特許第6037893号(P6037893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6037893金属微粒子組成物、接合材、電子部品、接合層の形成方法、導体層の形成方法及びインク組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6037893
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】金属微粒子組成物、接合材、電子部品、接合層の形成方法、導体層の形成方法及びインク組成物
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/00 20060101AFI20161128BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20161128BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20161128BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20161128BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20161128BHJP
【FI】
   B22F9/00 B
   B22F7/04 D
   H01B1/22 A
   H01B13/00 503C
   C09D11/00
【請求項の数】16
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2013-36424(P2013-36424)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2014-162966(P2014-162966A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100107559
【弁理士】
【氏名又は名称】星宮 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松原 典恵
(72)【発明者】
【氏名】山本 義成
(72)【発明者】
【氏名】岡村 一人
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝弘
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−024191(JP,A)
【文献】 特開2004−273446(JP,A)
【文献】 特開2009−158273(JP,A)
【文献】 特開2011−178845(JP,A)
【文献】 特開2007−146117(JP,A)
【文献】 特開2012−207049(JP,A)
【文献】 特開平05−055075(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/018782(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0193034(US,A1)
【文献】 特開2010−202943(JP,A)
【文献】 特開2011−219862(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/031670(WO,A1)
【文献】 特開2013−043157(JP,A)
【文献】 特開2013−043158(JP,A)
【文献】 特開2013−043159(JP,A)
【文献】 特開2013−043160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分A〜C;
A)金属微粒子、
B)沸点が190〜280℃の範囲内にある溶媒、及び、
C)下記の一般式(1)又は(2)で表される官能基のいずれかを2つ有するエステル化合物、
を含有する金属微粒子組成物。
【化1】
[式(1)又は(2)中、基Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基又はベンジル基を示す。]
【請求項2】
前記エステル化合物が、酒石酸から誘導されるエステル化合物、マロン酸から誘導されるエステル化合物、クエン酸から誘導されるエステル化合物、又はトリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物である請求項1に記載の金属微粒子組成物。
【請求項3】
前記エステル化合物の分子量が、100〜500の範囲内にある請求項1又は2に記載の金属微粒子組成物。
【請求項4】
前記酒石酸から誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(I)で表される酒石酸誘導体である請求項2に記載の金属微粒子組成物。
【化2】
[式(I)中、基R11、基R12は、それぞれ独立して、置換されていてもよいフェニル基を意味する。]
【請求項5】
前記酒石酸から誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(II)で表される酒石酸誘導体である請求項2に記載の金属微粒子組成物。
【化3】
[式(II)中、基R21、基R22は、それぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を示す。]
【請求項6】
前記マロン酸から誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(III)で表されるマロン酸誘導体である請求項2に記載の金属微粒子組成物。
【化4】
[式(III)中、基Xは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を示し、基R31、基R32は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を示す。]
【請求項7】
前記クエン酸から誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体である請求項2に記載の金属微粒子組成物。
【化5】
[式(IV)中、基Xは水素原子又はアセチル基を示し、基R41,基R42,基R43はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を示す。]
【請求項8】
前記トリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体である請求項2に記載の金属微粒子組成物。
【化6】
[式(V)中、基R51、基R52は、それぞれ独立して、炭素数4〜6のアシル基を示す。]
【請求項9】
前記A成分の金属微粒子が、金属元素を90重量%以上含有し、全金属元素の100重量部に対し、ニッケル元素を50重量部以上含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属微粒子組成物。
【請求項10】
前記A成分の金属微粒子と前記B成分の溶媒との重量比(A/B)が、1〜19の範囲内である請求項1〜9のいずれか1項に記載の金属微粒子組成物。
【請求項11】
前記A成分の金属微粒子の一次粒子の平均粒子径が、50〜150nmの範囲内にある請求項10に記載の金属微粒子組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の金属微粒子組成物を含有し、前記A成分の金属微粒子の含有量が70〜90重量%の範囲内にある接合材。
【請求項13】
請求項12に記載の接合材により接合部分を形成した電子部品。
【請求項14】
請求項12に記載の接合材を、被接合部材の間に介在させて還元性ガスを含有する還元性ガス雰囲気下で300〜500℃の範囲内の温度に加熱することにより、被接合部材の間に接合層を形成することを特徴とする接合層の形成方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属微粒子組成物を、還元性ガスを含有する還元性ガス雰囲気下で300〜500℃の範囲内の温度で加熱し焼結することにより、導体層を形成することを特徴とする導体層の形成方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属微粒子組成物を含有し、前記A成分の金属微粒子の一次粒子の平均粒子径が10〜20nmの範囲内にあり、23℃における粘度が30mPa・s以下に調整されているインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品などの製造に利用可能な金属微粒子組成物、並びにこの金属微粒子組成物を利用した接合材、電子部品、接合層の形成方法、導体層の形成方法及びインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、バルク金属とは異なる物理的・化学的特性を有することから、様々な工業材料に利用されている。近年では、電子機器の小型化や薄型化に伴い、工業用の金属微粒子の粒子径も、数十〜数百nm程度まで微粒子化が進んでいる。例えば、比較的に安価で、高温での使用が可能なニッケル材料を利用した電子部品の接合材として、ニッケル又はニッケル合金により構成される金属微粒子と、該金属微粒子を被覆する酸素含有皮膜と、を備え、平均粒子径が100nm以下である金属ナノ粒子を含むものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、ニッケル微粒子が分散安定化しており、工業用インクジェットヘッドにて塗工が可能な組成物として、沸点190℃以上の溶媒に、平均一次粒子径が10〜20nmのニッケル粒子が分散され、炭化水素とポリカルボン酸から得られる脂肪酸エステル縮合体を含有するインクジェット組成物も提案されている(例えば、特許文献2)。
【0004】
工業材料に使用される金属微粒子は、その粒子径が例えば150nmを下回る程度に小さく、粒子径が均一で、かつ分散性に優れることが求められる。しかしながら、微粒子化が進むことで、表面エネルギーの増加により、金属微粒子が凝集し易くなる、という問題が生じている。
【0005】
金属微粒子を分散させるために用いる分散剤として、例えば多価カルボン酸を含む脂肪酸や不飽和脂肪酸などを含むアニオン系分散剤、高分子系イオン性分散剤、燐酸エステル系化合物などが知られている。これらの分散剤は、ある程度の分散効果が得られるものの、微粒子化の進行に伴い、数十〜数百nm程度の粒子径の金属微粒子に対しては、凝集を抑えることが十分にできていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2012/173187号パンフレット
【特許文献2】特開2011−178845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、金属微粒子が安定的に分散された金属微粒子組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属微粒子組成物は、次の成分A〜C;
A)金属微粒子、
B)沸点が190〜280℃の範囲内にある溶媒、
C)下記の一般式(1)又は(2)で表される官能基のいずれかを2つ有するエステル化合物、を含有する。
【0009】
【化1】
[式(1)又は(2)中、基Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基又はベンジル基を示す。]
【0010】
本発明の金属微粒子組成物は、前記エステル化合物が、酒石酸から誘導されるエステル化合物、マロン酸から誘導されるエステル化合物、クエン酸から誘導されるエステル化合物、又はトリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物であってもよい。
【0011】
本発明の金属微粒子組成物は、前記エステル化合物の分子量が、100〜500の範囲内にあってもよい。
【0012】
本発明の金属微粒子組成物は、前記酒石酸から誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(I)で表される酒石酸誘導体であってもよい。
【0013】
【化2】
[式(I)中、基R11、基R12は、それぞれ独立して、置換されていてもよいフェニル基を意味する。]
【0014】
本発明の金属微粒子組成物は、前記酒石酸から誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(II)で表される酒石酸誘導体であってもよい。
【0015】
【化3】
[式(II)中、基R21、基R22は、それぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基を示す。]
【0016】
本発明の金属微粒子組成物は、前記マロン酸から誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(III)で表されるマロン酸誘導体であってもよい。
【0017】
【化4】
[式(III)中、基Xは、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を示し、基R31、基R32は、それぞれ独立して、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基を示す。]
【0018】
本発明の金属微粒子組成物は、前記クエン酸から誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体であってもよい。
【0019】
【化5】
[式(IV)中、基Xは水素原子又はアセチル基を示し、基R41,基R42,基R43はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基を示す。]
【0020】
本発明の金属微粒子組成物は、前記トリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物が、下記の一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体であってもよい。
【0021】
【化6】
[式(V)中、基R51、基R52は、それぞれ独立して、炭素数4〜6のアシル基を示す。]
【0022】
本発明の金属微粒子組成物は、前記A成分の金属微粒子が、金属元素を90重量%以上含有し、全金属元素の100重量部に対し、ニッケル元素を50重量部以上含有するものであってもよい。
【0023】
本発明の金属微粒子組成物は、前記A成分の金属微粒子と前記B成分の溶媒との重量比(A/B)が、1〜19の範囲内であってもよい。
【0024】
本発明の金属微粒子組成物は、前記A成分の金属微粒子の一次粒子の平均粒子径が、50〜150nmの範囲内にあってもよい。
【0025】
本発明の接合材は、上記金属微粒子組成物を含有し、前記A成分の金属微粒子の含有量が70〜90重量%の範囲内にある。
【0026】
本発明の電子部品は、上記接合材により接合部分を形成したものである。
【0027】
本発明の接合層の形成方法は、上記接合材を、被接合部材の間に介在させて還元性ガスを含有する還元性ガス雰囲気下で300〜500℃の範囲内の温度に加熱することにより、被接合部材の間に接合層を形成する。
【0028】
本発明の導体層の形成方法は、上記いずれかの金属微粒子組成物を、還元性ガスを含有する還元性ガス雰囲気下で300〜500℃の範囲内の温度で加熱し焼結することにより、導体層を形成する。
【0029】
本発明のインク組成物は、上記いずれかの金属微粒子組成物を含有し、前記A成分の金属微粒子の一次粒子の平均粒子径が10〜20nmの範囲内にあり、23℃における粘度が30mPa・s以下に調整されている。
【発明の効果】
【0030】
本発明の金属微粒子組成物は、A成分の金属微粒子と、B成分の溶媒と、C成分の特定のエステル化合物と、を含有するため、金属微粒子の凝集が抑制され、単一粒子が分散した粒子径分布のシャープな金属微粒子の集合体となる。このように、凝集粒子が少なく、シャープな粒子径分布を持つ金属微粒子の集合体である金属微粒子組成物は、例えば、導電性ペーストや透明導電膜などの電極材料、接合材料、高密度記録材料、触媒材料、インクジェット用インク材料、センサー等の工業材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A】実施例1における焼成後のサンプルの倍率250,000倍のFE−SEM写真である。
図1B】実施例1における焼成後のサンプルの倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図2A】実施例2における焼成後のサンプルの倍率250,000倍のFE−SEM写真である。
図2B】実施例2における焼成後のサンプルの倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図3A】実施例3における焼成後のサンプルの倍率250,000倍のFE−SEM写真である。
図3B】実施例3における焼成後のサンプルの倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図4A】実施例4における焼成後のサンプルの倍率250,000倍のFE−SEM写真である。
図4B】実施例4における焼成後のサンプルの倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
図5A】参考例1における焼成後のサンプルの倍率250,000倍のFE−SEM写真である。
図5B】参考例1における焼成後のサンプルの倍率500,000倍のFE−SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
[金属微粒子組成物]
本発明の一実施の形態に係る金属微粒子組成物は、次の成分A〜C;
A)金属微粒子、
B)沸点が190〜280℃の範囲内にある溶媒、
C)下記の一般式(1)又は(2)で表される官能基のいずれかを2つ有するエステル化合物(以下、単に「エステル化合物」と記すことがある)、
を含有する。
【0033】
本実施の形態の金属微粒子組成物において、A成分の金属微粒子と、C成分のエステル化合物とは、複合体を形成していてもよい。ここで複合体とは、C成分のエステル化合物中の官能基と、A成分の金属微粒子の表面又は該表面に存在する官能基(例えば水酸基)との相互作用により、A成分の金属微粒子の周囲にC成分のエステル化合物が吸着又は付着した状態、あるいは化学的に結合した状態を意味する。このような複合体の形態をとることによって、C成分のエステル化合物が、A成分の金属微粒子に近接した状態をとるため、C成分のエステル化合物による分散効果が効果的に奏されるものと推測される。本実施の形態の金属微粒子組成物は、用途に応じて、例えばスラリー状、ペースト状、グリース状、ワックス状等の形態とすることができる。
【0034】
[A成分:金属微粒子]
A成分の金属微粒子を構成する金属は、例えば、ニッケル、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム等の卑金属、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム等の貴金属、これらの合金を挙げることができる。これらの中でも、例えば、A成分の金属微粒子としては、1気圧(101,325Pa)での融点が1000℃以上の金属元素を、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90重量%以上含有することがよい。1気圧(101,325Pa)での融点が1000℃以上の金属元素として、例えばニッケル(融点;1455℃)、コバルト(融点;1495℃)、鉄(融点;1535℃)、銅(融点;1083℃)、金(融点;1063℃)、白金(融点;1770℃)、パラジウム(融点;1550℃)、ロジウム(融点;1966℃)、イリジウム(融点;2454℃)、ルテニウム(融点;2500℃)、タングステン(融点;3390℃)、モリブデン(融点;2619℃)、バナジウム(融点;1730℃)、ニオブ(融点;2437℃)等が挙げられる。また、これらの中でも特に、後述する液相でのマイクロ波照射により製造することができる金属微粒子が特に好ましく、その場合の金属種としては、例えば、ニッケル、コバルト、銅、金、白金等が挙げられる。
【0035】
A成分の金属微粒子としては、ニッケルを主成分とする金属微粒子が最も好ましい。この場合、ニッケル元素の含有量は、その使用目的に応じて適宜選択すればよいが、全金属元素の100重量部に対し、ニッケル元素の量を、好ましくは50重量部以上、より好ましくは70重量部以上、更に好ましくは75重量部以上とすることがよい。
【0036】
A成分の金属微粒子は、上記金属元素を、単独で又は2種以上含有していてもよい。例えば、A成分の金属微粒子を構成する金属は、合金であってもよいし、あるいは、異種金属によるコア−シェル構造などの多層構造を有していてもよい。また、金属微粒子は、金属元素を85重量%以上、好ましくは90重量%以上含有し、また水素、炭素、窒素、硫黄等の金属元素以外の元素を含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。
【0037】
さらに、A成分の金属微粒子は、単一の金属微粒子で構成されていてもよく、2種以上の金属微粒子の混合物によって構成されていてもよい。
【0038】
A成分の金属微粒子の一次粒子の平均粒子径は、例えば1〜150nmの範囲内であることが好ましい。なお、本明細書において、一次粒子の平均粒子径は、実施例で用いた値を含めて、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission−Scanning Electron Microscope:FE−SEM)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として算出した値である。
【0039】
A成分の金属微粒子は、C成分のエステル化合物による分散効果を十分に発揮させるために、粒子径が150nm以下で粒子径分布が狭いこと、例えば、CV値が0.2以下であることが好ましい。
【0040】
A成分の金属微粒子は、その表面に酸素含有被膜を有していてもよい。酸素含有被膜としては、例えば酸化物被膜又は水酸化物被膜であることが好ましい。より具体的には、A成分の金属微粒子の表面には、酸素含有被膜として、例えば酸化ニッケル(NiO)又は水酸化ニッケル(Ni(OH))の被膜が形成されていてもよい。
【0041】
酸素含有被膜の厚みは、A成分の金属微粒子の凝集を効果的に抑制する観点から、例えば1〜8nmの範囲内であることが好ましい。なお、本明細書において、酸素含有被膜の厚みとは、無作為に200個抽出した金属微粒子の表面を、加速電圧300KVの透過型電子顕微鏡で観察し、コントラストの濃い格子面間隔からも金属微粒子と判別できる末端から、コントラストの薄い部分の末端までの長さを測定し、10個の金属微粒子における測定結果の平均を被膜の厚みとする。
【0042】
また、A成分の金属微粒子は、その表面に還元性有機物膜を有していてもよい。接合時の加熱条件下で、酸素含有被膜を還元し、接合部分(金属接合層)の導電性を確保する作用を有している。還元性有機物膜を構成する還元性有機物としては、アミン化合物またはカルボン酸を挙げることができる。より具体的には、アミン化合物として、例えばオレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。また、カルボン酸としては、例えばギ酸、シュウ酸、クエン酸、アスコルビン酸、アビエチン酸等を挙げることができる。
【0043】
A成分の金属微粒子は、酸素含有被膜と還元性有機物膜を有することにより、全体の重量に対して酸素を好ましくは0.9〜9.0重量%の範囲内、より好ましくは2.0〜6.5重量%の範囲内、炭素を好ましくは0.3〜2.5重量%の範囲内、より好ましくは0.5〜2.0重量%の範囲内で含有することがよい。酸素及び炭素の含有量を上記範囲内とすることで、A成分の金属微粒子の凝集を抑制し、接着強度を向上させることができる。酸素の含有量が上記上限を上回る場合には、金属微粒子の焼結温度が高くなる傾向になり、また、炭素の含有量が上記上限を上回る場合には、金属微粒子の焼結後に炭素が残留しやすく、本実施の形態の金属微粒子組成物を例えば接合材とした場合に接着強度が低下する傾向になる。
【0044】
[B成分:溶媒]
B成分の沸点が190〜280℃の範囲内にある溶媒としては、例えばウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカンなどの炭素数11以上の直鎖アルカン類や、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノールなどの炭素数8以上の脂肪族アルコール類を好ましく用いることが出来る。また、ターピネオールなどの炭素数10以上のテルペン系アルコールを用いることもできる。
【0045】
沸点が190℃以上の溶媒を用いることで、溶媒の揮発を抑制し、本実施の形態の金属微粒子組成物をペースト状の形態に保持することが容易となる。例えば、金属微粒子組成物の好ましい実施態様であるインク組成物をインクジェット方式で吐出させる場合、ピコリットル(pL)オーダーの微小液滴表面の乾燥を抑制し、安定化を図ることができる。一方、溶媒の沸点が280℃を超えてしまうと、焼結後にも溶媒が残留して導電性に影響を与える場合がある。
【0046】
[C成分:エステル化合物]
C成分のエステル化合物は、上記一般式(1)又は(2)で表される官能基のいずれかを2つ含有するエステル化合物である。これらの官能基が、A成分の金属微粒子の分散性向上に寄与する。また、式中の基Rは、それぞれ独立して、炭素数が1〜6のアルキル基、置換されていてもよいフェニル基又はベンジル基を示す。ここで、炭素数が1〜6、好ましくは2〜6のアルキル基としては、例えば直鎖又は枝分かれしたアルキル基がよい。また、置換されていてもよいフェニル基としては、例えばフェニル基、トリル基又はアニソイル基のいずれかが好ましい。エステル化合物の分子量は、好ましくは100〜500の範囲内、より好ましくは150〜450の範囲内がよい。
【0047】
C成分のエステル化合物としては、例えば、酒石酸から誘導されるエステル化合物、マロン酸から誘導されるエステル化合物、クエン酸から誘導されるエステル化合物、又はトリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物が好ましい。このようなエステル化合物の具体例としては、例えばジベンゾイル−D−酒石酸、ジベンゾイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−L−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、ジ−o−アニソイル−L−酒石酸、ジ−o−アニソイル−D−酒石酸、ジ−m−アニソイル−L−酒石酸、ジ−m−アニソイル−D−酒石酸、ジアセチル−L−酒石酸、ジアセチル−D−酒石酸、ジピバロイル−L−酒石酸、ジピバロイル−D−酒石酸、L−酒石酸ジイソプロピル、D−酒石酸ジイソプロピル、L−酒石酸ジ−n−ブチル、D−酒石酸ジ−n−ブチル、L−酒石酸ジメチル、D−酒石酸ジメチル、L−酒石酸ジエチル、D−酒石酸ジエチル、L−酒石酸ジベンジル、D−酒石酸ジベンジル、2,3−O−イソプロピリデン−L−酒石酸ジメチル、2,3−O−イソプロピリデン−D−酒石酸ジメチルなどの酒石酸から誘導されるエステル化合物、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジ−t−ブチル、マロン酸ジベンジル、マロン酸ベンジルメチル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジヘキシル、イソブチルマロン酸ジエチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチルなどのマロン酸から誘導されるエステル化合物、クエン酸トリメチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリプロピル、クエン酸トリブチル、O−アセチルクエン酸トリメチル、O−アセチルクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリプロピル、O−アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸から誘導されるエステル化合物、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートなどのトリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物が挙げられる。
【0048】
酒石酸から誘導されるエステル化合物は、上記一般式(I)で表される酒石酸誘導体が好ましい。一般式(I)中、基R11及び基R12で表される置換されていてもよいフェニル基としては、例えば、フェニル基、アルキル基で置換されていてもよいフェニル基、アルコキシ基で置換されていてもよいフェニル基等を挙げることができる。ここで、アルキル基としては、例えば炭素数1〜4の低級アルキル基が優れた分散効果を有するので好ましく、メチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数1〜4の低級アルコキシ基が優れた分散効果を有するので好ましく、メトキシ基がより好ましい。従って、置換されていてもよいフェニル基の具体例としては、フェニル基、o−、m−もしくはp−トリル基、又は、o−、m−もしくはp−アニソイル基が好ましく、これらの中でもo−、m−もしくはp−トリル基が最も好ましい。
【0049】
上記一般式(I)で表される酒石酸誘導体の好ましい具体例としては、ジベンゾイル−D−酒石酸、ジベンゾイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−p−アニソイル−L−酒石酸、ジ−p−アニソイル−D−酒石酸、ジ−o−アニソイル−L−酒石酸、ジ−o−アニソイル−D−酒石酸、ジ−m−アニソイル−L−酒石酸、ジ−m−アニソイル−D−酒石酸などを挙げることができる。これらの中でも、優れた分散効果を有するジ−p−トルオイル−L−酒石酸、ジ−p−トルオイル−D−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−o−4−トルオイル−D−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−L−酒石酸、ジ−m−4−トルオイル−D−酒石酸が最も好ましい。
【0050】
一般式(I)で表される酒石酸誘導体が、A成分の金属微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、A成分の金属微粒子と一般式(I)で表される酒石酸誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(I)で表される酒石酸誘導体は、分子内にカルボン酸から誘導された2つのエステル構造と、これらのエステル構造の形成にそれぞれ関与する2つの嵩高い又は疎水性の芳香環を有している。これらのエステル構造−芳香環が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、2つのエステル構造−芳香環によってA成分の金属微粒子との間に相互作用が生じ、A成分の金属微粒子の周囲に前記酒石酸誘導体が近接した状態で存在することによって、A成分の金属微粒子の表面の電気的性質を変化させ、あるいは立体的な障害によって、A成分の金属微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0051】
また、酒石酸から誘導されるエステル化合物は、上記一般式(II)で表される酒石酸誘導体が好ましい。一般式(II)中、基R21及び基R22で表される炭素数3〜6のアルキル基としては、例えばプロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基などを挙げることができる。これらの中でも、炭素数3〜6の分岐したアルキル基が優れた分散効果を有するので好ましく、その中でもイソプロピル基がより好ましい。
【0052】
上記一般式(II)で表される酒石酸誘導体の好ましい具体例としては、L−酒石酸ジイソプロピル、D−酒石酸ジイソプロピル、L−酒石酸ジ−n−ブチル、D−酒石酸ジ−n−ブチルなどを挙げることができる。これらの中でも、優れた分散効果を有するL−酒石酸ジイソプロピル、D−酒石酸ジイソプロピルが最も好ましい。
【0053】
一般式(II)で表される酒石酸誘導体が、金属微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、A成分の金属微粒子と一般式(II)で表される酒石酸誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(II)で表される酒石酸誘導体は、分子内にカルボン酸から誘導された2つのエステル構造と、これらのエステル構造の形成にそれぞれ関与する2つのアルキル基(好ましくは分岐したアルキル基)を有している。これらのエステル構造−アルキル基が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、2つのエステル構造−アルキル基によってA成分の金属微粒子との間に相互作用が生じ、A成分の金属微粒子の周囲に前記酒石酸誘導体が近接した状態で存在することによって、A成分の金属微粒子の表面の電気的性質を変化させ、A成分の金属微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0054】
また、マロン酸から誘導されるエステル化合物は、上記一般式(III)で表されるマロン酸誘導体が好ましい。一般式(III)中、基Xは水素原子であることが好ましく、基R31及び基R32は、それぞれ独立して、炭素数3〜6のアルキル基又はベンジル基であることが好ましい。ここで、炭素数3〜6のアルキル基としては、例えばプロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基などを挙げることができる。これらの中でも、炭素数3〜6の分岐したアルキル基が優れた分散効果を有するので好ましく、その中でも分岐したプロピル基又は分岐したブチル基がより好ましく、イソプロピル基、t−ブチル基が最も好ましい。
【0055】
上記一般式(III)で表されるマロン酸誘導体の好ましい具体例としては、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジ−t−ブチル、マロン酸ジベンジル、マロン酸ベンジルメチル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジヘキシルなどを挙げることができる。これらの中でも、優れた分散効果を有するマロン酸ジ−t−ブチル、マロン酸ジベンジルが最も好ましい。
【0056】
一般式(III)で表されるマロン酸誘導体が、A成分の金属微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、A成分の金属微粒子と一般式(III)で表されるマロン酸誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(III)で表されるマロン酸誘導体は、分子内にカルボン酸から誘導された2つのエステル構造と、これらのエステル構造の形成に関与する嵩高い又は疎水性の芳香環又はアルキル基(好ましくは分岐したアルキル基)を有している。このような構造が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、2つのエステル構造と、嵩高い又は疎水性の芳香環又はアルキル基(好ましくは分岐したアルキル基)によってA成分の金属微粒子との間に相互作用が生じ、A成分の金属微粒子の周囲に前記マロン酸誘導体が近接した状態で存在することによって、A成分の金属微粒子の表面の電気的性質を変化させ、あるいは立体的な障害によって、金属微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0057】
また、クエン酸から誘導されるエステル化合物は、上記一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体が好ましい。一般式(IV)中、基R41,基R42,基R43で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基を挙げることができる。また、クエン酸誘導体は、一般式(IV)中、基Xが水素原子であり、基R41,基R42,基R43が炭素数3〜6のアルキル基であるものが優れた分散効果を有するので好ましく、これらの中でも、炭素数3〜6の直鎖のアルキル基がより好ましく、その中でもブチル基が最も好ましい。
【0058】
上記一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体の好ましい具体例としては、クエン酸トリメチル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリプロピル、クエン酸トリブチル、O−アセチルクエン酸トリメチル、O−アセチルクエン酸トリエチル、O−アセチルクエン酸トリプロピル、O−アセチルクエン酸トリブチルなどを挙げることができる。これらの中でも、クエン酸トリブチル、O−アセチルクエン酸トリブチルが優れた分散効果を有するので最も好ましい。
【0059】
一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体が、A成分の金属微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、A成分の金属微粒子と一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(IV)で表されるクエン酸誘導体は、分子内にカルボン酸から誘導された3つのエステル構造と、これらのエステル構造の形成にそれぞれ関与する3つのアルキル基を有している。これらのエステル構造−アルキル基が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、3つのエステル構造−アルキル基によってA成分の金属微粒子との間に相互作用が生じ、A成分の金属微粒子の周囲に前記クエン酸誘導体が近接した状態で存在することによって、A成分の金属微粒子の表面の電気的性質を変化させ、A成分の金属微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0060】
また、トリメチルペンタンジオールから誘導されるエステル化合物は、上記一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体が好ましい。一般式(V)中、前記基R51及び基R52が、いずれも、分岐した炭素数4〜6のアシル基であることが優れた分散効果を有するので好ましく、基R51及び基R52が、ともにイソブタノイル基であることがより好ましい。
【0061】
上記一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体としては、優れた分散効果を有する2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラートが最も好ましい。
【0062】
一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体が、A成分の金属微粒子に対して優れた分散作用を有する理由は未だ明らかではないが、A成分の金属微粒子と一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体との間に、何らかの相互作用が生じているものと推測される。例えば、一般式(V)で表されるトリメチルペンタンジオール誘導体は、分子内に2つのエステル構造と、該エステル構造の形成に関与する嵩高い又は疎水性のアシル基(好ましくは分岐したアシル基)を有している。このような構造が分散作用に関与している可能性がある。すなわち、2つのエステル構造と、嵩高い又は疎水性のアシル基(好ましくは分岐したアシル基)によって、A成分の金属微粒子との間に相互作用が生じ、A成分の金属微粒子の周囲に前記トリメチルペンタンジオール誘導体が近接した状態で存在することによって、A成分の金属微粒子の表面の電気的性質を変化させ、あるいは立体的な障害によって、A成分の金属微粒子同士の凝集を抑制し、更には溶媒との親和性によって分散性を付与しているものと考えられる。ここで、相互作用としては、例えばイオン性結合、共有結合、静電結合、配位結合、水素結合等が考えられる。
【0063】
上記一般式(I)〜(V)で表されるエステル化合物の中でも、特に上記一般式(I)で表されるエステル化合物が好ましい。
【0064】
上記のエステル化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、発明の効果を損なわない範囲で、他の化合物からなる分散剤と組み合わせて使用することもできる。
【0065】
[含有量]
本実施の形態の金属微粒子組成物において、A成分〜C成分の含有比率は、その用途によって異なるが、例えば、A成分は1〜90重量%の範囲内、B成分は6〜98重量%、C成分は0.01〜40重量%の範囲内が好ましく、A成分は2〜90重量%の範囲内、B成分は7〜50重量%、C成分は0.4〜30重量%の範囲内がより好ましい。
【0066】
[金属微粒子組成物の調製方法]
本実施の形態の金属微粒子組成物の調製方法は、特に制限はなく、例えばA成分、B成分及びC成分を混合することによって調製できる。好ましくは、A成分の金属微粒子にC成分のエステル化合物を適用した後、B成分の溶媒を混合することが好ましい。
【0067】
A成分の金属微粒子にC成分のエステル化合物を適用する場合、例えば、a)金属微粒子に対して所定量のエステル化合物を添加し、混練分散させる方法、b)金属微粒子を液相法で合成した後で液相中に所定量のエステル化合物を添加する方法、c)高圧ホモジナイザーなどの分散機を用いて金属微粒子を機械的に解砕し、その解砕の前又は後に、所定量のエステル化合物を添加し分散させる方法など、様々な方法が挙げられる。なお、本実施の形態においてエステル化合物の添加方法は、特に制限はなく、そのまま金属微粒子に添加してもよいし、任意の溶媒に溶解した状態で金属微粒子に添加してもよい。
【0068】
C成分のエステル化合物は、強い凝集抑制作用を有することから、少量でも優れた分散効果が期待できる。従って、C成分のエステル化合物の使用量は、A成分の金属微粒子100重量部に対して0.1重量部以上40重量部以下の範囲内とすることが好ましく、1重量部以上30重量部以下の範囲内がより好ましい。A成分の金属微粒子100重量部に対するC成分のエステル化合物の使用量が0.1重量部未満では分散効果が十分に得られない傾向があり、40重量部を超えると、エステル化合物の残渣による凝集体が発生する傾向がある。また、上記の上限を超えてC成分のエステル化合物を過剰に使用すると、A成分の金属微粒子中に残留したエステル化合物によって製品に影響を与える場合がある。例えば、本実施の形態の金属微粒子組成物を、積層セラミックコンデンサーの内部電極層の製造に使用する場合、C成分のエステル化合物の使用量が過剰であると、製造工程おける焼成時の体積変化が大きくなり、剥離や膜切れの原因となる場合がある。従って、A成分の金属微粒子に、C成分のエステル化合物を適用した後、余剰のエステル化合物を洗浄して除去することが好ましい。洗浄は、例えばイソプロパノールなどのアルコール系溶媒を用いて行うことができる。
【0069】
次に、A成分の金属微粒子とC成分のエステル化合物との混合物に、B成分の溶媒を混合する。B成分の溶媒は適度な粘性を有するので、例えば、本発明の金属微粒子組成物をペースト状の形態にすることができる。
【0070】
本実施の形態では、C成分のエステル化合物を用いることによって、粒子径が150nm以下の微細な金属微粒子についても、凝集を抑制し、単一粒子が分散した粒子径分布のシャープな金属微粒子の集合体を得ることができる。また、C成分のエステル化合物は、強い凝集抑制作用を有することから、少量でも優れた分散効果が期待できる。さらに、余剰のエステル化合物を除去することで、焼成工程などで発生する揮発分を低減できる効果も得られる。
【0071】
[任意成分]
本実施の形態の金属微粒子組成物は、任意成分として、例えば、沸点が190℃未満の溶媒や、粘度調整剤、チキソ剤、還元剤、界面活性剤、高分子分散剤等を含有していてもよい。沸点が190℃未満の溶媒としては、例えばイソプロパノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、3−ヘプタノン、乳酸エチル、1−ブチロニトリル等が挙げられ、これらの溶媒は、C成分のエステル化合物による分散機能を向上させることができる。また、A成分の金属微粒子の液相合成に使用した1級アミンをそのまま溶媒として用いることもできる。
【0072】
以上述べたように、本実施の形態に係る金属微粒子組成物は、A成分の金属微粒子と、B成分の溶媒と、C成分のエステル化合物と、を含有することによって、C成分のエステル化合物による凝集抑制作用が奏される。従って、A成分の金属微粒子の凝集が抑制され、単一粒子が分散した粒子径分布のシャープな金属微粒子の集合体を含む組成物となる。このように、凝集粒子が少なく、シャープな粒子径分布を持つ金属微粒子の集合体である金属微粒子組成物は、例えば、導電性ペーストや透明導電膜などの電極材料、接合材料、高密度記録材料、触媒材料、インクジェット用インク材料、センサー等の工業材料として好適に用いることができる。
【0073】
[金属微粒子の製造方法]
次に、A成分の金属微粒子の製造方法について説明する。A成分の金属微粒子は、液相でのマイクロ波照射により製造することができる。そこで、A成分の金属微粒子がニッケル微粒子である場合を例に挙げ、液相でのマイクロ波照射による製造方法を説明する。ただし、A成分の金属微粒子の製造方法は、以下に説明する方法に限定されるものではなく、例えば気相法など他の方法を利用してもよい。
【0074】
ニッケル微粒子は、次の第1の工程及び第2の工程;
第1の工程)カルボン酸ニッケル及び1級アミンを含む混合物を、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して錯化反応液を得る錯化反応液生成工程、
及び、
第2の工程)該錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱して該錯化反応液中のニッケルイオンを還元し、ニッケル微粒子のスラリーを得るニッケル微粒子スラリー生成工程、
を含むマイクロ波照射による液相法により調製することができる。
【0075】
<第1の工程;錯化反応液生成工程>
第1の工程では、まず、カルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を調製する。
【0076】
(カルボン酸ニッケル)
カルボン酸ニッケル(カルボン酸のニッケル塩)は、カルボン酸の種類を限定するものではなく、例えば、カルボキシル基が1つのモノカルボン酸であってもよく、また、カルボキシル基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。このようなカルボン酸ニッケルとして、非環式モノカルボン酸ニッケルを好適に用いることができ、非環式モノカルボン酸ニッケルのなかでも、ギ酸ニッケル、酢酸ニッケル、プロピオン酸ニッケル、シュウ酸ニッケル、安息香酸ニッケル等を用いることがより好ましい。これらの非環式モノカルボン酸ニッケルを用いることによって、得られるニッケル微粒子は、その形状のばらつきが抑制され、均一な形状として形成されやすくなる。カルボン酸ニッケルは、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。
【0077】
なお、カルボン酸ニッケルに代えて、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等の無機塩や、Ni(acac)(β-ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成されるニッケル塩を用いてもよい。
【0078】
(1級アミン)
1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成することができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、ニッケル錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンはニッケルイオンの還元能を有しないため、いずれも単独では使用できないが、1級アミンを使用する上で、生成するニッケル微粒子の形状に支障を与えない範囲でこれらを併用することは差し支えない。1級アミンは、ニッケルイオンとの錯体を形成できるものであれば、特に限定するものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、ニッケル錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0079】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するニッケル微粒子の粒子径を制御することができ、特に平均粒子径が1nm〜150nmの範囲内にあるナノ粒子を製造する場合において有利である。ナノ粒子の粒子径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるナノ粒子の粒子径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。例えばオレイルアミンは、ニッケル微粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液で反応を効率的に進行できる。
【0080】
1級アミンは、ニッケル微粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる。また、1級アミンは、還元反応後に、生成したニッケル微粒子の固体成分と溶剤または未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミンは、ニッケル錯体を還元してニッケル微粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンにおいては沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましく、また、炭素数が9以上のものが好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミン[C21N(ノニルアミン)]の沸点は201℃である。1級アミンの量は、ニッケル1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましく、4mol以上用いることが望ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られるニッケル微粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは20mol以下とすることが好ましい。
【0081】
(有機溶媒)
第1の工程では、均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒をカルボン酸ニッケル及び1級アミンと同時に混合してもよいが、カルボン酸ニッケル及び1級アミンを先ず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、1級アミンが効率的にニッケル原子に配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンとニッケルイオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。
【0082】
(錯形成)
2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換により錯形成が変化する可能性がある。例えばカルボン酸ニッケルおよび1級アミンの混合物を熱処理して反応液を得る工程において、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、カルボン酸イオン(RCOO、RCOO)が二座配位または単座配位のいずれかで配位する可能性があり、さらにアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する構造をとる可能性がある。目的とする反応温度(還元温度)に於いて均一溶液とするには、配位子のうち少なくとも一箇所は1級アミンが配位している必要がある。その状態をとるには、1級アミンが過剰に反応溶液内に存在している必要があり、少なくともニッケルイオン1molに対し2mol以上存在していることが好ましく、2.2mol以上存在していることがより好ましく、4mol以上存在していることが望ましい。
【0083】
この錯形成反応は室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、100℃〜165℃の範囲内の温度に加熱して反応を行う。この加熱は、カルボン酸ニッケルとして、例えばギ酸ニッケル2水和物や酢酸ニッケル4水和物のようなカルボン酸ニッケルの水和物を用いた場合に特に有利である。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、カルボン酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、錯体配位子としての水分子を解離させることができ、さらにその水を系外に出すことができるので効率よくアミンとの錯体を形成させることができる。例えば、ギ酸ニッケル2水和物は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個のギ酸イオンが存在した錯体構造をとっているため、この2つの配位水と1級アミンの配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱することでこの錯体配位子としての水分子を解離させることが好ましい。また、カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応における熱処理は、後に続くニッケル錯体(又はニッケルイオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、前記の錯形成反応を完結させるという観点から、上記の上限温度以下とし、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下とすることがよい。
【0084】
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を完結させるという観点から、10分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間熱処理することはエネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0085】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応は、カルボン酸ニッケルと1級アミンとを有機溶媒中で混合して得られる溶液を加熱したときに、溶液の色の変化によって確認することができる。また、この錯形成反応は、例えば紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの吸収極大の波長を測定し、原料の極大吸収波長(例えばギ酸ニッケル2水和物ではその極大吸収波長は710nmであり、酢酸ニッケル4水和物ではその極大吸収波長は710nmである。)に対する錯化反応液のシフト(極大吸収波長が600nmにシフト)を観測することによって確認することができる。
【0086】
カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成が行われた後、得られる反応液を、次に説明するように、マイクロ波照射によって加熱することにより、ニッケル錯体のニッケルイオンが還元され、ニッケルイオンに配位しているカルボン酸イオンが同時に分解し、最終的に酸化数が0価のニッケルを含有するニッケル微粒子が生成する。一般にカルボン酸ニッケルは水を溶媒とする以外の条件では難溶性であり、マイクロ波照射による加熱還元反応の前段階として、カルボン酸ニッケルを含む溶液は均一反応溶液とする必要がある。これに対して、本実施の形態で使用される1級アミンは、使用温度条件で液体であり、かつそれがニッケルイオンに配位することで液化し、均一反応溶液を形成すると考えられる。
【0087】
<第2の工程;ニッケル微粒子スラリー生成工程>
本工程では、カルボン酸ニッケルと1級アミンとの錯形成反応によって得られた錯化反応液を、マイクロ波照射によって170℃以上の温度に加熱し、錯化反応液中のニッケルイオンを還元してニッケル微粒子スラリーを得る。マイクロ波照射によって加熱する温度は、得られるニッケル微粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上とすることがよい。加熱温度の上限は特にないが、処理を能率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。なお、マイクロ波の使用波長は、特に限定するものではなく、例えば2.45GHzである。なお、加熱温度は、例えばカルボン酸ニッケルの種類やニッケル微粒子の核発生を促進させる添加剤の使用などによって、適宜調整することができる。
【0088】
本工程では、マイクロ波が反応液内に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、反応液全体を所望の温度に均一にすることができ、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元、核生成、核成長各々の過程を溶液全体において同時に生じさせ、結果として粒子径分布の狭い単分散な粒子を短時間で容易に製造することができる。
【0089】
均一な粒子径を有するニッケル微粒子を生成させるには、第1の工程の錯化反応液生成工程(ニッケル錯体の生成が行われる工程)でニッケル錯体を均一にかつ十分に生成させることと、第2の工程のマイクロ波照射によって加熱する工程で、ニッケル錯体(又はニッケルイオン)の還元により生成するニッケル(0価)の核の同時発生・成長を行う必要がある。すなわち、錯化反応液生成工程の加熱温度を上記の特定の範囲内で調整し、ニッケル微粒子スラリー生成工程におけるマイクロ波による加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒子径・形状の整った粒子が生成し易い。例えば、錯化反応液生成工程で加熱温度が高すぎるとニッケル錯体の生成とニッケル(0価)への還元反応が同時に進行し異種の金属種が発生することで、ニッケル微粒子スラリー生成工程での粒子形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、ニッケル微粒子スラリー生成工程の加熱温度が低すぎるとニッケル(0価)への還元反応速度が遅くなり核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、ニッケル微粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0090】
マイクロ波照射によって加熱して得られるニッケル微粒子スラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、ニッケル微粒子が得られる。ニッケル微粒子スラリー生成工程においては、必要に応じ、前述した有機溶媒を加えてもよい。なお、前記したように、錯形成反応に使用する1級アミンを有機溶媒としてそのまま用いることが好ましい。
【0091】
(表面修飾剤)
本実施の形態では、金属微粒子の製造において、金属微粒子の粒径を制御するための表面修飾剤として、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド等の高分子樹脂、ミリスチン酸、オレイン酸等の長鎖カルボン酸またはカルボン酸塩等を添加することができる。ただし、金属微粒子の表面修飾量が多いと、最終的に得られる金属微粒子組成物をニッケル電極用の導電性ペーストに用いる場合、該組成物をペーストして高温で焼成すると充填密度の減少を招き、層間剥離やクラックを生じる可能性がある。このため、金属微粒子の段階では、洗浄した後の表面修飾量は可能な限り少ない方が好ましい。表面修飾剤は、第1の工程のカルボン酸ニッケル及び1級アミンの混合物の段階で添加してもよく、第1の工程で得られる錯化反応液に添加してもよい。
【0092】
以上のようにして、A成分の金属微粒子として、平均粒子径が150nm以下、かつ粒子径分布の狭いニッケル微粒子を調製することができる。なお、ニッケル以外の金属や合金を材料とする場合も、上記方法に準じて行うことができる。
【0093】
次に、本発明の金属微粒子組成物の好ましい実施の形態として、(1)接合材及び接合層の形成方法、(2)電子部品、(3)導体層の形成方法、並びに、(4)インク組成物について説明する。
【0094】
[接合材及び接合層の形成方法]
接合材は、次の成分A〜C;
)一次粒子の平均粒子径が50nm以上150nm以下の範囲内である金属微粒子、
B)沸点が190〜280℃の範囲内にある溶媒、
C)上記の一般式(1)又は(2)で表される官能基のいずれかを2つ有するエステル化合物、を含有することができる。
【0095】
本実施の形態の接合材は、C成分のエステル化合物によってA成分の金属微粒子が均一な分散状態を維持できるため、ペースト状態の接合材を塗布した場合の平坦性が高く、接合層のシェア強度を十分に高くすることができる。また、C成分のエステル化合物は、低分子量であり、熱分解しやすいことから、焼成後に残炭が残りにくく、接合層の導電性を高めることができる。
【0096】
本実施の形態の接合材は、焼結させて形成される接合層のシェア強度を十分に高くするため、A成分の金属微粒子として、一次粒子の平均粒子径が50nm以上150nm以下の範囲内であるものを用いることが好ましい。A成分の金属微粒子の一次粒子の平均粒子径が上記範囲より小さいと接合時の加熱で焼結しやすいが、酸素を取り込みやすくなるという欠点がある。一方、A成分の金属微粒子の一次粒子の平均粒子径が大きいと、加熱時に焼結しにくいが、酸素の取り込みを抑制できるという側面がある。また、接合材としての密度を高くして接着性をより高めるという観点からも、A成分の金属微粒子は、粒子径が大きいものと小さいものとを組み合わせることが好ましい。
【0097】
また、接合材は、ペースト状の形態を維持するため、A成分の金属微粒子の含有量が接合材全量の70〜90重量%の範囲内にあることが好ましい。A成分の含有量が70重量%未満では、例えば塗布などを複数回繰り返す必要が生じてムラの原因となり、また十分な接合強度が得られない場合があり、90重量%を超えると、流動性が低下して接合材としての使用性が低下する場合がある。また、接合材用途においては、ペースト状の形態を維持するため、A成分の金属微粒子とB成分の溶媒との重量比(A/B)は、1〜19の範囲内であることが好ましい。
【0098】
接合材による接合は、例えば、接合材を一対の被接合部品の片方又は両方の被接合面に塗布する工程(塗布工程)、被接合面どうしを貼り合せ、例えば温度300℃以上500℃以下の範囲内、好ましくは320℃以上480℃以下、より好ましくは350℃以上450℃以下に加熱することにより、接合材を焼結させる工程(加熱工程)、並びに、焼結した接合材を冷却することにより固化し、金属接合層を形成する工程(固化工程)、を含むことができる。
【0099】
接合材を塗布する塗布工程では、例えばスプレー塗布、インクジェット塗布、印刷等の方法を採用できる。接合材は、目的に応じて、例えばパターン状、アイランド状、メッシュ状、格子状、ストライプ状など任意の形状に塗布することができる。塗布工程では、接合後の固化した接合部分(金属接合層)の厚みが120nm以上となるように、接合材を塗布することが好ましい。このような厚みで塗布をすることで、接合部分の欠陥を少なくできるため、電気抵抗の上昇や接合強度の低下を防止できる。
【0100】
加熱工程では、接合材が焼結し、均一で強固な接着力を持つ金属接合層を形成することができる。また、還元性有機物膜を備えた金属微粒子では、酸素含有被膜を構成する金属酸化物や金属水酸化物が還元性有機物の作用で還元されるため、金属接合層中に酸素が入りこむことが抑制され、金属接合層の導電性が確保される。接合のための加熱温度は、十分な接合強度を得るために、300℃以上が好ましく、320℃以上がより好ましく、350℃以上が更に好ましい。また、加熱温度が500℃超では、周辺回路もしくは電極への損傷が懸念されるので、加熱温度の上限は500℃以下が好ましく、450℃以下がより好ましい。
【0101】
接合材による接合層の形成は、例えばHなどの還元性ガスが存在する雰囲気で行うことが好ましい。また、減圧することで、ボイド発生を抑制する効果が得られ、例えば大気圧の95%以下の圧力でその効果が確認される。また、接合面を貼り合わせる際には、必要に応じて加圧することができる。
【0102】
接合材中のA成分の金属微粒子が焼結して形成される接合部分(金属接合層)の厚みは、例えば120nm以上が好ましい。接合部分の厚みがこれよりも薄い場合は、接合部分の欠陥が多くなり、電気抵抗の上昇や、強度の低下を引き起こす原因となる。なお、接合部分(金属接合層)は、熱応力緩和を必要とする用途に適用する場合には、ボイドを有してもよい。
【0103】
以上の接合材、接合構造と接合条件は、例えば、Si、SiCの半導体材料ほか、金属材料などの接合にも利用できる。特に蝋材や溶接による接合で、熱影響部における母材の劣化がみられる場合に本実施の形態の接合材を使用して低温で接合することが好適である。例えば、本実施の形態の接合材は、450℃以上又は800℃以上での加熱により、回復や再結晶等により強度低下する焼き入れ鋼、ステンレス鋼、加工硬化により強化された金属材料、熱酸化や熱ひずみにより劣化する無機材料や金属材料の接合に適している。被接合体は管、板、継手、ロッド、ワイヤ、ボルトなどがあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0104】
[電子部品]
本実施の形態の電子部品は、上記接合材を使用して、接合部分(金属接合層)を形成したものである。ここで、電子部品としては、主に半導体装置、エネルギー変換モジュール部品などを例示できる。電子部品が半導体装置である場合、接合材は、例えば、半導体素子の裏面と基板との間、半導体電極と基板電極との間、半導体電極と半導体電極との間、パワーデバイス若しくはパワーモジュールと放熱部材との間などの接合に適用できる。
【0105】
電子部品を接合させる際は、接合強度を高めるため、予め被接合面の片方又は両方に、例えば、Au,Cu,Pd,Ni,Ag,Cr,Tiあるいはそれらの合金などの材質の接触金属層を設けておくことが好ましい。また、被接合面の材質が、SiCもしくはSiあるいはそれらの表面の酸化膜である場合は、例えばTi,TiW,TiN,Cr,Ni、Pd,Vあるいはそれらの合金などの材質の接触金属層を設けておくことが好ましい。接触金属層の膜厚は、それぞれ、例えば50nm以上2μm以下の範囲内であることが好ましい。接触金属層の厚みが50nm未満では、欠陥が生じやすく、2μm超では蒸着工程が長くなり、生産効率が低下することがある。
【0106】
[導体層の形成方法]
本実施の形態の金属微粒子組成物を、還元性ガスを含有する還元性ガス雰囲気下で300〜500℃の範囲内の温度で加熱し焼結することにより、導体層を形成することができる。焼結条件は、上記接合層の形成方法の条件と同様である。
【0107】
[インク組成物]
インク組成物は、次の成分A〜C;
)一次粒子の平均粒子径が10nm以上20nm以下の範囲内である金属微粒子、
B)沸点が190〜280℃の範囲内にある溶媒、
C)上記の一般式(1)又は(2)で表される官能基のいずれかを2つ有するエステル化合物、を含有することができる。
本発明の金属微粒子組成物を、好ましい態様であるインク組成物とする場合、A成分の金属微粒子は、一次粒子の平均粒子径が10〜20nmの範囲内にあるものを用いることが好ましい。一次粒子の平均粒子径が20nmよりも大きな金属微粒子でもインクジェット吐出は可能であるが、インクジェットヘッドのノズル詰まりを防ぎ、連続的な安定吐出を可能にするためには、一次粒子の平均粒子径が20nm以下であることが好ましい。また、一次粒子の平均粒子径が20nm以下であると、吐出後の細線描画が可能であり、かつ緻密な平坦膜を得ることができる。一方、一次粒子の平均粒子径が10nm未満の小さい金属微粒子であってもインクジェット用インクとして利用できるが、実用性と量産性を考慮して下限を10nmとする。
【0108】
本実施の形態のインク組成物の調製方法は、まず、A成分の金属微粒子と第1の有機溶媒とを含有するスラリー溶液を準備する。このスラリー溶液に、2級又は3級アミノ基を有する非水系高分子分散剤(以下、「非水系高分子分散剤」と略称する。)を添加し、A成分の金属微粒子の表面を被覆する。ここで、第1の有機溶媒は、非水系高分子分散剤との親和性又は非水系高分子分散剤の溶解性を向上させるという観点から、炭化水素系有機溶媒、炭素数が6以上の高級アルコール、エステル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒が好ましい。
【0109】
非水系高分子分散剤は、主骨格に低極性溶媒との親和性が高く、低極性基を有する高分子化合物であり、更に官能基としてアミノ基を有するものである。このような高分子化合物は、例えばポリアミド系、ポリアリルアミン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリオキシアルキレン系などの分子骨格を有するものであるが挙げられ、この中でも特に好ましくはポリウレタン系、ポリオキシエチレン系の分子骨格を有するものがよい。また、その分子構造は、線状の直鎖型若しくは櫛型、又は線状の主鎖に線状の側鎖が結合した三叉分岐点を有する櫛型、あるいはブロック共重合体、又はグラフト共重合体でもよいが、その分子内に2級又は3級のアミノ基を1以上有するものである。
【0110】
非水系高分子分散剤の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜200,000の範囲内、より好ましくは5,000〜100,000の範囲内がよい。重量平均分子量が、上記下限未満であると、低極性溶媒に対し分散安定性が十分ではない場合があり、上記上限を超えると、粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難になる場合がある。
【0111】
好適に使用することができる市販の非水系高分子分散剤としては、例えば、日本ルーブリゾール社製のSolsperse11200(商品名)、同Solsperse13940(商品名)、同Solsperse13240(商品名)、ビッグケミー・ジャパン社製のDISPERBYK−161(商品名)、同DISPERBYK−163(商品名)、DISPERBYK−2164(商品名)、DISPERBYK−2155(商品名)等が挙げられる。
【0112】
非水系高分子分散剤の添加量は、A成分の金属微粒子100質量部に対して0.01〜20質量部の範囲内、好ましくは0.1〜10質量部の範囲内がよい。添加量が上記下限未満では分散性が低下する傾向があり、上記上限を超えると、凝集が生じ易くなる傾向がある。
【0113】
非水系高分子分散剤は、単独又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、発明の効果を損なわない範囲で、他の化合物からなる分散剤と組み合わせて使用することもできる。
【0114】
成分の金属微粒子を非水系高分子分散剤で処理した後、第2の有機溶媒に置換して、A成分の金属微粒子と第2の有機溶媒とを含有するスラリー溶液を調製する。第2の有機溶媒は、水と混和しない有機溶媒であり、その具体例として、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系炭化水素系、ヘキサン、ヘプタン、デカン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素系、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系、α−テルピネオール、ブチルカルビトール等の長鎖アルコール系、長鎖アルコールとカルボン酸とのエステル等が挙げられる。
【0115】
第2の有機溶媒のスラリー溶液の状態で、A成分の金属微粒子1重量部に対してC成分のエステル化合物を所定量混合し、さらに、A成分の金属微粒子1重量部に対して任意の溶媒を1.5〜200重量部の範囲で配合する。次に、例えばジルコニアビーズをメディアとしたペイントシェーカーで15分〜120分間程度の分散処理を行ってもよい。必要に応じて更に、例えばT.Kフィルミックス(特殊機化工業株式会社製)のような高速乳化分散機を用いて、15分〜150分間程度の分散化処理を行ってもよい。分散処理によって、金属微粒子スラリーからなる分散液を得ることができる。ここで用いる任意の溶媒は、A成分の金属微粒子をC成分のエステル化合物に分散させた分散液を得る目的で使用するものであり、本実施の形態のインク組成物に使用するB成分の溶媒を用いることが好ましいことは勿論のこと、これ以外の溶媒を用いて分散液を得るようにしても良い。
【0116】
次いで、得られた分散液は、インクジェットヘッドのノズル詰まりを考慮して例えば0.2〜1.0μmのフィルターでろ過する。次いで、ろ過した液をインク組成物とするために、分散液に含まれた溶媒をB成分の溶媒に置換処理する。この際、置き換えの対象となる不要な溶媒を除去するためには、例えば一般的に溶媒除去に用いられるロータリーエバポレーター等による減圧蒸留処理や、単純加熱によって溶媒を揮発させる処理等が挙げられる。溶媒を除去した後は、A成分の金属微粒子とC成分のエステル化合物が乾燥した乾燥物の状態になる。
【0117】
次に、上記乾燥物に、B成分の溶媒を新たに加え、分散液の調製で挙げた攪拌条件等を例に攪拌することで、目的のインク組成物を得ることができる。このように、分散液を得た溶媒を一度蒸留等により除去したのち、新たにB成分の溶媒を添加することで、良好な分散状態が維持されたインクジェット用組成物を得ることができる。また、このインクジェット用組成物は、A成分の金属微粒子1重量部に対してC成分のエステル化合物を0.02〜10重量部の範囲内で含有し、A成分の金属微粒子1重量部に対してB成分の溶媒を0.4〜100重量部の範囲内で含有することが好ましい。インク組成物中で、C成分のエステル化合物が上記範囲より少ないと、十分な分散効果が得られず、反対に上記範囲より多いと、余剰のエステル化合物がインクジェットで吐出した際にインク(インクジェット用組成物)と被着体との密着性を阻害するおそれがある。また、B成分の溶媒が上記範囲より少ないと、分散が十分に行われないか、あるいは、分散に長時間要することがあり好ましくなく、反対に上記範囲より多いと、C成分のエステル化合物が希釈されることになり、結果としてエステル化合物を多量に使用する必要があり効率的ではない。なお、分散液を得る際にB成分の溶媒を用いた場合には、上述した溶媒置換処理を経ずに、目的のインク組成物を調製してもよい。
【0118】
本実施の形態のインク組成物は、任意成分として、例えば、沸点が190℃未満の溶媒や、熱重合性モノマー、熱重合開始剤、カップリング剤、界面活性剤、光重合性モノマー、光重合開始剤等を含有していてもよい。本実施の形態のインク組成物は、沸点が190℃未満の溶媒の含有率が高くなると、組成物全体がスラリー状になり、溶媒の蒸発や乾燥が速くなりすぎて、インクジェット吐出性、及び吐出対象物表面への着弾において平坦性が低下しやすくなる。そのため、沸点が190℃未満の溶媒を配合する場合は、B成分の溶媒との合計量に対して40重量%以下になるようにすることが好ましい。
【0119】
また、本実施の形態のインク組成物は、インクジェット印刷法で用いる場合の連続吐出特性や間欠吐出特性などを考慮して、例えば、23℃における粘度が好ましくは30mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下となるように調整することがよい。粘度の調整は、A成分〜C成分の混合割合を変えることで可能である。例えば、C成分に含まれるトルオイル酒石酸は、後記実施例に示すように、インク組成物における粘度調整剤としても利用できる。また、トルオイル酒石酸は、低分子量であるため熱分解性に優れ、ジカルボン酸化合物であるため還元作用も有しており、インク組成物におけるC成分として有利に使用できる。
【0120】
粘度の調整は、A成分〜C成分の混合割合を変えることで可能であるが、A成分〜C成分以外に、例えば、熱重合性モノマー、熱重合開始剤、カップリング剤、界面活性剤、光重合性モノマー、光重合開始剤等の任意成分を添加して調整してもよい。また、インク組成物中に含まれる金属濃度を調整する観点から、減圧蒸留や加熱等による濃縮を行うようにしても良い。先に述べた一次分散液を得た後の溶媒置換処理は、このような観点からも有効である。なお、23℃における粘度は、コーンプレート型の回転粘度計(E型粘度計)によって測定される値である。
【実施例】
【0121】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例によって制約されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0122】
[平均粒子径の測定]
平均粒子径の測定は、電界放出形走査電子顕微鏡(Field Emission−Scanning Electron Microscope:FE−SEM)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径を算出した。また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0123】
[分散性の評価]
分散性の評価は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名;LA−950V2)を用いて行った。金属微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液を所定の濃度に希釈して、前記粒子径分布測定装置内にて超音波で5分間分散させ、体積分布の測定を行い、粒度分布の結果にて分散性の比較評価を行った。
【0124】
[水酸化ニッケルの定量]
水酸化ニッケル{Ni(OH)}の定量は、昇温脱離ガス分析装置(Thermal Desorption Spectroscopy:TDS、電子科学株式会社製、商品名;WA1000S/W型)を用いて、試料を10℃/分の速度で昇温加熱して試料の表面から脱離する水を質量分析法で検出し、検出強度と分子数の相関式より、絶対数として算出した。
【0125】
[酸素含有量の定量]
酸素含有量の定量は、不活性ガス融解−赤外線吸収測定装置(LECO社製、商品名;TC600)を用いて、試料を約1800℃の炭素炉で加熱し、還元反応で発生する二酸化炭素の赤外線吸収量から求めた。
【0126】
[酸化ニッケルの定量]
水酸化ニッケルは不活性雰囲気中での加熱を行うと、以下の反応式(1)に示す反応より酸化ニッケルへと変化する。
Ni(OH) → NiO + HO ・・・(1)
したがって、酸化ニッケル(NiO)の定量は、前記「酸素含有量の定量」で得られた酸素量から、前記「水酸化ニッケルの定量」から算出した酸素量を引いた値より算出した。
【0127】
[ニッケル微粒子の表面に存在する有機物の定量]
ニッケル微粒子の表面に存在する有機物の定量は、示差熱熱重量同時測定装置(Thermogravimetry−Differential Thermal Analysis:TG−DTA、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、商品名;TG/DTA6200)を用いて、200ml/分の窒素ガス流量、10℃/分の速度で昇温加熱する測定条件により、試料の重量減少量を測定し、この重量と前記「水酸化ニッケルの定量」で定量した水の脱離量との差から有機物の量を算出した。
【0128】
[焼結性の評価]
各実施例で作製したペーストの3mgをガラス基板に挟み、クリップで固定し焼結性試験用サンプル(約10mmΦ)とした。このサンプルを所定の条件で加熱し、冷却後のガラス基板に付着した焼成後のサンプルの周辺部を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察した。焼結性の評価は、全てのニッケル微粒子において、各々の粒子界面が全て確認される状態を「不可」、各々のニッケル微粒子において、粒子界面が部分的に確認できる状態を「可」、ニッケル粒子の少なくとも1つは、粒子界面が全く確認されない状態を「良」、全てのニッケル微粒子において、粒子界面が全く確認されない状態を「最良」とした。
【0129】
[焼成後のサンプルに含有する酸素含有量測定]
各実施例で作製したペーストをガラス基板上に膜厚が200μm以下になるように塗布し、所定の条件で焼成を行い、焼成後のサンプルの100mgにおける酸素量を前記[酸素含有量の定量]と同様に定量した。
【0130】
[焼成後のサンプルに含有する炭素量残分の定量]
各実施例で作製したペーストをガラス基板上に膜厚が200μm以下になるように塗布し、所定の条件で焼成を行い、焼成後のサンプルの100mgにおける炭素量残分を燃焼−赤外線吸収装置(LECO社製、商品名;CS−444)により測定した。
【0131】
[焼成方法]
焼結性試験用サンプルの焼成は、小型イナートガスオーブン(光洋サーモシステム社製、商品名;KLO−30NH)を使用し、昇温速度5℃/分で、常温から所定温度まで昇温した後、この所定温度で1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置した。
【0132】
[せん断強度(シェア強度)の評価]
方法1)ステンレス製マスク(マスク幅;1.0mm×長さ;1.0mm×厚さ;0.05〜0.1mm)を用いて、試料を金めっき銅基板(幅;10mm×長さ;10mm×厚さ;1.0mm)上に塗布して塗布膜を形成した後、その塗布膜の上に、シリコンダイ(幅;1.0mm×長さ;1.0mm×厚さ;0.75mm)を搭載した。その後、室温で30分放置して、クリップ(加圧強度;2.5MPa〜5MPa)で挟み焼成を行った。得られた接合サンプル(接合層の厚さ;十数μm〜30μm程度)を接合強度試験機(デイジ・ジャパン社製、商品名;ボンドテスター4000)により、せん断強度を測定した。ダイ側面からボンドテスターツールを、基板からの高さ50μm、ツール速度100μm/秒で押圧し、接合部がせん断破壊したときの荷重をせん断強度(シェア強度)とした。なお、金めっき銅基板は、Cu基板(厚さ;1.0mm)の表面に、Ni/Auをそれぞれ4μm/40〜50nmの厚みでめっきしたものであり、シリコンダイは、Si基板(厚さ;0.75mm)の接合面に、Auを15〜20nmの厚みで蒸着したものである。
【0133】
方法2)方法1における金めっき銅基板の代わりに、シリコンダイを使用した以外、方法1と同様である。
【0134】
(合成例1)
642重量部のオレイルアミンに100.1重量部の酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下、150℃で20分加熱することによって酢酸ニッケルを溶解させて錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に、492重量部のオレイルアミンを加え、マイクロ波を用いて250℃で5分加熱することによって、ニッケル微粒子スラリーを得た。
【0135】
ニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとメタノールを用いて洗浄した後、60℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥してニッケル微粒子(平均粒子径;92nm、CV値;0.19)を得た。このニッケル微粒子は、元素分析の結果、C;0.9、N<0.1、O;1.4(単位は重量%)であった。
【0136】
(合成例2)
384重量部のオレイルアミンに、17.8重量部のギ酸ニッケル二水和物、及び26.7重量部のギ酸銅四水和物を加え、窒素フロー下、120℃で20分間加熱することによって、ニッケル塩及び銅塩を溶解させて錯化反応液を得た。次いで、その錯化反応液に、290重量部の1−オクタノールを加え、マイクロ波を用いて190℃で5分間加熱することによって、金属微粒子スラリーを得た。
【0137】
金属微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、メタノールを用いて洗浄した後、70℃に維持される真空乾燥機で6時間乾燥することによって、金属微粒子(平均粒子径;10nm、CV値;0.12)を得た。この金属微粒子におけるNi及びCuの含有率は98重量%であり、NiとCuの含有比率は、Ni:Cu=40:60(単位は重量%)であった。
【0138】
(作製例1)
合成例1で得られたニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとイソプロパノールを用いて洗浄した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商品名;スターバースト)を用いて、圧力200MPaの条件にてニッケル微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液(固形分濃度68.4wt%)を調製した。このスラリー溶液の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.30、D90;0.55、D99;1.01(単位はμm)であった。
【0139】
(作製例2)
合成例1で得られたニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとイソプロパノールを用いて洗浄した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商品名;スターバースト)を用いて、圧力100MPaの条件にてニッケル微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液(固形分濃度72.3wt%)を調製した。このスラリー溶液の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.55、D90;1.00、D99;2.27(単位はμm)であった。
【0140】
(作製例3)
合成例1で得られたニッケル微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとイソプロパノールを用いて洗浄した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商品名;スターバースト)を用いて、圧力150MPaの条件にてニッケル微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液(固形分濃度70.5wt%)を調製した。このスラリー溶液の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.44、D90;0.82、D99;1.73(単位はμm)であった。
【0141】
(作製例4)
合成例2で得られた金属微粒子スラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、トルエンとイソプロパノールを用いて洗浄した後、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商品名;スターバースト)を用いて、圧力200MPaの条件にて金属微粒子をイソプロパノールに分散させたスラリー溶液を調製した。
【0142】
(実施例1)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のジ−p−トルオイル−L−酒石酸を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液1(固形分濃度76.8wt%)を調製した。このスラリー溶液1の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.11、D90;0.22、D99;0.48(単位はμm)であった。
【0143】
スラリー溶液1を80℃に維持される真空乾燥機で2時間乾燥してニッケル微粒子1(平均粒子径;92nm、CV値;0.19)を得た。このニッケル微粒子1におけるニッケル含有量は、97.0wt%であった。また、X線光電子分光(XPS)によって得られるチャートから、Ni、NiO、及びNi(OH)のピークに由来する面積比は、それぞれ27.3%、66.4%、6.3%であった。
【0144】
<ペーストの調製>
スラリー溶液1の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノール(沸点;195℃)を混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト1(固形分濃度75.4wt%)を調製した。ペースト1に含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが3.44重量部、酸化ニッケルが3.02重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が0.72重量部であった。
【0145】
<焼成工程>
ペースト1を用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度350℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0146】
焼成後のサンプルのFE−SEM写真を図1A及び図1Bに示す。なお、図1Aは倍率250,000倍、図1Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。図1A及び図1Bより、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在しており、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1及び方法2にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、それぞれ0.9kgf/mm(方法1)、2.5kgf/mm(方法2)あった。結果を表1に示す。
【0147】
(実施例2)
<ペーストの調製>
実施例1で調製したペースト1(固形分濃度75.4wt%)を分取し、密閉状態で室温環境下にて200日放置することでペースト2(固形分濃度80.1wt%)を調製した。ペースト2に含有するニッケル微粒子の100重量部に対して、水酸化ニッケルが9.90重量部、酸化ニッケルが2.89重量部、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸が0.69重量部であった。
【0148】
<焼成工程>
ペースト2を用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度350℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0149】
焼成後のサンプルのFE−SEM写真を図2A及び図2Bに示す。なお、図2Aは倍率250,000倍、図2Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。図2A及び図2Bより、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在しており、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。この焼成後のサンプルの酸素含有量は0.93重量%であった。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、1.9kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0150】
(実施例3)
焼成工程の加熱温度を400℃とした以外、実施例2と同様にして、焼成後のサンプルを得た。焼成後のサンプルのFE−SEM写真を図3A及び図3Bに示す。なお、図3Aは倍率250,000倍、図3Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。図3A及び図3Bより、全てのニッケル微粒子において、粒子界面が全く確認されず、実施例2と比較すると、ニッケル微粒子の焼結がより良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。この焼成後のサンプルの酸素含有量及び炭素含有量は、それぞれ0.53重量%、0.30重量%であった。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、2.1kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0151】
(実施例4)
加熱温度を450℃とした以外、実施例2と同様にして、焼成後のサンプルを得た。焼成後のサンプルのFE−SEM写真を図4A及び図4Bに示す。なお、図4Aは倍率250,000倍、図4Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。図4A及び図4Bより、全てのニッケル微粒子において、粒子界面が全く確認されず、実施例2及び実施例3と比較して、ニッケル微粒子の焼結が最も良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。この焼成後のサンプルの酸素含有量及び炭素含有量は、それぞれ0.10重量%、0.17重量%であった。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、2.6kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0152】
(実施例5)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のジベンゾイル−D−酒石酸を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液2(固形分濃度77.4wt%)を調製した。このスラリー溶液2の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.15、D90;0.29、D99;0.58(単位はμm)であった。
【0153】
<ペーストの調製>
スラリー溶液2の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト3(固形分濃度75.8wt%)を調製した。
【0154】
<焼成工程>
ペースト3を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0155】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.9kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0156】
(実施例6)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のジ−p−アニソイル−D−酒石酸を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液3(固形分濃度78.0wt%)を調製した。このスラリー溶液3の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.20、D90;0.37、D99;0.67(単位はμm)であった。
【0157】
<ペーストの調製>
スラリー溶液3の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト4(固形分濃度76.0wt%)を調製した。
【0158】
<焼成工程>
ペースト4を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0159】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.7kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0160】
(実施例7)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のD−酒石酸ジイソプロピルを加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液4(固形分濃度73.6wt%)を調製した。このスラリー溶液4の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.11、D90;0.23、D99;0.51(単位はμm)であった。
【0161】
<ペーストの調製>
スラリー溶液4の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト5(固形分濃度75.9wt%)を調製した。
【0162】
<焼成工程>
ペースト5を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0163】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.9kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0164】
(実施例8)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のマロン酸ジ−t−ブチルを加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液5(固形分濃度77.1wt%)を調製した。このスラリー溶液5の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.14、D90;0.25、D99;0.51(単位はμm)であった。
【0165】
<ペーストの調製>
スラリー溶液5の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト6(固形分濃度75.6wt%)を調製した。
【0166】
<焼成工程>
ペースト6を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0167】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.8kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0168】
(実施例9)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調整したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部の2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールジイソブチラート(TMPD)を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液6(固形分濃度76.8wt%)を調製した。このスラリー溶液6の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.24、D90;0.42、D99;0.77(単位はμm)であった。
【0169】
<ペーストの調製>
スラリー溶液6の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト7(固形分濃度75.8wt%)を調製した。
【0170】
<焼成工程>
ペースト7を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0171】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.6kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0172】
(実施例10)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のO−アセチルクエン酸トリブチルを加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液7(固形分濃度76.1wt%)を調製した。このスラリー溶液7の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.20、D90;0.39、D99;0.89(単位はμm)であった。
【0173】
<ペーストの調製>
スラリー溶液7の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト8(固形分濃度75.4wt%)を調製した。
【0174】
<焼成工程>
ペースト8を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0175】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.8kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0176】
(実施例11)
<スラリー溶液の調製>
作製例2で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のフェニルマロン酸を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液8(固形分濃度78.7wt%)を調製した。このスラリー溶液8の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.19、D90;0.38、D99;0.88(単位はμm)であった。
【0177】
<ペーストの調製>
スラリー溶液8の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト9(固形分濃度75.5wt%)を調製した。
【0178】
<焼成工程>
ペースト9を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0179】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.7kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0180】
(実施例12)
<スラリー溶液の調製>
作製例2で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のクエン酸トリエチルを加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液9(固形分濃度77.2wt%)を調製した。このスラリー溶液9の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.23、D90;0.46、D99;1.01(単位はμm)であった。
【0181】
<ペーストの調製>
スラリー溶液9の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト10(固形分濃度76.0wt%)を調製した。
【0182】
<焼成工程>
ペースト10を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0183】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.6kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0184】
(実施例13)
<スラリー溶液の調製>
作製例2で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のクエン酸トリブチルを加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液10(固形分濃度73.9wt%)を調製した。このスラリー溶液10の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.15、D90;0.31、D99;0.77(単位はμm)であった。
【0185】
<ペーストの調製>
スラリー溶液10の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト11(固形分濃度75.1wt%)を調製した。
【0186】
<焼成工程>
ペースト11を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0187】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.7kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0188】
(実施例14)
<スラリー溶液の調製>
作製例3で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のフェニルマロン酸モノベンジルを加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液11(固形分濃度76.5wt%)を調製した。このスラリー溶液11の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.21、D90;0.44、D99;1.01(単位はμm)であった。
【0189】
<ペーストの調製>
スラリー溶液11の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト12(固形分濃度75.7wt%)を調製した。
【0190】
<焼成工程>
ペースト12を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0191】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.5kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0192】
(実施例15)
<スラリー溶液の調製>
作製例3で調整したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに2重量部のマロン酸ジベンジルを加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液12(固形分濃度76.9wt%)を調製した。このスラリー溶液12の粒度分布の測定を行った結果、体積分布は、D50;0.20、D90;0.57、D99;1.01(単位はμm)であった。
【0193】
<ペーストの調製>
スラリー溶液12の250重量部を分取し、これに33.2重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、172重量部のペースト13(固形分濃度75.7wt%)を調製した。
【0194】
<焼成工程>
ペースト13を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0195】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.6kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0196】
(参考例1)
<ペーストの調製>
作製例1でスラリー溶液の252重量部を分取し、これに35.9重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃・100hPaで濃縮を行い、241重量部のペースト(固形分濃度86.3wt%)を調製した。
【0197】
<焼成工程>
上記ペーストを用いて上記方法にて焼結性試験用サンプルを作製し、3%水素及び97%窒素の混合ガス雰囲気下、加熱温度350℃で、1時間保持した。次いで、400分間かけて50℃まで降温した後、常温まで放置し、焼成後のサンプルを得た。
【0198】
焼成後のサンプルのFE−SEM写真を図5A及び図5Bに示す。なお、図5Aは倍率250,000倍、図5Bは倍率500,000倍のFE−SEM写真である。図5A及び図5Bより、ニッケル微粒子同士の粒子界面が完全に確認されないニッケル微粒子が存在しており、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認される。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法1にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、0.4kgf/mmであった。結果を表1に示す。
【0199】
以上の結果をまとめて、表1に示す。なお、表1中のせん断強度は、方法1での測定値である。
【0200】
【表1】
【0201】
(実施例16)
<スラリー溶液の調製>
作製例1で調製したスラリー溶液の5重量部を分取し、これに25重量部の25%アンモニア水溶液を加え、28kHz超音波処理を30分行った後、イソプロパノールで洗浄した。次いで、プロピオン酸の25重量部を加えて28kHz超音波処理を30分行い、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液13’(固形分濃度61wt%)を得た。さらに、スラリー溶液13’の100重量部に対して、ジ−p−トルオイル−L−酒石酸の2重量部を加え、15分間撹拌した後、イソプロパノールで洗浄し、スラリー溶液13(固形分濃度78.0wt%)を得た。
【0202】
スラリー溶液13を80℃に維持される真空乾燥機で2時間乾燥してニッケル微粒子13を得た。このニッケル微粒子13におけるニッケル含有量は、97.3wt%であった。また、X線光電子分光(XPS)によって得られるチャートから、Ni、NiO、及びNi(OH)のピークに由来する面積比は、それぞれ59.7%、39.7%、0.6%であった。
【0203】
<ペーストの調製>
スラリー溶液13の255重量部を分取し、これに51.8重量部の1−オクタノールを混合し、エバポレータにて60℃、100hPaで濃縮を行い、150重量部のペースト14(固形分濃度78.5wt%)を調製した。
【0204】
<焼成工程>
【0205】
ペースト14を使用した以外、実施例1と同様にして、焼成後のサンプルを得た。
【0206】
焼成後のサンプルは、FE−SEMによる観察によって、粒子界面が全く確認されないニッケル微粒子が存在し、ニッケル微粒子の焼結が良好に進行していることが確認された。焼成後のサンプルの電気導通の有無を2端子のテスターで調べたところ、導通が確認できた。また、上記方法2にて接合サンプルを作製し、測定したせん断強度は、2.4kgf/mmであった。
【0207】
(実施例17)
<スラリー溶液の調製>
作製例4で調製したスラリー溶液の100重量部を分取し、これに5重量部の塩基性ポリウレタン系高分子分散剤(ビッグケミー・ジャパン社製、商品名;BYK2155、2級アミノ基又は3級アミノ基を含有するポリウレタン系ブロック共重合体の混合物、極性;低〜中、水に不溶、アミン価;48mgKOH/g、酸価;0mgKOH/g、重量平均分子量;20,000)を加え、15分間撹拌した後、有機溶媒で洗浄後、トルエンに置換して、スラリー溶液14(固形分濃度17.0wt%)を調製した。
【0208】
<インク組成物の調製>
スラリー溶液14の18.8重量部(2.9重量部の金属微粒子、及び1.7重量部のBYK2155を含有)を分取し、これに52.7重量部のジエチレングリコールブチルメチルエーテル(沸点;212℃)、及び28.5重量部のジ−p−トルオイル−L−酒石酸を混合して、ペイントシェーカーを10分運転した。そして、ペイントシェーカーによって混合された処理液を目開き1.0μmのフィルターでろ過してインキ組成物S1(固形分濃度;33.1wt%)を調製した。調製したインキ組成物S1について、E型粘度計(コーンプレート型の回転粘度計;東機産業社製)を用いて、23℃での粘度測定を行ったところ、10.4mPa・sであった。なお、インキ組成物S1の表面張力及び混合比重(計算値)はそれぞれ、29.7mN/m、0.951であった。また、インキ組成物S1をガラス基板上に塗布し、ウェット塗布直後の様子を偏光顕微鏡によって観察したところ、凝集物は認められず、良好に分散できていることが確認された。
【0209】
(実施例18)
<スラリー溶液の調製>
実施例17と同様にして、スラリー溶液15((固形分濃度17.0wt%)を調製した。
【0210】
<インク組成物の調製>
スラリー溶液15の18.7重量部(3.0重量部の金属微粒子、及び1.8重量部のBYK2155を含有)を分取し、これに52.6重量部のジエチレングリコールブチルメチルエーテル、28.7重量部のジ−p−トルオイル−L−酒石酸、及び0.1重量部のシリコン系表面調整剤(ビッグケミー・ジャパン社製、商品名;BYK―378)を混合した以外、実施例17と同様にして、インキ組成物S2(固形分濃度;33.1wt%)を調製した。調製したインキ組成物S2の23℃での粘度及び表面張力はそれぞれ、10.6mPa・s、25.5mN/mであった。また、インキ組成物S2をガラス基板上に塗布し、ウェット塗布直後の様子を偏光顕微鏡によって観察したところ、凝集物は認められず、良好に分散できていることが確認された。
【0211】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B