特許第6037813号(P6037813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6037813多層グラフェン製造用圧延銅箔、及び多層グラフェンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037813
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】多層グラフェン製造用圧延銅箔、及び多層グラフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20161128BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20161128BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20161128BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20161128BHJP
   C22C 9/05 20060101ALI20161128BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20161128BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20161128BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20161128BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20161128BHJP
【FI】
   C01B31/02 101Z
   C22C9/02
   C22C9/00
   C22C9/04
   C22C9/05
   C22C9/06
   C22C9/10
   !C22F1/08 A
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 641A
   !C22F1/00 671
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-273094(P2012-273094)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-118314(P2014-118314A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】千葉 喜寛
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−107921(JP,A)
【文献】 特開2005−219954(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165051(WO,A1)
【文献】 再公表特許第2012/165548(JP,A1)
【文献】 特開2012−183581(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/008789(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線光電子分光により、表面に有機ケイ素化合物の構造を持つSi又はTi-O-Cの構造を持つ有機チタネートからなるTiが0.1原子%以上存在する多層グラフェン製造用圧延銅箔。
【請求項2】
前記表面がシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤で処理されている請求項1に記載の多層グラフェン製造用圧延銅箔。
【請求項3】
JIS-H3100に規格するタフピッチ銅、JIS−H3100に規格する無酸素銅、JIS−H3510に規格する無酸素銅、又は前記タフピッチ銅若しくは前記無酸素銅に対してSn及びAgの群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.0001質量%以上0.05質量%以下含有する組成からなる請求項1又は2に記載の多層グラフェン製造用圧延銅箔。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の多層グラフェン製造用圧延銅箔を用いた多層グラフェンの製造方法であって、
所定の室内に、加熱した前記多層グラフェン製造用圧延銅箔を配置すると共に水素ガスと炭素含有ガスを供給し、前記グラフェン製造用圧延銅箔の表面に多層グラフェンを形成する多層グラフェン形成工程と、
前記多層グラフェンの表面に転写シートを積層し、前記多層グラフェンを前記転写シート上に転写しながら、前記多層グラフェン製造用圧延銅箔をエッチング除去する多層グラフェン転写工程と、を有する多層グラフェンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層グラフェンを製造するための圧延銅箔、及び多層グラフェンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトは平らに並んだ炭素6員環の層がいくつも積み重なった層状構造をもつが、その単原子層〜数原子層程度のものはグラフェン又はグラフェンシートと呼ばれる。グラフェンシートは独自の電気的、光学的及び機械的特性を有し、特にキャリア移動速度が高速である。そのため、グラフェンシートは、例えば、燃料電池用セパレータ、透明電極、表示素子の導電性薄膜、無水銀蛍光灯、コンポジット材、ドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリアなど、産業界での幅広い応用が期待されている。
【0003】
グラフェンシートを製造する方法として、グラファイトを粘着テープで剥がす方法が知られているが、得られるグラフェンシートの層数が一定でなく、大面積のグラフェンシートが得難く、大量生産にも適さないという問題がある。
そこで、シート状の単結晶グラファイト化金属触媒上に炭素系物質を接触させた後、熱処理することによりグラフェンシートを成長させる技術(化学気相成長(CVD)法)が開発されている(特許文献1)。この単結晶グラファイト化金属触媒としては、Ni、Cu、Wなどの金属基板が記載されている。
同様に,NiやCuの金属箔やSi基板上に形成した銅層上に化学気相成長法でグラフェンを製膜する技術が報告されている。なお,グラフェンの製膜は1000℃程度で行われる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−143799号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SCIENCE Vol.324 (2009) P1312-1314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のように単結晶の金属基板を製造することは容易でなく極めて高コストであり、又、大面積の基板が得られ難く、ひいては大面積のグラフェンシートが得難いという問題がある。一方,非特許文献1には、Cuを基板として使用することが記載されているが,Cu箔上では短時間にグラフェンが面方向に成長せず、Si基板上に形成したCu層を焼鈍で粗大粒として基板としている。これは、銅箔上にグラフェンの成長を妨げる段差が存在するためと考えられ、Cu層をSi基板上に形成する場合、グラフェンの大きさはSi基板サイズに制約され,製造コストも高い。一方、単結晶の銅は粒界が存在しないものの、高コストであると共に寸法も限られてしまう。
【0007】
又、Cu上へのグラフェンの成膜は、Cuの触媒作用を利用しているが、一旦Cu表面にグラフェンが付着すると、その部分のCuの触媒作用が消滅するので、グラフェンはCu表面に沿って横に成長する。このため、Cu表面に単層のグラフェンが成膜される。ところで、成膜されたグラフェンは、銅箔から剥離された後に、基板となるPETフィルム、金属板、セラミックス板等に転写されて使用されるが、グラフェン成膜時の欠陥、剥離及び転写の際に発生するオレ、シワ等の欠陥に起因して、単層グラフェンのシート抵抗を十分に低下させることは難しい。そのため、単層グラフェンを複数枚重ねて使用することにより、シート抵抗を低下させることが必要となる。しかしながら、この場合には個々の単層グラフェンを成膜するために多数の銅箔が必要となり、製造コストの低減を図ることが困難となる。
そこで、銅箔上に多層グラフェンを一度に成膜できれば、シート抵抗の低いグラフェンを低コストで生産できることになる。
従って、本発明は、多層グラフェンを低コストで生産可能な多層グラフェン製造用圧延銅箔及びそれを用いた多層グラフェンの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多層グラフェン製造用圧延銅箔は、X線光電子分光により、表面に有機ケイ素化合物の構造を持つSi又はTi-O-Cの構造を持つ有機チタネートからなるTiが0.1原子%以上存在する。
前記表面がシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤で処理されていることが好ましい。
JIS-H3100に規格するタフピッチ銅、JIS−H3100に規格する無酸素銅、JIS−H3510に規格する無酸素銅、又は前記タフピッチ銅若しくは前記無酸素銅に対してSn及びAgの群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.0001質量%以上0.05質量%以下含有する組成からなることが好ましい。
【0009】
本発明の多層グラフェンの製造方法は、前記多層グラフェン製造用圧延銅箔を用い、所定の室内に、加熱した前記多層グラフェン製造用圧延銅箔を配置すると共に水素ガスと炭素含有ガスを供給し、前記グラフェン製造用圧延銅箔の表面に多層グラフェンを形成する多層グラフェン形成工程と、前記多層グラフェンの表面に転写シートを積層し、前記多層グラフェンを前記転写シート上に転写しながら、前記多層グラフェン製造用圧延銅箔をエッチング除去する多層グラフェン転写工程と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多層グラフェンを銅箔上に低コストで生産可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る多層グラフェンの製造方法を示す工程図である。
図2】実施例2のグラフェンの断面のTEM像を示す図である。
図3】比較例3のグラフェンの断面のTEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る多層グラフェン製造用圧延銅箔及び多層グラフェンの製造方法について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0013】
<銅箔の組成>
銅箔としては、JIS-H3100(合金番号:C1100)に規格するタフピッチ銅(TPC)、又はJIS-H3510(合金番号:C1011)若しくはJIS−H3100(合金番号:C1020)に規格する無酸素銅(OFC)を用いることができる。上記TPC又はOFCを用いることで、銅箔が比較的高純度となりやすい。
なお、銅箔の純度が99.999%を超える高純度の場合、常温で軟化し、圧延集合組織の制御が困難であるという傾向にある。
【0014】
又、これらタフピッチ銅又は無酸素銅に対し、Sn及びAgの群から選ばれる1種以上の元素を合計で0.050質量%以下含有する組成を用いることもできる。上記元素を含有すると、銅箔の強度が向上し適度な伸びを有すると共に、上記元素を含有しない場合に比べて結晶方位をより適切なものにすることが出来る。上記元素の含有割合が合計で0.050質量%を超えると強度は更に向上するものの、伸びが低下して加工性が悪化する場合がある。より好ましくは上記元素の含有割合が合計で0.04質量%以下であり、更に好ましくは合計で0.03質量%以下であり、最も好ましくは合計で0.02質量%以下である。
なお、上記元素を合計した含有割合の下限は特に制限されないが、例えば0.0001質量%を下限とすることができる。上記元素の含有割合が0.0001質量%未満であると、含有割合が小さいためその含有割合を制御することが困難になる場合がある。好ましくは、上記元素の含有割合の下限値は0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上、更に好ましくは0.004質量%以上、最も好ましくは0.005質量%以上である。また、結晶方位に大きな影響を与えない範囲(例えば濃度で0.1質量%以下)で、Ag、Sn、Ni、Si、P、Mg、Zr、Cr、Mn、Co、Zn、Ti、V及びBの群から選ばれる1種以上の元素を添加してもよいが、添加元素はこれらに限られない。
【0015】
<銅箔の厚み>
銅箔の厚みは特に制限されないが、一般的には5〜150μmである。さらに、ハンドリング性を確保しつつ、後述するエッチング除去を容易に行うため、銅箔基材の厚みを12〜50μmとすると好ましい。銅箔基材の厚みが12μm未満であると、破断し易くなってハンドリング性に劣る場合があり、厚みが50μmを超えるとエッチング除去がし難くなる場合がある。
なお、銅箔の厚みと、銅箔を冷間圧延して製造する際の油膜当量との間に一定の関係を有するよう、油膜当量を調整すると好ましい。なお、最終冷間圧延の最終パスの油膜当量と、最終パスの1つ前のパスの油膜当量がいずれも、最終的な圧延銅箔の板厚に対して以下の関係式を満たすとよい。具体的には、6000≦油膜当量≦60000、かつ、0.0006×油膜当量+1≦(銅箔の厚み)≦0.0006×油膜当量+38、で表される関係式を満たすとよい。
銅箔の厚みと油膜当量が上記関係式を満たせば、圧延銅箔が150以上の光沢度を有するようになり、その表面においてグラフェンの成長が促進される。
【0016】
<銅箔表面のSi又はTi>
本発明者らは、圧延銅箔上に多層グラフェンを成長させるための因子について検討し、銅箔表面にSi又はTiが存在すると、グラフェン成膜の起点となり、多層グラフェンを製造できることを見出した。
このようなことから、本発明の多層グラフェン製造用圧延銅箔は、X線光電子分光により、表面にSi又はTiが0.1原子%以上存在する。銅箔表面のSi又はTiの量が0.1原子%未満であると、グラフェン成膜の起点が減少し、多層グラフェンが成長せずに単層グラフェンとなる。
特に、多層グラフェンを均一に成長させるためには、Si又はTiを銅箔上に微細かつ均一に分布させることが好ましく、この点でシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤で銅箔表面を処理するとよい。シランカップリング剤は有機ケイ素化合物であり、例えば、ジアミノシラン、エポキシシラン、TEOS(テトラエトキシシラン)、アルコキシシリルアルキルチオール等が挙げられるが、これらに限定されず、公知のシランカップリング剤を使用できる。
チタネートカップリング剤は、Ti-O-Cの構造を持つ有機チタネートであり、アルコキシチタニウムエステル、チタニウムキレートおよびチタニウムアシレートが挙げられる。チタネートカップリング剤として具体的には、オルトチタン酸テトラメチルが挙げられるが、これらに限定されず、公知のチタネートカップリング剤を使用できる。
【0017】
<銅箔の60度光沢度>
銅箔表面の圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度(JIS Z 8741)が共に130%以上であることが好ましい。
後述するように、本発明のグラフェン製造用圧延銅箔を用いてグラフェンを製造した後、銅箔から転写シートへグラフェンを転写する必要があるが、銅箔の表面が粗いと転写がし難く、グラフェンが破損する場合があることがわかった。そこで、銅箔の表面凹凸が平滑であることが好ましい。
なお、圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度の上限は特に制限されないが、500%未満とすれば銅箔基材の製造時に圧延加工度等の製造条件を厳密に規定しなくてもよく、製造の自由度が高くなるので好ましい。又、圧延平行方向及び圧延直角方向の60度光沢度の上限は実用上、800%程度である。
又、このように転写シートへグラフェンを転写し易くするため、圧延平行方向の銅箔表面の算術平均粗さRaが0.22μm以下であることが好ましい。
【0018】
以上のように規定したグラフェン製造用圧延銅箔を用いることで、多層グラフェンを低コストで、かつ高い歩留りで生産することができる。
【0019】
<多層グラフェン製造用圧延銅箔の製造>
本発明の実施形態に係る多層グラフェン製造用圧延銅箔は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、所定の組成の銅インゴットを製造し、熱間圧延を行った後に冷間圧延を行い、その後、焼鈍と冷間圧延を繰り返し、圧延板を得る。この圧延板を焼鈍して再結晶させ,所定の厚みまで最終冷間圧延して銅箔基材を得る。そして、この銅箔基材の表面を、シランカップリング剤又はチタネートカップリング剤で処理することで、表面にSi又はTiを0.1原子%以上存在させることができる。
ここで、最終冷間圧延において、最終パスの油膜当量と、最終パスの1つ前のパスの油膜当量がいずれも、最終的な圧延銅箔の板厚に対して上述の関係式を満たすと好ましい。なお、最終パスの油膜当量と、最終パスの1つ前のパスの油膜当量とは同じ値である必要はない。圧延銅箔は一般に油潤滑のもと高速で加工され、潤滑油膜が厚くなるほどせん断帯変形が支配的になりやすい。また、銅箔の板厚が厚いほど、圧延時の銅箔の変形速度が大きくなる傾向にある。そして、せん断帯の存在の程度と、圧延時の銅箔の変形速度との影響によるものと考えられる。
【0020】
油膜当量は下記式で表される。
油膜当量={(圧延油粘度、40℃の動粘度[cSt])×(通板速度[mpm]+ロール周速度[mpm])}/{(ロールの噛み込み角[rad])×(材料の降伏応力[kg/mm2])}で求められる。
油膜当量を25,000以下とするためには、低粘度の圧延油を用いたり、通板速度を遅くしたりする等、公知の方法を用いればよい。
【0021】
<多層グラフェンの製造方法>
次に、図1を参照し、本発明の実施形態に係る多層グラフェンの製造方法について説明する。
まず、室(真空チャンバ等)100内に、上記した本発明の多層グラフェン製造用圧延銅箔10を配置し、多層グラフェン製造用圧延銅箔10をヒータ104で加熱すると共に、室100内を減圧又は真空引きする。そして、ガス導入口102から室100内に炭素含有ガスGを水素ガスと共に供給する(図1(a))。炭素含有ガスGとしては、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、エチレン、アセチレン等が挙げられるがこれらに限定されず、これらのうち1種又は2種以上の混合ガスとしてもよい。又、多層グラフェン製造用圧延銅箔10の加熱温度は炭素含有ガスGの分解温度以上とすればよく、例えば1000℃以上とすることができる。又、室100内で炭素含有ガスGを分解温度以上に加熱し、分解ガスを多層グラフェン製造用圧延銅箔10に接触させてもよい。このとき、多層グラフェン製造用圧延銅箔10を加熱することで、多層グラフェン製造用圧延銅箔10の表面に分解ガス(炭素ガス)が接触し、多層グラフェン製造用圧延銅箔10の表面に多層グラフェン20を形成する(図1(b))。
【0022】
そして、多層グラフェン製造用圧延銅箔10を常温に冷却し、多層グラフェン20の表面に転写シート30を積層し、多層グラフェン20を転写シート30上に転写する。次に、この積層体をシンクロール120を介してエッチング槽110に連続的に浸漬し、多層グラフェン製造用圧延銅箔10をエッチング除去する(図1(c))。このようにして、所定の転写シート30上に積層された多層グラフェン20を製造することができる。
さらに、多層グラフェン製造用圧延銅箔10が除去された積層体を引き上げ、多層グラフェン20の表面に基板40を積層し、多層グラフェン20を基板40上に転写しながら、転写シート30を剥がすと、基板40上に積層された多層グラフェン20を製造することができる。
【0023】
転写シート30としては、各種樹脂シート(ポリエチレン、ポリウレタン等のポリマーシート)を用いることができる。多層グラフェン製造用圧延銅箔10をエッチング除去するエッチング液としては、例えば硫酸溶液、過硫酸ナトリウム溶液、過酸化水素、及び過硫酸ナトリウム溶液又は過酸化水素に硫酸を加えた溶液を用いることができる。又、基板40としては、例えばSi、 SiC、Ni又はNi合金を用いることができる。
【実施例】
【0024】
<試料の作製>
表1、表2に示す組成の銅インゴットを製造し、熱間圧延を行った後に冷間圧延を行い、300〜800℃の温度に設定した焼鈍炉での焼鈍と冷間圧延を繰り返して1〜2mm厚の圧延板を得た。この圧延板を300〜800℃の温度に設定した焼鈍炉で焼鈍して再結晶させ,表1、表2の厚みまで最終冷間圧延し、銅箔を得た。さらに、この銅箔の表面に、表1、表2に示すシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤を塗布した後、80℃以上の熱風で乾燥させることにより、銅箔表面にSi又はTiを付着させた。水溶液中のシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤の濃度(vol %)を種々変更して塗布に用いた。
なお、表1、表2の「OFC」はJIS−H3100(JIS−H3510に規格する無酸素銅を表し、「TPC」はJIS-H3100に規格するタフピッチ銅を表す。
【0025】
ここで、最終冷間圧延の最終パス及び最終パスの1つ前のパスの油膜当量を表1、表2に示す値に調整した。
油膜当量は下記式で表される。
(油膜当量)={(圧延油粘度、40℃の動粘度;cSt)×(圧延速度;m/分)}/{(材料の降伏応力;kg/mm2)×(ロール噛込角;rad)}
【0026】
<銅箔表面のSi又はTiの付着量>
表面処理後の銅箔表面を、X線光電子分光により分析し、Si又はTiの付着量(原子%)を求めた。X線光電子分光(XPS)装置としては、アルバック ファイ株式会社製の型番5600MCを用い、到達真空度:2.0×10-9 Torr、励起源:単色化 AlKα、出力:210W、検出面積:800μmφ、入射角:45度、取り出し角:45度、中和銃なし、の条件で測定した。
<光沢度の測定>
各実施例及び比較例の銅箔の最終冷間圧延後の表面の60度光沢度を測定した。
60度光沢度は、JIS−Z8741に準拠した光沢度計(日本電色工業製、商品名「PG-1M」)を使用して測定した。なお、表中のG60RD,G60TDはそれぞれ圧延平行方向、圧延直角方向の60度光沢度である。
【0027】
<表面粗さRaの測定>
各実施例及び比較例の銅箔の最終冷間圧延後の表面粗さRaを測定した。
表面粗さRaは、接触粗さ計(小坂研究所製、商品名「SE−3400」)を使用してJIS B0601に準拠した算術平均粗さ(Ra;μm)として測定した。測定基準長さ0.8mm、評価長さ4mm、カットオフ値0.8mm、送り速さ0.1mm/秒の条件で圧延方向と平行に測定位置を変えて10回行ない、10回の測定での平均値を求めた。
【0028】
<グラフェンの製造>
各実施例及び比較例のグラフェン製造用圧延銅箔(縦横100X100mm)を真空チャンバーに設置し、1000℃に加熱した。真空(圧力:0.2Torr)下でこの真空チャンバーに水素ガスとメタンガスを供給し(供給ガス流量:10〜100cc/min)、銅箔を1000℃まで10分で昇温した後、1時間保持し、銅箔表面にグラフェンを成長させた。
各実施例について、上記条件でグラフェンの製造を10回行い、グラフェンのシート抵抗を測定すると共に、グラフェンの層構造を評価した。
グラフェンのシート抵抗は、10個の上記サンプルについて銅箔表面のグラフェンをPETフィルムに転写した後、4端子法によりグラフェンの抵抗値(シート抵抗:Ω/sq)を測定し、平均値を求めた。グラフェンの抵抗値が600Ω/sq以下であれば実用上問題はない。
グラフェンの層構造は、ラマン分光法によりグラフェンの表面を分析し、Gバンドと2Dバンドの検出ピークを測定して同定した。Gバンド(Graphite Band)はグラフェンを示し、Dバンド(Defect Band)は欠陥を示している。Dバンドの倍数である2Dバンドとのピークの比率(G/2D)によって層構造を判定する。具体的には、G/2D<0.3であれば、グラフェンが単層(表1、表2の「S」)であるとみなし、G/2D≧0.3であればグラフェンが多層(表1、表2の「D」)であるとみなす。
【0029】
得られた結果を表1、表2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表1、表2から明らかなように、表面にSi又はTiが0.1原子%以上存在する各実施例の場合、グラフェンのシート抵抗が低く、グラフェンの層構造も多層になった。
【0033】
一方、水溶液中のシランカップリング剤の濃度を低くして銅箔表面に塗布した比較例1、4、5場合、銅箔表面のSiの付着量が0.1原子%未満となり、グラフェンのシート抵抗が高くなったと共に、多層グラフェンが得られなかった。
銅箔表面にシランカップリング剤又はチタネートカップリング剤を塗布しなかった比較例3、及び銅箔表面にベンゾトリアゾールを塗布した比較例2、6、9、11の場合、銅箔表面にSiが存在せず、グラフェンのシート抵抗が高くなったと共に、多層グラフェンが得られなかった。
なお、図2図3は、それぞれ実施例2、比較例3のグラフェンの断面(各図の矢印の間)のTEM像を示す。実施例2のグラフェンの厚みが比較例3より厚く、多層になっていることがわかる。


【0034】
10 多層グラフェン製造用圧延銅箔
20 多層グラフェン
30 転写シート
図1
図2
図3