状に成形することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元フィブリルに前記金属が担持された構造の金属担持バクテリアセルロース紙を作製する金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と、前記金属担持バクテリアセルロース紙を熱処理して炭素化することにより、前記バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を作製する金属酸化物担持炭素紙作製工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
[2]本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法において、前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程においては、バクテリアセルロースゲル中の溶媒を金属塩水溶液と置換する溶媒置換法を用いて、前記バクテリアセルロースゲルに前記金属イオンを導入することが好ましい。
【0009】
[3]本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法においては、前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程で導入する前記金属が、Mo、V、Ni、Mn又はRuであることが好ましい。なお、本発明の金属酸化物担持炭素紙をキャパシター以外の用途(例えば、二次電池、燃料電池、空気電池、各種触媒など)に用いる場合には、上記の金属に限定されるものではない。
【0010】
[4]本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法においては、前記金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程で用いる前記バクテリアセルロースゲルが、酢酸菌により作製されたバクテリアセルロースゲルであることが好ましい。
【0011】
[5]本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法において、前記金属酸化物担持炭素紙作製工程においては、前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素ブロックで挟んだ状態で前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化することが好ましい。
【0012】
[6]本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法において、前記金属酸化物担持炭素紙作製工程においては、還元性雰囲気の下で前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化することが好ましい。
【0013】
[7]本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法において、前記金属酸化物担持炭素紙作製工程においては、600℃〜750℃の範囲内にある所定温度まで加熱して前記金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化することが好ましい。
【0014】
[8]本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法においては、前記金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と前記金属酸化物担持炭素紙作製工程との間に、前記金属担持バクテリアセルロース紙をヨウ素蒸気と接触させるヨウ素処理工程をさらに含むことが好ましい。
【0015】
[9]本発明の金属酸化物担持炭素紙は、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造を有し、バインダーを含有しないことを特徴とする。
【0016】
[10]本発明の金属酸化物担持炭素紙においては、前記金属酸化物の含有率が0.0001重量%〜30重量%の範囲内にあることが好ましい。
【0017】
本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法によれば、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を製造することが可能となる。そして、このときに製造される金属酸化物担持炭素紙は、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルが元来大きなミクロ表面積を有するのに加えて、3次元炭素フィブリルに担持された金属酸化物が、酸化還元反応を充放電に利用して容量を増大させる疑似容量物質として機能することから、従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能な金属酸化物担持炭素紙を製造することが可能となる。
【0018】
また、本発明の金属酸化物担持炭素紙によれば、上記したように、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルが元来大きなミクロ表面積を有するのに加えて、3次元炭素フィブリルに担持された金属酸化物が、酸化還元反応を充放電に利用して容量を増大させる疑似容量物質として機能することから従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能な金属酸化物担持炭素紙となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
図2】実施形態2に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
図3】各試験例の作製条件及び評価結果を示す図表である。
図4】試験例1〜3に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。
図5】試験例4〜6に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。
図6】試験例7に係る炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。
図7】試験例3、6及び7のX線回折パターンを示す図である。
図8】金属導入の効果を説明するために示す図である。
図9】試験例8に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。
図10】試験例9に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。
図11】試験例10に係る炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。
図12】ヨウ素処理の効果を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法及び金属酸化物担持炭素紙について、図に示す実施形態に基づいてさらに詳細に説明する。
【0021】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法は、図1に示すように、金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程と、金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と、金属酸化物担持炭素紙作製工程とを含む。以下、各工程毎に説明する。
【0022】
1.金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程
金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程は、バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入することにより金属含有バクテリアセルロースゲルを作製する工程である。
【0023】
バクテリアセルロースゲルとしては、特許文献1に記載の公知のものが挙げられ、例えば、アセトバクター・キシリナム・サブスピーシーズ・シュクロファーメンタ(Acetobacter xylinum subsp.sucrofermentans)、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)ATCC23768、アセトバクター・キシリナムATCC23769、アセトバクター・パスツリアヌス(A. pasteurianus)ATCC10245、アセトバクター・キシリナムATCC14851、アセトバクター・キシリナムATCC11142及びアセトバクターキシリナムATCC10821等の酢酸菌(アセトバクター属)、アグロバクテリウム属、リゾビウム属、サルシナ属、シュードモナス属、アクロモバクター属、アルカリゲネス属、アエロバクター属、アゾトバクター属及びズーグレア属、エンテロバクター属またはクリューベラ属並びにそれらをNTG( ニトロソグアニジン)等を用いる公知の方法によって変異処理することにより創製される各種変異株を培養することにより生産することができる。このうち、酢酸菌により作製されたバクテリアセルロースゲルが特に好ましい。バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルが特に大きなミクロ表面積を有するからである。
【0024】
金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程においては、例えば、バクテリアセルロースゲル中の溶媒を金属塩水溶液と置換する溶媒置換法を用いて、バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入することが好ましい。溶媒置換法としては例えば以下のような方法を用いる。すなわち、水洗浄後のバクテリアセルロースゲルを、導入する金属の金属塩を所定濃度で含有する水溶液中に所定時間浸漬することにより行う。
【0025】
金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程においては、導入する金属は特に限定されるものではないが、例えばMo(モリブデン)又はV(バナジウム)などを用いる。また、導入する金属塩も特に限定されるものではないが、例えばアンモニウム塩を用いる。
【0026】
金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程を実施することにより、所定濃度の金属を金属塩の形で含有する金属含有バクテリアセルロースゲルを作製することができる。
【0027】
2.金属担持バクテリアセルロース紙作製工程
金属担持バクテリアセルロース紙作製工程は、金属含有バクテリアセルロースゲルをシート状に成形することにより、バクテリアセルロースゲル由来の3次元フィブリルに金属が担持された構造の金属担持バクテリアセルロース紙を作製する工程である。
【0028】
金属含有バクテリアセルロースゲルをシート状に成形する方法としては、例えば以下のような方法を用いる。すなわち、上記の金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程で作製した金属含有バクテリアセルロースゲルを粉砕後、アルコール中に分散させ、漏斗を用いて吸引濾過を行いシート状に成形する。そして、その後、シート状に成形した金属担持バクテリアセルロース紙を乾燥することにより、バクテリアセルロースゲル由来の3次元フィブリルに金属が担持された構造の金属担持バクテリアセルロース紙を作製することができる。
【0029】
3.金属酸化物担持炭素紙作製工程
金属酸化物担持炭素紙作製工程は、金属担持バクテリアセルロース紙を熱処理して炭素化することにより、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を作製する工程である。
【0030】
金属担持バクテリアセルロース紙を熱処理して炭素化する方法としては、例えば以下のような方法を用いる。すなわち、上記の金属担持バクテリアセルロース紙作製工程で作製した金属担持バクテリアセルロース紙を、電気炉中で、還元性雰囲気(例えば窒素雰囲気)下、昇温速度10℃/分で所定の温度(例えば600℃〜750℃)まで昇温後、当該温度で1時間保持する条件で熱処理して炭素化する。このとき、金属担持バクテリアセルロース紙を炭素ブロックで挟んだ状態で金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化する。
【0031】
これにより、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属が担持された構造を有し、バインダーを含有しない金属酸化物担持炭素紙を作製することができる。作製される金属酸化物担持炭素紙においては、金属酸化物の含有率が20重量%以上であるもの、単位重量当たりのミクロ孔表面積が300m/g以上であるものが得られる。なお、金属酸化物の含有率は、金属含有バクテリアセルロース紙作製時の金属塩水溶液の濃度を変えることによって、適宜調整することが可能である。
【0032】
実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法によれば、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を製造することが可能となる。そして、このときに製造される金属酸化物担持炭素紙は、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルが元来大きなミクロ表面積を有するのに加えて、3次元炭素フィブリルに担持された金属酸化物が、酸化還元反応を充放電に利用して容量を増大させる疑似容量物質として機能することから、従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能な金属酸化物担持炭素紙を製造することが可能となる。
【0033】
また、実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙によれば、上記したように、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルが元来大きなミクロ表面積を有するのに加えて、3次元炭素フィブリルに担持された金属酸化物が、酸化還元反応を充放電に利用して容量を増大させる疑似容量物質として機能することから従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能な金属酸化物担持炭素紙となる。
【0034】
[実施形態2]
図2は、実施形態2に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
実施形態2に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法は、基本的には実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法と同様の工程を含むが、ヨウ素処理工程をさらに含む点が実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法とは異なる。すなわち、実施形態2に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法は、図2に示すように、金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と金属酸化物担持炭素紙作製工程との間に、金属担持バクテリアセルロース紙をヨウ素蒸気と接触させるヨウ素処理工程をさらに含む。
【0035】
このように、実施形態2に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法は、ヨウ素処理工程をさらに含む点が実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法とは異なるが、実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法の場合と同様に、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属酸化物が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を製造することが可能となる。そして、このときに製造される金属酸化物担持炭素紙は、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルが元来大きなミクロ表面積を有するのに加えて、3次元炭素フィブリルに担持された金属酸化物が、酸化還元反応を充放電に利用して容量を増大させる疑似容量物質として機能することから、従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能な金属酸化物担持炭素紙を製造することが可能となる。
【0036】
また、実施形態2に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法によれば、金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と金属酸化物担持炭素紙作製工程との間に、金属担持バクテリアセルロース紙をヨウ素蒸気と接触させるヨウ素処理工程をさらに含むことから、後述する試験例からも明らかなように、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルがより一層大きなミクロ表面積を有することとなるため、実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法の場合よりも容量の大きいキャパシターを製造可能な金属酸化物担持炭素紙を製造することが可能となる。
【0037】
[試験例]
以下、試験例により本発明をさらに具体的に説明する。
図3は、各試験例の作製条件及び評価結果を示す図表である。
【0038】
[試験例1〜7]
試験例1〜7は、「本発明の金属酸化物担持炭素紙の製造方法により、バクテリアセルロースゲル由来の3次元炭素フィブリルに金属が担持された構造の金属酸化物担持炭素紙を作製することが可能であること」及び「そのようにして製造された金属酸化物担持炭素紙を用いることにより従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能であること」を示す試験例である。
【0039】
1.試料の調製
(1)試験例1〜3
基本的には実施形態1に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法と同様の方法により試験例1〜3に係る金属酸化物担持炭素紙を作製した(図3参照。)。具体的には以下の通りである。
【0040】
バクテリアセルロースとしては、酢酸漬ナタデココ(フジッコ株式会社製の10mm立方のダイス形状のもの)を用いた。そして、酢酸漬ナタデココを大量の純水で濾液がPH=7になるまで洗浄した。その後、純水洗浄後のナタデココを、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物 ((NH4)6Mo7O24・4H2O:和光純薬工業社製、特級)を所定濃度(仕込み濃度:0.01mol/L、0.025mol/L、0.05mol/L)溶かした水溶液に24時間含浸することで、ナタデココ中の水分を各水溶液に置換し、金属含有バクテリアセルロースゲルとした。このうち、仕込み濃度が0.01mol/Lであるものを試験例1とし、仕込み濃度が0.025mol/Lのものを試験例2とし、仕込み濃度が0.05mol/Lのものを試験例3とした(図3参照。)。
【0041】
その後、得られた金属含有バクテリアセルロースゲルをエタノール中でミキサーを用いて粉砕し、エタノールナタデココ混合溶液とした。その後、このエタノールナタデココ混合溶液を直径90mmのブフナー漏斗と濾紙(アドバンテック東洋製No.2)を用いて吸引濾過を行いシート状に成形し、その後、自然乾燥し、さらに24時間真空乾燥を行い、金属担持バクテリアセルロース紙とした。
【0042】
その後、得られた金属担持バクテリアセルロース紙を炭素ブロックで挟み込み、銅線で固定した後、石英管内に設置し、電気炉を用いて窒素雰囲気下(流速400 mL/min)、昇温速度10℃/分で700℃〜1000℃まで加熱し、その後1時間保持して炭素化を行い、金属酸化物担持炭素紙を作製した。
【0043】
(2)試験例4〜6
基本的には試験例1〜3に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法と同様の方法により試験例4〜6に係る金属酸化物担持炭素紙を作製した。但し、金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程において、七モリブデン酸六アンモニウム四水和物の代わりに、バナジン(V)酸アンモニウム (NH4VO3 :関東化学社製、特級)を用いた。このうち、仕込み濃度が0.01mol/Lであるものを試験例4とし、仕込み濃度が0.025mol/Lのものを試験例5とし、仕込み濃度が0.05mol/Lのものを試験例6とした(図3参照。)。
【0044】
(3)試験例7
基本的には試験例1〜3に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法と同様の方法により試験例7に係る炭素紙を作製した。但し、金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程において、金属塩を含有する水溶液に含浸する工程を省略した。すなわち、試験例7においては、バクテリアセルロースゲルに金属イオンを導入しないこととした(図3参照。)。
【0045】
2.評価方法
(1)外観
バクテリアセルロースゲル、金属含有バクテリアセルロースゲル、金属担持バクテリアセルロース紙及び金属酸化物担持炭素紙の外観(表面状態、そり返りの有無)を目視で観察した。
【0046】
(2)X線回折パターン
金属担持バクテリアセルロース紙及び金属酸化物担持炭素紙(熱処理温度:700℃、800℃及び1000℃)のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、RINT2100Ultima+)を用いて測定した。
【0047】
(3)SEM観察
金属酸化物担持炭素紙(熱処理温度:700℃)の表面を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、FT-SEM、JSM-6500F)を用いて観察した。
【0048】
(4)細孔特性
金属酸化物担持炭素紙(熱処理温度:700℃)を300メッシュ以下に粉砕し、アルゴン雰囲気下、200℃で20時間以上熱処理した後、77K窒素吸着測定(日本ベル株式会社製、BELSORPmini)を用いて金属酸化物担持炭素紙の細孔特性を測定した。
【0049】
(5)電気化学特性
金属酸化物担持炭素紙(熱処理温度:700℃)の一部をそのまま切り出してサンプルとして用い、サイクリックボルタモグラム(北斗電工株式会社製、HZ-5000)を用いて電気化学特性の評価を行った。集電体には白金網、対極には白金箔、参照極にはAg/AgCl電極を用いた三極式セルにて、1mol/Lの硫酸水溶液中で行った。
【0050】
3.評価結果
(1)外観
図4は、試験例1〜3に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。図4(a)はバクテリアセルロースゲルの外観図であり、図4(b)は金属含有バクテリアセルロースゲルの外観図であり、図4(c)は金属担持バクテリアセルロース紙の外観図であり、図4(d)は金属酸化物担持炭素紙の外観図である。
図5は、試験例4〜6に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。図5(a)はバクテリアセルロースゲルの外観図であり、図5(b)は金属含有バクテリアセルロースゲルの外観図であり、図5(c)は金属担持バクテリアセルロース紙の外観図であり、図5(d)は金属酸化物担持炭素紙の外観図である。
図6は、試験例7に係る炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。図6(a)はバクテリアセルロースゲルの外観図であり、図6(b)はバクテリアセルロース紙の外観図であり、図6(c)は炭素紙の外観図である。
【0051】
白色のナタデココを各金属塩水溶液に含浸させることで、各ナタデココはそれぞれの水溶液の色を一様に呈するようになった(図4及び図5参照。)。ナタデココは含水率約99重量%のヒドロゲルであるが、この分散媒(水)が今回の操作で簡単に金属塩水溶液と置換できたことが伺える。
【0052】
また、これを粉砕、成型、乾燥させるといずれも表面が波打つことなく、綺麗な金属担持バクテリアセルロース紙が作製できた(図4及び図5参照。)。バクテリアセルロースゲルは乾燥すると、極細のセルロース繊維同士が水素結合によって強固に相互膠着するため、乾燥時に溶媒のみが脱離し、残存した溶質分がセルロースの同士の膠着に取り込まれながらシート状に成形されたものと思われる。
【0053】
金属塩導入の有無、仕込み濃度、炭素化温度の違いに関係なくわずかに体積収縮を生じたが、シート表面が波打つことなく、綺麗な金属酸化物担持炭素紙が作製できた。なお、図示は省略したが、炭素ブロックを用いずに炭素化を行うと表面の凹凸の多い形状となった。恐らく、炭素化中に放出される軽ガス成分がシート表面から脱離する際に形状変化を引き起こしたものと思われる。炭素ブロックで挟み込むことで、シートのそり返りが抑制され、綺麗な金属酸化物担持炭素紙が得られた。
【0054】
(2)X線回折パターン
図7は、試験例3、6及び7におけるX線回折パターンを示す図である。図7(a)は試験例3におけるX線回折パターンを示す図であり、図7(b)は試験例6におけるX線回折パターンを示す図であり、図7(c)は試験例7におけるX線回折パターンを示す図である。図7(a)〜図7(c)においてはそれぞれ、未加熱のもの、700℃まで熱処理を行ったもの、800℃まで熱処理を行ったもの及び1000℃まで熱処理を行ったものについてX線回折パターンを示している。
【0055】
試験例3においては、700℃でMoOのピークが確認され、800℃以上の温度でMoCのピークが確認された。
試験例6においては、700℃でVのピークが確認され、800℃以上の温度でVNのピークが徐々に見え始め1000℃の温度でVNのピークのみとなった。
試験例7においては、700℃以上の温度で炭素化処理を行うとセルロースの結晶構造由来の回折ピークが消失し、アモルファスな炭素由来のブロードなパターンが得られた。
【0056】
MoOは、モリブデン酸塩を加熱しながら水素あるいは一酸化炭素などで還元することで生成するため、加熱中にセルロースから分解した一酸化炭素と反応することで形成し、その後、さらに高温で加熱されることでセルロース中の炭素分により還元が進み800℃以上の温度でMoCが形成したものと考えられる。
は、金属塩の分解によって得られたV6O13+V2O5が還元されて生成し、800℃以上の温度でさらに還元されVNとなったと考えられる。
つまり、今回作製した金属酸化物担持炭素紙においては、700℃までの温度で炭素化処理を行うことで炭素紙に対してキャパシタ電極の活物質である金属酸化物の担持が可能であることが示された。その後、さらに実験を重ねることにより、600℃〜750℃の範囲内にある所定温度まで加熱して金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化することにより、炭素紙に対してキャパシタ電極の活物質である金属酸化物の担持が可能であることがわかった。
【0057】
(3)SEM観察
図示は省略するが、試験例1に係る金属酸化物担持炭素紙(700℃)の表面SEM画像においては、試験例7においては確認されなかった酸化物と思われる粒状の物質を確認することができた。試験例1に係る金属酸化物担持炭素紙(700℃)の表面SEM写真においては、バクテリアセルロースの特徴である極細の繊維は確認できず、繊維が加熱処理により融合したと思われる塊状の表面を示した。
【0058】
(4)細孔特性
図3に、試験例1〜7について、窒素吸着等温線及びαs−プロットより算出したミクロ孔表面積を示す。図3からも分かるように、試験例7(金属を担持していない炭素紙)並びに試験例1及び2(金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程において、仕込み濃度0.025mol/L以下でMoを導入した金属酸化物担持炭素紙)試験例4及び5(金属含有バクテリアセルロースゲル作製工程において、仕込み濃度0.025mol/L以下でVを導入した金属酸化物担持炭素紙)においては、300m/g以上のミクロ孔表面積が得られた。
【0059】
(5)炭素化収率、金属酸化物含有率及び炭素含有率
以下の方法により算出した、炭素化収率、金属酸化物含有率及び炭素含有率を図3に示す。
炭素化収率(A/wt%)は、実際に電気炉を用いて炭素化処理を行った炭素紙における炭素化前後の重量変化から算出した。
金属酸化物含有率(B/wt%)は、各炭素紙を600℃で酸化処理したときに残存した灰分から算出した。
炭素含有率(wt%)は、実際に得られた炭素紙中の炭素の含有率を示す。炭素化収率(A)と金属酸化物含有率(B)から次式より算出した。
A×(1−B/100)
【0060】
図3からも分かるように、金属の仕込み濃度が増加するにつれて炭素化収率の減少とミクロ孔表面積の減少が見られた。この減少率は、Moの場合よりもVの場合のほうが小さいことから、Vによるガス賦活効果とミクロ孔を塞ぐ効果は、MoOの場合よりも小さいことが分かった。
【0061】
(6)電気化学特性
図8は、金属導入の効果を説明するために示す図である。このうち図8(a)はMoを導入した場合の金属導入の効果を示す図であり、図8(b)はVを導入した場合の金属導入の効果を示す図である。
【0062】
図8(a)からも分かるように、試験例2及び3の場合(仕込み濃度が0.025mol/L以上の場合)には、0.15V付近及び0.32V付近にMoOの酸化還元反応に由来するピークが確認でき、また、容量も試験例7の場合に比べて増加していることが分かった。
また、図8(b)からも分かるように、試験例5及び6の場合(仕込み濃度が0.025mol/L以上の場合)には、Vの酸化還元反応に由来するピークが確認でき、容量も試験例7の場合に比べて増加していることが分かった。
このことから、担持した金属酸化物(MoO、V)が疑似容量の増加に有効に働いていることが確認できた。
【0063】
[試験例8〜10]
試験例8〜10は、「ヨウ素処理を行うことにより、ヨウ素処理を行わない金属酸化物担持炭素紙よりも容量の大きいキャパシターを製造可能であること」を示す試験例である。
【0064】
1.試料の調整
(1)試験例8
基本的には試験例2に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法と同様の方法により試験例8に係る金属酸化物担持炭素紙を作製した。但し、金属担持バクテリアセルロース紙作製工程と金属酸化物担持炭素紙作製工程との間に、金属担持バクテリアセルロース紙をヨウ素蒸気と接触させるヨウ素処理工程を行った。また、ヨウ素処理工程を行った後、金属担持バクテリアセルロース紙を炭素ブロックで挟むことなく金属担持バクテリアセルロース紙を炭素化した。
【0065】
ヨウ素処理は、各試料とヨウ素(関東化学製)とを同一容器内に入れて減圧密閉し、120℃の恒温乾燥器内で24時間ヨウ素蒸気と触れさせることにより行った。このとき、成形を目的として各シート状試料はガラス板に挟み込むように固定し処理した。ヨウ素導入量はヨウ素処理前後の重量変化から算出した。
【0066】
(2)試験例9
基本的には試験例5に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法と同様の方法により試験例9に係る金属酸化物担持炭素紙を作製した。但し、試験例8の場合と同様に、各試料とヨウ素(関東化学製)とを同一容器内に入れて減圧密閉し、120℃の恒温乾燥器内で24時間ヨウ素蒸気と触れさせることによりヨウ素処理を行った。
【0067】
(3)試験例10
基本的には試験例7に係る炭素紙の製造方法と同様の方法により試験例10に係る炭素紙を作製した。但し、試験例8の場合と同様に、各試料とヨウ素(関東化学製)とを同一容器内に入れて減圧密閉し、120℃の恒温乾燥器内で24時間ヨウ素蒸気と触れさせることによりヨウ素処理を行った。
【0068】
2.評価方法
評価方法は、試験例1〜7の場合と同様とした。
【0069】
3.評価結果
(1)外観
図9は、試験例8に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。図9(a)はバクテリアセルロースゲルの外観図であり、図9(b)は金属含有バクテリアセルロースゲルの外観図であり、図9(c)は金属担持バクテリアセルロース紙の外観図であり、図9(d)はヨウ素処理後の金属担持バクテリアセルロース紙の外観図であり、図9(e)は金属酸化物担持炭素紙の外観図である。
図10は、試験例9に係る金属酸化物担持炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。図10(a)はバクテリアセルロースゲルの外観図であり、図10(b)は金属含有バクテリアセルロースゲルの外観図であり、図10(c)は金属担持バクテリアセルロース紙の外観図であり、図10(d)はヨウ素処理後の金属担持バクテリアセルロース紙の外観図であり、図10(e)は金属酸化物担持炭素紙の外観図である。
図11は、試験例10に係る炭素紙の製造方法を説明するために示す図である。図11(a)はバクテリアセルロースゲルの外観図であり、図11(b)はバクテリアセルロース紙の外観図であり、図11(c)はヨウ素処理後のバクテリアセルロース紙の外観図であり、図11(d)は炭素紙の外観図である。
【0070】
試験例8〜10において、若干の体積収縮が生じたが、シート表面が波打つことなく、綺麗な炭素紙(又は金属酸化物担持炭素紙)を作製することができた。ヨウ素処理工程を実施することにより、炭素化工程での炭素ブロックの使用を省略することが可能となった。
【0071】
(2)電気化学特性
図12は、ヨウ素処理の効果を説明するために示す図である。このうち図12(a)はMoを導入した場合のヨウ素処理の効果を示す図であり、図12(b)はVを導入した場合のヨウ素処理の効果を示す図である。
【0072】
図12(a)からも分かるように、試験例8及び10の場合(ヨウ素処理を行った場合)には、容量が、試験例2及び7(ヨウ素処理を行わなかった場合)に比べて増加していることが分かった。また、試験例8の場合(ヨウ素処理を行った場合)には、酸化物由来のレドックスピークも認められることから、疑似容量の効果も損なわれていないことが分かった。
また、図12(b)からも分かるように、試験例9及び10の場合(ヨウ素処理を行った場合)には、容量が、試験例5及び7(ヨウ素処理を行わなかった場合)に比べて増加していることが分かった。また、試験例9の場合(ヨウ素処理を行った場合)には、酸化物由来のレドックスピークも認められることから、疑似容量の効果も損なわれていない。
以上のことから、ヨウ素処理を行うことにより、容量を増大させることが可能であることが分かった。
【0073】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0074】
(1)上記各実施形態においては、バクテリアセルロースゲルに導入する金属として、Mo又はVを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。Mo、V、Ni、Mn又はRu以外の金属を用いることもできる。
【0075】
(2)上記各実施形態においては、溶媒置換法に用いる金属塩としてアンモニウム塩を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。アンモニウム塩以外の金属塩(例えば、硝酸塩、炭酸塩など)を用いることもできる。
【0076】
(3)上記各実施形態においては、酢酸菌により作製されたバクテリアセルロースを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。酢酸菌以外の菌により作製されたバクテリアセルロースを用いることができる。
【0077】
(4)上記各実施形態においては、本発明の金属酸化物担持炭素紙が、従来よりも一層容量の大きいキャパシターを製造可能とする金属酸化物担持炭素紙であることを示したが、本発明の効果はこれに限定されるものではない。本発明の金属酸化物担持炭素紙においては、従来よりも性能の高い二次電池、燃料電池、空気電池、各種触媒などを製造可能とするという効果も得られる。
図1
図2
図3
図7
図8
図12
図4
図5
図6
図9
図10
図11