【文献】
辻隆之ら,“接続信頼性を高めたPbフリーはんだの開発”,工学技術研究誌 日立電線,日本,2007年,No.26,p.19−22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
太陽電池には、半導体基板として多結晶や単結晶のSiセルが用いられる。
【0003】
従来の太陽電池の構成を本発明の
図4A及び
図4Bに示した太陽電池50に基づいて説明する。太陽電池50は、半導体基板52の所定の領域、すなわち半導体基板52の表面に設けられた表面電極54と裏面に設けられた裏面電極55に、太陽電池用リード線10a、10bをはんだで接合することにより作製される。半導体基板52内で発電された電力は太陽電池用リード線を通じて外部へ伝送される。
【0004】
従来の太陽電池用リード線の構成、本発明の
図1A及び
図1Bに示した太陽電池用リード線10に基づいて説明する。太陽電池用リード線10は、帯板状導電材12と、帯板状導電材12の上下面に形成された溶融はんだめっき層13とを備える。帯板状導電材12は、例えば、断面円形の導体を圧延加工して帯板状にしたものであり、平角導体、平角線とも呼ばれる。
【0005】
溶融はんだめっき層13は、帯板状導電材12の上下面に、溶融めっき法により溶融はんだを供給して形成したものである。
【0006】
溶融めっき法は、酸洗等により帯板状導電材12の上下面を清浄化し、その帯板状導電材12を溶融はんだ浴に通すことにより、帯板状導電材12の上下面12a、12bにはんだを積層していく方法である。溶融はんだめっき層13は、帯板状導電材12の上下面12a、12bに付着した溶融はんだが凝固する際に、表面張力の作用によって、
図1Aに示される幅方向の側部から中央部にかけて膨らんだ形状、いわゆる山形に形成される。
【0007】
この太陽電池用リード線10を所定の長さに切断し、エアで吸着して半導体基板52の表面電極(グリッド)54の上に移動し、半導体基板52の表面電極54にはんだ付けする。表面電極54には、表面電極54と導通する電極帯(フィンガー)(図示せず)が、あらかじめ形成されている。この表面電極54に太陽電池用リード線10aの溶融はんだめっき層13を接触させ、その状態ではんだ付けを行う。太陽電池用リード線10bを半導体基板52の裏面電極55にはんだ付けする場合も同様である。
【0008】
従来は、半導体基板52の表面電極54と太陽電池用リード線10との間に良好なはんだ接合性をもたらすために、表面電極54に太陽電池用リード線10の溶融はんだめっき層13と同質のはんだを含浸させていた。しかし、近年、半導体基板52の薄型化が進んできているため、表面電極54にはんだを含浸させる際の半導体基板52の破損問題が表面化した。そこで、半導体基板52の破損を回避するため、表面電極54に対して行うはんだ含浸工程の省略が進められている。
【0009】
半導体基板52の表面電極54と太陽電池用リード線10との間に良好なはんだ接合性を与えていたはんだ含浸工程を省略することにより、従来は接合性に問題の無かった太陽電池用リード線を用いた場合でも、十分な接合性の得られないケースが多く見られるようになった。半導体基板52と太陽電池用リード線10との接合は、表面電極54の電極材料(例えばAg)と溶融はんだめっき層13の接合材料(例えばSn)との間で金属間化合物(例えばAg
3Sn)が形成されることでなされる。この接合には、フラックスの作用により溶融はんだめっき層13の表面と表面電極54の表面から酸化膜が除去され、はんだの金属原子(Sn)と電極の金属原子(Ag)とが直接衝突することと、加熱によりはんだ中のSn原子が他原子(Ag)への格子内に拡散しやすくなることが必要となる。すなわち、溶融はんだめっき層13表面の酸化膜の厚みが大きい場合、フラックスによる酸化膜除去が不十分となり、はんだ付け不良が生じることとなる。
【0010】
表面電極54と溶融はんだめっき層13との間ではんだ付け不良が生じると、半導体基板52と太陽電池用リード線10との接合が不十分となるため、機械的な剥離や導通不良によりモジュール出力の低下を招く。
【0011】
製造時あるいは使用時のはんだ表面における酸化膜生成を抑制するために、0.002〜0.015mass%のPをはんだに添加する方法が特許文献1により提案されている。
【0012】
特許文献1の太陽電池用リード線では、加熱温度300℃まで酸化膜厚は1〜2μm程度で変色はなく、350℃になってはじめて酸化膜厚が5μm程度で変色がわずかにみられる程度である。一方、従来例の場合には、250℃において既に酸化膜厚が6μmを超えており、変色が著しいことが述べられている。さらに、特許文献1には、加熱なしの場合の酸化膜厚さは、発明品及び従来例ともに約1μm程度であると記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、太陽電池用リード線を半導体基板に強固に接合するためには、溶融はんだめっき層13の表面の酸化膜厚を薄くすればよい。しかし、特許文献1によれば、加熱前の状態であるにも拘らず、発明品の酸化膜厚は約1μm(1000nm)もある。したがって、表面電極に対するはんだ含浸工程が省略された半導体基板と太陽電池用リード線との間で、強固な接合性を得るためには不十分である。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、セルとの接続性に優れた太陽電池用リード線及びその製造方法、保管方法、並びに太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、はんだが含浸されていない電極を備えた太陽電池セルに用いられる太陽電池用リード線であって、
断面形状が平角状の帯板状導電材に設けられた溶融はんだめっき層の表面の酸化膜の厚さが7.0nm以下に保たれるように酸素透過度1mL/m2・day・MPa以下、透湿度0.1g/m2・day以下の梱包材で梱包されていることを特徴とする太陽電池用リード線である。
【0017】
上記太陽電池用リード線において、上記帯板状導電材は、体積抵抗率が、50μΩ・mm以下の平角線であってもよい。
【0018】
上記太陽電池用リード線において、上記帯板状導電材は、Cu、Al、Ag及びAuのいずれかでもよい。
【0019】
上記太陽電池用リード線において、上記帯板状導電材は、タフピッチCu、低酸素Cu、無酸素Cu、リン脱酸Cu及び純度99.9999%以上の高純度Cuのいずれかでもよい。
【0020】
上記太陽電池用リード線において、上記溶融はんだめっき層は、Sn系はんだ、又は、第1成分としてSnを用い、第2成分としてPb、In、Bi、Sb、Ag、Zn、Ni及びCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を0.1mass%以上含むSn系はんだ合金でもよい。
【0021】
本発明の他の特徴は、
断面形状が平角状の帯板状導電材に設けられた溶融はんだめっき層の表面の酸化膜の厚さが7.0nm以下に保たれるように酸素透過度1mL/m2・day・MPa以下、透湿度0.1g/m2・day以下の梱包材で梱包されている保管状態後の太陽電池用リード線を
用いて、その溶融はんだめっき層のはんだによって太陽電池セルが備えるはんだが含浸されていない電極にはんだ付け
することを特徴とする太陽電池
の製造方法である。
【0022】
上記太陽電池用リード線の製造方法において、溶融はんだを供給して帯板状導電材にはんだめっきする際の、めっき作業雰囲気の温度を20℃以下、めっき作業雰囲気の相対湿度を50%以下にしてもよい。
【0023】
本発明の更に他の特徴は、上記太陽電池用リード線を、酸素透過度1mL/m
2・day・MPa以下、透湿度0.1g/m
2・day以下の梱包材で梱包して保管することを特徴とする太陽電池用リード線の保管方法である。
【0024】
上記太陽電池用リード線の保管方法において、上記太陽電池用リード線を、未梱包あるいは梱包材開封状態で温度30℃以下、相対湿度65%以下で保管してもよい。
【0025】
本発明の更に他の特徴は、上記太陽電池用リード線を、その溶融はんだめっき層のはんだによって太陽電池セルが備えるはんだが含浸されていない電極にはんだ付けしたことを特徴とする太陽電池である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、セルとの接合性に優れた太陽電池用リード線を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0029】
図1Aに示されるように、本発明に係る太陽電池用リード線10は、帯板状導電材12の上下面に溶融はんだを供給し、はんだ浴出口でめっきしたものである。
【0030】
帯板状導電材12は、素線(断面円形状の線材)を圧延加工し、これを連続通電加熱炉又はバッチ式加熱設備で熱処理することにより形成される。
【0031】
図1Bは、帯板状導電材12の斜視図を示したもので、上面12aと下面12bとが平坦面にされ、側面12cが凸状に膨らんで形成され、端面12dが適宜の長さにカットされて形成される。
【0032】
図3は、溶融はんだめっき設備を示している。
【0033】
溶融めっき設備41は、溶融はんだSからなるはんだ浴(はんだめっき浴)42を収容するはんだ槽43と、はんだ浴42中に設けられ、送り出し器で送り出された帯板状導電材12をはんだ浴42中に案内する上流側ガイドローラ44と、はんだ槽43の下流側に設けられ、はんだ浴42と上流側ガイドローラ44とを通過して作製された太陽電池用リード線10を巻き取り機に案内する下流側ガイドローラ45とを備える。
【0034】
ここで、はんだ浴43の温度は、使用はんだの融点よりも高く設定する必要があるが、溶融状態でははんだ中のSnが容易に拡散して空気中の酸素と結びつき、酸化膜生成が顕著に進む。また、作業雰囲気の温度や湿度の高さも酸化膜生成促進に寄与する。よって、はんだ浴の温度は使用はんだの液相線温度+120℃以下(下限値は液相線温度+50℃)、めっき作業雰囲気の温度を30℃以下(下限値は10℃)、めっき作業雰囲気の相対湿度を65%以下(下限値は10%)とすることが望ましい。
【0035】
上記の製法により、はんだめっき表面の酸化膜厚が3.0nm以下(下限値は0.5nm)の太陽電池用リード線を作製することができる。
【0036】
また、作製した太陽電池用リード線を酸素透過度1mL/m
2・day・MPa以下、透湿度0.1g/m
2・day以下の梱包材で梱包、あるいは未梱包もしくは梱包材開封状態であっても温度30℃以下(下限値は10℃)、相対湿度65%以下(下限値は10%)の条件下で保管すれば、酸化膜厚の成長を7nm以下(下限値は0.5nm)に抑制することができる。
【0037】
このように本発明に係る太陽電池用リード線10は、半導体基板の表面電極及び裏面電極に対する接合が強固となるように溶融はんだめっき層13表面の酸化膜厚を7nm以下としたものである。これにより、はんだ接合時の酸化膜除去が容易になり、表面電極及び裏面電極に対する太陽電池用リード線10の強固なはんだ付けが可能になる。すなわち、機械的な剥離や導通不良によるモジュール出力低下を防ぐことができる。
【0038】
帯板状導電材12には、例えば、体積抵抗率が50μΩ・mm以下の平角線を用いる。
【0039】
この平角線を圧延加工することによって、
図1Bのような横断面形状の帯板状導電材12を得ることができ、スリット加工することによって、帯板状導電材12を得ることができる。
【0040】
帯板状導電材12は、Cu、Al、Ag及びAuのいずれか、あるいは、タフピッチCu、低酸素Cu、無酸素Cu、リン脱酸Cu及び純度99.9999%以上の高純度Cuのいずれかからなる。
【0041】
溶融はんだめっき層としては、Sn系はんだ(Sn系はんだ合金)を用いる。Sn系はんだは、成分重量が最も重い第1成分としてSnを用い、第2成分としてPb、In、Bi、Sb、Ag、Zn、Ni及びCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を0.1mass%以上含むものである。
【0043】
図1Aに示した太陽電池用リード線10を、
図4に示す半導体基板52の表面電極54及び裏面電極55にはんだ付けする際に、太陽電池用リード線10や半導体基板52の加熱温度は、溶融はんだめっき層13のはんだの融点付近の温度に制御される。その理由は、太陽電池用リード線10の帯板状導電材12(例えば、銅)の熱膨張率と半導体基板52(Si)の熱膨張率が大きく相違するためである。熱膨張率の相違によって半導体基板52にクラックを発生させる原因となる熱応力が生じる。この熱応力を小さくするには、低温接合を行うのがよい。よって、太陽電池用リード線10や半導体基板52の加熱温度を、溶融はんだめっき層13のはんだの融点付近の温度に制御する。
【0044】
上記接合時の加熱方法は、半導体基板52をホットプレート上に設置し、このホットプレートからの加熱と、半導体基板52に設置された太陽電池用リード線10の上方からの加熱とを併用するものである。
【0045】
半導体基板52の表面電極54及び裏面電極55と溶融はんだめっき層13との接触面積を大きくし、半導体基板52から溶融はんだめっき層13への熱伝導を十分にするためには、溶融はんだめっき層13を含む太陽電池用リード線10の形状を平角状にするのがよい。
【0046】
しかし、従来の太陽電池用リード線は、溶融はんだめっき層表面の酸化膜厚が厚いため、表面電極54とのはんだ接合時に用いるフラックスによる酸化膜除去が不十分となり、はんだ付け不良が生じ、結果的に、機械的な剥離が起こる、導通不良で十分な出力が得られないなどの問題が生じる。
【0047】
本実施形態に係る太陽電池用リード線10の上下面となる溶融はんだめっき層13の表面の酸化膜厚を7nm以下にしたので、フラックスによる酸化膜除去が容易になり、はんだ付け性が良好となるため、前記従来の問題は解決される。
【0048】
ここで、酸化膜厚は、オージェ分析によって得られるデプスプロファイルにおいて、酸化ピーク値が半減する時間で定義することができる。
【0049】
次に本発明に用いる帯板状導電材の材料の物性を表1に示す。
【0051】
帯板状導電材12は、体積抵抗率が50μΩ・mm以下の比較的小さい材料であることが好ましい。このような材料としては、表1に示すように、Cu、Al、Ag及びAuなどがある。
【0052】
Cu、Al、Ag及びAuのうち体積抵抗率が最も低いのはAgである。従って、帯板状導電材12としてAgを用いることで、太陽電池用リード線10を用いた太陽電池の発電効率を最大限にすることができる。帯板状導電材としてCuを用いることで、太陽電池用リード線を低コストにすることができる。帯板状導電材としてAlを用いることで、太陽電池用リード線10の軽量化を図ることができる。
【0053】
帯板状導電材としてCuを用いる場合、そのCuには、タフピッチCu、低酸素Cu、無酸素Cu、リン脱酸Cu及び純度99.9999%以上の高純度Cuのいずれを用いてもよい。帯板状導電材の0.2%耐力を最も小さくするためには、純度が高いCuを用いるのが有利である。よって、純度99.9999%以上の高純度Cuを用いることで、帯板状導電材の0.2%耐力を小さくすることができる。帯板状導電材12としてタフピッチCu又はリン脱酸Cuを用いることで、太陽電池用リード線を低コストにすることができる。
【0054】
溶融はんだめっき層に用いるはんだとしては、Sn系はんだ、又は、第1成分としてSnを用い、第2成分としてPb、In、Bi、Sb、Ag、Zn、Ni及びCuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を0.1mass%以上含むSn系はんだ合金が挙げられる。
【0055】
これらのはんだは、第3成分として1000ppm以下の微量元素を含んでいてもよい。
【0056】
次に、本発明の太陽電池用リード線の製造方法を説明する。
【0057】
まず、原料の断面円形状の線材(図示せず)を圧延加工し、又は平板をスリット加工することにより、帯板状導電材を形成する。この帯板状導電材を連続通電加熱炉又は連続式加熱炉又はバッチ式加熱設備で熱処理する。その後、
図3のようなめっきラインを用いて溶融はんだを供給することにより、溶融はんだめっき層を形成する。
【0058】
ここで、はんだ浴の温度は、使用はんだの融点よりも高く設定する必要があるが、溶融状態でははんだ中のSnが容易に拡散して空気中の酸素と結びつき、酸化膜生成が顕著に進む。また、製造雰囲気の温度や湿度の高さも酸化膜生成促進に寄与する。よって、はんだ浴の温度は使用はんだの液相線温度+120℃以下、めっき作業雰囲気の温度を30℃以下、めっき作業雰囲気の相対湿度を65%以下とすることが望ましい。ただし、はんだ浴の温度は接触式温度計により帯板状導電材のはんだ浴への入口あるいは出口から5cm以内、めっき作業雰囲気の温度と相対湿度はめっき作業ラインより5mの位置の測定値を示す。
【0059】
上記の製法により、はんだめっき表面の酸化膜厚が3.0nm以下の太陽電池用リード線を作製することができる。ここで示す酸化膜厚とは、はんだめっき表面(上面あるいは下面)の5ヶ所についてオージェ分析を行い、得られたデータを平均した値である。また、ここで示す酸化膜の成分は、SERA(Sequential Electrochemical Reduction Analysis:連続電気化学還元法)により、錫(Sn)の酸化物(SnO:酸化錫(II)、SnO
2:酸化錫(IV))であることを確認することができる。SERA分析により得られるSnOの膜厚とSnO
2の膜厚とを加えた酸化膜厚は、オージェ分析で得られる酸化膜厚にほぼ対応している。
【0060】
また、作製した太陽電池用リード線を酸素透過度1mL/m
2・day・MPa以下、透湿度0.1g/m
2・day以下の梱包材で梱包、あるいは未梱包もしくは梱包材開封状態であっても温度30℃以下、相対湿度65%以下の条件下で保管すれば、酸化膜厚の成長を7nm以下に抑制することができる。
【0061】
原料を帯板状導電材に加工する加工方法としては、圧延加工、スリット加工のいずれも適用可能である。圧延加工とは、丸線を圧延して平角化する方法である。圧延加工により帯板状導電材を形成することで、長尺で長手方向に幅が均一な帯板状導電材を形成することができる。スリット加工は、種々の幅の材料に対応できる。つまり、原料導電材の幅が長手方向に均一でなくても、幅が異なる多様な原料導電材を使用する場合でも、スリット加工によって長尺で長手方向に幅が均一な帯板状導電材を形成することができる。
【0062】
帯板状導電材を熱処理することにより、帯板状導電材の軟化特性を向上させることができる。帯板状導電材の軟化特性を向上させることは、0.2%耐力を低減させるのに有効である。熱処理方法としては、例えば、連続通電加熱、連続式加熱及びバッチ式加熱がある。連続して長尺にわたって熱処理するには、連続通電加熱又は連続式加熱が好ましい。安定した熱処理が必要な場合には、バッチ式加熱が好ましい。酸化を防止する観点から、窒素などの不活性ガス雰囲気又は水素還元雰囲気の炉を用いるのが好ましい。
【0063】
不活性ガス雰囲気又は水素還元雰囲気の炉は、連続通電加熱炉、連続式加熱炉又はバッチ式加熱設備により提供される。
【0064】
また、
図2に示されるように、本発明に係る太陽電池用リード線10は、帯板状導電材12の上下面に溶融はんだを供給し、はんだ浴出口でめっきした帯板状導電材12をロールではさみ、めっき厚を調整することによって、上下の溶融はんだめっき層13、13を平坦に形成したものである。ここで「平坦」とは、めっき表面の凹凸の高さが3μm以下であることを表す。また、溶融はんだめっき層13の表面に形成される酸化膜は
図1A、
図1Bで説明したと同様に形成されている。
【0065】
帯板状導電材12は、素線(断面円形状の線材)を圧延加工し、これを連続通電加熱炉、連続式加熱炉又はバッチ式加熱設備で熱処理することにより形成される。
【0066】
この構造によれば、この
図2に示した帯板状導電材12の導体幅と電極幅が同等の場合に、供給するはんだ量を抑制する、すなわち
図2の形状とすることで、帯板状導電材と半導体基板との接合に用いられるはんだが表面電極又は裏面電極との接合部に過剰に供給され、電極以外の部位に流出することによりセル受光面が小さくなることを防ぐ。これにより、シャドウロス抑制に優れる太陽電池用リード線10が得られる。
【0067】
また、表面電極及び裏面電極に対して帯板状導電材を整然と設置でき、強固なはんだ付けを可能にする。そして、めっき層が平坦なためエア吸着治具との密着性が高く、移動時の落下が起こりにくい。さらに、めっき層が平坦なことでボビンに巻き取る際に安定した積層状態が得られ易く、巻き崩れが起こりにくい。よって、巻き崩れによりリード線が絡まって引き出されなくなる問題も解消される。
【0068】
次に、本発明の太陽電池について詳しく説明する。
【0069】
図4A及び
図4Bに示されるように、本発明の太陽電池50は、上記で説明した太陽電池用リード線10を、めっき表面の酸化膜厚が7nm以下の溶融はんだめっき層13のはんだによって、半導体基板52の表面電極54及び裏面電極55にはんだ付けしたものである。太陽電池50は、めっき表面の酸化膜厚が7nm以下のはんだめっき層を有する太陽電池用リード線10を使用しているため、半導体基板52の表面電極54及び裏面電極55に対するはんだ含浸は不要である。よって、薄型化した半導体基板の電極に対してはんだ含浸を行うことによる破損を回避できる。ただし、本発明の太陽電池用リード線10は、電極へはんだ含浸したタイプの半導体基板へも適用可能であり、その用途は電極にはんだ含浸しないタイプの半導体基板に限らない。
【0070】
本発明では、太陽電池用リード線10と表面電極54及び裏面電極55との接合面となる溶融はんだめっき層13の表面の酸化膜厚が7nm以下と極めて薄い。したがって、半導体基板52の表面電極54及び裏面電極55とはんだ接合する際に、フラックスの作用で容易に酸化膜が破られ、良好なはんだ濡れ性が得られるため、溶融はんだめっき層13と表面電極54及び裏面電極55のはんだ接合が強固になる。すなわち、太陽電池用リード線10と半導体基板52との間での接合強度の高い接合が得られる。
【0071】
本発明の太陽電池50によれば、太陽電池用リード線10と半導体基板52との接合強度が高いので、太陽電池モジュール製造時の歩留まり向上及びモジュール出力向上が図れる。
【0072】
また太陽電池50は、例えば、
図5に示すように太陽電池50を縦横に複数個並べて配置してなる太陽電池モジュール51として使用される。この場合、上下に隣り合うセル同士の電気的な接続は、例えば、一方の太陽電池50の表面電極54fに接合した太陽電池リード線10と、他方の太陽電池50の表面電極54fに接合した太陽電池リード線10とを直線状にはんだ接続して行う。
【0073】
一方の太陽電池50の表面電極54fに接合した太陽電池リード線10と、他方の太陽電池50の裏面電極に接合した太陽電池用リード線とを、段違いにはんだ接続することで、上下に隣り合うセル同士の電気的な接続を行ってもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明するが、実施例1、2及び6は参考例である。
(実施例1)
原料導電材であるCu材料を圧延加工して幅2.0mm、厚さ0.16mmの平角線状の帯板状導電材を形成した。この帯板状導電材をバッチ式加熱設備で熱処理し、さらに、この帯板状導電材の周囲に
図3に示す溶融めっき設備(はんだ浴温度340℃、作業現場の温度30℃、作業現場の湿度62RH%)でSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ(液相線温度220℃)のめっきを施し、帯板状導電材の上下面に溶融はんだめっき層(中央部のめっき厚20μm)を形成した(導体は熱処理Cu)。以上により、
図1Aの太陽電池用リード線を得た。その後、直ちに酸化膜厚測定(オージェ分析)及び接合力測定を実施した。
【0075】
(実施例2、3、4及び5)
実施例1の太陽電池用リード線10と同様に帯板状導電材を形成し、バッチ式加熱設備で熱処理し、さらに、この帯板状導電材の周囲に
図3に示す溶融めっき設備(はんだ浴温度340℃、作業現場の温度30℃、作業現場の湿度65RH%)でSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ(液相線温度220℃)のめっきを施し、帯板状導電材の上下面に、溶融はんだめっき層(中央部のめっき厚20μm)を形成した(導体は熱処理Cu)。さらに、実施例2は作製した太陽電池用リード線を梱包せずに、30℃×65RH%の条件の恒温・恒湿槽で3ヶ月保管後、酸化膜厚測定(オージェ分析)及び接合力測定を実施した。実施例3〜5は作製した太陽電池用リード線を脱気したAl袋(静電防止PET 12μm/Al箔 9μm/ナイロン 15μm/静電防止LLDPE 50μm、酸素透過度1mL/m
2・day・MPa、透湿度0.1g/m
2・day)で梱包し、実施例3は60℃×95RH%の条件、実施例4は70℃×95RH%の条件、実施例5は80℃×95RH%の条件の恒温・恒湿槽で3ヶ月保管後、酸化膜厚測定(オージェ分析)及び接合力測定を実施した。
(実施例6及び7)
実施例1の太陽電池用リード線10と同様に、帯板状導電材を形成し、バッチ式加熱設備で熱処理し、さらに、この帯板状導電材の周囲に
図3に示す溶融めっき設備(実施例6は、はんだ浴温度340℃、作業現場の温度20℃、作業現場の湿度50RH%で、実施例7は、はんだ浴温度340℃、作業現場の温度30℃、作業現場の湿度65RH%)でSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ(液相線温度220℃)のめっきを施し、帯板状導電材の上下面に、溶融はんだめっき層(中央部のめっき厚20μm)を形成した(導体は熱処理Cu)。さらに実施例6は、太陽電池用リード線を製造後、直ちに酸化膜厚測定(オージェ分析)及び接合力測定を実施した。実施例7は作製した太陽電池用リード線を脱気したAl袋(静電防止PET 12μm/Al箔 9μm/ナイロン 15μm/静電防止LLDPE 50μm、酸素透過度1mL/m
2・day・MPa、透湿度0.1g/m
2・day)で梱包し、85℃×95RH%の条件の恒温・恒湿槽で3ヶ月保管後、酸化膜厚測定(オージェ分析)及び接合力測定を実施した。
【0076】
(比較例1)
実施例1の太陽電池用リード線10と同様に帯板状導電材を形成し、バッチ式加熱設備で熱処理し、さらに、この帯板状導電材の周囲に
図3に示す溶融めっき設備(はんだ浴温度350℃、作業現場の温度35℃、作業現場の湿度70RH%)でSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ(液相線温度220℃)のめっきを施し、帯板状導電材の上下面に、溶融はんだめっき層(中央部のめっき厚20μm)を形成した(導体は熱処理Cu)。その後、直ちに酸化膜厚測定(オージェ分析)及び接合力測定を実施した。
【0077】
(比較例2及び3)
実施例1の太陽電池用リード線10と同様に帯板状導電材を形成し、バッチ式加熱設備で熱処理し、さらに、この帯板状導電材の周囲に
図3に示す溶融めっき設備(はんだ浴温度340℃、作業現場の温度30℃、作業現場の湿度65RH%)でSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ(液相線温度220℃)のめっきを施し、帯板状導電材の上下面に、溶融はんだめっき層(中央部のめっき厚20μm)を形成した(導体は熱処理Cu)。さらに、比較例2は作製した太陽電池用リード線を梱包せずに、60℃×95RH%の条件の恒温・恒湿槽で3ヶ月保管後、酸化膜厚測定(オージェ分析)及び接合力測定を実施した。比較例3は作製した太陽電池用リード線を脱気したAl蒸着袋(Al蒸着PET 12μm/ナイロン 15μm/静電防止LLDPE 50μm、酸素透過度10mL/m
2・day・MPa、透湿度10g/m
2・day)で梱包し、60℃×95RH%の条件の恒温・恒湿槽で3ヶ月保管後、酸化膜厚測定(オージェ分析)及び接合力測定を実施した。
【0078】
これら実施例1、2、3、4、5、6及び7及び比較例1、2及び3の太陽電池用リード線のはんだめっき表面の酸化膜厚をオージェ分析した結果、実施例1、2、3、4及び5はいずれも酸化膜厚が7nm以下であり薄いのに対し、比較例1、2及び3はいずれも酸化膜厚が7nmを超え、厚いことがわかった。ここで、酸化膜厚は、オージェ分析によって得られるデプスプロファイル(スパッタ時間(sec)vs.組成比(at%))において、酸素ピーク値が半減する時間で定義しており、次式で算出した。
酸化膜厚(nm)=SiO
2換算スパッタレート(nm/min)
×酸素ピーク値が半減する時間(min)
【0079】
これら実施例1、2、3、4、5、6及び7及び比較例1、2及び3の太陽電池用リード線にロジン系フラックスを適量塗布し、それぞれの太陽電池用リード線を銅板上に設置し、ホットプレート加熱(260℃で30秒間保持)し、
図4A及び
図4Bに示すように、太陽電池用リード線をバスバ電極を2本有する155mm×155mm×16μmの半導体基板(予め電極にはんだ含浸なし)にはんだ付けした。さらに、これら半導体基板にはんだ付けした太陽電池用リード線の半導体基板に対する接合力を評価するために、90°剥離試験(試験速度:10mm/min、剥離長さ:15mm)を行った。
【0080】
実施例1、2、3、4、5、6及び7及び比較例1、2及び3の評価結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2の「めっき温度」の欄は、はんだめっき浴の温度を示す。「現場の温度」の欄は、めっき作業を行った場所の温度を示す。「現場の湿度」の欄は、めっき作業を行った場所の相対湿度を示す。「梱包材」の欄は、恒温・恒湿槽に保管した際の梱包袋を示す。「保管温度」の欄は、恒温・恒湿槽の温度を示す。「保管湿度」欄は、恒温・恒湿槽の相対湿度を示す。「酸化膜厚」の欄は、オージェ分析によるデプスプロファイルより求めた、はんだめっき表面の酸化膜の厚み(n=5の平均値)を示す。「接合力」の欄は、90°剥離試験により銅板と太陽電池用リード線を引っ張り、どのくらいの引張力で引っ張ったときに接合が剥がれるか試験を行った結果を示し、○は引張力10N以上、×は引張力10N未満を示す。
【0083】
表2に示すように、「接合力」評価の結果、酸化膜厚が7nm以下の実施例1、2、3、4、5、6及び7が接合力に優れるのに対し、酸化膜厚が7nmを超える比較例1、2及び3は接合力に劣ることがわかった。
【0084】
以上のように、実施例1、2、3、4、5、6及び7及び比較例1、2及び3の評価結果から、本実施形態に係る太陽電池用リード線10は接合強度に優れることが確認された。