【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人情報通信研究機構「光周波数・位相制御光中継伝送技術の研究開発 課題B 広帯域マルチキャリア光パラメトリック増幅中継技術」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
M. Asobe, et al.,Phase sensitive amplification with noise figure below the 3 dB quantum limit using CW pumped PPLN waveguide,Optics Express,2012年 6月 4日,Vol.20, No.12,pp.13164-13172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
位相感応光増幅器に入力する入力光を光電変換して得られた電力に基づいて測定された前記入力光の相対強度雑音と、前記位相感応光増幅器によって増幅された増幅光を光電変換して得られた電力に基づいて測定された前記増幅光の相対強度雑音とに基づいて、前記位相感応光増幅器における自然放出光に基づく雑音と前記自然放出光以外の要因に基づく過剰雑音とを含む前記位相感応光増幅器の雑音指数を算出する雑音指数測定方法であって、
前記入力光の相対強度雑音の測定値を取得する第1ステップと、
前記増幅光の相対強度雑音の測定値を取得する第2ステップと、
前記入力光の平均光パワーの測定値を取得する第3ステップと、
前記位相感応光増幅器の利得の測定値を取得する第4ステップと、
前記第1ステップで取得した前記入力光の相対強度雑音の測定値と、前記第2ステップで取得した前記増幅光の相対強度雑音の測定値と、前記第3ステップで取得した前記入力光の平均光パワーの測定値と、前記第4ステップで取得した前記位相感応光増幅器の利得の測定値とに基づいて、前記雑音指数を算出する第5ステップと、を含む
ことを特徴とする雑音指数測定方法。
【背景技術】
【0002】
従来、光通信システムに用いられる光受信装置は、光ファイバを伝搬することによって減衰した光信号を高い受光感度で検出する必要がある。そのため、上記光受信装置は、一般に、レーザ増幅器を用いて増幅した検出光を光検出器(Photodiode、以下、「PD」とも称する。)で受光して電気信号に変換し、変換した電気信号を必要に応じて電気的な増幅器で増幅を行ってから、上記電気信号(デジタル信号)を識別器で識別する構成等を有している。
【0003】
上記レーザ増幅器としては、例えば、エルビウムやプラセオジム等の希土類元素を添加した光ファイバに励起光を入射して信号光を増幅するファイバレーザ増幅器や半導体レーザ増幅器が用いられている。一般に、ファイバレーザ増幅器や半導体レーザ増幅器は、信号光を光のままで増幅するため、電気的な処理速度の制限が存在しない。そのため、非常に高速な変調信号を高感度に検出することが要求される長距離の光伝送システムにおいては、上述した構成を有する光受信装置がよく用いられている。また、上記レーザ増幅器は、機器構成が比較的単純であるため、光通信システムにおける線形中継器としても広く用いられている。
【0004】
しかし、これらのレーザ増幅器は、不可避的かつランダムに発生する自然放出光が信号成分とは全く無関係に混入されるので、信号光のSN比が増幅前後で少なくとも3dB低下する。この信号光のSN比の低下は、光受信装置におけるSN比を制限し,受信感度を制限する要因になっている。また、レーザ増幅器を線形中継器として用いた場合も伝送品質を低下させる要因になっている。
【0005】
近年、このようなレーザ増幅器の限界を打開する手段として、位相感応光増幅器(Phase Sensitive Amplifier、以下、「PSA」と称する。)の研究が進められている。PSAは、位相感応光増幅部(光パラメトリック増幅機構)に信号光と励起光を入射し、両者の位相が一致すると入力信号光を増幅し、両者の位相が90度ずれた直交位相関係になると、入力信号光が減衰する特性を有している。この特性を利用して増幅利得が最大となるように励起光と信号光との間の位相を一致させて位相感応光増幅部に入射すると、信号光と直交位相の自然放出光を最小限に抑制し、ほぼSN比を劣化させずに信号光を増幅することができる。
【0006】
ところで、PSAの性能を評価する重要な指標の一つとして、増幅器の利得および増幅器の入出力のSN比の劣化の程度を示す雑音指数(Noise Figure:以下「NF」とも称する。)がある。光通信において、雑音は伝送信号のSNRを劣化させ、伝送容量を低下させる要因となるため、PSAの性能を評価する上で、NFを高精度に測定することが重要となる。
【0007】
特に、PSAは、従来のレーザ増幅器に比べて原理的に極めて低雑音な増幅器であり、NFが非常に小さいので、測定誤差が雑音指数に大きく影響する。そのため、PSAの性能を評価する上で、雑音指数を精度よく測定することが極めて重要であり、高精度な雑音指数の測定方法が望まれている。
【0008】
また、光増幅器を実際に使用する際には、光増幅器で原理的に発生する自然放出光雑音以外に、上記構成部品に起因する雑音等が発生する。例えば、マルチパス干渉(Multi path interference :MPI)による雑音、励起光の雑音、戻り光による雑音等の過剰雑音が付加される。特に、PSAは、実際に増幅を行う光パラメトリック増幅(optical parametric amplifier:OPA)機構に加えて、信号光と励起光の位相を同期するための位相同期機構や高出力な励起光を生成するための機構を有しており、従来のレーザ増幅器に比べて構成部品が多いという特徴がある。そのため、OPA機構以外での構成部品で生じる過剰雑音の影響も従来のレーザ光増幅器に比べて多い。これらの過剰雑音は、光電変換後、RFベースバンド周波数領域、すなわち信号周波数帯の雑音となるため、受信後の信号波形を劣化させるため、これらの過剰雑音を含めた光増幅器の全ての雑音を測定することが実用上重要である。
【0009】
光増幅器の雑音指数の測定方法として、従来から以下に示す方法が知られている。
例えば、レーザ光増幅器の雑音指数測定方法として、レーザ光増幅器の入力光および増幅光の光電変換後のRF帯における電気スペクトルを電気スペクトラムアナライザ(ESA)を用いて測定し、その測定値を用いて雑音指数を算出するESA法や、レーザ光増幅器の入力光および増幅光の光スペクトルを光スペクトルアナライザ(OSA)を用いて測定し、増幅光の増幅自然放出光(Amplified Spontaneous Emission: ASEASE)のレベルと利得を測定することにより、雑音指数を算出するOSA法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0010】
光周波数領域での測定法であるOSA法では、RFベースバンド周波数領域における過剰雑音の影響を光スペクトル上の変化として観測することが極めて困難であるため、過剰雑音を正確に評価することができないという問題がある。これに対し、ESA法は、OSA法では評価できない上述の過剰雑音の影響まで含めた雑音指数の測定ができる正確な測定方法である。
【0011】
しかしながら、従来のレーザ増幅器では、過剰雑音の発生は無視できる程度であるため、簡便に雑音指数を評価できるOSA法が一般的に採用されている。例えば、OSA法は、光通信用のレーザ増幅器として代表的な光ファイバ増幅器の雑音指数測定方法として標準化されている(IEC−61291)。
【0012】
そのため、従来は、PSAにおいてもレーザ増幅器と同様に、OSA 法により雑音指数の測定が行われていた。しかしながら、PSAは、上述したように、位相同期機構や高出力な励起光を生成するための機構等の構成部品が多いため、従来のレーザ増幅器に比べて、MPIの影響や励起光生成に用いるエルビウムドープ光ファイバ増幅器(EDFA)の雑音の影響等が大きい。すなわち、PSAは、従来のレーザ増幅器に比べて、自然放出光に起因する雑音以外の過剰雑音の影響が大きい。そのため、レーザ増幅器の雑音指数評価法として一般的なOSA法では、PSAにおける上記の過剰雑音が正確に評価できない。
【0013】
近年、このPSAの雑音評価に関する問題を回避するために、PSAの自然放出光に起因する雑音以外の過剰雑音まで含めた増幅器の全雑音を評価するための研究が進められている。例えば、非特許文献2には、光電変換後のRF帯の電気スペクトル上のノイズレベルと雑音指数の値が既知である参照用の光ファイバ増幅器を用い、その参照用の光ファイバ増幅器のノイズレベルとPSAのノイズレベルとを比較することにより、相対的にPSAの雑音を評価する方法が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0029】
≪本実施の形態に係る雑音指数測定方法の原理≫
本発明の一実施の形態に係る光増幅器の雑音指数測定方法の原理について説明する。
なお、以下では、光増幅器が位相感応増幅器(PSA)であるとして説明する。
【0030】
先ず、PSAに入力される信号光の位相と増幅のための励起光の位相とが完全に同期していると仮定すると、信号光としてコヒーレント光をPSAに入射した場合の増幅光の平均光子数n
psaと光子数分散σ
2psaは、式(1)および式(2)で表される。
ここで、gはPSAの利得であり、n
inはPSAに入力される信号光の入力平均光子数であり、gn
inは増幅光の平均光子数を表す。また、n
asa_psaは、PSAでの自然放出光の平均光子数であり、PSAの利得をgとしたとき、式(3)で表すことができる。また、σ
2sig_aseは、信号(入力光)とPSAのASE間のビートノイズ成分を表し、σ
2ase_aseは、PSAのASE間のビートノイズ成分を表している。
【0034】
また、パラメトリック自然放出光の帯域を光フィルタでカットした場合の当該光フィルタの帯域をΔνoptとしたとき、σ
2sig_ase、およびσ
2ase_aseは、式(4)および式(5)によって夫々表すことができる。
【0037】
一般に、信号光源から出力される信号光には強度雑音が含まれるため、信号光は、コヒーレント状態からずれた過剰雑音状態にある。
そこで、以下では、信号光源にレーザからの自然放出光による強度雑音が混入している場合を想定する。この場合、PSAに入力される入力光の光子数分散σ
2rinは、式(6)で表される。ここで、βは、入力光の過剰雑音指数であり、信号光源のコヒーレント状態からのずれを表す。
【0039】
ところで、レーザ光の強度の時間的なゆらぎを表す相対強度雑音(Relative Intensity Noise:RIN)は、光パワーの分散と平均光パワーの比であり、式(7)で表される。ここで、(式7)の分母は平均光パワーを表し、分子は光パワーの分散を表す。
【0041】
また、相対強度雑音RINは、光子数分散σと平均光子数nとの間に、式(8)に示す関係がある。
【0043】
過剰雑音指数βの雑音を含む信号光をPSAによって増幅すると、その増幅光に含まれる雑音、すなわち光子数分散は(σ
2psa+σ
2arin)となる。ここで、σ
2arinは、式(9)で表される。
【0045】
また、前述のとおり、実際には、PSAの雑音として、これらのPSAでのパラメトリック自然放出に起因した雑音や信号光の強度雑音に起因した雑音の他に、過剰雑音が加わる。この過剰雑音による出力光子数の分散をσ
2exとすると、増幅後の全光子数分散は、式(10)で表される。ここで、σ
2arinは、信号光源が持つ過剰雑音が増幅された結果生じる雑音成分を表している。また、σ
2rinは、信号光源が持つ光子数分散(=ショットノイズ+過剰雑音成分)であり、過剰雑音指数β=0ならば、ショットノイズのみのコヒーレント光となる。また、σ
2exは、全ての過剰雑音成分(例えば、MPI、戻り光、励起光、残留励起光ショットノイズ等の雑音)を表している。
【0047】
式(10)から理解されるように、従来のOSA法では正確な測定が困難であった過剰雑音を含むPSAの雑音成分(σ
2psa+σ
2ex)で決定される雑音指数NFを、定量的に評価するには、(σ
2total−σ
2arin)を算出すればよい。
したがって、以下では、(σ
2total−σ
2arin)に起因する雑音指数NFを、測定可能なパラメータ、すなわち、PSAに入力される信号光の相対強度雑音RIN
in、PSAから出力される増幅光の相対強度雑音RIN
total、PSAの利得g、および平均入力光子数n
in等を用いて表すことを考える。
【0048】
先ず、相対強度雑音RINを光検出器(PD)で受信した後の電力で定義する。すなわち、PDで検出した入力光の信号電力をpsとし、PDで検出した入力光の雑音電力をpnとしたとき、式(8)は式(11)に書き換えることができる。
【0050】
また、pnおよびpsは、夫々式(12)および式(13)で表すことができる。ここで、Bは、受信系のベースバンド帯域であり、RLは負荷抵抗、eは電荷素量である。
【数12】
【0052】
次に、PSAの入力光の相対強度雑音RINinを考える。
PSAの入力光をPDで受信した場合の入力光の信号電力をps
inとし、入力光の雑音電力をpn
inとした場合、上記式(11)から、PSAの入力光の相対強度雑音RIN
inは、式(14)で表すことができる。また、pn
inおよびps
inは、夫々式(15)および式(16)で表すことができる。ここで、n
sseは、信号光源における自然放出光の平均光子数である。
【0056】
次に、PSAによる増幅光の相対強度雑音RINtotalを考える。
PSAによる増幅光をPDで受信した場合の増幅光の信号電力をps
totalとし、入力光の雑音電力をpn
totalとした場合、上記式(11)から、PSAの増幅光の相対強度雑音RIN
totalは、式(17)で表すことができる。また、pn
totalおよびps
totalは、夫々式(18)および式(19)で表すことができる。
【0060】
次に、信号雑音比について考える。
PSAの入力光の信号雑音比、すなわち、信号光源の信号雑音比snr
inは、式(20)で表される。
【0062】
一方、PSAによる増幅後は、全光子数分散が式(10)で表されることから、過剰雑音を含んだPSA雑音による分散のみを考慮した場合のPSAによる増幅光の信号雑音比snr
psa+exは、(σ
2psa+σ
2ex=σ
total−σ
2arin)を用いて、式(21)で表すことができる。ここで、pn
psa+exは過剰雑音を含んだPSAによる増幅光の雑音電力であり、ps
psa+exはPSAによる増幅光の信号電力であり、夫々式(22)および式(23)で表すことができる。
【0066】
したがって、過剰雑音を含んだPSAの雑音指数f
psa+exは、式(24)で表すことができる。ここで、snr
inは、PSAの入力光がコヒーレント光である場合の信号雑音比であり、光子数分散が平均光子数と等しいため、snr
in=n
in/(2・B)である。
【0068】
以上の関係から、過剰雑音を含んだPSAの雑音指数f
psa+exは、PSAの入力光の相対強度雑音RIN
inと増幅光の相対強度雑音RIN
totalとを用いて、式(25)で表すことができる。
【0070】
ここで、信号光源の自然放出光が十分小さい、または信号光源の自然放出光を光フィルタによって充分に抑制してPSAに入力した場合には、過剰雑音を含んだPSAの雑音指数f
psa+exは、式(25)を簡略化した式(26)で表すことができる。
【0072】
また、上述した信号光源の自然放出光が十分に小さく(または自然放出光を抑制し)、且つPSAの利得gが十分に大きい場合には、過剰雑音を含んだPSAの雑音指数f
psa+exは、式(26)を更に簡略化した式(27)で表すことができる。
【0074】
式(26)および式(27)から理解されるように、過剰雑音を含んだPSAの雑音指数は、信号光源から出力された信号光の相対強度雑音と、PSAによる増幅光の相対強度雑音と、入力光パワーと、PSAの利得とを測定することにより、算出することができる。すなわち、式(26)および式(27)は、過剰雑音を含んだPSAの雑音指数を全電気的に評価できることを表している。
以下、上記原理に基づくPSAの雑音指数測定方法について、具体的に説明する。
【0075】
≪本実施の形態に係る雑音指数測定方法の具体例≫
図1は、本発明の一実施の形態に係る雑音指数測定方法の手順を示す図である。
図2は、本発明の一実施の形態に係る雑音指数測定方法を実現するための測定システムの構成の概要を示す図である。
【0076】
図1に示されるように、本発明の実施の形態に係る雑音指数測定方法は、PSAに入力するための入力光の相対強度雑音RINinを測定するステップS1と、PSAから出力される増幅光の相対強度雑音RINtotalを測定するステップS2と、上記入力光の平均光パワーを測定するステップS3と、PSAの利得を測定するためのステップS4と、PSAの雑音指数を算出するステップS5とから成る。
【0077】
(1)ステップS1
ステップS1では、PSAに入力するための入力光の相対強度雑音RIN
inを測定する。具体的には、
図3に示すように、PSA2の入力光として外部の光源1から出力された光を、PSA2を介さず,PSA2から生じるASE間のビート雑音を除去するための光フィルタ3を介して光検出器(フォトディテクタ)4に入射し、光検出器4が受光することによって発生した上記入力光の受光電流をRIN測定装置5に入力することにより、上記入力光の相対強度雑音RIN
inを測定する。このとき、光源1から出力された光を光フィルタ0を介して,光フィルタ3および光検出器4に入射してもよいし、光源1から出力された光に含まれる自然放出光が十分に小さい場合には、光源1から出力された光を光フィルタ0を介さずに光フィルタ3および光検出器4に入射してもよい。
【0078】
ここで、光源1は、例えば連続的にレーザ光を出力する共振器レーザ光源であり、上記入力光は例えばCW(Continuous wave)光である。また、RIN測定装置5は、光検出器4によって光電変換することによって得られた電力に基づいて光の相対強度雑音を測定することが可能な公知の測定器である。例えば、RIN測定装置5は、光強度雑音パワー密度を雑音電流密度に換算し、平均光パワーを平均受光電流に換算することにより、相対強度雑音を算出する。また、RIN測定装置5は、光検出器4での熱雑音やRIN測定装置5内部に設けられた電気アンプ等によって発生する雑音(装置内雑音)等を分離し、入力光に含まれる雑音のみを正確に測定可能な、正しく校正された装置であることが望ましい。
【0079】
(2)ステップS2
ステップS2では、PSAから出力される増幅光の相対強度雑音RIN
totalを測定する。具体的には、
図3に示すように、光源1から出力された光をPSA2に入力し、PSA2から出力された増幅光を光フィルタ3を介して光検出器4に入射する。そして、光検出器4が受光することによって発生した上記増幅光の受光電流をRIN測定装置5に入力することにより、上記増幅光の相対強度雑音RIN
inを測定する。
【0080】
ここで、PSA2は、周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)を用いた位相感応光増幅器である。ここでは、光フィルタ3が、帯域幅2nmの光バンドパスフィルタであるとする。
【0081】
(3)ステップS3
ステップS3では、PSA2の入力光の平均光パワーを測定する。具体的には、例えば公知の光パワーメータを用いることによって、光源1から出力されたPSA2の入力光の平均光パワーを測定する。これにより、入力光の平均光パワーの測定値と、入力光の振動数と、プランク定数を用いて、当該入力光の入力平均光子数n
inを容易に算出することができる。また,光パワーメータ機能が付いた光学装置,たとえば光スペクトラムアナライザなどを用いてもよい.
【0082】
(4)ステップS4
ステップS4では、PSAの利得を測定する。具体的には、例えば公知の光スペクトラムアナライザを用いることによって測定したPSA2の入力光の光スペクトルの測定値と、PSA2による増幅光の光スペクトルの測定値とに基づいて、PSA2の利得を算出する。
【0083】
(5)ステップS5
ステップS5では、ステップS1〜S4での測定値を用いて、PSAの雑音指数を測定する。具体的には、ステップS1で測定した入力光の相対強度雑音RIN
inの測定値と、ステップS2で測定したPSA2による増幅光の相対強度雑音RIN
totalの測定値と、ステップS3で測定した入力光の平均光パワーの測定値から算出した入力光の入力平均光子数n
inと、ステップS4で測定したPSA2の利得gの測定値とに基づいて、PSA2の雑音指数を算出する。
【0084】
より具体的には、上記相対強度雑音RIN
inの測定値、相対強度雑音RIN
totalの測定値、上記算出した入力光の入力平均光子数n
in、および利得gの測定値に基づいて、上述した式(26)を解くことにより、PSA2の雑音指数を算出する。
【0085】
または、PSA2の利得gが十分に大きい場合には、上記相対強度雑音RIN
inの測定値、相対強度雑音RIN
totalの測定値、および上記算出した入力光の入力平均光子数n
inに基づいて、上述した式(27)を解くことにより、PSA2の雑音指数を算出する。この場合には、上記ステップS4を行わなくてもよい。
【0086】
次に、上述の雑音指数測定方法による実際の評価結果を以下に示す。
ここでは、光源1として外部の共振器レーザ光源を用い、その光源からの出力されたCW光を周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)を用いたPSA2で増幅した場合のPSA2の雑音指数を市販のRIN評価装置5を用いて評価した。また、光フィルタ3として、帯域幅2nmの光バンドパスフィルタを用いた。
【0087】
先ず、ステップS1として、光源1から出力された光を、光フィルタ3を介して光検出器4に照射することによって、入力光の相対強度雑音RIN
inをRIN測定装置5で測定した。このとき、ステップS3として、光源1から出力される入力光の平均光パワーを0dBmとし、入力光の入力平均光子数n
inを“7.8×10
15”とした。上記測定の結果、入力光の相対強度雑音RIN
inは、15GHzの周波数において、“−159.8dB/Hz”であった。
【0088】
次に、ステップS2として、光源1から出力された光をPSA2に入力し、PSA2から出力された増幅光を光フィルタ3を介して光検出器4に照射することによって、増幅光の相対強度雑音RIN
totalをRIN測定装置5で測定した。このとき、ステップS5として、PSA2の利得を20dBとした。上記測定の結果、増幅光の相対強度雑音RIN
totalは、15GHzの周波数において、“−157.5dB/Hz”であった。
【0089】
次に、上記の測定で得られた入力光の相対強度雑音RIN
inの測定値と、増幅光の対強度雑音RIN
totalを上記(式27)に代入することによって算出した雑音指数(NF)は、約1.96dBであった。
【0090】
更に周波数を5GHz、0.2GHzにした場合の入力光の相対強度雑音RIN
inおよび増幅光の対強度雑音RIN
totalを上記と同様に測定し、雑音指数を夫々算出した。これにより、周波数が0.2GHz(200MHz)および5GHzにおける増幅光の相対強度雑音RIN
totalは、夫々“−156.8dB/Hz”,“−157.3dB/Hz”であり、雑音指数は、夫々“2.58dB”、“2.14dB”であった。
【0091】
図2は、上述の雑音指数測定方法による実際の評価結果を示す図である。
図2には、上記評価によって得られた増幅光の相対強度雑音RIN
totalの周波数依存性201と、上記評価によって得られたPSA2の雑音指数の周波数依存性202が示されている。
また、
図2には、同様の構成のPSA2を従来の光学的評価法によって測定したときの雑音指数の周波数依存性203が、比較例として示されている。この比較例としての光学的評価法による雑音指数の周波数依存性203は、PSA2の利得、増幅後の光スペクトル上の自然放出光レベル、および式(28)によって得られるOSA法による雑音指数の理論式を用いて、OSA法での雑音指数の値を算出したものである。
【0093】
ここで、式(28)の右辺第一項はショットノイズ項であり、式(28)の右辺第二項は増幅信号−ASEのビートノイズ項であり、Paseは増幅後のASEレベルであり、hはプランク定数であり、νは光周波数であり、ΔνはOSAの解像度である。上記式(28)による算出の結果、比較例としてのOSA法によるPSA2の雑音指数(NF)は約1.9dBであった。
【0094】
図2に示されるように、本実施の形態に係る雑音指数測定方法によるPSA2の雑音指数は、周波数が高い領域においてOSA法によるPSA2の雑音指数に近づき、周波数が低い領域ではOSA法によるPSA2の雑音指数から乖離する。このPSA2の雑音指数の周波数依存性の特徴から、上記乖離の要因は、PSA2のポンプ光の生成に用いたEDFAにおける内部反射に起因するマルチパス干渉雑音の影響によるものであることが理解される。すなわち、本実施の形態に係る雑音指数測定方法によるPSA2の雑音指数の評価結果には、従来のOSA法では正確に評価することができなかった、励起光の雑音等の構成部品から生じるPSA特有の過剰雑音の影響が反映されていることが理解される。
【0095】
≪本実施の形態に係る雑音指数測定方法による効果≫
以上のように、本実施の形態に係る雑音指数測定方法によれば、入力光の相対強度雑音と増幅光の相対強度雑音を測定し、上記式(26)または式(27)に基づいてPSAの雑音指数(NF)を測定するので、PSAの雑音評価の際に重要となる構成部品から生じるMPI雑音や励起光の生成に用いるレーザ増幅器から混入する雑音等の過剰雑音の影響を含めた正確な雑音指数を測定することができる。すなわち、本実施の形態に係る雑音指数測定方法によれば、全電気的な測定によって雑音指数を評価することができるので、ESA法とOSA法を混合させた従来の測定法に比べて測定精度の向上を図ることができる。
【0096】
特に、PSAの利得が十分に大きい場合には、上記式(27)に基づいて雑音指数を算出することができるので、測定項目が更に削減され、測定が更に容易となる。
【0097】
≪本実施の形態に係る雑音指数測定装置≫
次に、本実施の形態に係る雑音指数測定方法を実現するための雑音指数測定装置について説明する。
図4は、本発明の一実施の形態に係る雑音指数測定装置を含む測定システムの具体的な構成を示す図である。同図において、上述の
図3と同様の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0098】
図4に示される測定システム500Aは、光源1、雑音評価対象のPSA2、光フィルタ3、光検出器4、RIN測定装置5、光スペクトラムアナライザ(光パワー測定機能付)7、光スイッチ8,9、雑音指数測定装置10、およびモニタ11から構成されている。
【0099】
光源1から出力された光(PSA2の入力光)は、光スイッチ8に入力される。光スペクトラムアナライザ7は、光源1から出力された入力光を光スイッチ8,9を介して入力し、入力された光の平均光パワーを測定し、平均光パワーの測定結果(電気的データ)24を雑音指数測定装置10に供給する。なお,ここで入力光の平均光パワーの測定では光スイッチ8,9における光学的損失を事前に測定しておき,その損失情報を用いて補正することにより正しい入力光の平均光パワーを算出する.
【0100】
光スイッチ8,9は、光の伝搬方向を切り替える部品である。
図4に示すように、例えば、光スイッチ8を光源1とPSA2との間に設け、光スイッチ9をPSA2と光フィルタ3との間に設ける。これにより、光源1から出力された光(PSA2の入力光)をPSA2に入力するとともにPSA2から出力された増幅光を光検出器4に入力する経路と、光源1から出力された光をPSA2に入力させずに光検出器4に入力する経路と、光源1から出力された光をPSA2に入力するとともに、PSA2から出力された増幅光を光スペクトラムアナライザ7に入力する経路と、光源1から出力された光をPSA2に入力させずに光スペクトラムアナライザ7に入力する経路の何れか1つの経路を形成することができる。光スイッチ8、9の切り替えは、例えば、後述する雑音指数測定装置10からの制御信号によって制御される。
【0101】
雑音指数測定装置10は、光スペクトラムアナライザ7によって測定された入力光の平均光パワーの測定結果24、入力光の光スペクトル23,増幅光の光スペクトル25と,RIN測定装置5によって測定された入力光の相対強度雑音RINinの測定結果21と、RIN測定装置5によって測定された増幅光の相対強度雑音RINtotalの測定結果22とが入力され、入力された測定値に基づいて、PSA2の雑音指数を測定するための装置である。
【0102】
雑音指数測定装置10としては、ハードウェア資源であるコンピュータと、このコンピュータにインストールされたプログラムとから実現される。例えば、上記コンピュータは、CPU等のプログラム処理装置と、RAM(Random Access Memory)、ROM、およびHDD(Hard Disc Drive)等の記憶装置と、キーボード、マウス、ポインティングデバイス、操作ボタン、およびタッチパネル等の外部から情報を入力するための入力装置と、インターネット、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の通信回線を介して各種情報の送受信を有線または無線で行うための通信装置とを備えたPC等である。
【0103】
雑音指数測定装置10は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置11と接続され、各種測定結果を表示装置11に表示させることができる。また、雑音指数測定装置10は、例えば、LAN等のネットワーク(図示せず)に接続され、そのネットワークを介して外部機器に各種測定結果を出力することが可能となっている。
【0104】
図5は、雑音指数測定装置10の内部構成を示す図である。
図5に示されるように、雑音指数測定装置10は、制御部100、入力光スペクトル取得部101、増幅光スペクトル取得部102、第1相対強度雑音取得部104、第2相対強度雑音取得部105、記憶部106、利得算出部107、および雑音指数算出部108を有している。
【0105】
制御部100、入力光スペクトル取得部101、増幅光スペクトル取得部102、入力光パワー取得部103、第1相対強度雑音取得部104、第2相対強度雑音取得部105、記憶部106、利得算出部107、および雑音指数算出部108は、例えば、上記ハードウェア資源(CPU等)がプログラムに従って処理を実行することによって実現される機能部である。
【0106】
制御部100は、光スイッチ8,9や光源1等の測定システム500を構成する各構成部品を制御する機能部である。例えば、制御部100は、光源1を制御することにより、光源1からの光の出力や、出力する光のパワー等を制御する。また、制御部100は、光スイッチ8,9を制御することによって、光源1から出力された光の伝搬経路の切り替えを行う。
【0107】
増幅光スペクトル取得部102は、PSA2による増幅光の光スペクトルの測定値を取得するための機能部である。具体的には、増幅光スペクトル取得部102は、光パワーの測定機能を備えた光スペクトラムアナライザ7によって測定されたPSA2による増幅光の光スペクトルの測定結果23を取得する。
【0108】
入力光スペクトル取得部101は、PS2の入力光の光スペクトルの測定値を取得するための機能部である。具体的には、入力光スペクトル取得部101は、光パワーの測定機能を備えた光スペクトラムアナライザ7によって測定された入力光の光スペクトルの測定結果25を取得する。
【0109】
入力光パワー取得部103は、PS2の入力光の光パワーの測定値を取得するための機能部である。具体的には、入力光パワー取得部103は、入力光スペクトル取得部に用いる光パワーの測定機能を備えた光スペクトラムアナライザ7によって測定された入力光の平均光パワーの測定結果24を取得する。
【0110】
第1相対雑音取得部104は、RIN測定装置5によって測定された入力光の相対強度雑音RINinの測定結果21を取得する機能部である。第2相対雑音取得部105は、RIN測定装置5によって測定された増幅光の相対強度雑音RINtotalの測定結果22を取得する機能部である。
【0111】
利得算出部107は、増幅光スペクトル取得部102によって取得した増幅光のスペクトルの測定結果23と、入力光スペクトル取得部101によって取得した入力光のスペクトルの測定結果24とに基づいて、PSA2の利得を算出する機能部である。利得算出部107は、例えば、増幅光のスペクトルを入力光のスペクトルで除算することによって、PSA2の利得(増幅率)gを算出する。
【0112】
記憶部106は、雑音指数を算出するための各種のデータが記憶される機能部である。記憶部106には、例えば、上述した式(26)に対応する第1演算式データ1061、上述した式(27)に対応する第2演算式データ1062、および雑音指数を算出するために必要なその他のパラメータ等が記憶されている。
【0113】
雑音指数算出部108は、第1相対雑音取得部104によって取得した入力光の相対強度雑音RINinの測定結果21と、第2相対雑音取得部105によって取得した増幅光の相対強度雑音RINtotalの測定結果22と、入力光パワー取得部103によって取得した入力光の平均光パワーの測定結果24に基づいて算出した入力光の入力平均光子数ninと、利得算出部107によって算出された利得gとを用いて、記憶部106に記憶されている第1演算式データ1061または第2演算式データ1062に従って演算を行うことにより、PSA2の雑音指数を算出する。
【0114】
測定システム500における雑音指数測定装置10による雑音指数測定の処理手順は、以下である。
先ず、雑音指数測定装置10における制御部100が光源1を制御することによって、所望の光パワーの入力光を発生させ、その入力光を平均光パワーの測定値を光パワーメータ7によって測定する。雑音指数測定装置10は、入力光パワー取得部103によって入力光の平均光パワーの測定結果24を取得する。
【0115】
次に、雑音指数測定装置10における制御部100が光スイッチ8、9を制御することにより、光源1から出力された入力光をPSA2および光フィルタ3を介さずに光検出器4に照射するための光伝搬経路を形成する。その後、RIN測定装置5が、入力光の相対強度雑音RINinを測定する。雑音指数測定装置10は、第1相対強度雑音取得部104によって入力光の相対強度雑音RINinの測定結果21を取得する。
【0116】
次に、雑音指数測定装置10における制御部100が光スイッチ8、9を制御することにより、光源1から出力された入力光をPSA2に入力するとともに、PSA2から出力された増幅光を光フィルタ3を介して光検出器4に照射するための光伝搬経路を形成する。その後、RIN測定装置5が、増幅光の平均光パワーと増幅光の相対強度雑音RINinを測定する。雑音指数測定装置10は、増幅光パワー取得部102によって増幅光の平均光パワーの測定結果23を取得するとともに、第2相対強度雑音取得部105によって増幅光の相対強度雑音RINtotalの測定結果22を取得する。このとき、必要に応じて、雑音指数測定装置10における利得算出部107が、増幅光の平均光パワーの測定結果23と入力光の平均光パワーの測定結果24とに基づいて、利得gを算出する。
【0117】
次に、雑音指数測定装置10における雑音指数算出部108が、雑音指数を算出する。例えば、雑音指数算出部108は、第1相対雑音取得部104によって取得した入力光の相対強度雑音RINinの測定結果21と、第2相対雑音取得部105によって取得した増幅光の相対強度雑音RINtotalの測定結果22と、入力光パワー取得部103によって取得した入力光の平均光パワーの測定結果24に基づいて算出した入力光の入力平均光子数ninと、利得算出部107によって算出された利得gを、第1演算式データ1061に係る演算式(式(26))に代入することによって、PSA2の雑音指数を算出する。
【0118】
なお、利得gが大きい場合には、利得算出部107によって算出された利得gを用いずに、第1演算式データ1061の代わりに第2演算式データ1062に係る演算式(式(27))に上記の測定結果を代入することによってPSA2の雑音指数を算出してもよい。この場合、雑音指数測定装置10は、利得算出部107や増幅光パワー取得部102を有していなくてもよい。
【0119】
雑音指数算出部108によって算出された雑音指数の値は、例えば、表示装置11に表示され、雑音指数測定装置10の内部または外部に設けられた記憶装置(図示せず)に記憶される。
【0120】
以上のように、雑音指数測定装置10を用いた測定システムによれば、光源1の制御や光伝搬経路の切り替え等を雑音指数測定装置10によって行うことができるので、PSAの雑音指数の測定が容易となり、測定作業の効率化を図ることができる。
【0121】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0122】
例えば、上記実施の形態において、雑音指数の評価対象の光増幅器がPSAである場合を一例として説明したが、PSA以外の光増幅器についても同様の手法により、雑音指数を測定することができる。
【0123】
また、上記実施の形態に係る雑音指数測定方法において、雑音指数を算出するための各種パラメータを取得するステップS1〜S4は、
図1に示される順番に限定されるものではない。例えば、雑音指数の算出するステップ(S5)までに各パラメータが測定できていればよく、ステップS1〜S4は順番を入れ替えることも可能である。
【0124】
また、上記実施の形態において、RIN測定装置5と光検出器4とが別個に設けられる場合を例示したが、光検出器4が一体となったRIN測定装置を用いてもよい。
【0125】
また、雑音指数測定装置10を用いた測定システム500において、光フィルタ3の後段に光スイッチ9を設ける場合を例示したが、PSA2と光フィルタ3との間に光スイッチ9を設けてもよい。また、光スプリッタ6、光スイッチ8,9、および光パワーメータ7等の部品の配置は、上述の
図5に示したものに限定されるものではない。すなわち、上述した式(26)および式(27)に基づく演算処理に必要な上記パラメータ(相対強度雑音RINin,Rintotal等)が取得できるのであれば、各部品の配置は
図5とは別の配置であってもよい。
【解決手段】本発明に係る雑音指数測定方法は、光増幅器位相感応光増幅器に入力する入力光を光電変換して得られた電力に基づいて測定された入力光の相対強度雑音(RINin)と、光増幅器位相感応光増幅器によって増幅された増幅光を光電変換して得られた電力に基づいて測定された増幅光の相対強度雑音(RINtotal)とに基づいて、光増幅器位相感応光増幅器における自然放出光に基づく雑音と自然放出光以外の要因に基づく過剰雑音とを含む光増幅器位相感応光増幅器の雑音指数(NF)を算出することを特徴とする。