特許第6039591号(P6039591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6039591-酸化アルミニウム薄膜の形成方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6039591
(24)【登録日】2016年11月11日
(45)【発行日】2016年12月7日
(54)【発明の名称】酸化アルミニウム薄膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20161128BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20161128BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20161128BHJP
【FI】
   H01L21/316 A
   H01L29/78 301B
   H01L29/78 301G
   H01L21/316 U
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-5611(P2014-5611)
(22)【出願日】2014年1月16日
(65)【公開番号】特開2015-135841(P2015-135841A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2015年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】エルムチョーキル アミン
(72)【発明者】
【氏名】松崎 秀昭
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/119103(WO,A1)
【文献】 特開2001−308319(JP,A)
【文献】 特開平09−172163(JP,A)
【文献】 米国特許第05798555(US,A)
【文献】 Narayan Chandra Paul, 外4名,Oxidation of InAlAs and Its Application to Gate Insulator of InAlAs/InGaAs Metal Oxide Semiconductor High Electron Mobility Transistor,Japanese Journal of Applied Physics,2005年,Vol. 44, No. 3,pp. 1174-1180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312−21/32、21/336−21/338、
21/47−21/475、27/095、29/76、
29/772−29/78、29/80−29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InAlAsからなる半導体層の表面を酸化することで、前記半導体層の表面に酸化アルミニウムを含んで構成された酸化層を形成する第1工程と、
前記酸化層を加熱するとともに前記酸化層の表面を酸素プラズマで処理することで前記酸化層に含まれている酸化インジウムを分解して除去する第2工程と、
前記酸化層に含まれている酸化インジウムを分解して除去した後、前記酸化層を加熱するとともに前記酸化層の表面を酸素プラズマで処理することで前記酸化層に含まれている酸化ヒ素を分解して除去し、前記半導体層の表面に酸化アルミニウム薄膜を形成する第3工程と
を備え、
前記第2工程では、酸化ヒ素が分解しない範囲の温度で前記酸化層を加熱し、
前記第3工程では、酸化アルミニウムが分解しない範囲の温度で前記酸化層を加熱する ことを特徴とする酸化アルミニウム薄膜の形成方法。
【請求項2】
請求項1記載の酸化アルミニウム薄膜の形成方法において、
前記第1工程では、InAlAsからなる半導体層を加熱するとともに前記半導体層の表面を酸素プラズマで処理することで、前記半導体層の表面に前記酸化層を形成する
ことを特徴とする酸化アルミニウム薄膜の形成方法。
【請求項3】
請求項1記載の酸化アルミニウム薄膜の形成方法において、
前記第1工程では、液相酸化法により前記半導体層の表面に前記酸化層を形成する
ことを特徴とする酸化アルミニウム薄膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、InAlAsからなる半導体層の表面に、酸化アルミニウム薄膜を形成する酸化アルミニウム薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、更なる高速動作および省電力などのために、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)などの半導体装置では、更なる微細化が進められている。このような微細化を実現するための技術の1つに、ゲート絶縁層などの絶縁層の薄層化がある。しかしながら、絶縁層の薄層化は、リーク電流の増大を招くという問題がある。これに対し、従来より一般的に用いられているシリコン系の絶縁材料に代わり、より高い誘電率を有する酸化アルミニウム(Al23)から絶縁層を構成し、薄層化をすることなく、微細化を実現する技術が開発されている。
【0003】
例えば、InP系のIII−V族化合物から構成された電界効果型トランジスタにおいて、InAlAsからなる障壁層の上に、Al23からなる絶縁層を介してゲート電極を形成する技術が提案されている。このようなAl23薄膜の形成技術として、原子層成長(Atomic Layer Deposition;ALD)法が知られている。ALD法は、原料となる有機化合物の1分子層を形成対象の表面に吸着させることによる成膜方法であり、非常に薄い層を形成することが可能である。例えば、数ナノメートル〜10ナノメートルの厚さのAl23薄膜が、実現されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. M. George, "Atomic Layer Deposition: An Overview", Chem. Rev. , vol.110, pp.111-113, 2010.
【非特許文献2】Y. H. Wang and K. W. Lee, "Selective Oxidation on High-Indium-Content InAlAs/InGaAs Metamorphic High-Electron-Mobility Transistors", Semiconductor Technologies, Jan Grym (Ed.), ISBN: 978-953-307-080-3, InTech, DOI: 10.5772/8571, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ALD法では、形成したAl23薄膜と半導体層との界面品質を良好なものとするために、Al23薄膜の成膜の前後に、洗浄やアニール処理が必要になることが知られており、手間を要するという問題があった。
【0006】
また、ALD法で10nm以下の膜厚に形成した場合、膜質が充分でないことに起因してリーク電流が増大し、ゲート特性を劣化させてしまう。このため、ALD法で形成した10nmより薄いAl23薄膜は、絶縁層として用いることが事実上困難であり、充分な微細化の要求を満たせないという問題があった。
【0007】
上述したALD法の他に、液相酸化(Liquid Phase Oxidation;LPO)法による選択的酸化を用いたAl23薄膜の形成技術がある(非特許文献2参照)。液相酸化法では、アンモニア水などでpHを調整した硝酸カリウム溶液を、対象となる基板や半導体層に接触させて酸化している。しかしながら、この技術では、InAlAsの表面に、Al23と同時に、As23およびn型半導体のIn23も形成されてしまう。このため、高い絶縁性が要求される絶縁層として充分な膜質を得ることができないという問題があった。これらのように、従来の技術では、半導体装置の微細化の要求に対し、InAlAs層の表面には充分な薄さのAl23薄膜が形成できないという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、InAlAsからなる半導体層の表面に、高い絶縁性を備えた状態でより薄い酸化アルミニウム薄膜が形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る酸化アルミニウム薄膜の形成方法は、InAlAsからなる半導体層の表面を酸化することで、半導体層の表面に酸化アルミニウムを含んで構成された酸化層を形成する第1工程と、酸化層を加熱するとともに酸化層の表面を酸素プラズマで処理することで酸化層に含まれている酸化インジウムを分解して除去する第2工程と、酸化層に含まれている酸化インジウムを分解して除去した後、酸化層を加熱するとともに酸化層の表面を酸素プラズマで処理することで酸化層に含まれている酸化ヒ素を分解して除去し、半導体層の表面に酸化アルミニウム薄膜を形成する第3工程とを備え、第2工程では、酸化ヒ素が分解しない範囲の温度で酸化層を加熱し、第3工程では、酸化アルミニウムが分解しない範囲の温度で酸化層を加熱する。
【0010】
上記酸化アルミニウム薄膜の形成方法において、第1工程では、InAlAsからなる半導体層を加熱するとともに半導体層の表面を酸素プラズマで処理することで、半導体層の表面に酸化層を形成すればよい。
【0011】
上記酸化アルミニウム薄膜の形成方法において、第1工程では、液相酸化法により半導体層の表面に酸化層を形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したことにより、本発明によれば、InAlAsからなる半導体層の表面に、高い絶縁性を備えた状態でより薄い酸化アルミニウム薄膜が形成できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の形態における酸化アルミニウム薄膜の形成方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における酸化アルミニウム薄膜の形成方法を説明するための説明図である。
【0015】
まず、ステップS101で、図1の(a)に示すように、InAlAsからなる半導体層101を形成する。半導体層101の表面には、アルミニウム(Al)102,インジウム(In)103,ヒ素(As)104が存在している。半導体層101は、例えば、InP系のIII−V族化合物半導体より構成する電界効果トランジスタを構成する障壁層である。
【0016】
次に、ステップS102で、半導体層101の表面を酸化することで、図1の(b)に示すように、半導体層101の表面に酸化層105を形成する(第1工程)。例えば、半導体層101を加熱するとともに半導体層101の表面を酸素プラズマ121で処理することで、半導体層101の表面に酸化層105を形成すればよい。例えば、所定のプラズマ処理装置内で、基板加熱機構などにより酸化層105を400〜500℃程度に加熱した状態で、酸素プラズマ121を照射すればよい。酸化層105は、酸化アルミニウム(Al23)106を含み、この時点では、酸化インジウム(In23)107,酸化ヒ素(As23)108も含まれている。酸化層105の形成では、拡散化物が分解しない範囲の温度条件とする。
【0017】
次に、ステップS103で、酸化層105を加熱するとともに酸化層105の表面を酸素プラズマ121で処理することで、図1の(c)に示すように、酸化層105に含まれているIn23を分解して完全に除去する(第2工程)。ここでは、As23が分解しない範囲の温度で酸化層105を加熱してIn23を分解する。In23は、As23より低い温度で分解する。なお、酸化アルミニウムの分解温度は、As23の分解温度より高いため、上記温度条件では、Al23も分解しない。この処理により、In23が分解され、In103が酸化層105より脱離し、酸化層105は、Al23106に加えてAs23108が含まれたものとなる。
【0018】
上述したように酸化層105に含まれているIn23を分解して除去した後、ステップS104で、酸化層105を加熱するとともに酸化層105の表面を酸素プラズマ121で処理することで、酸化層105に含まれているAs23を分解して完全に除去し、図1の(d)に示すように、酸化層105がAl23106から構成された状態とする。ここでは、Al23が分解しない範囲の温度で酸化層105を加熱する。このことにより、半導体層101の表面には、酸化アルミニウム薄膜である酸化層105が形成されることになる(第3工程)。
【0019】
ここで、In23およびAs23が共存している状態で、As23が分解する温度にまで加熱すると、In23が変性して分解されない状態となる。このため、上述したように、As23を分解する段階では、In23が除去されていることが重要となる。
【0020】
以上に説明したように、本発明では、InAlAsからなる半導体層の表面を酸化した後、まずIn23を分解除去し、次いで、As23を分解除去して酸化アルミニウム薄膜を形成するようにしたので、InAlAsからなる半導体層の表面に、高い絶縁性を備えた状態でより薄い酸化アルミニウム薄膜が形成できるようになる。例えば、10nm〜1nm以下の層厚で、リーク電流の少ない高品質な酸化アルミニウム薄膜が形成できる。
【0021】
また、本発明により形成した酸化アルミニウム薄膜を、電界効果型トランジスタのゲート絶縁膜として用いると、良好な特性を持つ電界効果型トランジスタを実現することができる。電界効果型トランジスタへの適用にあたっては、本発明により形成した酸化アルミニウム薄膜上にHf、Ta、Zr等による酸化膜や、他の高誘電率材料,絶縁膜などを堆積した上でゲート電極を形成してもよい。
【0022】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、上述では、加熱状態で酸素プラズマを作用させることで、InAlAsからなる半導体層の表面を酸化するようにしたが、液相酸化法により、上記半導体層の表面に酸化層を形成してもよい。
【0023】
ただし、酸素プラズマを用いて酸化層の形成を行うことで、以降のIn23を分解除去、およびAs23の分解除去を、同じ装置内で連続して行うことが可能となり、工程を短縮することができる。また、液体酸化法では、酸化に時間を要するが、酸素プラズマを用いて酸化層の形成を行うことで、この時間を短縮することができる。なお、いずれにおいても、本発明では、ALD装置を用いる必要はない。
【符号の説明】
【0024】
101…半導体層、102…アルミニウム(Al)、103…インジウム(In)、104…ヒ素(As)、105…酸化層、106…酸化アルミニウム(Al23)、107…酸化インジウム(In23)、108…酸化ヒ素(As23)、121…酸素プラズマ。
図1